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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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転生者

 


 アイリスとアニーを左近衛府に連れてきた左近は、そのまま通信兵に、ママとダッチとマーティとヒメネスの四人を左近衛府に召集するように命令したのであった。

 もちろんこれは、レイクシティの開発事業を、前倒しで行う為であったからである。


 次の日の朝、配下を引き連れて、彼等はやって来た……しかし、マーティ以外は、何処からどう見てもマフィアである。

 俺…何だか不安になってきた。

 そんな事を思いながら、彼等を会議室に集めると……何だここ?ヤクザの事務所見たいじゃねえか、頼むから、ここで抗争だけはしないでくれよ。

 そう左近が思っていると、会議室の扉が開いて、左近の頼もしい援軍が入って来たのであった。

 そう対ママ用の最終決戦兵器のパンドラと、対ヒメネス用の最終決戦兵器のエリアスである。

 このガチのマフィアの二人を、何とか大人しくさせるかどうかに、ここで抗争事件が、始まるかどうかがかかって、いたのであったからだ。


「姫さん何で?」


「さぁ?私はお父様に呼ばれて来ただけですから、何故でしょう?」

 思わず言ったママに対して、パンドラも意味が解らないと言った様に言ったのである。


 こうしてレイクシティ開発事業の話し合いが、幕幕を開けたのであった。

「えーとりあえず、自己紹介から始めましょうか」


「おい左近よ、今更、自己紹介なんて良いじゃねえか。

 それよりは、何でグレゴール商会の会頭と、ガストン商会の若頭がこんな所にいるんだよ?」


 ママの言う事は、解る。ここで大手のグレゴール商会とガストン商会が来たら儲けを、全部取られると思うからな。

「この二つの商会は、ママの所とダッチの所のサポートだ。

 メインでやっていくにしても、ママの所やダッチの所は、ナッソーの復興工事も受け持っているはずだ。

 さすがに全部は無理だろう」


 左近がそう言うと、ダッチが手を上げて発言してきた。

「大将よ、俺の所は、ナッソーの復興事業に加えて、私掠免状の発行やら、その盗品の売買で、人手が足りない状態だ。

 出来れば、グレゴール、ガストンの商会に、開発権を売っても良い」


 確かに、そんなに大きくないダッチの所は、仕事の量に対して、人が少ないからな……でも権利を売るってちゃっかりしてやがる。

「解った、その権利をグレゴール商会が、20万シリングで買おう」


「ウチはそんなに出せませんや」

 そう言ったヒメネスは、まさにお手上げと言ったポーズで言ったのであった。


「よし、売った。ただし即金でだが良いか?」


「…解った。おい」

 そう言ってマーティが後ろの男に言うと、男はアイテムボックスから袋を取り出し、ダッチの前に積み上げたのであった。


「これで良いか?確認してくれ」


 流石はセブンス連邦の7人の大商人の一人だよな、大金を即金で支払うとは。

 そう思っている左近には、ママが面白く無い様な顔をしているのが目についたのであった。


 そう言えばママの所はナッソーの他に、ザルツ王国のレンヌ等の事業も請け負っているって、スターク公が言っていたな。

 ママの所も、容量オーバーだろうに。完全にダッチに、出し抜かれたって感じだよな……ここは助け船を出すか。

「ママ、どうだろうか、ここは建物の建築を彼等に任せてみるってのは?」


「おいコラ左近よ、私をなめているのか?」

 そう言ったママは、脚をテーブルにのせて、左近を睨み付けたのであった。


「少し誤解があるな。建物は、って事だ」


 建物は?これには何か裏が有りそうだね。

「……詳しく聞こうか?」


「建物はグレゴール、ガストールの両商会に任せて、ここで退く代替え案として、新しい商売をしないかって事だよ。

 例えば、一般区の不動産屋を経営してみるとか」


「不動産屋?なんだそれ?」


「レイクシティの一般区は、大きいと言っても、土地には限りがある。

 だから、ママの所で管理して、ここに住もうって奴に売るんだよ。

 もちろんルタイ皇国の言う値段に、手数料を上乗せして売ってもらっても、かまわないし、そこに建物を建てて、店や人を住ませて、何日か毎に家賃…つまりは、そこで住む事や店を出して商売する為の料金だな。

 それを取ってもらっても良い。

 そして軍属区には、大きな貸倉庫を作って、大口の商人の品物を置く、預り屋…そこの運営も、ママの所に任せようと思うが、これでどうだろうか?」


 なるほど、左近の奴め、目先の利益にとらわれて、一時の金を手にするより、その先にある大物を私にくれるって訳だね。

 って事は、こちらの内情も知られているって事か。

 そう思ったママは、葉巻に火をつけて、フゥっと煙を吐いて言ったのであった。

「ヒメネスさん、あんたの所は権利を買うのにいくら出せる?

 これはメンツの問題だ、タダであんたの所に譲ったとあっては、私達もナメられるからね」


「……解った。5万シリングでどうだろう?」


「しょうがないね、その値段で良いだろう。

 おいハンザ、お前がここレイクシティの責任者でやりな、私はナッソーで、この戦争が終わったらのんびり暮らす事にするよ」


「え?ママ引退するんで?」


「バカ野郎、私はまだまだ引退はしないよ……でも今後はあんたが表に立って、ウチを仕切るんだ」


「解りました」

 そう言ったハンザは、複雑な顔をしていたのであった。


 こうして会議は、資材等はグレゴール商会が、人足等はガストン商会が担当する事になり、ママの所はハンザ商会と名前を変更し、レイクシティで不動産業や娼婦やカジノの管理も、担当する事になったのである。





 そして、その日の夕方に、左近達の元に関白がやって来たのであった。

 ラナが頼んでいた、例のカウンセラーの件であるが、偶然にも遊びに来ていたフレイアに聞かれ、彼女も同伴する事になったのであった。

 もちろんアイリスには、ルタイ皇国の医者に見てもらうと言って、連れてきたのである。


 こうして俺とアイリスとラナと関白とフレイアの5人は、ルタイ皇国の関白邸に空間転移したのであったが空間転移を出てみると、辺りは夜中で、既に静まり返っており、既にルタイ皇国は夜中であった。

 そんな夜中の来訪でも、関白の妻の明里は、一行を暖かく迎え入れ、ラナを残して俺達は関白邸の離れに向かったのであった。


 何故フレイアを連れてきたのかと言うと、本人が無理矢理来た事もあったが、フレイアはこれでも魔術やスキルに詳しい。

 何かアイリスに変な事を、されない様にする監視の様な存在にするためだった。


 俺達が関白邸の離れに近付くまで、明里さん以外の人はいなかった。

 これは何か変だ、普通に考えると、夜中とは言え関白邸なのだから、護衛の者や誰か使用人がいるはずなのに、誰もいない。

 俺の気持ちを察したのか、フレイアも俺に目で合図をして辺りを警戒していたのであった。


 天眼で確認すると、屋敷の回りに護衛の侍が、取り囲む様にいるのだが、屋敷の内部には離れに、1人居るだけで、他は明里さんとラナだけである……これは明らかに変だ。

 俺の不安が伝わったのか、関白がやっと口を開いたのであった。

「左大将、心配するな。これから会う人は、誰かに見られては、ならん御方なのだ」


 そう言って関白が襖を開けると、中には1人の僧侶の様な青年が座っていたのであった。

 誰だ?そう思いながら、ふとその僧侶の手を見た時であった、何処かで見た様な、覚えがある手であった。


 その時である、俺は初めてルタイ皇国に来た時の、内裏での光景を、ふと思い出したのであった。

 まさか、帝!

 そう思った時にフレイアが、ソッと手を俺の手の上に乗せて来たのであった。


 やはり帝か!フレイアは俺に触れる事で、特技解除(スキルキャンセラー)を発動させて、俺を守っているんだ。

 そう思った左近は、本人になぜいるのか、聞いてみる事にしたのであった。

「陛下……何故ここに?」


 その言葉を言った時に、アイリスは驚き、関白は何かを言おうとして、帝に制されていたのであった。

「よく解りましたね左大将、私は隼人のお腹の子供を調べに来たのですよ。

 これでも医術に関しては、この世で一番ですので」


 嘘だ、これは帝の嘘だ……解ったぞ、帝は王の系譜ってスキルを持っている。

 これは、そのスキルを持っている者の言葉等を、信じ込ませるスキルだ。

 って事は、関白はこのスキルの存在を知っていて、このスキルでアイリスの心を、落ち着かせるつもりなんだ。

 そう思っていると、帝はアイリスに近付いて言ったのであった。

「隼人、少しお腹を触ってもよろしいかな?」


「あ、はい、どうぞ陛下」

 アイリスはこの状況に動揺しながらも、了承してお腹を出したのである。


 帝は静かにソッと手をアイリスのお腹に当てると、暫く目を瞑って、そして言ったのであった。

「これは、間違いなく、左大将と隼人の子供だな……心配ないぞ隼人、この子はルタイ人の血をしっかりと受け継いでおる、元気な子供じゃ」


「ありがとう御座います、ありがとう御座います」

 そう言ってアイリスは何度も頭を下げた。


 これは、帝のスキルが効いているのか?そう思った時であった。左近達は帝がアイリスの記憶の書き換えをするのを目撃するのである。

「気にするな、お前達の子供はルタイ皇国の未来である。所でアイリスよ、左大将と出会う経緯を聞いても良いか?」


「そ、それは……」


「どうしたアイリスよ。確かに辛かったであろうが、私に話せぬ事は無かろう?」


「それもそうですね。私の父のエリアス・ノイマンは、帝国を裏切ったとの濡れ衣を着せられて、私は帝国の兵に捕らえられ……」

「何を言っておる。お前は帝国の兵から、何とか逃げ出せたではないか」


「そうでした、逃げ出せました。それで私は奴隷になり、レンヌに輸送中に盗賊に襲われて、旦那様に助けられ、私は旦那様の奴隷となり、一緒にレンヌまで行ったのです……」

「それは、違うだろ?お前は何とか逃げ出して、父がレンヌに居るかもしれないと思い、向かったのだが、途中で盗賊に襲われて、そこで清興に助けられたのであろう。

 そこで一目惚れをした隼人は、一緒に清興とレンヌまで旅をしたはずだ」


「そうでした、旦那様と一緒にレンヌまで行き、そこの宿屋で初めて結ばれ、そこからナッソーに行く途中にラナに出会いラナが奴隷となって、その後に旦那様がラナと私に、自分の姓を与えて結婚する事に……あれ?何で?」

「何を勘違いしておる、ラナと結婚するのなら、私とも結婚してくれと、清興に惚れていたお主が、清興に詰め寄って、結婚したのであろう」


「そうでした、すみません勘違いでした」


「解れば良いのじゃ」


 す、すげえ。完全に記憶の書き換えに成功した。

 あれ、でもこれだと、アイリスの押し掛け女房って話が出来上がってないか?……まぁ良いだろう。

 そう左近が思っていると、帝は関白とアイリスに言ったのである。

「関白よ、すまんが左大将と二人で話を……そうか、三人で話をさせてはくれんか?隼人を連れて、出ていってくれ。

 そうだ隼人よ、何か困った事があれば…例えば左大将の女癖の悪さとかあれば言って参れ。

 いつでも私が叱ってくれよう」


「ありがとう御座います」

 そう言ったアイリスは、ペコリと帝に頭を下げて、離れから出ていったのであった。


 おい、最後に余計な事を付け加えるなよ!

 そう左近が思いながらも、帝に話しかけたのであった。

「陛下……この度は本当にありがとうございました」

 そう言った左近は、これで帝には返しきれない程の恩が出来たと感じ、頭を下げた。


「よい…役職では無く、名前で呼び、あの出来事の元を書き換えたので、残る細かい事は、隼人の頭が勝手に都合よく辻褄を合わせるであろう。

 だが注意しろ、この事を知る者に証拠などを見せられて、追及されると混乱し、記憶が戻る可能性がある。

 ……この世の全ての者は助ける事は、仏でも無理だが目に写る者は、私でも助ける事が出来る。

 こんな考えが、この世に広まれば、皆が幸せになるのだがの……」

 そう言った帝は、どこか遠くを見詰めて言ったのであった。


「所で左大将よ、そちらの御方は、もしや魔王陛下ではないか?」


「せや、ウチはガルド神魔国の魔王フレイアや……どうする、ここで戦うか?」

 おい、フレイアよ!敵意丸出しだろうが!


「確か我が国と、ガルド神魔国は友好国になったはずでは?フレイア魔王陛下」


「……せやったな。それにあんたは、清興とアイリスの恩人やし、フレイアって呼び捨てでええよ」


「では、私も本名の御幸町で良いですよ」


「宜しくな、コウ」

 いきなりあだ名かよ……この会談、心臓に悪すぎる。


「何だか親しみが湧いてきますね。

 所でフレイア、貴女はこの国の生まれですか?どうも貴女の方言は……懐かしいので」


「ちゃうよ、ウチがこっちで生まれたのは、暗いダンジョンの中や……」


「そうですか、辛い事を聞きましたね……しかし、こっちで生まれたですか……。

 1つ変な事を聞きすが、貴女は仏様に会った事が有りますか?」


「仏?神様とちゃうの?神様なら……コウ、何が言いたい?」

 そう言ったフレイアは、明らかに警戒している様であった。


「少し変な事を言いますが……私は、貴女の「こっちで生まれた」と言う言葉にどうも引っ掛かりまして……そして貴女の方言。

 もしかして貴女は、前世の記憶があるのでは?」


「……コウ、その言い方やと、あんたも同じ様やな?」


「も?…と言う事は、どうやら二人は…いえ、三人は同じ様ですね」


「え?」

 帝の言葉に何故かフレイアが反応した。


「何だよ、お前知らなかったの?」


「だってウチは、神さんに紹介されて浮かれてたし……」

 そう言ったフレイアは、何故か頬を赤くしモジモジとして言ったのであった。


「何か深い訳が有りそうですね……良かったら、話してはくれませんか?」


「その前に、コウあんたは何者や?」

 そう言ったフレイアの言葉に、帝は暫く目を瞑り、やがて自らの事を話し出したのであった。


「……何から話しましょうか。

 私の前世……正確には少し違いますが、私はとある目的の為に、この世界に転生致しましたが、その魂全てが転生するのでは無く、一部のみの、とても不安定なもので、あったのです。

 なので、私はこのスキルと、ルタイ皇国全体に張られている結界によって、私は何とか生きる事ができます」


「とある目的って何や?」


「……ここからは、世界の理に関わる事ですので、他言無用で御願いします。

 ルタイ皇国が、何故今回の戦の様に、お金を湯水の様に使えたか……答えは、ルタイ皇国には、この世界のお金を製造しているからです……」


 この帝の話は、確かにこの世界の理に関わる事であった。

 この世界の通貨シリングは、ルタイ皇国が製造し、大陸に送っているらしい……いや、送ると言うか、隠れて船で大陸に行って、棄てて来ている事だと言う。

 その結果、必然に大陸の東の国には、モンスターが多くなるが、討伐し手に入るお金も多くなり、資金は潤沢になると言った効果を出していたのであった。


 しかし、ルタイ皇国の国内情勢は、長い戦乱によって疲弊し、その通貨製造に、影響を及ぼす様になってきた為に、帝が神の命により、この世界に転生し、戦乱を鎮めたのだ。

 だが平和になった事により、ルタイ皇国の人口が増え、更には天候不順が続いた為に、飢饉が起こり、今回の開国に踏み切ったのだと言う。


「その話は、確かにコウの言う通り、この世界の理に関わる事や。

 でもな、何で一部の魂しか転生出来なかったんや?その理由は、解るか?」


「それは、私のいた場所が関係するのでしょう。私が入定したのは、高野ですので」


「入定って何やねん?」


 やはりフレイアは知らんよな……しかし、俺は全て解った。

「フレイア、入定とは真言密教の修行の1つだ。修行と言っても即身仏だがな」


「真言密教?即身仏?なにそれ?」

 左近の言葉にフレイアの頭の上には、クエスチョンマークが大量に出ていたのであった。


「真言密教ってのは真言宗の事で、即身仏ってのは、簡単に言うと土の中で、飲まず食わずで永遠にお経を唱える修行だ」


「そんなん死ぬやん……」


「ああそうだな、俺達から見ればそうなんだが……だが、高野山で入定したのは、俺は1人しか知らない。

 弘法大師 空海…まさか陛下は……」


「その通りです。左大将、貴方はもしや前世は同族ですか?」


「同族ですね、私は一度あの国の未来に転生し、そこからこの世界に来ました。

 名前はそのままの、島 清興です」


「ウチの本名は、中谷 真由や、大阪の堺に住んでいた女子中学生やで。

 所で清興は、知っている見たいやけど、弘法大師 空海って誰?」


「左大将、大阪とは何処ですか?大坂の近くですか?」


 そうか、地名もかなり変わっているから仕方がないけど、同時に質問は止めて欲しい。

「陛下は、解らないのは仕方がないにしても、フレイアお前は単なる勉強不足だ、日本史を勉強していれば出てくる人だぞ」


「ウチは、そんなに日本史に詳しくないから、解るわけ無いやん」


「日本史……左大将、これは貴方が情報を精査して、わかりやすく私とフレイアに教えて下さい」


「承知致しました……」

 こうして俺は、理解していない二人に、どうなっているのか、説明し出したのである。

 この三人のいた時代は違う事等を、左近は解りやすく丁寧に話し出したのであった。


 その説明を聞いていた帝は、一筋の涙を流し、千年以上も自分のいた国が続いていたなんてと感動し、それを見たフレイアが慰めると言った、何とも複雑な光景を、左近は見ていたのだが、ここでふと帝が左近に向かって言ったのであった。

「これで三人の経緯が解った訳ですが、左大将…貴方はこのまま本名と言うのは、少々具合が悪く有りませんか?」


「どうしてですか?」


「もしも、私達の他に転生者がいて、貴方の事を知っており、その事を利用されたら……そして、その者が我等に仇なす者で、あった場合の危険性が……」


「それは確かにそうですね。しかし、既に島の名前も有名になってしまいましたし、今更変更なんて……」


「ではこうしましょう。左大将の今までの功績に、私から新たに苗字を授ける形にすれば、大丈夫ではないでしょうか?」


「それもそうですね」


「そうですね……桜、では芸がない……佐倉ではどうでしょうか?」


 佐倉か…画数が島より多くて、書くのはめんどくさそうだが、これで良いか。

 しかし、左近の桜に右近の橘、御所の内裏の内庭に、植えられているあれと、かけたな。

 そう思いながら、左近はその帝の案に賛成し、フレイアと帝の話は、明け方迄、盛り上がって行くのであった。






 左近達三人が離れで盛り上がっている頃、ラナと明里の元に関白とアイリスが戻ってきた。

 ラナは、戻ってきたアイリスの表情が、まるで憑き物が取れた様に明るくなっているのを見て、計画は成功したのだと実感していたのであった。


「ねえねえ、ラナ私すごい人から旦那様の浮気を、叱ってもらえる約束をしてもらえたの」

 そう言ってアイリスは、目をキラキラさせてラナに言って来たのであった。


「隼人、あまりこの事は、他の者に……」

「あなた、少しこの二人にお話が有りますので、席を外しては、もらえませんか?」


「い、いやワシはだな……」

「あなた!」


「はい…ワシ、除け者にされてるみたい……」

「なに?」


「す、すみません!」

 明里に睨まれて、関白は逃げる様に、部屋から出ていってのであった。


「さてと…アイリス、ラナ、貴女達に質問が有ります、左大将は女癖が悪いのですか?」

 その明里の真っ直ぐな目に、二人は頷くしか無かった。


「何で冷泉家の女は、こうも女癖の悪い男に引っ掛かるのでしょう。まさかラナに迄、その様な事が……これはもう呪いですね」

 そう言った明里は、思わず落胆していたのであった。


「で、では関白様も女癖が?」

 そう言ってアイリスは、明里に詰め寄ったのであった。


「ええ、私達は珍しい事に恋愛結婚でした……ですが結婚してから、出るわ出るわ、あの人の悪行の数々。

 しかし、私の義母様…つまりは、ラナのお祖母様ですね。その御方からある事を引き継ぎ、その悪行が無くなりました。

 それをラナにも引き継ぎましょう……それは、忍です」


「でも明里さん、忍びって諜報活動とかする、ルタイ皇国の人じゃないの?」


「明里さんでは無く、お母さんですよラナ。

 実は冷泉家の男性は代々女癖が悪くて、冷泉家の女性はその為、何度も泣かされて来ました。

 ですが、何代か前の冷泉家の奥方が、忍びを使い、その女癖を正す事に成功し、そこから我等に受け継がれて参りました。その者達を貴女に授けます。

 そしてもしも今後、貴女達に女の子が生まれて、また女癖の悪い男に捕まったら、この忍の一族を、その子達に引き継いで下さいね」


『はい』


「良い答えでです。アイリス、私は貴女も自分の娘の様に思っていますよ、これからはラナと同じく、いつでも家に遊びに来て下さいね」


「ありがとう御座います」


「何だか話が湿っぽくなりましたね、では後日に左近衛府に忍を送るとして、今日は男抜きで盛り上がりましょうか」

 そう笑顔で言った明里は、三人で夫の悪口で盛り上がったのであった。






 そしてその数日後、左近衛府には左少将とヒメネス、そして兼平とカリシアがやって来たのであった。


 これは、秘書を雇わないと、今後こう言った具合にブッキングする事が出るだろうな。

 左近は、そんな事を考えながら、ヒメネスの話を聞いていた。


 どうやら内応工作が成功し、リットール城迄は、戦も無くそのまま進める様だ。

 更にそのリットール城は、集結地点のランダ平原迄、1日と言う近さらしい。

 天眼で確認した所、弾正府軍は話にならないが、右近衛府軍はこの流れから言って、俺達がリットール城に到着して約3日後日には、平原に到着するであろう。

 流石は正成って所か。


 俺は、左少将にラニス公と一緒に進軍を開始して、リットール城迄、兵を進める様に指示を出して、兼平との話に移った。


 こっちは、幾つかの図面と完成図予想の絵を持ってきた。

 何だか、現代の家を建てる時の、プレゼンの様だなと考えながらその絵を見ていると、その中で1つの絵が俺の中のイメージにピッタリであった。

 言うなれば、旧三井家の下鴨別邸の様な、明治建築を代表する様な三階建てで、三階部分は六角形の展望台の様になっている建築物であった。


「兼平、これにする」


「え?これですか?」


「何だ、不満か?」


「これ、実はカリシアが設計した物ですので……」


 マジかよ、カリシアって設計の才能もあるのかよ。

「カリシア、頼めるか?」


「え?え?……自分で良いんスか?でもこれ図面は無いッスよ」


「そこは、兼平にアドバイスを受けろ。

 こちらからの要望は、露天風呂はそのままか、もう少し大きくしてくれ。

 それからこの木は桜と言ってな、この木の花が咲く時に、花の下で皆で酒を飲みたい。その様にしてくれ。

 それとこの一番上の展望台の様な所は、俺の寝室にしたいので、その様に頼む。

 あと、一階に囲炉裏の間は必ず作ってくれ、俺は彼処が一番居心地が良いんだ……出来るか?」


 カリシアは、俺の言った事を全てメモをし、その紙を見て言ったのであった。

「ん~、御館様の言っている事が半分もわかんねえッス……今度、現物を見ても良いッスか?」


「そうだな、今は俺達は殆どこの左近衛府に来ているから、いつでも兼平と一緒に見に来て良いぞ。

 それと兼平は、壁とか門とかを頼むよ」


「ありがとう御座います」

 そう言ってカリシアは、お礼を言ったのだが、兼平は何やら頭をボリボリと書いて、カリシアの書いた、完成予想図を見ていたのであった。


「どうした兼平、難しいか?」


「いや、これだと正直ナッソーのヨラム達じゃ、難しいと思いまして……本国から職人を連れて来ても宜しいでしょうか?」


「良いけど、あてはあるのか?」


「確か、美濃の国に、腕の良い大工がいたはずです」


「そうか、頼むよ出来れば何れ程かかるのか、見積りを出してくれると助かる」


「解りました、それも何とか近日中に出しましょう」

 こうして、左近の邸宅の改装工事は、カリシアを中心として走り出したのであった。




 その頃、左近の指示を受けた左少将とヒメネスが廊下を歩いていると、二人の後ろから左少将を呼ぶ声があったのである。

「信!おい信!」


 二人が振り返ると、そこには左少将と同年代の甲冑を着た男性が、近付いてきており、それを見た左少将は何処か複雑な表情をしていたのであった。

「業重……」

 この業重と言う男は、あの左少将が慕っており、アミリアに討ち取られた上条 業政の息子であり、左少将とは、兄弟同然に育ってきた男であった。


 複雑な表情をしていた左少将とは対照的に、業重はその明るい表情で、左少将の肩をパンパンと叩き言ったのである。

「久しぶりだな、元気してたか?そう言えば親父が、お前の隊に配属されたけど、ちゃんと仕事をしているか?あの親父だったら絶対にサボるから、見張っておかなければ……信、どうした?」


「いや…そのな……」


 その言いにくそうな左少将の態度を見たヒメネスは、何かを感じたのか、左少将に言った。

「三好様、先程の左近衛大将様のご命令は、私が一足先にケイングストンに戻り、家長様にお伝えしておきますので、どうぞごゆっくり」

 そう言ったヒメネスは、左少将と業重に一礼して、先に行ってしまったのであった。



「何だよお役目の途中だったのか…それは、すまない事をしたな」

 そう言って業重は、ばつの悪そうな顔をしたのであった。


「いや、いいさ…俺もちょうどお前に話があった……少し場所を変えるか」

 そう言った左少将は、業重を連れて、森の庭園に向かって行ったのであった。



 無言で二人は、森の庭園に入り暫く歩いていると、後ろから業重が唐突に言ったのである。

「そうか、親父は死んだか……」


 その一言で、左少将は心臓を鷲掴みされた様な感覚におちいったのである。

「どうして?」

 左少将は、その言葉から先が出なかった。

 それは、振り返るとそこには、目に涙をためながら、必死で笑顔でいようとする業重が居たからであった。


「どうしても何も、お前は昔から言いにくい事は、必ず人の少ない所で、こうやって俺に話してきただろ?

 って事は、この場合は親父が討ち死にしたって事だ……親父は、三好の侍らしく散ったか?」


「……あぁ、僅か10名で3千相手に戦い、最後は立ったまま息を引き取った様だ」


「あの親父らしくない……でもそれが最後って、誇りに思うよ。

 信にも辛い思いをさせたな」


「そんな事は……」

「いや、お前の顔のその傷を見たら解るよ……敵は誰だ?」


「セレニティ帝国の魔女騎士団(ナイトウィッチーズ)の騎士団アミリア・マクレガー団長。

 しかし、このアミリアは既に、こちらに降っていて、左近衛大将様が保護されている……悔しいが……」


「あークソ!……それなら、諦めるしかないか」

 そう言った業重は、近くの木を思いっきり殴って言ったのであった。


「……すまない」


「何でお前が謝るんだよ。

 確かに、ムカつくさ……でもな、昔は誰が誰を討ち取ったって、普通の話だったじゃないか。

 でもこの戦が終わったら、せめて供養塔は建ててやりたいな」


「……そうだな」


 そう言って、左少将は下を向いて表情を暗くしていたのであったが、業重は左少将の肩を組むと、その暗い気持ちを、吹き飛ばす様に言ったのであった。

「所で信よ、お前は左大将の姫様を見た事があるか?」


「珠様の事か?」


「違うって、妹君の方だよ」


 まさか、狙っているのか?こいつ昔から、女に手を出すのは、早かった……いや流石に業重でも、左大将様の姫様に手を出す愚行はしないだろう。

「どうしてだ?」


「どうしてって、左近衛府ではかなり有名な話だぞ。

 左大将様の二人の姫様はとても美しく、その中でも妹君のパンドラ様は、絶世の美女だってな。

 で、どうなのよ?」


 ここで、違うって言っても姫様を見ればすぐにバレてしまう。

 でも、ここでそうだと言えば、こいつ姫様を口説きに行くかも知れない、どうすれば……

「なぁ信、どうなのよ?」


「そうですよ清信、ハッキリ言いなさい」


 あ、ダメだ俺…姫様の声が聞こえてきた、疲れてるのかな。

 あれ?業重の奴、何を驚いて……まさか!

 そう思った左少将が、業重の目線の先を見るとビキニ姿のパンドラと、その後ろに隠れるタオルにくるまっているリリアナであった。


「姫様!」


「何が姫様!ですか……で、どうなのですか清信、ハッキリと言いなさい。」


「…いやぁ……そのぉ……そうだ、そんな事より、姫様なんて格好をしているのですか!」


「そんな事より?」


 そう言ったパンドラが、一瞬ではあるが、ピクリと眉がつり上がり、それはパンドラが不機嫌になる、それはつまり、目の前の者は命がなくなる前兆だと言う事は、左少将は知っていたのだが、彼の頭の中は全くの別の事でいっぱいであった。

 しかし、その恐怖を感じていない左少将の姿を見たパンドラは、流石は清信……ですが、私を信用し過ぎでしょうと、半分呆れていたのである。

「フゥ…まあ良いでしょう。

 これから、リリアナ様とフレイア陛下の作ったプールに行くのです。

 それとこれは、水着と言う服装で、これでしたらプールで泳ぐのも楽ですよ」


 プール?泳ぐ?水錬の類いかな?

「しかし、その格好は…プールで着替えても良かったのでは?」


「そ、そうですよパンドラ。

 そこの者の言う通り、やっぱりプールで着替えれば良かったのですよ…それを貴女が無理矢理に……」


「リリアナ様、良いではないですか、別に見られて減るものでは、無いでしょう」


 全くこの姫様は……。

 そう思いながら、左少将は自分の着ていた陣羽織を脱ぐと、パンドラにそっと着せて言ったのであった。

「姫様、減りますよ、父上の左大将様の権威に関わります」


「この陣羽織の匂い…血と汗と、清信の匂いがする……」

 そう言ったパンドラは、陣羽織の香りを楽しむかの様に、ギュッと握り締めたのであった。


「す、すみません!ずっと戦場でその陣羽織を着ておりましたので……申し訳ない」


「良いのですよ、私はこの匂いは好きですし、何処か落ち着きます。

 ではリリアナ様、行きましょうか?フレイア様達がお待ちです」


「あぁ、そうだな……清信とか言ったな?いい加減な気持ちで、パンドラに近付くと、妾が許さぬからな」

 そう言ったリリアナは、左少将を睨み付けて言うと、パンドラと一緒にプールの方に行ったのであった。




「おい、信よ……」


「何だよ?」


「俺は、天女ってのを、初めて見た様な気がする……お前あの姫様と」


「そんな事が、あるわけ無いじゃないか…それに、他国の王族との結婚も有り得るだろう」


「確かに、他国との婚姻関係を結ぶには、うってつけだよな……悲しいが、武家の女性の宿命だな」

 業重の言葉を聞いた左少将は、理解はしているのであったが、胸が苦しく、何処か締め付けられる様な感覚に、おちいっていたのであった。



 この数日後、左近衛府軍は、駐屯していたケイングストンから、リットール城を目指し進軍を始めたのであった。



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