釣り野伏せ
俺は夢でも見ているのだろうか?
左近がそう思うのも無理は無かった、そんな信じられない光景が、帝都ナリヤに向かう途中の、アミリアが橋を壊した川に到着した、ルタイ皇国軍の目の前に広がっていたのであった。
左近はドレイヤー城を落とし、ライリー達を埋葬した翌日には、ドレイヤー城にエリアスとドレイヤー城兵士と、負傷者700名を残してドレイヤー城を出発し、既に街道の両側の丘の向こうには1万2千づつの伏兵を配置しており。
自身は、乱戦をする囮部隊の武芸に自信の有る者を2千名率いて、この場所にやって来たのだが、目の前には、セレニティ帝国軍3万が既に渡河を終えて、街道イッパイに広がり布陣していたのであった。
しかも、中央には金色の、これでもかと言うほどド派手な鎧を着た男が、馬に乗ってこちらを睨んでいるのでいる。
これには左近のみならず、その場にいたルタイ皇国軍全員に、頭にクエスチョンマークが立っていたのであった。
「なぁ左少将、敵は確か伏兵のはずだよな?」
「左大将殿、その通りです。ジェイロもその様に言っておりましたし、戦の定石から考えても、ここは伏兵でしょう」
「でも、どう見ても隠れる気が無いよな。それに鎧もあんなにもド派手だし」
「これは……言ってはいけないのかも知れませんが、敵はバカなのでしょうか?それとも何か策があるのでしょうか?」
「どうやら伏兵の場所も罠でも無さそうだし……」
「考えたくは無いのですが、やはり……」
「あぁ、前者だろうな。アイリス、あの金ぴか知っているか?」
「あれは、ハネス将軍ですね……また、一番伏兵に向かない人を伏兵にするとは。
あのハネス将軍は、命令無視は当たり前の、己の力をとにかく見せ付けたい、自己顕示欲の塊みたいなお人です。
まぁそれは見れば解りますよね」
「帝国には、最早人材が残っていないと言う事かな?」
「いえ、こんな伏兵等の作戦を得意とする、クリスの母親でもある魔女騎士団のアミリア団長がいます。
私が司令官なら、彼女に全てを任せますし、他にも人材はおりますよ、これはどう考えても、おじさんの策を失敗させようと、誰かが考えた事でしょう」
そうなのか?まぁ何処の軍にも派閥争いみたいなのが有るのか……そう言うのが国を蝕む白蟻の様な存在になる。
新しく体制を作った時に、気を付けないと、あのパーヴェルには勝てないだろう。
「……アミリア」
アイリスの言葉を聞いた、左少将は思わず呟いて、その手に力が入ったのであった。
「アミリア……確か左少将の報告書にあった人物だな?」
「はい、ルゴーニュ村の街道で私を敗走させた人物で、この顔に傷を着けた女です」
こいつは、あれほど言ったのに、まだかなり憎んでいる様だな……少し忠告をしておくか。
「左少将、私怨は棄てろ。そこを突かれると、また敵の術中にハマる可能性があるぞ。
それにお前を成長させた女性ではないか、感謝し敵として再び出会った時に、討ち取ればよい。
しかし、それ程の者なら欲しいな……ダメか?左少将」
「い、いえ……確かにあの者なら、左大将殿の期待にも応える素晴らしい将軍となるでしょう……ですが、我が三好家の者は許さないかと思います。
それにしてもあのクリスティーナ殿が、あのアミリアの娘とは……」
「それを抑えるのは、三好家当主のお前の役目じゃ無いか。それに、戦で斬った斬られたは当たり前、戦場での怨みは忘れろ」
「……努力致します」
「いい答えだ。さてと、これからどうやって敵を誘導するかな?」
そう言って考えていた左近であったが、その考えは杞憂に終わったのであった、突然前方のハネス将軍が叫んできたのであった。
「我は、セレニティ帝国軍のアルゴ・ハネス将軍である!ルタイ皇国の軍に告げる、降伏するなら今の内だぞ!」
名乗りをするとは、これは俺の名前を出したら食い付いてくるな……実はやりたかったんだよこれ。
「我はルタイ皇国の島 左近衛大将 清興なり!降伏?そちらこそ我等に降伏するなら今の内だぞ!」
「面白い、ではこれよりは剣で話すといたそう!全軍、突撃!」
「上等だ、全軍突撃!」
二人の掛け声で両軍共に動きだし、一瞬でその場は乱戦となったのであった。
勿論、これは左近の作戦で、乱戦に付き合い暫くして、敗走を装い挟撃するのが狙いでもあったのだが、左近にはもう1つの目的があった。そう、左近の数多くあるスキルの実験である。
とりあえずは、危険察知からだな。
そう考えた左近が、危険察知のスキルを発動すると、頭の中に警報のサイレンが鳴り響いたのであった。
喧しいぞこれ!停止だ、停止!
……そうか、これは危険になるとサイレンが頭の中になるのか……そりゃ戦場で使用すれば、どこも危険だから鳴るわな……これは平時に使用しよう。
次は先読みだ、先読み発動!
左近が先読みを発動すると、敵兵士の弓攻撃の先に白い半透明の線が見えたのである。
そして自分の方向に向かって飛んで来る弓矢に1つの赤い半透明の線がある事に気がついたのであった。
これはもしや自分に当たる線なのか?
そう思った左近が、その線上をかわすと、線は白くなって左近の横を弓矢が通りすぎたのであった。
こ、これはもしかすると、俺は最強の武人になったのかも知れんぞ!少し調子に乗って見るか。
次は引き落としの実験だ、いざと言う時の時間停止だけは、いつでも発動出来る心構えをしておかないと。
そう左近が思っていると、両軍の先頭がぶつかり合い、乱戦になったのであった。
さすがに腕に覚えの有る者ばかりで編成された部隊なだけの事はあり、一人で多数を相手にしても、互角以上の戦いを繰り広げており、この兵力差でもひけを取らない。
さすがだな。
そう思っていた左近に、敵兵が槍を突き出してきたのであった。
先読みで攻撃の軌道が見える、問題ないそのタイミングにあわせて槍を突き出して、引き落としのスキルを発動させたのだが、ただ相手の槍の柄に、朱槍を這わせて引くだけであった。
ヤバい!当たる!時間停止!
左近がスキルを発動させると、敵兵が突き出した槍が左近に突き刺さる、数センチ手前で止まり、世界も止まったのであった。
ヤバかった、とりあえずは、こいつの槍を取って突き刺す!
左近は敵兵の槍を取りあげ、その槍を敵兵にぶん投げたのだが、その手から離れた瞬間、空中で槍は停止してしまったのである。
おい嘘だろ?
そう思った瞬間、停止していた時間が動き出すと、槍は勢いよく敵兵の首に突き刺さり、そのまま後ろの兵士にも刺さったのであった。
そうか、俺の身体から離れるとこのスキルの影響を受けて、時間が停止するんだ、それならそうと使い道はある。
そう思った左近は、時間停止を使用して、次々と帝国兵を倒していったのであった。
フハハハ、俺最強!これは誰も俺に敵わないのじゃ無いか?……あ、俺が使えるって事は、パンドラも使えるって事か。
今度からパンドラと一緒にスキルの開発や実験をしてみるか。
そんな事を思いながら、時間停止を連発して、飛んで来る弓矢を、全て帝国兵の方向に飛ばしていると、左近があることに気が付いたのであった。
あれ?心なしか、停止時間が伸びた様な気がする、一度時間を計って見るか。
1、2、3、動いた。
おお!1秒増えているじゃないか!もしかするとスキルは使用すればするほど、威力が増すって事か。
そんな事を考えていた左近に、アイリスが近寄って来て、小声で言ったのであった。
「旦那様、少しは力を抑えて下さい。これでは敵が恐れて逃げ出してしまいます」
しまった、蔵之介と同じ様になる所だった、そうだ今は戦闘中だったな、反省反省。
「すまない、少し調子に乗っていた。そろそろ頃合いか?」
「そうですね、ハネス将軍も良い感じにヒートアップしておりますし」
「解った。バッシュ!撤退だ!クロエ、左少将は予定通り、皆が馬に乗る時間を稼げ!」
「はっ!」
「了解しました!」
「承知!」
戦っていたクロエと左少将が、戦線を離脱して馬に飛び乗ると、クロエがバッシュに向かって叫んだのであった。
「バッシュ!準備は良いぞ!」
「あいよ!」
そう言ってバッシュがラッパの様な、雄叫びをあげると、帝国兵は何事かと、一瞬ではあったが動きが止まり、その隙にルタイ皇国軍は一斉に撤退を開始したのであった。
だが、さすがに帝国兵も、それに気がつき、撤退をするルタイ皇国軍の背後から、攻撃をしようとするのだが、クロエと左少将の弓矢に次々と射殺され、いとも簡単に撤退を許してしまったのであった。
やはりこの二人は、俺の配下の中でも弓矢の腕前は一二を争う程だ、俺の目に狂いは無かったな。
しかし問題は、このまま俺達を追撃してくるかだ。
だが、そんな左近の悩みは希有に終わったのであった。
「貴様等、逃げるとは何事か!潔く戦え!お前達、何をしておる!追撃じゃ!早く追撃しろ!」
遠ざかる左近達にも聞こえる程の大声でハネス将軍は叫び、全軍に追撃の指示を出したのである。
―――――――――――――――――――――
やっと動いたか。
ハネス将軍達の遥か後方に展開していた別動隊の中で、バスティとテスタにテーブルと椅子を用意させて、優雅に紅茶を楽しんでいたパンドラの目が開いたのであった。
「姫様、動きましたか?」
優雅に紅茶を飲んでいるパンドラの隣で、まるで執事の様に控えていたバスティが言ったのであった。
「ええ、お父様が魚を釣り上げた様ですね、その数3万」
「ほう、これまた大漁ですな」
「ええ、お父様は本当に釣りがお好きなようで……さてと、バスティ今ここに到着した我が軍は、何れ程になりますか?」
「それが思ったより残りまして8百名程かと」
「結構残りましたね、私はてっきり百名に満たないかと思っていたのですが。
ではテスタ、残った者に何故この様な事をやったのか教えてあげなさい、その後二次試験に参りましょう」
「かしこまりました」
そう言ったテスタは、疲れきって休んでいる兵士の元に行き、パンドラの考えを兵士に伝えたのであった。
「お前達、ここで疲れていては、これから先の戦で死ぬぞ」
「テスタ様、さすがにこの様な強行軍では、戦にならないのでは?」
「そうですよ、ルゴーニュ村を出て既に半数以上が、まだ到着しておりません、これでは左大将殿の作戦に、支障をきたす恐れもあります」
この二人の侍の言う事は正しかった。この様に疲れきった兵では、戦場では使い物にならない、通常ではの話だが。
「御館様の考えでは、後方からの攻撃は、姫様を入れた我等8名で十分なのです」
「では、私共は何故ここまで来たのでしょうか?」
「御館様は新たに、姫様を中心とした精鋭部隊の創設を考えております、その為の試験なのです、そこで求められるのは、高い忠誠心、速い機動力、強い武力のこの3つのみです。
皆様は、ルタイ皇国左近衛府の中でも最も忠誠心の高い御人達です、そしてその中でも速い機動力をお持ちであります。
ここまでは一次試験……二次試験からはその命がかかります、今ここで降りるのも良し、姫様に従いこのまま戦場に向かうのも良し、どちらを選ぶのも自由でございますが、この先はその栄光と名誉を引き換えに、死が付きまといます、どうされますか?」
そのテスタの言葉に誰もが黙り、下を向いたのであった。
実際に死と直面すれば、所詮は人間などこの様な者でしょう仕方がない、今回は合格者はいなかったとして、我等だけでやりましょうか。
そう思ったテスタが、その場を立ち去ろうとした時であった、テスタを呼び止める若者が出たのである。
「お待ち下さい、テスタ様!」
ほう、所詮は人間と思っていたが、骨のある者がいたのか。
「どうしましたか?」
「いやぁ、よく考えたら、戦場で俺みたいな雑兵は、死ぬのは当たり前じゃ無いですか、今まで生きてきたのが奇跡みたいなものですよ。
……何で俺、ビビってたのですかね?」
「そんな事を聞くなバカ者、解るわけが無いだろう!……お前、名は?」
「俺は、宮村 虎之助と言います、年は19です!テスタ様は、どの様な男が好みなのでしょうか?」
こいつは、心底バカなのか?しかしこのバカさは、我等の部隊むけの性格だな。
「生き残ったら教えてやる。虎、お前が他の者の意見を聞いて、地獄に行く者だけを率いて姫様の元に連れて来い」
そう言ってその場から立ち去るテスタの後ろから、虎之助の歓喜の声が聞こえてきたのであった。
「よっしゃ、やったぜ!テスタ様は俺のものだぜ!」
……前言撤回、むしろ死ねば良いのに。
「テスタ、どうでしたか?」
「はい……どうやら全員が参加する様ですね」
そうパンドラに言ったテスタの背後には、既に覚悟を決めた虎之助達がいたのであった。
「姫様!我等、姫様の手足となるべく、一人も脱落せず御期待に応える所存で御座います!」
そう虎之助が言うと、その場にいる侍は全員がパンドラに対して平伏し、忠誠を誓ったのである。
なんと素晴らしい、これがお父様が私に教えようとしていた、作る喜び!育てる喜び!新しい感情が私に芽生えて来る様です。
そう感動しながら、パンドラはフワリと馬にまたがると、平伏している虎之助達に言ったのであった。
「皆、これよりは我一人に忠誠を忠義を捧げよ、私が皆に与えるのは、圧倒的な力と恐怖、そして最高の名誉と栄光!」
『御意!』
「良い返事です、ではこれより我等は帝国軍の後方より攻撃を行います!敵はお父様の策にはまり、生き延びる為に必死で我等を殺しに来るでしょう……もちろん、皆殺しにしなさい」
そう言ったパンドラは、悪魔の微笑とも言うべき妖艶な笑みをこぼしたのであった。
―――――――――――――――――――――
ハネス将軍の軍から逃げる左近達は、挟撃の予定地点に向かっていた。
最後尾で、左少将とクロエが弓矢で敵兵を攻撃しながらの撤退なので、敵兵との距離は良い感じに開いていたのである。
そろそろかな。
そんな事を思っていた左近がチラリと、左側の丘の上を見ると、そこにはセシルとセシリーが両軍を見下ろす様に立っていたのであった。
「バッシュ!旗を掲げよ!」
「承知!」
二人を目視した左近の命令で、バッシュが大きな左近の家紋、三つ柏の入った旗を掲げたのである。
「お姉ちゃん、合図の旗だよ!」
「……やっとか」
そう言ったセシルは、丘の後方に展開し、出撃を今かと待ちわびている蔵之介の部隊を、チラリと見て呟いたのであった。
「……セシリー、解ってるね?」
「うん、あのいつもの魔法だよね」
「……いくよ」
「アイスランス!」
「サンダーボルト」
二人の合体魔法は、大きな爆音を立てて、左近達を追撃していたハネス将軍の軍勢に降り注いだのであった。
突然、激しい轟音と共に降り注ぐ、電撃を帯びた氷の槍にハネス将軍達は一気に混乱状態となった所に、伏兵部隊が丘を越えてハネス将軍達に襲いかかったのである。
更に、逃げていた左近達も、その轟音を合図に、突如方向を変えてハネス将軍の軍勢に襲いかかったのであった。
突然の上空よりの攻撃に加えて、三方向からの攻撃である、これには帝国軍の兵士達は戦意を失い、次々とルタイ皇国軍の餌食になっていったのであった。
「逃げるな!戦え!逃げる者は殺すぞ!」
馬上でハネス将軍が叫んで、何とか軍を立て直そうとしていたのだが、この流れは止める事の出来ない濁流の様に、勢いを増して兵士達は、我先にと逃げ出したのである。
「こら、バカ者が!逃げるなと言っているではないか!」
「いくら叫んでも、言うだけでは兵士達は、命を棄ててまで戦わぬぞ」
突然の背後からの言葉にハネス将軍が、驚き振り返ると、弓矢を構えていた左少将が、すぐそこにいたのである。
マズイ!
ハネス将軍がそう思った瞬間に、左少将は右手の指を離したのであった。
カシュッと言った音を立てて、至近距離から放たれた弓矢は、そのまま勢いよくハネス将軍の眉間に突き刺さると、ハネス将軍はその勢いをそのままに馬から、落馬したのであった。
「敵将、三好 左近衛少将 清信が討ち取ったり!」
その左少将の声を聞いた帝国兵は、我先にと戦場から逃げ出したのであるが、後方から黒い鎧の集団に率いれられた集団が現れたのであった、そうパンドラ達の別動隊である。
「かかれ!」
『おお!』
パンドラの命令で、生き残る為に必死で向かって来る、帝国兵に対して、パンドラ達別動隊は、まさに鬼神とも言うべき奮闘ぶりを見せて、次々と帝国兵を倒していき、その様子をパンドラ達が後方に控えて見守っていたのである。
宗教でも何でもそうだが、狂信的な者はこう言った地獄の様な戦場では、無類の強さを発揮する、信じる者や、信仰心によって、その恐怖が無くなるからだ。
この場合は、パンドラと言う教祖の様に絶大な存在の為に、この別動隊は通常以上の力で、敵兵を薙ぎ倒し、その様子は他のルタイ皇国軍からも異彩を放っていたのである。
何だあの軍は?パンドラが指揮をすると、あんなにも強くなるのか?しかし、パンドラに預けた兵士達は2千のはずだったが、こちらに来たときには、千名もいなかった……一体何があったのだ?
スキルの天眼で、戦場の全体を見ながら左近は思っていると、左近の元に次々と伝令が走って来たのであった。
「報告します、敵将を三好 左近衛少将が見事討ち取って御座います!」
「うむ、ご苦労」
「報告します、家長 主馬首様より。
敵は既に戦意は無く、この辺りが潮時かと思われます。との事!」
「解った、主馬首に伝えよ。
降伏した兵を武装解除させて、一ヶ所に集めよと」
「承知!」
そう言った伝令は、家長 主馬首の元に向かっていったのであった。
ここに、後に東部連合の士官学校の教本にも出る、ラウムの釣り野伏せと言われた戦は、終結したのである。
この戦いで左近衛府軍の損害は、左近の予想に反して、思ったよりも軽微で、戦死者は奇跡的にもゼロであったのだが、怪我人がかなり出たのであった。
その怪我人の数はおよそ6千人、これは今後の作戦に影響の出る人数であった為に、左近はある方針を取ったのである。
それは勇者の有効活用であった。
勇者の有効活用と言っても、怪我人や部隊の3割をルゴーニュ村に空間転移で戻し、交代で進軍すると言った内容であったのである。
左近は、その日の夜に夜営している幕舎に、諸将を集めてその考えを伝えたのであった。
「なるほど、これならば夜襲等があった場合でも、被害は抑えられますな……しかし、また思いきった事を考えますな」
思わずそう言ったのは家長 主馬首であった。
「ですが、敵の軍勢と当たった場合はどうされます?空間転移で侵攻部隊に移動させるのでは、時間がかかり敵はその間、待ってはくれないでしょう」
「もちろん左少将の言う通りだ。だが俺にはそれを補う力がある、そして娘のパンドラにも同じ能力がある。
それは……ここからは、他言無用で頼むが、特殊スキルの天眼と言う物だ。
このスキルは、天上よりこの世界を見れるスキルで、この地上の如何なる場所も見れる、これで左近衛府軍の先を見て、軍勢が向かって来れば、前もってこちらに軍を呼べると言う事だ」
「何と言うスキルでしょうか……そのスキルがあれば、斥候はもちろん敵の伏兵が解ると言うものですね」
そう言った左少将は、かなり興奮している様であった。
「そうだ、そのスキルを使って俺とパンドラが、交代で見張りながら進軍し、都市や城が在ればその前日に全軍集合し進軍すると言った流れでどうだろうか?」
『異議無し!』
「ありがとう。ではこれより俺がいない時は、三好 左近衛少将 清信が左近衛府軍の指揮を取ると言う事で宜しいかな?」
「そ、某がですか?」
「そうだ、お前は既に十分にその素質があると俺は思っている、期待に応えてくれ」
「あ、ありがとう御座います!必ずや御期待に応えます」
「やりましたな殿、私は信じておりましたぞ」
「ありがとう安勝、これもお前の指導のおかげだ」
何だか美しい師弟愛を見ているようじゃないか、こんなに喜んでくれると俺も嬉しいよ、色々とね。
「それとだが、今後は皆殺しの方針を取り止めにして、捕虜を取る方針にする。
今までで十分に我等の強さを示せたし、それによってこれから先、徹底抗戦をする者が出るかも知れない。
それをやられると、こちらの被害が出て、今後の作戦に支障をきたす恐れがある。
今、優先すべきは合流地点に、可能な限りの兵力を残して速やかに行く事だ、その為に時間をかけるのは得策では無い。
そして、あのドレイヤー城を捕虜の収容所をして、傭兵となりたいものは、ナッソーに連れていき、今後は傭兵も活用していく。
その為の窓口は、十字軍にしてバッシュ、お前が仕切れ」
「承知しました」
「しかし左大将様、傭兵を活用していくとして、情報の漏洩や裏切りの心配は無いのでしょうか?それと、そもそも傭兵とは何ですか?」
そこからかよ!……そうか、ルタイ皇国には傭兵のシステムが無いから、傭兵の事が解らないのか。
「傭兵とは、金で臨時に雇われる兵士の事だ。
それにこの大陸には傭兵ギルドと言う団体が在り、そこに話を通せば傭兵を斡旋してくれるだけでなく、情報の漏洩の防止等の対策もやってくれるんだよ、でもまぁそれでも、警戒はするべきだがな。
因みにその制度を利用して、ルタイ皇国が兵士を鍛えようとしていたぞ、最初に来ていた部隊はそれが目的で、俺が預かる予定だったのだよ」
その左近の言葉に、その場の全員に沈黙が走ったのであった。
あれ?俺って何か間違えたかな?
左近がそう思っていると左少将が、その重い口を開いたのであった。
「実は我等の左近衛府の者達は、右近衛府の者と違い、戦の経験はあまり無く、ルタイ皇国のお荷物だったのです。
その為に最初に来た兵士は、その……」
「口減らしですか?」
言いにくそうにしている左少将に容赦なくパンドラが言ったのであった。
「パンドラ、その言い方は……」
「良いのですよ、左大将殿……事実その通りなのですから。
この左近衛府の者は、身分だけの高い者、味方殺しの者、逆に身分の低く戦の経験がほとんど無くて、食い積めた者等、誰もが使い物にならないと思われている者たちなのです。
やはり帝は我等を、御見棄てになられていたのか……」
そんな確執があったのか……弾正が最初に言っていた様に、本当に篩に掛けるつもりであったとは。
何か悪い事を言ったかな?
そう左近が思っていると、パンドラが驚くべき事を言ったのであった。
「本当にそうでしょうか?」
「え?」
「本当にそうでしょうかと言ったのですよ左少将様。
確かにルタイ皇国では、穀潰しと言われた集団かも知れませんが、今このヴァルキア地方を平定したのはどの軍でしょうか?ドレイヤー城を落城させたのはどの軍でしょうか?本日、帝国の兵を華麗に打ち破ったのはどの軍でしょうか?
胸を張りなさい!そして誇りなさい!それは全てルタイ皇国の左近衛府軍の功績でしょう。
いくらお父様が優れた軍略を立てても、実行するのは皆様、諸将の方々です、右近衛府の者がいくら優れていると言っても、貴殿方の武功に及ぶ者などおりません」
「本当に姫様は、人を奮い起たせるのが御上手だ……確かにこの左近衛府の武功は、右近衛府の者には到底真似の出来ぬ物でしょう。
さらに、合流地点に一番乗り出来れば、今まで我等を見下していた者を、見返す事が出来ましょう」
そう言った左少将は、少し照れながら言ったのであった。
ダメだ、この考えは危ない、今の左少将達は回りが見えていない、こう言う時ほど慎重にならねば、妬みや嫉妬を買いやすい。
「それはダメだ」
「……それは、何故ですか?」
「よく考えても見ろ、今まで自分が見下していた者が、自分以上に武功をあげるのだぞ、その様な事を誰が認める?人は嫉妬や妬みと言った、負の感情を持ちやすい生き物だ。
我等がそれを買っては、後々に厄介な事が起こるかも知れん、なので右近衛府の次で良いだろう。
同着かもしくは、右近衛府軍が到着してから、我等が到着すれば良いのだ、何も競争だけが武功ではない、戦場で我等の働きを見せ付ければ良いのだ」
その左近の言葉にその場にいた者は全て納得したのであった。
「お父様のお言葉、胸に染みますね。
話は変わるのですが、私の部隊にあの800人を入れても宜しいでしょうか?あの者達は、私の強行軍に付いてきて更には、厳しい戦場で生き残った者達ですので……出来れば甲冑の色も少し変えて、マントを付けさせたく思います」
「良いだろう、その代わりにその部隊は、一番死ぬ確率の高い場所に配置するぞ」
「望む所です、少々の事ではあの者達は死にませんよ」
「面白い……部隊の名前は考えたのか?」
「少し大陸風に黒騎士団と言うのはどうでしょうか?」
「良いだろう、パンドラ直属の騎士団にすればよい」
これで少しはパンドラが、人の心を持ってくれれば良いのだが。
「何だかその騎士団、面白そうじゃないか、暴れる事が出来そうだね」
そう言って幕舎に入って来たのはママであった。
「命の保証はしませんが、誰でも歓迎ですよ」
「言うね、流石は左近の娘だ。おい左近、私はここの騎士団に入団するよ!」
『はぁ?』
思わずその場全員が、口を揃えて言ったのであった。
「だって、私の出番が全く無いじゃないか、せっかく八つ当た……お前の力になろうと来てやったのに」
「嘘つけ!今、八つ当たりって言いかけただろう?それに死ぬかも知れんのだぞ!」
「上等だよ、死んだとしても私の責任さね、あんたのせいじゃ無いから、安心しな」
「お父様、良いじゃ無いですか、私は大歓迎ですよ。ママ、私の騎士団に入るのなら、今後はソニア・ヴィシュクに戻ってもらいますよ」
「……上等」
そう言ったママは、悪魔の様な笑みを溢して言ったのであった。
何かこの二人って、波長が合うんだよな……クロエに押し付けよう。
「……解った許可しよう。クロエ二人の間に入って仲を取り持て」
「無理です、私には無理です」
大事な事なので二回言いました、みたいに言うなよ。
「頼むよクロエ、これはお前にしか出来ない事なんだよ……この通りだ頼むよ、俺に出来ることなら何でもするから」
「……何でも……解りました引き受けましょう!」
「……単純なエルフ」
「何だと、バッシュ!」
「止めんか貴様等!……な、左少将、コイツらの方が問題児だろ?」
「ハハハ本当にそうですね、でも私は左大将殿と出会えて本当に良かったと思っていますよ」
こうして、二人のやり取りに、心を和ませた左近衛府軍は、この先にあるセレニティ帝国に唯一在る、傭兵達の街と名高いケイングストンの街を目指して進軍していくのであった。




