脱出
佐平次の救出作戦当日、この日のドレイヤー城は、兵士達の宴が催されて、城内の至る所から兵士達のバカ騒ぎの声が聞こえていたのであった。
これはドレイヤー城、城主ライリーが兵士達の士気向上の為と言った名目で、警備の兵士もこの日ばかりは、人員を少なくし宴を楽しめとのライリーの命令を喜んで受け入れたのである。
そんなバカ騒ぎを避けるかの様に、城の南にある馬小屋に向かう二人の影があった、そう佐平次とクリスティーナの二人であったのである。
二人は、何とか兵士達の目を盗み、馬小屋にたどり着き、中に入ると馬小屋の奥にライリーが待っていたのであった。
「思ったより早かったな。こちらも立場上、明日の朝には逃げたのに気が付き、追っ手を出す体裁を取らなくてはいけないので、早く行け」
「おじさん……」
「クリスよそんなに悲しい顔をするな……そうだクリス、これを向こうの司令官に渡して欲しい、これは城主としての命令だ」
なるほど、これでクリスティーナ様は必ずやルタイ皇国の陣まで行かなくてはならない、うまく考えたな。
「解った……でもおじさん、死なないでよ」
「ああ、大丈夫だ……佐平次、頼むぞ」
佐平次はライリーの言葉に、何も言わずにただ頷くだけであった。
「ふっ、真っ直ぐな良い目をしてやがる。クリス、どうせ結婚するなら、こう言う奴にしておけ」
「お、おじさん!何言ってるの!わ、私は佐平次何て……」
「静かに、いくら兵が宴をやっているからって言っても、他の者はお前達の事は知らないんだから、バレたらまずい」
「ごめんなさい」
「佐平次、餞別だこれをお前にやろう」
そう言ったライリーは、腰の剣を佐平次に渡したのであった。
「それは俺がここの城主になった時に、陛下から頂いた物だ、大切にしろよ」
「……すまない」
クリスは気が付いてはいなかったのだが、佐平次はこれは自分の意志を自分に託すと言う意味が有るのだと直感で感じ、ただ一言すまないと言ったのであった。
「さあ、話が湿っぽくなった所で、早くここから出て逃げろ」
そう言ってライリーが、馬のいない部屋の藁を退けると、地面から地下に行く扉が見えたのであった。
「おじさん、ありがとう」
「ああ、早く行くんだ」
ライリーがそう言うとクリスは目に涙を浮かべ、佐平次はライリーに一礼し抜け穴に入って行ったのであった。
二人が行った事を確認するとライリーは、丸太等をその扉の上に置き、出入りが出来ないようにしたのである。
「さぁて、俺も久々に飲んで騒ぐかな」
そう言って出ていったライリーの背中は何処か寂しく哀愁が漂っていたのであった。
佐平次とクリスが外に出た場所は、城から死角になっている下水の排水口であった、ここからなら城から見えない、そう思った二人は森を目指して歩いて行ったのであった。
二人は街道を離れ、森の中を進んでいた。これは街道を進むとドレイヤー城の斥候部隊に会ってしまう恐れがある、二人はそれを避けて、あえて森の中を、ルゴーニュ村に向かって進んでしたのであった。
待ち合わせは森に入った所でと言う話だったのだが一体何処にいるのだろうか?そんな事を考えていた佐平次であったが、突然ピタリとその足を止めたのであった。
「どうした佐平次、疲れたか?」
「違います……どうやら俺達は囲まれた様ですよ」
そう言って佐平次は、ライリーから貰った剣をゆっくりと抜いたのであった。
「ルタイ皇国の迎えじゃ無いのか?」
「違いますね、俺達を囲む様に布陣している……これは俺達を逃がさない為ですね」
「仕方がない……佐平次、私が道を開く、お前だけでも逃げろ」
そう言って剣を抜いたクリスの刃先が、カタカタと震えているのを見た佐平次は、クリスの肩を叩いて言ったのであった。
「クリスティーナ様、ライリーさんから手紙を預かったでしょ?逃げるなら二人です。
二人で背中合わせに戦い死角を無くしましょう……クリスティーナ様?」
「だ、大丈夫だ……ただこう言った戦闘は初めてで、ちょっと緊張しているだけだ」
「……クリスティーナ様、人を斬ったことは?」
「無い、アルム砦の戦の時も馬に乗っていただけで、夜襲の時も無我夢中で逃げていたら、お前にぶつかった」
マジかよ、じゃあ全くの素人と同じじゃねえか……この状況どうする?どんな敵に囲まれているのかも、解りもしないこの状況で、どうやってクリスティーナ様を助ける?
そう考えていると、徐々に包囲の輪が狭まり、佐平次達の目の前に30人程の騎士がその姿を見せたのであった。
「おやまぁクリスティーナちゃん、こんな所で会うなんて奇遇だね。おや、そこにいるのはルタイ人の捕虜じゃないかい?」
「エリエッタ・リゾット副団長!」
月明かりに照らされた騎士の女性に、クリスは驚きを隠せずにいたのであった。
「どうやらお知り合いの様で」
「エリエッタ・リゾット副団長、魔女騎士団の副団長だ……でもなんで?」
「驚いたかい?そりゃ驚くよね、ここに私達を配置して、見張らせたのは団長だからね。
クリスティーナちゃん、あんたよっぽど自分の母親に信用が無いんだね、アルム砦では、何も武功をあげて無いし、前回の夜襲じゃ、団長の影に隠れていただけで何もしていない。
あんた騎士には向いてないよ」
「母上が……」
クリスには、エリエッタの言葉が衝撃的であった、自分はそんなにも母親に信用が無かったのかと。
「大丈夫だ、あんたは殺しはしないよ。まぁ骨の1本や2本は覚悟していただかないとダメだけどね。
ただ捕虜のあんたはダメだ、ここで死にな」
「クリスティーナ様、貴女は逃げて下さい。ここは俺が……」
「バカ者、その身体で何処まで戦えると言うのだ、私は命を狙われていない、だとしたら私が暴れればお前が逃げれる隙が出来よう」
「何だ、私達と戦おうってのかい?勇敢だね……でもね、勢い余って殺してもその捕虜の責任にしちまえば、いい話なんだよ」
「こいつ、最初から殺すつもりで……」
「正解、さぁてなぶり殺しにしてやるからね」
そう言ってエリエッタが合図の為に剣をゆっくりと上に上げた瞬間であった。
「ガハッ」
「グォ」
そう言って次々と、弓矢で頭を射抜かれた騎士が倒れていったのであった。
「チッ!ルタイ皇国か?」
エリエッタそう言った瞬間、無数の火の玉が飛んできて、周辺の木々に燃え移ったのである。
「しまった、これでは良い的じゃないか!皆、木を盾にしろ!」
エリエッタの命令で、騎士達が飛んできた方向に対して、木の陰に隠れると次は右側から連続して弓矢が飛んできて、騎士達の頭を射抜いたのであった。
「くそ!一体何人の弓兵がいるんだよ!皆、しゃがんで身を低くしろ!」
そう言ったエリエッタの目の前には、騎士達の頭上に空間転移の暗闇が広がっていたのである。
まずい!そう思った時であった、空間転移の暗闇から無数の弓矢が飛んできて、兵士達に降り注ぎそこは阿鼻叫喚の地獄絵図になっていったのであった。
勇者だと!
思わずそう思ったエリエッタと同じ様に思った騎士達は、既に逃げる体勢にいたのだが、目の前から出てきた大きな黒い鎧に恐怖し、足がすくんでしまっていたのである。
降り注ぐ弓矢の十字砲火の中で、何も言わずにただやって来た黒い鎧のリンはそのまま槍を振りかぶると、一気に3人の騎士をそのまま薙ぎ払ったのであった。
「くそ!化け物か!敵は一人だ、あの者を倒して一時撤退!」
エリエッタの号令で、騎士達は一斉にリンに向かって斬りかかったのであったのだが、一突きで3人まとめて串刺しにすると、その勢いを止めること無く槍を薙ぎ払い、更に二人の騎士を殺したのであった。
「ば、化け物だ……」
エリエッタがそう言った瞬間、騎士達はそのまま一目散に残っている街道の方角に目指して走り出したのである。
しかしそれを見逃すクロエとロビンではなかった、木々の間から見える一瞬を狙って矢を放ち、唯一生き残ったエリエッタも、急に重くなった自らの体重を支えきれずに、その場に倒れてしまったのであった。
「……な、何だこれは?身体が動かない……」
そう言って、何とか立ち上がろうとしていたエリエッタの頭に強い衝撃が走り、地面に顔面を強打したのである。
「だ、誰だ?」
「あら?まだ声を出せましたの?意外としぶといですね」
その声を聞いたエリエッタは、ここで初めて自分は頭を踏みつけられているのだと気が付いたのであった。
「貴様、私を魔女騎士団の副団長、エリエッタ・リゾットだと知っての事か?」
「魔女騎士団?」
「ああそうだ、帝国の3騎士団の1つである魔女騎士団の副団長にこの様な無礼をするとは、貴様何者だ」
「これはこれは、良い事を聞きました、私はルタイ皇国の島 左近衛大将 清興が娘、パンドラと申します。
クロエ!ちょっと来なさい!この者の首を取って手柄にしなさい!」
その言葉を聞いて、エリエッタは初めて自分の失態に気が付いたのであった、敵にこの様な状態で名乗るなど、手柄にしてくれと言っている様なものである。
エリエッタは激しい後悔に包まれていると、誰かもう一人こちらに近付いて来るのが感じられたのであった。
「姫様、それは手柄とは言わないですよ」
そう言って近付いて来たのはクロエであったのである。
「大丈夫ですよ、誰も見てませんし、さぁ殺っておしまい。何なら拷問して楽しんでからでも良いですよ」
「姫様……御館様の姫様なのですから、もう少しおしとやかにね。そんなにもノリノリで言われましたら、私もリアクションに困ります」
「それもそうですね。失礼しました、つい楽しくて……貴女、確かエリエッタとか言いましたね。さぁ立ち上がりあのエルフを倒しなさい、そうすれば命は助けましょう」
そう言うと、パンドラはエリエッタの頭から足を下ろして、身体の重力を戻したのである。
「ひ、姫様?」
「クロエ、私は言いましたよね、ここには訓練の為に来るのだと。この実戦が訓練です、実戦に勝る訓練などございません。
さぁエリエッタ、やっておしまい」
そう言うと、パンドラはビシッとクロエに向かって指差して言ったのであった。
「……パンドラ様、振り返って見てください、もう逃げてますよ」
「嘘!」
そう言って振り返ったパンドラの背後には、いるはずのエリエッタの姿が既に消えていたのであった。
「あの者は、人の好意を何だと思っているのでしょう!」
「それ、好意の使い方を間違えてますよ。姫様、少々お下がり下さい」
そう言うとクロエは、弓を構えて大きく息を吐き、エリエッタが逃げた方角に向かって狙いを定めたのであった。
クロエは暫くその体勢のままじっとして、張りつめた空気が、辺りを包み込んでいたのだが、クロエの目には逃げるエリエッタの姿を捉えていたのであった。
そしてエリエッタの姿が見える直前に、カシュと音を立てて矢を放ったのである。
クロエの放った矢は、木々の間を縫って、美しい放物線を描きエリエッタの延髄に突き刺さったのであった。
「お見事!」
思わず言ったパンドラの言葉に、クロエの張りつめた緊張が解けたのであった。
「ふぅ……当たったから良かったですけど、もう止めて下さいね」
「でも武功がたてれて良かったではないか」
そう言ったパンドラは、月明かりの下で、満点の笑顔で言ったのである。
本当に、この人は御館様の血から生まれたせいか、御館様に良く似てらっしゃる、まるで本当の親子の様だな。
そんな事をクロエが思っていると、アデルがやって来たのであった。
「姫様、向こうも片付きました」
「そうか、ここから逃げ出せた者は?」
「おりません」
「ならば、武具を回収し死体を隠せ、盗賊の仕業の様に隠蔽しろ、私達は佐平次を回収後に、空間転移でルゴーニュ村に飛ぶ」
「承知!」
そう言ったアデルは、その場から去って行ったのである。
「では、私達も行きましょうか」
そう言ったパンドラ達は、佐平次達の元に向かって行ったのであった。
パンドラ達が佐平次達の元に戻ってみると、クリスを守る佐平次とロビンとリンが、睨み合っていたのであった。
「何をやっておるか、このバカ者共が!」
「姫様……」
その声を聞いた、ロビンとリンは武器を収めて、その場に膝を付いたのである。
姫様?一体誰だ?あれは左大将様の親衛隊の……確かクロエ様と言う事は、救出部隊なのか?
そう思っていた佐平次達の目の前に現れたのは、パンドラ達であった。
「ロビン、一体何事ですか?」
「いえ……この者が、敵兵を庇っておりまして……」
「この人は敵ではございません!」
「二人とも少しお黙りなさい!……クロエ、このお方は、クリスティーナ様で間違いないですか?」
「確かに、このお方はクリスティーナ・マクレガー様、アイリス様の幼馴染みのお人です。
アルム砦の戦の時にご一緒させて頂きました。」
「え!マジで?」
「え!マジで?じゃありません、お母様の幼馴染みに刃を向けるなど……罰としてロビンとリンはアデルの仕事を手伝って来なさい!」
「んな無茶苦茶な……そんなの解るわけないですよ。おら、行くぞリン」
「待ちなさい二人とも」
渋々と行こうとしたロビンとリンをパンドラは止め、そして静かに言ったのであった。
「その無茶苦茶な事でもこなすのが我等、ルタイ皇国の黒騎士です。
その黒は、全ての色を漆黒の闇へと誘う黒です、そこに状況判断と作戦遂行の出来る頭脳がなければ、ただの下級悪魔となんら代わりはありません。
この意味解りますね?
リンにはそこまで求めていません、貴女は力を抑えて戦う事から始めなさい」
「姫様、申し訳ございませんでした。次回よりそのご期待に応える様に致します」
そうロビンが言うとリンも隣で何度も頷き、二人は行ったのであった。
「さてと、配下の者がとんだご無礼を致しました。私は、島 左近衛大将 清興が娘パンドラ、貴方が佐平次ですね?」
その言葉を聞いた佐平次は、思わずその場に平伏して言ったのである。
「有難う御座います、姫様。某、丹波は青井家の浅田 佐平次 長宗で御座います。
こちらに、おられますのは、ご存じの様にクリスティーナ・マクレガー様で今回ドレイヤー城城主ライリー殿からの書状を左大将様に渡しに来られました」
「クリスティーナ・マクレガーで御座います、今回は助けて頂き有難う御座います。
先程の様な状況では、ロビン殿とリン殿が私を敵と思うのは仕方無き事。私は何とも思ってはおりません」
「さすがは、お母様の幼馴染みです、その気高き心は、どっかのバカ姉にも見習って欲しいものです。
では、あのバカ者は放っておいて、我等はルゴーニュ村に行きましょうか」
「恐れがら、少し寄り道をして宜しいでしょうか?もう少し先にどうしても佐平次を連れて行きたい場所が在るのです」
「……解りました。クロエ、佐平次に肩を貸してあげなさい、クリスティーナ様は先導を頼みます」
「有難う御座います」
そう言って一行は暗い森の中を進むと、暫くして鼻を突くような死臭が漂い、森の中に戦場の跡が出てきたのであった。
そしてその一角の木の根元には、月明かりに照らされた一振りの日本刀が刺さっており、何かの墓標の様になっていったのである。
クリスは、その前に行くと涙を浮かべて佐平次に言ったのであった。
「佐平次、ここが源三の墓だ……すまないこんな墓標しか建ててやれず」
「いえ……クリスティーナ様には、感謝の言葉しかございません。源さんもあの世で喜んでいる事でしょう」
そう言って佐平次は静かに手を合わせて、源三の冥福を祈ったのである。
人は何て愚かな生き物なのでしょう、死ねば魂は別の場所に行き、残るのは肉片のみ……ただの肉片に思いを寄せて何になると言うのでしょう。
しかしそれが、お父様が私に求めている姿でしょう……私があの様な愚かな生き物になれと?バカバカしい、バカバカしいが契約上仕方がない。
あのパーヴェルの……忌々しいヨハネスの魂を回収する為だ、お父様の娘でいる限りあの小賢しい神も私の邪魔はしないでしょう。
あのヨハネスに悪魔の契約を破ると、どうなるか思い知らせてやる。
そんな事を思いながら、パンドラ達はルゴーニュ村に空間転移で戻ったのであった。
「佐平次!」
「バッシュ様、ただいま」
ルゴーニュ村の広場に戻って来た佐平次を出迎えたのは、佐平次の帰りを今か今かと待ちわびていたバッシュであった。
「無事で良かった、おおクリスティーナ様ではございませんか!貴女が佐平次を助けてくださいましたのですか?そうだ、それよりも御館様がお待ちです、こちらへどうぞ!」
そう言ってバッシュは、一行を案内したのである。
「あのバッシュは以前に会った事が有るのだが、あんなにも明るかったか?」
そう、クリスの知っているバッシュは、アルム砦攻略戦前で緊張している時であったからである。
「いつものバッシュ様は、あんな感じですよ」
そう言った佐平次は、何事も無かった様に話し一行は酒場に入っていったのであった。
酒場に入ると、左近衛府の諸将が揃う中、クリスはその雰囲気に圧倒されていたのである。
こ、これが、伝説のルタイ皇国武士団……
完全に圧倒され恐怖を抱いているクリスに、佐平次はそっと手を握ると、小声で囁いたのであった。
「大丈夫ですよ、貴女は私が守る」
何が、貴女は私が守るだ、立ってるのもやっとのクセに……。
「ありがとう……」
そう言って左近の前に二人は出ていったのであった。
「お父様、作戦終了し佐平次とクリスティーナ・マクレガー様をお連れ致しました」
そう言って左近の前に出て、優雅に膝付きパンドラが言うと、佐平次達も思わず膝を付いたのであった。
「ご苦労、敵兵はいたか?」
「はい、魔女騎士団が二人を殺そうとしておりましたので、全て排除致しました。
その際、魔女騎士団の副団長、エリエッタ・リゾットをクロエが見事討ち取りまして御座います、アルム砦で見事ゴランを討ち取った武功も御座いますので、このままクロエに貸し与えた、アルテミスの弓とアスカロン、そしてネメアを与えて宜しいでしょうか?」
あ、クロエにあの時の報酬を渡すのを忘れていた……これを機会に渡すか。
「そうだな。クロエ、そのアルテミスの弓とアスカロンとネメアをお前に与える、見事使いこなして見せよ」
「ありがたき幸せ!」
「で、佐平次よ今日はえらく大人しいな、どうした?捕まって牙でも抜かれたか?」
「左大将様、一応はこれでも感謝しているのですよ。いつでも牙を出せと言われれば、出しますよ」
そう言った佐平次は、ニヤリと笑みを溢したのであった。
「安心したよ。そうだ、我が左近衛府には犬はいらん、必要なのは狼だ……だが、今はその身体を癒せ、お帰り佐平次、男になったな」
本当にこの人はよく解らん人だな、しかし不思議と付いていきたくなるお人だ。
そう思った佐平次は、心から平伏し言ったのであった。
「はい、有難う御座います」
「で、ジャリよ久し振りだな」
「だから私はジャリじゃ無いって……」
「そうだな、今はあの時のジャリでは無いな、佐平次を助けて頂き感謝する、クリスティーナ・マクレガー殿」
そう言った左近はクリスに頭を下げたのであった。
たかが一介の兵卒を助けただけなのに、簡単に頭を下げる。そんな指揮官をクリスは見た事が無かったのであり、とても新鮮に感じたのであった。
「……そんなに、あっさり言われたら調子が狂います。そうだ、ドレイヤー城城主ライリー様からの手紙を、貴方に渡す様に言われてお持ちしました」
そう言って、クリスは懐から手紙を出すと近くの兵士に渡したのであった。
「手紙か…俺はキリバ語の文字が読めないし、アイリス読んでくれないか?」
「私ですか?良いですけど……」
そう言ってアイリスは、手紙を受け取り中を見た瞬間、固まってしまったのであった。
「だ、旦那様……これは私なりに意訳して宜しいでしょうか?その、不適切な表現が含まれておりますので」
「いや、そのままで頼む。何かの意図が有るかも知れんからな」
「……で、ではそのままで読み上げます。
「いよう初めまして左近衛大将、毎晩アイリの巨乳を揉めて羨ましいぞこの野郎、俺だって揉みてえよ。
それはさておき、どうせ巨乳好きのお前の事だ、そこにアイリも連れてきているんだろ?そしてアイリの金魚のフンの様に、額に青筋立てているエリスも付いてきているんだろう?大変だよな、自由にあの巨乳を揉めなくて。
そんなお前に朗報だ、俺がその巨乳を自由に楽しむ方法を教えてやるよ。
5日後に街道の森を出た所で、会わないか?こちらは3人、そちらは5人で。俺が思っている通りの男なら、この意味解るよな?では待ってるぜ。
そうそう、佐平次を返してやったんだから、クリスを佐平次と引き離すなよ、人の恋路を邪魔するのは野暮ってものだぜ」
だそうです……旦那様、私は若干殺意が出て参りました」
お、おじさん何て事を!私と佐平次はそんな関係じゃ無いし!てかこんな事言って、怒りを買ったらどうしてくれるのよ!
そんな、青ざめているクリスを余所に左近は思わず笑ったのであった。
「ハハハ、そのライリーと言う人は、俺の事を余程念入りに調べた様だな」
「は?」
しまった、アイリスさん若干キレ気味じゃ無いですか!誤魔化して話題を変えねば。
「い、いや巨乳好きと言う事では無くて、こう言われては俺が、何もしないと言う意味だ、他意は無い。
しかし、これは会談をしようと言っているのか……この5人はアイリスと義父殿は連れてこいと言う事だろう」
「じゃあ兄貴、俺が一緒に行くよ!」
「蔵之介、お前は話をややこしくするからダメだ」
そんな時にパンドラが小悪魔の様な笑顔で進言してきたのであった。
「では、バスティとテスタの二人を連れて行けば宜しいかと、あの者達なら警戒している様に見えませんし、我等の懐の大きさを敵に示せるかと思いますよ」
懐の大きさを?何を言っているんだ?でもパンドラが言うのなら間違いないだろう、こいつは頭もキレる様だしな。
「解った、ではそうしよう。敵の城主直々のお誘いだ、断ってはまずいだろう、俺と義父殿とアイリス、そしてバスティとテスタの5人で向かうとする。
それとバッシュ、佐平次とクリスティーナを温泉宿に連れて行ってやってくれ、温泉なら傷の回復は早いだろう、二人で楽しんでこい」
「い、いやそんな関係じゃございません!」
「何で私が佐平次と!」
「あーもう、うるさい……バッシュ、早くコイツらを連れていけ。佐平次、二人っきりで温泉旅行でもクリスティーナに手は出すなよ」
「いや、それ生殺しだし!」
「何、佐平次お前は私に手を出す気なのか?」
「いや、そうじゃ無くて、言葉のあやと言うか、誤解です!その様な気持ちなど私には一切ございません!」
「何だと、それでは私には、その様な魅力は無いと言う事か?」
「いや……そうではなくて……左大将様ぁ」
「俺に助けを求めるな。バッシュ早くコイツらを温泉宿に連れて行き、二人でゆっくりと喧嘩させろ」
「解りました。ほら二人ともこちらに」
「佐平次!頑張れよ」
バッシュに連れて行かれる佐平次に対して言った左近の言葉に、左近衛府の諸将は全員が親指を立てて笑顔で佐平次を送り出したのである。
「いや、そんな優しさ要らねえし!」
そんな叫びをあげながら、佐平次はバッシュに連れられて、ナッソーの温泉宿に行ったのであった。




