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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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ナッソー防衛戦3

 アイリスはマニッシュ将軍と火炎に包まれたナッソー旧市街で戦っていた、逃げ惑う帝国兵と追い掛けるナッソー守備隊の混戦の中で、二人は戦っていたのであった。


 アイリスがマニッシュ将軍より上回っていたのはそのスピードだけで、パワーもリーチも圧倒的にマニッシュ将軍が上回っていたのである。

 更にマニッシュ将軍の動体視力が完全にアイリスを捕らえており、攻撃はお互いの攻撃が当たらずに、ほぼ膠着状態になっていたのであった。


 そんな均衡を破るかの様に、アイリスの背後から三人の帝国兵が静かに近寄って来たのであった。

 それに気が付いたマニッシュ将軍は、顔色を変えずに出来るだけアイリスの注意を引き、尚且つアイリスの背後を帝国兵が襲える様に誘導していたのであったのである。



 マニッシュ将軍に対する怨みの為か、アイリスの意識はマニッシュ将軍に集中し背後の帝国兵には気が付かなかったのであった。


 やがてマニッシュ将軍の剣をかわしたアイリスに、背後から一人の帝国兵が襲い掛かる事になる。

「死ねぇ!」


 殺られる!

 その声を聞いたアイリスは己の意識がマニッシュ将軍に集中し過ぎて、他の兵士が近付いてきた事に気付かなかった事を悔やんだ瞬間であった、聞き覚えのある声が聞こえアイリスを助けたのである。


「どーん!」

 ラナがアイリスに斬りかかった兵士を、間一髪で跳び蹴りを入れて吹き飛ばしたのであった。


「ラナ!」


「アイリスらしくないなぁ、どうしたの?」


「……ごめん、でもアイツだけは私に殺らせて」


「何だか個人的な恨みみたいだね……良いよ。思う存分やっちゃって」


「ごめんねラナ」


「良いよ……それに邪魔者もやって来たようだし、こっちは任せて」

 そう言ったラナの先には数名の帝国兵がいたのであった。


「ありがとう」

 そう言うとアイリスはマニッシュ将軍を睨んだのであった。


「ふん、たかがダークエルフ1人増えただけで勝てると思っているのか?

 まぁ良い、よく見るとこのダークエルフも中々に良い女ではないか、あの時の様にエリアスの娘と二人まとめて犯してやるのも、また一興だな」

 そう言うとマニッシュ将軍はペロリと唇を舐めて、アイリスとラナの嫌悪感を誘ったのであった。


「き、キモい……アイリス、早く彼奴を殺してよ、長く見ていたら夢に出てきちゃう!」


「解ってるわよ」

 とは言ったものの、こちらの動きを全て見切られているし、どうするか。

 そう考えていたアイリスはマニッシュ将軍を攻めあぐねていたのであった。



 しかしこうも敵が多いと厄介よね……

「マメ出ておいで!」


 そう思ったラナの掛け声で、ラナの影の中からマメがピョコンと姿を表したのである。


「あんた撹乱位は出来るでしょ、たまには役にたちなさい」


「あん!」

 ラナの言葉を理解したのか、していないのか、マメはお座りをやってラナに向かって尻尾をパタパタと動かせていたのであった。


「おいビビらせやがって、ただの犬じゃねえか」

「ハハハ、しかも子犬だぜ」

 そう言うと兵士達は笑いだしたのであった。


「マメ、やっておしまい」


「ワン!ワン!……キャン!」

 そう言ってマメは、一人の兵士の足下を走り回ったのであったが、兵士に蹴り飛ばされてしまったのであった。


「マメ!……しまった!」

 マメに一瞬気を取られた、アイリスにマニッシュ将軍の剣が襲い掛かったのである。


 キィン!

 手にした二刀の剣で、マニッシュ将軍の剣撃を防いだアイリスであったが、そのパワーで吹き飛ばされたのであった。


「アイリス!」

 一人の兵士に邪魔をされ、ラナはアイリスの助けに行けなかった、その間に残りの二人の兵士とマニッシュ将軍が、倒れているアイリスに襲い掛かったのである。


「くそっ!影縫い!」

 ラナはそう言うと、隙を見て兵士達の影にナイフを投げ付けたのであったのだが、動きを止める事に成功できたのは、対峙していた兵士のみであった。


 くそっ!やはりこんなに回りが燃え盛っていると、影が幾つも出来てしまい、動きが封じ込めれない。

 だけど諦めない!

 ラナはそう思いながら、アイリスに襲い掛かる兵士の一人を背後から斬り着けたのであった。


「ぐはっ」

 そう言って一人の兵士はその場に倒れたのだが残る兵士とマニッシュ将軍は止まらない。

 アイリスの命は風前の灯火かと思われたその時であった、倒れていたマメが立ち上がると、雄叫びをあげたのであった。


「グオオオオ!」

 その雄叫びは、マメの容姿に似合わず、まさに地獄の番犬であるケルベロスそのものであったのである。

 そしてそのマメの雄叫びはアイリスに襲い掛かった、マニッシュ将軍と兵士が本能的に危険を察知して動きを止めた程であった。


「バカな、これは子犬の鳴き声では無い!一体何だと言うのだ!」

 マニッシュ将軍がそう言った時であった、マメの身体がみるみる内に大きくなり、牙も出て獰猛な顔付きになり、更には同じ様な頭が二つ出て来て、誰が見ても地獄の番犬ケルベロスの様な姿になったのであった。


「ケ……ケルベロスだと!」

 マニッシュ将軍は驚き思わず後退りしたが、他の兵士はあまりの恐怖で足がすくんで動けずにいたのである。


 その恐怖を感じたのか、マメはその身体からは、想像も出来ないほどの速さで、兵士に噛み付き、兵士の身体を真っ二つにしたのであった。


 その地獄の様な光景に気を取られたマニッシュ将軍は、アイリスの事が一瞬、頭から消えたのであった。

 その瞬間、アイリスがフラガラッハをマニッシュ将軍に向かって飛び掛かりながら投げたのであった。


 まずい、このままならエリアスのガキの剣撃を防いでも、投げた剣が胸に刺さる、投げた剣を防いでもガキの剣撃が当たる。

 そう考えたマニッシュ将軍はさすがであった、瞬時に左腕の一本を棄てて、左腕で投げたフラガラッハを防ぐと同時にアイリスの剣撃を防ぐために、剣をアイリスの剣に向かって振ったのであった。


 しかし、影縫いで動けずにいた兵士を、噛み殺していたマメのもう1つの頭が炎の玉を吐き出し、その炎の玉が当たる瞬間のアイリスの村正に当たったのであった。

 その瞬間、村正は炎を纏った刀になり、マニッシュ将軍の剣を打ち砕くと、そのままの勢いで袈裟斬りにマニッシュ将軍に斬り着けたのである。


 だがアイリスの刀は、鎧を着けたマニッシュ将軍を両断するには、力不足で途中で止まってしまったのであった。

「ゴフッ!まさか我が家の家宝の剣を打ち砕くとは……しかしまだ殺られんぞ!」


「うおおおお!」

 そう叫びながら最後の力で、残った右腕でアイリスを殴ろうとした時である、アイリスの叫び声と共に村正の炎が大きく膨れ上がり、マニッシュ将軍を焼き付くし、穴と言う穴から炎漆黒の炎が上がったのであった。


「な……」

 そう最後の言葉を残して、マニッシュ将軍はその場に崩れ落ち、アイリスもその場にへたりこんだのであった。


「アイリス!」

 ラナがそう言ってアイリスの元に駆け寄ると、アイリスはラナに抱き付きながら泣いたのである。


「うあぁぁぁぁ!」

 そのアイリスの姿を見たラナは、マニッシュ将軍の言っていた「あの時の様にエリアスの娘とまとめて犯してやるのも……」と言った言葉を思い出し、アイリスの身に何があったのか全てを察し、なにも言わずにアイリスを抱き締めて、頭を優しく撫でたのであった。


「クーン」

 そう言いながらマメはアイリスの涙を舐めて、慰めようとしているかの様にすり寄って来たのであった。


「マメ~!」

 アイリスもそれを感じてか、子犬に戻っているマメを抱き締めたのであった。


「マメ……って何であんた子犬に戻ってるのさ!」


「可愛いから良いじゃない!」


「それじゃダメなの!」


「良いんです!」

 そう言って、先程までの事は無かった様に二人がいがみ合っていると、馬に乗ったミリアが1隊を率いてやって来たのであった。


「奥様方……あんた達、こんな所で何やってるの?」

 ミリアは二人の戦場でいがみ合う姿を見て、呆れて言ったのであった。


『うるさい!』


「す、すみません……じゃ無くて、さっき魔獣の様な雄叫びが聞こえましたが……大丈夫そうですね」


「あぁ、あれはねこのマメが……」

「そんな事より、作戦の進行はどうなっていますか?」


 得意気に語ろうとするラナの言葉を遮り、アイリスが話題を変えたのであったが、それに不満なのかラナが小声でアイリスに話し掛けたのである。

「チョッとアイリス、何で邪魔をするのさ?せっかくマメの勇姿を語ろうと思ったのに」


「マメの事を今言っても混乱するだけだって、それよりは黙っておいて、実はマメはケルベロスだったの方がかっこよくない?」


「……それもそうだねぇ」


 また何やら良からぬ事を考えているなと、二人の姿を見ながらミリアは思い報告したのであった。

「既に殆どの帝国兵がナッソーより脱出し、ここに残っているのは僅かです」


「では作戦は第三段階へ、ナッソーを封鎖して残党の掃討作戦に移行し、捕虜は予定通りに取らない方向で」


「了解しました。皆、聞いた通りだ!予定通りに行くよ!」


「へい!」

 全く奥様方が、ああ言うノリだと御館様は苦労するな。

 ミリアは兵士達を引き連れながら、そう思いながら左近の苦労を察していたのであった。





 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 さっきの雄叫びは何だったのであろう……マニッシュ将軍、ご無事であれば良いのだが。

 そんな事を考えながら、メデル子爵はナッソーより離れた所で帝国兵を再び集結させ、再び夜明けにナッソーを攻略しようと考えていたのであった。


 その時であった、集結地点の両側の山より法螺貝の音が聞こえ、軍の雄叫びが聞こえてきたのであった。

「何だ!何事だ!」


 メデル子爵は状況を把握する為に叫んだのであったが、兵士達は右往左往しメデル子爵の声が聞こえない様であった。


「落ち着け!先ずは状況の把握だ!冷静に対処せねば全滅ぞ!」


「報告します!東と西の山よりルタイ皇国の武士団が襲撃してきました!その数8千!」


「何だと!すぐに迎撃の準備だ!」

 まさかここでルタイ皇国の襲撃だとは、まさか奴等は軍を外に配置していたのか!仕方がない、これでは勝っても再びナッソー攻略は難しい、パナスに戻りナリヤから兵力を回してもらわねば。

 そう思いながらメデル子爵はこの状況を打破しようと頭を激しく回転させていたのであった。




 メデル子爵が迎撃の準備をやったにもかかわらず、ルタイ皇国の軍は統制の取れた動きを見せてメデル子爵を翻弄していく。

 左右からの大量の弓矢の攻撃で、帝国兵の前線が崩れ距離を詰められると、そこへ流れるような動きでルタイ皇国の長槍隊の攻撃で一気に前線は崩壊し、次の騎馬隊の突撃でメデル子爵のいる本隊にも被害が出てきたのであった。


 これは、アルム砦戦で報告のあった、あのルタイ人の部隊の戦いかただ。

 こちらも弓矢を打ち返しているのだが、あの魔方陣でこちらの弓矢が当たらない、この戦……負ける。

 そんな考えがメデル子爵の頭を横切った時であった、突撃してきた騎馬隊から声が聞こえてきたのであった。


「我こそは、ルタイ皇国の三好 左近衛少将 清信なり!敵将よ潔く我と戦え!」


 左近衛少将だと!ルタイ皇国の官位を持っている者って事は、これはルタイ皇国の正規軍ではないか!マズイこれでは完全にルタイ皇国に帝国が正式に宣戦布告をした事になってしまった。

 今更ながら申し開き出来ない状況だ……一度撤退をしてルイス様に報告して対処せねば。


「退け!皆パナス迄、撤退だ!」

 そう考えたメデル子爵は直ぐ様、撤退の号令を出したのである。


 しかしその声を聞いた反対側のルタイ皇国の部隊からも怒号の様な声が聞こえてきたのであった。

「お主がこの部隊の将か?我は長岡 左近衛将監 蔵之介である!いざ尋常に勝負せよ!」


「ま、待たれよ!これは何かの手違いで御座います、我等セレニティ帝国はルタイ皇国と戦う意思は御座いません!」


「問答無用!今更何を言うか!」


 ダメだ最早これまでだ、ここまでくれば出来る限り被害を少なくして、パナス迄撤退をするしかない。

 パナスならば鉄壁の守りだし、ルタイ皇国が攻めて来ても簡単には落ちはしない。

 そう思いながらメデル子爵は馬を返し、パナスに向けて馬を飛ばしたのであった。






 ここまで来れば大丈夫であろう。

 メデル子爵達は夜も明けてきたナッソー北の別れ道付近に一度立ち止まり、生き残った者を集結させていたのであった。


 その頃、眼下に疲れた身体を休めている帝国兵を山から見下ろしていたセルゲンの元に通信兵がやって来たのであった。

「報告します、藤林 弾正様からです。

 タイミングはこちらが、栄光ある先陣はセルゲン殿にお譲り致しますとの事です」


「解った、承知したと伝えてくれ」


「はっ!」


 流石は弾正殿だな、連合軍だからか名誉はこちらに譲りながら、主導権はきっちりと守る、こんな事を言われて断れる将などいようか。

 しかしメデル子爵よ、敵ながら我がザルツ王国を散々に苦しめてくれた借りを、今こそ返してくれん。

 そう思いながら、眼下の帝国兵を見つめていると、通信兵が再びやって来たのであった。

「報告します。

 セルゲン様、弾正様から出陣の合図です。そして今夜は祝勝の酒を飲み交わそうぞ、との事です」


 ふっ、あの人らしいな、人をやる気にさせるのが上手い。

「了解した、我がザルツ王国親衛騎士団の強さをとくとご覧あれ、と伝えてくれ」


「了解しました」


「聞いたか皆、今夜はナッソーで祝勝の酒を飲むぞ!みな我に続け!」


『おお!』

 セルゲンの号令と共に親衛騎士団3千は一気に山を下り、休憩中のメデル子爵達に襲い掛かったのであった。



「ザルツ王国親衛騎士団、セルゲン・ギュドゥアン団長!国王ゲハルト・ホーコン陛下の命により、これよりルタイ皇国に加勢いたす!死にたい者はかかって参れ!」

 そう叫びながら、セルゲンを先頭とした騎士団は、まるで槍の様にメデル子爵達に突き刺さって行ったのであった。


 まるで槍だな、この突進力は我がルタイ皇国には無いものだ、この突進力は欲しいな。

 そう言ってニヤリと笑みをこぼした弾正は、戦場を楽しむかの様な笑顔で号令したのであった。

「我等も行くぞ、セルゲン殿に遅れを取るな!かかれ!」


 セルゲン率いる親衛騎士団に触発されたのか、何と弾正率いる部隊も山から降りるなり、そのまま突撃を慣行したのであった。



「ここにも伏兵か!しかもザルツ王国のセルゲンだと!退け!退け!パナス迄、休みなく逃げろ!」

 まさかのザルツ王国の親衛騎士団の登場にメデル子爵は驚愕しながら、撤退の命令を出したのである。

 ルタイ皇国は何処まで伏兵を配置しているのか解らない、ならば逃げる事を最優先に休み無く逃げるのが一番だとメデル子爵は考えたのであった。


 しかし何かが変だ、こんなにも伏兵を配置して、更にはザルツ王国迄出てきているとは……まさかはめられたのか?ルタイ皇国は元からセレニティ帝国と戦いたいが為に、計略を俺にかけたのか?

 そうだ、そうに決まってる。そうで無ければこんなにも都合良くザルツ王国もいて、更には伏兵を配置出来る筈も無い。

 そもそも、あの時の傭兵部隊をルタイ人が率いる事が変だったのだ、何故戦場に出ていないルタイ人が、いきなり傭兵を率いる事が出来る?それはバックにルタイ皇国があったからなんだ。

 あの時から計略は始まっていたのだ……まさか最近の盗賊騒ぎもか?……いや有り得る話だ。

 あのルタイ人は、拠点にしているのはナッソーと言っていた、ナッソーならば盗賊も簡単に雇う事もできるではないか!これは巧妙に仕組まれた罠だったのだ。


 メデル子爵は左近の策略に気付きながらも、味方が次々と討ち取られている中でパナスに向けて逃げ出したのであったのである。

 大将が逃げた軍は弱いのはもちろんの事だが、通常撤退戦には殿の軍を配置して、殿の軍が防いでる間に本隊が撤退をする、これが撤退のセオリーだったのだが、メデル子爵は殿を置かずに逃げ出した為に、帝国軍の被害が甚大なものになったのであった。





「追え!今こそ積年の怨みを晴らすのだ!」


「追い首じゃ!手柄は思いのままぞ!」

 セルゲンと弾正の帝国軍への追撃は熾烈を極めたものであった、傷付いた帝国兵は命乞いをする暇も無く次々と討ち取られ、その死体は増えるばかりであった。


 そんな中で弾正達に通信兵が左近の命令を伝えにやって来たのであった。

「弾正様、セルゲン様、御館様からの伝令です。

 そろそろ頃合いだ、負傷者を回収しナッソーへ帰還せよ、捕虜は予定通りにその場で処分しろ。とのことです」


「ここまでか……了解したと小僧に伝えてくれ」


「そうですね、深追いは禁物です」


「おぉセルゲン殿、そんな言葉がザルツ王国にも有るのか?」


「もしやルタイ皇国にもあるので?」


「あるとも、中々に異国の方との交流と言うのは楽しいものじゃの」


「そうですね、私もこの様な戦は初めてで御座います、何やら自分の中の常識が崩れた感じがします。

 宜しければ弾正殿、私にルタイ皇国の事を教えて頂けないでしょうか?もちろん軍規や戦術で他国の者に教えれる範囲で構いませんが」


「セルゲン殿、そう言う事は眼から鱗と言うのじゃよ。

 中々にお主は楽しい男じゃ、根っからの戦人じゃな……よしお主にワシの全てを教えよう!」


「弾正殿、他国の私が言うのも変な話ですが、ルタイ皇国の戦術や軍規の機密は守った方が宜しいかと」


「かまわん、かまわんよ。もしも敵同士になって戦いそれが原因で敗れたとしても、それは己が進歩しなかっただけの話じゃ。

 そんな弱い奴は死んで当然、寧ろ勝ったお主が日々精進していた事が、ワシは嬉しいんじゃ」


 全くこの人は何処まで本気なんだか……いや全てが真実か?勝利して満足する事なく、次の新しい策略や陣形を考える、この様な進歩こそがルタイ皇国の真の強さなのか?

 それにしてもこの人との会話は楽しいな。

 そんな事を思いながらセルゲンは、白髪になってもなお、戦場に身を置く弾正を羨ましく思い、自分も斯くありたいと願うのであった。

「有難うございます、ではナッソーに戻り祝杯をあげるとしますか」


「そうじゃの、出来れば女が居るところが良いの」


「弾正殿はお若いですね」


「セルゲン殿、これがワシの力の源じゃよ、お主もこの境地に来るにはまだまだかの」


「ハハハ、精進しますよ」

 そう言って二人は、部隊に撤退の命令を出してナッソーに戻って行ったのであった。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








「はぁ……死者は出なかったのは奇跡的だが、やはり負傷者が多いな」

 その日の夕方に、自宅の囲炉裏の間で、各部隊の指揮官より被害の報告を受けた左近は溜め息をつきながら、今後の作戦に支障を来すほどの被害に頭を悩ませていたのであった。


 ルタイ皇国の兵力1万2千の内、軽傷者は数に入れないまでも、重傷者は全体の25パーセントにも及び、その数約3千になっていたのであった。


 残る兵力は9千か……ナッソー守備隊かザルツ王国のゲハルトに援軍を頼むべきか?それともルタイ皇国より増援を頼むべきか。

 ダメだここはルタイ皇国の兵力だけで勝たないと意味が無い、それにルタイ皇国本国よりの増援を頼むにしても時間がかかりすぎて、時間が大切なこのパナス攻略には間に合わない……ここは戦術でカバーするしかないか。

 しかし戦術でカバーするにしてもどうする?……そうだ、確かパナスの城壁の上には屋根も無かったはずだ、こちらは職業が勇者も数多くいる、空間転移が使えるな。

 そう考えた左近は一計を案じたのであった。

「弾正、職業が勇者の者はどれ程、残っている?」


「およそ200名と言った所かの……小僧まさか……」

 そう言った弾正は、何かを感じたのであった。


「そのまさかだよ」


「まぁこの状況では有効かもしれんの。

 所で話は変わるのじゃが……小僧、何処か女性と一緒に飲める店を知らんか?」


「あぁ……って何で俺に聞くんだよ!」


「いやなに、詳しいと思ったのでな……仕方がないママに聞いてみるか」

 そう言って弾正は不適な笑みをこぼしたのであった。


 あ、危なかった。弾正にはめられる所だった。

 弾正が聞いた時に、ラナの耳がピクリと動いたのを感じなければ、はめられていた所だった。

 俺がそう思っていた時であった、蔵之介が余計な事を言ったのである。


「左大将様、以前お会いしたあの店で宜しいのでは?彼処なら綺麗な女性も多いですし」


「左将監殿!ダメですよ!」


「左少将、どうしてだ?」


 コラ蔵之介!何ここで天然をぶっぱなしているんだよ!……ハッ!俺の両隣から殺気を感じる、この状況は非常にマズイ。

 弾正、てめぇ笑いをこらえているんじゃねえよ!……そうだ、良い考えを思い付いた。

「あぁ、あの正成の要望で仕方なく(●●●●)行った店か、うんあそこで良いんじゃないかな?」


 左近がそう言うとその場の空気がシーンとなったのであった。


 あれ、何か変な空気だな?視線は横に向けるのはまだ恐くて出来ないが、殺気が消えないぞ……何で左少将が唖然としているんだ?

 俺の計画は完璧だったはずだ、全てを正成の責任にして俺は仕方なくついて行ったと言う流れ……完璧なはずなのに何故だ!何故こんな空気なんだ!


「旦那様、正成様の要望で、正成様が来られた時に行かれたのですね?」


 あれ?アイリスさん目が座ってますよ。

「そ、そうだけど」


「確かその日は正成様とオヤジさんの店で飲んでいたはずでは?ラナ!」


「はいな!」

 ラナがアイリスの合図で何やらマジックバックからノートと取り出すと、ページをペラペラとめくって言ったのであった。


「確かにその日は旦那様が、正成とナッソーのオヤジさんの店で飲んで来たと旦那様が言っておりますね、しかしその日は帰るなり、何故か二人で風呂場に直行して身体を洗っておりました」


「ありがとラナ。旦那様、一体これはどういう事でしょうか?」


「いやその前にアイリス、そのノートは何だよ!」


「これですか?これは私とラナがつけている、旦那様の成長記録です……まぁ殆ど書いているのが私ですが。

 そんな事より、どういう事なのですか?」


 マズイ、非常にマズイ展開だぞこれは。まさかのアイリスにヤンデレの属性があったとは。

 ここはバッシュ助けて……目をそらすな薄情者!義父殿……義父殿もかぁ!


「まぁまぁ、アイリスちゃんよそれくらいで許してやってはくれんかの。

 小僧にこう言った方が良いと言ったのはワシなんじゃよすまんの、それにホラ小僧も反省しておるでな」


 ここでまさかの弾正からの援護射撃ですか!

 こいつにだけは助けられたくは無かったが、背に腹はかえられん、これに乗るか。

「実はそうなんだ……すまなかった」


「まぁ弾正様がそう言われるなら……ねえラナ」


「そうだね」


 何故だ?何故か弾正が良い奴になってるぞ、何だか納得がいかないけど、今下手なことを言ったら蒸し返してしまう、ここは沈黙の一手だな。


「所で小僧よ、ママの所に飲みに行くのに少々財布が軽くてな、少し都合してはくれんか?」


 やられた!こいつの目的は最初から飲み代が目的だったのか!ここで断っては何を言われるか解らない。

 断れない状況を作っての交渉、流石は弾正と言った所か……仕方がない。

「解った、請求はこっちに回す様にママに言っておくよ……セシル。請求書はルタイ皇国への請求書にいれておけ」


「セシル、そんな事をしてはなりません、島の名前に傷がつきます。請求は旦那様の資金から引きなさい」


「……解った」


 こらアイリス!何を言っているんだよ!セシルもセシルだ何でアイリスに肩入れするんだよ。

「あ、あの……アイリスさん?」


「弾正様、セルゲン様、今宵は思いっきり楽しんで下さいね」


「アイリスちゃんがそう言うなら楽しむかの、ほれセルゲン殿、そろそろ行こうか」


「そ、そうですね……左近衛大将殿、我等はこれにて」


 こら弾正もセルゲンも逃げるんじゃねえよ!

「では我等も明日の準備がありますので失礼します。左将監殿、行きますよ」


「え?何で?」


「何でじゃ無いですよ、とにかく行きますよ」


 お前ら二人もか!てか左少将、蔵之介を無理矢理つれて行くんじゃねえ!


「あ、私もママとナッソーの防衛について話し合う予定が……失礼します」


「某は、市街の温泉にでも行ってみるとするか……アイリス、少しは手加減しろよ」


「はい、父上」


「私はナッソーの警備の視察に行きますので」


「夫婦喧嘩は犬も食わぬと言いますからね」


「珠様、なにそれ?」


「ミラも大人になれば解りますよ、それよりもそろそろ行きますよ……そうそう父上、今日は私達はママの温泉宿に泊まりますので、どうぞごゆっくり」


「やったぁ!温泉!温泉!」



 ……行ってしまった、みんな蜘蛛の子を散らすように行ってしまった。


「さてと皆様行ってしまわれましたね旦那様」


 え、笑顔が恐いッスよアイリスさん!


「さっ、行きましょうか旦那様」


「え、ど……何処に行くんですかラナさん?何で俺と肩を組むんで?てか俺、連行されるの?」


「……ご主人様、諦める」


「そうそう、私達は奥様の味方ですから」


「い、嫌だぁ!助けて!」


 こうして寝室に連行された左近は、アイリス達に裸で正座させられ、そのまま3時間の説教をくらった後に、ベッドで常人では生命の危機に陥る程の回数を5人に搾り取られたのであった。

 後に左近はスキルの色欲増大が無ければ、自分の愚息は確実に立たなくなり、使い物にならなくなっていたであろうと感じ、神様に感謝したのであった。








 そして翌日にナッソーから、ルタイ皇国武士団9千がパナス攻略に向かい出撃をしたのである。





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