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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
42/464

厄災

 


 パナスを占領した左近達は、初日は生き残っている者の掃討戦をし次の日は兵を休めるために休日としたのであった。

 しかし、その間に左近にはやることがあったのである、そう戦力の補強でもある、悪魔召喚であった。


 左近達はその為に、城内の地下に在る金蔵の扉の前にいたのであった。


「それでは開けます」

 クロエの合図で、クロエとリーゼロッテが金蔵の大きく分厚い扉をゆっくりと開けると、そこには山積みにされたお金や財宝があったのである。


「よくもまぁ、こんなに貯めたものだな」

 思わず左近は呟いたのである。


「これはざっと数千万シリングはあるで」


「どうだフレイア、いけそうか?」


「楽勝やろ、こんなにお金があれば余る位やわ。さて例の物は持ってきたか」


「ああこんなので良いかな?」

 そう言って左近はアイテムボックスから一振りの剣を取り出して、お金の山の上に置いたのであった。


「そ、それはもしかして、あの硬いドラゴンの鱗さえも難なく斬れると言う、伝説のドラゴン殺しの宝剣、ドラゴンスレイヤーでは御座いませんか!本当にその様な伝説の宝剣を媒体にされるのですか?」


 ん?義父殿は何でそんなに驚いているんだろう?確かにこの剣の名前はドラゴンスレイヤーだけど、スキルが必中しか付いていない剣だったので持ってきたのだが。

「ダメですか?」


「い、いやダメと言うわけでは……いやしかし、これはこの世の全ての者の宝な訳だし……」

「父上!ウジウジしないでください、男らしくないですよ!それに比べて旦那様は、その様な伝説の宝剣を簡単に媒体に手放すなんて、何て男らしい事でしょう、さすがは私の夫です」


「いやしかしだな……」

「しかしもへったくれも御座いません!父上の事が嫌いになりますよ!」


「すみません……」


 アイリスよ、思いっきり勘違いしているぞ、俺はそんな宝剣とは知らなかったし、ステータスだけで考えただけなんだが……義父殿すまない、ここはそう言う事にしておくとしよう。

 しかし父親が自分の娘に甘いのは何処の世界でも同じか、あの訓練で鬼の様だった義父殿も娘の前では子犬の様ではないか……俺も珠の事があるから気を付けよう。


「話はついた様やな?」


「あぁ、フレイア頼む、やってくれ」


「チョッと待ってな、魔方陣を書かなあかんねん」

 そう言うとフレイアは、山積みになった財宝を中心に、地面に魔方陣を描き出したのであった。


「フレイア様、魔方陣は自分で書かないといけないの?」


「そういやラナは悪魔召喚師(デビルサマナー)の職業を持っていたな。下位の悪魔召喚は別に魔方陣は要らんよ、でもな上位の悪魔は違う、魔方陣は絶対に必要や。

 この魔方陣は悪魔召喚で使用する目的もあるけど、本命は悪魔を魔方陣の外に出さない為の物やねん」


「悪魔を魔方陣で封じ込めるの?」


「封じ込めるは少し違うな。正確に言うと魔方陣の中を魔界や地獄と直結して、出てきた悪魔と交渉するんやけど、中には呼び出された瞬間に、術者を殺そうとする危ない奴もおる、それを防ぐ為にも魔方陣を使い、魔方陣の外には出れん様にするんや。

 これなら、魔方陣が消されない限り、悪魔が外に出る事は無いが……消すなよ、これはネタちゃうからな」


 いやいやフレイアよ、いくらなんでも命を賭けてのボケは誰もやらないだろう。


「ふーん、じゃあこの文字は何?魔族語?」


「ちゃうちゃう、これはウル語って言って遥か昔に失われた言語や、このウル語は魔方陣の中に書くことによって、その魔方陣を強固にするんや……今度ウチが悪魔召喚とか教えたろか?」


「マジ?」


「マジや、左近さえ良ければやけどな」


 確かにフレイアならば魔術に精通しているので、普通の人間よりはよっぽど信頼出来るし安全であろう。

「ラナ、フレイアに魔術等を教えてもらえ」


「やったぁ!んじゃこれからは師匠って呼ぶね。宜しく師匠」


「よし出来た。んじゃラナ、師匠からの最初の命令や、ここの部屋から左近とウチ以外の全員を外に出てんか。

 リーゼロッテあんたもや」


「え~!見せてくれないの?」

「私もですか?」


「せや、ウチと左近以外の全員や。理由はこの魔方陣は物理的な攻撃を防いではくれるが、精神的な攻撃には無力や。

 精神攻撃に打ち勝つには、その個人の強い精神力が必要やねん、ウチは大丈夫なのは勿論の事やけど、左近はウチのデスの魔法を全部無効にした実績を持っている、この中で確実に大丈夫であろう者は、ウチらだけやねん。

 それにもし精神攻撃でその者が死ぬだけならまだしも、乗っ取られでもすれば、この世界にそんな悪魔を解き放った事と同じことになるねん」


 マジかよ……今更、甲冑のおかげとは言えないし……兜をかぶってフル装備で挑むことにするか。


「御館様、宜しいので?」


「ああ、クロエ皆を外に出してくれ」


「……かしこまりました、何かあれば呼んで下さい、直ぐに駆け付けます」


「あぁ解った、頼むよ」

 左近がそう言うとクロエに促されて、左近とフレイア以外の全員が出ていったのであった。




「アイリス、チョッと良いか?話がある」

 扉を出るなり、エリアスがアイリスに言ったのである。


「ここでは出来ない話ですか?」


「あぁ、私達親子の話なんでな」


「解りました。ラナすぐに戻ると思うから何かあった時は、念話してちょうだい」


「ほいほ~い」

 ラナがそう言うと、二人は地上に向かって出ていったのであった。


「アイリスのお父さんが話って、何だろうね?」


「……奥様、大事な話の様なので、邪魔はダメです」


「せ、セシルも意外と鋭くなってきたね」


「……奥様の行動は単純なので」


「それ誉めてないし」

 そんなバカな事を言いながら、残るものは悪魔召喚が終わるのを扉の前で待っていたのであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「行ったな、では始めようか?さっきも言ったけど、精神系の攻撃があるかも知れんから、気を抜きなや。

 それと交渉するのは、契約をする左近本人がやらなあかんねん、はめられなや」


「解っている、始めてくれ」


「じゃあ先ずは契約者の血液、つまりは左近の血が必要やねん。あの財宝の山に左近の血を落としてんか」


「量は?」


「大量には要らんけど……お猪口一杯位かな。まだ召喚しないから魔方陣に入っても大丈夫やけど、消さない様に気を付けてや」


「解った」

 そう言った左近は、言われた通りに財宝に近付くと、脇差しを抜いて手のひらを斬ったのである。

 すると不思議な事が起こったのであった、左近がギュッと手に力を込めると、財宝に落ちるはずの血が、空中で丸い血液の塊になったのである。


 固体?いや液体のまま空中に浮いている、魔方陣の力なのか?

「フレイア、これは?」


「大丈夫や、魔方陣の力でそうなってるだけや、そこの血を中心に悪魔が出てくるねん。

 もうそろそろええやろ、こっちに戻って」


「解った」


 そう言って左近が戻ると、フレイアは呪文の詠唱に入ったのであった。

「来たれ、闇を支配する者よ。

 汝、闇に生を受けし者、昼の敵、闇の友にして伴侶よ、狼の遠吠え 流された血を喜ぶ者よ、暗闇の中、屍の上に君臨する者よ、数多の人間に恐怖を振り撒きし者よ。

 千と一夜の顔を持つ月の庇護の元に、我と今契約を結ばん!」


「……終わりか?」


「終わりや」


「何も出てこないのだが……」


「知らんがな、条件も魔方陣も詠唱も完璧やねんから」


「何か忘れている事は無いか?そうだ、魂はどうだ、魂を使うんじゃ無かったのか?」


「魂は契約の報酬やねん、呼び出す今は必要ない……何でやろ?」

 そう言って左近とフレイアが不思議がっていると、急に金蔵が音を立てて揺れだしたのであった。


「じ、地震か?」


「いや、やっと来たわ。ホンマにミスったのかと思ったで、待たせよってに」


 フレイアの目線の先には白で描かれた魔方陣が赤く光を発し、積み上げられた財宝が、徐々に溶けていき黒い煙になって蒸発しているかの様であり、室内に卵が腐った様な臭い、つまりは硫黄の臭いがしてきたのであった。

 溶けているなら熱い筈なのだが、初夏なのに室内はかなり寒い、しかし左近からは冷や汗が止まらない状態だったのである。



 やがて透明の筒に充満したかの様に、黒い煙が魔方陣内部に充満していったのであった。

「左近、これからは何があってもビビりなや。その僅かな心の乱れも突いて気よるんでな」


「ああ」


「グァウ!」

 そう言っていきなり煙の中から現れたのは、髪の毛も目も無く口だけの焼けただれた皮膚の人間の様な生物であったのであった。

 その生物は魔方陣の外に出ようと、こちらに向かって来るのだが見えない壁にぶつかり、出れなかったのである。

 そして何か見えない壁が在るのを確認すると、その生物は何度も何度も頭を打ち付けたのであったのだが、魔方陣はそんな攻撃でも破れなかったのであった。


 良かった、警戒しておいて。こんなのが配下になるのか?絶対に外に出したらダメな奴だろこれは……知性の欠片も無いただ本能に従っているだけだ。


「なるほど、こんな下級悪魔では、心を乱さぬか」

 そんな声が聞こえると、その生物はいきなり爆発し血と臓物を撒き散らして、充満している煙と一緒に一気に集まりだしたのであった。


「やっと来たか」

 フレイアがそう言うと煙の塊から声が聞こえたのであった。


「我を呼び出したるは、そなた達か?」

 何だこの声は、ロボットの様な声だ。


「せや、あんたと契約をしたいと思ってな」


「契約を?誰かを殺したい、富や名声が欲しいと言った所か?」


「微妙に違うな、俺の名前は島 左近衛大将 清興、俺の配下になって欲しいのだよ」


「ほう、報酬は?」


「新鮮な取れたての魂を約7万」


「なんと、そんなにもか……ふむ、そちらの人間は何だか面白い職業を持っているな、こっちの女は使徒ではないか。

 なんだこれは?神の策略か?」


「それは大丈夫だ、もしも神と戦う事になったら俺はお前の味方につこう」


「面白いな人間よ、人間の分際で神に抗うと言うのか?」


「そうだ。俺は俺だ、神だろうが悪魔だろうが気に入らない者の下にはつかん」


「ハハハ、気に入ったぞ人間よ、その考えこそが悪魔の思考である。

 では契約の条件だがこの書類に書いてある条件で良いかな?」

 そう言うと煙の悪魔の前に紙の山がドサッと落ちてきたのであった。


「じっくりと読むが良い」


 ダメだ、読むためには魔方陣の中に入らなければならない、これは罠だ。

「俺はそんなめんどくさい事はしない事にしているんだ、口頭で決めるとしよう」


「良いだろう。では私は誰の下につけば良いのだ?」


「俺の血で召喚したのだ、勿論俺になる。お前の条件は?」


「了承した。私の条件はお前とのスキルと過去の記憶の共有、私が殺した者の魂を頂く事でどうだろうか?それとこの契約はお前が死んだ時点で終了し、私は再び地獄の城に戻る」


 スキル共有か良いのか悪いのか解らんな、魂をくれてやるのは問題ないし、俺が殺されない限りは永遠に俺の配下になるのが続くが、今は黙っていよう。

「良いだろう、少し質問だがその形態がお前の真の姿か?」


「それは違うな、私の真の姿はお前達人間にそっくりだ、その姿が良ければそうするが?」


「ではそれで頼むよ、それとお前は俺の血でこの世に降臨するんだ、と言う事は、俺の子供と同じことになる、これからはお前の事を俺の子として、家族として扱うが、良いか?」


「フハハハ、人間よ面白いな!この私を子供とはな。良いだろうお前と居ると楽しそうだ、いや親にお前は変だな、お父様で良いかな?」


 何だかこの声で言われると、ロボットに言われている様で変な気持ちだ、ゴリマッチョみたいな奴なら嫌だな……そんなのにお父様と言われると……考えたくない、そうだこれは考えるのはよそう。

「良いだろう、家族だからな。それと俺の許可無く殺しは禁止だ、もちろん裏切りもだ」


「了承した。これで交渉は終わりだ、魂を頂いた時点で契約成立とし、お父様を私の父として絶対の忠義を誓うとしよう」


 意外と簡単だったな、まぁ気に入ってくれている様で楽に交渉出来たって事かもしれんな。

「じゃあフレイア魂を渡してくれ」


 フレイアが頷くと、悪魔の頭上に青白い光が発生しやがて大きな玉となり、悪魔の体内に入っていったのである。

「オオオオ!これはむさ苦しい戦士の魂も有るが、女子供もあるではないか!なんと美味な事!やはりお父様は私の好みを解っている、これからは楽しくなりそうだ」


 あれ?何だか声が女性の様になったぞ、もしかして女性であったのか?……おばば様の様じゃ無いことを祈るか。

 左近がそんな事を思っていると、徐々に煙が人形となり、長い黒髪の美しい十代後半位の女性になったのであった。


「……嘘だろ」


「やっぱり醜いですよね……こんな私ですし、お父様の子供として接する契約……反故にするか?」


「いやいやそうじゃないんだ、なんと言うか美しすぎるんだ。なぁフレイア!」


「いやホンマに綺麗過ぎるやろ……娘で良かったぁ」


「まぁ俺の名前は、既に言ったな。こっちの赤毛の女性はフレイア、今はガルド神魔国で魔王をやっている、所でお前の名前は?」


「私の名前?あぁ私に名前等は無いですよ、この世界に召喚されたのは3度目ですが、最初に召喚された時はただ厄災と言われました。

 原初の悪魔に対して酷くないですか?敬意もへったくれもない」


「厄災……おとぎ話はホンマやったんや」


「おとぎ話?」


「せや、かなり昔は人間の数は少なく、また文明もそんなに発達して無く、エルフやドワーフと言った、亜人達がこの世を支配していてん。

 そんな中で一人の人間が悪魔を呼び出して、亜人達を皆殺しにして自分達人間がこの世を支配しようと考えたんやけど、その悪魔は呼び出した人間達を殺して亜人達も全て殺して回ったんやけど、神様がその悪魔を何とか封印してん。

 んで元々繁殖能力が高かった人間がこの世に一番数が多くなり、今の世界になったと言う事やねん。

 そして人々はその悪魔の事を、ただ厄災と呼ぶことにしたって話や」


 そんな奴はヤバイじゃねえか!危うく姿に騙される所だったぜ。

「じゃあ、そんな名前で呼んだら、誰もが素性を知ってしまうじゃねえか!……厄災……厄災か……じゃあ今度からお前の名前はパンドラだ、パンドラと名乗れば良い」


「パンドラ……素敵な響きですね、気に入りました私の名前はパンドラと致しましょう。

 では、そろそろこの魔方陣を消して、契約の続きをしませんか?」


「あぁ、共有の話か解った」

 大丈夫だよな?フレイアは悪魔は契約が絶対と言っていた、ならば魂を渡した時点で契約は成立した事になる……気にしすぎか。


 そう思いながらフレイアをチラリと見ると、フレイアも左近が言わんとしている事に気が付いたのか、軽く一度頷いたのであった。

 左近はそれを確認すると、魔方陣の一角を足でかき消してパンドラの近くに寄ったのであった。


「かき消して躊躇すること無く近付いて来るとは、悪魔を信頼しきってませんか?」


「悪魔の契約は絶対だ……だろ?」


「フッ確かに……お父様の様な人間は初めてだったもので。では始めましょうか」

 そう言ったパンドラは左近の顔に両手を添えて、額を優しくゆっくりと合わせてきたのである。


「【接続(リンクス)】」

 パンドラがスキルを発動させると、悪魔のスキルとは思えない暖かな優しい光に二人の額が包まれたのであった。


 やがて光が収束し消えると、パンドラは左近から離れて目を閉じて、こめかみに指を当てて言ったのであった。

「パーヴェル……この者がお父様の敵でございますか……確かに強い、この者は少々厄介ですね……この魂は!ほう、そうでしたか。

 なるほど、帝のスキルが暴動しかけていると……これで私を呼び出した理由が解りました」


 どうやら俺の記憶を見て、状況を確認している様だな……ん?記憶を見て?

 左近がそう思った時であった、急にパンドラの眉間にシワが寄ってとんでもない事を言い出したのである。

「何ですかこれは?……情けない、私のお父様ともあろう御方が、薬に頼ろうなどとは……何と低俗な!コスプレとはなんですか!」


 やっぱり!パンドラにはアイリス達とのプレイの内容が見えているんだ!そうか、記憶の共有って……ヤバい、かなり恥ずかしい。

「パンドラ、記憶を見るのはそれくらいにして、皆に紹介たいのだが……」


「……それもそうですね、私の方はお父様の記憶で名前等が解りますし、私だけの紹介で良いでしょう」


「そうか、じゃあ皆を呼んでくるよ……痛っ!何だフレイア?」


「チョッと待ち、薬って何やねん?コスプレって何やねん?」

 左近の耳を引っ張ったフレイアの目には明らかに嫉妬の炎が出ていたのであった。


「いや、これには訳があってな……」


「訳が?薬に関しては、ウチに成分を調べさせ。んでコスプレって何があるねん、今度ウチの分も用意するんや、解ったか?」


「は、はい……」


「よし、解ったならええやろ、早く呼んでき」


「お、おう」

 マジかよ……フレイアとコスプレで……夢が膨らんで……しまった!これもパンドラに知られるんじゃ?何だかそう考えたら、愚息が立ち上がる事が無くなりそうだ。

 左近は思わぬ落とし穴に悩みながら、皆を呼びに行ったのであった。






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「それで話って何ですか?ここなら大丈夫でしょう」

 左近とフレイアがパンドラを呼び出していた頃、アイリスはエリアスを連れて誰もいない一室にやって来ていたのであった。



「確か夕方から、お前は御館様とルタイ皇国に行く予定だよな?」


「ええ、ルタイ皇国に現状の報告と、これからの、この地域の枠組みの草案を説明しに行きますが。ラナはどうやら宮廷関係は苦手の様で、私だけになったのですが……それが何か?」


「いや、少しナッソーに用事があってな、その間にナッソーに空間転移させて欲しいんだ、もちろん内密にしたいので口の固い者が良い。

 誰かそんな人を紹介してはくれんか?」


「……訳を聞いてもよろしいので?」


「すまんが、理由は言えん……だが決して御館様を裏切るとかでは無い、少し人には言えない事情があるのだ。

 もちろんお前にも……解ってくれ」


「理由は言えないが勇者を1人紹介してくれでは、あまりにも都合が良すぎませんか?」


「確かにそうなんだが、こんな事を頼めるのはお前しかいないんだ、頼む!これにはノイマン家の名誉がかかっているんだ」


「……解りました、セシルならば大丈夫でしょう」


「ありがとう、この事は……」

「内密にでしょ、何度も言わなくても心得ています。その代わりに、いつか理由を言って下さいね」


「あぁ約束しよう」


「ではそろそろ戻りましょう。セシルには私達がルタイ皇国に行ったら、父上の所に内密に行く様に伝えておきます」

 そう言って二人は地下の金蔵に戻って行ったのであった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「紹介しよう、俺の娘となったパンドラだ」


「パンドラでございます、以後お見知りおきを」

 そう言って紹介されたパンドラは、黒いドレスのスカートを優雅につまみ上げ、貴族のようなお辞儀をやったのであった。


「しかし……本当に悪魔なのか?それにしては美しすぎる」


「エリアス様、お世辞はそのくらいで良いですよ」


「俺の事を?」


「ええ存じております、エリアス様の他にも皆様の事はお父様に教えて頂きました。

 早速ですが私から皆様にご提案が有ります。どうやら独自の戦力をお父様は再編成されたい様ですので、我が配下を召喚し、皆様の配下につけると言うのは如何でしょう?

 僅か7名ですが、その強さは一国を簡単に滅ぼす力が御座います……まぁ少々変わった所が有りますが忠誠心は有りますので大丈夫でしょう」


 変わった所って言う所に引っ掛かるが、戦力の増強は必須だ。

 しかし、他の者に配下か……ここは意見を聞いてみるか。

「皆はどう思う?アイリス」


「私は既に騎馬隊がございすので十分です」


「そうか、ラナは?」


「私も斥候部隊があるからなぁ、それに私は基本的に一人がやり易いんだよね」


 まぁラナの戦闘スタイルなら仕方がないか。

「義父殿は?」


「いきなり配下にとなれば、お互いがやりにくいでしょう。作戦遂行能力も落ちてしまい意味が御座いません。

 ならば御館様の騎士団にして、能力や戦闘スタイルを見極めた上で誰かと組ませるのが宜しいかとおもいます」


 なるほど、義父殿の意見も一理ある。

「義父殿の言う通りだな。クロエ、親衛隊に全員を所属させる事にする、お前が隊長だ仕切れ」


「それはお断りします、配下が出来ると御館様と一緒にいる事が出来なくなります……それだけは嫌です」


「なるほどね……ええやん左近、新しい親衛隊を作り、司令官にパンドラを置いてクロエは今まで通り左近の警護役って事で」


 確かにフレイアの言う通りだな、パンドラなら今まで通り自分の配下を使う訳だし、何ら問題は無いだろう。

 しかしクロエがこんなにも拒絶するとは思わなかったな、やはりパンドラが悪魔だから嫌なのかな?そうだとすると変な確執が残らねば良いのだが。

「解ったフレイアの言う通りにするか。パンドラそれで良いか?」


「勿論で御座います」


「クロエはどうだ?」


「異論御座いません」


「では決まりだな、パンドラ召喚はどうする、お前がやるか?」


「そうですね私がやりましょう、お父様と私には絶対の忠誠を持たせます」


「解った、何か必要な物が有れば言ってくれ」


「そうですね、魂はこちらで頂いた分をわけるとしても……お父様、お金か武具は何れ程有りますか?武具は伝説の宝剣等でしたらありがたいのですが」


「金は額を言ってもらえれば、時間は少々かかるが用意できるし、おそらくはそう言った武具だろうアイテムは家にまだ有る。

 今度家の者に紹介するついでに、見るとしよう」



 こうしてパンドラは左近の娘として、迎え入れられたのである。

 そして左近とアイリスとクロエの三人がルタイ皇国に空間転移で向かった頃、エリアスの部屋にセシルがやって来たのであった。

「……失礼します、奥様にエリアス様を内密にナッソーにお連れしろとの命を受けて来ました」


「ありがとう、入ってくれ」


「失礼しま……」

 室内に入ったセシルが見たものは、フードを深く被りマントで全身を隠したエリアスの姿であった。

 確かに今のパナスは嵐の真っ只中でナッソーも嵐の可能性も有るのだが、何故この様に誰か解らなくするような格好をしているのかが理解出来なかったのである。


「驚いたか?」


「……ええ、あまりの重装備ですので……転移先、御主人様の御屋敷で宜しいので?」


「いや、ママの店のアルティミスの近くの路地で頼むよ」


 ママの所に行かれるのか?余計な詮索はしない方が良いな。

「……解りました、早速行きましょう」


 そう言ったセシルは空間転移を使用し二人はナッソーの路地にやって来たのであった。

「すまないがここで待っていてもらえるかな?」


「……解りました」

 そう言うとエリアスは足早にママの店に向かって行ったのであった。



「全くこんな嵐じゃ客も来やしねえ、商売にならねえよ」

 そう用心棒の男は、入り口で外の雨を見ながら言っていたのであった。

 その時、フードを深く被った男が用心棒に近付いて来たのである。


「お、お客さんか?こんな嵐の日によく来たな、誰か指名の子はいるかい?」


「ママはいるか?」


「……すまないが今日はダメだ、予定が入っている。陳情なら明日にするかオヤジさんの所に行ってくれ」


「ママでなければダメなんだ、緊急の要件だ」

 そう言ってエリアスはフードからチラリと顔を見せたのであった。


「あんた十字軍の……って事は左近の旦那の用件か。解った話は通してやる、中で待っててくれ」

 そう言って用心棒の男はママの元へと行ったのであった。




 ママは配下の者達と、定例の幹部会をアルティミスの個室でやっていた。

 ママことソニア・ヴィシュク率いる千年の宴は、左近の影響力が広がるのと同じ様に、ナッソーとザルツ王国で影響力を強めようと画策していたのである。

「ナッソーの売り上げは、三倍にも上がって来ているのか……レンヌではどうなっている?」


「只今レンヌでは、スラムに在る殆どの売春宿とカジノは傘下に入る事を了承し、マフィア達も我等、千年の宴に従う事を了承しました。

 小さな所はまだですが、これも時間の問題でしょう。

 やはりナッソーの四頭会と、左近の旦那の武名が効果が有りますね、どこもウチと戦争をしようと思いませんよ」


「慢心は命取りだ、やる時は徹底的にやれ。

 しかし左近は我等の守護神だな、次はルタイ皇国やセレニティ帝国にも支店を出して、裏から牛耳る計画、これを次の目標にする。

 それと、焼け野原になった都市の復興事業、これにも何とか食い込まねばならん、その為にはダッチもでしゃばって来るだろうから今から手を打たないとな」


 その時、用心棒の男が入ってきて、ママに耳打ちしてきたのである。

「ママ、左近の旦那の所のエリアス様が、ママに会いたいと店にやって来ています」


「エリアスと言ったら、元帝国騎士でアイリスの父親じゃないか……左近に密命を受けているかも知れないね。

 よし通せ、私の執務室で会う」


「へい、解りました」


「皆、すまないが少し急用が入った、定例会はこれぐらいにして、今宵は飲もうじゃないか。おい!女達を通せ!」

 そう言ってママは入って来た女性を尻目に、自身の執務室に向かったのであった。





 ママは執務室にてエリアスが来るのを待っていた、外は嵐で激しく窓に打ち付ける雨の音に混ざり、女性とばか騒ぎして楽しそうな声がしていたのであった。

 その雨音に混ざり、ママの執務室の扉がノックされ用心棒の男が来たのである。

「失礼します、ママ連れてきました」


「通せ」


「へい、旦那どおぞ」

 用心棒の男がそう言うとフードを深く被ったエリアスが入って来て、フードを取ったのであった。


「ママすまないな、行きなり来て無理を言って」


「構わんさ、どうせ左近の用件か何かだろ?アイツはいつも急に言うんだよ」


「それが今回は違うんだ、今回は個人的な依頼だ」


「個人的な依頼?面倒な事じゃ無いだろうね?」


 ママが若干、不振がって聞いてみると、エリアスは全身を覆い隠したマントの下から、よく寝ている赤子を出したのであったのである。

「すまないがこの子を育てて欲しい、もちろん養育費は支払う」


「はぁ?エリアスさん、あんたここを託児所か何かと勘違いしていないかい?私に頼むのはとんだお門違いだよ。

 他の者をあたっておくれ!」


「これはママに頼むしか道はないのだ……他の者は非常にまずいんだよ」


 そのエリアスの一言で、この子の存在は左近に知られてはまずいのだと、ママはさとったのであった。

「やめとくれ、私もそんな危ない橋を渡るのは嫌だよ」


「そこを頼む、ママの所の千年の宴は金さえつまれれば、どんな非合法な事でもやる組織だろ?」


「それはそうだが、あの左近はまずいんだよ。こっちも商売がかかっているんだ、ダメだね」


「手付けに3万シリングと毎月の養育費はもちろんの事、パナス再開発の口利きでどうだ?」


「……それだけじゃ無理だね、パナス再開発は左近がこちらに話を振ってくる可能性は高い、とてもリスクに対しての見返りが少なすぎるんだよ。

 もっと大物なら考えてやる」


 大物か……そうだ彼奴がいた!

「では、セレニティ帝国キングスベリーに本拠地を置く、ガストン商会の縄張りと利権でどうだ?」


「ガストン商会だって?表向きは帝国での鉱山事業の商会だが裏では、売春カジノに地上げをやっているガストン商会か?

 あんな所を潰せる筈も無いだろ!帝国の貴族にもかなり食い込んでると聞くぞ」


「大丈夫だ、あそこのナンバー2のヒメネスは俺の幼馴染みだ、そいつを裏切らせガストン商会を潰させる。

 その代わりにヒメネスの処遇も頼みたいのだが」


「……その話がもしも……もしもだが本当ならば、セレニティ帝国の裏社会は私達の千年の宴が牛耳る事が出来る……そのガキ1人でそこまで出来るなら安いものだ。

 ただし本当ならばな」


「あぁこの子はそれが達成できるまでの、人質と思ってくれてかまわない。頼めるか?」


「………………解った、ただしこの商売ナメられたら終わりだ、もしも失敗した時は、その子とあんたの命で償ってもらう、それでも良いか?」


「もちろんだとも」


「おい誰か!ハンザを呼んできてくれ!」

 そのエリアスの決意の目を見たママは外に向かって叫んだのであった。



 そして暫くすると1人の紳士風の男が執務室に入って来たのであった。

「ママ、お呼びで?」


「あぁすまないね。エリアス、こいつはハンザと言って、私の傭兵時代からの部下だ。今はレンヌの商売を全て任せている、こいつならレンヌで上手にやってくれるだろう。

 ハンザ、このエリアスの抱いている子供を育てろ、そいつは私達にとって金の卵を産み出すかも知れないので、丁重にな」


「……お断りします」


「はぁ?何でさ?」


「だってママ、俺はまだ独身ですぜ、それに子供を育てた事なんか1度も無いし……無理でしょ」


 何だこいつは、外見は紳士だが話し方は紳士ではないぞ……大丈夫かこいつは?

 そんなエリアスの心配をよそに、ママの説得は続くのであった。


「大丈夫だ、ミルクも子供をおろした売春婦が居るだろ?そいつにミルクをあげさせれば良い、子供をおろしても、胸からは乳が出るから」


「でも夜泣きとか俺は耐えれないですぜ」


「それは大丈夫だ、我が家に纏わる子供専用の睡眠薬が有る、これを使えば夜泣きも大丈夫だ娘のアイリスも使っていた」


「ママぁ」


「諦めろハンザ、これもいい機会だ子育て頑張れよ。所でこの子の名前は?」


「名前か……アリエルだ」

 こうしてメデル子爵の娘は、アリエルとしてレンヌのハンザの元で暮らしていく事になったのであった。


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