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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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ルゴーニュの敗戦

 

 左少将率いる捜索隊は、街道を少し離れた森の中でキャンプをやっていたのだが、ここでルタイ皇国軍は慢心の為か、致命的なミスを犯していたのである。


 通常は敵陣近くになると、交戦を避けたい野営の際は、焚き火等の火をつけるのは、遠くからでも目につくのでご法度である。

 しかし彼等は今までの連戦連勝の為か、完全に帝国兵をなめていたのであった。


 辺りは昼間でも薄暗く深い森で、月明かりも殆ど届かず、まさに漆黒の闇である、そんな中で火をつけるなど敵陣に近い場所では自殺行為であったのだが、彼等は慢心の為にその自殺行為を行っていたのであった。




「しかし、マジックバッグと言う代物のおかげで、野営も楽になったな」

 焚き火で鍋を作りながら源三が佐平次に言った。


「本当ですね……へたすりゃ国にいた頃より良い暮らしをしている気がします」


「本当に佐平次の言うとおりだな……しかし皆、気を抜きすぎじゃないか?ここは帝国領の近くだろ?それなのに、こんなに火を炊いて……危険だな」


「源さん心配し過ぎですよ、帝国兵が来ても、簡単に撃退できますよ」


「その考えがダメなんだ……佐平次、お前は夜襲を受けた経験は?」


「ありませんが……源さんはあるのですか?」


「あぁ、5年前だがな……相手はあの藤林 弾正様だ。あの時は俺はまだ永井家に仕えていて、弾正様相手に連戦連勝だったんだ。

 でもな、それは弾正様の策で、俺達はまんまとその策にはまり、先へ先へと進み先陣との距離が開きすぎていたんだよ。

 そこへ手薄になった本陣に夜襲を仕掛けられ……多くの者が討ち取られて負けた」


「その状況に似ていると?」


「あぁ、今の俺達は連戦連勝だ、最近はあのパナス……今はレイクシティだっけか?その戦以外はろくな抵抗も無い。

 あの時にそっくりだ……あの時もこんなに皆が浮かれて、油断していたのだ」


「源さんはどうやって生き残ったのですか?」


「明かりに目が慣れると、いきなり暗闇になった時に目が全く見えん……あの時の俺は、敵味方関係無く、気配がある者を殺して生き残ったんだよ」


「だから油断せず目を暗闇に慣らせておけと?」


「そうだ……だが今はこの鍋を食べて腹ごしらえしておくとするか。腹が減っては戦は出来ぬと言うしな」


「そうですね……肉お先に!」


「あ!お前、それは俺が大切に育てた肉だぞ!」


「弱肉強食、早い者勝ちですよ。美味い!」


「何が美味いだ!吐け、吐き出しやがれこのやろう!」


 そんなじゃれあっている二人のいる野営地のすぐ近くの暗闇に、魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の騎士達が近寄っていたのであった。


「グルシュク殿、見張りは何人だ?」


「2名づつの5組で10名です、敵の将軍らしき者は……テントの中ですね」


「解った……皆、聞いての通りだ。いつもの様に、10数える間は魔法の矢(マジックアロー)で攻撃し、その後で突っ込む」

 アミリアがそう言うと騎士達は静かに頷いたのであったあった。


「クリス、あんたは夜襲は初めてだから私から離れるんじゃ無いよ」


「……はい、団長」

 何か変だ、あの母上の口調からすると、今まで夜襲をやった事がある様に聞こえる。

 まさか本当に今までやっていたのでは?この人ならやりかねない……これが魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の正体だったんだ。


 クリスは唇を噛み締めて悔しがったのだが、母に逆らう事ができずにいたのであった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「そういやバッシュ様がこの戦が終わったら、ワインと言う酒を奢って下さるって言ってたよな」

 そう言って源三はまだ見ぬ酒の味を想像していたのであった。


「俺は、女を紹介して欲しいですよ」


「止めとけ、バッシュ様はリザードマンだぞ、リザードマンを紹介されるに決まっているさ」


「……それはムリっすね」


「だろ?女なら娼婦がいるじゃねえか」


「俺は初めてが娼婦は嫌なんですよ、何て言うか恋愛がしてみたい、みたいな……」


「何だお前、童貞だったのか?……それじゃあのナリヤに行った時に会った、クリスティーナさんはどうだ?」


「確かに良い女ですが、気が強すぎますよ。俺はもっと、こう…おしとやかな女性が良いって言うか……」


「ハハハ、おしとやかだって!ムリムリ、お前にそんな女は似合わねえよ」

 そう言って源三がお碗で佐平次を指した時だった、光の矢が飛んできて、源三の指と一緒に持っていたお碗を吹き飛ばしたのである。

 二人は瞬時に地面に伏せて、身を低くすると無数の光の矢が二人の頭上を飛んでいったのであった。


 やがて鍋が倒れ、辺りは暗闇になり煙に包まれると遠くから叫び声が聞こえたのである。

「敵襲!敵襲!」


「うっせ!んなの解ってるよ!ったく見張りは、何やってやがるんだ。

 源さん!無事ですか?」


「クソ!左手の指を数本やっちまった!佐平次!解ってるな、お互いに恨みっこ無しだ!気配のする奴は全て殺せ!」


「了解!運が良かったらバッシュ様と3人で飲みましょうや!」

 そう言うと佐平次そう言って刀を伏せたまま抜いたのであった。


 何れ程続いたのか、佐平次の頭上を光の矢が通り過ぎた後、暫くして怒号と金属音と共に血と臓物の香りが漂って来たのであった。


 始まった、敵が斬り込んできたのだ。

 そんな事を察した佐平次が身を低くしていると、数人がこちらにやってくる気配がしたのであった。


 来た!視界が全く見えない中で、ほぼ気配だけで佐平次が斬りかかったのである。

「ぐはっ!……母上……」


 ルタイ語?しまった味方か!そう思いながら佐平次は次の気配に腕を伸ばして、その鎧をつかんだのであった。


 大丈夫だ、甲冑じゃない!

 そんな事を考えながら瞬時に佐平次は刀をその者に突き立てると、大量の返り血が佐平次に降り注いだのである。

 元々が視界の効かない所での戦闘である、佐平次はそんな事はおかまいなしに、次々と斬り殺していたのであった。


 やがて佐平次が少し後退りした時であった、背中に何か人の様な物とぶつかったのである。

 マズイ!佐平次は刀をすぐに捨てて、反転すると同時にその者を押し倒し脇差しを抜いて、突き刺しにいったのだが、佐平次の本能が何かを警鐘したのか、途中でピタリと動きを止めたのであった。


 その時、煙が晴れて炎がテントに燃え移ると、周辺で燃えている明かりの中で、佐平次は思わず言ったのである。

「クリスティーナ殿?」


「佐平次?何で?」

 そう自分が押し倒し、脇差しを突き刺そうとしたのはクリスであったのだ。

 しかし佐平次は、思いもかけない人に出会った為か、戦闘中と言うのを忘れ警戒を怠ったのである。


「佐平次!バカ野郎!」

 そう言った源三が佐平次を蹴り飛ばすと、佐平次のいたクリスの上を大剣が空を斬ったのであった。


「源さんすみません!」


「バカ野郎!早く殺せ!こいつは厄介な奴だ!」


「それがクリスティーナさんなんですよ!」


「何?」

 そう言った源三が、僅かに視線をアミリアから外した瞬間だった、アミリアが一気に源三との間合いを詰めて、逆袈裟斬りで源三を斬ったのであった。


「源さん!……!」

 源三が斬られたのを見た佐平次は、刀を持ってアミリアに立ち向かおうとしたのであったが、背後からクリスに木の棒で殴られ、そのまま力無く倒れて気を失ったのであった。


「クリス、早くそいつを殺せ!出来ないなら私が殺る!」


「母上、ダメ!……すみません団長、今回は捕虜が目的の筈です、ここでこの者を殺すのは得策では無いかと思います」


「……そうだったな。おい、誰かこいつを運んでおけ!猿轡と手枷も忘れるな!」


「団長、私が行きます」


「お前はダメだ、もしも彼奴が暴れたら危険だ、他の者に任せておけ」


「しかし……」


「……解った、お前の手柄だったな、運ぶのは他の者に任せて、お前はついて行け。この武功誇って良いぞ」


「ありがとうございます」

 良かった、これで佐平次の命だけは助かった……しかし、源三……すまない。

 この後、佐平次がどうなるか薄々は感じていたものの、今はただ佐平次の命が助かった事を喜ぶクリスであった。







「殿!夜襲です!一時撤退を進言致します!」


「そんな事は解っている!しかしこう乱戦では、伝達も出来んぞ!」

 テントから出てきた左少将は進言してきた主馬首に言ったのであった。


 確かに左少将の言う通り、こんな乱戦では命令の伝達は不可能である。

 どうするかそう悩んでいると、主馬首がいきなり鍋を掴んで脇差しの背で叩き始め叫んだのであった。

「撤退!撤退だ!聞こえた者は皆、叫べ!」


 主馬首のその声が届いたのか、戦場の至るところで「撤退」声が響いたのであった。


「ね、こうすれば簡単でしょ?」


「……何だか無性に腹が立ってきた。

 主馬首……いや安勝、お前が撤退の軍をまとめろ、俺は志願者のみで殿をやる」


「殿!」


「うるさい!早く行け!……誰がここで死ぬと言った?早くしろ!」


「……ごめん!殿と一緒に殿を志願する者は、殿に続け!他の者は俺についてこい!」

 さすがに歴戦の勇者である主馬首は、そう言うと迅速に軍をまとめて、撤退を始めたのであった。




 左少将についてきたのは、旧三好家の家臣を中心とした100名ほどであった。

 彼等はよく戦い、本隊への追撃を許さずに徐々に後退して時間を稼いだのであったが、魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の追撃は激しく次々と殿部隊は倒れて行ったのであった。


 そして、夜明け近くになると、その数は既に半数になっていたのである。

「ハァハァハァ……何れ程生き残った?」


「およそ50名ほどでございます」


 そんなに死んだのか?俺が感情に走って無駄に兵を殺してしまった……クソ!

 左少将は肩で息をしながら悔しがっていると、聞きたくは無かった報告が来たのであった。

「報告!敵の追撃部隊が見えました!」


 来たか……もう安勝達は村に到着して左大将様に援軍の連絡をやった頃だろう……ここが潮時か。

 そう思った左少将が決意を込めて生き残った者に思いを言ったのであった。

「本隊はもう村に到着した頃だろう、そろそろ俺は逃げるのは疲れたので、このまま斬り込むことにするよ。

 他の者はよくぞここまで俺を支えてくれた礼を言う……」

「左少将殿、話している所は悪いのだが、1人で斬り込もうと考えてませんか?ここまで来たんだ、一緒に地獄までお供しますぜ!なぁみんな!」


『おお!』

 そう言うと殿部隊は雄叫びを上げたのであった。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






 左少将達が激戦を繰り広げていた頃、左近はレイクシティの屋敷の応接室でゲハルト達と同盟の詳細を話し合うために集まっていたのであった。

 この頃になるとゲハルトは、おばば様のみ連れて左近の元にやってくる様になっていたのである、セルゲンは弾正と一緒だから仕方がないのだが。


 そんな中で、扉がノックされてラナが静かに入ってきて左近に耳打ちしたのであった。

「旦那様、東部方面隊の家長 主馬首様から緊急の通信が来たよ。

 我等、ルゴーニュ村付近の森で帝国軍に夜襲を受けて敗走せり、至急ルゴーニュ村迄、援軍を送られたし。

 旦那様、どうする?」


「解った、手を打っておこう」


「左近よ何かあったのか?」

 平静を装っていた左近にゲハルトが容赦ない質問をぶつけたのであった。


「いや、少しトラブルを起こしただけだすぐに修正出来る」


「それは良かった、ワシはてっきり何処かで敗戦でもしたのかと思ったよ」


 ゲハルトめ、あの顔は何が起こったのか予想してやがるな……しかし、夜襲か。帝国はがむしゃらになってきたと言う事だな、他の部隊にも警告しておくか。

 しかし聖龍騎士団の動きを追っていて、魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の動きまでは把握しきれていなかった。

 それに勇者も1人も連れて行かせて無いとは、完全に俺のミスだ。


 《何かあったのか?》


 《正成、左少将達が敗走したらしい、ルゴーニュ村に至急兵を5千と勇者を2名ほど送ってくれ》


 《了解した、しかしこの事は……》

 《あぁ、今はこの敗走がバレれば交渉は不利になる、薄々は気が付いて要るだろうがバレない様にな》


 《あぁ任せろ》

 そう言うと正成は別の者にスキルの天話で、この場にいながらにして指示を出していたのであった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







 魔女騎士団(ナイトウィチーズ)と殿部隊が激しい戦闘を繰り広げている中で、アミリアと左少将はお互いが引かれ合うかの様に、自然と一騎討ちの様に対峙していたのであった。


「あんた、この部隊の将軍かい?私はこの魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の団長のアミリア・マクレガーって言う者だ」

 そう言ってアミリアは、女性には似つかわしくない大剣を肩に乗せて、左少将を睨み付けて言ったのである。


「この乱戦の場で名乗りをあげるとは、何と豪気な女性か……そちらが名乗るならこちらも名乗らねば、名家の三好家に傷が付くと言うものだな。

 私はルタイ皇国東部方面軍隊長で左近衛府所属、三好 左近衛少将 清信だ」


「聞いたことがある、ルタイ皇国の武将は官位を持つと、名前の間に官位が入るって……なるほど鎧からして上条とは違う訳だ」


 そのアミリアの言葉は、左少将の逆鱗に触れたのであった。

「貴様!業政をどうかしたのか!」


「何だ知り合いか、あの上条達は私の部下を50人ほど道ずれに死んでいきやがったよ。

 本当に頑固なオヤジだったな」


「よくも俺の家族を……貴様!」


「おやまぁ、あんたの身内だったのかい、じゃああんたも、しぶとい様だね」

 そう言ったアミリアは一気に左少将との距離を詰めて、大剣を薙ぎ払ったのであった。


 しかしいくら激昂していてもさすがは左少将である、身体が瞬時に動き身を低くしてその大剣をかわしたのだが、大剣はその軌道を変えて左少将の頭上に落ちてきたのであった。


 決まった。

 そう確信したアミリアの目には信じられない光景が、砂塵の中から出てきたのであった。

 左少将は、アミリアの大剣を左手で持った脇差しで受け止めていたのである。


 バカな!この魔法で強化した身体の攻撃を防いだだと!

 そう思った瞬間、残った刀でアミリアの胴を狙った左少将の水平斬りが、アミリアを襲ったのであった。


 マズイ!

 そう思ながら、背筋に寒気を覚えたアミリアは、左少将を蹴り距離を離したのである。


 だがアミリア渾身の蹴りは、距離を離しただけで左少将を倒れさせるに至らなかったのであった。

 更に左少将の目は面貌の下から、冷たい殺気を放ち、アミリアはこんな目をする者は初めて見たのであった。


 こいつ何て目をしてやがる……それに隠す気がない様な殺気、私はヤバい奴を本気にさせたかも知れないね。

 仕方がない奥の手を使うか。

 そう思ったアミリアは、小さな声で呪文の詠唱に入ったのであった。



 何だ?一体何を話している?

 左少将はアミリアの小さな声で話しているのが詠唱と解らずに、何か罠でもあるのかと警戒していた時であった、アミリアの大剣が一瞬だが揺れたのであった。


 何だ?何が起こったのだ?そう左少将が思った瞬間、アミリアが笑みをこぼして言ったのであった。

「全く文化が違うって、やりいくい事とやり易い事が入り交じっているね。何ておめでたい奴なんだ、詠唱が終わるまで待っててくれるなんてさ!」


 そう言ったアミリアは、間合いを詰めて左少将の頭を狙って水平斬りを放ったのであった。



 大丈夫だ、かわせる!

 そう思って後方に退いた左少将の頭に強い衝撃が走り、兜がへこんだのであった。


 何故だ?かわせたのに……クソ!兜が曲がって視界が悪い。

 そう思った左少将は瞬時に兜を捨てる決断を下し、兜をその場に捨てたのであった。


「いいね、その思いきりの良さ。しかし顔の仮面が邪魔だね!」

 そう言うとアミリアは、次は左少将に向かって下から大剣を斬り上げたのである。


 大丈夫だ、さっきは目測を誤っただけだ。

 そう考えた左少将がまたしても後方に下がり大剣をかわした瞬間、左少将の面貌の左側が斬れて左目がアミリアの大剣で斬られてて赤い鮮血が吹き出たのであった。



「おやまぁ、その仮面の下は、中々の男じゃないか、傷物にしてすまないね」


 一度目なら未だしも、二度目は完璧にかわしたの筈だ……何故だ?。

 左少将は左目の視界が効かなくなっていたが、そんな事は気にせず大剣の間合いの事を気にしていたのであった。


「不思議そうな顔付きだね、何故自分が斬られたのか解らないようだね。

 安心しな、私は殺す前にネタばらしするバカ野郎じゃ無いよ、あんたが死ぬ瞬間に教えてやる」


「ではそのネタばらし……聞くことは最早無いな」

 そう言って左少将は、自ら目を瞑り視界を完全に遮断したのであった。


「ああ?なめんじゃ無いよ、クソガキが!」

 その左少将の姿を見たアミリアは激昂し、それと同時に大剣に電気が流れたのであった。


 そうアミリアは職業が勇者では無かったのだが、特殊スキルの【雷撃】を持っていた為に雷系の魔法が使用できたのであった。

 これこそがアミリアの真の奥の手である。


 激昂したアミリアは電撃を帯びた大剣を容赦なく振り回し、左少将の首を目掛けて水平斬りを放った瞬間、左少将が、腹の底から出た様な声を出してアミリアに向かって行ったのであった。

「オオオオオ!」


 アミリアとの距離を詰めた左少将は、左から来た大剣を電撃を受けても怯まずに、左手で下から殴りあげると、そのまま流れる様に脇差しをアミリアの肩に突き立て、更には右手に握った打刀でアミリアの胴を薙ぎ払ったのであった。


 カン高い金属音と同時にアミリアが受けた攻撃は、鎧の強度に助けられ致命傷には至らなかったのだが、まだ左少将の目が死んでいない事に気が付いたアミリアは、左少将に頭突きを食らわせた直後に、大剣から片手を離してぶん殴ったのである。


 通常ならば耐えていたであろう左少将も、さすがに電撃を食らった後に頭突きとパンチである、綺麗にその身体を宙に浮かせて吹き飛ばされてしまったのであった。


「この野郎、可愛い顔して何て攻撃をしやがるんだ……」

 そう言ってアミリアが身体に突き刺さったままの脇差しを抜いた時であった。


「団長!あれ!」

 アミリアが騎士が指差した方向を見ると、ルタイ皇国の騎馬隊がこちらに向かって来ており、その背後の砂埃は大軍が背後にいるかの様に大量に舞っていたのであった。


「チッ、ここが潮時か……全軍撤退!」

 アミリアの号令で騎士達が一斉に馬に乗ると、帝国領の方向に向かって逃げ出したのであった。


 ルタイ皇国の侍は、助かったと皆がホッと胸を撫で下ろしたのだが、この男だけは違ったのである。


「待て、アミリア!上条の……上条の……」

 刀を支えに立ち上がった左少将はそのまま力尽き、その場に倒れ込んだのであった。


『殿!』

 左少将の薄れ行く意識の中で見た景色は、旧三好家に仕えていた者、そうでは無い者が分け隔てなく左少将の元に集まり、泣いている顔であったのである。






 ここはどこだ?ベッドか?確か俺は帝国兵のアミリアと一騎討ちをやっていて……左腕の感覚が無い……斬り落とされたのか?身体も動かないし……俺は一体どうしたのだ?

 目の前に見える木の天井を見詰めながら、左少将は冷静に状況を把握しようとしていたのであったその時である、扉が開いて白衣を着たダークエルフの男性と、虎の獣人の女性が入ってきたのであった。


「お、気が付いたか。魔女騎士団(ナイトウィチーズ)のアミリアと戦ったんだって?お前さんよく生きているな。

 おいシャノン、主馬首さんを呼んできてやってくれ」


「かしこまりました」

 そう言ってシャノンと言われていた虎の獣人の女性は出ていったのであった。


「ここはどこだ?」


「ここか?ここはルゴーニュ村の外れにある、俺の診療所だ。そして俺の名前はドミニクってんだ、皆はドクって呼ぶから、お前さんもそう呼んで良いぞ。

 それとさっき出ていったのは虎人(ウェアタイガー)のシャノン、俺の奴隷でアシスタントだ……手を出すなよ」


「ドク……俺は一体……」


「お前さんは魔女騎士団(ナイトウィチーズ)の団長のアミリアってのと戦って気を失い、ここに運び込まれたって訳だ」


「何れ程、時間がたった?」


「半日って所だな。それにしてもよく死ななかったものだ、左腕の毛細血管が全て破裂して、拳も砕けている、左目は失明は免れたが、顔の傷は残ってしまう、すまんな。

 それと電撃を食らったのか、内臓のダメージが1番酷い、暫くは流動食になるぞ、味は保証しないからな」


「ハハハ、覚悟しておくよ。所で他の兵も治療してくれたのか?」


「あぁ……残念だが助からない者が結構いた……力が及ばなくてすまない」


「いや、こちらこそ感謝する……今回の敗戦は俺の責任だ。どうやって助かったのか解るか?」


「あぁ主馬首さん達が戻って来るなり、村人に木の枝を馬の尻尾にくくりつけさせて、砂塵を舞わせながら500人ほどで出撃したんだ。

 遠目で見たらあれは大軍に見えただろう、本当に頭のいい人だよ」


「村人に手伝ってもらって……これはルゴーニュ村の全員に借りができたな」


「やめてくださいよ借りだなんて。ここの村の皆は、あんた達が来てから希望が出てきて明るくなったんだよ。

 何せ今までが、税金でかなり搾り取られてただけじゃなく、兵士が来れば女は凌辱され、食料や金品を全て持って行かれ、逆らえば殺される……まさに生き地獄の様だった。

 でもお前さん達は、税金もかなり安くし略奪もしないからな、村を代表して礼を言わせてもらう。ありがとう」


「そうだったのか……」

 そう言って左少将は涙が溢れて、言葉が出なかったのであった。


「殿!ご無事で!」

 そう言って勢いよく泣きながら病室に入って来たのは、主馬首であった。

 主馬首は左少将に抱き付き、無事を喜ぶとドミニクとシャノンは二人っきりにしてあげる為に、ソッと病室を後にしたのであった。







 左少将は診療所で目覚めた頃、レイクシティの左近の応接室で話し合う左近と正成がいた。

 本日ゲハルトとの連合の交渉は、本拠地レイクシティの法の話になっており、先ずは各国の屋敷には各国の領土とし、その国の法律が適応される事が決まり、レイクシティの他の場所の法律はルタイ皇国の法律が適用される事になったのだが、ここで1つの問題が出てきたのであった。

 そう奴隷の問題である。


 ルタイ皇国は、以前は奴隷制度があったのだが、今の帝が即位してから廃止にされたのであった。

 これにはルタイ皇国の人民は、奴隷になることも使用する事も禁止し、各国の奴隷をルタイ皇国に入国禁止にしたのであった。


 ここで1つの問題が出てきたのであった、そうセシルとセシリーの二人の問題である。

 今まではルタイ皇国の外での事であったので、認められていたのだが、今回の取り決めが正式に始動すれば、ルタイ皇国に所属する左近の行為は違法になってしまう。

 その事を懸念して左近と正成が話し合っていたのであった。


「清興どうする?俺は奴隷の事が全く解らないが、この事は連合内部に出来るであろう敵対勢力に利用されるぞ、奴隷を解放する事は出来ないのか?」


「以前、アデルが言っていたのだが、俺の奴隷で無くなるには、3つの方法が有るらしい。

 主人か奴隷が死ぬ事、奴隷商人に売り飛ばす事、貴族か武将との結婚だ……2番目は二人は拒否するだろう残るは……」


「殺すか?」


「確かにそれは選択肢に入れておいた方が良いだろう、二人の能力は優秀過ぎる」


「そうだな……ちょっと待て、他の貴族や武将との結婚や離婚した場合はどうなる?」


「それはアデルにも聞いて無かった……しかしあの二人が敵になる事はルタイ皇国の痛手だ、離婚は選択肢から外そう」


「そうだな、自由にするには彼女達は余りにも優秀で知りすぎた……俺は適当な武将や貴族を見繕うから、清興はアイリスさんと、ラナさんを説得して結婚の方向に持っていってくれ。

 彼女達はザルツ王国の貴族、スターク家の娘だ、お前との結婚が決まれば我等とザルツ王国の絆は深まる」


「解った、何とかしよう」


「それと問題はこのゲハルト様の言っていた、屋敷のメイドと言うやつだな、ルタイ皇国の侍女では各国に示しがつかない様だ、ルタイ皇国の誇りがかかっている、文化が違うからと言ってルタイ皇国が笑い者になるのは避けないと」


「それは大丈夫だ、俺に全て任せてくれ、ただ他の国と違って奴隷のメイドではなくちゃんと雇う訳だから給料等の費用は他よりもかかるが良いか?」


「頼むよ、そこはこのアルムガルドに来ているお前が詳しいだろう、予算は俺がぶんどってやる」


 イエス!これで俺の理想のメイド隊が堂々と作れるじゃないか……男のロマンだ。

「ありがたい、頼むよ。それと1番気になるのは帝都ナリヤを飛び立った聖龍騎士団の目標だ」


 そう言うと左近は地図を広げたのであった。

「ナリヤと飛び立った聖龍騎士団は、今は西の国に入っている。これはどう思う?ここに来て帝国は西の国と戦をするつもりか?それともこのまま大回りをして、蔵之介を叩くか、弾正を叩くか、このレイクシティに来るか……どう思う正成」


「おそらくは、西の国に入ったのは我等にそう思わせたいからで……どうやら帝国は、近くに我等の間者が見張っている事に気付いている様だな。

 8万もの大軍勢が中央の街道だけで侵攻してくるのは変だと思っていた」


「変と言うのは?」


「普通は8万もの軍勢を1つの街道だけで進軍させるのは理にかなっていない。

 そんな事をすれば速度が落ちて敵に察知してくれと言っている様なものだ、通常ならば何個かの軍勢に分けて幾つもの街道で進軍させる、その方が速いからな。

 それをしないのは我等にその情報を掴ませて戦意を削ぐのが狙いだろう……では何故、聖龍騎士団が西に?

 そうか!解ったぞ!敵は勇者の事を知らない、ナッソーから補給ルート、ザルツ王国からの補給ルートが在ると思っているんだ。

 だから左少将の東が狙われたんだよ!この2つを押さえられると我々は孤立するように見える、そこへ8万もの大軍だ、アッサリと降伏するだろう……普通の国ならな」


「なるほどそれならば、この西に向かった聖龍騎士団は西からすり抜けてナッソーを強襲するわけか。

 バッシュに言って警戒させねばな……しかしピンチはチャンスだ」


「あぁ、我等が警戒すべきは、この聖龍騎士団の機動力。左少将が東の帝国軍を撃退し、次はパンドラ殿が主力を潰せば……」

「聖龍騎士団は袋の鼠だな」


 そう言うと左近と正成はニヤリと顔を合わせて笑い、今後の勝利を確信したのであった。







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