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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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二人の勇者

 




 左近が戦場に残ってから、左近達は孤軍奮闘の働きでフランド辺境伯軍と戦っていたのだが、目的の勇者ジュダース公は、未だに何処にいるのか解らない。

 そもそも、エリアスや珠でさえ、そのジュダース公の顔が解らないのである、それをこの敵兵ばかりの戦場で見付けると言うのが、無謀な話であったのである。


 この十文字槍の穂先は、やはり大陸の人間にはかなり有効だな。

 穂先をかわしても、横に突き出した鎌に当たり、確実に致命傷を負わせる事が出来る。

 だが、いくら有効と言っても、体力には限界があるのだが、それにしても義父殿と珠は、化け物か?

 こんな状態で未だにあんな動きが出来るなんて……あれ?もしかして、あの刀に体力吸収のスキルが付いているとか?だとしたら、ズルい!俺にもそんな武器が有れば……あ、俺も持ってたわ。

 そうだこの鬼切り丸は、確か体力吸収が付いて必中も付いているはず、これに時間停止(タイム・アクター)を組み合わせれば。


 そう思った左近は、槍を左手に持ちながら、腰の刀を抜き、時間停止(タイム・アクター)を使用したのであった。

 時間停止の世界の中でも、鬼切り丸で斬りつける度に、左近の体力が回復していく。


 これは、鬼切り丸で戦う程、長期戦ではかなり有効じゃないか。

 決して鬼切り丸の存在を忘れてた訳ではないが……はい、完全に頭から消えておりました。

 絶対にこんな事をラナに知られると、「ほら旦那様、そんな事だから、魔法使いには、向いていないのよ」ってバカにされると思う。

 そんな事を思いながらも、左近は槍をアイテムボックスに収納し、刀での戦いに切り換えた時であった、珠が、左近とエリアスに向かって叫んだのであった。

「父上!お祖父様!下がって私の背後を御願いします!」


 その声を聞いた左近とエリアスは、お互いに眼で合図をすると、珠の背後を守るために、珠の後方に下がったのであった。


 珠は二人が後方に下がったのを確認すると、刀を頭上に上げて叫んだのである。

「ブラッディヘッジホッグ!」

 珠がそう叫ぶと、珠の頭上に敵の兵士達の血液が集まり、まるでガトリング砲の様に血の刃が敵兵に襲いかかったのであった。


 すげえ、これが珠のスキルか……これこそ反則級のチート技だろ、こんなのに勝てる方法なんて俺は思い付かねえぞ。

 左近がその珠のスキルに見とれていた、その時であった、珠の背後に黒い空間転移の煙が出てきたのである。


 ヤバい!珠は完全に気が付いていない!

 そう思った左近は、言葉に出すよりも先に身体が動き、珠を背後からタックルしたのである。

 それと同時に自身の脇腹に、何か三発ドス、ドス、ドス、と突き刺さる感触があり、激痛が走ったのであった。


「グハッ!」

 そう叫んで左近は、その場に倒れると珠が、立ち上がり左近の身体を起こそうとした時であった、ヌルっとした感触が珠の左手を包んだのであった。


「嫌ぁぁぁぁ!」

 紅く染まった左手を見て、珠が叫ぶとエリアスが、その左近の状態に気が付き、戦いながら叫んだのであった。


「姫様!姫様!珠!こっちを向け!」


「お、お祖父様……父上が、父上が……とと様ぁ!」


「解っている!お前の父は、そんな事でくたばる男か!先ずは父を守れ!今は意識を失っているにすぎない、俺を信じろ!」

 そうエリアスが言った時であった、左近は珠の肩に手を乗せて立ち上がったのであった。


「父上!」


「とと様か……そう言ったのは、お前が三歳の頃に、数馬に預けて戦に行った時が、最後だったな」


「御館様!お身体は?」


「大丈夫です」

 嘘です、すんげえ痛いです。

 息が全然吸えない……これはあばら骨をやったかもしれんが、ここで弱音は言えない。

 言えば、珠が引き摺ってしまう。

 ラナが死亡フラグを立てたせいで、本当に死んだと思ったけど、まだ何とかなる。

 それに、倒れる瞬間に見た、あの空間転移の煙を出していた男、あれがジュダース公か……あいつは、見覚えがある。

 そう、以前にラナを口説いていた貴族だ、あいつがジュダース公だったんだ。

 そう思いながら左近は、珠の頭に手を乗せて言ったのであった。


「珠よ、俺は誰だ?あの関ヶ原で鬼の左近と言われた男だぞ、銃弾を身体中に浴び続けて、戦い続けた男だぞ。

 お前の様な、蚊に毛の生えた様な攻撃で、死ぬような男では無い。

 さて、珠よ……あのビビって俺達に近付けない一団に、ジュダース公がいるはずだ。

 露払いは頼めるか?」


 その左近の姿を見た珠は、涙を拭うと、立ち上がり言ったのであった。

「お任せください、父上の道は私が作ります」


「二人とも、私を忘れてはおりませんか?御館様の背後は私が守りましょう」

 そう言ったエリアスは、刀に付いた血を、ブンと刀を一振りして吹き飛ばすと、笑顔で言ったのである。


「そうですね、では義父殿、私の背後は任せます、では突撃!」

 左近の合図で、三人は一丸となってジュダース公の方向に向かって行ったのである。



 御館様は、本当に強い。

 背後から見ていたら、その凄さを実感する事が出来る。

 例えるなら、私や珠の様な剣はカミソリの様に鋭い剣術なのだが、御館様の剣は、どちらかと言うと鉈の様に力強く、剣ごと相手を斬る剣だ。

 それでいて決まった型に拘らずに、時折見せる瞬間移動の様な動き……あの動きは私でも捉えきれない。

 まさに戦の申し子と言った所だな。

 そんな事を考えて、左近の背後を守るエリアスであったが、左近は内心焦っていたのであった。


 これはまずい、肋骨がヒビが入っているんじゃなくて、折れていたのか。

 何とか動けているのも、この鬼切り丸のおかげだろう。

 こんな速度じゃ、狙いに気付かれて、近づく前に空間転移で逃げられてしまう、どうすれば……

 そう左近が考えた時であった、ジュダース公の背後から、蔵之介の叫び声が聞こえて来たのであった。


「兄者!何処だ!兄者ぁ!」

 その大きな声に敵兵達は、ここまで連合軍がやって来たのかと、皆が蔵之介の方角に振り返ったのであったが、ジュダース公だけは違ったのである。

 彼は、瞬時に戦況が不利と悟り、空間転移を開いて、その場からの逃走を図ったのであった。


 逃がすか!

 そう考えた左近は、時間停止(タイム・アクター)と空間転移を使用してジュダース公に追い付くと、逃走を図っていたジュダース公の襟首を掴んで、後ろにぶん投げたのであった。


 突然やってきた、左近に敵兵は、どうしてここに左近がいるのか、理解出来ないと言った感じであったのであるが、すぐさま珠とエリアスがやって来て、他の兵士を斬り殺したのであった。


「え?な、何で?」

 全く訳が解らないと言った感じのジュダース公であったが、徐々に理解しはじめて、叫びだしたのであった。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺は利用されただけなんだ!話を……」

「うるさい」

 そう言った左近の鬼切り丸が、ジュダース公の首を瞬時に落としたのである。


 その光景を見た敵兵は、明らかに動揺し始めた時であった、ルタイ皇国の左近衛府軍が、北から左近の元にやって来たのであった。


「兄者!」


「おう、蔵之介……元気だったか?」

 心配して駆け寄った蔵之介に対して、左近はいつもの様にぶっきらぼうに言ったのであった。


「元気だったかじゃねえよ……ラナ様!こっちに兄貴がいた!」


「どうでも良いが、この首を高々と上げて勝鬨を上げろ」

 そう言った左近は、ジュダース公の首を蔵之介に渡したのであった。


 蔵之介は、そのまま槍の先にジュダース公の首を刺すと、槍を高々と上げて言ったのである。

「賊軍の勇者ジュダース公は、ルタイ皇国総大将、島 左近衛大将 清興が討ち取った!」


 その声は、川の手前の戦場に一気に響き渡ったのであった。

 高々と上げられたジュダース公の首を確認した敵兵は、最早戦意は無く我先にと、川の中を突き進み逃走を図ったのである。


 だが、その時であった、ゴゴゴゴと言う音と共に、丸太などが混ざった鉄砲水が、逃走を図った川の中の敵兵に襲いかかったのであった。


 運が悪い事に、反乱軍は殆どが重装備の兵士達である、その重い装備の為に、流された兵士達は、殆どが浮き上がる事など出来ずに、そのまま流されて行ったのであった。

 そして各軍に押し出される様にして、生き残った反乱軍の兵士達が、次々と川に落ちて行ったのである。


 その敵とは言え、悲惨な現状を天眼で見ながら、何とか立っている左近の元にラナが、泣きながらやって来たのであった。

「旦那様!」


 馬を飛び降りて駆け付けたラナの胸に、左近は顔を埋める形で倒れると、幸せそうな顔でラナに言ったのである。

「ラナ……やっぱり顔を埋めるのは、お前の胸が最高だな」


「バカ!こんな時になんて事を!帰ったらいくらでも、させてあげるから!」


「それは嬉しいな……それはそうと、珠よもう泣くな」

 そう言って左近は、隣で泣きじゃくる珠の頭を撫でたのであった。


「覚えていますか父上、私がまだ三歳の時に父上は、こうやって頭を撫でて戦に行き、帰っては来なかったではありませんか。

 もうあんな思いは嫌なのです!」


「おいおい、勝手に死亡フラグを立てるな。それよりも、お前は次に何をするか解っているよな?」


「フラグってのは解りませんが……何をするかは解ります。

 あの濁流に道を開き、エリアスお祖父様に、お祖父様の仲間の仇を取らせる……」


「なんだ、よく解っているじゃ無いか、流石は俺の娘で、柳生の妻だ。俺はここでラナの胸を堪能しておくよ」


「……とと様、ありがとう」

 そう言った珠は、涙を拭うとエリアスと共に、フランド辺境伯の元に向かって行ったのであった。



「良いお父さんやってるじゃない」

 そう言って、左近の頭を撫ようとしたラナの手が、ベットリと血に染まっているのに、ラナは気が付き、声を上げようとした時であった、左近が低くドスの効いた声でラナに言ったのである。


「騒ぐな」


「で、でも……」


「今騒げば、大事になる。このままスターク公に全軍の指揮を任せて、弾正にその補佐をやらせろ。

 そしてスターク公には、このまま義父殿がフランド辺境伯を討ち取ったら、すぐにザルツ王国軍と傭兵だけで、フランド辺境伯の領地を平定する様に……アミリアは貸すと伝えてくれ。

 蔵之介はいるか?」


「ここにいるぞ兄者」


「お前が左近衛府軍の事後処理をしろ、バッシュはボルに付かせてやれ。解らん事は弾正に全て聞け……俺は少し休むよ」

 そう言った左近は、気を失ったのであった。


「旦那様?……旦那様!……蔵之介、さっき旦那様が言った様に手配して、それとここに空間転移の出来る人を連れてきて、早く!」

 そう言ったラナの必死な態度に、蔵之介は急ぎ通信兵を呼んで、左近の言うとおりに動いたのであった。




 ―――――――――――――




 その頃、パンドラ達の部隊は、別動隊のママ達と合流し、もうすぐ断崖の街道を抜ける所までやって来たのであった。

 だがその進撃も、ここに来て速度が落ちてきたのである。

 それもそのはず、ここまで黒騎士団(ブラックナイツ)はひたすら敵と戦いながら、やって来たのであったので、いくら体力自慢の黒騎士団(ブラックナイツ)とは言え疲れが目に見えて出てきたのであった。


 そして、後方の者を気遣い、リンも速度を抑えているそんな状態を感じて、パンドラは陣を変更する決断をしたのであった。

「リン、暫く一人で食い止めなさい!他の者は、横に四陣に別れて整列!」


 関白はパンドラの考えが全く解らなかった。

 確かにもう黒騎士団(ブラックナイツ)には疲れが見えている、しかしここまで彼等はよくやった。

 後は後詰めの我等に任せれば良いものを、と感じてパンドラに言ったのであった。

「パンドラよ、そろそろ後詰めと交代しても良かろう?」


「いいえ、まだですよ、まだこの陣形で進みます。私の考えたこの戦法、上手く機能すれば、長期戦に無類の強さを発揮します」


 本当にこの親子は、戦が好きじゃの、まぁここはお手並み拝見とするか。

 そう思い関白は、静観する事にしたのであった。


「ここで各陣の部隊長を言います、第一陣クロエ」


「はっ!」


「第二陣、ソニア」


「あいよ」


「第三陣、虎」


「ウス!」


「第四陣、クリスティーナ」


「は、はい!」


「以上の各隊長はどんな戦の途中でも、私が退けと言えば、怪我人を連れて退くように!では第一陣、突撃!」


『おお!』

 そう言ってクロエ率いる第一陣は、敵に突っ込んで行ったのである。


「ロビンは、援護をこのまま行いなさい」


「ヘイヘイ」

 そう言ったロビンは仕方がなく援護射撃を行っていったのであった。


 何だこの陣形は?意味が解らんぞ。

 そんな事を関白が考えていると、パンドラは戦場をじっと見据えて何かのタイミングを待っていたのであった。

 そしてその時は、いきなりやって来た。

 クロエ達に疲れの色が見えてきたのである。

 その時であった、パンドラが次の指示を出したのである。

「第二陣、突撃用意!……突撃!第一陣は撤退!」


 パンドラの声は、怒号の飛び交う戦場では聞こえなかったのだが、そこはママがフォローして、戦場に行くと、クロエに撤退を伝えたのである。


 そして戻ってきたクロエ達にパンドラは、第四陣の後ろで待機し休む様に言ったのであった。

 この言葉を聞いて関白は、パンドラが何をやろうとしているのか、気が付いたのである。

 軍を四列に別ける事により、少数で戦っていてもその間は、他の兵士が休む事が出来る。

 そしてそれを交互に出す事により、敵は体力がある程度回復した、兵士と戦わなくてはいけない、これは何度も押し寄せる、勢いの変わらない、津波を相手にしている様だと思い、このパンドラの知略を恐れたのであった。


 こうして、数度の交代をえて、クリス達の第四陣が戦場に向かった時に、まさかの事態が起こったのであった。

 突然、リンの顔面が大爆発し、クリスの足下にリンの兜が吹き飛ばされてきたのである。

 その兜を見た誰もが、あの爆発で、リンの頭が吹き飛ばされたと思い、リンに向かって叫んだのであった。

『リン様!』


「…………ケホッ」


「…嘘……」

 思わずクリスがそう言ったのも無理は無かった、誰もが無口な屈強な男性だと思っていた、リンの鎧の中には、銀髪の褐色肌の少女が中にいたのである。

 これには、敵味方関係無く、誰もが驚き、固まってしまったのであった。


「……!……!」

 ここでようやく、自分の兜が無くなっている事に気が付いたリンは、無言のまま回りを焦った様に探し回ったのである。


「もしかして……これですか?」

 そう言って、クリスの差し出した兜を発見すると、リンは今まで見た事も無いような素早い身のこなしで、クリスの持っていた兜をブン取り装着すると、ペコペコとクリスに頭を下げたのであった。


 何でこの人、こんなに強いのに、物凄く腰が低いのか解った気がする。

 そんな事を思っていたクリスであったが、次の瞬間、空間転移の黒い煙が現れて、中から人が出てきたのと同時に、リンの片足が切断されたのであった。


「リン様!……これも?」

 クリスがそう言うのも無理は無かった、目の前に転がるリンの片足も中身が空洞であったからである。

 片足を失ったリンが体勢を崩すと、中から勢いよく現れた男が、リンの鎧を真っ二つにしたのであった。


「チッ、外したか!」

 そう言った男は、いかにも貴族の様な、立派な髭を蓄えたやや細身の男であった。


「貴様、何者だ?ただの子供では無いな」

 そう言った男の目線の先には、銀髪の褐色肌にビスチェで身を包んだリンが涙目で、姿勢を低くし男を睨み付けていたのであった。



 その光景を遠くから見ていたパンドラは、焦りながら関白に言ったのである。

「まずい!殿下、私も前線に行きます!」

 そう言ったパンドラは、空間転移を開いて二人の元に向かって行ったのであった。


「のうロビンよ、パンドラはどうしたのじゃ?」


「殿下、リンは極度の人見知りのために、その身を隠していた鎧が無くなると、パニックになって見境無く、殺しまくるのですよ」


「かなり危ないやっちゃの……ワシも気を付けよう」

 そう言った関白は、遠くを見据えて言ったのであった。






「貴様、名前は何と申す?我こそは、ジョゼ・フランド辺境伯……いや、この国の国王である」

 そう言ったフランド辺境伯は、まるで全く回りの者がいないかの様に、リンに話し掛けたのであった。


「…殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!」


「何だ、ただの野獣かよ。しかし面白い、私がペットとして飼ってやるとしよう!」

 そのフランド辺境伯の言葉を皮切りに、二人の間合いが瞬時に近付いた時であった、甲高い金属音と共に、パンドラが二人の間に入り、フランド辺境伯の剣を刀で、リンを重力魔法で動きを制して、止めたのであった。


「クリスティーナ!リンを抱き締めて、落ち着かせなさい!」

 そう言うと、リンをそのまま浮かせて、テンパっているクリスの所に飛ばしたのであった。


「貴様、いったい何者だ?俺の剣を受け止めるとは、ただ者では無いだろう」


「ルタイ皇国、島 左近衛大将 清興が娘パンドラ。そう言う貴方は何処の三下で?」


「ナメるな下朗が!」

 そう言ったフランド辺境伯が、パンドラに蹴りを放ったのであったが、その蹴りは見えない壁に阻まれた感じがし、フランド辺境伯は思わずパンドラと離れて、間合いを取り直したのであった。


 離れたフランド辺境伯に、じわりじわりと周囲の黒騎士団(ブラックナイツ)の者が包囲網を作り、狭めていったのであったが、パンドラはそれを止めたのである。

「皆、下がりなさい!この者に手を出すと、被害が増えます……ここは、私に任せなさい」


「御忠告どうも。おい、お前達も手を出すと、殺されるぞ……こいつは化け物だ」

 そう言ったフランド辺境伯の言葉で、自然とその戦場に、輪が出来上がり、パンドラとフランド辺境伯の一騎討ちの空気になっていたのであった。


「…1つ聞きます。

 確かザルツ王国の勇者は、ジュダース公のみと、聞いていたのですが……貴方は勇者であったのですか?」


「やっぱり気が付いたか……今まで隠してきたんだがな。

 でも、解った所でどうする?勇者に勝てると思っているのか?」


「ふぅ…やはり所詮は三下でしたか、勇者にしか、すがる物が無いとは」


「ほざけ!」

 そう言ったフランド辺境伯が、飛び掛かろうとした時であった、フランド辺境伯の後方から、何やら敵兵を蹴散らしながら、こちらに向かって来る物が見えたのである。


 あれは?……まずい、今ここで逃げれば、殿下や他の者に被害が出る。

 そう思ったパンドラは、ここで受け止める体勢を取り、フランド辺境伯もそれに気が付き、その斜線上から退避したのであった。


 あれは……大きな水の龍!って事は。

「あのバカ姉がぁ!」

 そう叫んだパンドラは、敵兵を蹴散らしながら地を這うように、向かって来る水の龍に向かって両手を突き出すと、重力魔法で上空に軌道を反らせたのであった。


「このバカ姉が!少しは限度って物を考えなさいよ!」

 そう叫んだパンドラの目線の先には、八つの頭の水の龍を引き連れた珠とエリアスが、水の龍によって出来た道を、パンドラ達の元に向かって、やって来たのであった。


「その一騎討ちは、私達に譲ってもらいますよ、パンドラ」


 ……なるほど、そう言うことか。

 エリアスお祖父様の聖導騎士団を壊滅させたのは、このフランド辺境伯だったはず。

 ここでお祖父様に敵討ちをさせようと……違うこれは、愚姉が考える事じゃ無い、と言う事は、これはお父様の考えか。

 ならばここは譲るしか無いのだが、おそらくあのフランド辺境伯の剣には、必中のスキルが付いている。

 お祖父様の刀は、確かお父様が以前に使っていた村正……あの刀は必中が無い、これは圧倒的に不利ですね。

 そう思ったパンドラは、刀を鞘に収めると、そのままエリアスに向かって投げ渡したのであった。

「お祖父様これを」


 受け取ったエリアスは、渡された陸奥守吉行を見て、パンドラが何を言いたいのか気が付き、二人に言ったのである。

「珠、パンドラ、俺はこの戦が始まってから、初めてお前達にお祖父様と呼ばれ、俺もお前達の家族と認められた気がしたよ。

 お前達の祖父の戦い、じっくりとその眼に焼き付けよ」

 そう言うと、エリアスは陸奥守スラッと抜いて、フランド辺境伯を見据えたのであった。


「貴様、ルタイ人では無い、大陸の人間だな?」


「察しの通り、セレニティ帝国は聖導騎士団エリアス・ノイマンだ……ジョゼ・フランド辺境伯とお見受けしたが?」


「ほう、俺が以前に潰した三大騎士団の……そうか、貴公が帝国最強の剣士と言われた、ノイマン公か。

 相手にとって不足は無い、掛かって参れ」

 そう言うと、フランド辺境伯はエリアスに向けて剣を構えたのであった。


 そして、お互いが動けず、暫く静寂の時が流れていたのであるが、その中で二人の剣に乗せた気迫がせめぎ合い、見ている者が息をするのを忘れる程であった。


 流石はザルツ王国で、一代でのし上がって来たフランド辺境伯、全く構えに隙がない。

 しかし俺は、ここで立ち止まる事は許されん……あの技を試すか。

 中段の構え、いわゆる正眼の構えで、フランド辺境伯を見据えていたエリアスは、突如構えを解き、右手に剣を持ったまま、だらりと腕を下ろしたのであった。


「お祖父様……」

「静かに」

 思わずパンドラが、何かを言おうとするのを珠は止めたのである。


「しかし、あの様な戦いを放棄したような……」

「大丈夫です。あの構えは、我が柳生新陰流の奥義、無形の位……敵のいかなる攻撃に対しても千変万化、自由自在に対応する必殺の構えです。

 お祖父様は、あの髭貴族を文字通り、必ず殺すと決めたのでしょう。

 しかし、一度私の言葉を聞いて、それをいきなりの実戦で行うとは、お祖父様は帝国最強の剣士と言われたのは、伊達では無いようですね」

 その珠の言葉を聞いたパンドラは、自分もやってみたいと言った衝動にかられ、エリアスの動きを食い入る様に見詰めたのであった。



 何だあの構えは?俺を誘っているのか?

 そう思っていたフランド辺境伯であったが、ここでエリアスの刀がゆっくりと角度を変えている事に気が付いたのである。


 何だ?何をやっている?

 そう思った瞬間、エリアスの持っていた陸奥守の刀身が消えたのであった。

 無論、これは本当に消えた訳ではなく、日本刀の磨き上げられた刀身の角度を変えると、回りの景色を反射させて、一瞬消えた様に見える現象が起こる。

 これは、簡単な科学を知っている者ならすぐに解るのだが、科学と言う物が無いこの世界で、フランド辺境伯にその原理を求めるのは、酷な話であった。


 何だと!刀が消えただと!

 そう驚いたフランド辺境伯の、一瞬の隙を見逃すエリアスでは無かった。

 エリアスは、間合いを詰めた瞬間、フランド辺境伯の身体を斬りに行くのでは無く、フランド辺境伯の構えている剣に、自分の刀の切っ先を当てると、クルリと円を描いただけなのである。

 しかしその切っ先は、フランド辺境伯の剣にまるで吸い付いた様に、一緒に回転し、エリアスが自身の頭上に刀を上げると、フランド辺境伯の剣は、その手から離れて、空に舞い上がり、地面に突き刺さったのであった。


「勝負あったな、観念なされよ」

 そう言ったエリアスは、フランド辺境伯に刀を突き出し言ったのであった。


「ナメるな下朗!」

 そう言ったフランド辺境伯は、地面の砂を握り締め、エリアスに砂を掛けようとしたのであったが、そのフランド辺境伯の腕が、地面にそのまま落ちたのであった。


「……!」

 声にならない痛みに、フランド辺境伯は、斬られた片腕を抑えながら、頭を下げて踞ってしまったのであった。


「少しは我が友の、我が家族の痛みを思いしったか?」

 そう言ったエリアスの眼はとても冷たく、冷酷な眼をしていたのである。

 そしてそのままエリアスは、何も言わずにゆっくりと刀を上げると、無表情で振り下ろしたのであった。


 フランド辺境伯から出た返り血は、一瞬遅れてエリアスの身体にかかり、それでもなお、無表情で地面でビクンビクンと動く、首の無いフランド辺境伯の身体を見詰めていたのであった。

 そして、動かなくなったのを確認したエリアスは、フランド辺境伯の血がベットリと付いたその手で、髪の毛をかきあげると、振り返って珠とパンドラに言ったのであった。

「さぁ二人とも行こうか」


 そう言ったエリアスの髪の毛の色は、普段の美しい金髪に、赤い血の色のメッシュが入った髪の毛色をしており、パンドラはその姿が本当に美しいと感じて見とれていたのであった。


 こうしてジュダース公とフランド辺境伯が討ち取られた事により、戦は終わり、反乱軍はその場で武装解除し、降伏したのであった。




 ―――――――――――――――




 その頃、左近の意識は、いつもの神様が出てくる、雲の上にいる様な所にいた。


 おお、久々だなここ……あれ?何であの神様のおばちゃん、怒っているんだ?


「これは、本当に怒っての!あんた何て悪魔を召喚したのよ!それにあの契約内容は何!神に喧嘩売ってる訳?」


 もしかしてパンドラの事を怒っているのか?何で怒っているのか、俺には意味が解らない。


「あんたが何て事をしたのか、教えてやる!

 この世の全てには、輪廻転生ってのがあって、死んだら何かに生まれ変わるの。

 でも、悪魔に食べられたら、その輪廻の輪には戻れずに、行くのは虚無の世界なの!

 この世の魂の数は限られている、こんな事をやっていると、この世に生命がいなくなってしまうのよ!解る?

 だから早く、あの悪魔達を封印するか、殺しなさい!」


 殺すとか、物騒な話だな。

 だいたい、そんな危険な者を、神様のあんたは、何で作ったんだ?そんなのを作らなければ、そう言った事は起こらないだろう。


「あれは、私が作ったのじゃ無くて、この世の怨みやそう言った物が集まって出来たものなの。

 だから急遽、魔界を作ってそこに封印したのよ!それを全てぶち壊して!」


 俺は、その神の自分勝手な発想で、ブチッとキレたのであった。

 いや、そもそもは神様って生き物は、自分勝手なのが当たり前かもしれない、だって自分の好きな様に世界を弄り、そこには住んでいる者の感情なんかは、一切反映されないからだ。


 ぶち壊した?だからなんだよ。

 そもそもが、あんたがパーヴェルなんて生み出すのが、いけなかったんだろ?俺は奴に会ったけど、とても勝てるとは思えなかった。

 それを勝てる様に行動して何が悪い!あんたが生み出した尻拭いで犠牲が出る、それはあんたの責任も有るだろう。

 それに、パンドラ達だって、この世の怨みが集まって生まれたのかも知れないが、その怨みや怨念の籠った世界にしたのは、あんた自身だろうが。

 自分はやりたい様に行動して、責任は取らない?そうじゃねえだろ、神様ってのはよ!神様には、この世を作った責任ってのが有るんだ、

 それが解らないのならば、神様何か辞めちまえ!


「それが神に向かっての態度?」


 俺からすれば、神だろうが悪魔だろうが関係無い、俺はただ、自分自身の正義の為に行動するだけだ。

 あんたは、俺から見れば悪魔と何ら変わらないぜ。

 だってそうだろう、あんたは気に入らなきゃ、やれ封印しろ、やれ殺せだなんて……あんた悪魔と同類だ…いや、今回の件に関しては、表に出ずに他の者に丸投げする分、悪魔より最低だぞ。


 左近がそう言うと、神は明らかにキレている表情になったのであった。

「あんたは、本当に自分の立場が解って無いようね」


 立場が?そう言われてキレるのは、俺の指摘が当たっているって事だろ?あんたは自分でも、悪魔以下だと自覚しているから、キレているんだろ。

 俺は今回の件では、パンドラ達に正義が有ると思っている。

 なので、もしも戦いになるのならパンドラ達に付かせてもらう。

 それに、パンドラは俺の娘になった、何処の世界に我が子が理不尽な話で殺されるのを、指をくわえて見ている親がいる?

 それも解らないなら、あんたは本当に悪魔以下に成り下がっているって事だ。


「悪魔が娘?そんなのあの悪魔が、変われる訳がないじゃない……正直に言うと、あんたを今すぐにでも殺して、輪廻の輪から外してやりたいわよ。

 でもそれをすると、悪魔と何にも変わらない、同類になってしまうから我慢してやる。

 それにあんたは、まだお父ちゃんの所の所属だからね。

 ……でもね、あの悪魔達に魂を食べられると、この世界の生命が無くなってしまうのよ、それは解るわね?」


 それは、解るが……そう言えばこの世界の最初から生命はいないはずだろ?どうやって作った?


「それは……神の秘密になるけど良いわ、教えてあげる。

 神が何かを生み出すのは、物凄く力を必要とするの、その力の源は信仰心と文明を持っている種族の生活水準を上げる。

 後はファンタジー世界の限定特典で、モンスターの数を討伐して減らす、

 最後に禁じ手だけどお父ちゃんから、融通してもらうか……」


 信仰心ってあの北方教会とかか?


「そうだけど、北方教会とムサマ教は少し違うわね。

 北方教会は、人間以外の種族は、全て駆逐しなければならないって宗教で、その為に……そうねあんたの所で昔にあった、魔女狩りの様な事をやっている、私の意思に反した事をやっているの。

 ムサマ教は、私と言うよりは、配下の天使を崇拝している宗教なの。

 この二つは、どんなに信じられても私の力にならない」


 そうか、それは俺も力にはなりたくない宗教だな……では、俺は生活水準を上げるのを頑張ろう。

 それと、俺はパーヴェルの魂をパンドラにくれてやる気でいるが、それは了承してくれるか?


「それは、さっきも言った様に輪廻の輪から抜けて、虚無の世界に行く事になるから、認める事は出来ない……でもなんで?貴方は、先程の説明で理解できなかったの?」


 これは、俺の推測がかなり入っているのだが、輪廻転生するには、前世の記憶を消してマッサラな状態で、転生する筈だが、中には転生しても悪の道に何度も行く、魂のレベルで悪の者がいる。

 そう言う者は、虚無の世界に送られるのではないか?

 これは、この世界の藤永 弾正が以前に死んだ時に、あの爺の神に、転生して今のルタイ皇国の、帝の手足となって働くか、虚無の世界に行くかの選択を迫られた、って話から推測できる。

 でも、あんたは、虚無の世界に一人でも行かせるのは嫌な様だ……何故だ?俺には、そこが解らない。


「それは……残念だけど人に教える事は出来ない、ここからは神の秘密に関わって来るからね。

 では、話を変えましょう。

 あの悪魔達の今後だけども、あの悪魔達に何かの感情を芽生えさせなさい。

 そうすれば、新しく輪廻の輪が出来て、その魂は私の管轄下になるから」


 それは、断る。

 理由は簡単だ、あんたはパンドラ達を目の敵にしている。そんな奴の元に、誰が自分の娘を差し出すと言うのだ……どうなるかは火を見るより明らかだ。


「……どうやら信用はされては、いない様だね。

 解った、ここは私が譲歩しようじゃないか、パーヴェルを何とかする、それがお互いの共通点だ。

 それには異論は無いね?」


 無い。


「貴方は悪魔達に、感情を芽生えさせる。でも私は悪魔達の意思を聞いて、輪廻の輪に入れるか、今まで通り魔界に入れるかを決めさせる。

 私の管轄下に入っても、手厚く保護をするが、それを決めるのは、悪魔自身の判断に委ねる。これでどう?」


 異論は無い。


「では、パーヴェルの魂だけどもこれに関しては、私からの願いを何個か聞いてくれるだけで、譲っても良いでしょう」


 願いを?


「そう願いを何個かね。でも何個かは言えない……まぁ殆ど、殺してって願いだけども。

 その魂は虚無の世界に落としても良いわ」


 ……こちらも条件がある、俺が納得しない願いは、無視するがそれで良いか?


「ここまで私が譲歩してあげると言っているのに……まぁ良いでしょう。

 でもそれだと戦力が、あの悪魔達だけだとね……こちらかも、貴方に戦力を授けましょう。

 貴方にも良い話だと思うけど」


 良い話?


「そう、良い話。

 貴方に最近子供が出来たでしょ?でもその子は、流れる運命よ……これからも先、永遠にね。

 つまりは貴方は、この世界に生まれてはいない……魂は、まだ向こうの、お父ちゃんの世界に所属しているの。

 だから、貴方の子供は、いくら器が出来ても、中身の魂を入れる事が出来ないのよ。

 でも安心して、今の私には四人だけなら、新しい魂を作り出せる力が残っている、しかもかなりの能力を秘めた魂をね……それをどうやって育てるかは、あなた次第。

 どう、良い話だと思うけど」


 ……それは、了承するしか無さそうだな。

 話は変わるが、何で俺は話す事が出来ない?いや、あんたは俺の思考を読む事が出来るので、不自由は無いのだが。


「それは、誰かが貴方を助けようと魔法を使って、現世に呼び戻そうとしているからなの……そろそろ時間の様ね、さっき決めた事を忘れないでよ」


 解った、それと最後にパンドラ達の事は、俺に全責任が有る。フレイアを責めないでくれ。


「あんた、本当に神以上に神の様な男だわ。

 お父ちゃんが、転移させてくれって、頼み込んできた人なだけの事はある……解った、今回の件はフレイアは関係無い」


 ありがとう。

 俺はそう言うと、そのまま現実の世界に引き戻されて行ったのであった。





「あ、気が付いた!」

 この声は、セシリーだな……この感触は、誰かの膝枕だ……この褐色肌で、下から顔が見えない程の爆乳……ラナか。

 そう思った俺は、そのままラナの身体に腕を回して、その爆乳の中に顔を埋めた。


 違う!これは、ラナじゃない!ラナの胸は、大きさ、張り、質感共に全てが最高のA1ランクだ。

 これは、大きさは十分だが、若干張りが、やや劣っているA2ランクの胸だ!爆乳品評会の会長の俺が判断するのだから間違いない。

「……誰だ?ラナでは無いな」


「よく解りましたね。でもそれが、助けてくれた人に対する態度ですか?」


 その声を聞いて、視線をチラリと横にずらすと、慌てているセシリーが見える。

 冷静に考えたら、自分が助けた男が眼を覚まして、いきなり自分の胸に顔を埋めたら……ただの痴漢だな。

 身体は……よし、動く。

 俺は何とか、身体を起こして周辺を見てみると、何処かの一室の豪華なベッドの上で、横になっていた様だ。

 そして、目の前には、ラナそっくりな銀髪のダークエルフが、俺を膝枕していた体勢で、そのまま座っている。

 誰だ?

「これは、失礼しました。私はルタイ皇国の島 左近衛大将 清興と申します。

 私を助けてくれたのは、貴女でしょうか?」


「私は、ただ貴公の精神を呼び戻したに過ぎない。

 私の名は、ペスパード王朝のニーナ・ケーニヒスベルグ女王だ……セシリーさん、皆様を呼んできて下さい、私は少しこの人とお話がありますので」


「わ、解りました」

 そう言うとセシリーは、急いで部屋を後にしたのであった。



「さてと、貴公の妻のラナ……貴公はその素性を知って結婚したのか?」

 そう言ったニーナの眼光は、とても鋭く、正直に言わないと斬ると言っているようであった。


「俺には、言っている意味が解らない。

 素性も何も、ラナにはナッソーで兄妹二人で生きてきたとしか、聞いていないのだが……何かあるのか?」


 左近の答えを聞いたニーナは、暫く考えて言ったのであった。

「そうだな、ルタイ人には解らない事だよな……では、説明してやる……」


 そう言ってニーナが説明した話はこうであった。

 アルムガルド大陸に、ダークエルフは少数で、その殆どがペスパード王朝の民だそうだ。

 ペスパード王朝は、女性上位の女尊男卑の世界で、代々女王が支配してきたらしい。

 王族の証は、その美しい銀髪の髪の毛だそうだが、この事はダークエルフ以外の者は知らない様だ。


 何処の種族も同じ様に、どんなに綺麗事を言っても、組織が大きくなると、腐ってくる。

 ダークエルフも例外ではなく、繁殖能力の低いダークエルフだが、当時の女王が二人の女の子を生んだせいで、二人の意思に反して権力争いが起こり、その中でセレニティ帝国に人質に行っていた、ニーナの姉のセダ・ケーニヒスベルグは、ニーナ派の者によって暗殺されたのだった。


 だが、セダ・ケーニヒスベルグは、二人の子供を生んでいたのであったが、五歳の男の子と生まれたばかりの女の子が行方不明となった、それが14年前の事。

 そして時は流れて、10年前に即位したニーナ・ケーニヒスベルグは、亡き姉の子供を探していたのであったが、やっと見付けたのは、あの戦場であったらしい。


 だがそれをニーナは、ラナに確認をする意思は無い様だ。

 今が幸せならば、自分は名乗り出ずに、ただ見守る意向だそうだが、ニーナ派の者がラナの存在を許す筈が無いと言う。

 要は、俺にラナを全力で守れ、それが無理なら自分に任せろと言っているのだ。

「で、どうする?」


「正直に言うと、あんたの話をすぐに信じるのは無理だ。

 だがな、ラナは今俺の妻でもあるが、ルタイ皇国の摂関家の当主でもある、それを暗殺しようとするって事は、ルタイ皇国に喧嘩を売るって事だ。

 ルタイ皇国は、売られた喧嘩は全て買う……例え神が相手でもな」

 そう言った左近は、とても良い笑顔でニーナに言ったのであった。

 その笑顔は、不思議と人を信用させる笑顔であり、ニーナはこの男ならば安心出来ると、確信したのである。


「解ったよ……私が出来る事があれば、何でも言ってくれ。

 それと今後は、我がペスパード王朝は、ルタイ皇国の傘下に入るとしよう…その交渉の窓口を頼めるか?」


「頼めるもなにも、俺がその責任者だ。

 それにルタイ皇国は、何処の国も傘下にするつもりは無い……今後は対等な関係で頼むよ」

 そう言って左近が手を差し出すと、ニーナは笑みを溢して握手したのであった。





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