クロエの気持ち
「はぁ、秘書ですか?」
そう気が抜けた様な返事をしたのは、左近に呼び出されたクロエであった。
クロエは左近に呼び出され、執務室に入ると左近の他に、クリューガー准将が座っていたのである。
誰だろう?
そう思いながら、クロエは左近に言われてソファーに座ると、左近がいきなり「クロエ、お前は今日から、俺の秘書な」と、クロエに言ったのであった。
「何だ、その気の抜けた様な返事は?」
左近は、そう笑顔で言った。
「いや正直、秘書と言う仕事が、どう言った物なのか、全く分かりませんし、そちらの御方も誰なのかも……」
「そう言えばそうだな、紹介がまだだったな。
こいつは、ペスパード王朝のケルスティン・クリューガー、階級は准将だ」
左近がそう言うと、クリューガー准将は軽く会釈したのであった。
「階級?准将?すみませんが、全く分からない言葉ばかりで、理解できません」
「そりゃそうだ。
どうもこの左近衛大将殿は、言葉足らずでお互いに苦労するよな」
そう言うとクリューガー准将は、2枚の紙をクロエに渡したのであった。
「これは?」
「連合軍の組織図と階級表の原本の写しだ、今この原本は、ペスパードに伝書ガラスで送っているので、近々にでも全軍に配られるだろう。
秘書課は、その中の内局に所属し、お前は元帥専属の第一秘書になる。
秘書の仕事は、元帥のスケジュールの管理や書類や原稿の作成に、来客の対応に、元帥の身の回りの世話だな」
「み、身の回りの世話……」
そう言ったクロエは、耳の先まで真っ赤になったのであった。
「心配するな、お前が想像する様な事は無い」
「そ、そうでしたか」
そう言ったクロエは、何処か残念そうであった。
別に良かったのだけど……少し残念。
そう言えば准将とか元帥って階級か……元帥って一番上の階級か、まぁ御館様なら当然だよな。
ん?准将ってかなり上の階級じゃ……ってクリューガー准将って内局のトップだと!左少将様と同列ではないか!……挨拶もしていないし、かなり失礼な事をしてしまった。
そう思いながら、焦ったクロエは、クリューガー准将に深々と頭を下げて言ったのである。
「これは准将とは知らずに、失礼しました。私は、御館様の……」
「知ってるよ、クロエだろ。
お前達、渡鴉は連合軍の内部では有名人だ、言わなくても分かるよ」
「渡鴉?」
「何だまだ知らなかったのか。
お前達、黒い羽付きのマントを着けている者は、法外の者になったんだよ……つまりは何をやっても罪には問われないんだよ。
全ての敵を地獄に叩き落とす黒い羽、だから渡鴉……ぴったりだろ?渡鴉の斬り込み隊長さん」
そう言ったクリューガー准将は、笑みをこぼして言ったのであった。
「法外の者?初めて聞きましたよ……変な二つ名まで付いて……。
で、何で私なんです?私は一応これでも、御館様の警護も担当しているんですが」
「そこは、元帥閣下から聞け」
え?そこでこっちに振るのケルスティンさん……まぁ良いか。
「まぁとりあえず羽付きの者達は、暫くその存在を隠す為に、地下に潜って欲しいんだ。
まぁ他の仕事をして、新しい経験をして欲しいのと、存在を隠して法では裁けぬ者を殺す事により、誰が渡鴉なのか分からんから、疑心暗鬼になって悪事が減る……どうだ、完璧な計画だろ?」
「……御館様って、頭が良いのか、それとも……天才過ぎるのか……とにかく渡鴉って確定なんですね。
分かりました、その話つつしんでお受け致します」
今、言葉選んで、バカって言うのを避けただろ……まぁこれで俺は、自分のスケジュール管理から逃げれたわけだ。
そう左近が思っていると、扉をノックする音が聞こえて左少将が入っていたのである。
「失礼します三好 左近衛少将、只今……あれ、クロエ?と……誰?」
「おお、来たか左少将、まぁ座ってくれ」
左近がそう言うと、左少将はクリューガー准将を気にしながらも、ソファーに座ったのであった。
「まぁ何から話すかな……」
「その前に、私からもお話があります」
「お、何だ?」
「左大将殿、さっき私の父から手紙が届いたのですが、征夷大将軍就任を断ったそうですね。
しかも帝の前で、弾正府の侍を数名殺して…左大将殿は、一体何を考えているんですか!よく生きて帰って来ましたよ、本来なら打ち首ものですよ」
話が出回るのが早いな……そうか、文治派の奴等か。
この話を流して、俺に出世欲は無いから、このまま俺に付いていても、不利だぞと思わせる為だな。
まぁ出世欲が無いのは本当だし、派閥争いも苦手だし、行きたい奴は行かせれば良いさ。
「まぁそう言うなよ、帝の御前で弾正府の侍を数名殺したのはパンドラだし、征夷大将軍なんて蔵人別当がセットになっているんだぞ、その意味は分かるだろ?」
「……確かに、それは反感を買うかも知れませんね。
それにしても姫様、相変わらず無茶苦茶な事を……」
そう言った左少将は、目頭を押さえて言ったのであった。
「すまないが、ルタイ皇国の事は全く分からないので、説明してもらって良いかな?」
「すまないが、貴公は?」
「私は、ケルスティン・クリューガー准将、貴公の相方になる者だ」
「それは失礼しました、私は三好 左近衛少将 清信と申します。
先程話に出ていました、蔵人別当と言うのは、簡単に言えば国王の様な国家元首の権限を持てる事であり、征夷大将軍は武家の棟梁、即ち全ての侍の頂点に立つ者です」
「分からんが、それの何処がいけないのだ?」
「左大将殿は、名門の出身では無い、いわば新興勢力です。
それに左近衛大将と言っても、大陸の皆様は勘違いしておりますが、以前は両近衛府のトップで、地方の領主やその他の武家の者は管轄外です。
ですから、いくら優秀でも、征夷大将軍と蔵人別当になれば、本国の領主達が面白く思わないでしょう、下手すりゃ内乱も起こります。
ルタイ人はプライドが高いですからね」
「なるほど、何処の国でも同じ様なものか」
そう言ったクリューガー准将は、全て理解した様に言ったのであった。
「まぁ、左少将…いや三好 清信だな、お前に辞令だ。
三好 左近衛少将 清信、お前を本日より従四位下左近衛中将とし、連合軍外局の責任者で階級は准将とする。
今後はルタイ皇国の官位は、他国の爵位の様な形となり、連合軍内部では階級が重視される」
「この三好 清信、従四位下左近衛中将を承り、准将の階級もありがたく承ります……准将って何れ程の位でしょうか?」
「三好様…いえ三好准将殿、これが組織図と階級表だそうです」
そう言ったクロエから渡された紙を見ると、中は全てキリバ語で書かれていたために、清信は全く読めなかったのであった。
「すまんが、キリバ語は話せるのだが全く読めないのだ」
そうか、ルタイ皇国の中にはキリバ語は分からない者が多いし、その逆もある……次の第二秘書はそう言った所で選ぶとするか。
「そうか、まぁ簡単に言えば、外局は戦専門の部署だな。対して内局は、物資の調達や人事等を担当する。
その内局の責任者が、このケルスティン・クリューガー准将だ、今後は二人で連合軍の両翼として頑張ってくれ。
階級表は後程、渡すとするが、官位の様に世襲で受け継ぐ事は出来ないので、もしお前とパンドラの間に子供が出来ても、その子は准将にはなれないぞ」
「なるほど、完全に実力主義でいかれるのですね……って姫様と私は、まだその様な関係では無いですよ!」
「そうか、そうか。まぁ取り敢えずはこのクリューガー准将と話し合って、連合軍の組織を磐石な物にしてくれ。
そうだな、出来る限り早くだな……そろそろ各地の反乱が起こるだろうからな」
その言葉を聞いて、三好、クリューガーの二人の准将は、目付きが変わったのであった。
そう言った左近は、クロエを連れて執務室を後にし、フレイアの所に向かったのである。
―――――――――――――――――――
左近は、フレイア達の他に、ママとハンザを連れてナッソーに空間転移でやって来て、二人には四頭会の召集を頼み、一行はロンデリックの店にやって来たのであった。
「なぁ清興、何でウチとリーゼロッテも一緒に来たん?」
「フレイアよ、俺が評議会で言っていた、学校……お前が運営したくはないか?」
「ウッ……好きにして良いの?」
「もちろん、学校生活と言えば、フレイアしかいないだろう。
これから行くロンデリックは、そう言った制服とかも作ってくれる店なんだよ、そこで制服等を作れば良いし、俺もこれから制服を作ってもらおうと思っているんだ」
「それええなぁ……他のも作ってええの?」
「いいよ、ロンデリックは良いやつだし、デザイナーのエルマも……天然だが基本的には良いやつだ、手伝ってくれるだろうよ」
左近がそう言っていると、ロンデリックの店に到着したのだが、店は閉まっていたのであった。
「……店、閉まってるやん」
「閉まってるねぇ、裏に回ってみようか」
そう言って店の裏手に回ると、勝手口から出てきたロンデリックに出会ったのであった。
「よう、ロンデリック」
「あ、左近様。今日はどうされたので?」
「制服を頼みに来たのだが、今日は休みか?」
「いえ、それがですね…エルマさんが、何やら結婚式の演出で悩んでおりまして、騒がしいから店を休みにしろと、言われたので休みにしたのですよ」
エルマ、自分の家で仕事をしろよ。ロンデリックに、強制的に店を休みにさせるって、理不尽だろ。
「何だかすまないな、俺達の結婚式で、こんなにも迷惑をかけてしまって」
「いえいえ、良いですよ。立ち話も何ですから、中に入って下さい」
そう言ってロンデリックの案内で薄暗い店内に入って行くと、中からエルマの絶叫する声が聞こえて来たのであった。
「ロンデリックよ、もしかして」
「ええ、エルマさんです」
そう言ったロンデリックは、頭が痛いと言った様なポーズを取っていたのだが、それよりもフレイアが震えているのが、左近の目に入って来たのであった。
あぁやっぱり恐いのか……こんなにも強いのにな。
そう思った左近は、フレイアの手をソッと繋ぐと、大丈夫だと言う様に頷くと、奥の部屋に向かって行ったのである。
ロンデリックの案内で奥の部屋に行くと、ペンを口にくわえたエルマが、机に向かって頭をかきむしり、叫んでいたのであった。
「ああもう!何でイメージが出てこないかなぁ!」
あれは完全にスランプだな。
そう思いながら左近は、扉をノックして言ったのであった。
「エルマ、ちょっと良いか?」
エルマは、そう言った左近の方向を見ると、ペンをポロリとこぼした瞬間、椅子から転げ落ちて、机の影に隠れたのであった。
「さささささ左近ちゃん、そそそそそのひひひひ人って、まままま魔族ななななんじゃ……」
あら、何て分かりやすいビビりかた……こんなエルマは初めて見たな。
しかし、俺はそれ以上に気になることがある、何でロンデリックは大丈夫なのに、エルマはこんなにも脅えているのかだ。
「エルマ大丈夫だ、この二人は魔族だが、良い魔族だ……デザインにかんしては、エルマより上かもしれないな。
所でお前、何でそんなにも、脅えているんだ?ロンデリックは平気だったぞ」
左近がそう言うと、余程頭をかきむしっていたのか、髪の毛が爆発しているエルマが、顔を少し出して言ったのであった。
「そりゃ、魔法の使えないロンデリックさんは、分からないでしょうけど、私達エルフは魔法が使えるから分かるのよ。
魔力が外に漏れ出て、それはとても恐ろしい姿になっているのよ」
話し方が普通になっている……じゃ無くて、そうかそう言う事だったのか!だから、あの時ニーナ陛下は恐怖で震えていたのに、ゲハルト達は大丈夫だったのか。
って事は、その魔力を封じる事が出来たら、魔族も他の種族と同じ様に、生活が出来るって事か。
「フレイア喜べ、魔族がこっちで普通に生活が出来て、皆が仲良く暮らせるかもしれないぞ」
「え?そんな都合の良い事って出来るん?」
「あぁ、その漏れ出る魔力を封じる事が出来れば、魔族は恐怖の対象じゃ無くなるんだよ。
でもそんな事は、難しいかも知れないが、ペスパードは魔導器の研究開発をやっている、その魔導器も開発してくれる様に頼もう」
「ほ、ホンマにウチ普通に生活が出来るん?」
そう言ったフレイアは、余程嬉しかったのか、目に大粒の涙を流していたのであった。
「あぁ出来るさ、俺がフレイアの願いを叶えてやる」
そう言った左近は、フレイアの頭を優しくポンポンと叩いたのであった。
「……で、左近ちゃん、今日は何?これ以上仕事は出来ないよ。
そもそも仕事なんて大っ嫌いなんだから」
まだエルマの話し方が普通だ、まだ恐いんだろうな。
「大丈夫だ、今日はエルマの息抜きになると思って仕……いや、頼み事があって来たんだよ」
「…今仕事って言いかけなかった?」
「仕事じゃ無いって、何なら報酬も支払うから。
それにフレイアのデザインを見たら、気分転換になるだろうしさ」
「…それって仕事じゃ……まぁ良いわ、報酬の他に珠ちゃんとパンちゃんの、1日着せ替え出来る権利と、ルタイ皇国の旅行で手を打とうじゃない」
「よし、それで手を打とう」
左近がそう言うと、エルマは顔をピョコンと出して笑顔になったのであった。
良かった、これで二人が仲良くなったら、フレイアも少しは人見知りが変わるだろう。
「じゃあ、フレイアとエルマとロンデリックに頼みたい事は、連合軍の軍服とメイド服と執事や使用人の服と学校の制服のデザインを頼みたい。
軍服は藍色をメインで使用し、格好いい物で。メイド服等は、大人しい感じでお願いする。
学校の制服は、フレイアに任せるよ」
「何やそんな事かいな、んじゃウチがパパっと書いたろか。紙とペンを借りるで」
そう言ってフレイアが書いたのは、中二病全開のナ●ス軍の様な軍服であった。
これは、何かが違う様な気がする……そもそもネクタイって、この世界に無いだろ?
「なにこれ、格好いい!」
格好いいのかよ!確かにエルマのデザインもこれに近い物があるよな。
そう思っていると、何やら三人でワイワイと絵を書いて盛り上がっていたのであった。
何か除け者にされた気分だ。
そんな事を思っていると、同じ様に除け者組のリーゼロッテが話し掛けて来たのであった。
「左近殿、貴方には本当に感謝してもしきれません。
こっちに来てから、陛下は変わられました……今までは外にも出ずに、部屋に籠られて、誰かが入るとデスを放って殺しておられたのに、それも無くなり、毎日が楽しそうで。
本当にありがとう御座います」
そう言ったリーゼロッテは、深々と左近に頭を下げたのであった。
数百年も引きこもりをやっていたのかよ!…でも良かったな、これでフレイアが変われば、リーゼロッテさんやカルラの負担が減るってもんだ。
「それは、良かったな。フレイアは楽しそうに笑っているのが一番だよ」
そう言って左近達がフレイアを眺めていると、フレイアが創造主のスキルで制服を作り出したのであった。
「出来た!これでどうや、実物は格好いいやろ?」
そう言って、フレイアはテーブルに服を出して自慢気に言ったのであったが、そのスキルを見た二人は、どうやらそのスキルに感動した様であった。
「フレイアっち、凄ぉい!」
「そうですよ、このスキルは凄いです!これならば、サンプルを作って実物を見ながら、修正出来ますよ!」
エルマとロンデリックに言われて、フレイアは無い胸を張って、ふんぞり返って得意気であった。
さすがフレイアだな、やっぱり連れて来て良かった。
でもあの軍服って、何処かのアニメで出てきた、空軍の冬着の様な気がする。
「なぁフレイア、これって長袖だし今の季節は暑いんじゃないかな?それにネクタイって……」
「清興、あんたは何も分かって無いなぁ。この服をベースに夏服も作るんやんか」
どうやら、口出しは厳禁な様だ、これは完全に任せるしかないか。
「すまない任せるよ」
左近がそう言うと、何やら三人でまた盛り上がり、その後に出来上がった制服は、半袖の夏服であった。
「これは言い感じやん、とりあえず清興とクロエ、この制服を着てみて」
「まぁしょうがないか、クロエ着るぞ」
「はぁ…でもこの服、どうやって着たら良いのですか?」
確かにクロエは知らないよな、特にネクタイなんか分かるはずも無いし。
ここは、俺が責任を持って、クロエに制服を着せてやるしかないよな……そうだ、これは仕方がなくだ。
そんな事を考えていた、左近の野望を打ち消すかのような言葉を、フレイアが言ったのであった。
「ほな、皆でクロエの服を着せよか」
「そうだ、私は左近様に言われて、ブラジャーの開発に成功したのですよ」
「何やて!ロンデリック、そのブラジャーを持って来て、それも着けるで」
「はい!」
「何だかぁ楽しくぅなって来たぁ」
「で、清興はいつまでそこにおるん?女子の着替えや、男子のあんたは外で着替えや」
ですよねフレイアさん。
そう思いながら、左近はトボトボと制服を持って部屋を後にしたのであった。
何だか寂しい……いや何でロンデリックも一緒に……そりゃロンデリックと二人で着替える訳には、いかないけどさぁ…俺の貞操の危険もあるし。
何だろうかこの疎外感は、今これ程ロンデリックが羨ましいと思った事は無い。
そう落ち込んでいる左近に、部屋の中から楽しそうな声が、聞こえて来たのであった。
「ちょ、ちょっと陛下!何処を触っているんですか!」
「こうしな、ブラジャーは着けれへんねん…エルマ見てみ、クロエってけっこう胸が大きいで!」
「フレイアっち、凄いよぉ、プニプニしてるぅ」
「ちょっと、エルマさんも何で揉む必要があるんですか!その前に何でロンデリックさん迄、いるのですか!」
「大丈夫です、私は男にしか興味はありません!」
「そう言う意味じゃ無くて!」
……何だか楽しそうだな。
良いんだ、俺にはアイリスやラナの胸の大きな嫁がいるし、セシルはペッタンコだけど、セシリーもそこそこあるから……涙が出そう。
そう思いながら左近は着替え終わると、暫くしてリーゼロッテが顔を出したのであった。
「左近様すみません、ちょっと良いですか?」
「どうした、何か手伝おうか?」
「それがですね、ネクタイって物の結びかたを誰も知らなくて……分かります?」
「そんなのは、任せておけ」
そう言って元気になった左近が中に入ると、後はネクタイを着けるだけのクロエがいたのであった。
あ、何だか良い感じだ。
思わずそう思った左近にフレイアが話しかけたのであった。
「清興、あんたは男やし、ネクタイの結びかたを知ってるやろ?」
「おお、任せておけ」
そう言って受け取ったネクタイを、クロエの襟に回して結ぼうとするのだが、中々出来ないのであった。
何だか正面から結ぶのは、やりにくいな。
「クロエ、ちょっと方向を変えて良いか?」
「え?方向を?」
そう言って左近はクロエの了承は聞かずに、クロエの後ろに回ると、そのままクロエの背後から腕を伸ばして、ネクタイを結び始めたのであった。
「あ……」
「すまん、嫌だったか?」
「いえ、その様な事は……」
何だか、御館様に抱き締められている様で、良いなこういうの。
そう思いながらクロエは、その長い耳まで真っ赤になっていたのであった。
クロエって、結構細かったんだな……良い匂いもするし…これ二人っきりだったら絶対に、押し倒している気がする……
そんな事を考えながら左近は、クロエのネクタイを結んだのであった。
「いいなぁ、それ」
そう言ってフレイアが二人の光景を見ている中で、左近が結び終わると、フレイアが何かを思い付いたのである。
「せや、だて眼鏡を着けようか」
そう言ってフレイアは眼鏡を作り出して、クロエにかけさせたのであった。
な、何やねんこの破壊力は!恥ずかしがるエルフのクロエに、制服と眼鏡だと!しかも、赤いフレームの眼鏡、そのこのコンボはヤバい……俺の理性よもってくれ!
そう思っている左近に更に追い討ちをかける様に、クロエは恥ずかしがりながら聞いたのである。
「お、御館様…何処か変じゃ無いですか?」
あ、あかんてクロエさん、それ俺のドストライクや……俺の理性がヤバい。
「に、似合ってると思うよ」
そう言って顔を背けながら言った左近は、顔を赤くしていたのであった。
「まぁ後は階級章は、肩や襟に付けたら良いやろ。どやウチのセンスは?」
はい神です、貴女は神様です!ありがとう神様!
「ま、まぁ良いんじゃないかな」
心とは裏腹に、左近はぶっきらぼうに言うと、フレイアは親指を立てて笑顔で言ったのであった。
「とりあえず、耐久性のテストの為に暫くはその服で過ごしてや。あ、これ制帽と靴な、クロエは制帽とヒールやで。
ウチは、このままここで暫く服を作ってみるわ。帰りはリーゼロッテがおるから大丈夫やし」
そう言ってフレイアは、俺達に靴と制帽を渡したのであったが、エルマとロンデリックはフレイアの事をまるで神様を見る様な眼差しになっていたのに、左近は気が付いたのであった。
この二人、今後はフレイアの事を神様の様に尊敬するんだろうな。
そりゃそうか、今まで見た事も無いような物を出しているんだもんな…アパレル界の神様だな。
そんな事を考えながら左近は、ロンデリックの店を後にしたのであった。
「何だかこのヒールって靴は歩きにくいですね……それに何だか、ジロジロと他の人に見られている様ですし」
そう言いながらクロエは、恥ずかしそうにしていたのであった。
「大丈夫だクロエ。
俺がナッソーを歩いているのが、珍しいんだろうな、いつも空間転移で移動していたから。
それにそのヒールってのは、脚が長く綺麗に見える様に出来ているんだ」
「そ、そうですか…って、あんまりジロジロ見ないで下さいよ、こんな姿を親父に見られたら……あぁ考えるだけでも嫌です」
この世界って、亜人とか色々と種類は多いけど、中身は現代の人間と変わらないんだな。
そう思いながら左近は笑顔になっていたのであった。
「御館様、どうしたんですか?やっぱり何か変ですか?」
「違うよ、その服はクロエに似合っているって。
俺が思ったのは、普段はマルディの事を父上とか言っているのに、親父って言ってるからだよ」
「あ、本当だ。父上には黙っていてくださいね、あの人はそう言うのに煩いんですから。
でもこれから何処に行くのですか?」
「あぁ、ちょっとナッソーに来たついでに、兼平の所にな……調べたい事があるんだよ」
そう言った左近は、兼平の工房に向かって、歩みを進めたのであった。
――――――――――――
「邪魔するよ、兼平いるか?」
そう言った左近達が工房に入ると、中から兼平とカリシアが顔を出したのであった。
「御館様、今日はどうしたのですか?もしかしてクロエさん?あまりにお綺麗になって、気が付きませんでしたよ」
そう言って近付いてくる兼平に、左近は変に違和感を感じていたのであった。
普段は鳴り響く、鉄を叩く音が聞こえないのは勿論であるのだが、それ以外にも違和感があった。
そう、二人の距離が近いのである。
兼平は、普段からカリシアとは距離を取っているのだが、今日はそれが無いのであった。
何か変だ、二人に何があった?
左近がそう思っていると、兼平から一歩引いたカリシアが左近に向かって、Vサインを出したのである。
あ、とうとうやっちゃったか兼平よ……これで君も立派なロリコン協会の一員だな。
そう思いながら、左近は話を切り出したのであった。
「今日は、カリシアに用事があって来たんだ」
「え、私ッスか?」
「そうだ。ドワルバフ王国では、時計と言う物が在るとか……本当か?」
「あぁ時計ね、確かに在るッスよ。
確か七代ほど前の国王が、かなりの発明好きで、作ったのが最初だったらしいッス」
そんなにも昔から……まさか、転生者か?
「他にも、その国王は何を発明したんだ?」
「私が今持っているのは、時計だけッスけど、他にはトロッコって言う、鉱物の運搬車とか、まぁ色々ッスね。
でも言葉だけじゃ分からないッスよね」
そう言ってカリシアは、笑顔で言ったのであった。
ウッ、眩しいぜ。さすがに兼平と結ばれた事はある……じゃなくて、これでハッキリした、その国王は転生者か転移者だ。
しかも時代は、俺とフレイアとかなり近い時代だな。
「その国王は、何処にいるか分かるか?」
「御館様、いくらドワーフが人間より長生きでも、さすがにもう死んでいるッスよ。
あ、でもその国王は、自分のアイデアをまとめた本を作っていて、それは王国の国宝になっているッス。
でもその本は、誰にも読めない文字で書かれており、元々文字に強くないドワーフなので、そのまま解読もされずに放置されているッスよ」
誰にも読めない文字……英語とかかな?ルタイ語なら、魔導書の文字と同じなので、読める者がまだいる。
だが、それでも読めないとなると、日本語以外の言語になる。
「その本って、俺達が見れるのか?」
「それは無理ッスね。
その本は、王族以外の者には、見せる事が出来ないし、持ち出すのは絶対にダメッス」
そりゃそうか、そう言った技術って知的財産だもんな、簡単に見せる事は出来ないか。
でもカリシアって王族だし、いつか頼んでみよう。
そう言えば、トロッコって言ってたよな……レイクシティって、かなり大きな島だから、電車やバスの様な交通機関があれば、住民もかなり楽になるんだよな、チョッと考えてみるか。
「そう言えば、時計は販売とかやっているのか?」
「国内には、時計職人はかなりいるッスけど、何処の国も買ってくれなくて、国外にはあまり出回って無いッス。
何せドワルバフ王国は職人の国ッスからね」
「他国からの侵略は無かったのか?そんなにも技術力のある国は、欲しいだろう」
「昔は、そんな国があったみたいッスけど、その七代前の国王の発明品で、全て撃退したみたいッス。
でも、その国王の遺言で、国を守る時以外は、その技術を使っちゃいけないし、他国には絶対に漏洩するなと言われているッス。
だから光魔大戦の時も、その技術は使わない事になっているんッスよ」
何だか、カリシアの言い方って、俺がドワルバフ王国を、攻めようとしているのを、思い止まらそうとしている様だ。
そんな事はしないけどね。
「そうか、今度交易出来るか使者を送るかな。そんな事より、その時計だが見せてくれんか?」
「良いッスよ」
そう言ったカリシアは、奥の部屋に入ると、暫くして戻って来たカリシアの手には、銀の懐中時計があったのである。
「懐中時計か……」
「御館様、知ってるんスか?この銀の懐中時計に彫られている紋章が、王家の紋章なんスよ」
「紋章はともかくカリシア、ドワルバフ王国には、時計塔って在るのか?」
「御館様ってドワルバフに絶対来たことあるっしょ?この流れから言って、時計塔を設計して作れってことッスよね?それは無理ッスよ」
「何故だ?」
「時計ってのは、歯車の一つ一つの大きさや動きが、完璧に正確に計算された芸術作品ッスよ。
ってな訳で、鍛冶職人が手を出せるはずがないッス」
カリシアがそう言うと、兼平が手地面について、頼み込んできたのであった。
「御館様にお願いがあります!是非ともこの兼平に、この時計なる物を作らせて頂けないでしょうか?」
「それは、いくら師匠でも無理ッスよ。
時計は複雑に計算された歯車の配置で、更に精密な部品が組合わさった芸術品ッス。
時計職人は、それを物にするのに数十年は修行しないと、ダメなんッスよ」
「カリシア分かってる、だがそれでも作って見たいのだ。
御館様、是非とも御願いします!」
兼平がこうやって、俺に頼むのって初めてだよな。
「よし、分かった、何とか手を打とう。
グレゴール商会に言って、時計職人をこちらに連れて来れるか聞いてみるよ。
もしもダメな時は、ドワルバフ王国と国交を結び、お前をドワルバフ王国に行かせてやる、それで良いか?」
「ありがとう御座います!」
そう言った兼平は、平伏して感謝したのだが、その後ろでカリシアが、拗ねていたのであった。
「カリシア、もしも兼平がドワルバフ王国に修行に行く時は、一緒に行っても良いぞ」
「だから嫌なんッスよ。
自分はこれでも家出中の身ッスよ!そんなの無理に決まってるじゃないッスか。
それに、待ってるって言っても、往復だけで何年もかかるッスよ…そんなの耐えれないッス……」
そうか…それはキツいよな……。
「ならば別の方法を考えよう、何も今すぐって訳じゃ無いんだからな。
そう言えば、ドワルバフ王国って何処に在るんだ?」
「大陸の西の端に在る、魔族の国のガルド神魔国の東隣ッスよ」
それなら、神魔国に空間転移で移動してが、一番速いよな。
今度カルラに話を通してみるか。
「そうそう、時計の事ばかりで言うのを忘れていた。
今度建て替える俺の邸宅の費用は、全部ルタイ皇国が出すことになったんだよ、だから費用の事は考えずに、思う存分やってくれ」
「マジッスか!これで心置き無く、好きな様に作れるッス!」
一瞬で元気になりやがった。
現金な奴と言うか、それほど予算に困っていたのか……てか、これ自腹だったらヤバかったな。
左近はそんな事を考えながら、四頭会の会合先である、オヤジさんの店に向かったのであった。
―――――――――
左近とクロエは、オヤジさんの店タックス・ヘブンにやって来た。
ここまで見てきたナッソーの市街は、傭兵達がいなくなったからか、何処か活気が無くなった様に感じられる。
以前以上に、人は少ない様な感じになっていたのであった。
それもそのはず、ナッソーの傭兵達はザルツ王国に行っており、盗賊達は皆セレニティ帝国に稼ぎに出ており、ナッソーらしからぬ平和な田舎町になっていたのであった。
「……何だか寂しくなっていたな」
そうポツリと言った左近の気持ちは、クロエも分かっていたのであった。
「本当にそうですよね、あの騒がしかった時代が懐かしいです」
そう言ったクロエは、遠い目をしていたのであった。
店内に入った二人の目には、いつもなら昼間から飲んで、ばか騒ぎをやっている客がいた店内がシーンと静まりかえっていたのである。
あれ?あのヨラム達もいない……そうか、復興工事で皆、仕事に行っているんだ。
左近がそう思っていると、店の奥からパタパタとイエッタが小走りでやって来たのであった。
「左近様ようこそ……何ですかその格好は?」
「これは軍服と言って、今度から連合軍の制服になったんだよ。
それより、もう皆集まっているか?」
「いえ、ママとハンザさんだけです。
オヤジさんは、今は市場に仕入れに行っていて、ダッチさんは、もう少し仕事をしてから来るそうです」
「そうか、ちょうど良かったな」
そう言って左近達は、イエッタの案内で二階に上がって行ったのであった。
「左近様、クロエ様来られました」
そう言ったイエッタの後に、左近とクロエが中に入ると、椅子に座っていたママが、思わずポロリと葉巻をこぼして、固まっていたのであった。
「あれ?ママ?どうしたんだ?」
「……いや…何だよ、その格好は?」
「今度から連合軍の軍人は、戦では無い職務中はこの服を着る事にしたんだ。
これならば、ここに階級章を付ければ、誰が軍人でどの階級なのか分かるだろ?」
「分かるけど……私も着るのかい?まぁ良いけどさ」
そう言ったママは、何処か諦めが入っている様に、左近は感じたのであった。
「何だよ、もっと嫌がるかと、思ったんだけどな」
「茶化すな左近。
クロエの様な生娘じゃあるまいし、恥ずかしくは無いさ」
「チョッとママ、生娘かどうかなんて、関係無いでしょう」
にやけながら言ったママにクロエは食い付いたのであった。
「関係あるさ。
姫さんは、あの通りそう言った事に無頓着だが、ウチの騎士団で恥ずかしがるのは、多分生娘のクロエだけだよ」
「生娘…そうだ、クリスティーナがいるじゃ無いですか、あの人も生娘ですよね?ほら私だけじゃ無い」
そう言って得意気に言ったクロエであったが、ママは鼻で笑い、笑みをこぼして言ったのであった。
「フッ、甘いねぇクロエ、あんたの目は節穴かい。
既にクリスティーナは、佐平次と出来ちまっているよ」
『え!』
このママの言葉には、左近も一緒に驚いたのであった。
「ケィングストンに駐留中は、姫さんの命令で、テスタが部屋を同室にしていたし、夜這いに行ったロビンが、かなりヘコんでいたしな」
マジかよ……佐平次お前、この事をあのアミリアに知られたら、確実に殺されるぞ、何て命知らずなんだよ。
……でもロビンの奴、夜這いって何やっているんだよ。
そう思いながら左近はクロエを見ると、余程ショックなのか、そのまま頭を抱えて、しゃがみこんでいたのであった。
「まぁ佐平次の冥福を祈りながら、チョッとレイクシティの、区割りの話をしようか」
そう言った左近は、アイテムボックスから地図を取り出して、テーブルに広げたのであった。
「ハンザ、レイクシティに大きな学校を建てたい、場所はここの一般区の端にだ。
それと、この5ヶ所に時計塔も作りたいので、土地を用意してくれ」
「時計塔?」
「あぁ、ドワルバフ王国にある、時計と言った物の塔だよ、時間を皆に知らせる建物だ。
それと、トロッコ列車を走らせたい」
「トロッコ列車?」
「そうだ、トロッコ列車だ。
このレイクシティは、かなり大きくて、城門から橋を渡って中に入ると、セントラル城まで徒歩だと、1日以上かかってしまう。
そこで、乗り合い馬車の様な感じで、運搬できる物を走らせて、決まった場所に停車する、駅と言う建物を作りたい」
「それを、我々に運用させて頂けるので?」
「そいつは止めておいた方が良いだろう。
料金を安く設定する為に、採算が合わないし下手すりゃ大赤字になってしまう。
後々に各国の主要都市を結んでなら、採算は合うかも知れないが、今はこのレイクシティだけだから、止めておけ」
「では、料金を上げれば良いのでは?」
「そいつはダメだな。
料金を高くすれば、皆が気軽に乗れないし、歩いてしまう。
そうなれば、流通や人の流れが遅くなり、発展が遅れるだろう」
「ふーん、そんなもんですかね」
そう言ったハンザは、全く分からないと言った感じであった。
「ああそうだ、ママに言っておく事があった。
今後は黒騎士団ブラックナイツの羽付の者は、法外の者となる。つまりは、連合国内何処でも、何をやっても自由って事だ」
「……何だよそれ?そんな事を各国は、了承したのか?」
「了承した。
まぁ簡単に言えば、あのパンドラや珠を、誰が捕まえられるって事だ」
「ハハハ、そう言えばそうだね。あの姫さん達を捕まえるのなら、数十万の軍隊がいるからな。
ウチの連中は、私が自分で言うのも何だが、この世で最強だと思っている、誰にも止められないさ、これは賢明な判断だと思うよ」
「まぁそれに伴って、羽付の各自は、地下に潜って普通の生活をしてもらう。
その羽付のマントを付けて、行った行為は全てが罪に問われないので、その存在を隠すためだ。
つまりそのマントを付けて、悪人を殺していれば、悪人どもは誰が羽付なのか分からずに、疑心暗鬼になるって事だ。
ちなみに、クロエはそれで俺の秘書をやるのでこの制服だ。ママはハンザ商会の会長をやってもらうよ」
左近が得意気に言うと、ママは口をあんぐりと開けて言ったのであった。
「左近……お前バカだろう?そんな事をしても左近衛府の奴等は、私達の事を知っているし、生き残った奴等が、顔を見ているし言うだろうよ」
あ、本当だ……クロエもこの問題に気が付いていたのか……まぁ良いや。
「んじゃ後で顔を隠す面貌も支給する様に手配しよう」
「変わらないと思うが、まぁのんびり出来るならそれで良いや。
それにしてもオヤジの奴、遅いねぇ」
ママがそう言っていると、外から話し声が聞こえて、オヤジさんとダッチが入って来たのであった。
「よう、待たせたか?」
「いや、左近と話していたんで、良い暇潰しになったよ」
「おお、そうか。で今日は集まってどんな話だ?俺もチョッと左近に、話が後であるんでな」
オヤジさんは、あまり時間が無いのか、話を急かしたのであった。
「まず最初に、正式にセレニティ帝国が、このナッソーの復興費用を出す事に決まった。
今後の請求は、全て帝国のラニス皇帝にしてほしい」
『おお』
その左近の言葉に、3人は思わず期待の声が出たのであった。
「では、次なんだが、ダッチよお前、盗賊ギルドの会長をやらないか?」
「盗賊ギルド、何だよそれ?」
「今やっている、私掠免状の発行や、商人の通行許可証の発行、そして商人の護衛とかだな。
今いる盗賊の対処を考えて欲しいんだ」
左近がそう言うと、ダッチは暫く考えて言ったのであった。
「……今回の私掠免状は、ほとんどの盗賊団が、今回だけって考えだと思うぞ。
基本的にあいつらは、国の指図は受けねえ、今回は条件が美味しいから来ただけで、残るのは殆どいないだろうな」
そうか、俺が何とかしないとって考えているだけで、盗賊には盗賊の都合ってのが、有るんだろう。
「そうか、ならば冒険者ギルドもやるか?」
「冒険者ギルド?」
「冒険者ギルドってのは、ダンジョン攻略やモンスター討伐とかの仕事を発注する、IDCUの様な組織だな」
左近がそう言うと、オヤジさんが話に割って入って来たのであった。
「チョッと待ってくれ、俺の話もそれに関係が有ると思うんだよ。
つい先日にIDCUの方から、全ての仕事を撤退するって通知が来た、この事と何か関係が有るのか?」
「それね……俺が脅したからだと思う」
左近がそう言った瞬間、ダッチとオヤジさんとハンザは暫く固まっており、クロエは頭痛がしたのか頭を抑えてしゃがみこみ、ママは笑いをこらえていたのであった。
「クックッ…良いねぇ、これだから私はルタイ皇国が楽しいんだよ。
で、何故脅した、何か訳があったんだろ?」
「いやぁ、ナリヤを包囲するチョッと前に、ウェンザー王国の勇者が来て、停戦しろって言ったから。
俺達に命令するな、そんな事を言ってたら、大陸を征服しちゃうぞって事を言ったら……本当に撤退しやがったんだ…」
「左近、てめえ何て事をしやがるんだよ!誰がダンジョンを攻略するんだよ」
左近の言葉を聞いたオヤジさんは、珍しく感情的に怒鳴ったのであった。
「怒鳴るなオヤジ、だから左近がさっき言った様に、冒険者ギルドってのを、作ろうとしているんだろ。
それにそんなタイミングで、停戦を了承たら、この先どんなに金が、かかるのか分からん。
それに私は、ルタイ皇国のスタイルは嫌いじゃ無いよ。
他国からの命令は受けない、売られた喧嘩は買う……まるで私達と、同じ考えじゃないか。
で左近よ、その冒険者ギルドってのは、もちろんウェンザーのIDCUを超える組織にするんだろ?」
「ああもちろん、そのつもりだ。
オヤジさんに聞きたいのだが、俺はこっちに来て、あまり冒険者って見た事が無いんだが、数はそんなに少ないのか?」
「少ないって言うか、一人前になる前に、殆どが死んでしまうか、廃業しちまうんだ。
身の丈に合っていないダンジョンに入って死んだり、ダンジョンが無ければ収入も無いしな」
やはりそうか、傭兵や盗賊って今までかなり出会って来たけど、冒険者って職業が有るのに、それ専門の奴は出会った事が無いもんな。
ならば、ここは俺の知識全開で、冒険者ギルドを作ってやろうじゃないか。
「ならば、こうしてはどうかな?
冒険者ギルドに所属した冒険者は、底辺のEから順番にA迄ランクを付けて……その上に最上級のSをつけよう。
とにかく、こうやってランクで分けて、能力に応じた仕事を振り分けるんだよ。
そして冒険者ギルドに所属すれば、レジストカードの換わりになるカードを渡して、連合国の都市に出入り自由にすれば、いけるだろ?
それにダンジョン攻略が出来ない初期の段階は、軍が代行して行う……完璧だな」
そう言って自画自賛している左近に、ママがポツリと言ったのであった。
「それは、良い考えかも知れないね。
今のナッソーは、傭兵や盗賊達が稼ぎに出ているから、寂れて来ている。
これを起爆剤にして、ナッソーをギルドの街にしていけたら、前の様に活気がある街になるかも知れない。
そうなると私達の商売が繁盛し、懐に入る金も増える」
そう言うとダッチとオヤジさんは、目を見開き言ったのであった。
「良いね、ダッチ商会はその話に乗った」
「俺は酒場が儲かるならそれで良い」
「なら話は決まったね。左近、あんたはその様に法の整備と必要な道具を揃えておくれ。
ギルド本部の建物や人員は私達に任せな」
「ああ分かったよ」
俺は時折この三人が恐くなる。
こと金に関しては、この三人は一瞬で結託し、この世界を動かす事でも、気にせずやろうとするからだ。
この三人には、倫理や道徳なんて物は通用しない、まぁナッソー自体が、そんな街なのだから仕方がないのだが。
そんな事を思いながらも左近は、ナッソーをギルドの街にする為に、話し合いを重ねたのであった。




