ナッソー攻防戦2
初日の攻防戦はバッシュ率いるナッソー守備隊の圧勝に終わり、昼間の争乱が嘘のように静寂に包まれている深夜、マニッシュ将軍の部隊は月も出ていない夜に、ナッソー旧市街で外の伏兵と、新市街地からの夜襲を警戒して部隊を展開していたのであった。
夜明けの行軍を控えて、兵を休めていたメデル子爵は、誰かも解らない家のベッドで横になり何故だか解らない不安で夜も眠れずにいたのであった。
ふと窓を開け外を見るとこんな夜更けに、空を飛んでいる鳥がいたのである。
何だ、こんな夜更けに黒い鳥が……しかもあれはカラスなのか?普通はカラスは夜には飛ばない、死体の香りに導かれて来たのか?珍しい事もあるもんだな。
そんな事を考えながら、メデル子爵は空を見上げて、不安な気持ちを振り払おうとしていたのであった。
しかし、そのメデル子爵が見上げていた夜に飛ぶカラスはフレイアが操るホムンクルスであったのである。
夜でありながら、司令室のスクリーンにはナッソーの旧市街が上空より、鮮明に映し出されていたのであった。
左近はその光景を見て、殆どの兵士が寝静まっている今がチャンスだと感じ、作戦開始の命令を下そうとした時であった、予期しない声が司令室に鳴り響いたのであった。
「いやぁ凄いよ、流石はフレイアだね!こんなオモチャを作るなんて」
誰もがその言葉に驚き声の方向を見ると、一人の銀髪の少年が椅子に座って手を叩いて無邪気に喜んでいたのであった。
腕におぼえのある、エリアスとクロエはその気配も感じる事が出来なかったばかりか、その圧倒的な力の差と言うものに、声すら出なかったのであった。
「……パーヴェル、何しにここに来てん?」
そのフレイアの言葉を聞いた左近以外の全員が驚いたのであった、今ここにいる銀髪の無邪気な少年がもう一人の魔王、人類の……いやこの世の全ての敵である、メギド魔皇国のパーヴェル魔皇帝であったからだ。
「いやぁ、僕の配下の首無し騎士が殺されちゃってさぁ、しかも一騎討ちで討ち取られちゃったらしいんだよ。
しかもそれが魔族じゃ無くて、人間ごときに討ち取られちゃったらしいんだわ……フレイア誰か知らない?」
そう言ったパーヴェルの目には明らかな殺気がみなぎっていたのであった。
「あ、あんたそれを聞いてどない……」
フレイアが話している途中で左近がそれを制したのであった。
「俺があの首無し騎士を討ち取ったのだが?」
「お前がか?」
「お前じゃ無い、島 左近衛大将 清興だ。
それに、パーヴェルと言ったか?お前は先程、人間ごときに討ち取られたと言ったのに、何故驚くのだ?」
ここで弱気になると、何か嫌な予感がする。
そんな野性的な直感で、回りが心配する中で、左近はあえてパーヴェルに強気に出たのであった。
「ハハハ、それもそうだね。
どうやら、君は面白い人間の様だ……フレイアも神の命令とは言え、面白いオモチャを手に入れたようだね……そうだフレイア、ゲームをしようじゃないか」
「……ゲーム?」
「そうだよゲームをやろう。
ルールは、僕もフレイアの様にオモチャを手に入れる、そこで国同士か個人同士か、まだ解らないがオモチャ同士で殺し合いをさせよう。
その間は僕もフレイアもお互いに何処にも攻めたりはしない、まぁ攻められればそんな国は、ゲームを邪魔する者として滅ぼすけどね。
そしてお互いに直接的に手出しは禁止、配下の者は5名迄貸し出す事が出来て、そのオモチャに進言はできる。
こんな感じでどうかな?」
「……それに何のメリットがウチにあるんや?」
「フレイア、いくら妹だからと言ってこれ以上甘やかしたりはしないよ。
考えて見てくれ、僕はここで暴れても良いんだよ、君はどうやらここの者達と同盟か何か盟約を結んだ様だね。
君には守らなくてはならないものが、ここには在り、僕には無い……この意味解るよね?」
そう言ったパーヴェルは子供のように無邪気に笑いながら言ったのであった。
これはマズイぞ、今の俺達には選択権が無いと言う事じゃないか。
しかしそれよりも恐いのは、フレイアがそんな回りの事なんか関係無いって、ここでパーヴェルと戦いだす事だ。
今はナッソーの防衛戦の途中だし、何よりも通信兵の女の子達もいるから、ここで戦われるのはマズイ……要求を飲むしかないのか。
そう思った左近はフレイアに代わり、パーヴェルに向かって話し出したのであった。
「そのゲーム、乗ろう……しかし、私の相手は教えてはくれんのかな?」
「なんだよフレイア、お前は乗り気じゃ無くても、こいつは乗り気だぞ。
でも確かに対戦相手を知らないのはフェアじゃ無いね……決まったらフレイアに教えてあげるよ、でも教えるのはフレイアだけだ。
僕のオモチャにはお前の事は話さないし、こちらだけ知らないのはフェアじゃ無いからね」
「了解した、では賭ける物は?ゲームには賞品が付き物だろう、一体何を賭けるんだ?」
「ハハハ、やっぱり君は面白いね。……良いだろう賭けるのはお互いの国でどうだろう?
僕が勝てばガルド神魔国をもらうし、そちらが勝てば僕の国をフレイアにあげるよ」
この条件なら、パーヴェルの戦力は殆ど無くなり、個人の能力だけになりこいつを殺せる確率も高くなる、良い条件だ。
「良いだろう、その条件で問題ない」
そう言いながら左近はパーヴェルのステータスを確認してみたのであった。
名前:***** 種族:パーヴェル レベル:***
職業:魔王 反逆者 隠者 下忍 聖騎士 覇王
なんだこれ?色々と突っ込み所が満載なステータスだが、名前が解らなくなっていると言う事は、こいつの名前はパーヴェルでは無いのか?
それにレベルも見えないし……これは、それだけ強いと言った所か。
しかし問題は、職業の所に有る覇王の職業だ、何故こいつが持っているんだ?これは後でフレイアに確認する必要があるな。
「良かった、君との会話は中々楽しかったよ。では楽しい戦いにしようじゃないか」
そう言ってパーヴェルは黒い霧となってその場から消えたのであった。
パーヴェルが居なくなった事により、司令室には所々に安堵の声が出ていたのであった。
いやいや、お前らフレイアも一応は魔王なんだが、忘れているだろ?しかし取り敢えずはナッソーの作戦の開始の命令を下す方が大切だ。
そう思った左近は立ち上がって通信兵の女性に言ったのであった。
「皆、何を安心している、作戦中だぞ!旧市街に潜んでいる忍部隊と斥候部隊に火計の命令を伝えろ!」
『はい!』
左近の掛け声を合図に、司令室は一気に慌ただしく動き出したのである。
「ふぅ」
溜め息をつきながら、左近は椅子に深く腰掛けて、静かにフレイアに話し出したのであった。
「フレイア……」
「解ってる……ちょっと待って……」
フレイアがそう言うと、フワッと風が流れて目には見えないが、通信兵との間に空気の断層が出来たのであった。
「これでええやろ、これから話す事は他言無用や、リーゼロッテ、クロエ、エリアス解ったな、誰かに話す時はウチか左近の許可を得ること、それ以外で話すとどんな理由であっても殺すから、そのつもりでな」
フレイアが真剣に言うと他の者達は、真剣な顔付きで頷いたのである。
「取り敢えずは時間が無いから、他の者は詳しい事は後で左近から説明してもらうとして、左近何が知りたい?」
仕方がない、義父殿とクロエには後で説明するとして、今が詳しい事を聞けるチャンスだ。
「俺は他の者のステータスを見るスキルがある、さっきパーヴェルのスキルを見たら、名前とレベルが閲覧不能になっていた、奴の名前はパーヴェルでは無いのか?
それと奴の職業には魔王以外にも職業が色々とあった、特に一番重要なのは覇王だ、奴には覇王の職業があった、一体奴は何者なんだ?」
「そうやな、昔話でも簡単にしたろか、その方が何かと解りやすいやろうし、色々と疑問が解決するやろ。
昔々の事じゃった、神様はこの地上で行われていた殺し合いやその所業に心を痛めておったそうな。
神としてこの状況を何とかしなければ、そんな事を考えていた神様は、1つの考えた行き着いたそうな、この世の中の生きる者の共通になる、強大な敵が出てくれば、皆が戦いを止めて一致団結するんじゃ無いかと。
しかし神様たるもの、悪魔を使う訳にはいかない、そこで考えたのが自らの配下を共通の敵としてこの世に降臨させる事。
だがこれには1つ問題があった、何も無い所から作るとなると、強さに上限がある。
そこで神様は、一度死んだ魂を元にして新たな生命体を作り出す事にした、これにより上限が解放される事になる。
そして最初の使われた魂は、ウェンザー超帝国初代皇帝、ヨハネス・ウェンザー。
彼は最初は従順であったが、この世に降臨するとすぐに己の野望の為に動く事になり、その危険性を感じた神様はすぐに第二の配下をこの世に降臨する事にした、しかし前回の失敗もある事から、異世界より自殺した一人の女子中学生の魂を使う事にした……それがウチ…フレイア…本名は中谷 真由や。
でもウチはただの女の子で、戦術や戦の事も解らん、最初は生きて行くので精一杯やった……そんなウチを見かねてか、神様は一人の異世界より転移してきた男をウチに使わした、それがあんたや左近。
あんたなら、戦国時代に培った戦術もあるし、何よりあんたは転生と転移を経験しているから、強さの上限が解放されるだけじゃ無くて、神の力も使えるのでな」
最初のマ●ガ日本昔話の様な口調は気にはなったが、そんな理由があっての事なのか……しかし神様も俺が裏切る事を考えなかったのか?まぁ俺は自分に理が有るなら裏切らないけどね。
「なるほど、だから妹か……これでフレイアに対しての疑問が殆ど解決したが、最後に1つだけ聞かせてくれ。
魔族はダンジョンから生まれてくると言うが、上限は有るのか?」
「もちろん上限は有るけど、魔族の数が決められている訳じゃ無い。
魔族は魔力とお金で生まれるし、全体の魔族の魔力はダンジョンの大きさで決まり、その魔力と資金を割り振ってどの様な魔族を誕生させるかは、魔王が決めるんや。
普通のモンスターは、持ち主のいないお金に悪魔が取り付き、モンスターになるけど、魔族は魔王が資金と魔力を使って作り出す種族なんや。
他の者には同じ様に見えるかも知れんが、悪魔と魔族の違いはそこにあるんや」
「しかしあの魔王パーヴェルの言っていたゲーム……御館様、本当に参加するので?相手は魔王パーヴェルです、本当に約束を守るのか怪しいものですよ」
確かにクロエの言う通りだ、例え約束を交わして、こちらが勝っても本当に国を手放すのかが怪しいな。
左近がそう思っていると、フレイアが真剣な顔付きで言ったのであった。
「それは大丈夫や、彼奴は約束だけは守る奴や……でも不安ならば次にウチの所に来た時に、契約の魔法を使って契約したろ。
もしも破れば、その命を持って償うってやつや、その代わりに左近……負けたら怒るで」
「あぁ任せておけ……ただ、その魔法を利用して約束をわざと破らせて命を奪う……そんな事は可能か?」
「できん事も無いやろうけど……でも彼奴はそんな事は承知してるやろうし、警戒してるやろ。
しかし左近……悪魔みたいな考え方するやっちゃな」
「お誉めの言葉と受け取っておくよ、さてこの話はここまでだ、空城の計の仕上げにかかるとしようじゃないか」
そう言って左近はモニターに見えるナッソー旧市街を見詰めていたのであった。
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「奥様、作戦開始の命令が出ました、今地上には見張りはおりません、予定通りお願いします」
「了解」
ここはナッソー旧市街の人目につきにくい通りの石畳の下に出来たスペースである、こう言った場所にラナ達斥候部隊と、ボル達サンドリザードマンの部隊が潜んでいたのであった。
通信兵からの連絡を受けたラナ達は、同じスペースに潜んでいたボル達に頷くと、地上に上がり建物を放火する為に所定の場所へと散らばって行ったのである。
ここでマニッシュ将軍は大きなミスを犯していた、将軍は旧市街の外からの攻撃を重点的に警戒して、部隊を展開していたのであった。
なのでラナ達、放火部隊は比較的楽に移動出来たのである、しかしメデル子爵は眠れずに外を見ていると眼下に動く黒い影を発見したのであった。
あれは?……まさか敵の工作隊か?一応確認してみるか。
そう思ったメデル子爵は自分の部隊の数名を起こすと、黒い影の確認に向かわせたのであった。
「全く子爵も人使いが荒いよな」
「そうそう、ナッソーの奴等は少数なんだろ?そりゃ昼間の戦いは素晴らしいものだったが、流石にここに侵入してくる命知らずはいないだろ」
「まったくだ、傭兵や盗賊達は自分の命が大切な奴等だ、忠誠心なんて無いし、ここに忍び込む勇気なんて持って無いさ」
そう言って二人の兵士がメデル子爵の見たと言った場所へと向かうと、やはり誰もいなかったのであった。
「ほらな、やっぱり子爵の見間違えだったんだよ、どうせ見たのは猫や犬の類いだったんだろうよ」
「全くだ、これで毎回起こされる俺達の身を考えて欲しいものだな……帰るか」
「あぁ」
そう言って振り返り帰ろうとした兵士達の後ろから、ゴトっと言った物音がしたのである。
兵士達はお互いの顔を見合せ立ち止まると、ゆっくりと振り返り、剣を抜くと震えた声で言ったのであった。
「お、おい……誰かいるのか?もし、居るなら大人しく出てこい、今なら殺しはしないぞ」
音の主は実はラナであった、ラナ達は放火の準備をしていると、兵士達が近付いてきたので慌てて物陰に隠れて安心したラナの剣が木の箱に当たり音が出たのであった。
ここで自分達が出ていって兵士達を殺す事が出来るだろう、だが少しでも騒ぎを起こせばその騒ぎで他の兵士が起きてくるかもしれない。
自分だけ隠れる事ができても、残る斥候部隊の兵士が見付かってしまう。
初めて出来た自分の部下を見捨てる事なんてラナには出来なかったのである、どうするべきかそう悩んでいると、兵士達の頭上に黒い影が降って来たのである。
ドサッと言う音が聞こえるとラナはソッと兵士達を確認してみたのであった。
「兄貴!」
そう言ってラナは笑顔になると、アデルの足下に首に短剣を刺して倒れている兵士達に気が付いたのである。
「もしかして兄貴が?」
「前から頭上にも気を付けろと言っている、ここに来るときに見られていたぞ」
「ハイハイ、本当に兄貴は口煩いんだから、でもありがとう」
「見張りや、徘徊している帝国兵を排除するのは俺達の役目だ、礼の筋合いは無い。
そちらの準備の方は?」
「もちろん完璧よ……でも小さな頃から慣れ親しんだ街を、自分達の手で灰にするってのはチョッと気が引けるね」
「あんなクソみたいな思い出……一緒に灰になってしまえば良い」
「そりゃ兄貴はそうかも知れないけど……でもオヤジさんや皆との思い出が……」
そう言ってラナは目に涙を浮かべていたのであった。
「感情的になるのは解るが、お前は御館様の妻だろう?これから新しい思い出がいっぱいできるさ、新しい俺達の門出だ……少し喋りすぎたな」
「グズッ……兄貴がこんなに私に話すって珍しいね。そうだよね思い出はまた作れば良いんだよね」
そう言って泣いているラナの頭を撫でようとしたアデルがピタリと止まって呟いたのであった。
「時間だ……」
「本当だ……ホラ私達も火をつけ始めるよ!」
そう言って配下の者に指示を出すラナを見て、アデルは兄と言うより親になった様な気持ちで成長したラナを見ていたのであった。
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メデル子爵は確認に行かせた兵士達の帰りを今か今かと待っていたのであった。
しかし遅い、もしや本当に夜襲で既にあの者達は殺されてしまったのではないか?
メデル子爵は、そんな事を考えていると、窓の外が妙に明るい事に気が付いたのである。
何だ?一体何が起こっているのだ?
そんな疑問が頭を過る中で外を見てみると、そこには至る所の建物に火が付いたナッソーの旧市街が広がっていたのであった。
しまった、やられた!
そう思ったのも束の間である、至る所から戦っているであろう金属音が聞こえてきたのであった。
メデル子爵は急いで他の兵士達を起こすと、急ぎ装備を整える様に命令して自分はマニッシュ将軍の元へと向かったのであった。
将軍の元に向かう途中で、白いリザードマン達と戦う兵士達を横目に、メデル子爵はマニッシュ将軍の元に向かったのである。
やがてマニッシュ将軍の元に到着したメデル子爵は力一杯扉を叩き、叫んだのであった。
「将軍!マニッシュ将軍、ご無事ですか?」
すると扉がゆっくりと開き、完全武装のマニッシュ将軍が出てきたのであった。
「メデル子爵よこの火事は……」
「はい、夜襲で御座います」
「まさか街ごと我等を燃やしにくるとはな。メデル子爵よお前は軍を街から出して被害を減らし、体勢を立て直して、このナッソーを滅ぼせ」
「将軍はどうされるので?」
「ワシはここで奴等の足止めをやっておく、宰相殿の命もあるのでな」
メデル子爵はその時に、マニッシュ将軍将軍とは今生の別れになるのではと、そんな事を考えて不安になっていたのであったが、精一杯の笑顔でマニッシュ将軍に言ったのである。
「将軍……御武運を」
そう言ったメデル子爵は配下に命令して、撤退の準備に取り掛かっていったのであった。
「さてと、この混乱の中でエリアスは出てくるかな」
マニッシュ将軍はそう言うと、自慢の剣を肩に混乱の中に消えたのであった。
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やがて火災とラナやボル達の奇襲を受けて、混乱している旧市街の帝国兵に悪夢の様な追い討ちが始まったのであった。
ナッソー新市街の城門が静かに開き、そこにはアイリスを先頭とした十字軍の騎馬隊、更にはその後方にはルタイ皇国武士団の騎馬隊千がおり、最後はマルディ率いる十字軍の弓隊、ナッソー傭兵部隊にルタイ皇国武士団の歩兵隊が出撃を控えていたのである。
「全軍、突撃!奴等を蹴散らせ!」
『おお!』
刀を抜いた先頭のアイリスの号令の元に、十字軍、ルタイ皇国武士団、傭兵部隊が雄叫びをあげたのであった。
深紅のドレスの上に純白の鎧を着けたそのアイリスの姿は、まさに戦場に咲いた一輪の花のようであり、誰もがこの子の為なら、喜んで死地に向かえる、不思議とそんな美しさがあったのである。
その為か、十字軍、ルタイ皇国武士団、ナッソー傭兵部隊の混合編成であったにも関わらず、その士気は最高潮に高まり、その高まりはそのまま帝国軍へと向けられる事になったのであった。
更には自らが先陣に立っての攻撃である、その姿は戦の女神に率いられた神の軍の様な光景であったのだ。
その怒濤の進撃に帝国兵達は、なすすべも無くただ逃げ惑う事しか出来なかったのであった。
そんな中でアイリスの目の前の視界には、敵兵士を追い掛けるラナの後ろ姿があったのである。
「ラナ!」
アイリスの言葉を聞いたラナは振り返ると、馬でこちらに向かってくるアイリスが見えたのであった。
「アイリス!」
「ラナ!飛び乗る!」
アイリスの言葉を聞いたラナは、アイリスの後ろに飛び乗ると逃げていた兵士を背後から斬り伏せたのであった。
「あー!アイリスずるいよ、私もドレスで戦いたかった!」
「……うるさいなぁ、あんたそんな格好で潜んでいたら、ドレスがボロボロになるよ!」
「それもそうだね……何で忍の服で可愛いのが無いのだろう」
「……あんたそれ本気で言ってる?」
「あったりまえじゃない」
「私…頭が痛くなってきたわ」
そう言った時であった、アイリスの視界に逃げ惑う帝国兵の中で、1人戦いながら何かを探すマニッシュ将軍が見えたのである。
「ラナ、後は頼みましたよ」
「え?ちょ、ちょっとアイリス!」
ラナの制止も聞かずにアイリスは馬から飛び下りて、一直線にマニッシュ将軍の元に向かっていったのであった。
「マニッシュ!」
そう言って馬から飛び下りたアイリスは、マニッシュ将軍の所に向かうと、立ち止まらずにそのまま将軍に斬りかかったのであったが、流石に将軍と言われるだけの事はあり、アイリスの剣撃を剣で防いだのであった。
「何奴!……貴様、エリアスの娘か!」
「そうだ!あの日貴様に捕らえられた時の屈辱、今こそはらさせていただく!」
「あの時か、お前は若いなりにも中々良い身体をしておったな、何だあのときの事が忘れられんのか?」
そう言ってマニッシュ将軍はアイリスが嫌悪する笑みをこぼしたのであった。
「言うなぁ!貴様は絶対にアイリス・ノイマンの名に賭けてこの手で殺す!」
そう言ってアイリスは、もう1つの刀を抜き二刀でマニッシュ将軍に斬りかかったのである。
しかしマニッシュ将軍も将軍と言われるだけの事はあり、剣撃をアイリスの身体に蹴りを放ってかわしたのであった。
スピード等は、いくらアイリスがレベルが上がりマニッシュ将軍より上になったとは言え、いかんせんリーチが全く違い、体格差だけはどうする事も出来なかったのであった。
「アイリス!」
その戦いの光景をモニターで見ていた左近は、空間転移を発動させて今すぐにでもアイリスの救出に向かおうとしたのだが、エリアスに肩を掴まれて止められたのである。
「義父殿、何故!」
「御館様、ここはアイリスがどうしても乗り越えなければならない試練です、我々は見守るしかできません」
実はエリアスは、マニッシュ将軍にアイリスが捕縛された時に、何をされたのか察していたのであった。
以前よりマニッシュ将軍がアイリスの事をそんな目で見ていた事、そしてアイリスを捕縛した部隊がマニッシュ将軍の部隊であった事。
そして確信を得たのは、ナッソーに来た帝国軍の指揮官がマニッシュ将軍だと伝えた時の、アイリスの表情であった。
あの時のアイリスの表情は、何も言わなくても親ならば何があったのか察する事はできる、左近がもしも行けばマニッシュ将軍は絶対にその事を言うであろう、あれはそう言う男なのだ。
夫の左近にだけは、アイリスはその事は絶対に知られたくは無いだろう、父親としては最低の自分だが、娘の今の幸せを守ってやりたい、そんな気持ちでエリアスは左近を止めたのであった。
「それはアイリスを鍛える為か?それとも違う意味が有るのか?」
さすがは御館様、頭の回転が早い、事の真相が他に有ることに気が付いてしまわれたか……仕方がない今後は指南する時も実戦方式でやるしかないか。
「もちろん、鍛えるためで御座います、他意はございません。それに我が娘はこれくらいで殺される様な鍛え方はしておりません」
「……解った、指南役を申し出たのはこちらだし、何も言わないでおこう」
「有難うございます」
さて、アイリスよ……御館様を行かせないようにしたが、いくら数度の実戦を経験しているからと言って、マニッシュとはレベルが違うだろうしどうする。
エリアスはアイリスの心配をしながら今はモニターを見るしか無かったのであった。




