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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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野戦そしてプライド

 



 左近達は、王都レンヌを出陣した翌日の、まだ朝靄のかかった早朝に、渡河中のフランド辺境伯の軍へ、後方から襲い掛かったのであった。

 だがここで、まさかの問題が出たのである。

 先陣は、ザルツ王国軍と決めていたのに、朝靄の中を右近衛府軍がザルツ王国軍を追い抜いき、抜け駆けを慣行したのである。


「ルタイ皇国、尾瀬 右近衛中将 利行!押して参る!」

 そう言って突っ込んだ右近衛府軍と、フランド辺境伯の渡河部隊との戦闘を皮切りに、戦の火蓋は切って落とされたのであった。



「くそったれが!右中将め勝手な事をしやがって!伝令!スターク公に、右近衛府軍の持ち場を頼むと、左近衛大将が謝罪していたと伝えてくれ!」


「はっ!」

 左近達は、今回はザルツ王国の戦いなので、ザルツ王国軍の顔を立てて、先陣を任せて、次に右近衛府、弾正府と続き、最後に左近衛府軍の布陣で攻める予定であったのであるが、ここに来てまさかの右近衛府軍がザルツ王国軍を出し抜き、先陣に出たのであった。




 くそったれが、連合して攻める時は、抜け駆けは御法度なのに、予定通りにいかなきゃ、俺達が総崩れになる。

 これで武功を上げなきゃ、正成に言って後で右中将に腹でも斬らせるぞ。

 そう思いながらも、左近は部隊を指揮していたのであった。


 その左近の考えは当たっていたのであった。

 突如、自分達を追い越して、敵に攻めかかった右近衛府軍を見て、ザルツ王国軍は自分達の持ち場が解らなくなったのである。

「くそ!ワシ等は何処を攻めれば良いんじゃ!あの尾瀬とか言う奴め、覚えておけ!必ずスターク家は借りを返してやる!」


 そう叫んでいるビートに、セルゲンが近付き言ったのであった。

「伝令!左近衛大将殿からです!ザルツ王国軍は、右近衛府軍の持ち場を頼むと。それと今回の右近衛府軍の暴走を謝罪しております」


「了解した!左近衛大将に今回の怒りは、そなたの顔を立てて、我慢してやるが、次は無いと伝えておけ!」


「承知!」


「皆、聞いた通りだ!口惜しいがこのまま、右近衛府軍の担当の場所に攻めかかるぞ!」


『おお!』

 そう言うとビート率いるザルツ王国軍は、そのまま右近衛府軍の担当の場所に、攻め込んだのであった。



 ――――――――――――



 スターク公には悪い事をしたな。

 しかし、1日もゆとりをやったのに未だに渡河を終えていないとは、フランド辺境伯よ、これでは罠だと言うのがバレバレじゃないか。

 そう思いながら左近は、後方を警戒しながら部隊の指揮をしていると、エリアスが近付き言ったのであった。

「御館様、彼処の橋を渡った向こう岸に、フランド辺境伯の旗があります!奴は彼処だと……是非とも私に、仲間の仇を討たせて下さい!」


 そうだった、義父殿の騎士団を滅ぼしたのは、このフランド辺境伯の軍だった……でもまだ早い。

「義父殿、お気持ちは解りますが、まだです!まだ我慢して下さい!必ずやその機会を作りますので、今は作戦第一で頼みます!」


「必ずや、御願いします!十字軍騎馬隊!敵の左翼に突っ込むぞ!」

 そう言うとエリアスは、アイリスの代わりに十字軍の騎馬隊を率いて、手薄になった敵の左翼に突撃を慣行したのである。


 やはり、右近衛府軍は俺を信用していないのか?後方が手薄になっている。

 しょうがない、警告して万が一を考え手を打っておくか。

 そう思った左近の行動は素早く、弾正とビートと右中将に伝令を出したのであった。



 ――――――――――――



「報告します!」


「今度は何だ!」

 一進一退の攻防を繰り広げていたビートに、伝令の通信兵が走って来たのであった。


「左近衛大将様より!おそらくこのまま行けば、右翼の右近衛軍は後方が手薄な為に、壊滅すると思われます。

 その為に、もしも崩壊すれば、ザルツ王国軍は右近衛軍を吸収し、右翼を建て直してくれとの事です。

 中陣は弾正府軍が受け持つと、スターク公ならば必ずややってくれると信じているとの事です!」


 最早右近衛府軍が暴走しておるのか、ルタイ皇国も一枚岩ではないと言う事だな。

「解った!義理とは言え、息子の頼みを聞かない親が何処にいよう!必ずや期待に応えて、この戦を勝利に導こうと伝えてくれ!」


「はっ!」



 ――――――――――――



 そして混戦中の弾正府軍の藤林 弾正大弼にも同じ伝令が届いたのである。

「なんじゃと!あの右中将のバカ者が!それに中陣は頼むじゃと!小僧めメチャクチャ言いよってからに!

 おい伝令、これが終わったら、ワシに右中将を斬らせろと小僧に伝えておけ」

 そう言った弾正は、怒りの矛先を敵兵にぶつけたのであった。




 ――――――――――――





 やはりここの大陸の者は脆い、簡単に押し出せるではないか。何でそんなに左大将の奴が伏兵を恐れていたのか解らんわい。

 そう思っている右中将に、左近からの伝令がやって来たのであった。

「伝令!左近衛大将様より、後方からの攻撃を警戒しないとは、なんたる事か!今すぐにその様に陣形を整えよ!との事です」


「ふん、臆病者の左大将に伝えよ!伏兵は無い、貴様と俺とでは戦の経験が違うのだと、ひよっこが口出しするでは無いとな」


「……宜しいので?」

 伝令の通信兵は、一瞬躊躇した。

 この様な伝令をそのまま伝えれば、左近が激怒するのは、火を見るより明らかであったからである。


「かまわん、一言一句そのまま伝えよ、それと今後は右近衛府軍は、貴様の指示には従わんとな」

 そう言った右中将は、馬上から地面に唾を吐き付けて、戦場の指揮に戻ったのであった。




 その右中将からの伝令を聞いた左近は、凄まじく怒りは沸点に達したのだが、ラナが側に寄って言ったのである。

「旦那様、落ち着いて!たかが右近衛府軍が使い物にならない、だけじゃない!他の皆は、旦那様の事を信じているんだよ!」


 そうだ、ラナの言うとおりだ、ここでキレたら何もかもが終わってしまう。

 そう思った左近は直ぐ様その頭脳をフルに回転させ、ある結論に至ったのであった。

「よし、この際右近衛府軍は、いない事にする」


 その左近の言葉に、他の者は驚いたのであったが、左近は右近衛府軍を助けるには、犠牲を払わなくてはならない。

 それよりは、いなかった者と、右近衛府軍を見棄てて、考える事にしたのであった。


 その時であった、ようやく森の伏兵部隊が動き出したのである。

 まるで津波の様に押し寄せる大軍に、警戒していた三軍は何とか耐えたのであったが、右近衛府軍は後方からの攻撃は、無いと想定していた為に、その津波の様な敵兵に揉まれて行ったのであった。


「クソ、本当に伏兵がいたとは!

 皆、退くな!ここが死に場所と思え!」

 必死に叫ぶ右中将であったが、その言葉は敵兵の怒号の中に消えていったのであった。




 そして、その戦の様子を上空から見る、羽の生えた卵があった。そうペスパード王朝のビヨンド・ザ・シーカーである。

 彼等は遠く山の中で、この戦を観戦していたのである。

「どうやらこの戦は、ルタイ皇国、ザルツ王国の連合軍の敗けの様ですな。フランド辺境伯軍に挟撃されました」

 ビヨンド・ザ・シーカーを操るグルシュクは、目の前にいる美しい銀髪の女性に言ったのであった。


 ラナに似たこのダークエルフの女性は、このアルムガルド大陸唯一のダークエルフの王国、ペスパード王朝の女王ニーナ・ケーニヒスベルグその人であった。

「何だい、せっかくここまで、伝説のルタイ皇国の武士団の戦いを見に来たのに不甲斐ないね。

 すまないねベイル公、こんな所まで付き合わせて」


「いえいえ、私は陛下と一緒に旅が出来て楽しかったですよ」

 そう言った、騎士風の人間の男性は、ペスパード王朝と領土を接する北方連合(ノースユナイテッド)の1つデュラン王朝の大貴族ベイル家の長男でレオン・イースト・ベイルと言い、ただ本人はイースト・ベイルの当主となるのが嫌で、弟に当主を譲り、ペスパード王朝と隣接する領地を貰って、悠々自適に暮らす若者である。


 その時にグルシュクが二人に気になる事を言ったのであった。

「陛下、少々気になる事が有りまして……」


「何だグルシュク、お前らしくもない、ハッキリと申せ」


「それが連合軍の左翼に、銀髪のダークエルフがおります」

 グルシュクの言っている事は、銀髪のダークエルフとは、ペスパード王朝の王家の血筋を表していると言うことである。


「……ソイツの顔はハッキリと見えるか?」


「少々御待ちを……おお、陛下に瓜二つですな」


「何だと?……まさか姉貴の子供か?」


「それは、解りませんが……どうします?」

 グルシュクに言われて、暫く考えていたニーナであったが、突如頭をかきむしると、言ったのであった。


「姉貴の忘れ形見なら、助けるしか無いだろう……でもあんなにも大人数は、相手に出来ないよな……どうすっかなぁ……」

 そうニーナが言っていると更にグルシュクが言ったのであった。


「陛下、もしかするとこれは、連合軍の作戦かも知れませんぞ……いや、何と!何だこの展開は!……気付かれた!いやまさか……」


「どうしたと言うのだ、ハッキリと申せ!」

 煮え切らないグルシュクの態度に、ニーナはイラつきながら言ったのであった。


「先ずは、辺境伯軍の行く手には、何やら黒い鎧のルタイ皇国軍が待ち受けております。

 そこの将軍らしき女性とビヨンド・ザ・シーカーを通じて目が合った様な……」


「それは、偶然だろ?まぁ用心に越した事はないから、出来る限り気を付けろ。で、次は?」


「それが、川を渡った向こう岸に、北には大きな鎌を持ったメイドが……南には執事が待機しております」


「何だそれ?……意味が解らん、次は?」


「王都レンヌから、1万以上の兵が出陣しましたが……それを率いているのは、あの帝国の魔女騎士団(ナイトウィッチーズ)のアミリア団長なのです」


「それも意味が解らん……王都は、まだ無事なんだろ?そこから何故、帝国の雷帝が出てくるんだよ……何だかこの戦は、楽しくなりそうだね。

 ベイル公、どうする?一緒に行ってみるかい?」


「もちろん、面白そうだ」


「話は決まったね。皆、移動するよ、グルシュクを担いでおやり」

 ニーナがそう言うと、数人のダークエルフがやって来て、瞑想中のグルシュクを連れて行ったのであった。





 ――――――――――――





 何やら五月蝿い蝿が飛んでいますね。

 しかし、敵の作戦で右翼が既に、ほぼ壊滅状態に……右近衛府軍は、何故お父様の命令を、守らなかったのでしょう?まぁ理解できない猿以下の脳ミソなら仕方がないでしょうか。

 断崖の街道に布陣しているパンドラは、ビヨンド・ザ・シーカーを見詰めて思っていた。


 今パンドラ達の目の前には、半透明の敵兵が並んでおり、これは幻術師による、幻影の兵士達であった為に、パンドラ達は迂闊には攻めることが出来なかったのである。


「クロエ、あの忌々しい兵士の弱点は有りますか?」


「幻影は、幻術師を殺すか、解除させないとどうにも……でも、これだけの兵士を生み出したのですから、おそらくは近くに居るものかと思われます」


「待ちなクロエ、そう断定するのはまだ早い。魔力が多い奴の可能性もあるし、一人とも限らない、複数の可能性だってある。

 ただ、解ってるのは、数が多ければ多いほど、幻術師は近くに居るって事だね」

 そう言ってクロエに異論を唱えたのは、ママであった。


 パンドラ達の目の前には、半透明の幻影兵士が。

 その後方には、盾を並べて長槍を突き出している現実の兵士が。

 その後方にも幻影兵士と現実の兵士が、交互に5重の布陣で待機している。

 いくら天眼で確認しても、どれが幻術師なのかが、全く解らない。

 そんな状況を踏まえて、パンドラの頭の中の頭脳が高速で働きだしたのであった。


「ソニア、私のグラビトン・バスターや重力魔法が通用すると思いますか?」


「姫さん、それは難しいね。あのグラビトン・バスターは、威力が有りすぎて、崖に当たると崖崩れを起こし、私達の行軍が出来なくなる。

 重力魔法も、幻影には効かないだろうよ。

 姫さんは、平地や見晴らしの良い場所で、最大の力を発揮するタイプだ、左近も配置ミスをやるって事だね」


 まさか、お父様がその様なミスを……そうか、敢えて私の苦手な所に放り込む事で、私の苦手な所を克服しようとしているのですね。

 しかし、それならば、何もバスティやテスタを私から引き離さなくても……ん?と言う事は、残るメンバーで何とかしろと?

 そうだ、私はここに来て、ソニアやクロエの意見を聞いている、これは今まで無かった事だ。

 そう言う事か!私は今までは、ほとんど自分で敵を倒してきた。

 しかし、苦手な所で躓き悩んでいたが、私にはこの仲間がいる、お父様はそれを教えたかったのか、ならば私がこの状況を打開出来る策を考え、皆を動かさなければなりませんね。

「なるほどね、お父様も人が悪い」 


 そう言ったパンドラの判断は速かった、すぐに指示を出したのである。

「弓を使える者は後方へ、他の者は先陣はリン!二陣は佐平次にクリスティーナ!鋒矢の陣を組め!クロエとロビンは、私の側に。

 ソニアは、弓隊と一緒に後方待機!私は少し上がります」


 パンドラがそう叫ぶと、黒騎士団(ブラックナイツ)は慌ただしく動き出したのである。


「え、え、え?佐平次、鋒矢の陣って何?」

 そう言って一人テンパっていたのは、クリスであった。


「こっちです!姫様はクリスティーナ様に、第二陣と言っておられました、リン様の後方に、いれば良いんですよ」

 そう言って佐平次は、クリスを連れて、リンの後方に待機したのであった。


 クリスが背後を見ると、黒騎士団(ブラックナイツ)が各自何処で何をするのか解っているかの様に、整列してく姿があったのである。

 これが、ルタイ皇国の陣形と言う物か。

 クリスがそう思っていると、佐平次が説明し出したのであった。

「鋒矢の陣、軍の配置を弓矢の鏃の様に配置する事により、軍を矢の様にして敵軍を貫く陣形です。

 まぁ簡単に言えば私達は今、弓矢の鏃になったって事です」


 そうか、この狭い断崖の街道は逃げ場が無い……この陣形で突き進めば……

 そう考えたクリスは、陣形の大切さと初めて実感したのであった。




 上空から偵察をしたパンドラは、ママの前に下り立つと1つの命令を出した。

「この断崖の街道の上は、岩ばかりで何もありませんでした。どうやら巨大な一枚岩が割れた所に、この街道を作った様ですね。

 そこでソニア、弓隊を率いて断崖の上から移動して攻撃しなさい」


「良いねぇ。で、目標は?」


「あのウザい幻術師」


「了解した、ド派手に行こうや姫さん」

 そう言ったママは、葉巻に火を付けて、ニヤリと笑みを浮かべたのであった。


「ド派手に行くには、新しい武器も必要でしょう、これをさしあげましょう」

 そう言ってパンドラが、アイテムボックスから出し、ママに渡したのは、二本の苦無であった。


「これは?」


「これは苦無と言って、ルタイ皇国の忍が使う武器です。

 その苦無は、兼平の昔に作った武器だそうで、魔力吸収のスキルが付いています。ルタイ皇国では、魔法使いがいない為に、無用の長物とされてきましたが、ソニアでしたら重宝する事でしょう。

 それに、兼平に言って細い溝をその苦無に入れさせました、これで魔糸をその溝に沿って這わせば、中々の武器になると思いますよ」


「良いねぇ、気に入った。姫さん、こいつの名前を付けてくれよ」


「……飛燕にしましょう。では、期待していますよ、ソニア」

 そう言ったパンドラは、崖の上に空間転移を開いて、ママ達の別動隊を移動させたのであった。





 ―――――――――





 そろそろか、敵は森の東側には居なくなったな。

 左近は部隊の指揮をしながら天眼で、伏兵のいた森を確認し、敵兵が森の西側に集まり、半分ほどが出たのを確認したのであった。

「伝令!これより作戦を次の段階に移行する!セシル達に火計の実行を、各部隊には 突撃準備をさせろ!」


 左近の号令を合図に各部隊は、次の段階の準備に動き出したのであった。




 ――――――――――――





「伝令!御館様から、火計の実行をせよとの命令が出ました!」

 王都レンヌに待機していた、セシル達に火計の実行の命令が下ったのであった。


「……意外と時間が、かかったな……セシル行くよ」


「了解、お姉ちゃん。ディアとクマも、何をするか覚えてる?」


「姉ちゃん、バカにすんなよー!」

「すんなよー!」


「燃やして、燃やすんだろ?」

「だろ?」


「概ね合ってる……んじゃ付いてきてね」

 そう言ったセシルとセシリーは、昔から知っている森に空間転移していったのであった。



 四人が伏兵のいた森の東側に、空間転移で出てくると、そこには大型の犬の群れが、待ち受けていたのであった。

「お姉ちゃん、黒い毛並みに赤い眼、そしてあの小さな角ってもしかして……」


「……ヘルハウンド」


「だよね、だよね。ヘルハウンドって火炎系を無効にする、厄介な魔物じゃない、でも何でこんな所に?」


「……何処かに魔獸使い(ビースト・テイマー)がいる。旦那様の天眼は、森の中では、人とその他の物しか区別できない……まさかの盲点だ、魔獣を使って後方を警戒してたとは」

 そう言ったセシルは、周囲を見渡して見たのだが、何処にも人の気配が無い。

 何処にいる?

 セシルが、そう思いながらも、ヘルハウンドの群れと対峙していると、クマがセシリーに言ってきたのであった。

「姉ちゃん、魔獸使い(ビースト・テイマー)って何?」


魔獸使い(ビースト・テイマー)は、文字通りモンスターの中でも、獣系のモンスターを手足の様に操る職業なの。

 ただし条件は、自力で主人と認めさせるか、魔獸の鞭と言うアイテムを使って操るの」


「スゲー!姉ちゃん、ボク魔獸使い(ビースト・テイマー)になりたい!」


「私も!私も!ペット欲しい!」

 そう言ったディアとクマは、手を上げてピョンピョンと跳ねて言ったのである。


「あんた達ねぇ」

 そう言ってセシリーは、呆れて言ったのだが、それをセシルが制したのであった。


「……セシリー、良いからやらせよう」


「お、お姉ちゃん?」

『やったー!』


「……大丈夫、ダメなら別の事を考えれば良いから」

 そう言ったセシルの言葉を受けて、二人はそのままヘルハウンドの群れの前に出たのであった。


 ヘルハウンドの群れは、前に出てきた二人に対して明らかに警戒していたのであったが、ディアとクマが目に魔力を込めてヘルハウンドに言ったのであった。

「我に従え」

「従え」

 ディアとクマが、そう言った瞬間ヘルハウンド達は、何かに怯える様に、伏せたのである。


 そうか、魔獸を使役するには、攻撃対象が魔獸使い(ビースト・テイマー)以下の強さで無いと、逆に使役される事がある。

 いくら魔獸の鞭を使い、能力を補正したとしても、この二人は悪魔で魔獸使い(ビースト・テイマー)よりは、圧倒的に強い。

 ならば、ヘルハウンドも二人の言う事を聞くのは道理だ……まさか、お姉ちゃんこの事が解っていたの?

 そう思ったセシリーは、セシルを尊敬の眼差しで、初めて見たのであった。


「コイツら可愛い!セシル姉ちゃん、コイツらどうしよっか?」


「ハハハ、元の主人を殺しちゃおうよ」

 そう言うディアとクマは、ヘルハウンドとじゃれあう光景を、セシルとセシリーに見せつけながら言ったのである。


「……そうだね、ディアの言う通り殺しちゃおう。それを命令したら、森に火を付けて敵を焼き殺すよ」


「オッケー!んじゃ皆、殺っちゃいな!」

「ちゃいな!」

 二人がそう言うと、ヘルハウンド達は一斉に西の方角に駆け出したのであった。

 それを確認した四人は、セシリーが突風を出して、他の三人がまるで火炎放射機の様に森を焼き尽くしたのである。


 フランド辺境伯軍の伏兵部隊は突然起こった、大規模な森林火災に混乱状態になると、そのタイミングを狙っていた左近達が一斉に動き出したのであった。



 ―――――――――



「スターク公、森から煙が!」


「そろそろか。セルゲン!突撃の準備は?」

 ビートがそう言うと、王国軍の中央で待機していた、親衛騎士団5百を率いているセルゲンが眼を見開いて言ったのである。


「いつでも行けます。我等ザルツ王国の意地と誇りを見せましょう」


「うむ。そなた達も必死に付いて来なければ、味方に踏み殺されるぞ」

 ビートが言ったのは、生き残った右近衛府軍の侍達に向かってであった。


 ビートは、右近衛府軍が瓦解すると、左近の命令通りに、そのまま右翼に展開し、右近衛府軍を吸収しつつ、戦線を維持していたのであった。

 これは、ビートが優秀な将であったが為に出来た事であったが、その助け出された右近衛府軍の侍の中に、片腕となった右中将の姿があったのである。


 その時に通信兵が、ビートに左近の突撃の命令を伝えたのであった。

「スターク公、左近衛大将様より伝令です。

 突撃開始、我等の道を切り開く大切な役目を御願いします。との事です」


 義理の息子とは言え、息子にこう言われて奮闘せぬ者が何処にいようか。

 ビートは、少しはにかむと、伝令に伝えたのであった。

「伝令、我等の突撃をご覧に入れよう、頑張って我等の後に付いて参れと、左近衛大将に伝えよ。

 セルゲン、聞いた通りだ、行くぞ!」


「承知!親衛騎士団、我に付いて参れ!」


『おお!』

 そう言った親衛騎士団を先頭に、左近達の連合軍は、北に向かって突撃を敢行し、弾正府軍、左近衛府軍と続いて、包囲網を見事に突破し、辺境伯爵軍の北側を封鎖したのであった。


 また、それと同時に、南からやって来たアミリア率いる、傭兵部隊が辺境伯爵軍の南側に展開し、南側を完全に封鎖した為に、辺境伯軍は東は森からの火が、北と南側には連合軍に封鎖されて、残るは川向こうと、川沿いにしか軍が移動出来なかったのであったが、ここにも北と南を封鎖する者がやって来たのであった。

 そうバスティとテスタである。


 テスタは、大きな死神が持っている様な鎌で、次々と辺境伯軍を刈り取っていき。

 バスティは、その見事な体術で、兵士を葬っていったのであった。




 全てが順調に思えた中で、王国軍の突撃して作った道を、突き進む左近達の左近衛府軍に、近付く者がいたのである。

 フランド辺境伯軍についた、ザルツ王国の専属勇者のラウド・ジュダースであった。


 彼は左近衛府軍の前面に出ていた、ボル率いるリザードマンの部隊に近付くと、誰がその部隊を率いているのかを見極めて、ボルに目星をつけたのである。


 あれがリザードマンを率いている奴か。

 そう思ったジュダース公は、空間転移を開いて自らの剣を突き立てたのであった。



 左近が愛馬の青葉で駆け抜けていると、横を走るボルの喉元に黒い煙が出るのが見えたのであった。

 あれは空間転移?ヤバい!

 そう思い、ボルに声を掛けようとした左近の言葉よりも速く、その空間転移から剣が出て来て、ボルの喉を突いたのであった。


「ボル!」


「オヤジ!」


 思わず飛び降りた左近は、ボルを抱き抱えると、喉から溢れ出る血を押さえて、必死に何かを訴えていたのである。

 左近には直ぐ様、それは「自分に構わずに、速く行け」との事であるのが、解ったが左近は首を振ると言ったのであった。

「ボルよ、お前が何と言おうが、俺は見棄てんぞ」


 その言葉にボルの目には大粒の涙が溢れ出てきたのである。

 左近は、青葉にボルを乗せると、バッシュや蔵之介に向かって叫んだのであった。

「蔵之介!お前は部隊を率いて包囲網を突破したら、左少将に塞き止めている堤を壊せと連絡しろ!」


「兄者はどうする?」


「俺は後で行く!早く行け!」


「わ、分かった」

 そう言った蔵之介は、左近に一礼し、馬を走らせたのであった。


「ラナもバッシュを連れて早く行け!」


「で、でも……」


「でもじゃない!お前の夫は、簡単には死なん!」


 ラナは、左近の言葉を聞いて、唇を噛み締めて言ったのである。

「これが終わったら、二人で何処かに行こうね」

 そう言うと、ラナはバッシュを無理矢理馬に乗せて駆け抜けて行ったのであった。


 おいおい、そんな事を言ったら、俺の死亡フラグ立ちまくりじゃないか……さてと、気を取り直して、さっきのは空間転移だった、と言う事は勇者が近くにいるって事だ。

 俺が何とかしないと、被害がかなり出てしまう。

 そう思いながら左近は、槍を肩に乗せて溜め息をついた時であった、背後から左近に話し掛ける者がいたのであった。

 そう、エリアスと珠である。

「二人とも……何で?」


「解りきった事を、アイリスの母上様ならば、この状況で父上から離れる事はしませんよ。

 それに、ボルを刺した者を殺すのでしょ?ならば露払いはこの珠にお任せを」


「御館様、僭越ながら、私も姫様と同じく露払いをしましょう」


「義父殿……死ぬかもしれないのですよ?」


「御館様、私を見くびってもらっては困ります、こんなのは聖導騎士団では、日常茶飯事でした。

 久々に暴れる事が出来て、良い運動になりそうです」

 そう言ったエリアスは、とても良い笑顔で、左近は、この人は生まれながらの戦人だと思い、何故か自分も笑顔になっているのを感じたのであった。


「では、義父殿、珠よ。楽しもうか」

 そう言った三人は、押し寄せる敵兵に向かって行ったのであった。




 ―――――――――




「何だと!左近衛大将が、まだ戦場に残っているだと!」

 左近が戦場に残っているとの情報を聞いたビートは、驚き思わず叫んだのであった。


 何故だ?予定ではこんな展開は無かった筈だ……そうか、ジュダース公がいたのか、ジュダース公は、勇者だ。

 勇者を倒すには、勇者でなければ、難しい……だから自身が勇者の左近衛大将が残ったのか。

 しかし、万が一と言う事もある。

 そう考えたビートは、全軍に向かって、伝令を出したのであった。

「伝令!全軍に向かって伝えよ!

 今、我が義理の息子の左近衛大将は、ただ一人で戦場に残ってジュダース公を倒すために孤軍奮闘しておる。

 これを見棄てては、我等の名折れである!そこで皆に頼む、我が息子を救ってくれ!」


 そのビートの伝令を聞いた各軍は、奮起して一斉に攻撃を始めたのであった。




 ―――――――――




 そのビートの伝令は、もちろんパンドラの元にも届いたのであったが、パンドラは「そうですか」とただ一言、言っただけであった。

 ただ、クロエはその報告に、何故その場に自分がいないのかと、悔しがっていたのである

「クロエ……クロエ!」


「あ、はい、どうしました?」


「あまり心配しなくても大丈夫ですよ。あのお父様が、素直に殺されると思いますか?」


「いえ……むしろ楽しんでいるかも知れませんね」

 そう言ったクロエは、思わず笑みをこぼしたのであった。


「よく解っているじゃありませんか」

 そうパンドラが言った時であった、後方から警護の侍を引き連れた、関白の声が聞こえて来たのであった。


「本当に親子揃って、性格が悪いの」


「あら、これは殿下。性格が悪いって人聞きの悪い…せめて器が大きい、信頼していると言って欲しいですね」


「……お主、最近ますます左大将に似てきたの。所で、幻影の兵士が出たと聞いて、見物に来たのじゃが。

 本当にあれは幻影か?」


「そうです、こちらの攻撃は一切当たらなくて、向こうの攻撃は当たる厄介な兵士です……試した事は無いですが」


「で、どうする?このまま鋒矢の陣で待機のままか?」


「今崖の上に、ソニアの斬り込み隊が、幻影師を探しています。そのまま幻影師を殺して幻影が消えたら突撃で、無理ならリンが先行して突撃して道を開き、ただ潰します」


「なるほどの……しかし、中々に苦戦してそうじゃの?ワシにはお主が、やりにくそうに見えるぞ」

 そう言った関白は、髭を擦りながらパンドラに言ったのであった。


「やりにくいですよ正直。でもこれは、お父様が私に与えた試練ですので」


「ほう、試練とな?」


「お父様は、時折こうやって私に試練を与えます。そして私は、自らの力や仲間の力で、その試練を乗り越えて、将として色々な事を学ぶのです」


 それは、親子の関係では、無いではないか。

 どちらかと言うと、師弟の関係であろう……左大将よ、お主はどんな化け物を作ろうとしているのじゃ。

 確かに家の為、ルタイ皇国の為なら、それも正解なんじゃろうが……何だか不憫じゃの。

「パンドラ、お前はそれで良いのか?」


「良いも悪いも、お父様の期待に応える事が全てです」


 不憫じゃ……この歳の女性ならば、恋の1つもしてみたいだろうに……戦が終われば、少し羽を伸ばす様に左大将に言ってやるか。

 そう思った関白は、左近にどう言ってパンドラを遊ばせるか考えていたのであった。




 ―――――――――



 その頃別動隊を率いるママは、崖の上から、辺境伯軍を見詰めていたのであった。

 幻術師を探していたのであったが、それらしき者はいない。

 いや、いないと言うか物凄く怪しい馬車が三台止まっていたのである。


 やっぱりあの中に、幻術師がいるかも知れないんだよな…それだと、何れに入っている?三台共にいるのか?ここからじゃ何も解らないんだよな。

 馬車だと弓矢の攻撃は当たらないし……めんどくさい、このまま飛び降りて暴れるか。

 そう考えたママの判断は速かった。

「おい、その短刀…中々に良い物だな、貸せ」


「か、貸せって?副長、何をする気ですか?」

 そう言って自分の脇差しを問答無用に抜いて、何やら魔糸をくくりつけているママに、侍は聞いたのであった。


「チョッと待て……出来た」

 そう言って、脇差しと魔糸の強度を確かめる様に確認したママは、いきなり地面に脇差しを突き立てて、侍に言ったのであった。


「ちゃんと、抜けないように固定しておけよ」


「え?」

 そう侍が言った瞬間、ママは何を思ったのか、ビル10階程の高さの崖を飛び降りたのであった。

 ママは左手で、魔糸の出る速度を調節して、華麗に崖に落ちていく。

 その光景に思わず侍達は、見入ってしまい、援護をするのを忘れてしまったのであったが、結果それが功を奏したのであった。

 そう敵兵は、ママが崖の上から降りてくるのが気が付かなかったのである。


 ママが左手の魔糸を切り離し地上に降り立った瞬間、右手を上げてクルリと円を描くと、周囲の兵士が一瞬で細切れになったのであった。

 その光景を見た敵兵が叫んだのである。

「敵襲!敵襲!」


 その腹の底から出た声は、敵兵のみならず、崖の上の別動隊をも正気に戻すには十分であった。

「おい、副長の援護だ、援護!ありったけ射ちまくれ!」


 一人の侍の言葉を切っ掛けに、崖の上から街道の敵兵に、雨のように弓矢が降り注いだのである。




 チッ、こう敵兵が多くちゃ、魔力が底をついちまう、少し早まったかな……そうだ、姫さんから貰った飛燕があった!使ってみるか。

 そう思ったママは、腰から予め準備していた飛燕を取り出すと、ブンと振り回して、周囲の敵を斬り刻んだのであった。

 ただ、その速度は、通常ママが使用する魔糸よりも速度が速く、威力も格段に上がっていたのである。

 これは、普通に何も先に付いていない、ただの糸を振り回すよりも、先端に重りの付いた糸を振り回す方が遠心力もかかり、速度、威力は元より操作性も上がると言う、ただの科学の応用であったのであるが、この世界には、そう言った理論も無い為に、ママはパンドラの事を天才かと思う程であった。


 何だよこれ……全てが段違いじゃ無いかよ。

 それに、攻撃が敵に当たる度に、魔力が回復されて行くのが解る。これじゃ私の体力が無くなる迄、永遠に攻撃出来るじゃ無いかよ。

 そう思ったママは、頭の上にネコ耳をピョコンと立てて、三台の馬車の方に耳を向けると、三台中二台の方から、微かに心臓の鼓動の音が聞こえたのである。


「見ぃつけた」

 そう言ってペロリと舌を舐めたママは、ニヤリと笑みをこぼし、牙を見せると、心臓の鼓動のする馬車の方向に向かって走り出したのであった。


 走り出したママの速度は、ミーアキャットの血を受け継ぐ者の為か、常人以上の速度で、とても人間ではその動きに反応が、出来なかったのである。

 ママはそのまま馬車の屋根に飛び乗ると、そのまま屋根を殴り、破壊した箇所から中を見ると、中にはローブを着た男が、瞑想をするかの様に座っていたのであった。


「大正解」

 そう言って悪魔の様な笑みを溢したママは、一瞬で馬車ごと魔糸で細切れにしたのであった。


 居所が解れば、後は簡単さね。

 そう思ったママは、飛んできた弓矢を、魔糸で捕まえた敵兵で盾の代わりにして防ぐと、次の目標に向かって突き進み、馬車を細切れにすると、上の味方に向かって叫んだのであった。


「皆、撤退だ!いちいちこんなの相手にしてられないからね!」

 そう言ったママは、飛燕を崖に突き刺して、まるでスパイダーマンの様に移動すると、そのまま崖の上に飛び移り、味方と一緒に撤退して行ったのであった。




 ―――――――――



「殿下、どうやらソニアの別動隊が成功した様ですね」

 目の前の幻影兵士が、消えたのを見たパンドラが関白にそう言った。


 急に消えた幻影に、敵の兵士が盾の向こうで、見えなくても、驚き動揺しざわついているのが、手に取る様に解る。

 その状態を見ながら、関白はパンドラに言ったのである。

「さすがだな、さてパンドラよ。次はいよいよ……」


「はい、殿下には我等の圧倒的な働きを、ご覧に入れましょう」

 そう言ったパンドラは、静かに腰の刀を抜き、そのまま上にスッと上げると、先陣のリンが空中に上がったのであった。


「おい、パンドラよ、まさかとは思うが……」


「ええ、そのまさかですわ殿下。準備は宜しくて?」

 そう言って笑みを溢したパンドラが、前を向き叫んだのであった。


「全員抜刀!突撃準備!

 この戦は、我等の関白 冷泉 永富殿下もご覧になられている!ただの勝利では、我等の力はその辺の兵士と何ら変わりは無い!圧倒的な勝利、一方的な虐殺!それこそが我等の力だと、殿下にお見せするのだ!」


『おお!』

 そう言った兵士達は、顔付きも変わり、パンドラの次の指示を待ったのである。


 そして、パンドラがそのまま刀を前に振り下ろすと、リンはまるでミサイルの様に敵兵に飛ばされ、並んでいた盾にぶち当たったのであった。

 突然飛んで来て、陣形を崩した大きな黒い騎士に、敵兵が動揺した瞬間、パンドラが叫んだのである。

「突撃!蹂躙せよ!」


 その言葉で、一斉に動き出したのを敵兵が見て、盾を整列し直そうとしたのであったが、リンの攻撃とクロエとロビンの弓矢によって、それは阻まれて、戦列が一気に瓦解したのであった。

 鋒矢の陣で突撃した黒騎士団(ブラックナイツ)は、文字通り弓矢の様に敵軍に突き刺さり、その勢いは止まる事を知らなかったのであった。





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