7人の悪魔
ナッソーでの防空戦が行われたその日の夜、温泉宿からナッソーでばか騒ぎをやっている住民を眼下に見ながら佇む二人がいた、関白と院元の姿であった。
このナッソーは、ルタイ皇国の都にも無い活気が溢れて、人々は生き生きしているのが関白には理解できなかったのであった。
「和尚この活気は、何故に都には無いと思う?」
「そりゃあ、生きる者本来の自由の力よ」
「自由の力?」
「そうじゃ、硬い岩の上で大木が育たぬ様に、民の暮らしにも、ゆとりや自由が必要なんじゃよ、それをここの住民は解っておる」
「しかし、沼地で大木が育たぬ様に、行き過ぎた自由もまた毒かと」
「それよ、それ。左大将はその辺りをよく解っており、上手にこの地を踏み固ためておる、足りない所はワシらが補ってやれば良いのじゃよ」
「だからこの場所は、このままにしろと?」
「早い話がそうじゃの」
「私も正直、この眼で見るまでは信じられませんでした、ここの民のこんなにも、力強く楽しんでいる姿を見たら、潰すなんて出来ないじゃ無いですか。
それにここの温泉は素晴らしいし……ここはルタイ皇国で初めての特別都市と致しましょう」
「感謝する。それはそうと、お主ラナに腕輪をやったそうじゃの?それはもしかして……」
「ええ、冷泉家の当主の腕輪です、あの腕輪を着けてルタイ皇国の結界内だと、不死になります」
「良いのか?お主には子供がいるじゃろ?」
「あぁ、あの勘当した放蕩息子ですか……あやつはもう死んだと思っておりますので」
そう言って関白は夜空を眺めていたのであった。
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バッシュ達がナッソーで聖龍騎士団を撃退していた頃、ドレイヤー城では、左平次は毎日の拷問に、身も心もボロボロに成り果てていたのであった。
両手には釘で壁に打ち付けられ、両足も釘で打ち付けられて、爪はもちろん全て剥がされており、更には左目を失明し、今生きているだけでも奇跡の様な状態であった。
「さすがに、ここまで何も言わないと、お前が本当に人間なのか疑ってしまうよ」
そう言って肩で息をしていたアミリアであったが、おもむろにバケツを取り出すと、中にネズミを入れて、そのまま左平次の腹に押し当てたのであった。
「おい名無し、このままバケツを火で炙るとどうなると思う?熱せられて苦しくなったネズミは、お前の腹を食い破り、そこから逃げようとするだろう。
最後のチャンスだ、お前の名は?ルタイ皇国の勇者の数は?兵力は?」
アミリアがキレた様に言うと、左平次が何やらブツブツと言っていたのであった。
コイツ何を言っている?
そう思ったアミリアが耳を近付けて聞いてみると、左平次は「南無阿弥陀仏……」と呟いていたのであった。
そしてその瞬間、左平次は奥歯に仕込んでいたカプセルを、噛み砕こうとした、その時であった、危険を察知したアミリアの強烈な右フックが、左平次の顎にヒットし、左平次は毒のカプセルを噛み砕く事無く、そのまま気絶したのである。
コイツ、今死ぬ覚悟を決めた顔をしていた…今日はここいらが潮時か。
アミリアがそう思った時であった、拷問部屋の扉がノックされ、アミリアが部屋から出ると、そこにはライリーとクリスがいたのであった。
「どうした?」
「帝都ナリヤから、伝書カラスがやって来た……これを見てくれ」
そう言ってライリーから渡された手紙を受け取り、中身を読むとアミリアの顔が青ざめて来たのであった。
「う、嘘だろ?8万もの軍勢が負けたと言うのか?」
「あぁ、ヒースからも同じ情報が入ってきている、これは事実だろ」
「敵は何れ程の兵力だったんだ?これには書いていないから解らん」
「それが……逃げ帰った兵士の話ではたったの2人だそうだ。もちろん俺も有り得ないと思っているが、ブリリアント公も討ち死にした、これは確かな様だな」
「そんな……」
これにはアミリアも思わず絶句したのであった。
ブリリアント公が亡くなったと言う事は、帝国にはもう勇者がいない事になる。もちろん属国のペスパード王朝やルセン王国にも勇者はいない。
只でさえ、8万もの軍勢で負けたのに、この損失は計り知れなく、この時にアミリアの脳裏に横切ったのは、滅亡の二文字であった。
「アミリー大丈夫か?」
「あ、ああ…更にこれには、魔女騎士団は、きたる帝都決戦の為に帝都ナリヤに帰投しろと書いてある」
「母上!…いや団長、捕虜はどうするのですか?」
クリスは、思わず左平次の事が頭に浮かび、質問したのであった。
「あの捕虜か……殺すか」
「そんな……もしかすれば情報を持っているかも知れないのに殺すので?宜しければ私に捕虜の尋問をさせて頂けませんか?」
「それは、いくらライの城だからと言っても許可は出来ん。それに彼奴はもう処分する事にする」
「そんな……」
そう言うと、クリスは精一杯に平静を装っていたのだが、落ち込んでいたのであった。
そんなクリスを見たライリーは、少しアミリアと二人で話すことにしたのである。
「……アミリー、チョッと来い」
「何だよ」
「お前、本当にクリスを帝都に連れていくのか?」
「しょうがないだろ、それが命令なんだから」
「考えても見ろ、帝都に戻ったら勝ち目の無い戦に行かされるに決まってる、それよりはここで、まだ勝ち目の有る戦をさせてはどうだ?」
「勝ち目の有る戦を?」
「そうだ、俺には作戦が有る。ここにいるのは6千の兵しかいないが、この城の位置を利用すれば勝てる。
ルタイ皇国は、いくつかの軍に別れて、その内の1つはここの街道を通って、ナリヤを目指すだろう。
そこでナリヤから出た部隊と連係して、その部隊を撃ち破る。作戦はこうだ、このドレイヤー城を無視して進軍するなら、俺達はルタイ皇国の後方から挟み撃ちに出来るし、軍を分けるならそれだけ、援軍に当たる兵力は少なくなり、撃破してから、この城を攻めている部隊を城の中と外から攻めれば良い」
「その作戦は、全軍でこの城に攻めて来る事を考えていないのでは?」
「敵はおそらく、ナリヤの南の草原で落ち合うだろう。となれば、この城に多くの時間を割くことは出来ない、何故ならナリヤに兵力を集結させているのは、耳に入っているだろうからな。
全軍が揃わない内に、ぶち当たるのは避けたいはずだ」
「では何で軍を分けるんだ?そんな事をせずに、1つの街道から攻めれば良いだろう?」
「それをすると進軍速度がかなり遅くなり、他の街道から回り込まれる恐れがある、ルタイ皇国が戦上手なら、そんな愚行はしないよ」
「そうか、お前は昔から頭が良かったから、そうなんだろうな」
「そこで考えてくれ、このままナリヤに行けば、クリスの生存確率は低いだろう。だがこの城なら、そうそう落城はしないし、確かに荒くれ者が多いが、俺が居れば大丈夫だろ。
心配なら、捕虜の世話係にさせて、兵士の目につかないようにする、あの捕虜なら大丈夫だ、もう動く力さえ残っていないさ」
「……信じて良いのだな?」
「お前に俺が嘘を言った事があるか、母上様」
「母上様って止めろ!それとクリスに手を出したら殺すからな、それが条件だ」
「ヘイヘイ、俺って信用無いんですかね」
「信用?お前は昔から私をよく……いや、いい……ここはお前の言うとおりにするよ、だからクリスを頼むよ」
「ああ、解った」
ライリーが、そう言うとクリスの元に戻り、アミリアはクリスに説明したのであった。
「クリス、あんたはここに残ってあの捕虜から何かを聞き出すんだ、無理ならそれで良い、ライの言う事をよく聞くんだよ。
私達は、これからナリヤに戻る……私に何かあったら、ライリーかキングスベリーのヒメネスのおじさんを頼るんだ、この二人は家族みたいな奴等だからね」
「……はい、団長」
「良い子だ。ライ、じゃあ頼んだよ」
「ああ、任せろ」
ライリーがそう言うと、アミリアはそのまま魔女騎士団を率いて、急ぎ帝都ナリヤに向かったのであった。
「おじさん…ありがとう」
クリスは、アミリアに何か言ってくれたのだと、感じており、感謝の言葉を言ったのであった。
「良いって、クリスお前は自分の母親の様な女性に無理にならなくて良いんだ、お前は自分の道を進んでいけ、別に拷問なんてしなくても良いし、無理に情報を得なくて良い。
自分の思うままに行動すれば良い、俺はそれを応援するから、俺に全て任せておけ…まぁ取り敢えずは怪我の治療だな。
医務室は解るな?そこに行って医療品を持ってきてくれ、捕虜は俺が牢に……牢だと傷が悪化しちまうな、でもまぁアミリー達が出ていくまでの辛抱だ、出ていったら部屋を用意してやる」
そう言ってライリーは、クリスの頭を撫でたのであった。
これは、ライリーは暗に捕虜を連れて出ていっても良いと言っている様な事で、クリスにもその意図がハッキリと伝わったのであった。
「おじさんありがとう!おじさんが、私の本当の父上になってくれたら良かったのに」
クリスはそう言ってライリーの頬にキスをし、医務室に向かって行ったのであった。
おいおい、そんなに恐いことを言わないでくれよ。
そう思いながらライリーは、キスをされた頬を擦って、走るクリスの背中を見ていたのであった。
さてと、アイツ死んでなきゃ良いんだが。
そんな事を思いながら、拷問室に入るとそこには、この世の地獄とも言えるべき光景が広がっていたのであった。
これはさすがに酷いな、アミリーのヤツが本当にこれを?まさに狂気ってやつか。
そう思いながらライリーは、左平次に近付くと、足元に何かカプセルが転がっているのを発見したのであった。
これは?
そう思って手にすると、カプセルは唾液で濡れており、ライリーが潰すと中から紫色の液体が出てきたのであった。
これは毒か?唾液で濡れていたと言う事は、これをアイツが口の中に入れていた、もしくは入れられた?どちらにせよ、生きているのか?
そう思ったライリーは、バケツの水を思いっきり左平次にぶちまけたのであった。
「…………?」
「よう、気が付いたか?」
「……」
「まさか俺にまで無言は止めてくれ、俺はお前に拷問するために来た訳じゃ無いんだよ、佐平次。
あぁもちろん、俺はお前がキリバ語を話せる事も知っているし、理解している事も知っている……ルタイ語は止めてくれよ、俺は解らないんだから」
何故コイツが知っている?ここでそれを知っているのは、クリスティーナさんだけだ……コイツまさかクリスティーナさんに何かやったのか?
「貴様、クリスティーナさんに、何をした?返答次第では、貴様をぶち殺してやる」
「良いねその眼、まさに獣の様な眼とはこの事だ……安心しろ何もしちゃいねえよ」
「では、何しに来た?」
「決まってるだろ、拷問は今日で終わりだ、アミリーがナリヤに行ったからな。そうそう、自己紹介がまだだったな、俺はここの城主でライリーと言って、仲の良い友人は俺の事はライと呼ぶ」
「ではライリーとやら、何が望みだ?情報なら俺は何も知らんぞ」
「そんな事を聞きに来た訳じゃ無いんだ。俺は長い間、お前と二人っきりになる機会を狙っていたのだが中々無くてな。
ズバリ聞こう、佐平次よこのルタイ皇国とセレニティ帝国の戦争は、ルタイ皇国が勝つと思うかい?」
「当たり前だろう」
「そうだよな、俺もそう思う。この城で戦に勝っても、それは局地的な勝利で、大局的にルタイ皇国の勝利は揺るがない。
そこでだ、佐平次よ俺と取引をしないか?」
「取引?」
「あぁそうだ、俺は別に、お前がここから出ていっても良いと思っているし、居るなら居るでキチンとした部屋を用意してやる。
その代わりにクリスティーナを……クリスを助けてやっては、くれねえか?」
コイツ、何を言っている?何故クリスティーナさんなんだ?
「何故クリスティーナさんなのだ?お前じゃないのか?」
「俺はダメだ、俺は死ななきゃならん男だ」
佐平次には意味が解らなかった、何故自分では無くクリスティーナだと。
そんな左平次を見てかライリーは、自分の気持ちを左平次に話し出したのであった。
「何でこんな事を言うのか、理解出来なさそうだな……まぁそりゃ理解できんか、そうだよな……佐平次、誰にも言わないって約束出来るか?」
コイツ俺は敵だぞ。敵の俺に対して、約束を守れるかってバカな事を何で言うのだろうか?何かの策か?
一瞬、佐平次はそんな事が脳裏に横切ったのだが、どうもそんな様子では無く、真剣に言っている様であり、佐平次はそんなバカな男が嫌いではなく、むしろ好きな人種であったのである。
「あんた、変わってるな、敵の俺を信用するなんて……良いだろう、この事は他言無用にしておく、武士に二言は無い」
「ありがとう、感謝する。
俺とアミリアとエリアス、ヒメネスの四人は、身分が全然違ったのだが、昔からの親友だった……エリアスには戦場で何度も助けられたし、アミリアにはただの兵卒では死ぬ確率が高いからと言って、口利きをしてもらい昇進を早めてもらった。
本人は、俺が気が付いていないと思っているがな。
ヒメネスには、未だに裏社会の情報を流してもらっている……皆に助けてもらってばかりなんだよ、俺の人生は。
そこで、エリアスはこの戦争で、軍人である俺とアミリアを助けようとするだろう。
しかしそんな事をすれば、エリアスの立場が悪くなるし。もしかすると、俺が助かった事により、アミリアが助からないかもしれない。
ならば、俺が戦って死ねばエリアスもアミリアを助けやすくはなるであろう」
「お前は自分の命で今までに、自分を助けてくれた人の為に……恩を返す意味で死ぬと言うのか?」
「ま、早い話がそうだな」
「でも何で俺だ?クリスティーナ様でも良かろう?」
「クリスティーナとアイリスは、結婚していなかった俺やヒースにとっては、娘の様に思っている。
こんな事を話せば、助かってもこの先永遠に苦しむ事になるだろうよ。
そうだな、もう1つ頼まれてはくれねえか?」
「まだ何か?」
「あぁ……まぁ遺言みたいな物だな、俺の真意に気が付いたらで良い、その時に伝えてやってくれねえか。
クリスティーナには、クリス、自分の足で歩き自分の思う様に生きろと。
アイリスには、父親の様に気高く強い女性になれと。
ヒメネスには……あぁ帝国のキングスベリーにいる、ガストン商会の若頭だ。そいつにはエリアスに付いていけ、アイツは悪い様にしないと。
アミリアには、娘をもう少し自由に、思う様に生きさせろと。
エリアスには、いい加減アミリアの気持ちに答えてやれと伝えてくれ……あぁ多すぎたか?覚えきれねえよな?」
「大丈夫だ、俺は記憶力が良い方だからな……解った、ライリーお前の気持ちは俺が継いでやる」
「……あぁ頼むよ、って俺は何を言っているんだろうなぁ」
あぁそうか、俺は自分の死ぬ意味を、誰かに知って欲しかったのか……
そう思ったライリーは、フッと笑みをこぼして、佐平次を助け出したのであった。
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アミリア達、魔女騎士団が帝都ナリヤに向かい旅立った翌日、レイクシティからは、弾正府の軍勢がリイツ城に向けて進軍を開始したのであった。
それと入れ代わるように、帝国には最早ナッソーを襲撃する力がもう無いと判断した左近の要請で、ナッソーから十字軍がやって来たのだが、何故かこの人もやって来たのであった、そうママであった。
「確か俺は、ママにはナッソーの防衛を頼んでいたはずなんだが?」
そう言って、左近は頭を抱えたのであった。
「あぁ、それはオヤジに任せて来た」
「任せて来たじゃねえよ、予定が狂うじゃねえか!それにママがここに来てどうすんだよ、護衛も無しに戦に連れて行く訳にはいかんぞ」
「護衛?私より強い帝国兵がいたら連れてきな」
「……解ったが、ママには働いてもらうかも知れんぞ」
「上等……で、今日はクロエだけかい?皆は何処に行った?ラナとアイリスは、戻って来たらいつもあんたの側にいるのに」
「今はチョッと野暮用でな……そうだ、ママに頼みたい事があるんだが、まぁそれまで自由にくつろいでくれ、後で部屋に案内させるよ」
そう、ママのスキルで捕虜にした宰相の記憶を調べてもらえれば、例の事件の背景が解るだろう。
「あぁ、所で風呂はあるかい?久し振りに入りたくてな」
久し振り?ナッソーで何かあったのかな?
「在るぞ、ここも温泉だし、シャンプーやボディーソープも在る。自由に使ってくれ。兵士に案内させるよ」
「ありがたい、チョッと屋敷を潰されたから久々だ……助かるよ」
そう言うと、ママは風呂場に行ったのであった。
あ、絶対に帝国に落とし前をつけさせる気だ。絶対に倍以上ぶん取られるぞ……まぁ俺の責任じゃ無いから良いか。
そう左近が思っていると、バッシュが左近に聞いてきたのであった。
「そう言えば奥様方は、どちらに?」
「ラナはこの左近衛府の地下で、パンドラとフレイアの三人で悪魔召喚をやっているよ、勉強がてららしい。
他の皆は、終わるのを待っているはずだ」
「おお、ではいよいよですね」
「あぁ、いよいよだ」
そう言うと、左近とクロエとバッシュの三人は、隠し通路から地下に向かったのであった。
左近達が地下に向かうと、そこは大きなホールになっており、既に召喚は終わっていた様で、扉は開かれていたのであった。
左近達が中に入ると、いつものメンバーの他に初めて見る7人の男女がたっていたのである、1人変なのが混ざっているが。
左近は、すぐにステータス閲覧で、7人を確認したのだが、全て名前が****となっており、レベルも測定不能になって、職業が空白になっていたのであった。
職業が空白って、これから何にでもなれるって事かな?それならば全員に勇者は付けさせるか。
そんな事を考えながら、近付くとパンドラが言ったのであった。
「お父様、この者達が昔からの私の配下の者達です」
パンドラがそう言うと、7人が一斉にひざまづき、左近に臣下の礼を取ったのであった。
「俺の血は必要なかったのか?」
「私がお父様の血液より生まれし事で、私に忠誠を誓うと言う事は、お父様に忠誠を誓うと言う事になりますので、必要御座いません。
ただ、副主人は念の為にここにいる方々、お一人づつになってもらいます。
これで皆様、運命共同体で裏切りは出来ません、裏切った時は私の配下の者が感じますので。
残るはクロエ様とバッシュ様ですよ、こちらに来て掌を斬り、お二人の血をこの塊に注いで下さりませ」
そう言ったパンドラの手の上には、赤黒いゴルフボール程の、血液の塊が浮いていたのであった。
バッシュとクロエは前に出て、短刀で掌を軽く斬ると、血が舞い上がりその血液の塊に吸い込まれていき、サイズも少し大きくなったのである。
「これで契約は全て完了ですね」
そう言うと、塊は8つに分かれて各自の身体に吸い込まれていったのであり、そして何故かパンドラにまで吸い込まれたのであったのである。
「さてお父様、彼等にはどの様な時も人の姿をする様に、厳命しておりますのでご安心ください。
残るは、彼等の名前ですが、今まで必要性が無かったので、彼等には名前がありません。
しかし、こちらでは名前が無ければ何かと不便ですので、お父様に付けて頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
だから名前が無いから、ステータス閲覧で名前が****になっていたのか。
「良いだろう、俺が名前を付けてやろう」
左近がそう言うと、何やら悪魔達が喜びの表情で左近を見たのであった。
あれ?そんなに嬉しいのか?悪魔にとっては名前って結構重要なのかも知れんな。
左近がそう思っていると、最初に立ち上がったのは、白髪で初老の物静かそうな紳士風の男であった。
「この者は、この中でも最古参の者で、一番古くから私に仕えてきた者です」
「そうか、どの様な名前が良いか希望は有るか?感じだけでもいい」
「私は姫様のお側に常に仕えて、身の回りのお世話もさせて頂いておりました。出来ればそう言ったお名前を受け溜まりたく思います」
おお、話し方も紳士じゃないか。身の回りのお世話って、それって執事だろう……そうなるとベタなセバスチャン…バスちゃん?ダメだな、ドイツ語だとセバスティアン……バスティアン、そうだなバスティアンで愛称はバスティ!これだ。
「ではお前にはバスティアンの名前をやろう、心を許した者にはバスティと呼ばせるが良い」
「ありがとう御座います!何と素晴らしい名前を頂き、このバスティアン感激しております」
そう言ってバスティは、目頭を押さえて涙をこらえたのであった。
な、なんだコイツは?悪魔なのに涙脆いって……何だか濃いキャラの予感がする。
「なるほど執事のベタな名前から、取りましたか」
おいパンドラよ、このネタを解るのは俺とお前とフレイアだけだぞ……余計な事を言いやがって、我ながらセンスあるなと思っていたのに。
左近がそう思っていると、次に立ち上がったのは、美しい金髪の女性であった。
「この者は、バスティの次に古参の者で、この者も私に古くから仕えて参りました。他の配下の者を集めたのはこの者で御座います」
あ、なるほど、そう言う順番でくるんだな。
「では、お前はどの様な名前が良い?」
「私はどの様なお名前でも、ありがたく頂きます」
結構、謙虚で物静かな女性だな……配下を集めていたか、チェッカー?チェッ?レフリー?ダメだな……テスト……テスタ!これにしよう。
「ではこれよりお前の名前は、テスタだ」
「ありがとう御座います、そのお名前に恥じぬよう、お勤めさせて頂きます。この我が身が必要な時は、何でもお申し付けくださいませ、特に夜がお勧めでございます」
「お、おう、頼むよ」
何でもって、変な意味にしか受け取れなかったぞ……小悪魔だ…悪魔だけど。
次は……出ました、1人だけ完全武装の変な奴。
コイツ1人だけ、槍を持った黒い鎧姿で、顔が全く見えないんだよな、男か女かも解らないし。
でも体格が良いから男かな?
「このバカは、3番目に古い者で、いつも真っ先に相手に突撃する、脳筋の猪突猛進バカです。
見ての通り、槍が得意でそれしか脳がありません、適当で良いので名前を付けてやってください」
何だかパンドラの扱いが、コイツだけ雑だな。でもそれだけコイツには苦労してそうだな……解る気がする、コイツは蔵之介と同じタイプだ。
「何か名前の希望は有るか?」
左近がそう言うと、鎧の悪魔は顔を横に振るだけであった。
無いのか……ってせめて兜を取れよ!顔が見えねえし!
「せめて兜を取ってくれないか?名前を付けるのが難しい」
左近がそう言うと、鎧の悪魔は顔を横に振るだけであった。
「お父様が、兜を取れとおっしゃっているのです、取りなさい!すみませんお父様、コイツは極度の人見知りで、ほとんど話さない無口な奴なんです」
パンドラがそう言うと、鎧の悪魔は人差し指を立ててペコペコしだしたのであった。
これは一回だけと言う事かな?
「解った、一度だけだな」
そう言うと鎧の悪魔は、コクコクと頷き兜を取ると、中は褐色の銀髪の女性であったのである。
おい、嘘だろ?これが脳筋の中身……あれ?でも身体と顔のバランスがおかしいような?コイツ顔がかなり小さいぞ。
「この者の中身は、足はかなりの上げ底で、腕はマジックハンドになっています。もちろん、鎧の中は殆どが空洞で、まぁ外見は見せかけだけですが、実力は数千万程の軍隊なら簡単に勝ってしまう、テスタが連れてきただけの事はある剛の者です」
また、濃いキャラだな……まぁどう見ても槍使いだろうし、槍の有名人……クーフー・リン……フーリン…フリン…不倫……ダメだろそれは!
リンで良いか、女の子だしな。
「ではお前は今日からリンだ、出来る限りで良いからここの者には早くなれてくれ」
左近がそう言うと、リンは再び兜を被り、ペコペコと頭を下げたのであった。
しかしあの身体で、ここまで腰が低いと何だか違和感がありすぎだな……っと次はこのチャラ男の様な奴か。
左近がそう思っていると、その通りにそのチャラい悪魔が立ち上がったのであった。
「この者は、何度か地上に召喚された経験も御座いまして、弓等の飛び道具を得意としている者です。
ただ、召喚された最に、この世の女性の味を気に入ってしまい……一言で言うと、淫夫です」
「パンドラ様、それは言い過ぎです。私は女性の方々に愛を与えているだけでございます」
「うるさい、黙れこのヤリチンが」
「パンドラ様ぁ……」
「お父様、早くこのヤリチンに名を与えて、何処か遠くにやってしまってくださいませ」
ヤ、ヤリチンって……まぁ良いか、その通りの様だしな。取り敢えず弓兵って事は、あれしか名前は思い付かんな。
「ではお前の名は、ロビンだ」
「え?そんなにありふれた名前っすか?」
「何?お父様の決定に不満が?」
「い、いえいえ!ありがたくロビンの名を承ります!」
そう言うとロビンは、深々と頭を下げたのであった。
次はこの、妙に存在感の薄い奴か……コイツこそ普通のキャラであって欲しい、残るはどう見ても双子のガキんちょだしな。
「この者も、何度か地上に召喚された経験を持っておりまして……人に恐怖を与えて、殺すのが趣味だそうです。
暗殺や偵察が得意で、この者が一番まともでしょう」
いやいや、十分ヤバイ奴だろ!……悪魔からしたら普通かも知れんが、こっちから見れば、かなりのデンジャラスな奴だぞ。
取り敢えず聞いてみるか?
「取り敢えずは、聞いておくが……希望は有るか?」
「そうですね、私は芸術家ですので、そう言った名前でお願いします」
芸術家?殺しの芸術家って事かな?……ダメだろそれは!でもおかげで、名前が思い付いた。
ジャック・ザ・リッパー、これしかないだろ。
「ではお前の名はジャックだ」
「ジャック……素晴らしい響きです、ありがたく頂戴致します」
「喜んでもらって何よりだが、お前は今日から俺の許可無く殺すのを禁止する」
「そんな!私の趣味……いや生き甲斐でもあるのですよ!」
そう言ってジャックは、今にも泣きそうな顔で、左近に嘆願したのであった。
「趣味は他の物を見つけろ、以上だ」
左近がそう言うと、ジャックは今にも死にそうな顔で、戻っていったのであった。
次はこの男女の双子のガキか。
「この者達は、最近配下になった者ですが、取り柄が魔法しか御座いません」
「何だよ姫様、その内に肉体も強くなるさ!」
「なるさ!」
「だから兄ちゃん、強い名前をよこせよ!」
「よこせよ!」
「何だよ、真似すんなよ」
「すんなよ!」
そう言って二人は殴り合いの喧嘩を始めてしまったのであった。
うぁ、ガキんちょでめんどくせえな……コイツ等はセシリーに担当させよう。
名前も適当で良いか。
「おい、名前を決めるぞ!」
お、喧嘩が止まった。
「まずは、女の子のお前からだ。名前はディアにしろ」
「可愛い!ディア、ディアね、ありがとうお兄ちゃん!」
そう言って、ディアは跳び跳ねて喜んでいたのであった。
「次は、お前だな。男の子のお前には力強い名前を授けよう、クマだ!」
「はぁ?熊田?」
「違う!クマ!ク・マ!」
「嫌だよ!そんなダサいのは!それに俺は男じゃねえし!女だし!」
え?そうなの?でも髪の毛短いよ……そうか、ボク娘か!最後にそんな変化球が来るとは……侮れん。
「クマ!貴女はお父様の付けて下さった名前が気にいらないと言うのですか?それは私に対しての意見と言う事になりますよ、良いのですか?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!クマで良いです!いえ、クマにさせて下さい!」
「解れば良いのですが、この次はありませんからね」
「はい!」
コイツ今までパンドラに、どんな扱いを受けて来たのだろうか?あまり触れてはいけない気がする。
取り敢えずはフォローしておくか。
「良い子にしていたら、何か別の名前を考えてやるからな」
「うん、良い子にする!」
「良い子だ、ディアとクマはこれからセシリーの事を、お姉ちゃんと思って言う事をよく聞くんだぞ」
「はぁ?旦那様、無理です!私に3人もお守りは出来ません!」
チョッと待て、1人増えていないか?
「……セシリー、後1人は誰?」
「私は1人でもこんなに苦労しているのですから!」
「……だからセシリー、後1人は誰?」
セシリーの奴、セシルを完全にスルーしているな、しかしまぁここはゴリ押しだな。
「大丈夫だ、1人だろうが2人だろうが同じだ、同じ魔法使い同士、解る事も有るだろう、決定だな」
「いや、3人だし」
「……後1人は誰?」
何か言ってるけど、俺もスルーするか。
「所で、パンドラ以上で終了か?」
「そうですね、後はこの者達の職業が何も無い状態ですので、最初に1つだけ職業が設定できます。
後は条件を満たしての職業獲得になりますが、どうしましょうか?」
「それならば、全員勇者にしておいてくれ、残りの職業は放っておいても手に入るだろうからな」
「それもそうですね。では最後に、私から皆様へお話が御座います。
皆様は、私達と契約されましたので、これからはこの中の者が稼いだ経験値も自分の物になり、お父様のスキルの経験値50倍の恩恵も受けれます。
なので人よりはかなりの速さで強くなるでしょう、しかしこの事は他言無用でお願いします、人の妬みは面倒なので」
そのパンドラの言いたいことは、俺にも解る。人の妬みは一番厄介な感情だからな。
他の者も同じ考えであった様で、その場の全員が頷いたのであった。
こうして後に黒騎士と呼ばれて、その強さを世界中に知らしめる者達がここに誕生し、そして左近、アイリス、ラナ、セシル、セシリー、クロエ、バッシュ、エリアス、フレイアの9人と悪魔の8人は、運命共同体になったのであった。




