王国の勇者達
左近衛府軍はラニス公達と、リットール城に無事に入城すると、リットール城城主ニック・トレバー伯爵の呼び掛けにより、反ルイスのセレニティ帝国の兵士達も続々と集結し、その数は4万に迫ろうと言う勢いであった。
そしてその数日後。
その影響は、最終決戦の為、帝都ナリアに集結していた帝国軍に、眼に見える型で出ていたのである。
帝国兵士達は脱走し、ルイスの軍、全体にも影響を及ぼす結果に、なっていたのであった。
更に傭兵達は、ザルツ王国の内戦に殆ど向かい、帝国に雇われた傭兵も、食料事情の悪さから、傭兵ギルドに違約金を支払ってまで、逃げ出す者が続出したのである。
そして、帝都内部では、とある事が噂となり人心を惑わせ、帝都から逃げ出す民が続出したのであった。
その噂とは、「今の皇帝、ルイス・セレニティが、父であり前皇帝のルベル・セレニティを暗殺した」
これに対してルイスは、厳戒令を発令し、その噂を言った者は、その場で死罪と言った暴挙に出たのであった。
しかし、皮肉にもそのルイスの行動が、より信憑性を増す結果となり。
その噂が帝都内外に知れ渡る様になったが為に、リットール城のラニス公の元に、向かう者を増やす事になったのであった。
当初は、ランダ草原で集結する前の、ルタイ皇国軍を攻撃する予定であったルイスであったが、最早こうなっては、手の施しようがない。
その考えは、帝都全体を覆っており、全軍の士気は、落ちる所まで落ちていたのであったが、ルイスに一筋の光明が差してきたのであった。
「何?ウェンザー王国からの使者が?……よし早速会おう」
これは、俺にも運が向いて来たのかも知れない。
ここでウェンザーの勇者達に、停戦の使者になってもらい、何とかこの戦を止めてもらえば、こっちの物だ。
体勢を立て直し、叔父のラニス公さえ暗殺すれば、奴等も担ぐ者がおらずに、空中分解するだろう。
そんな事を思っていたルイスの前に、二人の男性と一人の若い女性の使者がやって来たのであった。
「お初にお目にかかります、私はウェンザー王国専属勇者のブライアン・オービン伯爵。
こちらの若者は、同じく専属勇者のダニエル・ラフォンド子爵。
こちらのエルフの女性は、同じく専属勇者のリュネ・ラヴィオ子爵で御座います」
「うむ、私がセレニティ帝国皇帝、ルイス・セレニティである」
「…失礼ですが、ルタイ皇国の御方では?」
そう言ったブライアンの目は、ギロリとルイスを見据えていたのであった。
「まぁ半分だけ、忌々しいルタイ人の血が入っているのでな」
「そうでしたか、それは申し訳ございません。
では、ウェンザー王国からの用件をお伝えします。
来年の春に、我がウェンザー王国の王都ナボスで、魔族討伐の大陸会議が開かれます。
速やかにザルツ王国と停戦され、大陸会議に向けて準備されますよう。
これが、我が国王ギレルモ・ウェンザー陛下の書状で御座います」
ルイスはブライアンから、手紙を受け取ると、内容を確認し、ブライアン達に言ったのであった。
「確かに、ウェンザー王国の国王からの書状の様だな。
しかし、こちらとしても停戦したいのだが、出来ない事情があり…敵が停戦しない限りは、我等も大陸会議に行く事はできんのだ」
「それは、そうで御座いますな。
しかし、ご安心してくだされ、ザルツ王国にはこれから我等が行って話をつけて参りますので。
不安でしたら、ザルツ王国の帰りにでも、ここに戻り、どうなったかお伝えしましょう」
「ふぅ……ザルツ王国が相手ならば、どんなに楽な話か……」
そう言ったルイスは、とてもブライアン達には、無理だと言わんばかりのリアクションで、言ったのであった。
「ザルツ王国では無かったので?もしやセブンス連邦とか?」
「セブンス連邦ならば、交渉でどうにかなる。我等が今戦っておるのは……ルタイ皇国だよ」
そのルイスの言葉に三人は思わず絶句したのであった。
アルムガルド大陸の国ならば、このウェンザー王国の呼び掛けに従うのは、常識なので簡単なのだが。
ルタイ皇国となれば話は別であり、こちらの常識が全く通用しないばかりか、最早これは大陸全土の問題であったのである。
ブライアンは、とてもまだ信じられないと言った様に、言ったのであった。
「皇帝陛下…それは何かの間違いでは?ルタイ皇国は、他国を侵略した事もございませんし、信じるわけには……」
「ならば何故、我が帝国が滅亡の直前まで、追い込まれていると言うのだ!」
そのルイスの怒鳴り声が、真実である事を全てを、物語っていたのであった。
まさか、これは真実なのか?そう言えば、この帝都に入ると、誰もが絶望の顔をしていた。
そう思ったブライアンは、ルイスに聞いてみたのである。
「陛下……まさか本当に?」
「あぁ、既に帝都から南に数日の距離に来ている……このまま大陸会議に行けば、確実に帝国は滅ぶ。
いや、それまでもつかどうかだな」
「……解りました、我等が交渉に向かいましょう」
「頼む」
そう言って頭を下げたルイスの顔は、笑みをこぼしていたのであった。
―――――――――――――
左近達の左近衛府軍は、右近衛府軍に少し遅れて合流し、二人の合議の結果、弾正府軍を待たずに、帝都に進軍する事にしたのである。
弾正府軍は未だに、最初の城の攻略に手間取っていた為、ここで一気に帝都を占領し、戦争の早期決着を狙ったのと、今ならば帝都に集結している兵士の士気も低く、脱走兵が相次いで出ており、その兵力が少なくなっているためであった。
その進軍の斥候は、左近衛府軍黒騎士団の、ロビンの部隊が担当していたのである。
「全員停止!止まれ!」
そのロビンの掛け声で、10名のロビンの部隊は停止したのであった。
「隊長、どうされたので?」
「帝都から3名出てきた……使者か?」
「……よく見えますね」
そう言った侍の肉眼では、帝都から出てきたブライアン達を、見つける事は出来なかった。
「こっちに真っ直ぐ向かって来やがる……しかも、勇者だ」
「隊長、もう帝国には勇者がいないはずでは?」
「あぁ、確かにそのはずだが、空間転移を何回もやって近付いてくる……警戒しておけ」
そうロビンが言うと、ロビン達の目の前に空間転移の煙が出て、中から初老の男性と、若い男女の騎士が出てきたのであった。
「止まれ!貴様達は何者だ?」
そう言ったロビンは、弓矢を構えて言ったのである。
「……貴様、大陸の人間か?後ろにいるのは、本当にルタイ人の様だが」
「そんな事は聞いていない、俺の質問に答えろ。
貴様達は何者だ?」
「貴様、誰に弓を向けているのか、解っておるのか?私達は勇者だぞ?」
そう言ったブライアンの顔は、傲慢な顔付きであった。
「これは警告だ、次に答えぬときは、攻撃させて頂く。
貴様達は何者だ?」
「おいおい、本気で攻撃するつもりか?」
そう言った瞬間であった。ロビンが鏃の先に小さな空間転移を開くと、ブライアンの頭上に空間転移が開き、ロビンが放った弓矢がブライアンの肩に刺さったのである。
「……クソ!貴様も勇者だったのか!」
「次は確実に殺す。もう一度聞く、貴様達は何者だ?」
そう言ったロビンは表情1つ変えずに言ったのであった。
肩を押さえながら、剣を抜こうとするブライアンの前にリュネが出て、ロビンに話しかけたのであった。
「我等は、ウェンザー王国の専属勇者である。
セレニティ帝国の使者としてやって来た事を、そちらの将に伝えて欲しい!」
「どけ、ラヴィオ子爵」
「オービン伯爵、我等は使者としてやって来たのです、戦う為ではございません」
リュネがそう言うと、ブライアンは悔しいが、黙るしか無かったのであった。
「そちらの話は、ついたか?」
「ああ、すまない。我々は戦う為に、来たのでは無いのでな……伝えてくれるか?」
「ああ。
おい通信兵、御館様にウェンザー王国の専属勇者三名が、セレニティ帝国の使者としてやって来たと伝えろ」
「はい!」
そう言った女性の兵士は、何やら一人で話し出したのであった。
何をやっている?通信兵とは何だ?
リュネがそう思っていると、通信兵は再び戻って来て言ったのであった。
「伝令です、このまま使者を、左近衛府の会議室に空間転移でお連れしろ。
斥候部隊はこのまま進軍、本隊も進軍し、帝都包囲は予定通り行うとの事です」
「了解した。と、言う事だが宜しいか?
それと、変な気はおこすなよ……いくら俺でも庇える訳では無いからな」
ロビンの言葉に三人は頷き、ついて行ったのであった。
――――――――――――
何だここは!
左近衛府にロビンの空間転移で到着したリュネは、思わず口をあんぐりと開けて思ったのである。
「こっちだ、ついてこい」
そう言ったロビンの後に三人は、急いでついて行ったのであった。
すれ違う者は全員がルタイ人……確かに、ここはルタイ皇国の様だ。
だが問題がある、オービン伯爵はこのまま黙って交渉するだろうか?この人は何処か人を見下すので、それが心配だ。
ラフォンド子爵は、伯爵の腰巾着だし……いざとなれば、私が間に入るしかないか。
そうリュネが思っていると、ロビンは1つの大きな扉の前に止まり、ノックしたのである。
「失礼します、ロビンです。ウェンザー王国の専属勇者三名を、連れて参りました」
ロビンがそう言うと、中から初老の執事が出て来て言ったのであった。
「こちらへどうぞ、中で皆様がお待ちです」
そう言われた三人は、ロビンの方向を見ると、ロビンは頷き中に入る様に促したのであった。
意を決して三人が中に入ると、そこには中央に若いルタイ人の男性二人が、その両端には若い女性のルタイが二人座っていたのである。
「ようこそ参られた、私はルタイ皇国の島 左近衛大将 清興と申す。
こちらは、橘 右近衛大将 正成。
そしてこの二人は、我が娘の珠にパンドラ」
そう言うと正成達は、軽く頭を下げたのであった。
「これは、お初にお目にかかります。
私はウェンザー王国の専属勇者、ブライアン・オービン伯爵。
そして、この若者は、同じくウェンザー王国の専属勇者、ダニエル・ラフォンド子爵。
そして、このエルフの女性は同じくウェンザー王国の専属勇者、リュネ・ラヴィオ子爵でございます」
しかし、ルタイ皇国の左近衛大将と、右近衛大将と言ったら、ルタイ皇国武士団のナンバー1とナンバー2ではないか。
と言うことは、ルタイ皇国は本気でセレニティ帝国を進攻していると言う事だ。
これは、オービン伯爵……1つ間違えると、大陸全土の侵略の切っ掛けを与える事になる、慎重に行かないと。
そうリュネが思っていると、左近が先ずは口火を切ったのであった。
「セレニティ帝国からの、使者として来られたそうだが、その内容は?」
「即刻、セレニティ帝国と停戦していただきたい、これは我が主ギレルモ・ウェンザー陛下のご意志でもある」
「そうか……で、何故我等が貴公の、国の言う事を素直に聞かねばならない?」
「貴様、我等がウェンザー王国の…陛下の御意向に逆らう気か?」
「一体何だこれは?貴公は、ルタイ皇国に宣戦布告をしにやって来たのか?それならば、ルタイ皇国はいつでもお相手いたすぞ」
この流れは、非常にマズイ。完全にこちらがルタイ皇国に喧嘩を売っている流れだ……何とかしなければ。
そう考えていたリュネであったが、ブライアンは既に完全に頭に血がのぼりかけていたのであった。
「貴様達は、我がウェンザー王国が、何人の勇者を持っているのか、知っているのか?3人だ3人!どこぞの田舎者には集められぬ数であろう。
貴様らなど相手にならんわ」
「おい聞いたか正成よ、たったの3人で我等の相手をするらしいぞ」
「ハハハ、なあ清興よ、もうこの茶番劇に付き合う事は無い、この宣戦布告を受け取り、ウェンザー王国を滅ぼそうか」
な、何だこの人達は?勇者が恐くないのか?
リュネがそう驚いていると、ブライアンが完全にキレたのであった。
「貴様達は、勇者の恐さを知らんだろう!いつでもその恐ろしさを見せてやろうぞ!」
そうブライアンが叫んだ時であった、左近は今までの笑顔がスッと消えて、まるで能面の様に無表情な顔で言ったのであった。
「……ナメるな三下が」
そう左近が言った瞬間であった、ブライアンとダニエルの首筋に、刀の冷たい刃が当てられたのであった。
二人の首筋に刃を当てたのは、もちろん珠とパンドラである。
な、何だ?全然見えなかった……本当に人間かコイツら。
そう思いながらリュネは、腰の剣に手を、そっとかけようとした瞬間、珠の鋭い眼光で動く事が出来なかったのであった。
「い、一体いつの間に?」
思わずそう言ったブライアンであったが、左近は能面の様な無表情でそのまま話したのである。
「そう言えば、昔に我がルタイ皇国に二度も攻め込み、撃退されたバカな国があったな。
貴様達は、そこの国の者か?もしもそうなのなら、我がルタイ皇国は、まだその戦は終わっているとは思っておらん。
この場で捕虜として、貴公らの国の事を聞くが?」
そんな馬鹿な、千年以上も昔の事だぞ!無茶苦茶な理屈だ!……しかし、確かに和平交渉をしたとは聞いていないし、それならば向こうの言い分も筋が通る。
仕方がない。
そう思ったリュネは、立ち上がる事なく、その場で左近達に頭を下げて、謝罪したのであった。
「この度は、申し訳ございません。このオービン伯爵に代わり謝罪致します」
「ラヴィオ子爵、何を……」
「貴公はここに宣戦布告を、ウェンザー王国とルタイ皇国の、全面戦争を望んでおられるのか?それこそ陛下の御意向に、背く行為ですぞ」
そう言ったリュネは、女性ながらも、鬼気迫る迫力があったのである。
こう言われてはブライアンも何にも言えなくなっていたのであった。
「どうやら貴公と話をした方が宜しいようですな」
そう言った左近は、笑みを溢して言ったのであった。
それを合図に、珠とパンドラは刀を収めて、パンドラはアイテムボックスに、刀を入れたのであった。
この女も勇者!さっきの男も勇者だった……ルタイ皇国は一体何人の勇者を召し抱えているんだ?
そんな事をリュネが思っていると、扉がノックされて、執事とメイドが中に入ってきたのであった。
「紅茶をお持ちしました」
そう言ったバスティとテスタは、アイテムボックスからティーカップを取り出すと、皆の前に並べ紅茶を入れだしたのであった。
この二人も勇者だと!しかも勇者を執事とメイドにしているとは、ルタイ皇国はどう言った考えなのだ?
そんな事を思ったリュネであったが、この事態に残る二人もようやく気が付いた様であった。
「別に我が国では、勇者は珍しい者では無い。そんなに驚く程の事では無いであろう?
まぁ、話を戻して、我等には、そちらの言い分を、聞く義務も義理もないのが現状です」
「では何故交渉の席についたのでしょうか?」
「そちらが使者を出してきた。ならば、どんな内容なのか、一応は聞くでしょう」
「……この戦の落としどころは?」
「セレニティ帝国の皇帝、ルイス・セレニティの首」
「バカな!」
左近の言葉を聞いたリュネは、思わず叫んでしまったのであった。
「バカも何も、こちらは友好的に送り込んだ使者を、奇襲と言った形で攻められた。
これは宣戦布告では無いのかね?それとも大陸の流儀では、使者に数万の兵士で奇襲するのが当たり前か?」
確かに、この左近衛大将の言い分が、その通りならば、その行為は宣戦布告と受け取られても仕方がない。
しかし、何でこの人は、私達の話を聞いたのだろう……筋を通す為?いやそれならば、適当にあしらうだけになるだろう。
この会談の真意が分からない。
そう思ったリュネは、左近の真意を考えていたのであった。
(これで良かったのか、正成)
(ああ上々だ。
先ずはあの初老の男を排除しなければ、この会談を進める事が出来ない。
あの後ろの男は、既にここから逃げ出す事しか考えていない……この三人の中で一番まともなのは、あのエルフの女だけだ)
(しかし、本当にこれで大陸会議を潰す事が出来るのか?)
(出来るさ。ただし我等が悪人になる必要があるがな)
左近と正成は、正成のスキルの天話で会話しながら、この会談を進めていたのであった。
「それでは、お伺い致しますが。
大陸では、我が国が呼び掛けると、如何なる戦を中断し話し合いの為に、我が国ウェンザー王国に来なければならない。そう言った決まりがあります。
ここはそのセレニティ帝国の皇帝を、その大陸会議に参加させてはくれないでしょうか?」
「ほう、大陸会議とな……我等からすれば、逃げたければ、逃げるが良い。
ただし我等は、その途中の国々を滅ぼしてでも、セレニティ帝国皇帝の首はもらい受ける。
ちょうどそちらの御方が、我等に宣戦布告されたしな」
もしかしたら、わざとオービン伯爵を煽って、ウェンザー王国と戦争をしたいのか?……まさか!
「左近衛大将殿、貴公は戦をお望みか?」
「こちらには、そんな気は御座いませんが……ですが、売られた喧嘩は全て買う、それがルタイ皇国の流儀です。
そうそう、1つ気になっているのですが、その大陸会議の議題は何でしょうか?まぁ答えたく無ければ、こちらで調べますが」
議題……これはどうせ大陸中に広まるであろうから、隠しても仕方がないか。
「もちろん、魔族征伐で御座います」
「ほう、そうでしたか」
そう言った左近の微かな笑みを、リュネは見逃さなかったのである。
左近衛大将が今微かに笑った?何故だ?
リュネがそう考えていると、パンドラが時間を気にするかの様に、左近に言ったのであった。
「お父様、そろそろお時間かと」
「おお、もうそんな時間か。
すまないが、私はこれから所要が御座いまして、続きは暫くしてからでも宜しいでしょうか?」
「我等は、かまいません」
「そう言ってくれるとありがたい。テスタ、使者の方々を別室にご案内してくれ」
「かしこまりました、では皆様こちらへどうぞ」
そう言ったテスタは、空間転移を開いて三人を別室に案内したのであった。
「あ~疲れたぁ」
「本当にめんどくさい……とっとと殺せば良いのですよ」
「本当にパンドラの言うように、その方が楽だよなぁ……しかし正成、これで良かったのか?」
そう言った左近と珠とパンドラは、テーブルにグデっと崩れ落ちて言ったのであった。
「お前ら島家の者は、本当に性格が似すぎだろ……まぁ今回の会談は、今の所は順調だ。
以前より、この話を清興から聞いてから、頭を悩ませていたのだが、今回あのウェンザー王国の三人が来てくれた事で、一気に解決する」
「そうだったのか、俺はそこまで考えていなかったよ」
「清興、お前はその桁外れの戦術眼や武力を持っている事で、何処か楽観的な所がある、気を付けろよ。
しかし、あの三人で話が唯一話が出来る、ラヴィオ子爵を交渉の場に出す事ができ、ルタイ皇国の狙いが大陸の支配と言う、疑惑の種も蒔くことが出来た。
これで今からさりげなく、呼び出した勇者の予備役の者達を見せると、その対策で魔族への攻撃は中断し、我等の対策に乗り出さねばならなくなる。
次に奴等は、こちらと友好関係を結ぼうと使者を出してくるだろうが、評議会で対応すると、魔族がいる。
そうなると奴等は、我等が魔族と繋がっていると思い、ガルド神魔国とルタイ皇国に挟まれる事になり、動く事が出来ない。
ガルド、ルタイ両国は大陸の数ヵ国だけで、どうにかなる国では無いからな。
動く事が出来ないのならば、まさに不安定ながらの、平和が訪れるだろうが、その間に連合を磐石な物にしなければな」
「お前……頭良いな」
「清興、お前なぁ……まぁ戦術では、俺はお前の足元に及ばないが、戦略はお前には負けんよ」
「頼むぞ、相棒」
「サボるなよ相棒」
そう言った二人は、お互いに笑みを溢して言ったのであった。
―――――――――――――――
リュネ達は、テスタに部屋に案内され、三人だけになると、明らかに不機嫌そうな顔で、ブライアンが窓際に立っているリュネに対して言ったのである。
「ラヴィオ公、貴公は何故、でしゃばって謝罪した?あの場で謝罪するとは、ウェンザー王国の威厳に傷がつくではないか」
この人は…あの場のルタイ皇国の狙いに気が付いていないのか?
「これは、申し訳ございませんでした。
しかし、あの場で謝罪しなければ、ルタイ皇国の狙い通りに事が運ぶと思いまして」
「何?貴公はその狙いに気が付いたのか?」
「はい、ルタイ皇国はウェンザー王国との戦争を……いえ、この大陸の制覇を狙っております」
「なっ!……そんな事はありえん!我が国は、ウェンザー超帝国の正統なる系譜を受け継ぐ国であるぞ、誰がその様に高貴なる国を攻めると言うのだ、信じられん」
この人は、本当にそんな事を思っているのか?愚かすぎる。
「他の国はそうでしょうが、ルタイ皇国は違います。
あの、超帝国に一度も降伏していないばかりか、二度の超帝国の遠征も全て撃退しております。
彼等からすれば、我々は魔族と同じ不倶戴天の敵です……言い方は悪いですが、オービン伯爵も魔族にひれ伏す様に言われれば、バカにされたと思い、その者の言う事を聞かずに殺すでしょう。
しかし、あの左近衛大将は、オービン伯爵を殺さずに我慢しました、我々と戦争をする為にね」
「…そんな事が……いや、そんな事は、あって良いはずが無い」
ダメだ、この人は全く現実が見えていない……なんだあれ?……まさか!
そう思いながらも、ふと外にリュネが目を移すと、広場に空間転移の煙が無数に見えたのであった。
「伯爵、子爵!あれを!」
リュネにそう言われて、外を見た三人が見たものは、空間転移で広場にやって来た、勇者の予備役の者達であった。
「あ、あれは、まさかとは思うが、空間転移では……あの数は、軽く5百人以上もいるぞ……」
そのブライアンの言葉に、リュネは、ある事に気が付いたのであった。
そうだ、あの左近衛大将は、「勇者は、そんなに珍しい者では無い」と言っていた。
と、言うことは、かなりの数の勇者がルタイ皇国にいると見て良いだろう。
最悪、数万の勇者がいるかもしれない……あの左近衛大将は、我々が勇者を重視していて、それで戦の優劣を決めると見て。
更に、ウェンザー王国には、三人しか勇者はいないと知って、これは勝ったと思ったのだろう。
ご丁寧に、伯爵が全てばらしてくれたわけだ。
この重大な事に伯爵は、気が付いているのだろうか?
……聞いてみるか。
「伯爵、もしかして勇者はルタイ皇国では、当たり前にいる存在なのでは?
それだと、あの超帝国の二度の敗戦も、納得が出来ます」
「バカな…何かの間違いだ、こんな事はありえる訳がない……そうだ、これは何かのトリックに違いない」
ダメだ、完全に現実逃避してしまっている。
そう思ったリュネが、諦めかけたその時であった、今まで無言であったダニエルが言ったのであった。
「伯爵、今までそう言って我等に殺された者が、どれほど居たか……伯爵は今までの我等に殺された者の様になるおつもりですか?」
ラフォンド子爵…そうか、この人は逃げる事や、生き残る事に関しては、能力が高い。
と、言うことは、物事を冷静に見詰める事が出来るって事だ、これは意外に頼りになるかもしれない。
「そうです伯爵、今ここで道を誤れば、彼等が牙をむいて大陸中の国々に襲い掛かってきます」
しかし、リュネの声はブライアンには届かない様であった。
それを見たダニエルは、リュネに話しかけたのであった。
「ラヴィオ子爵、伯爵は今具合が悪い様だ、すまないが交渉は頼めるか?」
「ああ…貴公はどうされる?」
「このまま本国に戻り、ありのままを陛下に伝える。
貴公はこのまま、何とか戦争を回避してくれ」
「分かった。
だが戻るのは、左近衛大将に一度挨拶をしてからが良いだろう。
ルタイ皇国の風習は、分からないが、もしもそれが戦争を、起こすほどの侮辱だとすればマズイ」
「それもそうだな」
そう言って暫くすると扉がノックされて、テスタが入ってきたのであった。
「お待たせ致しました、御館様がお待ちです」
「分かったが、伯爵が少々具合が悪いので、このまま置いて我等二人だけでも宜しいか?」
「もちろんで御座います。ではどうぞ」
そう言ったテスタは、空間転移で二人を左近の元に連れて行ったのであった。
リュネ達が左近の元に向かうと、左近は何もなかったかの様にリュネ達を出迎えたのであった。
「お待たせ致しました、あれ?伯爵殿が居られぬ様ですが」
「その事なのですが、伯爵は具合が悪い様ですので、こちらのラフォンド子爵と一緒に、一度本国に戻っても宜しいでしょうか?
交渉は私が行いますので」
「ああ、かまわんよ」
左近がそう言うと、ダニエルは左近達に一礼し、空間転移で出ていったのであった。
「さてと、交渉の再開をしますかな?」
今、左近衛大将は交渉の再開と言った。
と言うことは、この交渉に落としどころが有ると言う事だ。
ただし、その落としどころは、ウェンザー王国からの、宣戦布告の言葉を引き出す事かも知れないが……しまった、ここは私一人になるんじゃ無かった。
証人が、全員ルタイ人のこれでは、話をでっち上げられれば、言い訳が出来ない……出だしから失敗した。
しかし、最悪セレニティ帝国を見棄ててでもウェンザー王国を守らねば。
そう思いながら、リュネが切り出したのであった。
「左近衛大将殿、ルタイ皇国はセレニティ帝国を滅ぼしたとして、帝国の領土を統治されるおつもりですか?」
「領土を統治か……統治するのは、このヴァルキア地方だけだ。
……そうだな、ここいらで我等の考えている、落とし所を教えよう。
今の皇帝のルイス・セレニティは死罪にし、代わりに叔父のラニス公を新しく皇帝にする。それがルタイ皇国の考えている落とし所だ」
そうか、ルタイ皇国は大陸の全土を領土とする事はしない、そんな事をすれば、永遠に続く内戦が起こる可能性が有る。
それよりは、現実的に傀儡のトップを立てれば統治はやり易い……考えたな。
だが、いくらルタイ皇国でも、今は我が国と反目は避けたいだろう、そこを突くか。
「今ルイス皇帝を大陸会議に出席させない事は、IDCUがダンジョン攻略に、冒険者を出さないと言った報復措置を取るかもしれません、もちろんルタイ皇国の友好国にもね。
これは流石に、大陸に領土を持とうとする、ルタイ皇国とその友好国には、マズイ事になるのでは?
それより、停戦して、帝国のルイス皇帝を大陸会議に出席させ、我等と友好関係を築いた方が、ルタイ皇国としては、得策では御座いませんか?」
「それは、脅しか?」
「脅しでは御座いません、事実を言っているのです。
IDCUは、ボランティアの組織では御座いません、各国が資金を出しあって運営しております。
その中には、色々な制約があり、この大陸会議もその制約の1つになるのです……それを破るとなると、報復措置を取られるのは、当たり前でしょう」
その言葉に左近は、暫く何かを考えて言ったのであった。
「それでは、我等は新しく枠組みを作り、友好国を助けるとしよう」
「そんなバカな!では、ルタイ皇国は我等と、敵対すると言うのですか?」
「敵対では無いし、もちろんこれは宣戦布告でも無い。
我等は、貴公達のウェンザー王国の下には、つかないと言う事だ……無いなら作れば良い、ただそれだけの話だ」
これはもしかして、ルタイ皇国は自ら宣戦布告は、したくは無いのでは?
それが彼等がのやり方とするなら、まだ道はある。
「分かりました、今後はおそらくIDCUからの援助は貰えない物と考えて下さい。
誤解の無い様に言っておきますが、これは先程も言いました様に、各国が資金を出しあって決めた、決め事ですので、決してウェンザー王国からの、宣戦布告では御座いません」
「了承した」
「では、こちらとしても、ルタイ皇国のお気持ちが、変わる事が無いのならば、この交渉は決裂と言った形になりますが宜しいか?」
「問題ない」
「それでは最後に、ルタイ皇国は、我が国との友好関係を築くと言う事は、有り得るでしょうか?」
「それは、無いな。
まず第一に、ウェンザー王国は超帝国の正統な後継国と言っている。
これは、我が国からして不倶戴天の敵であると言う事だ、魔族よりもな。
第二に、あの伯爵の態度からして、どうも我が国を、何処かの属国と勘違いしている様だ、そんな国とは友好関係を築く気にはなれない」
「では、今後は交渉の余地すら無いと?」
「交渉の窓口は、いつでも開いている……だが、今後ウェンザー王国が、我が国に命令するのなら、宣戦布告と見なして、お相手いたそう」
そう言った左近は、とても冷たい目をしていたのであった。
帝国を見棄てる事になったが、とりあえずは、ルタイ皇国との戦争は避けれたと言う事で、今は満足しておくか。
しかしルタイ皇国は、今の所は平和的にやっているが、いつウェンザー王国に牙を剥くかも知れない……今後は情報収集は、絶対必要だ。
そう思いながら、リュネは左近達に言ったのであった。
「では、今回の帝国の件は、そちらの言う通りにしましょう。
ただ、我等ウェンザー王国はルタイ皇国との戦を望んではおりません、その事は分かって頂きたい」
「…そちらの国王の真意は分からんが、貴公はどうやらその様だな。
戦を始めない様に、貴公は国王を説得出来るのか?」
「やります。その代償として、我等と交渉は今後もやって頂きたい」
「良いだろう……ただしこちらも条件がある。今後は貴公が交渉の使者として来てくれ、あの伯爵の様な者では、話にならない」
「分かりました。個人的な意見ですが、私もその方が良いと思います。
では失礼します」
そう言ったリュネは、ニコリと左近に笑顔を向けて頭を下げ、言ったのであった。
「ああ達者でな。今日は有意義な会談であったぞ」
左近がそう言うと、リュネは正成達にも頭を下げて空間転移で戻って行ったのであった。
リュネが、移動した後の空間を見詰めて、左近はポツリと呟いた。
「成功だな正成」
「ああ、だがこれで少々問題が出てきたぞ」
「…空間転移の事か?」
「そうだ、あの三人がここに空間転移で、刺客を送って来ない保障が全く無い。
何か早急に手を打たないと危険だ」
「ああ、これは今後の課題だな」
そう言った左近は、何かを考えて言ったのであった。
――――――――――――
左近達の会談の数日後、ルタイ皇国軍は帝都ナリヤを包囲していた。
何とか恐怖で民衆を押さえ付けていたルイスであったが、最早それも限界にきているのを、感じていたのである。
俺はここで死ぬのか?何でこうなった?
それに、ウェンザーの勇者達は一体何をしている?まさか俺は、見棄てられたのか?
そう思いながら、一人で玉座に座っているルイスであったが、最早彼には打つ手が無かったのであった。
結局、俺は一人で死んでいくのか……いや、俺は一人では死なんぞ、どうせなら、あいつを道連れに死んでやる。
そうだ、こうなった全ての元凶である、島 左近衛大将 清興……あいつだけは道連れにしてやる。
だが、もう兵達は俺の言う事を聞くのか怪しいし、下手すりゃ民に殺されかねん……そうだ、母上が昔言っていた。
ルタイ皇国の侍は、一騎討ちに応じなければ、恥だと思う所があると。
これを利用してやる。
そう思ったルイスは、玉座から立ち上がると、自分の鎧等を持って来る様に、叫んだのであった。




