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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
48/464

想い

 


 何れ程時間がたったのだろうか?確か夜襲を受けて戦っていたはずなのに、気が付けば顔を頭から袋か何かで隠され、手足も鎖か何かに繋がれていて動かない。


 ここは何処だろう?誰かが、ひたすら俺を痛め付けて何かを叫んでいる……ああそうか、これはキリバ語だ、俺は捕虜になったのか。

 興奮して何かを叫んでいるのだが、俺にはキリバ語が早すぎて聞き取れない、もう少しゆっくりと言ってくれ……言われた所で、どうせ情報を寄越せだろう、誰が言うかよ。


 俺達、青井家の者からすればこんなのは、まだまだ易しいお遊びだ、あの殿様からの拷問に比べれば、こんなのは拷問に入らない。


 そういや、源さんはどうしたのだろうか?……思い出した、源さんは……俺の目の前で……そうだ、あの時クリスティーナさんがいた……あんな綺麗な人が、あんなクソみたいな場所に何で?


 佐平次がそんな事を考えていると、女性の声が聞こえたのであった。

「おい、袋を取れ」


 その声で、顔を隠されていた袋が取られると、視界には薄暗い部屋に、数人の女性がおり、目の前の女性は上半身が裸となり、身体の包帯を他の騎士らしき者に交換させていたのであった。


 あれがここの隊長か?そう思った佐平次の目には、その傷付いた女性の傍らに在る大剣が視界に入ったのである。

 こいつが源さんを!そう思った佐平次の目には明らかに怒りの炎が燃え上がったのであった。


「なかなか良い目をしているじゃないか、私はアミリア・マクレガーって言うんだ、お前の名は?」


「何を言っているのか全く解らんな?」

 アミリアの問いに佐平次はルタイ語で話したのであった。


「ではルタイ語で改めて聞こう、お前の名前は?」


「さぁな、教えて欲しけりゃ、俺のケツに口づけしな」


「貴様!」

 そう言った佐平次を、自分達の団長を侮辱されたと感じた騎士達が、佐平次に暴行を加え始めたのであった。


 へへへ源さん、あんたが前に言ってみたいって言ってた事を言ってやったぜ……絶対にあの世で自慢してやるからな……チョッと痛いかな。

 そう思いながら佐平次の意識が無くなりかけた瞬間であった、

「その辺りで止めておけ……水をかけて、目を覚まさせろ」


「……?」


「目を覚ましたか?お前は中々強情だな、殴られても名前すら言わないとか」


「お褒めの言葉をどぉも……」


「どうやらお前は、殴られる事に慣れている様だな……何だか私も楽しくなってきたよ、調教しがいがあるね。

 さてそんな強情な君に問題だ、そこのかがり火の中に20本の針がくべられている、お前の指も合計で20本……さてこれからお前の身に起こる事は、なぁんだ?」


「ハハ…ハ……このイカれた女め…」


「理解した様だな、焼けた針に爪の間を刺されるのを何本まで耐えれるか、見物だな名無し君よ。

 両手両足を縛り上げ固定しろ!」






「意外としぶとかったな、最後まで自分の名前すら言わないとは……今日はここまでにしてやろう、まだ明日も楽しませてくれよ名無し君。

 気絶したこいつを早く牢に連れていけ!」

 アミリアの命令で、左手と左足の爪の間に針を突き立てられ気絶した佐平次が、騎士達に運び出されたのであった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ここは?……そうか俺は気絶したのか……くそ、無茶苦茶しやがって…これだと明日は右側だな。

 牢獄で目を覚ました佐平次は天井を見ながら、明日の事を考え天井を見ていると、天井の片隅がカタリと動いたのが目に入ったのである。


 何だ?ネズミか?いや違う、間者だ。

 そう思った瞬間であった、天井の板が外れて一人のダークエルフが顔を出したのであった、そうアデルである。


「思いの外、耐えたな」


「あんた…オヤジさんの所のバーテンの……確かアデル?見ていたなら助けろよ、全く……で、何でお前がいるんだ?」


「俺は血盟十字軍クラン・オブ・クルセイダースの諜報部隊のアデルだ」


「左大将様の……そうか潜入調査か……待てよ、するってぇとこの城は攻撃目標に入っているのか?」


「……それは言えない」


 確かに俺に話して拷問で吐かされたらマズイから言えないわな……チョッと待てよ、じゃあ助けてはくれねえのかこいつは?

「では、俺の事は助けてはくれねえのか?」


「それは出来ない、助ければ潜入したのがバレる恐れがあり、警備を増やされる恐れがある……すまないが見捨てるしかない」


「では、何でここに来た?」


「少しここの警備が変なのでな……それを教えるのと、これをやるためだ」


 そう言ってアデルは1つのカプセルの様な物を佐平次に投げ渡したのであった。

「これは?」


「その中には毒薬が仕込んである、奥歯に仕込んで強く噛み砕くと毒薬が出て楽に死ねる……辛くなったらそれを使え」


「それは御丁寧にどうも……それと変ってのは?」


「ここの牢獄の警備は女が一人と男が二人だ」


「どこが変なんだ?」


「正確には女が一人だけだ、残る二人の男は何故か牢獄ではなく、女を隠れて監視している」


「そいつは確かに変な話だな」


 佐平次がそう言った時であった、牢獄の入り口が開く音がしたのであった。

 直ぐ様、アデルは頭を隠して天井を元の通りにする瞬間、佐平次に僅かな希望とも言えるべき捨て台詞を言ったのであった。

「2ヶ月以内に助けが来る、それまで耐えろ」


 2ヶ月……本国から軍が集まり同時に侵攻を開始してここまでの距離って事か……意外とルゴーニュの村から離れてはいないのかも知れない。


 そう佐平次が考えていると足音が聞こえて来て、鉄格子の向こうに、松明の明かりに浮かぶクリスの姿があったのである。

「起きていたのか?」


 そう言うとクリスは、後ろを向いて鉄格子に体を預けて座り込んだのであった。

「クリスティーナ様、そいつはいけねえ、不用心過ぎる。俺が後ろから首を締めたら、貴女様は殺されてしまいますよ」


「お前は敵になっても様を付けて、私を立ててくれるのだな。それにお前はそんな事をする男じゃ無いだろう?あの時も敵の私を殺すのを止めたのだからな」


「解っていたのですか。そうだ、すみませんが源さん……源三さんがどうなったのかご存じで?」


「源三は……私の母上に殺されていたよ……私が隠れて源三を埋葬したから間違いない……すまなかった……本当にすまない」

 そう言うとクリスは顔を隠して声を殺して泣いたのであった。


「何もクリスティーナ様が泣く事はございませんよ、埋葬していただきありがとう御座います。

 クリスティーナ様に埋葬していただき、源さんも喜んでいるでしょう」


「何故だ?佐平次は私が憎くは無いのか?今、この場で憎しみを晴らす事が出来るのだぞ……正直に言うと今日はお前に殺されても仕方がない、受け入れようと思って来たんだ」


「憎しみねぇ……俺達ルタイ人と文化が違うから仕方がないと思いますが、俺達ルタイ人は戦場での出来事に憎しみを持つことはございませんよ……ルタイ人でも難しいですがね、ただ戦場でのカリは戦場で返す。

 俺達やクリスティーナ様も、その母上様も皆が兵士です、誰も布団の上で死ねるなんて思ってはいません、源さんも戦場で死ぬのが当たり前だと思っていました。

 それがルタイ人の考えなのですよ」


「……お前は立派な騎士なのだな」


「騎士様ってルタイ皇国の官位がある侍と一緒でしょ?そんな騎士様なんてとんでもない、俺はただの下級侍です」


「いや、立派な騎士だ。1つ聞いても良いか?お前達は本当にパナスの住民全てを虐殺したのか?」


「ええ、しましたよ、私もその場に居ました」


「何でそんな事をやった?罪悪感は無いのか?」


「無い……って言えば嘘になりますね、私も最初は耳を疑いましたよ。でも先のこのヴァルキア地方の制圧を見て思いました。

 あの悲劇があったおかげで、他の都市は無血開城し降伏して、結果ですが、流れる血はそのパナスに住んでいた者だけで済みました。

 これを肯定しろとは言いません、ただ少ない兵で少ない血を流して勝利を得るには、私はこれが最善だと思います」


「お前達の将はそこまで考えていたのか……」


「普段は奥様と縁側でゴロゴロして、部下に仕事を押し付けていましたけどね」


「ハハハ、最低だなお前の将は」


「私もそう思いますよ、左大将様は本当によく解らないお人です」


「左大将?もしかすると左近衛大将殿か?」


「お知り合いで?」


「あぁ、一度ナッソーで命を助けてもらい、一緒に戦場でも戦った事がある……あの人が相手か……確かによく解らない人だったな。

 左近衛大将殿の妻のアイリスは、私の幼馴染みだった……両親も仲が良かったんでな。

 私とアイリでよくルイの所に遊びに行ったものだよ……佐平次、アイリの手料理を食べた事は?」


「そんな恐れ多い、ありませんよ」


「機会があれば食べて見ると良い。一度、私とエリアス様がアイリの手料理であまりの不味さに、死にかけた事があってな……エリアス様が大激怒していたよ。

 あの時のエリアス様の顔を思い出したらまた笑いが出てくるよ……なぁ佐平次、ここから一緒に逃げないか?」


 なるほどね、そう言う事か。アデルさんの言っていた見張りの男はクリスティーナ様を警戒しての事か、クリスティーナ様、今自分が試されてるって事を知らないんだな。

「クリスティーナ様のお気持ちは嬉しいんですが、そう言う事は、貴女様が言っちゃいけねえ。

 俺が逃げ出したら貴女様が真っ先に疑われるし、一緒に逃げたとあっては貴女様の家名に傷が付きます……俺の事は忘れて下さい」


「そんな……佐平次、お前は何処までバカなのだ?ここに来て何で私の事を心配する?自分の命をもっと大事にしろ」


 このお人は本当に優しい、だがそこが危険だ……この人は俺が守ってやらねば。

「ではその時期が来れば、俺の方から言いますよ。それまではこの件は忘れて下さい」


「……解った。だが無理はするな、いつでも言ってくれ、このクリスティーナ・マクレガーの名と戦の神ガウス神に誓って、お前を必ずや助け出してやる」


「そいつはありがたい、しかしあまりここに居ては怪しまれます、早くお戻り下さい」


「あぁ解った……また来る」

 そう言うとクリスは立ち上がり出ていったのであった。


 無理をするなね……残念だがあんたの母上の拷問は無理をしなきゃ、心が折れちまう。それに貴女に迷惑はかけれませんよ、俺が守ってやる。

 あんなお人が俺の主君なら、俺の人生は変わっていたのかも知れないな。

 そう思いながら佐平次は、ソッと奥歯にアデルからもらった毒薬を仕込んだのであった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








 何処だここは?……そうだ、ここはナリヤの私の家だ…またあの夢か?

 アイリスがいるのは帝都ナリヤのノイマン家の屋敷、屋敷と言ってもこじんまりとした屋敷で、エリアスの趣味なのか、調度品は殆ど無く質素な家であった。


 その質素な家に扉を強く叩く音が響き渡ったのであった。

「失礼する!我々は帝国の宰相、エミリオ・ニルセン様の部隊である!アイリス・ノイマン殿はおられるか?」


「ハイハイ、今開けますよ」

 そう言うと、ノイマン家のメイドの老婆が扉を開けたのであった。


 ロレーヌ、ダメだ開けるんじゃ無い!開けちゃダメだ!

 アイリスの思いとは裏腹に、ロレーヌが扉を開けると、外から兵士が一斉に入って来て、最後にアイリスの見たくは無かった男が入って来た、そうマニッシュ将軍である。


「アイリス・ノイマン!父親エリアス・ノイマンの反逆の罪により、お前を死刑に処す!これが逮捕状である!速やかに縄につけ!」


「そんな何かの間違いです!あの崇高な旦那様がそんな事をされるはずがございません!今一度確認してくださいませ」

 逮捕状を読み上げた兵士に向かってロレーヌが食ってかかったのであった。


「エリアス・ノイマンの手により、聖導騎士団が既に壊滅しておる!裏切りは最早明確なのだ!」


「そんなバカな……旦那様が……しかしアイリス様はまだ……ゴフッ……」

「本当にうるさいババアだの、こいつは反逆者の逃走の手助けをし、ワシが殺した良いな!反逆者の娘を引っ捕らえよ!」

 マニッシュ将軍はそう言って、剣を鞘に納めて言ったのであった。


「ロレーヌ!ロレーヌ!」


「うるさいの……しかしあのエリアスの娘にしては、良い女に育っておるではないか……どうせお前は死刑になるのだ、それまでたっぷりと楽しませてもらうとしよう。

 おいこいつを寝室に連れていけ!父親のベッドの上でたっぷりと犯してくれる、後でお前達にもやらせてやるからな。

 連れていけ!」


 嫌だ!誰か助けて!旦那様!旦那様助けて!

「嫌あぁぁぁ!」



 アイリスは、思わず自分の叫び声で目を覚ますと、そこは月明かりで照らされた、関白の邸宅の和風の部屋であった。


 そうか、またあの時の夢か……旦那様と一緒に寝てから、あの頃の夢は見なくなったのに……この手で殺したのに、何でまだ見るの?……早く会いたい、旦那様。


 そう思いアイリスが塞ぎこんでいると、障子に女官の姿が月明かりで映し出されて声が聞こえたのであった。

「隼人佑様、如何されました?」


「すみません、少し悪夢を見まして」


「そうですか、もう少しで夜明けです、よろしければお茶でもお持ちいたしましょうか?」


「お願いします」

 アイリスがそう言うと、女官はその場から立ち去り、アイリスはまた塞ぎこんでしまったのであった。






「隼人佑、今朝は何やらうなされていたそうじゃの?」

 関白一家とアイリスは朝食を食べていると、ふいに関白がアイリスに聞いてきたのであった。


「申し訳ございません、少々悪夢を見まして……」


「そうか、遠く異国の地での暮らしじゃ、疲れが出たのであろう。何か不便は無いか?何でも申せよ」


「ありがとう御座います、関白様をはじめ、皆様には我が子の様に良くしていただき、これ以上無いほどに感謝しております」


「それは良かった。確か今夜帰国するのであったな」


「はい、戻れば向こうは夕方でしょうか。今まで本当にありがとう御座いました、このご恩は一生忘れません」


「そうか、では早速その恩を返して頂くとしようか」


「え?」

 唐突に何を言い出すのかとアイリスが驚いていると、次に関白の言った言葉は驚くべきものであった。


「隼人佑、ワシをナッソーと言う街に極秘で連れて行って欲しい」


 何で?確か珠様から、内府様以上はルタイ皇国の外には、出れないと聞いているのに。それにナッソーは戦争中だ、そんな所に関白様が行かれるのは危険だ。

 アイリスがそんな事を考えていると、関白は頭を下げて言ったのである。

「頼む、隼人佑!この国の現状は知っておるだろう、今年も飢饉が起こり民は皆が救いを求めてこの京の都にやってくる。

 しかしいくら寺の炊き出しをやっても数には限界がある。最早、都は地獄の有り様じゃ……そこで他所の国の民はどんな暮らしをやっているのか、直にこの眼でみて感じたいのだ。

 そこで直に見れば、何かを感じ良い所をルタイ皇国に導入出来るかもしれん、そうすればこの国は民に取って良き国になるであろう」


 しかしナッソーは戦になるかも知れない……そうだ旦那様が作っていた温泉宿ならば、大丈夫かも。

「解りましたが、宿はこちらが用意する温泉宿でよろしいでしょうか?それと護衛を付けさせて頂く事が条件です。

 何せナッソーはこれから戦になるかも知れませんので」


「護衛か…仕方がないが了承しよう、ただしこの話は内密にお願いする」


「解りました、明日こちらに人を向かえに越させます」


「あぁ頼むよ」


 こうしてアイリスは朝食を食べ終わった後で、ラナに念話で連絡を取ってセシルを左近と一緒に、ルタイ皇国に寄越す様に言ったのであった。





 ここ内裏では、帝をはじめ従三位以上の者がアイリスのアルムガルド大陸の講義を聞いていたのであった。


「……以上で本日の私の講義を終了とさせて頂きます。今日までご清聴ありがとう御座いました」

 そう言って十二単に身を包んだアイリスはその場にいた、ルタイ皇国の帝をはじめルタイ皇国の幹部に平伏したのである。


「では左大将、右大将が来られるまでしばらく休憩とさせて頂きます」


「隼人佑よ、数日間に渡っての講義ご苦労であった、朕も思う所のある内容だった。また何かあれば頼む」

 帝がそう言うと、その場の全員が一斉に平伏したのであった。




「隼人佑殿!」


「これは蒲生 弾正様、どうされました?」

 待合室に向かうアイリスと関白を呼び止めたこの仮面の男は、蒲生 弾正尹 忠輝と言って年齢は28だが旧弾正台、現在の弾正府を統括する男であった。


「い、いえ……何て言うか、解りやすく講義していただきありがとう御座いました、弾正府を統括する者として、覚える事が多過ぎて……宜しければ今後も何かとご指導頂けないでしょうか?」


「えぇもちろんですよ蒲生 弾正様」


「忠輝とお呼び下さい」


「ありがとう御座います忠輝様」


「おい弾正、ワシがいる事を忘れてはせんか?それに隼人佑は左大将の妻だぞ、手を出すなよ」


「はっ!……しかしそんなつもりでは……」


「関白様、忠輝様は弾正府を統括されるお方、今後は大陸も管理される事になりますので、人より努力しなくてはならないのですよ。

 所で忠輝様、前から気にはなっていたのですが、何故お一人だけ仮面を着けてらっしゃるのですか?」


「私……かなり顔が醜いゆえに、こうやって顔を隠しているのです」


「そうですか?時折仮面の下から見える忠輝様の眼は、とても綺麗で可愛いと私は思いますよ」

 そう言ってアイリスは、蒲生 弾正に近付いて、下から覗き込んだのであった。


「か、可愛い……い、いやすまない、いや俺の事だ、そうだ俺の事だ!」

 そう言って忠輝が訳の解らない事を言うと、関白が溜め息をついて言ったのであった。


「はぁ、弾正よ何を言っているお前は?何度も言う様に、隼人佑は人妻だからな、手を出したらワシが黙っておらんぞ。

 隼人佑もだ、お主は美しすぎる、もう少し自重せよ。さもないと弾正の様に惚れてしまう輩が続出するわ」


「すみません、すみません」

 そう言ってアイリスは土下座する勢いで謝ったのであった。


「関白様、私は惚れてなど……」

「もうよい、早く隼人佑を夫に会わせてやらぬか」


「関白様、もう夫が来ているのですか?」


「あぁ、講義中に奴等が到着したと連絡があってな……」

「関白様、忠輝様、お先に失礼致します!」

 そう言ってアイリスは、二人に一礼して急いで待合室に向かって行ったのであった。


「おーい、内裏は走るなよ~!……行ってしまったか、本当に夫に惚れているんじゃの……なんだ弾正、そんなにショックか?」


「い、いぇ……少し胸が……」


「ハハハ、それは恋と言うものじゃ、良いの若い者は」


「某はもう28ですよ……あ、関白様お待ち下さい」

 そう言って二人も待合室に向かったのであった。





 旦那様が来た、やっと旦那様に会える。早く会いたい、旦那様の腕で抱き締められて、旦那様の香りに包まれたい、旦那様、旦那様!

 そう思いながらアイリスは内裏内を走って角を曲がると、縁側で立って庭園を眺めている左近の姿が目に入ったのであった。

「旦那様!」


「お、アイリス元気だ……うぉ!」

 左近が振り向いた瞬間にアイリスは勢いを止めること無く左近に抱きついたのであった。


「旦那様ぁ…エッグッ」


「よしよし…泣くなアイリス」


「だって、だって……」


「……そうだな、寂しい思いをさせてすまなかった」

 そう言った左近はアイリスを優しく抱き締めたのであった。


「アイリス、その服は関白様が?」


「はい。関白様には、とても良くして頂きました」


「そうか、関白様にはお礼を言わないとな」


 少し離れた所には、そう言って優しくアイリスに囁く左近を見つめる関白と忠輝が居たのであった。

「弾正、お前負けたな」


「そうですね……じゃ無くて、最初から惚れてませんし」


「ハハハ、そう言う事にしといてやる。おい、左大将!」


「人の話をちゃんと聞いてくださいよ……まったく」



「これは関白様、妻のアイリスを良くして頂いたそうで、誠にありがとう御座います」

 そう言って頭を下げた左近は、関白の後ろにいた仮面の男が気になっていたのであった。

 誰だ?仮面の下から見える冷たい眼……まるで暗殺者の様な感じがする、こんな眼の奴は警戒はしておくべきだな。


「よいよい、ワシの所には娘がおらんので、娘ができた様だと妻も喜んでおった。

 それよりは左大将、お主だけか?」


「いえ向こうに右大将ともう一人の我が妻のラナがおります」


「そうだ、お主達はまだ会った事が無かったな、こいつは蒲生 弾正尹 忠輝、こう見えても28じゃ。

 弾正、こっちの色男が島 左近衛大将 清興、隼人佑の夫じゃ」


 こう見えてもって仮面で顔が見えないし、関白様って天然か?

「島 左近衛大将 清興です、妻がお世話になりました」


「蒲生 弾正尹 忠輝だ、早速だが左大将、お前大陸で奴隷がいるそうだな?今までは見逃してきたが、この戦が終わればルタイ皇国の法が適応される、早い事手をうっておけ。

 そうしないと俺がお前を逮捕しなければならん、そうなっては前代未聞の不祥事だ。切腹は免れんぞ」


 なるほど、既に情報が入っているって事か。

「……しかと心に留めておきます」


「まぁ暗い話もここまでじゃ、さて行くかの」


 関白がそう言って進むと、忠輝も付いて行ったのだが、アイリスは不安そうに着物を握り締めこちらを見ながら聞いてきた。

「旦那様、切腹って?」


「あぁ自ら自分の腹を斬って、苦しんだ後に首を斬られる刑罰だ」


「そんな……それじゃ旦那様が死ぬじゃありませんか?」


「そうだな、でも切腹はその者が全ての罪を背負う刑罰で、家族の者にはお咎め無しだ……弾正尹の計らいだろう。

 大丈夫だ、あの二人を何とかするさ……それに弾正尹も有余をくれたから大丈夫だ」


 そう言って俺とアイリスはラナ達の元へ行ったのであった。


 その後、ラナにはアイリスと同じく正八位上の織部佑の官位が与えられ、島 織部佑 ラナと名乗る事と帝の謁見が許されたのであった。


 そして暫く談笑の後に、帝への謁見の時間となったのであった。


「帝のおなぁりぃ~」


 毎回この声には気がぬけるんだよな。

 そんな事を考えながら左近をはじめ、全員が平伏して帝を出迎えたのであった。


「一同面を上げよ……さて左大将よ此度は如何様な事で謁見を申し入れたのじゃ?」


「はい、此度はセレニティ帝国への侵攻作戦の若干の修正と、1つの内政事案の許可を頂きたく参上いたしました。

 先ずは侵攻作戦の方から始めます」

 そう言って左近は、大きな地図を広げたのであった。


「先ずは現在の我々は、ほぼこのヴァルキア地方を占領致しましたが、現在この中央街道から敵の主力8万が、このレイクシティに向けて南へ進軍しております。

 そして東の街道からは、帝国の魔女騎士団(ナイトウィッチーズ)と言う軍がやって来ましたが、三好 左少将が迎撃に成功し現在膠着状態になっております。

 西からは、大きく迂回した帝国の聖龍騎士団と言う軍が、レイクシティの後方の都市ナッソーに向けて進軍しております」


「さすがは名門の三好家の者じゃ、今後はどうする?」


「はい、私の娘の珠とパンドラの姉妹がこの敵の主力8万にあたり、ナッソーの聖龍騎士団は、大陸の傭兵達に任せ、その間に我等は帝都ナリヤに向けての侵攻作戦の配置に付きます」


「また珠様に我等は救って頂くのか……しかし、何故その聖龍騎士団は我等で攻撃せんのだ?」


「聖龍騎士団は飛竜(ワイバーン)に乗った騎士の部隊です、我等は上空から攻撃してくる者との交戦の経験がございません。

 その点、彼等傭兵はそう言った戦いの経験も豊富に御座います、桶は桶屋に…そう言った経験豊富な者に任せれば宜しいかと」


「なるほどな、では侵攻作戦の方は?」


「侵攻作戦は、左近衛府、右近衛府の水軍がルタイ皇国の伯耆国の境港から600隻の軍船にてセレニティ帝国の東の港町のポートシティ近郊を襲います。

 その後、西の街道から右近衛府軍が、中央街道から弾正府軍が、東の街道から左近衛府軍が進軍し、帝都ナリヤの南に在ります、ここランダ平原で合流し、帝都ナリヤを目指します。

 その間、総大将として何方かレイクシティに居ては頂けませんか?」


「それはワシが行こう」

 そう言って名乗りを上げたのは、関白であった。


「関白様、よろしいので?」


「ルタイ皇国が初めて自らの意思で他国と戦うのじゃ、ここはワシが出なくてどうする?」


「ありがとう御座います、では此度の総大将は、冷泉 関白 永富様で皆様には、御尽力お願いします。

 そして職業が勇者の者を600名ずつ、青龍、白虎、玄武、朱雀の4つの部隊に分け、青龍は左近衛府に、白虎は右近衛府に朱雀は弾正府に玄武は朝廷に、今回は本陣の関白様に所属させて、残りは不足の事態に備えて予備役にさせておきます。

 次に内政の問題ですが、ヴァルキア地方のみならず、大陸では奴隷制度が当たり前となっております、それに対して我がルタイ皇国は奴隷制度は禁止しております。

 私が調べました所、職業が奴隷では無くなる条件は、その奴隷が死ぬか貴族や武将と結婚するか……しかしこれは離縁すればまた元に戻ってしまうそうです」


「ならば、殺すか他国へ追放するまでだ」

 そう言ったのは忠輝であった。


 こいつは本心で言っているのか?それともこれは俺へのアシストなのか?

「確かに、弾正尹殿の言う通りかも知れませんが、その様な事をすれば働き手も無くなり物価も上がり、各地で反乱が起こり他国の侵略を許す事になります。

 そうなればヴァルキア地方のみならず、ルタイ皇国本国も被害を受けて民の救済が出来ません、つまりこれは我が国の目的が達成されない、最悪の結果になってしまいます」


「ではどうするのだ?」


「ここは発想を変えてみてはどうでしょうか?職業が奴隷になっていても、扱いは一般人と同じにするのです」


「一般人と同じに?」


「そうです、先ずは奴隷とは何か?主人が死ねば奴隷も一緒に死に、逆に奴隷が死ねば奴隷のみが死に、自由に主人を選べず、土地やお金の所有権が無く財産の持てない者です。

 ならば職業が奴隷でもそれを認めてやれば良いのです。

 先ずは、奴隷の財産の所有権を認めてやり、土地や財産を持てる様に認めてやるのです。

 そして次に賃金の問題ですが、いきなり賃金を正当な報酬額を与えろと言えば、物の生産にかかる費用が上がってしまい、物価の上昇を招き、貧しい者が飢えてしまい、取り扱う商人も潰れて大量の失業者や餓死者が出てしまいます。

 では、どうするか?ならばその歩みを緩めれば良いのです、毎年少しずつ奴隷に渡す賃金を、正当な報酬額に近付けていけば良いのです。そうすれば徐々にですが、商人も奴隷の客が増えて商品が増えて、利益が生産者に回り、負担は少なく倒産する商店や上昇する物価も抑制できます。

 最後に主人との主従関係ですが、生死に関わる事柄は無理でも、その他の事は変えられます。

 先ずは、主人の選択の自由を認めてやり、奴隷商人をルタイ皇国の役人にして、その仲介斡旋業者にするのです。

 そして奴隷に対しての待遇を改善、一般人と同じように扱い法を適用します、そうすれば奴隷商人を潰すこと無く、反乱は抑えられるかと思います」


「左大将、貴様それでは奴隷が無くなる事は無いではないか!」


「よい大納言……左大将よ、それが民を苦しめずに済む方法ならば、それでいけば良い」


「ありがとう御座います!あと最後にヴァルキア地方の行政の責任者を、ヴァルキア地方の者に任せたいのですが。

 我々が直に統治すると反発する者も出てくると思われますので」


「左大将よその口調からすると、もう目星はつけている様じゃな?」


「御意に御座います」


「ならばその様にするが良い、ただし上に立つ者は己を律せねばならぬ、この意味解るな左大将よ」


 俺の事だ……帝の耳に入っていたのか、二人の事が。

「心得ております」


「うむ、そなたなら解ってくれると朕も思っておる。それと今後はヴァルキア地方の事は左大将、右大将、弾正尹の三名の合議によって運営せよ、毎回こうやって朕の了承を得ては、動きが遅く負担も大きかろう。

 それを踏まえて朕の考えを元に、このルタイ皇国を改革しようと思う。これは隼人佑の話を聞き朕も思うことあっての事じゃ。

 内府、説明せよ」


「はっ、先ずは皇国内部の改革で御座います。

 今後は全ての国内の官職は守護職のみにし、守護職が各地を統治し全ての軍は左近衛府、右近衛府、弾正府の三府に振り分ける事にし、朝廷はおおまかな国の方針を決める機関とする。

 次に左近衛府は、国外の軍と内政の最高責任機関とし、任官の権限も与える、官位を与えたならば、関白様に報告する事を義務付けるものとする。

 次に右近衛府は、国内の軍の最高責任機関と外交の責任機関とする、つまりは連合が結成されし場合は、右大将が連合の合議に出て全てを決めよ、だだしお主は朝廷に対しての報告は怠るな。

 最後に弾正府は、全ての連合内部の治安維持の最高責任機関とする、ルタイ皇国のみならず、連合に参加する全ての国の治安維持そして国家元首以外の逮捕権を与え、刑罰の権限も与える。

 以上の事柄を、連合が結成されし時点から施行するものとする、異議の有るものはこの場で発言せよ」


「……誰もいない様だな、よって此度の帝の改革は先に申した通り、連合が結成されし時点で施行するものとする!」

 内府がその言葉を言い終わるとその場の全員が一斉に平伏したのであった。


 その後、セシルとクロエが合流し関白の邸宅で歓迎の宴が催され、何故か関白とラナは意気投合していたのであった。




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