偽りの正義
会議を終えた左近達は、ナッソー近郊のルタイ皇国演習場にいた。
左近達の目の前には、甲冑を全て紅にしたルタイ皇国軍約1万2千の軍勢がおり、その姿はまさに圧巻と言うべきものがあったのである。
そのまさに圧巻の赤備を前にして、臆する事無く左近は大声で演説を始めたのであった。
「聞けい!これよりセレニティ帝国が攻めてくる、諸君達はここナッソーを守るためにセレニティ帝国軍を討ち、その返す刀で帝国領の都市、パナスを攻略する事になる。
ルタイ皇国の先人達は、二度の超帝国の侵略を退けて、ここアルムガルド大陸での伝説となった。
それから数多の月日が流れて、我がルタイ皇国の武威は、最早忘れ去られようとしている。ここで我等の強さを今一度示し、新たなる伝説となろうではないか!
諸君達はその栄光ある伝説の先駆けとなるのである、ルタイ皇国に栄光を!」
『ルタイ皇国に栄光を!』
「ではこれより、新たに昇進した者を伝える!バッシュ、弾正、前に出ろ!」
弾正は俺の言葉に何でワシなんだ?と言った顔をしていたのだが、俺は無視をした。
そりゃそうだ。俺は、何も言っていないからな。
弾正の奴、何を言われるか、内心焦っているだろうな。たまには、こんな嫌がらせも良いだろう、個人的な恨みもあるからな。
弾正は、何か言いたそうな顔付きで、バッシュと一緒に前に出たのであった。
「今回この二人に、新たなる官位を授けることにする事になった。
藤永 弾正小弼 久道を、新たに従四位下弾正大弼にする事にし、藤永 弾正大弼 久道と名乗る事にし、このバッシュには、正五位上大膳の官位と名字を授けて、生駒 大膳大夫 バッシュとする事になった!」
この俺の言葉に、明らかな動揺が広がったのだが。次の俺の言葉に、全員が歓喜を上げる結果となったのである。
「この大膳は、先のアルム砦にこもる3千の敵を、僅か90の兵を指揮して陥落させた者である!諸君も武功を立てさえすれば、家柄も種族も関係無く任官もできよう!ここアルムガルド大陸では、実力の有るものが出世出来るのだ!」
『おお!』
俺の言葉にルタイ皇国の侍達が歓喜の声をあげたのであった、もちろんバッシュは何て事を言うのだと言った目をしていたのだが、ここは俺のプロパガンダに協力してもらおう。
事前に言ったら断られるのが目に見えているからね。
「左少将、蔵之介、前にでよ!」
『はっ!』
「お前達にはそれぞれ、兵4千を与える!ナッソー北城門の、左右の山に伏せて、ナッソー旧市街地から逃げ出してきた帝国軍を攻撃しろ!」
「承知!」
「かしこまりました!」
「弾正は兵2千を率いて、更にその北にある、道の別れている場所に伏せて、帝国軍が逃げ出してきた所を攻撃しろ。ザルツ王国軍3千の援軍も、そちらに配置するので、共同作戦になる」
「承知した」
「大膳!お前は兵2千を率いてナッソー防衛だ。帝国軍は、おそらく数万の軍勢となると思われる、見事防いでみよ!」
「はい!」
「では、各自の詳しい配属は弾正、お前が分けろ」
「承知した!」
「出陣は明後日とする。各自の健闘を祈る、では解散!」
『はっ!』
そう言って、俺は逃げる様にその場から去っていったのであった。
何故かって?もちろん勝手に弾正の官位を授けた事や、その他諸々を弾正に丸投げしたからだよ。
こうして逃げ帰った俺は、自宅内に指令部を作る為に、兼平と図面を見て話し合っていると、フレイアが驚くべき提案をしてきたのであった。
「……フレイア、今何と言った?」
「だから、その建物を、ウチが作ったろか?って言ってん」
「そんな事が、出来るのか?」
「当たり前やん、ウチを誰やと思ってるねん、魔王フレイア様やで。ウチのスキルの【創造主】で簡単に作ることが出来るねん」
「そんな都合の良いスキルがあったのか、何か制約はあるのか?」
「一応はあるよ、このスキルで作れる生命体は、【人造人形】しか作ることができひんねん。
その代わりに、生命以外なら何でも作れるけど、ウチが作り出す物の構造を解ってな作れへんねん」
なるほど、だからあんなジャージや、ワンピースを持っていたのか。
あれ?と言う事は、もしかしてフレイアって俺と同じく、現代から転生か転移してきた女性じゃ無いのだろうか?いくら神様の作られた魔王でも、魂は必要だろうし……勝手な推測だけど。
ジャージやワンピースの存在を知っていなければ、あんなに精巧に作れる筈もないし……ここは、二人になったときに、一度聞いてみるか。
先ずは司令室の建築だな。
「こんな感じで作れるか?」
そう言って俺が書いた図面をフレイアに見せると、フレイアは暫く考えて驚くべき提案を言ったのであった。
「……ここにモニターを付けて良い?ウチの所の、カラスの見た映像が映せるから」
その発言に、左近以外の全員が頭にクエスチョンマークが出ていたのであったが、左近だけが理解し、驚いていたのであった。
モニターって、映像を映し出されるって……俺の中で、疑惑は確信へと変わっていった。
やはりフレイアは転生、もしくは転移してきた者か、最低でも現代の知識を持っている者と言う証拠だ、これは大いなる戦力になる。
「頼むよ。所でそのカラスは、こちらの意思で動かせるのか?」
「それは無理やな、そのカラスもウチが作った【人造人形】やさかい」
なるほど、フレイアだけが操縦出来るのか。
しかしそれだけでも、かなり戦術の幅が広がる事になるな。
「解った、フレイアの好きに作ってくれて良いよ」
「よっしゃ、まかしとき」
そう言ってフレイアは、切り開かれた建設予定地に向かい、両手を差し出して呪文の詠唱を始めると建設予定地に魔方陣が出たのであった。
「創造主!」
フレイアがスキルを発動させると、魔方陣の中から中世の建物の様な家が出てきたのであった。
あまりの出来事に、唖然としている俺とアイリス達。そして目をキラキラさせて、明らかに尊敬の眼差しをフレイアに向けるラナと、しょんぼりとしている兼平がいたのであった。
「どうした兼平?」
「いや……こんな事が出来ましたら、私達大工の存在意義が……」
「大丈夫だ、こんな事が出来るのはフレイアだからだ。それにフレイアは魔王だ、毎回こんな事をやってくれる訳でも無く、お前達大工の仕事が無くなる訳ではないさ」
「しかし、それでも大工にとっては、羨ましいスキルで御座いますよ」
そう言って兼平は、落胆していたのであった。
しかしその日は、フレイアと二人っきりになる機会は無く、モニター等の存在をどうして知っているのかを聞けずにいたのであった。
次の日、セルゲンが3千の近衛兵を引き連れてナッソーにやって来たのであった。
セルゲンはやって来るなり、左近に謝罪したのであった。
「申し訳ございません、約定では5千の話で御座いましたが、他の貴族の目もあって動かせたのは3千の近衛兵となってしまいました。
陛下も左近衛大将殿に、申し訳ないと謝罪しておられました」
「問題無いさセルゲン殿。今回の事で、ザルツ王国がルタイ皇国に援軍に来た、この事実が重要なんだ、兵力は二の次なんだよ」
「そう言ってもらえると、助かります。それでセレニティ帝国は此方に向かっているので?」
「あぁ、到着予定は明後日、兵力は帝都ナリヤから3万とパナスから6千の合計3万6千だ。
それに対して我が方は、ルタイ皇国軍1万2千とセルゲン殿の近衛兵3千、そしてナッソーの十字軍と傭兵部隊を合わせた5千の合計2万だな」
「3万6千……この兵力差では戦にならないのでは?」
「そんな事はないさ、戦術次第でどうとでもなる兵力差だ。
そこでセルゲン殿には、ナッソー北側の、この別れ道の在る山で隠れて布陣してもらい、逃げて来た帝国軍を弾正の部隊と一緒に攻撃して頂きたい。
その時に帝国軍は全て討ち取らなくて良い、逃げて帝都に報告してもらわないと困るからな」
「……それは構いませんが、差し支えが無ければ、作戦の全体の説明をしていただいても宜しいでしょうか?」
それもそうだな、セルゲンだけになら作戦が漏れる心配は無いだろう。
俺はそう思い、空城の計の説明をしたのであった。
「何とも大胆な作戦ですね、都市を1つ燃やしてしまうとは……」
さすがこの若さで、ルタイ皇国の左近衛大将になるだけの事はある。あの武力に、この作戦を考える頭脳、陛下の、この男と組むと言う決断は、やはり正解だったのか。
しかし、予定の魔王軍がいない……やはりそれは、さすがに左近衛大将殿でも無理だったのか?
セルゲンはそう言いながら、何の迷いもなく話す左近に、内心恐怖の感情を覚えていたのであった。
「我等の門出に相応しく、ド派手にいこうではないか。
それと、帝国軍を撃退したら我がルタイ皇国軍は、そのままパナス攻略に向かう、セルゲン殿はそのままザルツ王国に帰国してくれ、ここからは我がルタイ皇国の戦になるからな」
「そうですか……左近衛大将殿、軍はザルツ王国に退かせますが、私はルタイ皇国軍に付いて行き、ルタイ皇国の戦を見ても宜しいでしょうか?」
コイツは何が目的だ?
……そうか、ここで俺の戦い方を見て、もしも敵になった時の為に、対策を考えようとしているのか。
それならば、敵に回るのは愚かな事だと、知らしめる事が出来るかも知れないな。
「構わんよ、ただしルタイ皇国の戦術には、口出しは無用だ」
「それは、心得ております」
「それと我がルタイ皇国には、もう一組の客人がいるので、無礼の無いようにな」
客人?もしや他の国が、内密にルタイ皇国に接触してきているのか?
そんな事を考えながら、セルゲンは左近に聞いてみたのであった。
「もし宜しければ、そちらの御方がどなたか聞いても宜しいでしょうか?」
「……構わんよ、どうせ一緒にいれば分かるし、知らずに何かしてしまったら、セルゲン殿が死んでしまうしな。
魔王陛下と、その護衛のメイドだよ。」
その言葉にセルゲンは、思わず言葉を失ったのであった。
無理だったと思っていた魔王を左近は味方に引き入れた。もしくは、味方に引き入れるのに王手をかけた事になるのでる。
この左近の提唱する同盟に入らなければ、あのルタイ皇国と魔王軍の両方を敵にする事になる、しかも今なら左近は対等な同盟関係と言っている、この話に乗らなくては、王国は完全に滅ぼされてしまうだろう。
そんな事を考えながらセルゲンは、ここまで先の事を読んで、左近についたゲハルトに尊敬の念を贈るのであった。
「……そうですか、所で弾正殿は、既に布陣されているので?」
「部隊は既に布陣しているのだが、弾正はちょっと野暮用でセレニティ帝国に行っているよ」
「野暮用?」
「あぁ、今はそろそろ帝都ナリヤに到着する頃だろう、この工作で我等の方に正義が有る事を、帝国国内に思い知らせるのだ」
そう言って左近は空を見上げて言ったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
セルゲンがナッソーに到着したその頃、弾正とセシリー、そして護衛の侍2人はセレニティ帝国の帝都ナリヤ近郊の森林に空間転移で移動していたのであった。
「周辺に人は、いないな……しかし、セシリーの嬢ちゃんの服装は、本当に魔法使いのようじゃの」
「もう弾正様、魔法使いのようじゃ無くて、本当に魔法使いなんですよ」
「おう、そうじゃった、そうじゃった」
そう言っておどけた弾正に、セシリーは頬を膨らませて言ったのであった。
「弾正様、そろそろ」
そう言って護衛の侍が言うと弾正は頷き言った。
「そうじゃな、そろそろ向かうとするか」
そう言って弾正達は帝都ナリヤに向かうのであった。
この護衛の二人の内の年老いた者は、山田 源三 時臣と言って左近衛府に所属する歴戦の勇士であり、もう一人の浅田 佐平次 長宗は、歳はまだ20歳の若者で、この若者も左近衛府に所属する侍であった。
「弾正様。左近衛大将様と、以前よりお知り合いの様で御座いましたが、左近衛大将様とは、どの様な御方なのでしょうか?某は、まだ無官位なので、話す機会も御座いませんので」
「なんじゃ?佐平次は、小僧の事が気になるのか?」
「そりゃ気にはなりますよ。いきなり左近衛大将に抜擢される様なお人の事を、左近衛府の誰も知らないのですから」
「そうじゃな……ワシも小僧の事は、はなたれ小僧の時代から小僧の時代までしか知らぬが、キレやすいのは変わっておらなんだな。
戦の腕前は上がっておるが、まだまだじゃよ……しかしあの小僧の回りの女性じゃ、何であんな小僧にセシリーちゃんの様な可愛い女の子が集まって来るのか……ワシには理解が出来ん」
「それは、御主人様が良い男だからですよ」
弾正の可愛いの一言で、気を良くしたセシリーが、明るく答えた。
「そうか?ワシの方が、良い男なんじゃがの」
「皆様、私語は慎んで下され、そろそろ城門ですぞ」
「なんじゃ源三は、真面目じゃの。まぁワシの役者っプリを見ておけ」
そう言って一行は、城門に近付いて行ったのであった。
さすがに、セレニティ帝国の帝都ナリヤである。城門の人は入場の許可を求めて、行列が出来ていたのであった。
弾正はその光景を見て、さすがにこの行列に並ぶのかと、うんざりしていた所に遠くから騎馬で急いで城門に向かって来る女騎士の姿があったのである。
「あれは……クリスティーナ様?」
セシリーが思わず呟いた言葉を、弾正は聞き逃さなかった。
「おい佐平次、あの者を止めてまいれ」
「弾正様、殺すのですか?」
「お前は、何でそう毎回短絡的なんじゃ、無傷で止めるのじゃ」
「解りました……無傷、無傷ね」
そう呟きながら佐平次は、馬に股がりクリスの方に駆け出したのであった。
「あいつ大丈夫かの?」
「佐平次さんって、そんなに危ない人なんですか?」
「危ないと言うか、破天荒なんじゃよ」
そう言って弾正はセシリーから目をそらして言ったのであった。
クリスは馬を必死に駆けていた、原因は宰相のエミリオ・ニルセンの命令で、およそ3万の軍勢が何処かに向かったとの情報を手に入れた為であった。
情報を聞いたルイは、急いで帝都ナリヤにいる、魔女騎士団の団長でクリスの母親のアミリアに伝えて、真相を究明してもらおうと、クリスに伝令を頼み、帝都ナリヤに送り出したのであった。
宰相め、ルイに無断で軍を動かして、何処に向かったと言うのだ。この情報を早く母上に知らせねば、また何かやらかすかも知れん。
そう思いクリスは帝都ナリヤに向かって急いでいると、いきなり目の前に、馬に乗ったルタイ人が現れて叫んだのであった。
「暫し待たれよ!!」
危ない!
そう思ったクリスは思いっきり手綱を引くと、馬が驚き暴走し、クリスは馬にしがみついたのだが、振り落とされてしまったのであった。
身体に衝撃を覚悟したクリスであったが、衝撃が無い。
「あれ?何で?」
そう言ってクリスが目を開けると、ルタイ人にお姫様抱っこをされて、地面との激突を免れていたのであった。
「申し訳ない、某が驚かせてしまったばかりに……ん?」
佐平次は、その手に感じる柔らかい物は何かと、何度も感触を確かめたのであった。
「おい、下朗……死ぬ準備は出来ているのだろうな?」
クリスのキレ気味の言葉に佐平次は、初めて何の感触か気が付いたのであった。
「こ、これは申し訳ない!これは偶然だ、貴女を助けて偶然だな……」
「もう良い、とりあえず下ろしてくれないか?」
「あぁ、すまない」
そう言って慌てて佐平次は、クリスを下ろしたのであった。
本当に、何なのこのルタイ人は。ルイと違ってがさつなんだから……馬は、逃げて行ってしまったか。
このルタイ人、馬を持っているな、こいつに送らせよう。
「所で、どうして私を止めたので?」
「あぁそうでありました。私の名前は浅田 佐平次 長宗と言います、私の上役がどうしても貴女とお話がしたいとの事でしたので」
「クリスティーナ・マクレガーだ、とりあえずはその上役の話は聞いてやる、だがお前は、その後で私を帝都の城まで送れ」
「いや、こちらも仕事が……」
「誰が私の胸を……」
「解りました、喜んで送らせて頂きます!」
「ならば先ずは、その上役の話を聞こうか」
そう言って、クリスは佐平次の馬の後ろに乗って弾正の元に向かったのであった。
「お前は、左近衛大将殿の所の双子の……」
「お久しぶりですクリスティーナ様、セシリーで御座います」
城門に到着したクリスの目の前には、あの日アルム砦攻略の軍監で行った時に、左近達十字軍の魔法部隊にいた双子のセシリーがいたのであった。
と言う事はこの一行は、ルタイ皇国の左近衛大将の使者かルタイ皇国本国の使者になる、これは無下には出来ないと、クリスは思っていたのであった。
「久しいなセシリー、今日はどうしてナリヤまで?」
「それはワシの方から説明しよう」
そう言って弾正が前に出て言ったのであった。
「失礼だが貴公は?」
「申し遅れた、某は藤永 弾正大弼 久道と申します、此度はルタイ皇国の帝からの親書を持った使者一行の通行許可を頂きに参った次第。
それに使者殿の護衛はルタイ皇国武士団、1万2千なので勝手に国境を越えれば戦になる、前以て許可を頂いてから此方に来た方が、お互いのためじゃろ」
なるほどね、ルタイ皇国はザルツ王国だけじゃなく、我がセレニティ帝国にも、友好を結んで貿易をしたいのか。
だとすれば、この案件は宰相殿になるな。
「解りました、そう言う事でしたら御一緒に城まで行きましょう、申し遅れましたが私はセレニティ帝国魔女騎士団のクリスティーナ・マクレガーと申します」
「おぉ、それは助かる、クリスティーナ殿。それと入場の事なんじゃが……」
弾正は行列を見て、言いにくそうに言うと、クリスは弾正が何を言いたいのかすぐに理解したのであった。
「大丈夫ですよ。今回は、私が皆様の身分を保証致しますので、このまま私と一緒に行きましょう」
「そうか、そうか。本当に助かりましたよ」
「いえいえ、では御一緒に城まで参りましょう」
クリスがそう言うと一行はクリスの顔パスで帝都ナリヤに入って行ったのであった。
さすがは帝国の首都、帝都ナリヤである。
世界中の物が集まっているかのような市場に、人は溢れかえり、馬に乗ってもなかなか進まずに大渋滞を起こしていたのであった。
その中を弾正達は、城に向かって進みながら、会話をしていたのであった。
「では弾正様達は、ナッソーに軍を駐留させていらっしゃるので?」
「そうじゃよ。流石に、ここまでは軍を率いては、来れんからな」
なるほど、やはり左近衛大将がナッソーに住んでいるのは、この為か、ナッソーならば確かに中立地帯なので他の国との争いが起きにくい。
ルタイ皇国は本気でザルツ王国とセレニティ帝国と友好を結びたがっているのか。
しかしこの2カ国と友好を結んでは、お互いの援軍に武士団を派遣するのは難しいか、だが経済は潤う、この話は乗らなくちゃいけないのは、素人でも解る事だな。
そうしている間に一行は城までやって来たのであった。
「すみません少しここでお待ちを、私が話を通してきます」
そう言ったクリスは門番に何かを告げると、一人の兵士と共に戻って来たのであった。
「私は、これから所用が有りますので、ここからはこの者に案内させます。では失礼致します」
「あぁ、クリスティーナ殿ありがとう」
そう言うとクリスは母の元へと急いで向かって行ったのであった。
「失礼します!母上、一大事で御座います!」
「だからここでは、団長と呼べと言っているだろ!」
「す、すみません団長!」
勢いよく入って来たクリスの叱ったこの女性は、クリスの母親でもあり、セレニティ帝国の魔導剣士ばかりの騎士団、魔女騎士団の団長、アミリア・マクレガーであった。
「まぁ良いさ、所で一大事ってなんだい?」
「ルイに……ルイス皇太子殿下からの伝言で御座います、宰相殿の軍勢が南に向かったとの情報が入ったのです。
そこで我が魔女騎士団に、目的を探って欲しいとの事で御座います」
「なんだそんな事かい、宰相殿の軍勢は、パナスのメデル子爵の援軍に向かったんだよ。
何でも、メデル子爵の軍勢と合同でナッソーを攻略して、それを足掛かりに、ザルツ王国へ攻め込むらしいんだ。
あの宰相殿にしては、中々な作戦じゃないか……んどうした、真っ青な顔をして?」
アミリアの言葉を聞いたクリスは、顔が真っ青になって今にも倒れそうになっていたのであった。
ナッソー攻略に向かった軍勢の先にはルタイ皇国の武士団がいる。これで、もしも使者を殺しでもした時は、せっかく友好を結ぼうと気を使って、軍を待機しているルタイ皇国に、宣戦布告する様な物である。
クリスが、真っ青な顔をするのも、無理はなかったのであった。
「母上……今ルタイ皇国の、使者の御方が来られまして、セレニティ帝国と友好を結ぼうと、親書を持った使者と護衛の武士団が、帝国領内を通行する許可を、頂きに来られております」
「あのルタイ皇国か!それは良い事じゃないか!」
「それが、帝国に気を使って駐留されているのが、国境の中立地帯の都市……ナッソーなんですよ」
アミリアは、そのクリスの言葉だけで全てを悟ったのであった。
今から撤退の命令は届くはずもなく、届いた頃には既に戦火の火蓋が切って落とされているであろう。
最早ルタイ皇国とセレニティ帝国の戦争は避けられないのである。
しかも帝国の事を考えて友好的にしている、ルタイ皇国に奇襲の様な形で宣戦布告するのだから、完全にセレニティ帝国には正義が無いのであった。
この事が、外に漏れれば……いや、ルタイ皇国は、必ずやそう宣伝してくるだろう、そうなれば周辺国からの援軍は受ける事が出来ない。
他国はもちろんの事、貴族や王家の全ての人は体面やメンツに異常にこだわる、そんな人達に使者をいきなり襲って殺しましたとあっては、この正義が無い戦いに誰が本気で戦うか。
更には、ザルツ王国がこの機会を逃す筈もなく、必ずや動くであろう、そうなれば今は優勢なこの状況が一気に覆され、国家存亡の危機になるのは火を見るより明らかであったのである。
そう考えたアミリアの行動は素早かった、直ちに魔女騎士団に号令をかけて宰相の元に向かったのであったのだ。
「皆急げ!」
そう言って魔女騎士団達は宰相の部屋に、向かったのであった。




