馬の姫
セシルとセシリーとの結婚が決まった次の日、無事にセレニティ帝国の主力と撃退した左近達は、レイクシティにて戦力の集結をおこなっており、最初に揃った正成率いる右近衛府3万が、西の街道の拠点である、バルジャンの街を目指して旅立って行ったのであった。
これはヴァルキア地方の西側を占領した、蔵之介と交代する為でもあったのである。
まぁ正成がいない今は、暫くこの表情の解らないこの仮面野郎と一緒になる訳だが、とにかく堅物で面白くは無いし、これは野生の直感と言うか、アイリスに気があるんじゃ無いかと言う節がある。
油断は出来ない男だ。
そんなギスギスした空気のレイクシティに一組の客人がやって来たのであった。
豪華な馬車に乗り、奴隷の様なケンタウロスを数名、引き連れたこの羽の生えた男は、名前をマーティ・グレゴールと言い、西の砂漠を支配する7つの商会の内の1つのグレゴール商会の会頭であったのである。
「見えてきました、あれが今はレイクシティと言われている湖上都市で御座います……姫様、奴隷の様なお姿をさせて申し訳御座いませんな」
そう言って、馬車の横を歩く一人の女性のケンタウロスに話しかけたのであった。
「これは他の者の目を欺く為、仕方がない事です。それより、遥か古の約定を守って頂き、グレゴール様には何とお礼をして良いか」
「我等龍人は、幼き頃よりルセン王国の恩義を叩き込まれ、必ずやルセン王国からの要請は断るなと教えられます。
それが今まで一度も要請が無かったのに、今回の初めての要請……龍人ならば誰でもその使命に燃えるでしょう」
「そう言って頂くと、こちらも気が楽になります。今、一番の気掛かりは、私の身代わりとして残ってくれたジュリア……大丈夫でしょうか?」
「普通ならば殺されるでしょうが、今の帝国はルタイ皇国との戦で混乱しております、挙げ句のはてに自分達がザルツ王国と、戦争中なのを忘れている始末です。
それにいざとなれば、我が家の者が助ける算段となっておりますのでご安心を……お、城門が近付いて来ました、最後まで気は抜かぬ様にお願いします」
「えぇ解りました」
そう言っている内に一行はレイクシティの城門に到着したのであった。
「止まれ!ここはルタイ皇国のレイクシティである、今回は如何なる用で来られた?」
城門の兵士が馬車を止めると、馬車の中からマーティが出て来て言ったのであった。
「これは、これは…キリバ語がお上手ですね、私はマーティ・グレゴール、グレゴール商会の会頭をさせていただいております。
ルタイ皇国との交易を、させて頂きたいと思い、来させて頂きました。ルタイ皇国の大陸での責任者が、ここに居ると聞きましたので、面会を願いたいのですが?」
「そう言う商人は、ここに連日来ておる、この戦が終わり次第この都市も一般に解放するので、その時に来られよ」
やはりビジネスチャンスと見てここには、商人が詰めよって来ているのか……しかしここで引き下がるわけには、いかんのだよ。
「実は私は、こちらで言う西の砂漠。セブンス連邦の7人の会頭の一人でありまして、ルタイ皇国への献上品もお持ちしております」
「……解った、確認するので暫し待て」
そう言うと兵士は、女性に何かを伝えると、その女性は何か一人で話していたのであった。
あれはもしかして念話では無いのか?……そうか、念話で伝達すればわざわざ伝書カラスも使わなくて良いし、直ぐに情報が伝わる。
なるほどルタイ皇国の将軍は、情報を重視している商人の様な感覚を持っている様だな、我等が考えていた事を、こうも簡単にやられるとはな。
暫くすると、兵士が戻って来て言ったのであった。
「許可が出た、このまま進みレイクシティの門の所に兵士がいる、その者が左近衛府まで案内するので、このまま行かれよ」
「え?レジストカードで確認はしないので?」
「レジストカード?」
「いやこちらの話ですので、では」
そう言ってマーティは馬車に再び乗ってレイクシティの島に向かったのであった。
レジストカードの存在を知らない?これはかなりのビジネスチャンスになるな、金にならない古の約定を守って、思わぬ所でダイヤの原石を発見した様だ。
そう言ってマーティは馬車の中でにやけていたのであった。
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「マーティ・グレゴールか、アイリス聞いた事があるか?」
「確か……西の砂漠の大商人だったはず。しかし詳しい事は、西の砂漠の出身のバッシュ様がご存知だと思います」
左近と忠輝とアイリスとエリアス、そしてクロエとパンドラはルタイ皇国の総大将率いる軍の編成の話し合う為に、左近衛府の応接室で話していたのであった。
「バッシュか、確か今日にでもナッソーの防衛報告書を持ってくるはずだったはず、その時に聞けば良いだろう。
義父殿は、何かご存知ですか?」
「確かセブンス連邦の商人は、7人の商人の合議で成り立っており、連邦全てを統治しているのでは無く、国内の7つの大きな都市を支配しているにすぎず。
彼等の力は武力よりは金と情報……契約が全ての者達です。ですので、騙されない様に御注意を」
「まぁ、まるで何処かで聞いたようなお話ですね」
そう言って紅茶を飲みながらパンドラが言った。
明らかにお前を召喚した時の話だろうが、これ見よがしに言いやがって。
「まぁ取りあえずはバッシュが来てからだな。間に合うかな?……アイリス、そういやラナとセシルとセシリーは何処に行った?」
「チョッと所用がありましてそっちに行っています」
「珍しいな、何かあったのかな?」
「さぁ?」
「そう言えば左大将、あの二人の件はどうなった?」
セシルとセシリーの件か……弾正め何を考えてる?
「あぁそれならば、俺の妻になる事で、話はついた」
「信用できるのか?簡単に裏切られるのが落ちだ」
「あの二人はそんな奴じゃ無い!じゃあ、どおしろって言うんだよ!言ってみろ!」
「そんな者は、殺せば良かろう!」
忠輝がそう言った時であった、アイリスが忠輝の頬をひっぱたき、パーンと言った音が室内に響き渡たのであった。
でも頬じゃ無くて仮面かな?
「は、隼人?」
「忠輝様、無礼とは承知の上ですが、今のお言葉は上に立つものとしては、あまりにも非道で御座いましょう。
用済みなら全てを殺す、これが帝のお考えですか?それが、ルタイ皇国の方針ですか?それならば私は、今すぐにでも官位を返上し、旦那様とルタイ皇国と戦います!」
俺もかよ!まぁ俺も何となくは思っていたが、こいつは非道な所が有りすぎだ。
「お母様が戦うなら、私もご一緒に戦いますよ、まぁお姉様も来るでしょうが。でもルタイ皇国だけでは物足りませんね、全世界の者を敵にして戦いますか?私はいつでも大賛成ですよ」
「何だと貴様!手打ちにしてくれる!」
そう言って忠輝が刀を抜こうとしたのだが、刀は強い力でピタリと引っ付き抜けなかったのであった。
「な、何故抜けんのだ!」
「頭の悪い貴方に言っても理解できないでしょう?」
そう言ってパンドラが、人差し指をクルリと回すと忠輝の刀がそのまま浮かび上がり、グシャリと潰れてピンポン玉位のサイズになったのであった。
「これは警告です、次に私に向かって殺意を向けると、次は貴方の身体を、あの様な形にしましょう」
刀を見た忠輝は初めてパンドラが言っている事が本当なのだと、背筋に冷たい汗が流れ落ちるのを感じたのであった。
仕方がない、ここは助け船を出すか……今後は、こいつの意識を何とか変えないとな。
「なぁ弾正よ、味方を都合が悪いからと言って殺すのは、下策中の下策だ。
それに、こんな事は帝は望んではいないだろう?お前は弾正府のトップの弾正尹だ、そのお前が帝を裏切ってどうする?」
「…隼人、今回は私の失言だ許してくれ、パンドラ殿も申し訳無かった」
「解れば良いのですよ」
「お母様がそう言うなら……残念ですが」
「で、弾正よ助けた俺に対しては?」
「……うるさい性欲魔神……だが今回だけは礼を言おう」
そう言うと忠輝はドカッとソファーに座ったのであった。
やっぱりこいつは助けるんじゃ無かった……そういや弾正ってキリバ語を話せるんだろうか?
「弾正よ、お前そういやキリバ語は?」
「全く話せん!」
「お前…そこまで言い切るのは潔いが、それじゃ話にならんだろうが!アイリス、こいつにキリバ語を、ついでにキースにはルタイ語を教えてやってくれ」
「キース?キースって誰です?」
「あぁお前は会った事が無かったか。クロエ、アイリスとこの鉄仮面をキースの元に連れていって説明してやってくれ、その後は謁見の間にて待っていてくれ」
「かしこまりました、奥様……それと、言葉解ります?……あぁもう!めんどくさい!とにかくこちらに来て下さい!」
そう言ってクロエは無理矢理に忠輝を連れ出したのであった。
大丈夫だろうか、色々と……まぁアイリスだから大丈夫だろう。
「御館様、そろそろお時間では?」
そうエリアスが言った時にバッシュが応接室に入って来たのであった。
「失礼します、ナッソーの防衛報告書をお持ちしましたが、さっきクロエが謎の仮面の御方を引っ張って行っていましたが、誰です?」
「あぁ気にするな、ただの弾正尹だ。それよりもお前に聞きたいことがある、時間が無いので歩きながら聞こう。
…パンドラ、お前もだ」
「はぁい」
そう言って左近達はマーティを出迎える為に謁見の間に、エリアスは玄関に向かったのであった。
「バッシュ、お前マーティ・グレゴールを知っているか?」
「マーティ・グレゴール?あぁ、セブンス連邦の7商会の1つのグレゴール商会の会頭ですね、その者がどうしました?……まさか!」
「そのまさかだ、今からここに来る。どんな男か教えろ」
「一言で言うならば油断ならない男ですね、龍人で純潔主義、そして自分の商売の邪魔になるならどんな者でも殺すと言った感じです。
主に取り扱っているのは、宝石類と傭兵、そして魔導兵器ですね」
「……魔導兵器?」
「兵器と言っても都市に入る時に使う、レジストカードを出す魔導器や、盗賊のレベル等を確認する魔導器の事です」
解った様な、解らない様な…まぁ油断大敵って事だな。
そう思いながら左近達は、謁見の間にてマーティ達を出迎える為に待機したのであった。
「見えてきました、あちらが左近衛府になります」
そう言って案内役の兵士に促されマーティが見てみると、そこにはマーティが初めて見る様な宮殿があったのである。
城に住んでる訳では無いのか、しかしなんと美しい建物だ、ルタイ皇国の建物はもっと質素だと聞いた事があるが、やはりこの目で実際に見てみない事には、真相は解らないな。
それに兵士達は左近衛府と言っていた、もしや大陸での全権を握っているのはルタイ皇国の左近衛大将か?
「到着しましたぞ」
「あ、ああ、ありがとう」
そう言って到着した馬車から降りたマーティは、目を丸くして驚いていたのである、その原因は出迎えに出てきたエリアスであったからだ。
エリアス・ノイマン!何故、帝国最強の剣士がここにいる?そうか、エリアス・ノイマンは帝国を裏切ったと聞いた、ではルタイ皇国が亡命先なのか?しかしエリアス・ノイマンとルタイ皇国との繋がりは何処にある?それが解れば、こちらも付け入る隙があるかもしれんな。
そう一人で納得したマーティは、気軽にエリアスに話しかけたのであった。
「これは、お出迎えご苦労様です、エリアス・ノイマン殿で御座いますかな?私はグレゴール商会の会頭でマーティ・グレゴールと申します、以後お見知りおきを」
「お名前はお聞きした事があります、さぁ中へどうぞ。御館様と姫様がお待ちです、御付きの方は向こうでお待ちを」
「すみませんが、実は私が御付きの方でして、本当にルタイ皇国の責任者の方とお会いしたいのはこちらの御方なのです」
「お久し振りですね、ノイマン卿」
そう言って馬車の陰から出てきたケンタウロスの美しい女性を見て、エリアスは声が出なくなっていたのであった。
「ノイマン卿?まさか私をお忘れになったのですか?」
「い、いえ…どうして貴女がここに?ミサ・ルセン王女様……」
「古の遺言に従いここまで来させて頂きました、私も中に入っても?」
どうして王女様がこちらに?彼女は帝都ナリヤで人質になっているはず、このレイクシティにこれるはずが……そうか、このグレゴール商会の会頭が逃がしたのか、ここは仕方がない。
「これは、御無礼を…どうぞこちらへ」
「かまいませんよノイマン卿、ではマーティ殿、行きましょうか」
「はい、姫様」
そう言って一行は左近衛府に入って行ったのであった。
「御館様、少々イレギュラーがございまして」
「イレギュラー?どうした?」
謁見の間にて待っていた左近にエリアスが耳打ちした。
「それがマーティ・グレゴールの他にルセン王国のミサ王女がおられまして……」
「ルセン王国…って何処かで聞いた様な……」
「ペスパード王朝と同じく、セレニティ帝国の属国で、帝国の北に位置し、ケンタウロスの国です。
王女は本来は、帝都ナリヤで人質としておられるはずなのですが……」
「抜け出してきたと?」
「その通りです、帝都にいた時に、何度もお会いしているので、本人なのは間違いありません」
義父殿の言う通りなら、ルタイ皇国に鞍替えって所か……しかしケンタウロスの王女は気になる、見てみたい、ロマンだ。
だが待てよ、いくら可愛くても、下半身は馬じゃないか……生殺しだ。
「御館様?」
「いやすまない、呼んでくれ」
「かしこまりました、おい!」
エリアスがそう言うと兵士がゆっくりと扉を開けて、初めて見るケンタウロスの女性が出てきたのであったが、その時にパンドラがそっと、にやけながら小声で俺に囁いて来たのであった。
「お父様、馬娘との同人誌。なかなかの魅力的な作品でしたが、現実はそうは甘くはいきませんよ」
ば、バレてる!ってかそんな記憶を見るんじゃねえよ!
俺は心臓をパンドラに鷲掴みされた様な感覚を味わいながら、必死に平静を装いながらやって来た二人を見ていたのであった。
あの椅子に座っている男が、御館様と言われる男か…若いな。
そしてその隣の、黒髪の黒いドレスの女性が姫様と言われている女性か、美しすぎる……だがあのサンドリザードマンは確実に連邦出身のリザードマンだ。
おそらくは、部族ごと姿を消したあのサンドリザードマンの部族、確か族長はボルと言ったかな?そこの部族の者だろう、ここからルタイ皇国に取り入るのも悪くは無いか。
そう思いながらマーティは、左近の前まで行くと、クロエがマーティの前に出て来て言ったのである。
「そこで止まられよ」
「解りました」
なるほど、あのエルフが御館様と言われている男の護衛か。
しかし、他の者は剣を持っているのに、何故この二人だけは持っていない?確かにヴァルキア地方はルタイ皇国が占領した様だが、ここはアルムガルド大陸の内陸部だ、言い換えれば回りは全て敵になるかも知れない。
コイツら暗殺は恐くないのか?
マーティはそんな事を、冷静に分析をしながら、顔色1つ変えずに言ったのであった。
「……キリバ語は解りますかな?」
「大丈夫だ」
「それは良かった、私はここから西の砂漠にございます、セブンス連邦の7商会の1つでございます、グレゴール商会の会頭でマーティ・グレゴールと申します。
そしてこちらにおられるのが、ルセン王国の第一王女であります、ミサ・ルセン王女でございます」
「ミサ・ルセンでございます、初めてお会いするのに、奴隷の様なお見苦しい服を着ており、誠に申し訳御座いません」
「いえ、王女様の苦労を考えれば、その様な事は思いません。
私は、ルタイ皇国の島 左近衛大将 清興と申します、こちらにいるのは、私の娘のパンドラにございます。
以後お見知りおきを」
「パンドラにございます、以後お見知りおき下さいませ」
そう言ってパンドラは優雅にお辞儀をしたのであった。
「さて、今日はどう言った御用で?」
左近がそう言うと、ミサが前に出て来て1通の手紙を差し出したのであった。
「先ずは、こちらの手紙をお読みください。父のジャメル・ルセン国王よりの手紙です」
「すまないが、私は言葉は話せるが、文字はルタイ語しか読めない、代わりの者が読んでも?」
「はい、大丈夫です」
「では、バッシュ代わりに読んでくれ」
「解りました」
そう言ってバッシュは、ミサから手紙を受け取り読み出したのであった。
バッシュ?確かサンドリザードマンの族長の息子が、バッシュと言ったはず。やはり部族ごとルタイ皇国に行ったのか。
そんな事を考えていたマーティであったが、バッシュの顔がみるみる内に驚きの表情になっていくのを見て手紙の内容が気になって来たのであった。
「お、御館様!これは……王女様、内容をこの場で言っても宜しいので?」
「はい」
「御館様、ルセン王国はルタイ皇国の属国になりたいと……更にルタイ皇国が希望するなら……ゴクリ…希望するなら国を譲り渡すと言っております。
更に国民のケンタウロスを、自由にしてよいとの事です。
しかも、国王の直筆のサインも入っておりますので、これは本物の手紙です」
その言葉に、その場にいる左近とミサ以外の者は、全て驚いたのであった。
これは国王自ら国を、ルタイ皇国に譲渡するといっている事と同じであったからだ。
「……訳を話して頂けますかな、ミサ王女様。貴方は理由をご存知のはず」
「はい……その昔、超帝国の二度に渡るルタイ皇国への遠征で、先陣を勤めたのは我等がケンタウロスと龍人でありました。
散々に撃ち破られたその結果、我等の当時の当主は1つの遺言を残しました。
「この先、ルタイ皇国が大陸に侵攻してきた時は、あの者達に全てを差し出せ、領土も民も全てだ。そして全力で仕えて、種を残していけ」
その遺言の予想通りに、今ルタイ皇国は大陸に侵攻して参りました。
そこで父は古の遺言通りにルタイ皇国に国を譲り渡し種の保存を考えた訳でございます」
「そんなに昔の教えを、今も本当に守るおつもりですか?」
「はい、我等が先祖の想いを、子孫の我等が叶えなくて、誰が叶えるのでしょうか?それに古の約定を、守って頂いた方がここにもおられます。
このグレゴール様は、我等ケンタウロスと龍人との約定を守り、帝国から私を助け出して下さったのです」
「姫様、ここからは私が……先程、姫様が申されました様に、我等龍人も超帝国の先陣としてケンタウロスと一緒に、ルタイ皇国に攻め込みましたが、散々に打ちのめされ、逃げる際に助けてくれたのがケンタウロスの部隊だったのです。
おかげで多くの龍人は、助かりましたが、代わりに多くのケンタウロスが殺され、それを嘆いた当時の龍人の当主とケンタウロスの当主の間で、ある約定を交わしました。
ケンタウロスから要請が有れば、何があっても、どんな内容であっても、我等はケンタウロスの願いを聞き入れて助けろと」
そんなのは、ほとんどおとぎ話レベルじゃないか、そんな事を彼等は守ろうとしているのか……俺には理解できん。
しかしここでルセン王国に恩義を売っておくのも悪くはないな。
「ミサ王女様、ルセン王国を属国にするのは、我が帝の本意では御座いません」
「では…我が国を併合するので?」
「いえ、それも違います。帝のご意向は、ルセン王国との対等な関係でございます」
「それは…ありがとうございます!しかし、それでは何故、セレニティ帝国と戦争を?」
「我が国はザルツ王国、セレニティ帝国との同盟や貿易を望みこの地に来ました。
ザルツ王国は同盟を締結したのですが、セレニティ帝国には、使者は命を狙われ、中立地帯のナッソーに駐留していた武士団は奇襲されました、これはまさに宣戦布告と同じ事です、こちらとしては、売られたケンカは買っただけで、その他に他意は御座いません。
それに今回の事を機会に我等、ルタイ皇国とザルツ王国は連合を結成する事を決めました、まだ詳しい事は話し合っている途中ですが、よろしければルセン王国も参加されませんか?」
「なんと我等にその様なお誘いを……解りました本国の父と連絡を取り、承諾を得てから、正式に参加させて頂きます」
「お願いします。では王女様には、ここにルセン王国の屋敷を作るまでの間は、あちらの城でお住み下さい。
風呂も在りますので旅の疲れを癒されるが良いでしょう」
「何から何までありがとうございます。所でグレゴール殿、が申していたのですが、帝国軍が8万もの兵でこちらに進軍しているそうです。ですよねグレゴール殿」
「はい姫様、しかも率いているのがあの黒太子と言われた、ルイス・セレニティで更には宰相のエミリオ・ニルセン、そして勇者のブリリアント公もいるそうでございます。
宜しければ我が連邦の勇者を、ルタイ皇国の傭兵としてお貸し致しましょうか?」
「その帝国軍なら、私とお姉様とで、つい先日撃ち破った所ですよ」
パンドラが得意気にそう言うと、マーティはとても信じられないと言った様に言ったのである。
「またまたご冗談を……まさか本当に?」
「ええ、その証拠に帝国宰相のエミリオ・ニルセンは我が方の捕虜になっております」
「……ルタイ皇国の兵力は幾らほどで撃ち破ったのでしょうか?」
「ですから私とお姉様の二人です」
「そんな、あのブリリアント公もいたはず、勇者のいる軍隊にしかも8万ですよ!到底信じられません」
まぁ、グレゴールの言う事も一理あるな、普通はこんな事は信じられんよな……何とか言いくるめてみるか。
「勇者は、この大陸では貴重な戦力かも知れませんが……そうだグレゴール殿、この大陸には勇者は何人ほどいるので?」
「正確には解りませんが、おそらくは30名ほどかと」
「……そうですか、ここから先の事を知れば、グレゴール殿は帝国との戦が終わるまで、ここから出れませんが、それでも宜しいか?」
確かにこの左近衛大将の言いたい事は解る、勇者の人数を教えるのは愚行とも言うべき事だからな。
しかし知っておきたい……ここは仕方がないか。
「良いでしょう」
「我が方の勇者の人数は、3千でございます、それを6百名ずつの4部隊と予備役に分けております、ですので、ルタイ皇国ではそんなに重要視しておりません、勇者は機会さえ有れば出てきますので。
それに勇者と言えども、所詮は生き物、殺せないことは御座いません」
「そ、そんなバカな……機会が有れば出てくる?まさかルタイ皇国は勇者を量産しているので?」
「それは、機密なので言えんな」
そんなバカな……それでは大陸中が集まっても勝てないじゃないか!……待てよ、では勝つのが解っているルタイ皇国に商品を売り付ける事は、勝ち組になれるのが解りきっているじゃないか。
そうすれば他の6商会を出し抜ける、何せこの情報を知っている商人は少ないだろう。
この情報を知らない者は、下手にルタイ皇国に肩入れして、セレニティ帝国が勝利すれば、後々が厄介だと考えて、ルタイ皇国の味方を表だってするのは躊躇するはず。
これは必ず勝てるゲームじゃないか、これに乗らないのは商人として失格だ。
そう考えたマーティは、思わず笑みを溢したのであった。
「グレゴール殿、どうやら決まった様だな」
「ええ、これからは私共グレゴール商会をよろしくお願いします」
「解った。ではパンドラ、王女様とグレゴール殿に部屋を案内してやってくれ。二人とも今は戦争中なので、外部との連絡はルセン王国のみにさせて頂くので、そのつもりで」
左近がそう言うと、二人は了承しパンドラに連れられて城に行ったのであった。
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左近達がミサとグレゴールと会っていた頃、ナッソーの市場を歩く大きく体格の良い、長く立派な髭をした老人とラナの姿があった。
この老人こそ、ルタイ皇国の関白である、冷泉 永富であったのだ。
「織部よ、ここは本当に都では無いのか?この活気は凄まじいの」
「ダメだよ、私の名前はラナ!ここでは旦那様も正成様も、左近や右近で通して、身分を隠していのだから」
「すまん、すまん。ではワシは何にしようか……ラナ、付けてくれんか?」
「岩石親父でどお?」
「……やっぱりワシが考える………………冷……零…ゼロでどうだろう?」
「何だか似合わないけど、まぁ良いか」
「しかしラナよ、ここの人々は本当に生き生きとしておるな、本当に今は戦争中なのか?」
関白が言った様にナッソーの街は、本当に戦時中かと疑うかのように、街は活気で溢れていたのであった。
それもそのはず、元々が自由に振る舞うナッソーの住人に加えて、各地から戦の匂いを嗅ぎ付けた傭兵達が集まり、更にはその傭兵達を狙っての流れの娼婦や、行商人が集まっていたために、普段より活気付いていたのであった。
そしてそれを見逃す4頭会のメンバー守銭奴2人組では無い、ダッチは行商人でも、場所代さえ払えば、露店で売っても安全は保証し、ママは流れの娼婦には、宿までのデリバリーでの商売を許可し、売り上げの何割かを巻き上げていたのであった。
そのおかげか、トラブルにならずに、キチンと住み分けがされていたのであった。
「戦争中だよ。ほらその証拠に城壁のあそこを見て、バリスタが在るでしょ」
「バ、バ……?」
「バ・リ・ス・タ、あの大きな弓で槍を打ち上げるんだよ」
「なるほど、やはりワシの知らない武器が大陸にはあるんじゃの。所で子供も多いみたいじゃが、攻められた時はどうする?」
「それは、あそこの生駒山の麓に泉龍寺ってお寺があって、そこに避難するか、反対のピケ山の砦にみんな避難するんだよ。
でも今は親のいない子供は、みんな泉龍寺の和尚さんが引き取って育てている……昔からすれば天国だよ」
「ラナよ、もしやお前はここの生まれか?」
「そう、私と兄貴は小さな頃から二人で、ここで生きてきた……あの頃は、もっと治安が悪くて死人も多かったんだよ。
兄貴は私を養う為に盗賊や、傭兵をやっていたけど、ある日オヤジさんがここで店を出して、私達を雇ってくれてから、ちゃんとご飯も食べれるし、布団で寝れる様になったんだ。
あんな思いは、もうやりたくないよ……兄貴もいつもボロボロだったし」
「そうか、辛い事を聞いたすまない」
「良いって、私は今が最高に幸せなんだ!旦那様も優しいし、初めての家族が、あんなにいっぱい出来たんだよ。
しかも、いきなり娘が二人って、笑っちゃうよね」
そう言ったラナの目にはうっすらと涙が滲んでいたのであった。
何と不憫な子だろう、余程辛い想いをしてきたんだな。
よし、良いことを考えたぞ!
「ラナよ、お前ワシの子にならんか?ワシの子は男しかおらん、お前がワシの子になってくれたら、妻の明里も喜ぶ」
「え?でも私はダークエルフだよ?」
「かまわんよ、ダークエルフなら右大将もだ……彼奴は半分だったか。とにかくだ、妻もお前の事を気に入っておったし、問題は無い。
それに、左大将も事もある……」
「旦那様との事?」
「あぁ、セシルだったか?あの者と妹のセシリーは、確かザルツ王国のスターク家の娘で、隼人…アイリスはセレニティ帝国のノイマン家の者じゃ。
いくらラナがルタイ皇国の官位を持っていると言っても、見下す者が出てこよう。
だからワシが、お前の父となってそんな輩から守ってやろう」
「う~ん……ありがたい話だけど、いいや!私の家族はもう十分だし父親代わりのオヤジさんもいるからさ」
「ラナよ、お前は何て良い子なんじゃ……ではせめてこれをやろう」
そう言ってラナに関白が渡したのは、家紋の入った1つのプラチナの腕輪であった。
「これは?」
「それは我が家の家紋が入っている腕輪じゃ……まぁお守りと思ってくれて良い」
「ふぅん……まぁいいや、ありがとうねゼロさん」
そう言うとラナは早速腕に着けて眺めて、上機嫌でいたのであった。




