暴君誕生
左近がライリーからの手紙を受け取った5日後、会談の予定場所に向かう5人の姿があった。
左近やアイリスとエリアスは、いつもの様に鎧姿だが、後ろの二人の姿は異彩を放っていたのである、そうバスティとテスタであった。
二人の姿は、パンドラの部隊の象徴である、黒の羽根付きマントは付けているのだが、何処からどう見ても執事とメイドの姿であったのである。
なるほどね、これでパンドラが言っていた意味が解ったよ、城主のライリーは、義父殿とアイリスの二人は人数に入れずに3対3で会おうと言ってきているだろう。
それは、アイリスと義父殿は確実に自分の命を狙わない、この二人は中立なのだぞと俺に対しての隠れたメッセージなのであろう。
だがパンドラは敢えてバスティとテスタを、連れて行く事を進言してきた。
これには、連れて来たのがアイリス達以外が、一応は腰に剣をぶら下げているが執事とメイドならば、この二人は俺の護衛で、俺の陣営だぞと言ったメッセージなる。
この隠れたメッセージに気が付いた者は、一体何れ程いたのだろうか?気が付いたなと感じたのは、パンドラは勿論だが後は、左少将ぐらいか。
今後は左少将を、左近衛府の副官にして、バッシュに十字軍を任せるのも悪くないだろう。
しかし、今まで蔵之介が左近衛中将だったんだよな?よく今までやってこれたよな、それだけ左少将が優秀だったって事か。
そう思いながら進んでいると、森を抜けた所に頬に傷の有る男と、その補佐官であろう男と、完全武装の兵士が待っていたのであった。
「いよう、エリス!久し振りだな、アイリもまた一段と胸が大きくなっておじさんは嬉しいぞ!」
「だからその呼び方は、女みたいだから止めろと言っているだろ!」
「あの……おじさん、胸だけを見て話すの止めてもらえませんか?」
何だか見た目に反して陽気な親父だな。
そう思っていると、アイリスはライリーから逃げる様に左近の背後に隠れたのであった。
「あんたがルタイ皇国の左近衛大将かい?」
「そうです、島 左近衛大将 清興と申します、こちらの執事とメイドはバスティアンとテスタで御座います」
「そんな喋り方は止めてくれ、俺はドレイヤー城、城主のライリーって言うんだ、こっちは俺の副官のジェイロで、部隊長のギャロットって言うんだ宜しくな。
しかしこの馬、スレイプニルだろ?良い馬持ってるよな、くれよ」
「やらん……では、タメ口で。しかし今日は暑いな、木陰でティータイムとしないか?」
「良いね……でも用意も何もしていないぞ」
「大丈夫だ、こちらが持って来た。バスティ、用意してくれ」
「かしこまりました」
そう言ったバスティとテスタは、アイテムボックスから、堂々とテーブルと椅子と、紅茶の用意をし始めたのであった。
これにはジェイロとギャロットの目が点になったのであった。
それもそのはず、勇者はこの大陸では最終兵器の様な存在である、それを執事とメイドで使っているなど考えられない事なのである。
と言う事は、ルタイ皇国では勇者は一般的な職業で、お前達に勝ち目は無いのだ、早く降伏しろと言った左近からのメッセージなのであった。
だが、そのメッセージもこの男には全く効かなかったのである。
「いやぁ凄いね、さすがはルタイ皇国の左近衛大将だ、あのメイドの胸、あんたそれで採用したのだろ?
ああ、みなまで言うな!同じ巨乳好きだから解るんだよ」
何だこいつは?何処まで本気なのかが解らん。
もしくは、そんな情報は既に知っているって事か?もしもそうならこいつは中々厄介な奴だぞ。
左近は椅子に座りながらそんな事を考えて、直球で聞いてみる事にしたのであった。
「今日は、どう言った目的で呼んだんだ?」
「言ってなかったか?アイリの巨乳を自由に楽しむ方法を教えるためだよ」
「おじさん!」
「ライリー殿それは心配無用だ、毎晩楽しませていただいている……それよりも、今回の策を考えたのはライリー殿か?」
「ウッ……やっぱりなぁ、バレるよなぁ……やっぱり橋か?」
「そうだ、あれが無ければ気付かなかった……でもどうしてあんなミスを犯した?」
「いやあれな、実は俺じゃ無いんだよ、何処かのアミリアってバカが、良かれと思ってやった行動なんだよ。
あれがなきゃ完璧だったんだけどなぁ……でも、解った所でどうする?」
「確かに、解った所で難しいが、撃ち破る時の喜びはまた格別なものになるだろう」
「あんた若いのに中々楽しい性格しているね」
「ありがとう。所であの城はライリー殿が作ったのか?」
「そうだ、あの城は俺の夢なんだよ」
「夢?」
「そうだ夢だ。昔、アミリーが家から持って来た本の昔話に出てくる、超帝国のルタイ皇国遠征記に出てくる城に、俺は憧れてな。
いつかは、作って見たいと思ってドレイヤー城の城主になったときに、改装したんだ……どうだ、ルタイ皇国の城に似ているだろ?」
「縄張りだけな。でもそれだけでも凄いと思うよ」
「縄張り?」
「城の配置の事だな」
「なるほど、ルタイ皇国の城は奥が深いな」
そんなライリーの話を聞いていたエリアスは、少し涙ぐんでいたのであった。
「あいつそんな昔の事を……」
「エリアス殿、大丈夫で御座いますか?」
「すまない、ええっと……」
「ジェイロですよ、それはそうと今回の戦でエリアス殿は出陣されないので?」
「出るでしょうが、おそらく私は本陣でしょう。御館様は私が同郷の者を殺すのは心苦しいと思われてか、あまり戦には参加させたくは無い様ですので」
「そうですか残念です。しかし、私が本陣まで行けば戦えると言う事ですね」
「……そうですね」
「その時は手加減せぬようにお願いします」
なるほど、ライリーは降伏はしない訳か。
「その時はもちろん、全力でお相手致します」
そう言った、エリアスの表情は何処か寂しそうな顔をしていたのであった。
「では降伏は無いと言うのだな?」
「無いな、左近衛大将よ。それに俺が降伏すれば、ドレイヤー城の兵は納得せんし、逆上し俺を殺しに来るだろう」
なるほどな、城の兵士は荒くれ者が多いって事だろう……しかし、この頭脳勿体無い、配下に欲しいな。
「そうか、では俺がお前の策を撃ち破り、お前の主としての器を見せるとしよう」
「器ね……出来るものならね」
「では今日は有意義な会談であった、次は戦場だな」
「あぁそうだな」
そう言った左近とライリーは立ち上がって、ガッチリと握手を交わすと、左近達は空間転移でルゴーニュ村に戻って行ったのであった。
ルゴーニュ村に戻った左近は、早速に諸将を集めると軍義を開いたのである。
「左大将殿、何か会談で突破口が見つかりましたか?」
そう左近に聞いたのは、左少将であった、会談から帰ってくるなりのいきなりの軍義である。
集まった諸将は、左近がどの様な策を披露するのか期待を膨らませていたのであった。
「今回は蔵之介の意見を採用する」
「よっしゃ!」
「バカな!」
「左大将殿、無謀で御座います!」
これには、蔵之介以外の諸将が猛烈に反対した。
それもそのはず、通常城攻めは数日、もしくは数ヶ月かけて行うものである、蔵之介の言うとおり、城攻めを行えばこの電撃作戦の意味が無く、きたる帝都攻略に遅参する恐れがあったからであった。
「まぁそう言うな、1日で落とせば良い話だ」
「それは無理でしょう、この城の縄張りを見る限り、落とせはしますが、こちらも相当の被害と日数を覚悟しなければなりません」
「確かに、左少将の言うとおりだ、まともに行けばな」
「では、何か策を労すると?」
「そうだ、まずはこのルゴーニュ村に3千を別動隊に残した2万7千で帝都に向かう。
そしてこのドレイヤー城を無視して一気に通りすぎるが、ラナは兵2百を率いてドレイヤー城に向かい、奴等を挑発してくれ」
「挑発?」
「そうだ、石を投げたり……まぁその辺は任せるよ、とにかく奴等は相当な荒くれ者の集まりの様だ、そんな挑発には耐えられないだろう。
で、城から出てきた敵を引き連れて、ここの川の手前に在る広大な草原まで、逃げてこい。
そしてアデルは、この森の街道だ、ここに兵8百で伏せて、敵の斥候だけは確実に仕留め、敵本隊に奇襲を仕掛けて適当に森に逃げろ」
「解りました」
「そして、その先のこの草原には、俺達が待ち受けるって作戦だ、ではこれより布陣を発表する!
先ずは第一陣、長岡 左近衛将監 蔵之介!」
「おう!」
「第二陣、島 隼人佑 アイリス!」
「はい!」
「同じく第二陣、島 織部佑 ラナ!」
「はいよ~!」
「続いて第三陣、三好 左近衛少将 清信!」
「はっ!」
「同じく第三陣、家長 主馬首 安勝!」
「承知!」
「同じく第三陣、津川 玄蕃允 正盛!」
「はっ!」
「同じく第三陣、生駒 大膳大夫 バッシュ!」
「はい!」
「名前を呼ばれた諸将はそれぞれ、兵3千を率いてこの様に布陣せよ!本陣はこの後方に布陣いたす!」
「チョッと待ってくれ兄貴、これはどう見ても魚鱗の陣じゃねえか、敵の数はせいぜい6千って話だ。
数が多い我等に魚鱗の陣って、変なのはいくら俺でも解るぞ!」
そうこの蔵之介の指摘は全く道理にかなっていたのである。
通常、魚鱗の陣は数で劣っている者が、数で勝っている敵に対して取る陣形であった。
「まぁ聞け蔵之介、これは更なる罠だ。
お前は敵兵と戦い徐々に後退する、するとアイリスとラナがその両翼から駆け上がり、続いて左少将とバッシュが二人に続き、お前はそのまま後退すると」
そう言って左近が地図の上に置いた駒を移動させて説明すると、その場のルタイ皇国の諸将全員が思わず声を出したのであった。
『あ!』
「そう、皆気が付いた様だな、これは変形の鶴翼の陣だ」
「左大将殿!これは最早、芸術の様な策ではございませんか!」
そう言って左少将は目を輝かせて言ったのである。
「でも、これって俺の一番槍は関係ある?何だか退くだけって……」
「蔵之介、この一番槍は頭も必要なのだ……お前には、その頭があるか?」
「いくら兄貴でもバカにするなよ、有るに決まっているだろ!」
蔵之介は左近にそう言って怒っていたが、他の者の目は、完全に疑いの目になっていたのであった。
「ならばこの戦で証明してやれ」
「おう!」
「しかし、野戦はこれで良いとして、肝心の攻城戦はどうされますか?」
そう言った、家長の言葉に、その場の全員が頷いたのであった。
「それは決まっているだろ、ドレイヤー城は、ルタイ皇国の城の様に昇降式の城門では無く、普通の城門で閂で城門を閉めて固定する、そこに勝機が有るんだよ。
逃げてくる敵兵が城に戻りきるまで、城門は閉めないはずだ、ならば我等も一緒に城内に入り、この閂を壊し、この要領で、三の丸、二の丸、本丸へと突き進む」
「しかし、それは……」
家長は思わず、言いかけて言葉を飲んだのであった、それを言ってしまうと、恐怖に取り付かれそうになったからで、あったのだがこの男だけは違ったのである、そう超絶空気の読め無い男の蔵之介であった。
「兄貴、これって本丸に到着した頃には、皆死んでいるんじゃ……」
蔵之介が言った瞬間、その場の空気が張り詰めたのであったが、パンドラが静かに話し出したのであった。
「皆様、我が軍には青龍部隊もおりますし、心配する様な事はございません、それよりも私が心配しているのは、皆様の心構えです!
貴殿方がこれから向かうのは戦でしょう?それが何ですか、この旅行に行くかの様な雰囲気は?これがルタイ皇国の左近衛府の皆様の正体ですか?
それならばいくらお父様が策を立てても、勝てる戦も勝てません!今一度思い出して下さい、何をやりに、遠いこの地にやって来たのかを。
……運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり。死なんと思えば死に、生きんと思えば生きる。
これは古い武将の言葉です、貴殿方はパナスで虐殺を行った時に、修羅の道に入ったのでしょう?ならば何故、今になって命を惜しむと言うのでしょうか?その武将の言葉通り、死兵となれば、生きる時も御座います」
「……姫様、そこまでにしてください。しかし、おかげで目が覚めました、そうです、この左近衛府の侍は全て修羅の道に入ったのでありました。
ならば惜しむ命は御座いません、我等は死兵となって敵兵を見事討ち取りましょう」
そう言った、左少将の目には最早迷いは無く、まさに野獣の様な顔付きになっており、それは他の諸将も同じであったのである。
パンドラは、将の器も有るか?この者が何処まで成長するのか見てみたい……でも最後の言葉は謙信公の言葉だろう、あいつ俺の記憶をかなり見ているな?。
そんな願望に取り付かれた左近は、左少将の意気込みが伝染した諸将に言ったのであった。
「ならば策は決まったな、我等が一番乗りを果たすぞ!」
『おう!』
「では、おそらくは一週間以内には、出陣する事になる、諸将はそれまでに準備をする様に、左少将には細かい人員の割り振りを任せる。
バッシュは左少将に付き、割り振りを学べ!左少将も自分の弟と思い、その全てを叩き込んでやれ!」
『はっ!』
「では解散!」
左近がそう言うと、諸将はそのまま意気揚々と出ていったのであった。
「しかし、乗せやすい者達ですね。でも、嫌いじゃないですよ、こんな者達は」
そう言ったパンドラは左近にウインクをして、最後に出て行こうとしたパンドラを左近は止めたのである。
「待てパンドラ、お前には別命がある」
「別命?」
「お前は、このルゴーニュ村に残す別動隊の二千を率いて、この道を大きく迂回し、ここの川の背後に出て欲しい。
そして敵の伏兵部隊が、俺達と開戦し川を渡り俺の策にはまったら、その二千を率いて敵の背後から攻撃してくれ。
これは、俺と同じ天眼のスキルを持っているお前にしか出来ないことだ」
「ならばその伏兵は私共で討てば宜しいのでは御座いませんか?」
「少ない兵や陣容によっては逃げられる恐れもある、この川の策は確実に敵将を仕留めなければ、ならんのだ……解ってくれ。
それにお前には、一軍を率いてくれる将になって、欲しいのと共に、人としての喜びを感じて欲しいのだよ、この意味解るな?」
「人としての喜びね……まぁお父様の記憶にはそんな喜びや悲しみが溢れておりました、私もその様な経験は嫌いじゃないですよ。
それでは率いる兵も、私好みにさせていただきます」
そう言ってパンドラは、出ていったのであった。
少しは、皆に仲間意識を持ってくれたって事かな?パンドラには左近衛府の者と、仲間意識は持って欲しい……そうじゃないと、もめる原因になるからな。
さてと、俺は俺でこれからもう一仕事あるから、がんばるか。
そう思った左近は空間転移で、レイクシティに飛んだのであった。
「遅いぞ左大将!」
そう言ったのは、ぶっきらぼうな蒲生 弾正尹であった。
「申し訳ない、少々軍義が長引きまして」
「まぁそう言うな、マーティ殿とミサ殿が未だ来ておらん、左大将とりあえず座ったらどうだ?」
関白に言われた左近であったが、弾正は何ともしゃくにさわる男だと左近は思っていたのであった。
「清興よ、我が方の軍船はどうだ?」
「ああ、後2、3日って所だろう。ポートシティを攻撃してナリヤに要請が行くまで、一週間って所かな」
「そうか、もう少しだな……」
そう正成が、言うとドアがノックされて、マーティとミサが入って来たのであった。
「本日はどの様な用件でしょうか?」
そう言ったマーティの声には若干の恐怖が混ざっていたのであった。
それもそのはず、マーティ達が城から呼び出されて、向かった先は左近衛府で、更に扉を開けると関白に弾正尹、左近衛大将に右近衛大将とルタイ皇国の各トップ達がいるからであった。
「そうだな、左大将お前から頼む」
「かしこまりました。先ずはマーティ殿、グレゴール商会にルタイ皇国から依頼がある。セレニティ帝国に西から攻め込もうとする、国や軍を防いで欲しい」
「期間と費用は?」
「期間は1ヶ月間で、費用は100万シリング」
「それは流石に、少な過ぎやしませんか?それで傭兵団を、動かす事は出来ませんよ」
「少なくは無いさ、傭兵団を動かさなくて良いのだから。
連邦は、帝国の西側全域を接しており、その中でもマーティ殿が統治する場所は、帝国と接する場所だ、なので要はマーティ殿、もしくは連邦を動かない様にすればよい。
この100万シリングは、経費や何も引かずに、純粋なマーティ殿の利益になるのでその金額だ。
私も傭兵業をやっていたので解るが、こんなにも経費のかからない利益はかなりの得だと思うが?」
「……そうですね解りました、引き受けましょう。早速、本国に空間転移してもよろしいでしょうか?」
「それは少々待ってくれ。次にミサ王女、貴女にはルセン王国に戻って頂き、国王陛下をこちらに連れて来て欲しい。
新しい同盟の決め事等を、関白様とザルツ王国のゲハルト国王達とトップ同士で話し合って頂きたい」
「それは解りましたが、時間がかかりますよ」
「それは問題ない、こちらから勇者を二名出す、マーティ殿と連邦迄、空間転移で一緒に行き、そこから本国迄行って、空間転移でこちらに来れば良い。
ただし防犯上、これより空間転移は、全て城のエントランスで、出入りする事になるのでその様に」
「解りました、ではその時に我がルセン王国の館の区画を、決めても宜しいでしょうか?」
「あの!グレゴール商会も、その時に、区画を決めても宜しいでしょうか?」
「ルセン王国は我が連合に入るので、この区画になるが、グレゴール商会は国単位では無く、連合のメンバーでは無いので、一般区画になるが、それでも宜しいかな?」
「……致し方ありませんな」
そう言ったマーティの表情は何処か、曇っていたのであった。
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数日後、帝都ナリヤに戻ったアミリアは、すれ違うメイド達が驚き、持っていた花瓶を思わず落とす怒りの形相で、ルイスの執務室に向かって行ったのであった。
それもそのはず魔女騎士団は、ポートシティ救援の為に出陣する事にきまったのであった、そう伏兵部隊では無く。
「失礼します!」
そう言って怒りの声を殺せずに、アミリアは執務室の扉を勢いよく開けて、ルイスにアミリアは詰め寄ったのであった。
「一体どう言う事なのですか!我等の一体何が不満なのですか!」
「怒鳴るなアミリア団長。俺の采配に何が不満なのだ?」
「不満も不満です!ライリーの策は我等魔女騎士団が持って来た物!ならば我等が行くのが筋でしょう!
それにポートシティに来た軍船は600隻にもなります、単純に考えて敵兵1万8千ですよ!こちらは前の戦で人数が減って2千ほど、相手にもなりません!
それならば、我が騎士団も伏兵に入るか、人数を増やしてポートシティに向かわせるか、して下さい!」
「伏兵部隊は既に出陣している。それに何だお前、死ぬのが怖いのか?」
「そうでは御座いません、こんなのは、ただの犬死にと言っているんです!」
そう言ったアミリアは、怒りのあまりにルイスの机を叩いたのであった。
「ムカつくんだよ……犬死に?だからどうした?ほんの少しでもルタイ皇国軍を足止め出来れば、お前達、騎士団は本望だろう?」
その言葉を聞いたアミリアは、歯を噛み締め怒りを堪えると、ルイスに聞いたのである。
「何故、我等をその様に敵視されるのですか?」
「何故?貴様の娘のクリスが、敵の捕虜に捕まりドレイヤー城から捕虜が逃げたからだ!」
その言葉を聞いたアミリアに衝撃が走ったのであった。
「そ、それで娘は?娘はどうなりましたか?」
「知らん!知らぬがこれは立派な反逆罪になる!」
「娘は捕まったのでしょう?何故、反逆罪になるのですか?」
「そのうち、交渉の材料使われるのがおちだ、ならばせめて帝国の捨て石となって親子共々死ぬが良い!」
「……そんな……クリスは、将来貴方と結婚するはずでは……」
そう言って、混乱しているアミリアにルイスは、立ち上がりアミリアの長い毛を引っ張り言ったのであった。
「結婚?所詮は子供を生む道具だろうが、女はいくらでもいる。子供を生むなら、その辺の娼婦でも良いわけだ……俺が欲しいのはアイリだけだ、貴様の娘など豚にくれてやれば良い」
「ルイス様……それが……それが本心ですか?」
「何だよ、今さら気が付いたのか?しかし、あのルタイ人の親子と言い、貴様もイラつくな。
良いだろう教えてやる、聖導騎士団を罠にかけ潰し、アイリを我が手にと考えていたのだが、少々予定が狂ってな……お前の娘のクリスの苦しむ顔を見て、気を紛らせ様と考えていたのだが……でもやっと見つけた、見つけたがあの忌々しいルタイ人が付いていてな。
そこで考えたのだよアミリア、アイリの目の前であのルタイ人をゆっくりと、時間をかけて殺してやれば、アイリも僕の元に戻って来るだろう?なぁアミリア?」
そのアミリアを覗き込むルイスの目は、既に狂っており、完全に精神が壊れている様にアミリアは思えたのである。
「ル、ルイス様……こんな事を私に言うなんてまさか?」
「ピンポーン、アミリア、君はここで死ぬんだよ。ちょっとさぁ、あの忌々しいルタイ人の女に、こちらの主力を壊滅させられて、イライラしているんだよ」
そう言ってルイスは背中からナイフを取り出し、アミリアの首に当てようとした時であった、ルイスの身体がバチッ!と言った音と共に吹っ飛んだのである。
「ルイス様……こんな屑の様な男だったなんて……心配しなくてもクリスはあんたみたいな男にはくれてやらないよ」
そう言ったアミリアの行動は素早かった。
このままルイスを殺すのは流石に帝国の将来が心配で、出来ないと思とすぐにその場から脱出し、騎士団の本部まで走って行ったのである。
「皆!このまま帝都から逃げるよ!」
勢いよく入ってきた団長の掛け声に、騎士達は唖然としていたのであった。
「団長、何で?」
「よく聞け、ルイス様は我等を全員殺すつもりだ、それも自分の気持ちがイラつくってだけで」
「そんな何かの間違いじゃありませんか?あのルイス様ですよ」
「あぁもう、信じられないのなら良いさ……団長命令だ死にたくない者や、私を信じる者だけ付いてきな!今すぐ逃げるよ!」
そう言うとアミリアは、武具を身体に装備して、急ぎ帝都を脱出したのであった。
「……くそ、逃がしたか……それにしてもアミリアの奴、詠唱無しで魔法を放ちやがった……部屋に入る前に予めしていたと言う事か。
……仕方がない計画を早めるとするか、本当は薬で徐々に殺すつもりだったのだが……誰かいるか!私に付いてこい」
そう言って気が付いたルイスは、兵を二人引き連れて父の皇帝ルベル・セレニティの元に向かったのであった。
「父上!皇帝陛下!」
そう言って勢いよく寝室に入ったルイスは、側にいた綾那とメイドに視線をやって、にこやかな表情で言ったのである。
「母上、それに皆。チョッと父上に内密で報告があるので席を外してくれないか?」
「……ルタイ皇国の件ですか?」
「それは言えません、機密事項ですので」
「……解りました、皆外に出ましょう」
そう言って部屋から出たのを確認したルイスは、一気に豹変したのである。
そのまま無言で父親の元に向かうと、あまり意識の無い皇帝の口を押さえて、ルイスは怒りをぶつけるかの様に、いきなり腹を何度も何度も、短刀で刺したのであった。
そして、あまりの光景にその場にいた二人の兵士は声が出せずに、ただそのおぞましい光景を眺めるしか無かったのである。
そして、気が晴れたのか、ルイスはそのままゆらりと立ち上がると、ゆっくりと兵士の元に近寄ると言ったのである。
「貴様はどちらの側に付く?こちらか?それともただの死体か?」
「き、貴様……よくも陛下を!」
そう言った兵士の首には、皇帝を刺した短刀が既に突き刺さり、その兵士はその場に崩れ落ちたのであった。
「さぁて、お前はこちら側につくのか?」
そう言って返り血を浴びたルイスの目は、最早狂気しかなく、誰が見ても狂っているとしか思えなかったのである。
だが、残された兵士は、首を何度も縦に振り、その狂気に抗える力は無かったのであった。
「良い選択をしたな、お前名前は?」
「……ボナム」
「ではボナム、これは魔女騎士団のアミリア・マクレガー団長の仕業だ、そしてこの兵士は、皇帝を守る為に死んだ……そうだな?」
「は、はい」
「良い答えだボナム。ではここにいたメイドを覚えているな?」
「は、はい……まさか!」
「そのまさかだよ、あのメイド達がアミリアをここまで手引きした、その筋書きで無理なら、今すぐにメイド達を殺してこい。
裏切ったらどうなるか解るよな?」
そう言われるとボナムは、ただ頷くしか選択肢は無く、ルイスの言葉を実行するしか無かったのであった。
「では、行ってこい。母上は私が何とかする」
そう言うとボナムは、そのままルイスの命令を実行する為に部屋を出て、ルイスはそのまま自分の母親の元に向かったのであった。
そしてアミリアに付いてきた騎士はおよそ200名で、残る1800名はそのままアミリアの言葉を信用せずに残り、後日皇帝の暗殺を行ったとして、メイドと共に帝都の城外で火炙りの刑に処されたのである。
一方、助かったアミリアと200名の騎士は、西の街道をヴァルキア地方の左近衛府軍を目指して、行軍していくのであり、その日の内にルイスは、父親のルベル・セレニティの後を継ぎ、セレニティ帝国の皇帝に即位したのであった。
ここに帝国史上類を見ない暴君が誕生したのである。
そして、ポートシティに襲撃した味方を、天眼で見ていた左近は、最早帝国には援軍を出す余力が無いと見て、総攻撃の許可を関白に打診したのであった。
「御館様、関白様の本隊より入電です!これより各軍は予定通り進軍せよ、各軍の検討を祈る。だそうです!」
「諸君、許可はおりた……これから再びルタイ皇国の伝説を作ろうじゃないか」
そう言った左近の言葉に、左近衛府の諸将は決意を決めて帝都ナリヤに向けて進軍し始めたのであったのである。




