親子
ここは中央街道の要であるリイツ城。
ヴァルキア地方と帝国領の境目に在る大きな大河の中州に在り、現在は帝国領とルタイ皇国の領土の国境の城になっている。
ヴァルキア地方と帝国領へは大きな橋が城の中央を通っており、別名、城門と言われていたのであった。
そしてここリイツ城の城主であった、ジョン・ウッド子爵は弾正率いるルタイ皇国軍が近付くと、すぐに降伏を申し入れ皇国軍をすんなりと受け入れたのであった。
ウッド子爵はルタイ皇国に降るには、相応の理由があった、彼の姉はセレニティ帝国第二后妃の故セラ・セレニティであったのである。
彼は姉の第二后妃と甥になる第一皇太子の死因について疑問に感じていたのであった。
姉や甥だけなら未だしも、こう次々と他の皇太子や后妃も死んでいくと、彼は誰かに暗殺されたと感じていたのであった。
そんな彼の元にパナスで虐殺をやったとされるルタイ皇国軍がやって来たのである。
ウッド子爵の元には彼等は最初に投降した者達は手厚く迎えると言う情報は入ってきてはいた。だとするならば、投降すればルタイ皇国と一緒に姉と甥の敵が討てると考え降伏したのだが、ここに頭の痛い情報が飛び込んできたのであった。
そうセレニティ帝国軍8万がこちらに向かって来ているのである。
伝書カラスでルイスから極秘の密書が届き、その内容には、我等の軍が到着する迄、ルタイ皇国軍を引き留めよ、そして到着し合図を送ったら、城門を開けて城内のルタイ人は全て殺せと言った内容であったのだ。
しかし本当に8万もの大軍が、やって来るのかも解らない。
それに弾正もここから動く気配も無い、今の所は静観し帝国軍が来るまでに、決めるしかないと考えていたのであった。
「弾正殿、よろしければ教えて頂きたいのですが、今後私はどうなっていくのでしょうか?」
ウッド子爵は、弾正とセルゲンの三人で朝食を食事を食べながら話した。
「そう言えば詳しくは言っておらんかったな。
お主には、今まで通りこの城主でいてもらうが、我が国には伯爵や子爵と言った貴族は無い、代わりに官位と言うのが有り、下から正八位下、正八位上、従七位下、従七位上、正七位下、正七位上、従六位下、と続き従三位からは上下が無くなり、臣民の最上位は正一位の関白と言う役職じゃ、仕事は帝の代理や補佐をするんじゃよ。
録も……ここでは給金かな?それも官位によって金額は違えど支払われる、基本的には朝廷……ルタイ皇国の行政機関じゃな、そこから支払われる。
それと、最近変わったのじゃが、ルタイ皇国は行政機関の朝廷、トップは従一位の大政大臣、西園寺 大政大臣 義政様。
治安取締の弾正府、トップは従三位の弾正尹、蒲生 弾正尹 忠輝様、まぁワシの上役じゃな。
ルタイ皇国の国内の軍を統括する右近衛府、トップは従三位の右近衛大将、橘 右近衛大将 正成様。
最後にお主の上役になるであろう、ルタイ皇国の国外の軍を統括する左近衛府、トップは従三位の左近衛大将、島 左近衛大将 清興様じゃ」
「そんなに多く……では私は何れ程の位になるのでしょう?」
「さあの、このアルムガルド大陸での任官は、左近衛大将が仕切っておる……まぁ早い話が左近衛大将の腹ひとつで変わると言うことじゃ。
そうそう、ルタイ皇国は奴隷制度は認めておらん、今は特例で大陸では認めておるが、ゆくゆくは廃止になるのでそのつもりでな」
「弾正殿、奴隷制度は我が国の土台になっております、何卒お考え直しを。セルゲン殿もザルツ王国の者なら解るでしょう?」
「ウッド公、セルゲンに助けを求めるな。それは、ワシ等に言われてもどうにもならん、権限が無いのじゃ。
頼むなら別の……そうもっと上の者じゃな。もう考えているかも知れんが」
その時、ルタイ皇国の兵士が慌ててやって来たのである。
「ご報告します!二人の女性がこの城に向かって来ております……そのルタイ皇国の女性で乗っている馬は、スレイプニル……おそらくは左大将様の愛馬、青葉かと。
それと旗を掲げておりまして、家紋は三つ柏……それと笠が二つの家紋で……」
「柳生笠か……皆、食事はここまでだ、出迎えるぞ……ウッド公、貴公も一緒に来た方が良いぞ、さっき言った貴公の上役になるであろう左大将の娘だ、つまりは姫様だよ」
「皆の者!整列して姫様達を出迎えろ!…私の家族も呼んでこい!」
弾正殿は姫様と言ったな、何とかここで姫様を説得して、左近衛大将に奴隷制度を存続させる様に働きかけなければ……奴隷の解放など出来る訳が無い。
幸いな事に俺には息子ばかりだ、姫を口説かせて左近衛大将に取り入る事も出来る……万が一この戦にルタイ皇国が勝った場合の保険を賭けておかねばな。
「しかし見れば見るほど変な城……中州に城なんて、こんなの水攻めされれば終わりでしょう?」
「それは無理でしょうお姉様、ここは中央街道の要の城、ここを水攻めにするにはこの大河は広すぎます。水攻めの前に城門を通る橋を壊されて撤退されるのがおちです。
そして壊されれば、渡る為に大きく迂回しなければなりません、誰がそんな愚かな事をしますか?」
「そんな事、解っています……本当にいちいち五月蝿いですね」
「お姉様が無知なだけです……しかし弾正はここを落としたでしょうか?」
「まだなら私達が落とせば良いでしょう……悪魔のくせに出来ないの?」
「いえ、面倒なだけです……おや?あれはルタイ皇国の武士団、弾正は既に来ていましたか」
そう言ったパンドラの目線の先には、橋の両端に並ぶルタイ皇国の侍達が、見えてきたのであった。
「蔦の家紋、確かに弾正の家紋ですね。さすが我が島家の宿敵です、これぐらいは出来なくては」
そう言って二人はリイツ城に入城したのであった。
二人が城門をくぐると、広場になっておりそこには、ルタイ皇国の兵士とセレニティ帝国の兵士が、入り交じり珠達を出迎え、城の中へ入る門の前では珠の見知った弾正達が並んでいたのであった。
二人は馬を降りて弾正達の前に行き、珠が弾正に笑顔で言ったのであった。
「弾正、久しぶりですね……あら?少し太ったかしら?セルゲン殿もご無事でしたか」
「ワシは最近暴れておりませんでな、そうそう、こちらにおられるのは、このリイツ城の城主のジョン・ウッド公とそのご家族ですじゃ」
「お初にお目にかかります、私はジョン・ウッドでこちらが妻のメラニー、そして息子の上からキース、マッシュ、ジョアンでございます」
そう言ってジョンが紹介すると、家族は次々と挨拶をやったのである。
息子達は、白髪混じりではあるが茶髪で優男のジョンによく似ており、三人共に茶髪で優男であった。
「私はルタイ皇国の島 左近衛大将 清興が長女の珠です、こちらは次女のパンドラこれからもよろしく。
では早速ですが弾正、貴方私のこの剣とその刀を交換しなさいな」
「え?」
「聞こえなかったのですか?交換しなさいと言ったのです」
「いやいや、これはワシが帝より賜った物で……交換なんて……」
「良いから渡しなさい、帝の物は私の物です!」
「お姉様!皆様チョッと待ってて下さいね、ホホホ」
そう言ってパンドラは、珠を引きずって少し離れて耳打ちしたのであった。
「お姉様、なに考えているの?あれでは、ほどんど追い剥ぎです!しかもルタイ皇国に降った者の前であんな醜態を晒して……島家の家名に泥をつけるつもりですか?」
「た、確かに……ではどうしろと?」
「任せて下さい……1つ借りですからね」
そう言ってパンドラは弾正の前に行くと笑顔になって言ったのであった。
「すみません弾正殿、いまこちらに帝国軍主力が向かって来ている事はご存じで?」
「知ってますとも、確か帝国軍8万がこちらに来ているそうですな」
弾正がそう言った時、リイツ城の兵士に明らかな動揺が広がったのである。
弾正達のルタイ皇国の兵力が4千とリイツ城の7千を足しても1万1千にしかならない、とても8万とは戦になるとは思えなかったからである。
しかし次の笑顔で言ったパンドラの言葉は、更に驚く発言であったのだ。
「そうですね、でも大丈夫です私達が行きますので……ただいくら我が姉が強いと言っても少々不安な様で。
そこでルタイ皇国でも、武辺者で知られる弾正殿の虎徹を持っていけば、心強いと姉が申しまして、よろしければ姉のグラムと交換して頂けないでしょうか?もちろん後でお返し致しますので」
その言葉を聞いたルタイ皇国の兵士以外は全員が驚いていたのであった、もちろんジョンもその内の一人である。
何だと?いま二人で8万もの大軍を相手にすると言ったのか?余りにも無謀だ、こんな美しい美女が行けば凌辱され殺されるぞ、何故ルタイ人は止めない?
それに今、グラムと言ったのか?確かに伝承通りの剣だ……何処から持ってきたのだこの二人は。
ウッド公がそう思た時であった、何処かの兵士の声が聞こえたのであった。
「戦はお遊びじゃねえよ、ままごとは家でやってろ」
その言葉を聞いたルタイ人全員が空気の張りつめた緊張感に包まれたのであった。
ただリイツ城兵士は兵力で勝っている自分達が、一戦もする事無く降伏したのに対して不満が有り、更には他の者からすればパンドラの発言は、余りにも傲慢で無謀な発言である。
その為かヤジを飛ばす者が出てもこれは仕方がない事であったのだ。
「誰だ、今言った奴は?出てこないと全員、首をはねるぞ!」
そう言ったのは長男のキースであった。
「ありがとう、キース様」
「いえ、私の事はキースとお呼び下さい姫様」
「ありがとうキース。さて!ここで皆様に、ご提案です!先程侮辱した者か、不満のある者は出てきなさい!出て来て私と戦い、生き残れば許してあげましょう!無論、ルタイ皇国の軍も撤退してあげます!」
「姫様!」
「良いのですよキース、貴方は下がって下さい」
「しかし!」
そう言ったキースだったが弾正に肩をつかまれ下がらされたのであった。
そして出てきたのは5人の兵士であった、しかもその内の一人は巨人の血が入っているのか、かなりの大男だったのである。
「たったの5人……ではハンデをあげましょう、私は10数える間は攻撃も逃げもしません、貴殿方は好きに攻撃すればいい。
それに10数え終わっても、私は指2本しか動かしません、では始めましょう」
「バカにしおって!殺してくれる!」
「10……ほら早くしないと、数え終わりますよ……9……」
その言葉を聞いた兵士は、一斉にパンドラに斬りかかったのであった。
だがその刃は、パンドラの服に当たる手前で何かの壁に当たる様に止まったのであった。
これには5人の兵士は、目を大きく見開き驚いたのである。
「8……7……大の男が揃いも揃ってこんな攻撃しか出来ないのですか?……6……」
パンドラが妖艶な笑みで兵士達を急かすと、兵士達は焦り何度も、何度もパンドラを斬りつけたのであった。
「何故だ!何故当たらない!」
「5…早くしないと、死にますよ、4……」
「くそったれが!」
そう言った大男が斧を大きく振りかぶり、渾身の力でパンドラを斬りつけたのだが、斧の刃が砕け散っただけで、それを見た5人は最早戦意を喪失し、己のこの後の運命を悟ったのであった。
「3……あら?もう終わりですか?2…1……はぁい終了、覚悟は出来ましたか?」
誰もそんな事を言われて、覚悟を決めましたと言う者はいない。
5人は圧倒的なレベルの違いを見せ付けたパンドラに対して、お約束とも言うべき命乞いをやったのであった。
「申し訳ございませんでした……何卒お慈悲を……」
「命ばかりはお助けを」
「気概も何も無いとは、どう言う事でしょうか?相手が弱い者にしか強がれないなんて、お前達の様な兵士は、我が国には必要ございません……万死に値します」
パンドラがそう言うと、兵士達は死の恐怖でおかしくなったのか、蜘蛛の子を散らせた様にその場から逃げ出したのであった。
「本当に情けない」
そう言ったパンドラが指をパチンと鳴らせた瞬間、逃げた兵士達は胸を押さえて次々とその場に倒れ、眼や口から炎が立ち上がり次々と発火していったのである。
その光景を見ていたルタイ皇国の兵士達は無表情であったが、リイツ城の兵士達は明らかに恐怖が表情に出て、一人の兵士が言ったのであった。
「あ……悪魔だ……」
誰だ、そんな事を言ったのは?そう思ったウッド公達は兵士達を見渡したのだが、誰が言ったのか解らない。
仕方なく目線をパンドラに戻すとパンドラの姿も消えていたのであった。
「文句が有るなら面と向かって言えば良いでしょう?」
その声が聞こえた方向に全員の視線が向けられると、一人の兵士の背後にパンドラがおり、背後から後頭部を人差し指でピンと弾くと、兵士の頭が吹き飛んだのである。
「皆様に言っておきます、ご覧なさいルタイ皇国の侍達を!顔色一つ変えずにいます!この様な事で動揺し逃走しようとするのならば、その様な兵士は使い物になりません!辞めていただき結構です!」
(顔色なんて変えれる訳が無いだろうが)
(昔話でさんざん聞かされた伝説の珠様の妹だぞ、顔色なんか変えたらこっちが殺されるわ!)
(伝説の珠の妹君にそんな事を出来るはずもないだろ!)
(珠様の妹に逆らうなんて、そんな命知らずの事は出来るわけ無いだろうが)
パンドラの演説とは逆に、兵士達の思いはどうやら違った様であった。
「パンドラ様!その辺りで良いでしょう!こちらに戻って来て、少し話しませんか」
「それもそうですね」
そう言ったパンドラは弾正に言われて、空間転移を使い、ウッド公の前に行くと、皆で城内に入っていったのであった。
「いやぁさすがは姫様、まさか勇者様でございましたか!」
そう言ってエール酒を飲みながら、ウッド公は豪快に笑っていたのであった。
自分の兵士が殺されたのに、豪快に笑って酒を飲む、逆上しても良いはずなのに、このジョン・ウッドと言う男は明るくパンドラに接していたのであった。
むしろこの肝っ玉の大きい所が、后妃の弟でありながら、街道の要であるこのリイツ城を任されている所以かも知れない、そう思いながらパンドラが出されたハーブティーを口に含んで飲んでいたのである。
「お世辞は良いでしょうウッド公、私達に何か用ですか?」
「さすがは珠姫様、話が早い……では話を本題に入らさせて頂きます。
1つは奴隷制度の件でございます、ルタイ皇国では奴隷制度が違法とか……しかしこの国だけではなく、このアルムガルド大陸の経済は、奴隷制度無くして成り立たないと言っても過言ではございません。
2つ目は軍の事でございます、我等とルタイ皇国の軍では、軍法も戦術も何もかもが違います、これを何とかしないと軍として使い物になりません。
以上の事を左近衛大将様に進言したいのですが、姫様達に口添えをお願いしたいのです」
「ウッド公、そんな面倒な事をしなくても、直接言えば良いでしょう」
「いえ、しかしここからはレイクシティ迄は数日かかりますし、左近衛大将様もお忙しいでしょう」
「そんなのは気にしなくて良いんです、それにすぐに帰ってこれますよ、ねえパンドラ」
「お姉様、これはもう一つ借しですよ」
「つべこべ言わずにさっさと空間転移を開きなさい」
珠にそう言われてパンドラは、空間転移を開き、珠とパンドラそしてウッド公と息子のキースの4人で左近の元に向かったのであった。
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「で、そんな訳でここまで来たのか?」
左近は囲炉裏の間でくつろいでいる所に空間転移でやって来た4人を見据えて言ったのであった。
「誠に申し訳ございませんでした、私が無理を言ったばかりに、こんな事になってしまって!」
そう言ってウッド公は、その場で全力土下座を始めたのであった。
「ウッド公でしたかな?面を上げて下され、どうせコイツらの考えでしょう。娘達がご迷惑をかけて申し訳ない」
「いえいえ、そんな事は……」
「それよりはウッド公、先程言われておりました奴隷の件ですが、奴隷の解放は条件が難しいので現実的ではない、やはり解放は先になるでしょう。
そこでこちらから提案です、新しく奴隷は購入しない。仕事に対して賃金はキチンと支払うと言うのは?」
「ですから、それをされますと、かかるコストの上昇を招き、利益が出なくなり、潰れる商店等が出てきますし、奴隷商人は廃業しか道は無いです」
確かにウッド公の言う通りだ、コストの上昇に伴い物価の上昇……これでは民の暮らしが圧迫される。
新しい産業も無いし、奴隷の仕事に関わった者も廃業してしまうか他所への移住しかない……反乱も起きるなこれは。
「……では、奴隷の賃金ですが今は無給の状態でしょう?少しずつ毎年でも賃金を上昇させて、財産を持って良いと言う事にしてはどうだろうか?
それならば客も増えて、商店はまだ潰れる所も少ない出ないだろう。
更には奴隷は自由に主人を選べると言う事にして、それの仲介や主人や、仕事の紹介の仕事をさせるのはどうだろうか?
これならば帝も説得できよう。
ただし、違法な行為で奴隷にするのはダメだ、あくまでも本人の意志の賛同が無ければ、奴隷にする事が出来ない、これで他の者の納得は得られるか?」
「難しいでしょうが、私が説得すれば何とかなるかも知れません。
今はルタイ皇国が、税金を安くしているので賛同は得やすいかと……しかしもう少し餌が欲しいですね。
ルタイ皇国は民の暮らしを向上させたい様ですが、これだといくら税金が安くなっても物価の上昇で、帳消しになり、民の暮らしは変わらないでしょう」
「ならば人頭税を無くすのと、食料品等の税金は免除して、贅沢品や嗜好品には税金を、前の税率でかけるのは、どうだろうか?これならば高い買い物をした者ほど、高い税金を支払う事になり、税の公平を促す事ができる」
「なるほど、庶民の感情も味方に出来ますな、さすがは左近衛大将様でございます」
この男、ごますりは置いといて、内政に関してはかなり優秀な者かも知れん。
この世界で、庶民の生活を事を考える治世者は少ないだろう、義父殿は騎士丸出しの性格だし頭が脳筋だし……他に内政に優秀そうな者もいない、ここはウッド公を内政の責任者にするのが良いかもしれん、桶は桶屋にだな。
「ウッド公、このヴァルキア地方の内政を担当してみないか?」
やはりそう来たか、ルタイ皇国は軍人しか送り込んでない様だし計画通りだ、しかしここで帝国が勝ってしまっては私が反逆者になってしまう、キースを連れてきて正解だったな、キースならば長男で、体裁も悪くはないし、こちらから操る事もできる。
「大変に名誉な事ですが、私の様な年寄りではこれから長く関われる事は出来ないかと思います。
そこで代わりにこのキースは如何でしょうか?
このキースは歳は19ですが、三兄弟の長男で中でも一番の知恵者でございます、必ずや左近衛大将様のお力になるでしょう。
それにいざとなれば私や左近衛大将様の助言を仰げばよろしいかと思います」
「そうか、キースよよろしく頼む」
「キース・ウッドでございます!宜しくお願いします」
「キースよ早速だがこのナッソーに居を構えるか、レイクシティに居を構えるかどちらにする?」
「レイクシティが宜しいかと、左近衛大将様はレイクシティを中心にしたいご様子、でしたらレイクシティでの政治が一番かと思います」
「解った、レイクシティにお前の住居を用意しよう、それと秘書として勇者を一人つける。
お前ルタイ語は話せるか?」
「申し訳ございませんそれが全く解りません、ですがこれから覚えます!」
「解った、誰かルタイ語の教師を付けよう、ルタイ語を勉強し本国の朝廷と上手くやってくれ」
「はい!」
その時であった、ラナの元気な声が響いて来たのであった。
「たっだいまぁ!」
「ラナか?ちょうど良い来てくれ!お、セシルとセシリーも一緒かちょうど良いお前達も来てくれ!」
左近に言われて入って来たラナを見た瞬間、ウッド公は警戒したのであった。
ダークエルフだと?ペスパード王朝の手の者か?
「左近衛大将様、このお方達は?」
「俺の妻のラナに、俺の私兵である血盟十字軍の魔導部隊隊長のセシルと副隊長のセシリーだ。
こちらにおられるのは、リイツ城城主のジョン・ウッド公とその息子のキースだ、キースは今後ルタイ皇国のヴァルキア地方の行政を担当してもらう。
それとセシリー、お前がこのキースにルタイ語を教えてやってくれ」
「ムリムリ、ご主人様、無茶ですよ……私が人に教えるなんて……アイリスの奥様はどうでしょうか?」
「そうだな……」
「ハイハイ!私が教えるよ!」
「ダメだ、アイリスに任せる」
「何でよ!」
「お前に任せると危険な香りがする、アイリスが適任だ。
それとラナ、お前に官位が授けられる様だ、今度一緒にルタイ皇国に行って関白様に会うのでそのつもりでな……ここのパーティーみたいなのは無いから安心しろ」
「なら良いけど……」
「そんな事より今日の昼飯は何だ?」
「岩牡蠣と、その他の海鮮焼きでぇす!さっき3人でナッソーの市場に行ってきたら安かったんだぁ。
もちろん皆で食べるよね?」
「そうだな、ウッド公、キース、一緒に食べて行け」
「ありがとうございます」
「ありがたき幸せ」
二人がそう言うと、セシリーがアイテムボックスから次々と海鮮を出して囲炉裏の網の上に置いたのであった。
「すみません左近衛大将様、今のセシリー殿はもしかするとアイテムボックスを使ったのでしょうか?」
「あぁそうだが?」
「と言う事は、ルタイ皇国はパンドラ姫様以外に、二人も勇者がおられるので?」
「……最早お主達もルタイ皇国の一員なので大丈夫であろう。
パンドラとセシリー以外にも、俺も勇者だしセシルも勇者だ、ルタイ皇国では勇者は何名だったかな?確か3千人ほどいるはずだ」
「さ……3千人の勇者?そんな馬鹿な、このアルムガルド大陸でも勇者は20名もいるかどうかなのですよ。
それが3千人なんて……」
「まぁ普通は驚くわな……キースお前は戦場に出た事や殺しの経験はあるか?」
「一応は経験しておりますが」
「では無理だな」
その言葉でウッド公は全てを悟ったのである。
「まさか……ルタイ皇国は勇者の条件を……」
「ああ、発見しているだけではなく、量産も始めているぞ」
無理だ……何万の兵士を集めても、たった一人の勇者に負ける事がある、それが3千人だと?帝国は勝てる筈がない。
これはキースを差し出して正解だったな、後でこちらの要求を飲ませれば良いわけだし。
こうして様々な思いをよそに、昼食会は滞りなく終わりキースを置いて3人はリイツ城に戻り、弾正の虎徹を持った珠とパンドラはセレニティ帝国軍の主力を叩くべく、旅立ったのであった。
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左近達が昼食会をしていた頃、東の街道の外れにあるドレイヤー城の地下では、顔に袋をかけられた左平次が壁に繋がれており、拷問を受けている所であった。
そしてその拷問部屋の前では、クリスとアミリアが言い争っていたのであった。
「こんなの酷すぎます!私達は誇りある魔女騎士団なのですよ!」
「何を言っているクリス!私達は戦争をやっているんだ!拷問をやって情報を聞き出す、戦の常識じゃないか!」
「違います!いくら戦でも、誇りや名誉が無ければ、それはただの殺戮です!エリアス様も言っておられました!」
その言葉はアミリアを逆上させるに十分であった。
アミリアはおもいっきりクリスに平手打ちを食らわせて、怒りながら言ったのである。
「私達魔女騎士団は昔からこうやって帝国の汚い仕事をやって来たんだよ!騎士団の紋章の様に聖導騎士団が帝国の太陽なら、私達は帝国の闇だ!そうやって帝国に忠誠を誓って来たんだよ!
……まさかクリスあんた、あの男に惚れたんじゃ無いだろうね?」
「そんな事はありません!」
「なら良いが、あんたが惚れるのはルイス様、ただ一人だ。ちゃんとルイス様といつかは結婚しこの国の后妃になる、それがあんたの幸せなんだよ!あんたは黙って私の言う通りにすれば幸せになるんだ!解ったかい?」
「……解ってる……いえ解りました団長殿」
叩かれた頬を押さえてクリスは言った。
「じゃあ立って……今日は罰として今晩は、あのルタイ人の見張りだ解ったね?」
「……はい団長」
そう言うとクリスは頬を押さえて涙をこらえて行ったのであった。
「恐い母親だな」
「何だ、ライいたのか?あんまり良い趣味じゃ無いね」
アミリアにライと言われた頬に傷のあるこの男は、ライリーと言ってエリアスとアミリアとヒメネスの幼馴染みで、貧民からこのドレイヤー城城主まで、戦でのしあがった、知勇兼備の猛将であった。
「拷問をするのも良い趣味とは言えないがな」
「ふん、城に拷問室を持っていてよく言うよ」
「エリスの事を言われて逆上したのだろ?お前は昔からアイツに惚れていたからな。
エリスが結婚して、その腹いせに好きでもない親の紹介した男と結婚し……お前、幸せだったか?」
「ああ、幸せだったよ、だからあの子にも幸せになって欲しいんだ!」
「……俺にはそうは見えないがな」
「うるさいね、それとアイツはもうエリスじゃない、エリアスだ!反逆者エリアスだ!解ったね」
「解りましたよ団長殿、人の家庭には首は突っ込まん」
「解れば良い……ライ、すまないが今晩、娘のクリスを見張っていて欲しいんだ」
「何だ、自分の娘の言葉を信じてやれないのか?」
「女の勘ってヤツだ」
「まさかアミリーに女が残っていたとわな、これは驚きだ」
「茶化すな、私は真剣なんだよ」
「解った見張りを付けよう……逃がした場合はどうする?殺すか?」
「いや、私に教えてくれ……私の手でけりをつける」
「解った。それはそうと、エリスはナッソーにいて傭兵団の血盟十字軍の剣術指南役と言うのをやっているらしいぞ。
それに娘のアイリスはルタイ皇国の左近衛大将の妻になった様だな」
「ライ、あんた何処でそんな情報を?」
「ヒースからの情報だ、アイツもキングスベリーで今やガストン商会の若頭だ、そんな情報はすぐに入って来るさ」
「……ヒースに言ってエリアスの暗殺を頼めるか?」
「それは無理だな、ナッソーは四頭会の支配下だ、裏社会で最近のしあがって来ている、千年の宴がその四頭会に入っている。
同じ四頭会の血盟十字軍に入っているエリスを暗殺すると、抗争になってしまう、それはヒースが困るだろう」
「エリアスも厄介な所に潜り込みやがって……あームカつく!」
「ムカつくのは良いが、捕虜を殺すなよ」
「解ってるよ、たっぷりと私好みに調教してやるよ」
そう言うとアミリアはペロリろ舌で唇を舐めると、気合いを入れて中に入って行ったのであった。




