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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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救出作戦

 




 左近達が軍義をおこなった翌日の夜、佐平次はドレイヤー城の一室のベッドで横になり、横には看病の疲れからか、クリスティーナがベッドに寄りかかり寝ていたのであった。

 佐平次は窓から見える月を眺めていると、佐平次の額に小石が飛んできたのである。


 痛っ、誰だ?

 そう思った佐平次は天井を見ると、隅にアデルの顔が出ており、何やらジェスチャーをやっていたのであった。


 アデル?……クリスティーナ様をこの部屋から出せって事か。よし……

 アデルのジェスチャーを理解した佐平次は、寝たままベッド横の水の入ったコップに手を伸ばし、わざとコップを床に落としたのであった。


「ふぇ?……あ、佐平次、言ってくれれば水ぐらい取ってやったのに。あぁ床が濡れてしまっているではないか」


「すみませんあまりにも気持ち良く寝てらっしゃったのでつい……」


「全くお前は……怪我人なのだから私をもっと頼れ。水を持ってきてやるから、大人しくしているのだぞ」


「ありがとう御座います」

 佐平次がそう言うと、落ちたコップを拾ってクリスは部屋を出ていったのであった。


「……アデル、もう良いぞ」

 佐平次のその言葉でアデルは、音も無く静かに舞い降りて佐平次に言ったのである。


「さっきのは、お前の情婦か?」


「バカ野郎、そんなのじゃねえよ……今日はどうした?」


「冗談だよ。近々にお前の救出作戦が行われる……お前身体は?その目は使い物にならなさそうだが」


「救出作戦を?何か変だな……俺の様な、ただの兵卒に救出作戦をするなんて聞いた事がない」


「その辺は、バッシュ殿とラナに戻ったら礼を言っておけ、あの二人が御館様に掛け合ったのだから」


「バッシュ様、貴方って人は……所でラナって誰だ?どっかで聞いたような……左大将殿を動かせる人物でラナって、まさか奥方様のラナ様か?」


「そうだ、そのラナだ。俺の妹でもある」


「奥方様の兄貴が忍びって……訳が解らん。まぁ取り敢えず見ての通りのこの身体だ、何とか歩けるが走るのは無理だな」


「では、俺が出るまで道を作ってやろう」


 アデルがここから一緒に行くとなると、下手すりゃクリスティーナ様は付いてこないな、そうすればクリスティーナ様を守れない。

 しかし、城の外ならまだ何とでも言い様はある。

「……いや、それは大丈夫だ、ここの城の者が俺の拷問の様子を見て同情し、いつでも逃げ出せる手筈になっている。

 ただ逃げ出せてもそこから先が無理だな、もしも追っ手がくれば、逃げ切れる自信がない」


「解った、この近くのルゴーニュ村に向かう森に迎えの兵を寄越す、そこまで何としてでも来い」


「解った、何とかしてそこまで行こう、予定は明後日の夜で良いか?」


「問題ない……戻ってきたようだ、ではその予定でいくので、遅れるなよ」

 そう言うと、アデルは姿を瞬時に消したのであった。



 さて、クリスティーナさんに何て言うかな……

 そんな事を考えていると、クリスティーナが部屋に戻って来たのであった。

「何だ、起きていたのか?」


「ええ……」


「どうした、何かあったのか?」


「……解りますか?」


「それぐらいは、解るさ。お前の事をずっと見たいたからな……違うぞ、看病していたと言う意味だ、他意はない」


 本当にこのお人は楽しいな、見ていて飽きないよ……クリスティーナ様は必ず俺が守ってみせる。

 そう決意した佐平次に迷いは無かったのであった。

「クリスティーナ様……あの時、私が言った事を覚えておいでですか?」


「……あの時期がくれば言うと言っていたやつか?」


「そうです、時期が来ました」


「しかし今のお前の身体はボロボロだ、こんな身体では走るのは無理だろう」


「ですからクリスティーナ様には逃走を手伝っていただきたいのです」


 それは一緒にルタイ皇国迄逃げてくれと、佐平次は言っているのと同じ事であり、クリスにはその事が解っていたのである。

 しかし、もしも自分が逃走を手伝い、ルタイ皇国に行く事があれば、自分の母親の立場はどうなる?そんな考えが、クリスの中に芽生えて来たのであった。

「しかし今は、母上も帝都に戻ってこの城にいない、もう拷問の心配は無いのだから、別に逃げ出さなくても……」


「実は、クリスティーナ様にだけに言いますが、明後日に私の救出作戦が行われます」


「……佐平次、お前はその情報を何処から?」

 クリスの疑問は同然の事であった、ここには自分と佐平次しかいない筈なのに、何故佐平次がその情報を知りうる事ができるのか?答えは簡単だ、ルタイ皇国のスパイがこの城の中にいるのだ。

 そう思ってはいたのだが、クリスは佐平次に聞いたのであった。


「想像の通りですよ」

 そのただ一言だけ佐平次は、笑顔で言ったのである。


「……いつからだ?」


「私が最初に、ここに来たときからです」


「では何故、今まで救出に動かなかった?」


「それは、私が救出されれば、この中に間者……スパイがいるのがバレるでしょう。そうすれば警備も厳しくなり警戒もされます。

 それならば非道に見えるかも知れませんが、見棄てるのが一番良い選択です、それにあの者は私を救おうと、毒薬までくれました……耐えきれなく無かったら使えと」


「そんな…お前はそれで良いのか?」


「それが侍です……ですが今回は私の友人と奥様に動いて頂いた様ですね」


「奥様?アイリか?」


「いいえ、もう1人の方です」


「解った、私もお前を逃がしてやると誓ったのだ、必ずや逃がしてやる。あんまり起きていると傷に良くない、今日はもう休め」


「ありがとう御座います」

 そう言って佐平次は、そのまま眠りについたのだが、クリスはこのままルタイ皇国に行くのか悩んでいたのであった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 佐平次がクリスと話していた頃、レイクシティの左近衛府の一室には、左近とエリアス、そしてアイリスとママの四人が集まっていたのであった。

「ママ……それで、何か解った事はあるか?」

 左近がママに聞いた事は、捕虜にしたエミリオの事であった。左近はママにエミリオの尋問を今回依頼していたのであったのである。


「あぁ……エリアスさんあんたの言っていた事は、半分は当たりだったよ」


「半分は?」

 ママ以外のその場全員が言っている意味が解らなかったのである。


「つまりは、どう言う事だ?」


「まずはルイス・セレニティが子供かと言う件は、エリアスさんの読み通り当たりだ。

 中々口を割らないから、魔糸で脳味噌の中身を調べて記憶を見てやったが、バッチリと第三后妃との情事があり、ルイスは自分の子だと知っていた様だね。

 それに兄貴の皇太子の殺害の件にも絡んでいる」


「では、何で半分なのだ?」


 エリアスがママに詰め寄ると、ママは葉巻に火を付け、フーっと煙をエリアスに吹き付けて、静かに言ったのである。

「良いかい、あの宰相は聖導騎士団の壊滅には関わっていないんだよ」


『なっ!』

 その場にいた三人は思わず絶句したのである、それもそのはず、ここにいる全員がエミリオが主犯であると思っていたからであった。


「そんな馬鹿な!団長は確かにエミリオが仕組んだ事だと言っていた!」


「まぁそんなにがっつくなよ、エリアスさん。

 確かにあんた達の聖導騎士団の動きは察知していて、暗部だっけか?それを動かして事故死に見せ掛けるつもりであった様だね」


「……では、一体誰があんな……」

 そう言いかけたその時であった、エリアスは聖龍騎士団、団長バスクの最後の言葉を思い出したのであった。


 確か、聖導騎士団を襲ったザルツ王国のフランド辺境伯は、用心深い男でルイス様の命令しか聞かない男だと……まさか!

 そう思ったエリアスが顔をあげると、ママがニヤリと笑みを溢して煙を吐いたのである。

「ママ、もしかしてそこまで解ったのか?」


「あぁ、あの宰相は薄々だが気が付いていたらしい。さてここからは別料金だ、この情報に幾ら出す?」


「幾らも出さないさ……ルイス様だろ?」


『え?』

 左近とアイリスは思わず叫んだのであった、まさかここでルイの名前が出るとは思わなかったからである。


「なぁんだ、知っていたのか?」


「確証は無かったが、聖龍騎士団のバスク団長の最後の言葉…聖導騎士団を襲ったザルツ王国のフランド辺境伯は用心深い男で、ルイス様の命令しか聞かないと言っていた。

 ならば我等に1万もの兵で夜襲を仕掛けたフランド辺境伯は、ルイス様の命令で動いた事になる。

 それに命令も、我等騎士団を動かせるのは、皇帝陛下と最高司令官ルイス様の二人のみだ……ずっと宰相が命令する様に仕向けたと思っていたが、今まで宰相だと思い込んでいて、回りが見えていなかった。

 聖導騎士団が壊滅したとの情報を宰相に流すだけで、すぐに宰相はアイリスを捕らえる筈だが、ルイス様は何でそんな事を……その辺りは何か無かったのか?」


「残念ながら……。

 あの宰相の記憶にあったのは、さっきも言った様に宰相はあんた達、聖導騎士団を事故死に見せ掛けるつもりだった。

 でもその矢先に、聖導騎士団があんたの裏切りで壊滅したと聞いてすぐに動いた様だね。

 その教えた人物が、ルイス・セレニティ……そしてエリアスさんが生き残った事を知った宰相は、左近の策略でナッソーに攻め込み、エリアスさんを極秘に亡き者にしようとしていたみたいだね。

 だた、何でこんな事をやったのか、宰相も解らなかった様だよ」


「目的は……アイリスかもな」

 左近がボソッと言ったその一言に皆が一斉に反応したのであった。


「御館様、どうしてですか?」


「少し気になっていた事があってな……初めてアイリスと会った時だ、あの時にアイリスを連れていた奴隷商人は、オークションの帰りだと言っていた。

 義父殿、帝国では奴隷オークションが有るのですか?」


「御座います、犯罪を犯した者が奴隷になれば、オークションにかけられ、少しでも高く売られます」


「皇族は奴隷のオークションには参加は出来ないのですか?」


「出来ません、オークションに参加できるのは商人のみになります」


「なるほど。

 話は戻るが、アイリスと初めて会った時にアイリスを購入した奴隷商人は盗賊に追われていた、だが盗賊達は、まるで奴隷商人がその道を通るのを解っていたかの様に、待ち伏せをやっていた。

 これは何か変じゃ無いか?そこまで情報を仕入れる能力の有る盗賊なら、奴隷商人はオークションからの帰りと解っていたはずだ。

 それならば、オークションに行く前に襲った方が金は持っているだろうし、オークションの後だと、金が奴隷になってしまい、換金するのに一苦労だし、万が一でも奴隷商人を殺してしまえば、奴隷も死んでしまう。

 それだとオークション前に襲った方が金になる……では何故襲っては来なかったのか?。

 あくまでも仮説だが、義父殿を罠にはめて汚名を着せ、アイリスを捕まえさせる。そして恩情を与えて奴隷にさせる。

 これは他の者から見ても、義父殿の今までの武功や、アイリスが幼馴染と言う事もあって死刑を免れ、奴隷にしても、皆が納得する。

 そこで、何処かの奴隷商人に頼み、アイリスを競り落とそうとしたのだが、ザルツ王国の奴隷商人が購入してしまう。

 そして慌てて、盗賊を使いその奴隷商人を襲撃させたのだが、俺が撃退し行方不明ってのが俺の仮説だ」


「そ……そんな、ルイがそんな事を……」


 しまった、調子に乗ってアイリスの目の前で推理を言ってしまった、何とかしてフォローしないと。

「アイリス、これはあくまでも俺の仮説だ。もしかしたら俺が間違っているのかも知れない」


「でも……父上のこうなった原因は、少なくともルイがやったかもしれない……」


 明らかに動揺しているアイリスに対して、エリアスは静かに言ったのであった。

「アイリス、昔から私が言っていた事を覚えているか?」


「……帝国の内部は伏魔殿、今日の友が明日は敵になるかも知れない。その中で忠義を尽くし、本当に信頼できる者を探せ」


「そうだ、ルイス様はその伏魔殿の中で成長をし、お前が欲しいばかりに私を敵とした。この意味は解るな?」


「ノイマン家を敵にした?」


「そうだ、今やルイス様は、我等の敵なのだよ。それにな、お前が愛しているのは誰だ?」


「私が愛しているのは旦那様……ただの島 清興」


「そこまで言わなくて良い、何だか複雑な気持ちになるわ……とにかくだ、そのルイスは我等が敵になったばかりか、お前と御館様の中を引き裂こうとするかも知れん、お前はどうする?」


「許せない……戦います」


「お前に死刑宣告をして、奴隷にした者を許せるか?」


「許せない」


「ではこの先、お前はどうする?」


「戦います、相手が誰でも」


 義父殿、凄すぎる!カウンセラー……いや殆どが洗脳に近いぞ!


「昔から聞き分けが良い子で、手がかからず楽でした。アイリスならこう言ってくれると信じておりました」

 絶対に違うだろ!完全に洗脳だろ!ニコニコしているが俺は騙されんぞ!

 左近はエリアスには用心しようと心に誓い、一行はルゴーニュ村に戻って行ったのであった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 次の日の朝クリスは城壁の上で、城の外を眺めて物思いにふけっていたのであった。

 佐平次に昨日は思わず、ああは言ったが、母上の事を考えると気が重い……魔女騎士団(ナイトウィッチーズ)の団長の娘が捕虜の逃亡の手助けなんて……これは母上に殺されるな。

「はぁ~」

 そんな事を考えながら思わずクリスは、深い溜め息をついたのであった。


「どうしたクリス?悩み事か?」


「ライのおじさん!じゃなくてライリー様!」

 いつの間にかクリスの隣にいたライリーは、外を眺めて葉巻を吹かしながら言ったのであった。


「ああ良いの、良いの。どうした、恋の悩みか?良かったらおじさんに話してみたらどうだ?」


「違います!そんな事じゃありません……1つ聞いても良いですか?おじさんは何で軍人になったのですか?」


「おお、何だか意味深だね」


「茶化さないでください、これでも真剣なんですよ」


「ゴメン、ゴメン……僕の場合は、少しでも力になりたくてかな」


「力になりたくて?」


「そう、力になりたくて。

 ……僕はね、貧民街の出身なんだよ。気が付いたら、親に捨てられてね……毎日生きるために盗みを繰り返していたんだよ。

 で、ある日に、とうとう捕まって、盗んだ店の店員に殴られている所に、君のお母さん……アミリーとエリス、そしてヒースが俺を助けてくれた。

 そこからは、ボロボロになった俺を三人の秘密基地に運び込み、必死の看病をしてくれたんだ…今考えるとメチャクチャな看病だったが、あの時は子供ながらに必死だったんだろうな。

 しかもそれだけじゃなくて、君のお母さん達は俺の友人にもなってくれて、字の読めない俺に文字を教えてくれたり、俺に家族がいないと解ると、アミリーが家から盗んできた食材で、皆で夕食を食べたりと、本当にあの三人は、友人であり、先生であり、俺にとっての家族だった。

 でも、エリスが騎士団に入り、アミリーもエリスを追いかけて騎士団に入ると、俺は少しでも二人の力になりたくて軍人になった。

 まぁ入っても3人には助けてもらってばかりだけどな」


「おじさんは、母上の事が好きだったの?」


「そんな怖いこと言うなよ、どっちかって言うと、姉貴の様な感じかな。でもどうしたそんな事を聞いて……佐平次の事か?」


 その名前を聞いたクリスは心臓が飛び出るかと思ったのであった。

 佐平次の名前を知っているのは自分しかいない、佐平次は自分の母親のあの壮絶な拷問にも耐えて、最後まで口を割らなかった者だ。

 と言う事は、今まで自分が見張られていた事を意味する、もしかすると自分が逃走を手伝う事も知っているかも知れない。

 そう思うとクリスは、冷や汗が溢れ出ていたのであった。

「……母上に報告する?」


「俺はお前が決めた道を応援するって言ったろ?安心しな誰にも言っていないさ。

 だがな、お前の母親のアミリーだけは注意しろ、お前を見張れと言ったのも彼女だ。まぁ何も俺は言ってないがね」


「ありがとう、おじさん……じゃあ聞くけど、私が佐平次を逃がしたら母上は怒るかな?」


「怒らないさ、だって俺が捕虜にお前がさらわれたって言うから」

 そう言ってライリーはクリスにウインクしたのであった。


「バレたら殺されるよ」


「そうかもな、でも感謝されるかも知れんぞ」


「何で?」


「近内にこの城は戦場になるかも知れんし、帝都だって戦場になるかも知れん。それよりは少しでもここから離れた方が良い」


「戦場に……おじさん、逃がすのを先伸ばしにして、私も一緒に戦うよ」


「ありがたいが、俺は捕虜を人質にしての戦はしたくないし、お前がいると全力を出せない。

 何せこっちに来ているのは、あのルタイ皇国の左近衛大将だからな」


「左近衛大将……でもどうして?おじさんは、佐平次を人質にしないよ、そんな人じゃないもん。それにおじさんも私は助けたいの」


「クリス……人は弱い生き物だ、追い詰められれば何をするか解らん、俺も例外じゃ無いんだよ」


「おじさん……」


「ではドレイヤー城、城主としてクリスティーナ・マクレガーに命令する、佐平次を守れ……さぁ解ったらハグしておくれ」

 その言葉を聞いたクリスは、ライリーとハグをしたのであった。


「いつ出発する?」


「明日」


「解った、出るのは夜の暗闇に紛れてが良いだろう、日が落ちたら佐平次を連れて南の馬小屋においで、逃げれる様に警備を少なくしておく」


「解った、おじさんありがとう」

 そう言うと、クリスは頬にキスをして佐平次の元に向かったのであった。




「……優しいおじさんですな」


「何だ、いたのかジェイロ」

 そう言ったライリーの背後の物陰から、1人の男が出てきたのであった。

 このジェイロと言う男はライリーの副官で、ライリーと同じ貧民街の出身であり、その為かライリーに良く尽くしてくれる男であった。


「何だとは酷いですね、せっかく報告があったにも関わらず、離れるのを待っていたのですから、労いの言葉ぐらいかけて下さいよ」


「あぁ、待たせてすまなかったな、これで良いか?」


「全く、クリスティーナ様の時の様に接して欲しいものです。

 所で肝心の報告なのですが、ルゴーニュ村には既にルタイ皇国軍が入っております、その数約3万。

 紋章は……葉っぱの様な物ですが、正直ルタイ皇国の紋章の事は解りませんので、その葉っぱが何か解っても、誰なのかは解らないでしょう。

 そしてもう1つ、ラルム川に架かる橋が破壊されておりました、おそらくは魔女騎士団(ナイトウィッチーズ)がやらかしたものかと思われます」


「何だと!それでは伏兵で待ち構えていますと、敵に教えている様なものじゃないか……アミリーめ余計な事を」


「敵は、気付くでしょうか?」


「間違いなく気付くな……敵はルタイ皇国の左近衛大将らしいからな」


「あのアルム砦の……情報の出所は?」


「ガストン商会だから、ナッソー辺りで仕入れた情報だろうよ。あいつらは最近ナッソーに隠れて進出しているからな」


「それは信じるに値しますね……どうします?」


「どうもこうもないさ、気が付いた所で俺の策は完璧だ……さあどう出る左近衛大将よ」

 そう言うと、ライリーは空を見上げていたのであった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 その日の昼にはルゴーニュ村にて、戻ってきたアデルを踏まえて酒場で救出作戦の話し合いを、左近達は行っていたのであった。


「なるほど、決行は明日の夜か……」


「御館様、是非とも私を救出作戦に加えてください!」


「ダメだ」


「左少将様、どうしてですか!」

 名乗り出たバッシュに対して、左少将が即答で却下したのであった。


「こう言う事は、関係している者が行けば、必ずや正常な判断が出来ない時がある……俺と同じ失敗はもう見たくは無いんだよ」

 左少将にバッシュは、そこまで言われては何も言えなくなってしまった。


「では、私が行きましょう」

 そう言ったのは、カウンターに座って我関せずと言った風に座っていたパンドラが言ったのであった。


「姫様、毎回姫様が出られましては、我等の立場がございません」


「何んですか左少将、私に意見するのですか?」


「い……いえ、その様な事は……」


 パンドラには、何か考えが有るのか?それにここは左少将を助けるか。

「パンドラ、その辺りにしておけ、何でも自分でやろうとするな。

 お前は確かに強い、だがその強さ故の弱さや慢心がある、それを理解し克服する事が出来れば、お前は真の最強の者になるだろう。

 とは言え、お前が何の考えも無しにそんな事を言う筈もない……言ってみろ」


「お父様の言葉、胸に刻んでおきましょう。

 実は配下の者の訓練をやりたいのです、私の配下の者は誰かを助ける作戦など、やった事がありません。

 なので今回の救出作戦を、我が配下のリンとロビンにやらせたいのですが、宜しいでしょうか?」


「他の者は?」


「服が間に合いませんので、まだナッソーです」


「左少将、訓練にならば良いだろう?我等は戦人で戦が仕事だ、こう言った特殊な作戦は、特殊な部隊……そう、特殊部隊に任せればいい。

 桶は桶屋に、戦は戦人に、特殊作戦は特殊部隊にだ」


「そう言う事でしたら、喜んでこのお役目、姫様にお譲りしましょう」


 お譲りしましょうって、お前行くつもりだったのかよ。

「ありがとう左少将、それに今回大人数で行く事は、偶発的な戦闘が起こった場合、大規模な戦闘に発展する可能性があり、我等が関白様の命令無く先走る事は、本作戦の失敗を招く恐れがある。

 なのでパンドラ、今回の作戦はアデルに先導してもらい、佐平次を無事救出しその際、出来るだけ交戦は避けろ、もしも交戦した場合は……一人も逃がすな」


「……承知」

 そう言ってパンドラは、静かに笑みをこぼしたのであった。


「御館様!私も姫様とご一緒させて頂いて宜しいでしょうか?」

 そう言って前に出たのは、クロエであった。


「何だクロエ、珍しいな」


「バッシュばかり武功をあげて……たまには私も武功をあげとう御座います」


「そうか……パンドラ、クロエも連れていけ」


「かしこまりました」


「じゃあ俺も!」


「蔵之介お前はダメだ」


「兄貴、そりゃねえよ!」


「ただでさえリンがいるのに、脳筋のお前までいるとパンドラが大変だ、俺でもキツイ。左少将、お前の意見はどうだ?」


「左大将殿と同意見です」


「バッシュお前は?」


「同じく同意見です」


「ひ、ひでぇ……俺だって落ち込む時はあるんスよ」


「蔵之介……」


「姫様ぁ」


「落ち込んでいてくれた方が、私は静かになって助かる。ではクロエ行きましょうか」


「あ、はい!すみません蔵之介様」

 そう言ってパンドラとクロエは落ち込んでいる蔵之介を尻目に、酒場から出たのであった。





「姫様、救出作戦の方はどうなりましたか?」

 酒場から出てきたパンドラにロビンとリンが寄ってきて聞いたのであった。


 ロビンの服装は、黒を主体としたビーターパンの様な軽装に、パンドラと同じ黒の羽根付きマントで、腰と背中には、二本の短刀とロングボウと呼ばれる弓を装備しており、リンはいつもの全身を包む鎧に、パンドラと同じ黒の羽付きマントだけが追加で装着されているだけであった。


「救出部隊は我等がやる事になった」


「それは良かった。もしやクロエ様も?」


「そうだが手を出したら殺すぞ」


「姫様、愛とは誰にも止められない物なのですよ。ね、クロエ様」


「私にも選ぶ権利があるし、姫様のお言葉を守ってくれるとありがたい、この意味解るな?」


「そんなぁ……」


「さすがですクロエ。そんな貴女にはこれを授けましょう」

 そう言ってパンドラが、アイテムボックスから出したのは、弓と剣と鎧とマントであった。


「これは確か、アルテミスの弓にアスカロン、そしてネメア……これをどうして?」


「以前、貴女がお父様達とダンジョンに行った時に装備していた武具で、そのマントは我が部隊の証です。

 こんな事も有ろうかと、家から盗んで……お借りしてきました」


「これはしかし、御館様と武功をあげたら渡すとの約束が」


「では今回の作戦であげなさい。それに貴女はアルム砦の時に討った、ゴランの賞金も貰っていないのでしょう?」


「あ、そう言えば……忘れていました」


「全く、貴女って人は本当に欲の無い人ですね」


「でも、何で私にこんなにもしてくれるのですか?」


「ただの気紛れです」

 そう言ってクルリと振り返ったパンドラは、同姓のクロエから見ても美しく、思わずドキッとしてしまう笑顔であったのである。


 そしてその日の内に、パンドラ、クロエ、ロビン、リンの四人はアデルの道案内で、佐平次達との合流ポイントを目指して馬を走らせたのであった。




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