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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
75/464

暗殺者

 


 ザルツ王国の王都レンヌのスラム街は、既に日は落ちて、辺りは酒を飲みに来た者や、娼婦達が路上に出て、賑わいを見せていた。

 その中の人気の無い路地裏から、ゼニトの店を見つめる一人のダークエルフがいたのであった。

 そう、アデルである。


 そのアデルの後ろから、声をかける女性がいたのであった。

 その女性は、何処か貴族の様な服装をしており、髪は赤毛で平均的な何処でも居そうな、特徴の無い顔をしていたのである。

「意外と時間がかかったな」


「私は、大陸の変装は初めてなんだよ……変じゃ無いか?」

 そう言ったこの女性は、桐の変装した姿であった。


「いや、完璧な変装だ……髪の毛の色も変えれるとは、少々驚いている」


「お前、驚くならその表情を少しは、変えろよ」


「そんな事より、中には目標の男と、体格の良い男の二人だったな?」


「そんな事って……ああそうだよ、一人はそのゼニトって奴だし、もう一人は奴隷の様だったな」


「ならば、ゼニトを殺せば全て終わりだ。

 では予定通り中に入ってくれ、殺しは俺がやる」

 そう言ったアデルは、桐の後ろに立つと、地面の暗闇にスゥっと、消えて行ったのであった。


 まさかこいつが、影移動の術が出来たとは…口と顔は好かないが、腕は確かな様だな。

 しかし、こんなのがラナ様の兄上って、絶対にあのラナ様に似合わないし!私のラナ様……

「おい、早く行かないのか?」

 妄想に入りかけた桐に、地面の影から冷静にアデルが突っ込んだのであった。


「分かっているわよ」

 さて、私のキリバ語が何処まで通用するか……

 そう思いながら桐は、ゼニトの店の扉をノックしたのだが、反応が無い。


 仕方が無いので、桐は違和感を感じながらも、もう一度扉をノックしようとすると、扉が微かに開きゼニトが顔を出したのであったが、桐はその違和感を確信したのであった。


 新しい血の臭いがする……それに、このゼニトの眼…絶対に別人だ。

 そう思いながら、すぐに桐は予定とは違うアドリブで、話し出したのであった。

「ゼニトさんお久しぶりダスなぁ、まだ奴隷を買いに来たダス…入れくれないダスか?」


「…あ、そうでしたね、中へどうぞ」

 ゼニトはそう言うと扉を開けて、桐を中に入れたのであった。


 これは、桐の賭けであった。

 ゼニトが全くの別人と感じた桐は、カマをかけたのである。

 そしてその賭けは、桐の勝ちであった、ゼニトは知り合いの様に振る舞った桐を、そのまま知り合いの様に、店の中に入れたのであった。

 もちろん、ゼニトが話を合わせただけの可能性もあったのだが、その眼の奥には、明らかにそれだけとは違う、何人も殺して来た者独特の殺気が、一瞬出たのである。


 桐はそのままゼニトに促され、椅子に座ると桐は静かに言ったのであった。

「本日、奴隷は何れ程いるダスか?」


「それが本日は、大口のお客様が来られまして、在庫の方がもう……」


「チョッと!その大口のお客様って誰ダスか!」

 そう言って、テーブルを叩いた桐の目線の先には、ゼニトの背後の影から、音も無くアデルが出てきたのであった。


「奥様、申し訳……」

 そう言って桐に謝罪しようとしたゼニトの首に、背後のアデルの短刀が、突き付けられたのであった。


「貴様がゼニトか?……クッ!」

 そう言ったアデルの短刀を持った手が、ゼニトにいつの間にか、凄まじい力で捕まれていたのである。


 バカかアイツは?そんな確認をせずに、問答無用で殺せば良かったのに。

 桐がそう思いながらも、驚きの演技をしていると、ゼニトの空いている左手に、いつの間にかナイフが持たれているのに、桐が気付いたのである。

 ヤバい、あのバカ気が付いていない!

 そう思った、桐の行動は素早かった、苦無を取り出すと同時に、ゼニトに向かって投げたのであった。


 ゼニトは、桐の投げた苦無を、ナイフの持った左手で受け止めると同時に、アデルから回転しながら離れ、二人から距離を取ったのであったが、離れたゼニトの顔を見て、二人は思わず絶句したのであった。

『……!』


 二人が絶句するのは、無理も無かった、ゼニトの顔が明らかにズレていたのである。

「ん?おや?……まだ定着してなかったからか。

 それよりも、どうやら二人は、同業者の様で……特にそっちの女性の方は、すっかり騙されましたよ、貴女名前は?」


「言うわけ無いダスよ!」

 そう言った桐は、苦無をゼニトに向かって投げたのだが、ゼニトは苦無をナイフで難なく弾くと、そのまま地面に煙玉を叩き付けて、その場から消えたのであった。



「チッ、逃がしたか!……おいアデル、大丈夫か?」

 そうルタイ皇語で言って、振り返った桐が見たのは、脇腹から血を流しているアデルであった。


「アデル!」


「すまない、ミスった……しかし何だ、あの変な訛りのキリバ語は?」


「バカ野郎、早くこれを飲め!」

 そう言って桐は差し出した、薬をアデルに飲ませると、桐はアデルの脇腹の服を斬り、傷口を洗い流し確認したのであった。


 良かった、深傷じゃ無かった……しかしあの刃物に、毒が塗られていた可能性もある解毒も考えないと。

 そう思っていた桐に、アデルが言ったのであった。

「ナイフに毒が塗られていた様だ……俺の腰にあるマジックバックに、毒消し丸がある、それを飲ませてくれ」


「分かったから、これ以上話すな」

 そう言った桐は、マジックバックから毒消し丸を取りだし、アデルに飲ませて言ったのであった。


「アデルお前、私の影の中に入れるか?そこなら安全だ」

 桐にそう言われたアデルは、何とか頷くと、桐の影に入って行ったのであった。


 これで、大丈夫だろう…しかし先程の奴は、もしや何処かの刺客か?

 もしもそうなら、狙われていたのは……左近衛大将様の可能性もあるこれは報告しておかなければ。

 そう思いながら桐は、カーテンの奥を目指したのである。


 血の臭いを感じながらも、桐が中に入ると、一番奥の牢の中には、頭皮と顔の皮を剥がれた2つの死体があった。


 2つとも顔の皮を剥がれている…これで変装していたのか。

 って事は、あのゼニトとか言う奴の中身は、別人と言うことだな…誰かと入れ代わり、目標に近付き殺す、こいつは少々厄介な奴だぞ。

 そう思いながら桐は、燭台を倒し店に火を着けると、ゼニトの店を後にしたのであった。




 ――――――――――――




 アデル達がゼニトの店を襲撃していた頃、左近に購入された四人の奴隷達は、ルゴーニュ村でのメディカルチェックの後、食堂に集められて、佐倉家の自己紹介を受けていたのであった。


「さて、これからの事だが、ルタイ皇国の方針で、奴隷は平等に扱われる為、諸君達は主人は俺になったが、自由の身になる」

 そう言った左近であったが四人の奴隷は、何を言っているのか、分からない様子であった。


「まぁ意味が分からない様だな。

 ルタイ皇国は、奴隷制度を認めてはいない、諸君達の主人は一応は俺となっているが、自由に他の職についても、暮らしてもかまわないと、言っているんだ。

 言うなれば君達は、解放奴隷だな……もちろん今日買ったその服は、俺からのプレゼントだ、明日から着ると良い」


 そう言った左近は、笑顔であったが、彼女達の表情は未だ暗かったのである。

 さて、どうしたものか。

 そう考えた左近に、猫耳の獣人の女の子が、話し出したのであった。

「左近衛大将様の言う事は、分かりますが、もう私達に、行くところは、御座いません。

 出来れば、このままお仕えしたいのですが」


「それは、ありがたい申し出だ。

 それならば君達は、当家のメイドとして雇い、ちゃんと住居と食事と給料を保証しよう。

 まぁメイド服は、未だ出来上がっていないが、後で用意させる。

 ……この中で料理の出来る者はいるか?もしもいるなら、早速明日から、手伝って欲しい…実は当家は全く人手が足りていないので、家族全員で切り盛りやっている状態なんだよ」


 そう言うと、性奴隷の兎の獣人の女性が手を上げたのである。

「どうした?…ええっと……」


「ベアトリスです。

 私は料理はほとんど出来ませんし、何も出来なくて、夜のお相手しか出来ません」


 何と素晴らしい…じゃ無くて、それは厳しいな。

「ではベアトリスは、テスタと一緒に仕事をして、何か得意な事を見付ければ良いさ。

 食器洗いの仕事等もあるから、仕事は何でもある。他に苦手な者はいるか?」


 左近がそう言うと、他の者は不安からか、全員が黙っていたのであった。

「無い様だな。最後にもう1つ言わせてくれ。

 君達は、この仕事を辞めるのはいつでも自由だし、誰かに酷い事をされたら、俺に言ってきてくれ。

 君達の身の安全は、佐倉家が保証するし、君達も佐倉家の一員だと言う誇りを持って欲しい、私からは以上だ。

 ではテスタ、四人を寮に案内してくれ」


「かしこまりました、では四人ともこちらへどうぞ」

 そう言ってテスタは、四人を寮に案内したのであった。




「どうやら、未だ混乱しているようですね」

 そう言ったアイリスは、四人を不憫に思いながら言ったのであった。


「だからと言って、特別扱いはせずに普通に接してくれ、皆も頼むぞ」

 左近がそう言うと、他の者は頷いたのであった。


 さて、明日はクロエに言って早速、休みも貰った事だし、ゼニトの所で使う予定であった予算も、俺の手元にある……正成を連れて娼館に行くか。

 これは、横領じゃ無くて、今回の報酬だからな……うん、そう言う事にしよう。

 佐倉家の物は俺の物、俺の物は俺の物。まさにジャイアニズムだ。

 おっと、その前にアデル達をこっちに戻さないとな。

 そう思い左近は、高鳴る胸を抑えて、執務室に戻って行ったのであった。


「何だか、変な事を企んでいる気がする……」

 ラナは野生の直感で、左近の下心を感じていたのであった。


「……私もそう思う」


「ラナとお姉ちゃんも?実は私もなんだよね」


「実は私も……ラナ」


「了解、誰かいる?」

 ラナがそう言うと、一人のくノ一がラナの前に降り立ったのであった。


「桔梗、ここに」


「私達の旦那様が、また良からぬ事を企んでいる様です、そう言う事をする時は、大抵がナッソーです。

 迅速に阻止しなさい……あれ?今日は桐じゃ無かった?」


「そ、それが…左近衛大将様が、レンヌに移動されましたので、桐も急きょレンヌに移動した所、ラナ様の兄上様が、負傷されているのを発見しましたので、ただ今回収して治療を施したと、念話で連絡が有りました」


「それで!兄貴は無事なの?」


「はい、脇腹に毒の付いた短刀で刺されておりましたが、毒消し丸を飲ませて治療したとの事です。

 それと……何やら兄上様と、左近衛大将様が誰かを暗殺するとか、言っているのを、聞いてしまったとか何とか…しかし……」

「桔梗、そこから先の事は、もう忘れなさい。桐にもそう伝えて」


「はい、ラナ様!」


「とにかく、兄貴が無事なら良いや。ところでパンドラ、旦那様の行動パターン分かる?」


 そうラナに話を振られて、「ここで私?」と言った顔で、パンドラは諦めた様に、話し出したのであった。

「まぁお父様の考えそうな事は、一人で行くのは、見付かった時に言い訳が出来ないので、保険の為に誰かを連れて行くでしょう。

 一番確率が高いのは、正成様……でも前回の事も有り、場所もナッソーに、そして娼館に断定しますと、もう1つの保険として、バッシュ様も連れて行くと思います。

 これは、万が一見付かったとしても、リザードマンのバッシュ様が一緒だと、他の者は娼館に行くとは考えにくいからです。

 そして場所は、ナッソーのソニアが経営する、ナッソー唯一の高級娼館でしょう。

 そこならば、口も固いしソニアにも情報が回らない……あくまでもナッソーの娼館と言った条件ですが」


「だとするなら、お金は何処で工面したのだろう……」

 そう言ったアイリスが不思議そうに言うと、パンドラが分かりきったかの様に言ったのであった。


「ルタイ皇国の奴隷購入資金の一部でしょう。

 今回のあの四人は、ゼニトの店から購入したと言っていましたが、お父様があのゼニトに正直に支払うと思いますか?

 今回もどうせ、脅して巻き上げたのでしょう……言葉だけなら、マフィアの様なお人ですね」

 そう言ったパンドラは、クスクスと笑っていたのであった。


「桔梗、ナッソーの娼館の近くで見張りを、桐はそのまま兄貴の保護を、残りの二人はそのまま待機」


「はい、ラナ様!」


「ぐふふ……絶対に邪魔してやる」

 変な闘志を燃やしたラナは、桔梗に命令して、この先の左近へのお仕置きに、心を踊らせていたのであった。




 ―――――――――





 時間だな。

 執務室に一人でいた左近は、エルの十字軍専用の部屋と、執務室を空間転移で繋ぐと、中から出てきたのは、桐ただ一人であった。


「お前だけか?アデルはどうした?」


「今は、私の影の中で休んでいます……報告宜しいでしょうか?」


 影の中で?そんな事が出来るのか?

「ああ、一体何があった?」


「結論から言いますと、私達が店に乗り込んだら、目標の人物は既に死んでおりました。

 代わりに何者かが、目標と中身が入れ代わっていたのです」


「中身が?それは、身体の中がって事か?」


「それは……」

「これから先は、私が報告します」

 そう言って桐の背後から、アデルが出てきたのであった。


 こんな薄暗い所で、そんな登場の仕方は、怖いわ!

 そう思いながらも左近は、アデルの報告を聞く事にしたのであった。

「聞こう」


「私達が会ったのは、おそらく……スカーフェイスと呼ばれる殺し屋です。

 誰も正体を見た事が無いので、本人かどうかは分かりませんが、そのスカーフェイスは誰かを殺して、その顔の皮や頭皮を剥いで、その者と入れ代わり、ターゲットに近付き殺す、厄介な奴です」


「殺しの目標は誰だ?」


「普通ならスカーフェイスは、徹底的にリサーチしてから入れ代わるのに、今回は違いました。

 桐の演技が上手だったのもありますが、どう見ても急ぎの、そうリサーチの時間も無い様な急ぎの仕事の様でありました。

 緊急で、ゼニトをリサーチする暇も無いほど急に会いに行く事にしたのは、殺しの目標が急にゼニトに会いに行くのを決めた為……それに該当するのは、ただ一人だと思います」


「俺か……」


「はい。

 御館様は、ルタイ皇国の帝の命で奴隷を買う事になりました。

 そこで御館様が奴隷を購入するなら、知っている者の店から先に行くでしょう。

 そこで先回りして、目標になりすます……未だに推測の域は出ませんが、可能性はあります」


 なるほど、アデルの推理は当たっているかも知れない。

 ただ誤算だったのは、俺が思った以上に、早く行き奴隷を購入した事だ。

 もしも、ゼニトの店に行くのが遅れていたら……

 そう考えた時に左近は、一瞬悪寒が走った様な感じがしたのであった。


 確かに誰かに入れ代わって、近付かれたら、回避しようが無い……皆の護衛を増やして、念のために合言葉も決めておくか。

「事情は分かった。桐、本国からもっと忍を呼べるか?何なら忍の里ごと、こちらに移住して貰ってもかまわないし、他に信用のおける者がいるなら全部呼んでくれ。

 出来るか?」


「確かに呼べますが、私はラナ様の忍ですよ、許可が無ければ無理です。

 それに呼べたとしても……私達、根来衆は武断派です、大陸派の手助けなんて、長が認めるはずもありません」


 忍の中まで派閥が有るのかよ……って根来衆だと?

「ちょっと待て、根来衆ってあの紀州の根来衆か?」


「あれ?何で知っているんですか?忍の事なんて、知っている人は、そうそういないので……まさか忍の関係者?」


「違う。こんな仕事をしていると、詳しくなるのは当たり前だ。

 取り敢えずラナ達を呼んでくれるか?そのスカーフェイスの事も話したいし」


「分かりました……でも私の事は、上手く話を合わせて下さいよ。

 私が左近衛大将様の後を尾行して、レンヌに行ってアデルを見つけた。そしてここまで連れてきた、って流れで」


「ああ分かったよ」

 左近がそう言うと、桐はそのまま姿を消したのであった。


 しかし、地名も忍の名前も同じとは、これは何か帝と関係があるのか?

 そう思って考えていた左近に、アデルが聞いてきたのであった。

「御館様、今回の事は申し訳御座いません。完全に私の油断です」


「良いさ気にするな。

 しかし、今回の事を教訓に次回より油断は無い様にな」


「有難う御座います。所で武断派とか大陸派とか全く分からないのですが……」


 そうか、アデルは何も知らなかったよな。

「その前に、俺もお前に聞きたいことがある。

 ズバリ聞くが、ラナとお前は、ペスパードの王族じゃないのか?」


「……やはりお気付きでしたか。ペスパードが連合に入ったと聞いて、いつかは知られると思っておりました。

 実は、御館様の言われた通り、私達兄妹はペスパード王朝の王族です。

 私達は、帝国の帝都ナリヤで、ペスパードからの人質として、生活しておりましたが、私達の母はニーナ派の者に暗殺されました。

 でも私達兄妹は、当時のメイドに助け出されて、そのまま帝都を脱出し、ナッソーに逃げたのです。

 しかしナッソーで、助けてくれたメイドを殺され、ラナを抱いて途方にくれた所を、当時まだ傭兵だったオヤジさんに、拾ってもらい、今まで身分を隠して生きてきました……その事は、ラナは一切知りません。

 それでニーナ女王は、何か言ってましたか?」


 権力争いの悲劇ってのは、けっこう何処にでもある話だ……だがこれは、キツいな。

「ラナを全力で守れと言われたよ。

 だがラナは、関白様のご好意で、冷泉家の養女となり、今は俺の妻でもあるが、冷泉家の当主になっている。

 ラナに手を出す事は、冷泉家、佐倉家を敵に……いやルタイ皇国を敵に回す事になる、ペスパードに知られても、ニーナ派は動けんよ。

 そして、もう薄々は気が付いているとは思うが、ルタイ皇国は一枚岩では無い。

 長年続いた内戦が終わったのも、数年前の事だ。

 その内戦の名残が、前線で戦った武断派と、後方で補給や内政を担当していた文治派だ。

 そこに、俺が大陸で名を上げた事により出来た、大陸派……この3つの派閥があるらしい」


「らしい?」

 そう言ったアデルは、不思議そうに頭を傾げたのであった。


「実のところ、俺は派閥を作った覚えは無いのだが、本国からはそう思われている様だな。

 関白様の率いる武断派とは、仲が良いのだが、大政大臣率いる文治派の人達には、俺が征夷大将軍になる話が出たところで、どうやら政敵と思われている様だ」


「その征夷大将軍とかは、分かりませんが、とにかく文治派は敵なのが分かりました」


「いい答えだ。とにかく桐の話では、その派閥争いが、忍の世界でもある様だな……嫌な話だ」

 そう言った左近は、どことなく暗い表情になり、アデルは左近の過去に何かがあったのだと察して、何も言えなくなってしまったのであった。


 やがて、桐がアイリス達を連れて、執務室にやって来ると、桐とアデルから今回のスカーフェイスの件を聞いたのである。

 もちろん桐が左近を見張っていたのがバレたのは伏せてだが。


 二人の説明が終わった後で、左近はラナに話を切り出したのであった。

「そう言う訳で、これからは俺達も専属の忍の集団を持ちたいと思うが、異論はあるか?」


 そう言って左近は、他の者を見ると、皆の意見は左近と同じ様であった。

 確かにアデルやジャックを警護等に回しても良いのだが、人数が足りない。

 こう言った事には、やはり数の力が物を言うのは全員が感じていたのである。


「そこで、ラナに頼みがある、そこの桐を根来の里に戻して、根来衆をこちらに呼ぶ根回しを、させて欲しい」


「そう言う事なら……」

「ちょっとお待ち下さい!」

 そう言って、ラナの言葉を遮り、出てきたのは桔梗であった。


「すまんが、誰だ?」


「ラナ様の直属の忍の桔梗と……本名は、根来衆棟梁、土橋 重秀の娘、桔梗と申します。

 左近衛大将様、その話は断らせて頂きます」


 棟梁の?ならば話は早いか。

「何故だ?」


「それは、左近衛大将様が大陸派だからです。我等は、武断派…さすがに違う派閥の……」

「ちょっと待ってよ桔梗、貴女は私の専属の忍でしょ?私は旦那様の妻なの!って事は、私も旦那様の大陸派になるでしょ?そんな派閥がどうとか言うのなら、もうルタイ皇国に戻って良いわよ!」


 桔梗の言葉で、どうやらラナの短い導火線に火が付いた様だ。

 しかし、ラナの言う通り、これは確かに辻褄が合わない……派閥がどうとか言うのなら、ラナの言うのが道理だ、派閥を重視するなら、護衛に来なければ良い。

 これは、何か裏があるな。

「桔梗、訳を話せ。このままなら、ラナに本当に追い返されるぞ」


「それは……分かりました、この世の理に関する事なので深く話せませんが、紀州の山の根来衆と海の雑賀衆は、帝の勅命であるお役目に付いており、その地から居なくなる事は出来ません」


 雑賀衆もいるのかよ!ってその前に今桔梗が言った、この世の理に関する事……帝の勅命で?って事は、あの通貨製造の事になるよな。

 何故、紀州が?……この場合は、海の雑賀衆って事は、雑賀衆は通貨を国外に運んでる事に関係しているって事だろう。

 そうなると、根来衆は通貨を運搬、もしくは製造している…いや、帝は前世が弘法大師だった、ならば日本にそっくりなルタイ皇国で、貨幣を製造するなら、自分の見知った場所にするだろう。

 って事は、確率が高いのは、紀州と大和の間にある高野山……そうなると、根来衆はその情報隠蔽と護衛と運搬を任されているって事になる。

 んじゃ無理だよな……仕方がない。

「分かった、じゃあ諦めるか」


「……その口調ですと、何かを知っている様ですね?」

 そう言った桔梗の目が一瞬鋭くなったのであった。


「心配するな、俺は帝から直接聞いたので知っているだけだ。

 この事は、帝からも口止めされている、この事は誰にも他言せんので安心してくれ。

 だが忍は、左近衛府と右近衛府の両軍で、かなりの人数がいるが、やはり信頼できる忍が欲しい……何処か宛は無いだろうか?」


 左近がそう言うと、桔梗は暫く考えて、自信の無い様に言ったのであった。

「根来衆を始め、殆どの忍の里は、何処かの派閥に属していますが……1つ御座います」


「本当か?桔梗、紹介してくれんか?」


「正直に言いますと、無理だと思います。彼等は、何と言うか…独特で何を考えているのか、分かりませんので、お止めした方が宜しいかと。

 それに、今まで数多くの者が、今まで彼等の里に、潜入しようとしましたが……その使者は全て戻っては、来ませんでしたので、おそらくは殺されたものかと」


 何だかメチャクチャ危険な奴等じゃねえかよ。

 そう思っていた左近であったが、アデルが前に出て、珍しく左近に申し出たのであった。

「今回の事は私の失態が原因で御座います。御館様そのお役目、私に命じて下さい」


「……分かった、アデルお前に任せよう。桔梗、誰か案内役にアデルにつけてくれ」


「分かりました。桐、貴女が一緒に行きなさい」


「え?私ですか?」


「そうです、何か不満が?」


「いえいえいえ、喜んで行きます……何処にでしょうか?」


「箱根山にいる、あの一族です」


「え?箱根山?……下手すりゃ死にますよ」


「なので一度、根来の里に行って、父上に書状を書いて貰ってから行きなさい。

 書状があれば、命だけは無事でしょう」


「分かりましたけど、期待しないで下さいね」

 そう言った桐は、明らかに落胆して言ったのであった。


 箱根山の一族……もしかして風魔一族か?

「ルタイ皇国に行くなら、城から空間転移で行くと良いだろう、明日手配してやる。

 所で桔梗、箱根山の一族って、風魔一族か?」


「フウマ?あぁ左近衛大将様は、文献や書物で忍の事を、知っておられたのですね。

 あれは、風の間と書いてカザマと読むのですよ」


 カザマ?やはり何か微妙に違うのか……ややこしいな。

「ではその風間一族は、何が危険なんだ?」


「何処の派閥にも属さず、ただ己の技を試したい、ただそれだけの、好戦的な一族だと聞いております。

 ただ、今まで多くの忍が、その里に潜入しようとしましたが、未だに誰も帰って来た者はいないと言います。

 なので本当の所は、何も分からないのですよ」


 何だか聞くだけなら、かなりのデンジャラスな集団じゃないか……不安になってきた。

 そう思いながらも左近は、皆に警戒する様に言ってアデルと桐は、ルタイ皇国に旅立つ準備に入ったのであった。




 ―――――――――――――――




 翌日、アデルと桐をルタイ皇国に送った左近は、そのまま評議会の貴賓席に行くと、場内はかなり議論が熱くなり、荒れていたのであった。

 議題は、ルタイ皇国の特産品のオリハルコンの輸出である。

 ルタイ皇国は、オリハルコンの輸出は、軍事的優位性が無くなるので、輸出したくない。

 それに対して、各国はオリハルコンを手に入れて、新しい物を作りたい、例えそれが武器であっても、売れば金になるからだ。


 こうして見てみると、四頭会の会合より酷い様に見える。

 何だかんだ言っても、あの3人は良い意味で、拝金主義であるからだ、こんな国同士の話し合いの様に、裏表があまり無いのだ。


 しょうがない、こうなっては、時間がかかるだろうと思い、俺は空間転移でナッソーに飛んで、ママの所の高級娼館に行ったのであった。



 この高級娼館は、ナッソー新市街地に在り、大通りに面しているのだが、入り口は大通りから分かりにくい場所にある。

 何とも全て分かっている様な、造りなのである。


 俺は、念のために周囲を警戒して中に入ると、中から太った……いや、体格の良いおばさんが、出てきたのであった。

「いらっしゃいませ……おや珍しい、左近さんじゃないかい。

 今日はどんな御用で?」


 どうやら俺は、思いの外ナッソーでは有名人らしい。次からは変装しようかな。

「今日は、この後でまた来るから、予約だけしていこうと思ってな。時間は夕方頃だ」


「それは、有難う御座います。

 当店は、店にお客様一人様5百シリングお支払い頂き、店の女の子に直に一人1千シリング支払うシステムになっております」


 高っ!いやしかし、こんな物だろうか……こんな事なら一度ぐらいは、風俗に行っておけば良かった。

 しかし、こんな所で立ち止まってはいられん。

「じゃあ3人で頼むよ……一人はリザードマンでも大丈夫か?」


「え?…リザードマンのお人ですか……娼婦の者でリザードマンの女の子は、居ないですね、リザードマンの人達は、娼婦を買う事はしないですし、需要が無いんですよ。

 しかし、こちらもプロです、リザードマンの相手をしても、大丈夫な子を揃えましょう…その代わり、お代の方は多めに御願いしますね。

 他に何か有りますか?」


 何だか、変なプロ意識に火を着けた様だな。

 まぁ良いだろう、後は正成だが、あいつそう言えば童貞って言ってたな……よし俺が、忘れられない脱童貞の舞台を整えてやろう。

「では、一人は女の子を二人同時にってのは出来るか?」


「もちろん出来ますよ。でも料金は、その分かかりますが、宜しいので?」


「かまわんさ。俺には一人だけで良い」


「分かりました、では来店時迄に、ご用意しましょう。

 まぁ好みの問題もありますので、来店時に女の子を選んで頂けましたら宜しいので。

 お代の方は、どうしましょうか?」


「今、支払おう」

 そう言って左近は、3人分の1千5百シリングと、チップとして、更に5百シリングの、合計2千を渡したのであった。


「左近さんこれは?」


「もちろん口止め料も入っている、この事はママにも秘密だぞ」


「もちろんで御座いますとも、今後も御贔屓に御願いしますね」

 そう言って、この太ったおばさんは、満面の笑みで言ったのであった。


 この様子なら、大丈夫そうだな。さて、正成を迎えに行くか。

 そう思った左近は、レイクシティのセントラル城に、空間転移で移動したのであった。



 ―――――――――



 暫くセントラル城の、ルタイ皇国の休憩室で、時間を潰していた左近であったが、あまりに正成は遅く、もうすぐで昼も終わろうかと言う時に、ようやく正成が戻って来たのであった。

「清興…飯でも一緒に食うか?」


「そうだな食べよう」


「昼食を2名分頼むよ」


「かしこまりました」

 正成にそういわれたメイドは、そのまま食事を取りに行ったのであった。


 セントラル城の執事やメイド、コック等は全てセレニティ帝国が用意し、他の各国はやはり内密な話もあってか、各国専属の執事やメイドを連れて来ていたのだが、そう言った者がいないルタイ皇国は、セレニティ帝国のメイドを一人借りていたのであった。

「やはり、ルタイ皇国専属の執事やメイドがいないと、何かと不便だな。

 内密な話も出来ない」


「左近衛府で余裕が出来たら、何名かをこっちに回すよ」


「ああ、頼むよ。ところで今日はどうした?」


「正成お前、今日はこれから予定はあるか?」


「これからは、本国に戻って大政大臣の西園寺様の説得だな」


「そうか、もう少し本国に戻るのは延ばせないか?」


「出来るが、どうした?」


「ちょっとな、まぁ飯でも食べて話そうか。そろそろメイドが食事を持って来るだろう」



 そう言っていると、メイドが食事を持って来て、左近と正成は二人で食事を始めたのであった。

「オリハルコンの輸出は、どうなった?」

 左近はナイフで切った肉を頬張り言った。


 左近は、現代でナイフとフォークを使った食事でなれていたが、正成の方はどうも苦手な様で、食べにくそうに、していたのであった。

「どうもこうも、憲章の第二条の人や物資の移動の自由と、関税の撤廃を理由に攻められて、断りきれなかった。

 一応は、オリハルコンの生産量に対して、ルタイ皇国5、連合軍が2,5で他の各国は0,5の割合に落ち着き、各国の政府関係者が取り扱う事と、連合国外に持ち出すのは禁止って事で落ち着いたよ」


「生産量はルタイ皇国の申告か?」


「ああ、朝廷がまとめて、評議会に申告って形になりそうだ」


「そうか、さすがは正成だ。

 あくまでも、こちらからの申告だと、生産調整も出来るから、外に出すのをいくらでも調整出来るな。

 ところでお前……3Pって知ってるか?」


「なんだそれ?」


「まぁ色々なパターンがあるが、俺が言いたいのは、女性二人に対して男性一人が、ヤル事だ」


 左近が真顔でそう言うと、正成は思わずワインを吹き出したのであった。

「き、き…清興、俺はそんな事、興味は無い!」


「本当か?俺は毎晩しているから分かるが、この世の天国の様に気持ち良いぞ……最後に聞こう、興味は無いのか?」


 左近が真顔でそう言うと、正成はゴクリと唾を飲み込み言ったのであった。

「止めろ、お前がそう言うと、簡単に想像出来てしまい、次からはお前の家に行けなくなる……ふう…サーセン、興味有ります!」


 うっ、潔く認めるとは、憎めない奴。

「では、ナッソーの高級娼館に、今日の夕方頃に予約を既に入れてある、行くか?」


「いや、でも最初は素人が……」

「正成、初めての奴が経験が無くて失敗するのはよくある話だ、初めての場合は、最初に手慣れている玄人の方が良いぞ。

 それに今回は、俺のおごりだ……それにお前の脱童貞は、3Pで華々しく飾ろうではないか」


「……さすがは俺の相棒だ。

 こんなにも完璧に、お膳立てされて、この橘 右左近衛大将 正成、断る理由も無い……て言うか御願いします」

 そう言うと正成は、左近に頭を下げたのであった。


 さすがは正成、欲望の為に躊躇無く頭を下げるとは。

「全て任せておけ、だがこの事は、アイリス達には……」


「ああ、口が裂けても言わん。その前に言ったら俺も殺される」

 そう言った正成と左近は、お互いの目で合図をして、ガッチリと握手をしたのであった。


 だが、この光景を屋根裏から見ていた者がいた、桔梗である。

 桔梗は、二人の話を聞き終わると、そのまま小声で何かを話して姿を消したのであった。



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