偽りの正義2
セレニティ帝国宰相のエミリオ・ニルセンは自分の執務室にいた。
このエミリオ・ニルセンと言う男は、ニルセン伯爵家の出で昔からニルセン伯爵家で雇っていた、暗部と言う暗殺もこなす諜報部隊と伯爵家の財力で、政敵を陥れ時には暗殺もこなし、今の地位までのしあがってきた男なのである。
そして最後の野望は、この帝国を乗っ取ること。
しかしそんな事をするには、クーデターしかないが、そんな事をすれば勝算は限り無くゼロであり、今まで自分が築いてきた物が崩れ去ってしまうのは明らかで、エミリオもその様な事をする愚か者では無かったのであった。
そこで方向性を変えてエミリオは違う意味でこの国を乗っ取る方法を考えたのであった。
ルタイ人の綾那・セレニティ第3后妃、彼女は異国からこの帝国に来て一気に后妃までなった野心家である、もちろん皇帝の事など愛してはいないのは、エミリオには解った。
それは自分と同じ野心家の臭いがしていたからである、エミリオはこの綾那に近付くと、二人は深い仲になりやがてルイスが生まれるのである。
これはエミリオの悲願でもあった、上の皇太子を全て暗殺し、自らの血を引き継いだルイスを皇帝にする事により、ルイスからのセレニティ帝国皇帝は代々自分の子孫となって、長い目で見れば、自分は無理でも子孫がこのセレニティ帝国を乗っ取る事になる。
まさに狂気とも言える考えで、エミリオは他の皇太子を暗殺していたのであった。
ただ、最近はやり過ぎた為か、皇太子の死にに疑問を抱く者も出てきた為にここいらで何か目をそらす出来事がエミリオには必要だったのである。
そんな時にメデル子爵からのナッソー攻略の提案、そして今回のルタイ皇国の使節団の話がやって来た。
エミリオは俺はつくづく運が良いとにやける顔を隠すので、いっぱいであったのである。
そうしてエミリオの執務室の扉がノックされたのであった。
「ルタイ皇国の方がお見えになられました」
「通せ」
暫くすると伝えに来た兵士に案内されて、3人のルタイ人と1人のルタイ人ではない魔法使いの様な格好をした女性が入って来たのであった。
3人はルタイ人だが、この女性は誰だ?
そんな事を考えながらエミリオは挨拶をしたのであった。
「ようこそセレニティ帝国、帝都ナリヤ迄御越しくださいました、私が宰相のエミリオ・ニルセンで御座います」
「これは宰相殿。私はルタイ皇国の藤永 弾正大弼 久道と申します、ここにいるのは護衛の山田 源三 時臣と浅田 佐平次 長宗で、こちらの女性はセシリー・スターク、我がルタイ皇国の左近衛大将の家人でここまでの案内人として来ました」
セシリー・スターク?もしかしてあのザルツ王国のスターク家の者か?、そう言えばスターク家は我が帝国に領土を奪われた貴族だ……スパイか?しかし左近衛大将の家人と言ったし、もしかするとルタイ皇国の左近衛大将とスターク家は婚姻を結んだのか?それならばまずいな。
とりあえずは探りを入れてみるか。
「いやぁ、中々キリバ語がお上手で御座いますな、藤林だ……」
「弾正で良いですよ」
「助かります、正直ルタイの方の名前は発音が難しいので。
では弾正殿、そちらの女性はルタイ皇国、左近衛大将の身内の方で?」
「当たらずとも遠からずと、言った所じゃな。
それはともかく、さっそく本題を話してもよろしいか?」
愛人と言うことかな?まぁ後々に聞けば解るだろう。
「宜しいでしょう、それで今回はどの様な御用件で?」
「我がルタイ皇国帝は、セレニティ帝国との友好を結び貿易を望んでおられる。
その為に、親書を持った正式な使者をセレニティ帝国に派遣したいのだが、なにぶん護衛の数が多いので、無断で国境を越えれば、敵対行為として戦になるかも知れん。
そこで先行してワシ等が通行の許可を貰う為にここまで来た訳である」
「素晴らしい、流石はルタイ皇国ですな……」
エミリオがそう言うと、執務室の扉が開きアミリア達が入って来たのであった。
「宰相殿、緊急事態で御座います!」
アミリアはチラリと弾正達を見て言ったのであった。
「アミリア団長!今は来客中だぞ無礼であろう!」
エミリオの言葉を聞いたアミリアは、まだエミリオはナッソーの事を聞いていないなと確信し、静かに頭を下げて言ったのである。
「これは失礼しました、私は魔女騎士団の団長をさせて頂いております、アミリア・マクレガーと申します。
何分、緊急事態の為、今回のご無礼何卒平にご容赦願います」
「構いませんよ。宰相殿、何か大変なご様子なので、私共の件は後程でもかまいませんが」
「おぉ、そうですか、申し訳ございません。では応接室で御待ちいただき、旅の疲れを癒してくださいませ。
……おい、誰か弾正殿達を応接室にご案内しろ!」
エミリオがそう言うと、メイドがやって来て弾正達を案内したのであった。
執務室から出た弾正は、まだこれでは弱いなと考えていたのであった。
一番ベストなのは、こちらは友好的に振る舞って、自分達に刺客を放たれる事であるのだが、この流れだともしかすればエミリオは、弁解をして何とか友好関係を築こうとするかも知れない。
それは弾正達にとって最悪の出来事である、そんな事をすれば、こちらがいくらナッソーに来た帝国軍をいくら撃退しても、パナス侵攻に繋がる大義名分にはならない。
最低でもこのまま何も無く、通行許可書をもらい、この帝都ナリヤから出る事。これが最低条件であったからである。
それが、いざ宰相のエミリオと話すと、武人の気骨と言うのが感じられない、つまりは何かあれば、殺してやると言った気迫が無いのである。
これではこちらを殺す動きは見せずに友好的に来るかも知れない、何とか話し合いでと考えるかも知れない、そんな不安が弾正を襲っていたのであった。
しかしこれは、無理な話であった。エミリオはどちらかと言うと文官の様な官僚タイプの人間なので、自らの手を汚した事がない、つまりは自分で殺しをする覚悟が無い気弱な人物であったのである。
そんな時であった、廊下を先導していたメイドが急に端によって頭を下げたのであった。
どうした?と思った弾正が前を向くと、向こうから豪華なドレスを着た、黒い髪の毛の女性がやって来たのであった。
「すまないが、あの女性は?」
「セレニティ帝国第三后妃様の、綾那・セレニティ様で御座います」
ほう、あれがルタイ人の第三后妃か。
そう思った弾正に1つの考えが浮かんだのであった。
弾正は、他のメイド達が驚く中、そのまま綾那の前まで行き、頭を下げてルタイ語で話しかけたのである。
「これはルタイ人がこの帝国の第三后妃と言う話は本当でござったか、某は藤永 弾正大弼 久道と申します。
今回はルタイ皇国の使者としてやって参りました、以後お見知りおきを」
「藤永弾正殿ですか。妾はセレニティ帝国第三后妃の綾那・セレニティです、ルタイ皇国は鎖国をやっていたのでは?」
「それが帝は開国を宣言され、ザルツ王国とセレニティ帝国との友好同盟と貿易を望んでおられます」
「また帝も思いきった事を……では交渉がうまくいく事を祈っております、妾はこれで」
「ありがとう御座います」
そして后妃が弾正の隣を通り過ぎた時であった、弾正がルタイ語で呟いたのであった。
「ルタイの汚名は、ルタイの手で…」
その言葉を聞いた綾那は思わず立ち止まり、弾正を見詰めると弾正はニヤリと笑みをこぼしたのであった。
この者はエミリオと妾の事を知っている。
そう思った綾那は、顔色を変えずにその場を離れたのであった。
「何て事だ、それではルタイ皇国軍と我が帝国軍が交戦してしまうじゃないか」
エミリオはアミリアの話を聞いて頭を抱えていた。
帝国軍のマニッシュ将軍はエミリオの配下の将軍で、ナッソーを攻略した後にザルツ王国に攻め込む命令と他に、反逆者エリアス・ノイマンがナッソーに潜伏しているので、エリアスとそれに関わった者全ての殺害を命じていたのであった。
しかしこの命令は実質ナッソー住民の全ての殺害を意味する事になる、関係者なんて誰が関わったのかがわからないからであるからだ。
それに弾正はルタイ皇国の兵力は1万2千と言っていた、こちらが向かわした兵力は3万とメデル子爵からの援軍が6千の合計3万6千である。
ナッソーの傭兵の数を合わしても2万にはいかないだろう、せいぜい1万5千を少し超える程であろう。
これでは圧倒的に兵力が違う為に戦にもならない筈だ、今から伝令を出しても到底間に合わない、どうするか?
そう考えてエミリオは頭を抱えていると、アミリアが驚くべき事を発言したのであった。
「どうされますか?使者を殺しますか?今なら城に入る時に武器を預かっているので、あのルタイ人達は丸腰ですよ」
「そんな事を出きるわけが無いだろう!……ここは弾正殿に釈明して、ルタイ皇国の本国に話を通していただくしかないか……」
その時であった、執務室の扉が開き綾那が入って来るなり、エミリオに真っ青な顔をして言ったのである。
「エミリオ、ルタイ人達はここに来たのか?その者達は刺客です!」
その光景にエミリオ達は何事かと思い、エミリオが宥める様に言った。
「刺客……どうされましたか?后妃様。
確かにルタイ皇国からの使者は、先程まではここに居ましたが、使者であって刺客ではありませんよ」
「違う、あの者達は刺客なのです……理由があってここでは言えませんが……」
そう言って綾那はアミリアをチラリと見たのであった。
「解りました、ではこちらでお聞きしましょう、私だけならば大丈夫でしょ?」
「そ、そうですね」
「アミリア団長も、それで良いかな?」
「かまわないよ」
「ありがとう、少しここで待っていてくれ。后妃様、こちらへ」
そう言ってエミリオは綾那を隣の部屋に案内したのであった。
「いったいどうした?何か言われたのか?」
部屋に入るなりエミリオは急かす様に、綾那に聞いたのであった。
「ルタイの汚名は、ルタイの手で」
「何?なんだそれは?」
「ルタイ皇国の血の掟です、ルタイ皇国は今まで鎖国をやっておりましたが、鎖国と言っても出国は比較的自由に出来ました、ただし、船は自分達で用意しなければなりませんが、戻って来れば死罪になるだけで、出る事は自由だったのです。
そしてこの大陸に来たルタイ人には血の掟が有ります、ルタイ人が不名誉な事をすれば、それは天に代わり、ルタイ人の手によってその者を殺さなければならない、これを天誅と言います」
「不名誉?后妃様。いや綾那、お前はセレニティ帝国の第三后妃なんだぞ、それを不名誉なんて事は無いだろう?……まさか?」
エミリオは自分で発言して気が付いたのであった。
不名誉とはもしかして自分と綾那の関係の事をいっているのでないかと。
「その通りです、そのまさかです」
「しかし、仮にも一国の后妃の命を狙うなど、とても正気とは思えない」
「ルタイ人は、相手がどの様な身分であろうが関係ありません、必ずや殺しに来ます。
それがルタイ皇国……いやルタイ人の恐ろしい所なのです、例え相手が国王や皇帝であっても、それが原因で戦になっても殺すのです」
「……とても理解しずらいが、ルタイ人の綾那が言うのであれば、そうなのであろう。
しかしそうすると、あの使者は偽物か?帝国との友好同盟は嘘なのか?」
「それは解りませんが、ルタイ皇国の帝が開国をしたのは間違いないでしょう」
「何故解る?」
「あの者は本物の侍で、弾正と言いました。弾正は帝の代わりに取り締まりを行う職です、そんな侍が鎖国をしているルタイ皇国から出る筈もありません」
「官位を偽っている可能性は?」
「それも考えられません、官位を偽ればそれこそ天誅の対象です、例え天誅の為とは言えそんな不名誉な事はやらないでしょう」
そう聞いたエミリオに、1つの仮説が頭の中で浮かび上がったのであった。
そう言えばエリアスはナッソーにいるとの情報がある、ルタイ皇国軍もナッソーに駐留している様だし、もしかするとナッソーでエリアスがルタイ皇国軍に接触し、あの事を聞いたのかも知れない。
聖導騎士団も何処かで何か証拠を手に入れた、そんな情報も入って来ていた。
そうすると、何処かでルタイ人の事を聞いたエリアスが、ナッソーに来たルタイ皇国軍にあの事を教えて、綾那の命を狙わせた、こう考えるのが自然か。
しかしそうすると、どうすれば良い?ナッソーのルタイ皇国軍は全滅するだろうし、やはりここはアミリアの言っていた様に、弾正達を殺しここには来なかったと言う事にしてしまうか。
ルタイ皇国との貿易は一旦、諦めるしか無いだろう。
「解った、お前を守るよ綾那」
「ありがとう、エミリオ」
そう言って二人は軽くキスをして執務室に戻ったのであった。
「その顔だと方針が決まった様ですね」
戻って来たエミリオの顔を見て、アミリアが言った。
「あぁ、どうやら后妃様の話は本当の様だ、今回はルタイ皇国の使者を殺し、来なかった事にする。
アミリア団長、ルタイ皇国の使者に関わった者に箝口令をしき、外部に漏らすな。
無理なら殺してもかまわん」
「了解しました、使者の暗殺は誰がするので?よろしければ私共がしましょうか?」
「……いや、アミリア団長は箝口令の方を頼む、暗殺は私の手勢で行おう」
暗部を使う気なのか、ニルセン伯爵家の私設諜報部隊……本当に皇太子の死因も暗部が関わっていたのかもな。
おっと、そんな事はどうでもいい、今は箝口令の事に集中しなければ。
そんな事を思いながら、アミリアは騎士達を引き連れて戻って行ったのであった。
我が栄光のセレニティ帝国が、外国の使者を暗殺するなんてこんな事があって良いのか?
そんな事を考えてクリスは内心憤慨していたのであった。
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「セシリーちゃん、敵が目の前に居たのによくぞ我慢したの」
案内された応接室で弾正がセシリーに言った。
最初はセシリーも意味が解らなかったのだが、すぐに自分のスターク家の事だと解り、驚きながら言った。
「弾正様、知っておられたのですか?」
「まぁの、あの小僧は過去の事はどうでも良いのか知らんが、人を信用しすぎる所があるので、ワシが個人的に小僧の回りの人物全てを調べさせてもらった、すまんな」
「いえいえ、弾正様の行った事は当然の事だと思います、私も御主人様のそう言う所は危なっかしいと思っておりましたので。
それに私の個人的な恨みなど、所詮は大事の前の小事に過ぎません、どうせ後々にでも帝国に復讐出きるのですから、今は与えられた事をやっていかないと」
「なるほど、己を殺し主君の為に働く……嬢ちゃんは、王佐の才の素質が有るかも知れんの」
「王佐の才?」
「王を補佐する才能の事じゃ、己を殺し王の為には時には非情な決断をする事が出来る、そんな才能の事じゃて」
弾正がそう言った時であった、扉近くにいた佐平次が低い声で言ったのである。
「弾正様、やはり刺客が来た様ですね、殺気を隠して平静を装っていますが、足音を立てていない暗殺者独特の歩き方をした、数名がこちらへ向かって来ます」
「弾正様、こちらも天井に数名の気配が。恐らくは窓から突入してくるものと思われます」
「やっと来たか、嬢ちゃん武器の用意じゃ。ある程度したらこの場から空間転移で脱出するぞ」
「はい!」
セシリーはそう言ってアイテムボックスの中から弾正達の刀を取り出して、各自に渡すとそのまま窓の方に向かって構えたのであった。
暫くすると、応接室の扉をノックする音が響き女性の声が聞こえた。
「失礼します」
そう言って扉が少し開いた瞬間であった、煙玉が大量の煙を吐きながら数個投入されて再び扉を閉められたのであった。
これはまずい!致死性の高い煙や、麻痺性の高い煙なら、この密閉された空間は全員に被害がおよぶ。
そう考えた弾正はセシリーに向かって叫んだのであった。
「嬢ちゃん、一旦退くぞ!」
不利と悟ったら、躊躇せずにその場から離れる決断を下せる、当たり前の話だが、弾正はその才覚に長けていたのであった。
「はい!」
そう言ってセシリーは空間転移のスキルを使うと、全員が中に入りその場から逃げたのであった。
やがて煙が収まった頃を見計らった様に、扉が静かに開き剣を持った暗部が応接室に突入してきたのであったのだが、部屋に入った暗部の者達は驚いたのであった。
煙で痺れて動けない筈の弾正達がいなかったからである、他の者が捜索しているのを尻目に、暗部の隊長らしき男が窓を開けると、男達が音もなく静かに窓から部屋に入って来たのである。
「出たか?」
「いえ」
少ない言葉で聞いた暗部の隊長らしき男は暫く考えていた。
何か変だ、この応接室は隠れる所がほとんど無い、それに窓から逃げるにしても、ここは4階で更には屋上の追撃部隊は出ていないと言っている、何処に消えたんだ。
そう考えた時であった、隊長の目の前に大きな大型の置時計が目に入ったのであった。
そう言えばこの城には、いざと言う時のセーフティールームが、無数に在り大抵は時計の裏に在ると言う話を、以前エミリオ様が言っていた。
そのセーフティールームは全て出入り口が隠されていると言う……まさかこの部屋のセーフティールームはこの時計の裏に在ってそこに逃げたのか?
そう考えた隊長は時計の裏を慎重に探して見ると時計の裏に扉を発見したのであった。
やはりここに……隊長がそう思ったときであった、後ろから声が聞こえたのと同時に隊長の首もとに刀が伸びてきたのであった。
「こんなところに隠し扉があったとはな……おっとそのまま振り向くなよ」
そう後方から聞こえた声は、静かにそれでいて殺気を隠さずに言ったのである。
「だ、誰だ?」
隊長はそう言いながら配下の者はどうなったのか?そう考えて、必死で声の主にバレずに視界に入れようとしていたのであったが、すぐに配下の者がどうなったか隊長は知る事になる。
「お前達が命を狙った者だよ」
背後の者がそう言った時、隊長の足下にゴロリと音を立てて配下の暗部の者の首が転がって来たのであった。
「振り向くと、お前もこいつらの仲間入りになるぞ」
背後のその声は、本気と言わんばかりの殺気を放っていたのであった。
「な、何が望みだ?」
「望みだと?……まぁ良いさ、これでお前達が我がルタイ皇国に宣戦布告するつもりだと言う事はよく解ったと、心して宰相に伝えよ」
「あぁ……解った……」
隊長がそう言うと、首もとにあった刀はスッと引き暫くすると、殺気も消えたのであった。
行ったか?隊長はそう思い、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには死体となった自らの部下達が横たわっていたのであった。
酷いな……それにしても、いったい何処に隠れていたと言うのだ?隠れる場所なんて無かった筈なのに。
そう思いながら隊長は自らの作戦の失敗を伝えに宰相の元へ急ぎ、向かって行ったのであった。
暗殺は失敗し、使者達は逃走し行方不明、その報告は直ぐ様エミリオの元に入ったのである。
その報告を聞いたエミリオは頭を抱えていた、これはまさに最悪の展開だからだ。
すぐに追っ手を差し向けたが、そもそも城から出た形跡が無い、場内をくまなく探しているのだが、この出来事を公に出来る筈も無く、捜索には魔女騎士団が当たっていたのであった。
しかしそれでも限界がある、エミリオはルイス皇太子の緊急の帰還を促す伝令を出し、誰もがルタイ皇国参戦の予感で不安になっていたのであったが、クリスだけが違ったのであった。
暗殺に失敗したとの話を聞いたクリスは、心の何処かで良かったと思っていたのであった。
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「しかし源三の殺気はいつもながら凄まじいものがあるの」
そう言って無言の源三の肩を叩きながら、空間転移から出てきた弾正は行ったのであった。
「弾正様、上手くいきましたね」
「そうじゃな、しかしあそこで麻痺性のある煙を使うとは思わなんだ……ワシもまだまだじゃな」
「いえ、今回は弾正様の機転によって成功した部分が多いですよ、その事もちゃんと御主人様に報告しておきますね」
「無駄じゃ、あの小僧は絶対に「弾正ならばそれぐらい出来て普通だな」って言うに決まっておるわ」
「本当に言いそうですね、ではそろそろ私達は行きますね」
「おう、逃げてきた帝国兵への追い首は任せておけと伝えてくれ」
「解りました、では失礼します」
そう言って弾正を、伏兵予定の持ち場に残してセシリー達は空間転移で左近の元に向かったのであった。
セシリー達が空間転移で左近の家に行くと、左近は縁側でアイリスの膝枕で日向ぼっこの最中であった。
この人が自分の上役の左近衛大将か若いな、しかし俺達が働いているのに自分は呑気に女の膝枕で日向ぼっことは……帝国軍も近付いているのに、こいつは余程の馬鹿者か大物だな。
佐平次はそんな事を考えて少しムッとしていたのであった。
「御主人様、只今戻りました」
セシリー達は左近の前に行きひざまづき言うと、左近はそのまま寝ながら答えたのであった。
「ご苦労様、首尾の方は?」
「はい、弾正様の計略でセレニティ帝国の宰相は私達に刺客を放ち撃退しました、まさに御主人様の仰った通りです」
「そうだろうな、弾正はこの手の計略は得意中の得意だ、アイツならばやると思っていたよ、適材適所とはこの事だな」
そう言って笑顔で言った左近に、佐平次は無性に腹が立ったので、思わず不満を言ったのであった。
「左大将様、今帝国軍が近付いているのに、こんな所で油を売っていて宜しいのですか?」
「……お前は?」
「申し遅れました、某は左近衛府所属、浅田 佐平次 長宗と申します」
「佐平次か、俺がサボっている様に見えるか?」
「恐れながら……」
「……お前戦は?」
「お恥ずかしながらこれが初陣で御座います」
「そうか、今回の戦は策を立てて布陣し、お前達の工作で八割は終わっている。それにこれからは長い戦になるぞ、休める時に休んでおいた方が良い」
「は、はぁ……」
佐平次は何か肩透かしにあったような感覚になっていたのであった。
自分が聞いていた戦の話で想像していたのとは違う、こんなのが戦と言えるのか?そんな気持ちに包まれていたのである。
それを見透かしたのか左近はある提案をしたのであった。
「信じられんか、ならばお前達二人はこのままナッソーの防衛部隊に入れ、そこで何かを感じてこい。
セシリー、バッシュに言って手配してやれ」
「解りました」
そう言って3人は左近の前から去って行ったのであった。
「本当に旦那様は意地悪ですね」
アイリスは左近の顔を覗き込んで言った。
「まぁな、初陣でよくある事だ、その証拠にもう一人の方は何も言わずに従っていただろう?」
「そうですけど……」
「しかしあの若者、将来大物になるかも知れんな、普通は上役に口答えなんかせんぞ……育てたいな」
そう言って左近は若き日の自分に佐平次を重ねていたのであった。




