ヒメネス
王都レンヌの広場には、傷付いた兵士の治療や死体などが集められており、レンヌの市民達は自分達を解放してくれたルタイ皇国の兵士達に、何か少しでも報いる事が出来ないものかと、その作業を手伝っていたのであった。
その人混みの一角に、クロエとママからの報告を受けるパンドラがいたのである。
「そうですか……やはり出ましたか」
「はい、死亡者は68名で戦列に復帰できないほどの重傷者は104名……残る負傷者は216名になります」
「残るは480名程ですか……死体は全て回収し、丁重に埋葬してやって下さい。重傷者の今後は、私が何とかします。
バスティ達は、負傷者をルゴーニュ迄送りなさい」
そう言ったパンドラは、少し暗い顔をして言ったのであったが、勿論これは演技である。
その演技もあってか、生き残った兵士は、パンドラのその姿を見て、死んだ者の為にもパンドラに更なる忠誠を誓ったのであった。
しかし、この演技は少々疲れますね、ここで泣くのがベストでしょうが、涙が出ない……やはり悪魔には厳しいのでしょうか。
そんな事を思っていると、周囲のギャラリーがざわつき出したのであった。
その原因は、空間転移であった。
空間転移の黒い煙が見えたパンドラは、誰が来たのかと思い近寄って見ると、そこにいたのは、左近とアイリス達が正装をしてやって来たのであった。
「お父様……何ですの、その顔は?」
左近の顔の引っ掻き傷を見たパンドラは、思わずドン引きしたのであった。
「いやぁ……まぁ……その名誉の負傷というかなぁ……」
「日頃の行いの結果です」
言いにくそうな左近の隣のアイリスが、ぶっきらぼうに言ったのであった。
あぁ、お姉様が落とした爆弾の結果ですか。
「所で今日は、何故来られたので?」
「他の者は、このレンヌに来た事が無いので、空間転移が出来なくてな、だから最初に勇者の各部隊の者を連れて来たんだよ。
お前、所でこのホワイトタイガー、どうした?」
「これは、ゲハルト国王陛下に頂いた白虎ですわ……それと、少々面白い事が解りましたが、また今度お教えします。
それと、セシルお母様とセシリーお母様のご両親がおられましたよ」
パンドラのその言葉に、セシルとセシリーの二人は、一瞬ビクッと身体を動かして反応したのである。
二人の言っていた毒親か……どうしようも無かったら、前線にでも放り込むか。
「今はそのご両親はどちらに?」
「戦果の報告の為に、国王陛下の元にリリアナ王女様達と、戻られております……アイリスお母様、顔色が少し悪いですが、大丈夫ですか?」
「本当だ、アイリス無理はするなよ」
「誰の……一体誰のせいだと……」
「すみません……」
キレかけたアイリスの言葉に左近はシュンとしてしまったのである。
――――――――――――――――――――――――
「やはり、あの姉妹は噂通りであったか……」
リリアナ達から報告を聞いたゲハルトは、タメ息を吐き言ったのであった。
「それともう1つ報告が御座いまして」
「何だスターク公、言ってみよ」
「はい、孫のパンドラ曰く「私が一番お父様のスキルを受け継いでいる」と……」
「なるほど、では当たりは左近の方だと言う事だな」
そう言ったゲハルトは、ニヤリと笑みを浮かべて言ったのである。
「報告します、島 左近衛大将 清興様、ならびにその奥様達とパンドラ様が、御越しになられました」
「通せ」
報告の兵士にゲハルトがそう言うと、貴族達は横に並び整列したのであった。
扉が開かれ、やって来た左近達は、左近を先頭にゲハルトの前に進んで膝を付いたのである。
あれが二人の夫の左近衛大将か、若い……とてもあのパンドラや珠が子供の年齢に見えない。
いや、ルタイ人が若く見えるだけか。
あの、ダークエルフがペスパード王朝の者だとすると、あの金髪が帝国のノイマン家の者か。
しかし、全員のあの髪の毛は何だ?とてもサラサラで、この世のどの王族や貴族より美しい……と言う事は、あれは今世間の貴族の女性で流行っている、シャンプーと言う物を使っていると言う事か。
なるほど、それ程の財力が有ると言う事だな。
それにあの武具は、全員伝説の武具ではないか?この左近衛大将、一体何れ程の財力があるのだ?これは融資も期待できるな。
そんな事を考えながらビートはその一行を見ていたのであった。
「島 左近衛大将 清興、只今推参致しました。本日は我が勇者の部隊の空間転移を使い、このレンヌに我がルタイ皇国武士団1万2千を送り込む為に参りました」
「そうか、前に言っておった傭兵はどうなっておる?」
「既に傭兵ギルドとの契約を済ませ、その傭兵の兵糧はこちらが出す様になりましたが、宜しいでしょうか?」
「言った手前、仕方がないの……如何程集まると思う?」
「おそらく、2万程かと……条件をかなり良くしましたので」
「なるほどな、以来主はルタイ皇国の左近衛大将で、資金はルタイ皇国とザルツ王国。兵糧はこちらがもつ、かなりの好条件だな……部隊を率いるのは?」
「セレニティ帝国は、魔女騎士団の団長アミリア・マクレガー」
その左近の言葉に、玉座の間の場内がざわめきだしたのであった。
「静まれ……そのマクレガーは、信用できるのか?」
「出来ます、アミリア・マクレガーは我等に降っておりますし、その娘も我等が抑えております」
「そうか……ならばこの作戦にザルツ王国の者がおらぬは、恥と言うものだな。
左近よその戦には、この貴族の者達と、セルゲン率いる親衛騎士団等のザルツ王国軍を戦力に入れてはくれんか?」
貴族?だがこの人達は以前の時には居なかった様だが……まぁ良いだろう。
「それは良いですが……死にますよ?」
「死を恐れては、武功は立てれん……それはかまわんが、勝利が条件じゃ」
「それは保証しましょう」
「さすがは、若くして左近衛大将になっただけの事はある、頼もしいの。
そうじゃ、そこの貴族にスターク公もおる、セシルとセシリーとは結婚したのじゃろ?そこのスターク公は、御主の義父となる、まぁ色々あるじゃろうが、出撃迄の間、別室でゆっくりと話すが良い」
そうゲハルトの提案で左近達は、強制的にスターク公との会見の場を設けられたのであった。
――――――――――――――――――
何だこの空気は?重い、重すぎる……エリアスの義父殿の方が本当に楽だ、俺この人達苦手だ。
部屋に入り、この重い空気の中でセシルが口を漸く開いたのである。
「……何か私達に言う事は無いの?」
「無い!」
「あ、あなた……この子達が可哀想で……」
「うるさい、お前は黙っていろ!この子達は貴族の名誉の為に行ったのだ、それは理解していよう。
左近衛大将殿も解るであろう?」
こっちに振るなよオッサン……でもこの考えは醜すぎる。
「解りませんな」
「何?」
「文化の違いもあるかも知れませんが、全く解りませんな。
我がルタイ皇国でも、確かに領土を奪われた者もおられますが、しかし戦に同行し武功を立てて再興を果たします。
しかしその中で、子供を売る……その行為は本当に最後の手段であり、皆が心の中で詫びておりました……決して今のスターク公の様な、考えで行う者はおりません……もしも行う者がいるとすれば、ルタイ皇国では、最も恥ずべき者で、軽蔑される人間なのです」
その言葉を聞いたビートは、固まってしまったのであった。
どうする?文化の違いか……左近衛大将の文化では、私の理屈が通用せん所か、見下される存在になってしまう。
陛下には、この者を取り込めと言われておるし……ここは不本意だがこの者に合わせるしか無いか。
「解った、二人には謝罪しよう、今まですまなかった」
そう言ったビートは、二人に頭を下げたのであった。
だが、それを見たセシルとセシリーの二人の目は信じておらず、それは左近も感じていたのであった。
そのまま左近達は、当たり障り無く会話したのだが、ここで解ったのは、二人を売り飛ばしたその理由と、母親は二人に心の中で毎日謝罪していたと言う事であった。
その理由とは、単純に貴族の見栄である。
今までの生活水準は、崩したくは無い。それに手柄を立てて再興を果たすにも、誰の下についての戦はしたくは無い。
そうしている間に、備蓄の金が無くなり二人を売って、自分達の生活の質を落とさぬ為に、売り飛ばしたのだと言う。
全くのクズだ……救い用の無い親だ。
二人には、戦場に出たら治ると言ったが、その自信は無くなってきた、本当に治るのかこれ?自信無くなってきた。
そんな事を考えながら左近は、この場を当たり障り無くその場をやり過ごし、ビート達はパンドラ達と反乱貴族の討伐に向かったのであった。
――――――――――――――――――
レンヌ包囲軍を壊滅させたパンドラ達は、予定通りその日の夕方には、ガレリ砦のすぐ近く迄やって来ており、目の前にはガレリ砦から再びレンヌの包囲に向かう軍が、パンドラ達に向かって来ていたのである。
「姫さんどうするよ!このままなら、もうすぐ敵にぶち当たるぞ!まさか真正面からぶち当たる気か?」
「敵が?そんなものは、すぐに消えてしまい、道が出来ますよ」
そう言ったパンドラは、前に手を突き出したのであった。
「グラビトン・バスター!」
パンドラが繰り出したその巨大な閃光は、ガレリ砦から出てきた敵軍を包み込み、その後ろの砦まで包み、一瞬で蒸発したのであった。
「ほらね」
全くこの姫さんは、本当に全てが桁違いって事か……私もとんだ化け物のいる騎士団に入ったもんさね。
そう思いながらママは、馬を止めてパンドラに向かって叫んだのである。
「姫さん!私達はここまでだ!アルム砦で待ってるよ!」
ママの叫びに、パンドラは振り返る事も無く、ただ手を上げるだけで、バスティ達も散開し各自の担当の都市に向かい、リリアナ達はパンドラについていったのであった。
―――――14日後――――――
パンドラ達が出陣してから14日後、王都レンヌは復興と続々と集まって来る、ルタイ皇国の兵士と傭兵達で賑やかになっていた。
だが何故か、この危機に駆けつけてくる、国王派ザルツ王国の貴族からの兵士は、多くて数百名ずつ送られてくるのだが、肝心の貴族は、誰一人いなかったのであった。
理由は、どの貴族も領内の治安維持の為にや、フランド辺境伯がこちらに侵攻する情報がある為に、動く事が出来ないと言った理由であり、兵力も送られてくる兵力も多くて数百名程で、全て合わせても3千に行くかどうかであった。
それもその筈、フランド辺境伯は、各貴族に動くとレンヌの次に攻めるのは、お前達だと言った内容の書簡を送っていたためである。
王国の最大勢力のフランド辺境伯とは、戦いたくは無い。
だが、今兵を出さねば、もしも国王が勝った場合は、反逆罪に問われかねない。
そう考えた貴族達の精一杯の行動であったのである。
それを解ってかゲハルトの気持ちは、左近の提案した連合の案に心は傾きつつあった。
連合内で統一の1つの軍を持てば、維持費も安く上がり、その軍を国家の合議で動かすか、もしくは各国家の防衛にならば、無条件で動かせる、最早こんな心配はしなくて良くなるのだ。
更にはその軍の統括を左近に任せれば、あの者は自分達の事を友人と見てくれる節もあるし、裏切りだけは無いと確信できる。
それは、左近の行動を見ていると、約定だけは守り、ルタイ皇国の帝には絶対に逆らわないのである。
そしてその帝は、会った事は無いが、書状ではかなりの理想主義者だ。
こちらが裏切らない場合は、どの様な事をしてでも助けて来る、そんな男であったのだ。
そんな考えになって行ったゲハルトは、ビートを王宮に呼びつけたのであった。
「ビート・スターク、ならびにアニー・スターク只今参りました」
「スターク公よ、戻って来て早々に呼んだのは、貴公に我がザルツ王国軍を率いてもらいたい、と思ってな」
「有り難き幸せ、必ずや陛下の前に勝利を捧げます」
「ありがたい事だな……そこで貴公に注意しておく事がある。貴公の義理の息子の左近衛大将の作戦に異議を申さずに従え」
このゲハルトの言葉は、とてもビートには信じられなかったのである。一体何故左近衛大将とは言え所詮は他国の軍事司令官、こちらが従う道理は無いのである。
「……それは、何故でしょうか?」
「そなたは、最近は家に籠りっきりであったので、知らんだろうが、そなたの義理の息子の左近衛大将は、戦の天才じゃ。
最近では我が国の3千の籠るアルム砦を、僅か90名で落とし、セレニティ帝国の3万もの兵をその半数近くで勝利し、2万近く立て籠るあのパナスを僅か9千で落とした程の者じゃ、とても常人では思い付かぬことをやってのける。
その者に異議を唱えて、作戦を変更させる等は、まさに負け戦になると言う事だ」
やはりあのパンドラが言っておった、特殊スキルの天眼と言うスキルを使用している……それでいてその作戦を立案する頭脳まさに超帝国の皇帝ヨハネスの再来ではないか。
ただ彼奴は、信義にこだわり野心が全く感じられなかった。
そこは私が何とかすれば、この小さな王国だけでは無く、この大陸を支配出来るかも知れん。
ここは、左近衛大将の戦いを見てみるか。
そう思ったビートは、心の中で笑みを浮かべながら、ゲハルトに頭を下げて了承したのであった。
その頃、左近はラナと兼平の工房にいた。
アイリスは、体調が優れず、セシルとセシリーが付きっきりで看病している為に、ラナと二人で出来上がった槍を受け取りに来たのであったが、左近が入るなり、兼平とカリシアが全力の土下座をしだしたのであった。
「なぁ兼平よどうした?」
「申し訳ございません!この度は、御館様のご自慢の槍を打ち直した所、魔力吸収が消えてしまい、変なスキルが付いてしまいました」
「師匠は悪くないッス!自分が師匠の言われた金属の配合をミスった為ッス!責任は全部自分の責任ッス!」
この光景を、他の者から見たら、子供をカツアゲしている、情けない大人に見えるんじゃ無いだろうか?
そんな事を思いながらも、左近は兼平に言ったのであった。
「兼平よ、俺はお前に、スキルが消えてもかまわない、と言った筈だよな?お前に任せたと言う事は、カリシアにも任せた事になる、気にするな。
取り敢えず朱槍を見せてはくれないか?」
「ありがとう御座います。おい、カリシア」
兼平に言われたカリシアは、奥から布に包まれた槍を持って来たのである。
左近は取り敢えず、布を取って中身を鑑定する事にした。
名前:十文字槍 種類:槍
スキル:必中 破邪
何これ?破邪?兼平が訳の解らないスキルって言ってたのは、この事か。
確かに訳の解らないスキルだな。
「ラナ、破邪ってスキルを知っているか?」
「何それ?初めて聞いた。
さすがにそのスキルは、エリアスさんも知らないと思うよ」
「そうか、まぁ必中が付いているだけでも成功だな。
それに、破邪って事は邪を破るって事だから、おそらくこの槍は聖槍の類いであろう。
そうだ、名前を付けよう……カリシアの名前を取ってカリーシでどうだろうか?」
「止めてください、恥ずかしいッスよ……」
「良い名前だと思ったのだが……ラナ、何か付けたい名前はあるか?」
「……ん~……あ~……ん~……そうだ、王殺しでどう?」
王殺しってこれまた凄い名前だな、でも面白い。
「よし、今日からこの槍は、王殺しだ」
こうして、カリシアのミスで偶然出来たこの十文字槍は、後に本当に聖槍と呼ばれるようになり、左近の家の家宝となり、代々の当主の証しとなるのであった。
「それはそうと、兼平よ。戦が終わったら邸宅の改築をやってはくれないか?」
「改築?御館様の邸宅は、最近出来た物では?」
「そうなのだが、こんなに家族が増えるとは思って無かったからな。
あの邸宅は、俺とアイリスとラナの三人が、住むだけの物と思い建てたんだよ。
そうだな……三階建てで、あの桜の下で花見が出来る様にして、露天風呂はそのままで、一階は囲炉裏の間や台所や、客室等にして、二階には各自の部屋等の居住区で、三階に俺達の寝室でどうだろうか?」
「解りました、一度図面を作ってから、色々と話し合って作りましょう。お金の方はどうします?」
「金……金かぁ……何とか経費に入れるように、俺が手を打とう。最悪、セレニティ帝国がこのナッソーに支払う賠償金で、何とかすれば良い話だしな」
そう言った左近の顔は、まさに悪徳商人の様な顔になっていたのであった。
――――――翌日―――――――――
川を塞き止める部隊を率いていた左少将は、どこか浮かない顔をしていた。
ここの所、空を見ながら溜め息しかついていないのである。
左少将率いる左近衛府軍は、5千の軍勢でケイングストンから西に行った所にある、川を塞き止める予定地点の近くの都市、キングスベリーに侵攻し、たいした抵抗もなく占領すると、そこを一時の拠点にして、川を塞き止める工事を、まさに突貫工事でおこなっていたのであった。
当初は資材等の調達に、苦労していたのであったが、ある一人の男が左少将に近付いて来てからは、その男の手配で、人足やら資材が驚くほど簡単に手に入り、作業は順調に進んでいたのである。
その男の名前はヒメネス。
ガストン商会のこのキツネ目の優男は、いつも白い手袋に杖を付いて、足を悪そうに引き摺っていた男であった。
この男こそ、エリアス、アミリア、ライリーの幼馴染である。
「……はぁ~」
左少将は、何処か浮かない顔で部屋から、空を見ながらタメ息を吐いたのであった。
「殿?……殿?……殿?……若ぁ!」
「な、何だよ安勝!大声を出さなくても聞こえているって!」
「いいや、聞こえておりませなんだ、若とは何年の付き合いになると、思っているのですか……最近の若は溜め息ばかりで、変ですぞ。
キングスベリーに来た時は、あんなにヤル気に満ち溢れておったでは御座いませんか」
「いや……レンヌの戦況が気になってな……所で何だよ?」
「……まぁそう言う事にしておきましょう。
そうそう、ヒメネス殿が、若に面会を求めて来ておりますが」
ヒメネスかぁ……彼奴は目が細すぎて見えないんだよなぁ、何考えているか解らないし。
街の噂じゃ、ガストン商会ってマフィアみたいだし……だがここまで出来たのは、ヒメネスの力も有るから会うしかないか。
「よし会おう、それともう若は止めてくれ」
「解りましたよ殿」
そう言うと、主馬首は外に出ていったのであった。
あれ?何で俺こんなにも、モヤモヤとしているんだろうか?……そうだあの時からだ。あの時に姫様に会いに行って、頬に口づけをされて……あれ?俺何で会いに行った?……でも、会いたいな。
左少将は、パンドラに口づけをされた頬に手を当てながら、そのまままた空を見上げていたのであった。
―――――――――――――――
俺の名前はヒメネス、ガストン商会の若頭で、このキングスベリー一体の支配を、先代のおやっさんの時代から任されている。
こんなにも目が細いが、これでも一応は見えている……ただこの目をバカにする者は、もうこの世にはいない。
そう、唯一バカにしてきたライは、もうこの世にはいないのだ。
最初は、怒りが込み上げて来たのだが、俺の情報では幼馴染のエリスとアミリーの二人も、ルタイ皇国に降ったらしい。
って事は、あのライが自分の命を犠牲にあの二人を助けたと言う事だろう、彼奴は昔からそんな所があった。
普段はふざけて、皆をからかって楽しんでいるが、いざとなったら、誰よりも命に代えてでも他の三人を助ける、そんな奴なのだ。
そんな奴が大人しく、くたばる筈がない、おそらく自分の命と引き換えに、二人を助けたはず。
それにこの帝国とルタイ皇国の戦は、俺の情報では、どう考えても帝国の負け戦になる、ならばルタイ皇国に食い込む方が、生き残れるしビジネスチャンスもある。
しかしナッソーのマフィアの千年の宴と、ダッチ商会が食い込んできているらしい。
ならば、どうするかと考えていた所に、このルタイ皇国軍がここキングスベリーに来たと言うわけだ。
しかし、何故かこのルタイ皇国軍は、次の都市に進軍する訳でも無く、何やら工事を始め、最初は遠い異国の地で戸惑っていたが、偶然にもルタイ皇国の若者と知り合ったおかげで、この工事を受注出来る事ができた。
しかも知り合った若者は、三好 左近衛少将 清信と言って、このルタイ皇国軍のナンバー2と言うじゃないか。
これは運が向いてきた。
そう思った俺は、このルタイ皇国軍の司令官との面会を条件に、その三好って若者と交渉すると、紹介するだけならばと引き受けてくれた。
しかし最初は意気揚々と張り切っていた三好だが、最近は上の空で溜め息ばかりだと言う。
三好がこの状態ならば、約束を反故にされる可能性もある。
なので今回その督促でここまで来たのだが……遅い、一体何をやっているのだろうか?
その時で、あった。宿屋の扉が開かれ、中から主馬首が出て来て言ったのであった。
「お待たせ致しましたヒメネス殿、中で左少将がお待ちです」
「ありがとうございます、家長様。所で今日の三好様のご機嫌は?」
「殿か……大丈夫だ」
そう言うと、主馬首はヒメネスを宿屋の中に招き入れたのであった。
この家長って男は、如何にもルタイ皇国の騎士って感じだな、エリスとアミリーと同じ匂いがする。
だがあの三好って若者は違う……何て言うか、普通の青年の様で、その中に野獣がいるって感じだ、ああいう男は、敵に回すのは得策じゃない。
まぁさすがに、あの若さでこのルタイ皇国軍のナンバー2なだけの事はある、どうせ司令官はゴリゴリとしたむさ苦しい奴だろうけど。
そんな事を考えながらヒメネスが、部屋の中に入ると、浮かない顔で座っている左少将がいたのであった。
「これはこれは三好様、本日もお元気そうで……」
そう言ったヒメネスは、被っていた帽子を脱いで、左少将に挨拶をしようとすると、左少将は手を出して制したのであった。
「挨拶は抜きだヒメネス、今日はどの様な用件だ?」
「実は以前お約束頂いております、ルタイ皇国の司令官様への顔合わせは、いつになるかと思いまして……」
「……そうだな」
そう言った左少将は、また上の空になっていたのであった。
まさかとは思うが、これは約束を守る気が無いのか?一体どうなっている?
そう思いながら、ヒメネスが主馬首に目で合図をすると、さすがにこれはマズイと感じた、主馬首がヒメネスにも解るように、キリバ語で言ったのである。
「殿、そう言えば今日の夜に、レンヌの王宮で戦勝祝いを兼ねた宴が催される様です、ここに招待状が来ておりますが……」
「……ふーん、そっか……」
「そう言えば、姫様達のご帰還が昨日辺りでしょう、姫様の戦勝祝いなのでは?」
「ふーん……何!」
「姫様の戦勝祝いの宴に、左近衛府の左近衛少将が行かねば、左近衛将鑑殿と大膳大夫殿だけでは、左大将様のメンツに関わりますので……」
「何故それを早く言わない安勝、行くに決まってる」
「ですから、その時にヒメネス殿もご一緒に連れて行かれましては?」
「そうだな……ヒメネス殿、一緒に行かれるか?」
「はい、もちろんです」
何か有ればこの家長と言う男、頼りになる……それにしても、この様子ではこの三好、その姫様に惚れているな?ならば、司令官に近付くのが無理な場合は、そちらから攻めるか。
そんな事を考えながら、二人は祝勝会の開かれている王都レンヌに空間転移で向かって行ったのであった。
――――――――――――
二人は夜にレンヌに到着し、ヒメネスは少し用事が有ると言って王都レンヌの広場で二人は、待ち合わせしていたのである。
街は既に活気を取り戻し、傭兵やルタイ皇国の兵士で溢れており、そこらじゅうで酔っ払いの喧嘩の声も聞こえ、まさにお祭り状態になっていたのである
その中で左少将は、30分程待つとヒメネスが慌てて戻って来たのであった。
「お待たせ致しました、では行きましょうか」
そう言って歩き出したヒメネスに、左少将が少し嫌な顔をしていると、ヒメネスが左少将に歩きながらとんでもない事を言ったのであった。
「そうそう三好様、あの広場から2ブロック先に【漁大亭】と言う酒場がございます。
そこの2階は個室になっており、とてもムードのある酒場で、なんでも恋人達に人気だとか。
ちょうどそこの主人は、私の知り合いで御座いまして、その漁大亭にヒメネスの名前で、2名の予約を入れておきました」
「……宴の後、俺とお前の二人で飲みなおすのか?」
そう言った左少将は、面白い顔をしてはいなかったのであった。
「いえ、少し違いますね。三好様……家長様が言っておられた姫様を、王宮から連れ出して、そこで二人でのんびりとされるが宜しいかと思いまして」
「な!何を言っておる!俺はその様な事を……姫様にその様な気持ちは持っておらん!」
やれやれ、この人は本当に解りやすいな。
「三好様、考えても見てください、遠い異国の姫様が宴に参加される……もちろん王国の貴族に囲まれて興味の対象になるでしょう、中には口説いてくる不届きな者も。
そう言った時の女性は、誰かに助けてもらうのを待っております、そこで三好様が助けて、あの漁大亭に逃げ込めば、誰もそんな酒場に行っているとは、思わないでしょう。
三好様の株も上がると言うものです……もちろん、行っても行かなくても、どちらでも構いませんし、料金もガストン商会がお支払致します」
「ありがたい……いや、そもそも姫様が嫌がっているのか、そんな状況なのか解らないだろう……それに恥ずかしいではないか」
何だか、若い時のエリスの様だな。
確かあの時は、エリスが貴族の女に一目惚れして俺とライが引っ付けたのだっけ……アミリーは、渋々と俺達の作戦に参加したけど……あぁ、あの時だったな、引っ付けた後になって、アミリーがエリスの事が好きだったって解ったのは。
あの時は、俺とライで全力で謝ったっけ……死ぬかと思ったけど。
そう思ったヒメネスは、クスリと笑って左少将に言ったのであった。
「恥ずかしいかも知れませんが、姫様をお救いするのが重要です。
三好様のプライドより、姫様が他の貴族の慰みものになる事を、阻止する事の方が重要でしょう?それにそんな時は、親は体裁などが関係して何も出来ないものなのですよ。
なのでこれは、配下の三好様のお役目です」
「……そう言うものか?」
「はい、それがこの大陸の常識で御座います」
「しょうがない……」
そう言った左少将は、ポリポリと頭を描いて、そのまま王宮に向かっていったのであった。
―――――――――
左少将とヒメネスの二人は、王宮で始まっている宴の会場に入るとそこは、まるでお伽話に出てくるパーティー会場で、優雅な音楽が流れ、中央では貴族達がドレスに身を包んで、ダンスを踊っていたのであったが、会場の半分はルタイ皇国の侍が、ルタイ皇国の正装の着物で集まっており、何やら異様な空気を放っていたのである。
その中で、貴族の中に大きな輪が出来ており、その中央ではパンドラが、何やら困った表情で話を無理に合わせている様に見えたのであった。
もちろんこれは、左少将のフィルターで見ての事だが。
「姫様……やはり……」
そう呟いた左少将の目線の先を、ヒメネスが見てみると、多くの男性貴族に囲まれたパンドラがいたのであった。
さすがに三好様の惚れた女性だ、とても美しい……が、どうも適当にあしらっている様だな、これは要らぬお節介であったか、残念。
ヒメネスはそう思っていると、左少将がヒメネスに呟いたのであった。
「ヒメネス……やはり姫様はお困りの様だな、俺が助け出さないと」
え?何処からどう見ても適当にあしらっている様だが……ああ、これは完全に恋しているのか、最早都合の良い風にしか見えないなこれは。
「その通りですね」
「し、しかし……こんなにも人がいては……」
何をウジウジしている、こんな所までエリスに似なくても良いわ……ええい仕方がない。
「大丈夫ですよ、もっと自信をお持ち下さい……」
「おい、お前もしかしてヒースか?」
ヒメネスの言葉の途中で、背後からヒメネスの懐かしい声がしたのであった、そうドレス姿のアミリアである。
振り返った左少将は、アミリアの姿を見た瞬間、思わず拳に力を込めて言ったのであった。
「アミリア・マクレガー……貴様も来ていたのか」
何だ?二人とも何か因縁があるのか?まぁ良い、これを利用しよう。エリスに似ている性格ならば乗って来るだろう。
「アミリー久し振りだな、何だお前その格好……三好様と知り合いか?」
「まぁ……そんな所だ。ってお前こそ何をしている?」
「俺は三好様と、ルタイ皇国軍の司令官に会いに行く所だが、姫様が貴族に囲まれて困ってるのが見えてな、これから行かれる所だ」
「な!」
「姫様……とても困っている様には……そうか、さすがは三好だな、姫様を救出に行くとは」
アミリアは、ヒメネスの言葉尻から何かを感じ取って、それに合わせたのであった。
「お、おう……行ってやろうじゃないか」
「頑張って下さいませ三好様。後の事はアミリーに任せますので」
「お、おう」
そう言った左少将は、まるでロボットの様に変な動きで、パンドラの元に向かったのであった。
「懐かしいなこの作戦、エリスの時の作戦だろ?」
そう言ったアミリアは、ニヤリと笑みを浮かべてヒメネスに言ったのである。
「ああ、ライが考えて俺がおだてて、お前が後に退けない状況を作る……あの三好様は、若い時のエリスそっくりだ」
「でも戦の時は、彼奴は殺し屋の様だぜ。エリスとは質が違う」
「そうか……で、アミリーすまんが俺にルタイ皇国軍の司令官を紹介してはくれんか?
肝心の三好様を、つい楽しくて送り出してしまった」
「司令官?……あぁ左近衛大将の事か、良いだろう、ついてきな」
そう言ったアミリアは、ヒメネスを連れてテラスの方に行ったのであった。
アミリアに連れて行かれたテラスの入り口には、黒いマントのクロエが立っていたのである。
「クロエ、大将に客人だ」
黒いマントのエルフ……かなりの手練れだな。
「私、ガストン商会のヒメネスと申します、この度は三好様の紹介でやって参りました、どうかお取り次ぎをお願いします」
「……すみませんが、御舘様には、今は誰も通すなと言われておりますので、明日にでもお願いします」
「クロエ、こいつはエリスと私の幼馴染だ、何とかしてはくれないか?」
そう言われてクロエは少し辺りを見渡して、二人に小声で言ったのであった。
「……まぁ正直に言いますと、ラナの奥様が、貴族は嫌なので遠ざけて欲しい、との我が儘から、御舘様が連れ出しただけなので、良いでしょう。
所で肝心の左少将様は?」
「只今絶賛、恋に奮闘中」
そう言ったアミリアは、ニヤケてテラスに入って行ったのであった。
「アミリー、そう言えば今日はエリスは?」
テラスと言うよりは、庭園の様な大きなテラスを歩きながら、ヒメネスはアミリアに聞いたのであった。
「あぁ、アイリの具合が良くなくて、他の二人の奥方様とナッソーに居残りだ……所でお前、ルタイ皇国の事は知っているのか?」
「いや、あんまり知らないな。そう言った情報はあまり入って来ないんだよ」
「じゃあ、幼馴染のよしみだ、私が知っている事を教えてやる。
ルタイ皇国は、大きく4つに別れている、国内政治を司る朝廷、治安維持の弾正府、国内の軍の右近衛府、国外の軍の左近衛府、この4つの軍が今帝国に攻め込んでいる。
ルタイ皇国は官位制で、今から会うのがこの左近衛府のトップの左近衛大将だ」
「なるほど……どんな奴だ?」
「そうだな、ルタイ人は若く見えるので、歳は解らんが、娘が二人いる。さっきの三好が行った娘が下の娘のパンドラ様だ。
妻は4人。アイリは、知っているか。
ダークエルフのラナ様、もしかするとペスパードの貴族の娘だと私は見ているが、どうも貴族のパーティーは嫌いらしい。
次がセシルとセシリーの双子の奥様、この二人はザルツ王国のスターク家の娘だ、今日はアイリスの看病でナッソーに残っているが、両親とうまく行っていない様だな。
最後に言っておくが、黒い羽根つきマントの奴等と、左近衛大将と二人の姫様には絶対に喧嘩を売るなよ、一人一人が化け物の様に強い、この戦勝パーティーも、黒い羽根つきマントの奴等が、反乱貴族を一瞬で滅ぼしたからだ、ルタイ皇国の軍人でも別格と思ってもいい」
「あの、クロエ様の様にか?」
「ああ……」
ヒメネスは、まさかとは思っていたのだが、アミリアの目があまりにも真剣なので、これは嘘では無いと確信できたのであった。
「お、いたいた。あれが島 左近衛大将 清興様だ」
そう言ったアミリアの目線の先には、月明かりに照らされて、手すりにもたれ掛かり、二人で談笑する左近とラナの姿があったのである。
その姿を見たヒメネスは思わず立ち止まり、息をするのを忘れるほど美しく、まるで絵画の様で、思わず見とれてしまったのであった。
「何だよあれ……まるで女神と神様が談笑する様な美しさじゃないか」
「ヒース、お前いつになく詩人だな。ほら行くぞ……大将!」
そう言ってアミリアは、ヒメネスを引っ張り左近の元に向かったのであった。
「おお、アミリア……お前の彼氏か?」
「大将、言って良い冗談と、悪い冗談が有るって知ってる?こいつは、私の幼馴染のヒメネスって言う奴だ、今後も宜しくな」
お、おいアミリーの奴、さっきまで怒らせるなって言っておきながら、これは流石にヤバイだろ。
そう思いながらもヒメネスは、帽子を脱いで左近に挨拶をしたのであった。
「お初にお目にかかります。私ガストン商会のヒメネスと申します」
「おお、宜しくな。俺がルタイ皇国の島 左近衛大将 清興で、こいつは俺の妻のラナだ……誰の紹介で来た?」
「三好様の紹介で御座います。
今はキングスベリーと言う都市で、三好様の仕事のお手伝いを、させて頂いております」
左少将の?あの川を塞き止める仕事か。
「そうか、それはご苦労だった。何れ程完成している?」
「既に完成し、川を塞き止めておりますが、完璧にとは行かず結構水が漏れております。
しかし三好様は、これで良いとおっしゃいまして……宜しいのでしょうか?」
なるほど、左少将め解っているな。完全に塞き止めると、川の水が無くなり怪しまれる。
ならばある程度流して水位を低くすれば、最近は雨が無いので、日照りの影響だと思うだろう、やはり彼奴は俺の作戦を理解できる、優秀な武将だ。
「もちろんそれが、ベストな状態だ。……所で左少将は?」
「只今、姫様を救出しております……ここだけの話ですが、三好様は姫様に惚れている様で」
パンドラを?まぁ無理だとは思うが、彼奴は愛とかそんな感情を持ってはいないだろう。
でも何かこいつには違和感が有る……何だろう?そうだ、足を怪我をして引き摺っているかの様に、していたのに、アミリアに引っ張ってここに来た時、一回だがその足で踏ん張っていたんだ……カマかけてみるか。
「そうか、まぁ本人達の事だ、当人同士に任せれば良い。所でヒメネス、気にはなっていたのだが、その足……怪我はしていないのであろう?」
「……良くわかりましたね」
当たりか、確か昔伊賀にいた時に、忍の者に聞いた事がある。わざと目立つ特徴を皆に見せて、隠密に行動する時に、その特徴を消して行動すると。
すると、その印象が目に焼き付き、逃げる時に有利だと、そしてその逆も有ると。
って事は、こいつはそれを普段からやっており、いつでも逃げれる様にしていると言う事か。
「まぁお互いに、隠し事は無しで行こうや」
「貴方はまだお若いであろうに……優秀過ぎますね」
そう言ったヒメネスは、細い線の様な目を見開き普通に立ったのであった。
「どうする?ここで始めるかね」
そう言った左近は、笑みを浮かべてワインを一口飲んで言ったのであった。
なるほど、アミリーが敵に回っても、問題無いほど暗殺を撃退できる自信はあると言う事か……こんな事を考えるのは、余程の天武の才がある者か、バカだな。しかし……
ヒメネスは、何を思ったのか、持っていたステッキから仕込んでいた剣を抜くと、そのまま地面に置いて膝を付いたのであった。
これは、ヒメネスなりに、左近に危害は加えないと言った意思表示であったのである。
「心配しなくても、俺は疑ってはいないよ。
それよりは、アミリアの心配をしてやれ、どちらに付こうか悩んでいたのが見えたぞ」
左近にそう言われたヒメネスが、チラリと背後を見ると、明らかに迷いがその顔に出ているアミリアが、剣に手をかけて、固まっていたのであった。
「すまんアミリー。これは俺が暗殺はしないと言った意思表示だ」
そう言ってヒメネスは、アミリアに謝罪したのであった。
「ビビらすなよ……本当に殺るかと思ったじゃないか」
「すまない……所で左近衛大将様に正直に申します。このヒメネスの顔を立てて、セレニティ帝国を占領しても、ガストン商会はお助け頂けないでしょうか?そのかわりに、復興事業や各地の情報でルタイ皇国に御役に立てるかと思います」
「……最早、ルタイ皇国には、千年の宴、ダッチ商会、グレゴール商会が食い込んでいるし、その会頭とも知り合いだ、そちらを優先させて頂く」
やはり、遅かったか……それにしてもグレゴール商会までも絡んできているとは。
そう思ったヒメネスが諦めかけたその時であった、左近が続けて話し出したのであった。
「しかし、ガストン商会の会頭は、会った事がないので何とも言えんが……ヒメネス、あんたは信用できるだろう、何せ俺の義父殿の幼馴染だ。
今後は、ルタイ皇国とガストン商会の窓口になってくれ……ただし、忠告する事が2つある。
ナッソーには手を出すな、法に触れることをするな、もしすれば容赦無く叩き潰す」
その左近の殺気にヒメネスは、既に他の商人より出遅れたか、と思いながらも、了承するしか無かったのであった。
「心しておきましょう」
そう言ったヒメネスは、左近に平伏し、この男の忠告を聞かなければ、ガストン商会はどんなに大きくても容赦無く潰されると確信したのであった。




