ドレイヤー城攻略戦
ドレイヤー城城主のライリーは、左近との会談後から斥候の回数を通常の倍に増やし、ルタイ皇国の来襲に備えていたのであった。
ただライリーは、斥候に対して極力戦闘は避けて、動きが有ればすぐに報告しろと厳命しての行動であった、その斥候がルタイ皇国軍が動いたとの報せをライリーに伝えたのである。
「何、とうとう動いたか!敵兵の数は?」
「敵兵はおよそ2万7千!」
「2万7千……思ったより少ないですな、これが全兵力なのでしょうか?」
そう言ったのは、ライリーの隣で斥候からの報告を聞いたジェイロであった。
「いやルタイ皇国は、軍を幾つかに分けて進軍するつもりだろうよ。
その方が進軍速度も速いし、広大な領土を占領するもの都合が良い……だが各個撃破の戦略には弱い。
弱いが、その各個撃破に回せる兵力が、今の帝国に有るかどうか……」
ライリーの言いたい事はジェイロには痛いほど、よく解ったのである、ここに来て8万もの兵力で攻撃し、惨敗した敗戦がボディブローの様に、効いてきているのである。
この8万と言う兵力は、帝国にとって防衛や治安維持の兵を差し引いた、純粋に動かせる兵力全体の半数に上るのであった。
それだけの兵力を、短期間でかき集められたルイスの能力も凄まじい能力であったが、その兵力でルタイ皇国に何の損害も与えられずに、負けた事が各個撃破に回せる兵力の数に影響してきたのであった。
「ライリー様、伏兵に回せる兵力は、ナリヤからは何と?」
「兵力は3万で、率いるのはあのハネス将軍だってさ、もう布陣しているはずだが……俺はてっきりアミリーだと思ってたのだがな」
「あの目立ちたがり屋のハネス将軍ですか?……一番伏兵に不向きな男ではありませんか」
「だよな、俺もそう思うよ……何でルイス様は、こんな人選をしたのだろうな?下手すりゃ負けるぞこの戦」
「ならば、負けない様に我等が、多くの敵を引き付けないといけませんな」
「ああ、我等が引き付ける敵兵力が多い程、我が軍の勝利する確率が高くなる……さてどう出る左近衛大将」
そう言ってニヤリと笑みをこぼしたライリーは、既に予定の場所に布陣しているハネス将軍に伝令を出したのである。
「後、5日経って敵軍が現れ無い時は、ドレイヤー城が包囲されているので、救援に来られたし」
これは、完全に包囲された場合、伝令も出せない状態になる事を考えてのライリーの行動であった。
そして次の日の早朝、城兵が急ぎライリーの元にやって来たのであった。
「ライリー様、来ました!ルタイ皇国軍です!」
「来たか!左近衛大将めかかったな!それで敵の兵力は?」
「そ……それがたったの200です」
「何だと!」
それを聞いたライリーは、思わず城壁の方に向かって走り出したのであった。
やられた!こちらが主導権を持っていたと思っていたこの戦が、これで一気にルタイ皇国に主導権が行ってしまった。
あの島と言った左近衛大将、若いのに何て奴だよ。
そんな事を考えながらライリーは、城壁にたどり着くと、真っ青になっているジェイロとギャロットが既に城壁にいたのである。
「敵兵力は200だって?敵本隊は?」
そう言ったライリーに、ジェイロは首を振って言ったのであった。
「ライリー様……敵の本隊はおそらく先に行ってしまったかと……たったの200しか連れていないのでは、伏兵のハネス将軍が危険です」
ジェイロがそう言った時であった、ルタイ皇国軍が城壁に向かって投石を始めたのである。
投石と言っても、そのまま石を投げるのでは無く、投弾帯と呼ばれる紐状の道具で、遠心力を利用して投げており、射程距離は50~60メートルは飛ばせて、十分に殺傷能力の有る代物であった。
「と、投石だと!」
ライリーが思わず掴んでいた城壁に力を込めた時に、投石するルタイ皇国軍から声が聞こえたのである。
「ここの城主は、凄く頭が良いって聞いていたけど、頭だけかぁ!ガッカリだよ!
たったこれだけの兵で来ても恐がって、城に籠っているんだから!ショボッ!」
「奥方様!いくら本当の事でも、それ以上は流石の臆病者でも怒りますぞ!」
「大丈夫、大丈夫!ここの城兵って、村人にしか威張れない情けない奴等だから、今頃恐くて震えているって!」
その言葉を聞いた城兵は、怒りを露にしてライリー達に詰め寄ったのである。
「ライリー様!あの様な事を言われて黙ってはおれません!」
「静まれ!静まれ!あれは敵の挑発に決まっておるではないか!我等を誘きだして、罠に嵌めようとしているのだ!」
そうだ、ジェイロの言う通りだ、これは明らかに我等を罠に嵌めようとする、左近衛大将の策だ。
では、罠とは何だ?俺ならどうする?この場合、罠とは伏兵だろう……では、何処に伏兵を置いておく?……やはりあの森に挟まれた細い街道だろう。
しかし、先で敵の伏兵が待っている事を考えると、そんなに兵は割けないはずだ、あの街道なら少ない兵力での伏兵が有効だ。
左近衛大将は、俺が万が一の事を考えて少数の兵で行くと思っているはずだ、精々多くて2千ほどだと。
そうしないと、先に行ったと見せかけてあの部隊を追いかけて、兵力の少なくなった隙に、実は本隊は先に行ったと見せかけて、ルゴーニュ村の街道に待機して城に攻撃を仕掛ける、可能性が残っている今は、俺がそう動くと思っているだろう。
そう考えると伏兵の数は多くて1千、残る兵力をハネス将軍にぶつければ、何とかなる兵力差だ……ただここには、俺が博打に出る発想が無い。
そう考えたライリーは、ここで大博打に出たのであった。
「ジェイロ、敵は俺達が人数をかけて出てくる事は想定していないはずだ、ここで博打を打つぞ。5千の兵で奴等を追いかける」
「いやしかし、それでは城の兵士は僅か千名程しかいなくなりますよ。
それに先の街道は、細く両側は深い森なので、伏兵がいた場合引き返す事もままなりませんよ」
「伏兵はいるだろうな、しかしそれを撃ち破る兵力で行けば良い話だ。
伏兵は多くて千だろう、だからこの場合は中途半端は、逆に良くない、左近衛大将もまさか5千で来るとは思ってないよ」
「なるほど、そう言われればそうですな、では追撃の用意をしましょう。
お前達!あの投石部隊を追いかけて蹴散らすぞ!伏兵もいると思われるので、斥候部隊は気を付けろよ!」
『おお!』
ドレイヤー城では、ジェイロの指示で追撃戦の準備が慌ただしく始まり、そして城門がゆっくりと開き、ドレイヤー城の兵はラナの部隊を追いかけたのである。
「来た!来た!皆、予定通り逃げるよ!」
『はっ!』
ドレイヤー城から敵兵が出てくるのを見たラナは、左近の策通りにそのままライリー達を、予定地点に誘導したのであった。
万が一の事を考えて、ジェイロをドレイヤー城に残し兵5千を率いて出陣したライリーは、ラナの部隊を追い、帝都ナリヤに続く街道の森の入り口にやって来たのであった。
ここまで我等に追い付かせなかったのは、流石であったが、ここから先は伏兵が待ち受けているだろう。
「これより通常の倍の人数で斥候をせよ!必ず伏兵が待ち受けているので気を抜くなよ!」
そう兵士に指示を出したライリーは、警戒しながら急ぎ街道を中程まで進んでいた。
何か変だ……ここまで伏兵が全く無い、もしや俺の予想が間違っているのか?本当に俺達を誘きだしてその隙に、城攻めをする計画なんじゃ……だとするとジェイロが危ない。
ここの街道での転進は、この人数では難しい、早めに指示を出さないと。
そう考えた、ライリーが指示を出そうとした時であった、前方から何やら戦っている音が聞こえて来たのであった。
「どうした!報告せよ!」
そう叫んだギャロットに前方から走ってきた兵士が報告したのであった。
「報告します!敵伏兵によって、斥候部隊が全滅!ただいま前衛が交戦状態になっております!」
「数は?」
「およそ800!」
この兵士の報告に、思わずライリーとギャロットは顔を見合わせたのであった。
危うく左近衛大将の罠にハマる所だった、我慢しきれずに戻れば、その間にハネス将軍と左近衛大将の戦に間に合わない所であった。
しかし、この賭けは俺の勝ちだ、ここに伏兵が800でいると言う事は、俺が多くても2千程で来ると思っているはずだ。
しかし、俺は倍以上の5千をここに投入した、人海戦術で攻めたら、いくら武士団でもこの兵力差では防ぎきれないだろう。
「よっしゃ!皆、伏兵を突破して、急ぎルタイ皇国軍を、ハネス将軍と挟み撃ちにするぞ!伏兵が逃げても追うな!俺達の目標はその先のルタイ皇国本隊だ!」
『おお!』
アデル達の伏兵部隊は、よく戦ったのだが、所詮は多勢に無勢で徐々に押されていき、死傷者が出始めた所で、撤退を始めたのであった。
「ライリー様!敵が森へ撤退を始めました!」
「放っておけ!俺達の目標は敵の本隊だ!思ったより時間がかかった、急ぎこのまま突き進むぞ!」
こうしてライリーは、全軍を鼓舞して先を急がせたのであった。
やはり伏兵部隊があれだけ粘るって事は、本隊はあのまま進んだのか。急がねえとハネス将軍との挟撃が間に合わんかもしれん。
そう思いながら、急ぎ街道を進むライリー達であったが、森を抜けた先の広大な草原には、魚鱗の陣で待ち構えていた、左近達約2万7千がいたのである。
その姿を見たライリーは、瞬時に左近の本命は自分達だと直感したのであった。
やられた!本命は最初から俺達だってのかい。
しかもこの軍の配置は一体何だよ……そうか、これがおとぎ話で書かれていたルタイ皇国の陣形ってヤツか!転進は、街道が細すぎて難しいし、出来てもあのままルタイ皇国が突き進めば、背後から攻撃される。
しかもルタイ皇国は、三角形の様な布陣なので、この街道に突っ込みやすい……くそったれが、前に進むしか選択肢が無いじゃねえか。
そう考えたライリーの選択肢は、まさに狂気に近いものであったのである。
「野郎共、このまま突っ込み、左近衛大将の首を取るぞ!」
「ライリー様、お待ち下さい!このままで勝てるはずが御座いません!」
「バカ野郎、後ろからは何も知らない味方の兵士が、俺達を押し出す様に来る、こんな状態で転進何て出来ないし、その間あいつらが待ってくれると思うか?」
「そ、それは……」
「それに転進できても、あいつらの配置は、この細い街道に入りやすい、行くしかねえんだよ!皆!俺に続け!」
「あ、待ってください!仕方がない、弓を持っている者はライリー様の援護をしろ!突撃!」
ギャロットがそう言って、ライリーの後を追って、左近達に突撃の命令を出したのであった。
中々に思いっきりの良い大将じゃねえか。
ライリー達の突撃を見た先陣の蔵之介は、何処かライリーの決断に思い切りの良さを感じながら、配下に指示を出したのであった。
「弓隊構え!神楽隊、弓攻撃の直後に魔法障壁を出すのを忘れるんじゃねえぞ!……放て!」
蔵之介の合図で、無数の弓矢がライリー達に襲い掛かるが、ライリー達も速度は若干遅くなったのだが、弓矢を射ち返し進撃を止める事は無かったのであった。
「バカ野郎!神楽隊、魔法障壁の展開が若干遅い!次、タイミングを間違えるなよ!3,2,1,射て!」
そう言って蔵之介の部隊から放たれた無数の弓矢は、ライリー達に襲いかかったのである。
「クソ、何だよあの魔方陣は、こちらの弓矢が全て弾かれるじゃねえか!」
「ライリー様、危ない!」
そう言ってギャロットは、ライリーに向かって飛んできた弓矢を、自らの盾で防いだのであった。
「すまねえギャロット」
「どういたしまして……しかし、あの魔方陣は少々厄介ですな」
「そうだな、しかし敵が弓矢を放つ瞬間は消え、その時なら敵に当たる……速度が遅くなるが仕方がない。
重歩兵は前に出て、敵の弓矢を盾で防げ!弓矢を持っている者は、射ち尽くすつもりで射ちまくれ!」
ライリーの命令で、ドレイヤー城の兵士はよく訓練されているのか、隊列を整えて反撃を試みたが、所詮は付け焼き刃である。
弓矢による反撃が散発で、蔵之介達の脅威では無かったのであった。
「よっしゃ!いける、俺達だけでいけるぞ!蹴散らしてくれる!」
そう言ってノリノリであった蔵之介の元に、通信兵が急いでやって来たのであった。
「本陣より通信が入っております!
「蔵之介、いい加減にしやがれ!このまま敵将を逃したら、降格だけじゃ済まさんぞ!ブッ殺してやる」だそうです」
「……大丈夫だ、このまま勝てば良いんだ、勝ってやるよ」
「そう言った時の場合も、連絡を受けています。
「お前がそう言うつもりなら、命令を守れない将はいらん、クビだ!ルタイ皇国からの追放を申し付けて、この部隊はクロエに指揮させる」との事です。
どうしますか?」
「……くそ!皆、徐々に後退しろ!」
蔵之介は憤慨しながらも、後退の命令を出して、ルタイ皇国の先陣は、ライリー達に圧される様に後退していったのである。
「やっと後退しだしたか、やはり蔵之介には部隊は、未だ任せられんな」
そう言った左近の目には天眼で、憤慨してながら後退している蔵之介が映っていたのであった。
しかし、ライリーは城に千人程しか残さずに、やって来たのか……また思いきった事を。
だがそのお陰で、外の兵を回収するまで門は閉めないのが、確実になった……この勝負、もらったぞライリー。
「各隊に伝令!これより鶴翼の陣に移行する!敵の群れから出てきた者から刈り取れと伝えろ!」
左近の命令は、すぐに通信兵を通じて各部隊に行き渡り、ルタイ皇国軍が動き出したのであった。
これは、いける!いけるぞ!ルタイ皇国は、どうやら俺達の突撃を恐れている様だ。
「よっしゃ!このまま押して、押して、押しまくれ!敵は俺達の突撃が余程、恐ろしい様だ!このまま突き進んで左近衛大将の首を頂くぞ!」
『おお!』
そのライリーの言葉に、鼓舞されたドレイヤー城の兵士は、そのまま蔵之介の部隊に、弓矢を雨の様に射ちまくり、前進していったのだが、部隊長のギャロットがルタイ皇国軍の異変に気付いたのであった。
「ライリー様!両翼に駆け上がる部隊がございます!」
「何だと!」
そう言って両端を見たライリーの目には、自分達を包囲していくルタイ皇国軍の姿が目に入ったのであった。
しまった、これも罠か!この何重にも張られた罠と言い、まるで戦場を動く生き物の様な兵の配置と言い、あの左近衛大将、若いのに何て化け物だ。
まるで足掻けば足掻くほど深く沈んで行く、底無し沼の様じゃねえか。
こんなのに勝てるのか?無理だ……とても無理だ……だが、無理でもせめて一太刀浴びせてやる。
「皆、突撃だ!このままなら全滅しちまう!その前に左近衛大将を討ち取るぞ!」
「しかし、ここは撤退をした方が……」
「ダメだギャロット!ここは退いたら、確実に全滅しちまうぞ!前にしか道はねえんだよ!」
「……承知、全軍突撃!」
『おお!』
突撃の命令を聞いたライリーの配下は、そのまま左近のいる本陣を狙って突撃を敢行したのだが、人は弱い生き物で、その中でもその場から逃げ出そうと言う者が出てきたのであった。
「あそこの離れた集団に向かって弓隊、放て!そのまま騎馬隊突撃!」
「私達は、あの一団を狙うよ!弓隊、放て!槍隊、槍衾を組んで前進、叩き付けろ!」
ライリー達の一団から、恐怖で逃げ出そうとした者から、徐々にアイリスやラナの部隊に刈り取られ、その様子を見た兵士が逃げ出し、また刈り取られると言った悪循環が、ライリー達を包み込んだのであった。
そう言った現状にライリーは、このままなら軍が崩壊してしまうと考えて、撤退の考えを固めたのであった。
「ギャロット、このままじゃまずいな……」
「ええ、恐怖が連鎖していき、最早すでに軍とは呼べなくなりつつあります」
「そうだな、最早3割り近く減っている、ここはかなりの被害を出してでも、一時撤退をした方が良さそうだ」
「では私が殿を行いましょう」
こいつは……ギャロットはいつも簡単に言いやがる。しかし、今はそれがありがたい。
「……すまない、頼めるか?」
「ええ任せて下さい、貴方はいち早く城に戻って下さい」
「すまんギャロット!……皆、撤退だ!城に戻って立て直すぞ!」
「どうせ、このままじゃ全員撤退は無理だ!俺と一緒に残りたい奴は、ここでライリー達の撤退の時間を稼ぐぞ!」
やはり撤退を始めたか、しかし如何なる時も冷静に現状把握出来なかったお前の敗けだライリー。
「全軍に伝令!翼をたたみ、次の作戦に移行せよ!」
「御館様、私も出てよろしいでしょうか?」
そう言って何やら思い詰めた表情で言ってきたのは、エリアスであった。
「……訳を聞いてもよろしいでしょうか?」
「あの時、ジェイロは私と戦いたい様でしたので、他の者に討たれる前に、私がその望みを叶えてやりたく……」
あの時、何か話していたのはそれか。
「クロエ、義父殿の護衛に付いていけ」
「御館様、それは……」
「戦場での一騎討ちは何かと邪魔が入ります、その為の護衛と思って頂ければ。クロエも良いな?」
「そう言う事でしたら」
「私は嫌です、私は御館様の親衛隊です」
「クロエ、だからだよ。義父殿は俺達の仲間だ、義父殿の望みを叶えてやれ、お前にしか出来ない事なんだよ」
「御館様は卑怯です……その様な言い方をされれば、断れないじゃ無いですか」
そう言ったクロエは、少し頬を赤くして馬に乗ると、まるで照れを隠すかの様に言ったのであった。
「ほらエリアス様、行きますよ」
「お、おう解った」
行ったか……クロエの奴、何で照れてたのだろう?
「……あれは、旦那様に惚れているね」
「本当に旦那様も罪な男ですね」
「セシルにセシリーか、あのクロエが俺に惚れているって?バカバカしい、そんな訳無いだろう」
「……鈍すぎ」
「本当に……あのダンジョンの時位からなのにねぇ」
「そうなのか?でも例えそうだとしても、俺には気持ちに答える事はできんぞ。これ以上は、妻をめとるつもりは無い」
「……だから悩んでるのに」
「そうそう、それはクロエが十分に解ってるから、悩んでいるのに」
すまんなクロエ……
そう思いながら、左近は再び戦場の把握の為に、天眼のスキルを使用したのであった。
こいつら、私達が恐くは無いのか?
そう思っていたアイリスとラナ達の目の前には、街道を撤退する味方を守るギャロット率いる千の兵がいたのであった。
「あの盾で防ぐ部隊が厄介だね、しかも槍でリーチもあるし……どうする?アイリス」
「どうするも、こうするも、こう守り一辺倒になられると……少々厄介だね……ここは、犠牲を覚悟してでも突撃を敢行するか?」
「でもそれだと、肝心の城攻めの兵力が……」
確かにラナの言う通りだ、ここで兵力は避けたい……どうすれば……
そうアイリスが思っていると、二人の部隊の後方から大声が聞こえてきたのである。
「奥様方、道を譲って下され!」
『左少将様!皆、道を譲って!』
左少将の気迫にアイリスとラナは、左少将の部隊に道を譲ると、先頭を走っていた左少将が、馬の上に立ち上がり弓を構えると、ギャロット達の盾の部隊向かって右側に矢を放ったのである。
左少将の放った弓矢は、盾の隙間に隠れていた兵士の眉間に突き刺さり、戦列の左翼が崩れたのであった。
「右側、崩れたぞ!回り込んで攻撃しろ!」
密集した陣形で、槍の向きを左右に動かすのには時間がかかってしまう、槍はその長いリーチが時には弱点になってしまう場合がある、特にこう言った密集した陣形ではその弱点が出やすいのである。
左少将は見事にその弱点をついたのであった。ただ、これは盾と盾の隙間の兵士の頭を射抜ける左少将の弓矢の腕が有ればこその芸当ではあるが。
左少将の命令で回り込んだ騎兵は、体勢の整わない盾を持った重歩兵隊に、文字通り突っ込んだのであった。
重歩兵は、その重装備な分だけ、一度倒れると起き上がりにくい、しかも馬の体当たりをまともに食らって立っていられる者は何れ程いようか。
次々と左少将の騎馬隊の突撃で倒され、その後から来た歩兵に討ち取られていき、その後方の軽歩兵にも被害が出始めたのであった。
「軽歩兵は、倒れた重歩兵の盾を拾え!敵の騎馬隊は馬を狙え!馬が無ければ、突撃なんか恐れるに足りん!」
「貴様が将か!覚悟!」
そう言って馬上から飛んできた左少将の一撃を、ギャロットは本能で持っていた槍で防いだのであった。
「このクソ!」
そう言って、蹴りを放ったギャロットであったが、左少将はその蹴りを、とても甲冑を着ているとは思えない身のこなしでかわすと、華麗に地面に着地したのであった。
「ルタイ皇国、左近衛府所属の三好 左近衛少将 清信だ、見事な殿……さぞ名のある将とお見受けした、名を聞いてもよろしいか?」
「貴様が、アミリア様と戦ったルタイ皇国の将か……俺は、ドレイヤー城守備隊、隊長のギャロットだ」
「そうか、アミリアから俺の事を聞いたか……ならば俺の強さも聞いただろう……参る!」
速い!だが動きが直線的過ぎる!
そう思ったギャロットは左少将に対して、素早く槍を突き出したのであった。
だが当たる直前に、左少将は身体を回転させ、その遠心力でライリーに斬り付けたのである。
しまった罠か!
そう思った左少将の剣撃を、ギャロットは盾で防いだのであったが、その盾が斬り落とされたのであった。
「盾を斬るなんて、何て代物なんだよ」
そう言って、一文字にブッた斬られた盾を捨ててギャロットは言ったのである。
「木の盾では弓矢の攻撃は防げても、俺の刀は防げんぞ」
「みたいだな……だがこれで、槍に専念できる」
「なんだよ槍兵だったのか、ではこちらも本気で行くか」
そう言った左少将は、脇差しを抜いたのであった。
「二刀流か……」
「少し違うな、正確には小太刀二刀使いだ」
そう言って刀を鞘に収めた左少将は、背中からもう一本の脇差しを抜いたのであった。
「小太刀二刀流だと……お前本気か?そんなリーチで槍に立ち向かうなんて、できると思っているのか?」
「言っても貴様の小さな脳みそでは理解が出来んだろう?ご託を話さないで、かかってこい」
そう言った左少将は、指をギャロットに向けてクイクイと動かし挑発したのであった。
「バカにしおって!」
そう言って逆上したギャロットは、槍で突きを放ったのだが、左少将は脇差しでその軌道を反らせながら、ギャロットの懐に入り込むと、ローキックでギャロットの膝裏に蹴りを放ったのである。
その蹴りの威力に思わずギャロットは、苦痛に顔を歪めて膝を大地に付けると、ギャロットと左少将の身長差がなくなり、左少将の目線とギャロットの目線が同じになった時、ギャロットは己の命が最早風前の灯だと悟り、スッと眼を閉じたのであった。
左少将は、面貌の下から見えるその冷たい眼で、ギャロットを見詰めながら両手に持った脇差しで、ギャロットの首を斬り落としたのである。
ギャロットの首は、その大きな身体から斬り離され、血を噴水のように吹き出し、そのまま地面に力無く倒れたのであった。
「流石だな、左少将」
その声を聞いた左少将は、驚き振り返るとそこには左近とその本陣の部隊がいたのであった。
「左大将殿!どうしてここに?」
「どうしてって…お前、皆は先に既に行ったぞ」
「マジっすか!」
「マジっすかってお前、気が付かなかったのかよ」
「誰も言ってくれないって」
そう言った左少将は、そのまま力無く崩れたのであった。
「左少将、まぁそう落ち込むな。この戦が終わったらお前は左近衛中将に昇進だ、ヴァルキア地方の東部の制圧と言い、魔女騎士団との交戦、そして今回の武功、昇進に十分に値する」
「不本意なのが混ざっておりますが……」
「まぁそう言うな、お前にはこの左近衛府の俺の代わりもやって欲しいんだよ」
「そう言った事なら……ちょっと待ってください、ルゴーニュ村に学術都市を作れといってませんでしたか?まさか、それをやりながら、補佐もしろと?」
こいつ中々鋭いな。
「その通り、俺もナッソーの運営も有るから、同じだよ。それに内政はキースと言う、現地の者に任せるので、そんなに仕事は無いはずだ」
勿論これは、でまかせだ、俺の予定では、ナッソーと十字軍は今後バッシュに任せようと思っている。
これで左近衛府は左少将に、内政はキースに、ナッソーと十字軍はバッシュに、完璧に俺の仕事が無いし、パーヴェルの件を片付けたら、晴れて自由の身でしかも金の心配も無い。
和風のナッソーの家に、洋風の左近衛府、完璧に引きこもれる、しかもアイリスにラナ、セシルにセシリーと、そしてたまにフレイアとキャバ嬢のエレノア……酒池肉林の世界じゃないか、最高の自堕落な生活をしてやる、完璧な作戦だ。
「左大将殿、何やら悪人の様な顔になっておりますが……」
「な、何を言っているのかね、左少将……いや清信君!そ、そんな訳無いじゃないですか……本当だよ」
「大膳も居るような気がしますが……しかし、名門三好家の人間として断れません、やりましょう」
「そうか、やってくれるか!……いや、これからも精進せよ」
「はっ!……一瞬、本音が出てませんでした?」
「いやいや!そんな事より、早くドレイヤー城を落としに行くぞ」
「そうですね……でもこれだけは言わせて下さい。私の上役はこれから先、永遠に貴方ですよ左大将。
俺は他の誰の下にも付きませんので、一生貴方に付いていきます……逃がしませんよ」
「お、おう」
最後の意味が何だか意味深過ぎだろ!まぁいい、こいつはかなり優秀な男だから、俺の代わりを十分にやってくれるだろう。
左大将、私はあなた以上の男がいるとは思えない、必ずや私が支えて、ルタイ皇国の関白にしてあげますよ。
そう言った二人の思いを余所に、ドレイヤー城を攻略戦は終盤を迎えて行ったのであった。




