空城の計
左近は四頭会に出席していた、今日の議題は新しく出来たナッソーの新市街地に住民の移住希望が殺到していたからである。
それもその筈である、基本的ナッソーの旧市街地は上下水道が整っていないので、何かと住むにしても不便なのであった。
その点、新市街地は上下水道が完備され、公衆浴場も在り、土地も縦長だが全長が30キロ以上在り広大である。
更にはキチンと区画整理もされて土地も無償で貰えるので、自分の家もその気になれば建てられる。
そんな場所に人口が2万人しかいない、ナッソーの住民が移り住みたいと思うのは当然の事であった。
ただし現在は、セレニティ帝国のスパイを警戒して、情報漏洩を防ぐために、新市街地への移動は制限されていたのである。
「どうすんだこれ、どれもこれも移住させろって陳情が来ているぞ。下手すりゃナッソーの住民全てが移住しかねんぞ」
オヤジさんは書類を見て飽々して言ったのであった。
「情けないねぇ、こんな意見押さえ付けてしまいなよ。それでも同じ傭兵に【踊る狂人】って言われたウォルターともあろうお方かい」
ママがニヤケながら言った。
踊る狂人って、オヤジさん……想像できる自分が嫌だ。
しかし、このまま放置って訳にはいかないよな、ナッソーの住民は殆どが荒くれ者の集団だ、今はその中でも力のある俺達で押さえ付けているが、このままなら暴動になりかねん、どうするか……。
「めんどくせえから、いっそうの事、全員を新市街地へ移住させて、ここを再開発しちまうか?」
ダルそうにダッチが言った。
ダッチの奴、また適当な事を言って……待てよ……その案、かなり良い案かもしれんな。
「ダッチ、お前のその考えを採用しよう」
「え?大将何を言っているんだ?」
俺の言葉にダッチは、キョトンとして言った。
「そうだぞ左近……まさか?」
「良いね左近、私はそんなシンプルな考え、好きだよ」
どうやらオヤジさんも、ママも気が付いた様だな。
「まぁ聞いてくれ。ダッチの言う様に、この旧市街地の住民を全員、新市街地へ移住させ、セレニティ帝国の軍をここに誘き寄せ、街ごと焼き払ってやろう。
そして、焼け野原になった旧市街地を再開発する。まさに一石二鳥の考えだ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!そんな事は、無理だろ。
いくら移住希望が多いと言っても全員じゃ無いし、さすがに全員の移住は無理だろう」
「ダッチ、お前が言い出したんだ、そこはお前が何とかするしかないだろう?」
「ママぁ……」
「何を泣き言言っているんだい!玉付いているんだろうが、とっととおやり!
所で左近、再開発の費用はどうするんだい?」
「そうだなぁ、セレニティ帝国にでも出させるか。ナッソーに、奴等が攻めて来て、旧市街地が焼け野原になってしまったと言う筋書きにしてな」
「良いねぇ、ついでに新市街地への費用も、少しは負担させてやろう」
「俺は再開発して店を新しくしたいな、今のこの店は上下水道が整っていないので大変なんだよ、キッチンも狭いし。
もちろん、再開発の費用なんだから、その金も帝国に出させよう」
「俺はママの屋敷の様に、豪華な屋敷が欲しいな……もちろん出るんだろ?」
コイツら、帝国に出させようってだけで、そこまでねじ込もうとするとは……一番怖いのは、このメンバーかもしれん。
「まぁ交渉次第だが、大丈夫だろう。その代わり皆の協力が必要だ、頼むよ」
こうしてその日から早速、住民の新市街地への移住が始まったのであったが、新市街地への移住を嫌がる者も少なからず出たようだが、そこはダッチが話し合いと言う名の地上げ屋紛いの交渉で、全住民の移住は全てが順調に行ったのであった。
そして1週間後、その情報は突然やって来たのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「報告します!北の山に4本の黒い狼煙!敵襲です。
到着予定は、およそ4日後かと思われます」
囲炉裏の間でくつろいでいた左近達に、伝令が飛び込んできたのであった。
「とうとう来たか!バッシュ移住の進行具合は?」
「はい、あと3日はかかるかと」
「ギリギリだな……ザルツ王国からの援軍は?」
「先程、明日には到着すると報告が」
「これもギリギリだな……よし、バッシュ4頭会を召集しろ、アデルは忍を率いて偵察だ、お前達なら明日には戻って来れるだろ」
「はい」
「承知!」
「クロエは弾正に言って、ルタイ皇国の武士団を召集させろ」
「かしこまりました」
「俺は魔王の元に一度行ってくる、セシル一緒に来い……いや先ずは俺が行ってからだな」
いきなり魔法のデスを、なん連発もブッ放つ奴だからな、俺は甲冑のおかげで大丈夫だが、セシルは違う。
セシルを殺されては、たまったものじゃないからな、先ずは俺が行って先行して話を通した方が安全だろう。
「まぁ他の者は、待機していてくれ」
そう言って俺は、魔王の元に空間転移したのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
空間転移して魔王の部屋に出てみると、誰ッスかあんたは?
そう、俺が空間転移するとそこには、ベッドに横たわり本を読んでいる、ジャージ姿でボサボサ頭のメガネ女子がいたのであった。
「……もしかして、フレイアか?」
俺のその一言で、顔をひきつらせながらも、ゆっくりと振り向いたその女性は、俺の姿を見て絶叫したのであった。
「ぎゃあああああああ!」
その言葉を聞いた俺は、フレイアだと確信して瞬時に、空間転移の黒煙、名付けて【黒煙甲冑】を纏うと、フレイアは残像を残して、瞬時に俺の背後に周り、抜き手で俺を突き刺したのであったのだ。
だが、その抜き手は、黒煙甲冑のおかげで、俺の身体に触れる事は無かったのであった。
ヤバかった、黒煙甲冑を纏っていなかったら、確実に死んでいた所だった、どうせデスの魔法も連発で放っていただろうし、セシルを連れて来なくて良かったよ。
その瞬間、フレイアの悲鳴を聞いた、衛兵であろうゴブリンが部屋に入って来たのであった。
「魔王様、どうされま……」
勢いよく入って来たゴブリンは入った瞬間にその場に倒れて、シャボン玉の様になったのである。
コイツ味方でもデスを放つのかよ……ヤバすぎだろ。
「フレイア!とりあえずは落ち着け、俺だ!左近だ、清興だ!」
「だからやねん!こんな姿を見たからには、生かしてはおけん!せめて記憶の消去だけでも!」
あ、要はあの干物っプリの記憶を消したい訳ね。
「大丈夫だ、俺はむしろ、その姿の方が親しみがあって、良いと思うぞ!
それに、お前の美貌は、こんな事では隠す事が出来んよ!」
「え?……ホンマに?」
「あぁ本当だよ。フレイア、お前はどんな格好でも、美しいと思うぞ」
「い、嫌やわぁ。そんな、ホンマの事を言って」
「ハイハイ、のろけは、それくらいにして下さい」
そう言って、呆れたリーゼロッテが入って来たのであった。
「魔王様、またですか……もう何も言う気力が無くなりましたよ、こう毎回だとね。
所で左近殿は、今日はどうしましたので?」
「そうだ、俺の住むナッソーにセレニティ帝国が攻めてきた。
到着予定は4日後。前に言っていた例の計画を開始するぞ。
それと連絡役に1人、ここに来れる様にしておきたい。さすがに、この場所は無理だろうが、何処か適当な場所はあるか?」
暫くリーゼロッテが考えて言った。
「それなら1室用意しましょう。外に出るのは、流石にまずいので、その部屋にメイドも交代で詰めて、連絡が出来る様に手配しましょう」
「さすがリーゼロッテ殿だ、頼りになるよ」
そう言った時に、俺の背後から殺気を感じたのであった。
どうやらフレイアが、リーゼロッテに嫉妬している様だ、話題を変えるか。
「所で魂を集めるのは、どうするんだ?」
「それは、もちろんウチがその場に行って、魂を回収するねん」
「さすが魔王だな。しかし、フレイアがナッソーに来るとして、その間は神魔国の方は、大丈夫なのか?」
「その辺は完璧や、清興はその連絡役を連れておいで、リーゼロッテはカルラを連れて来て」
「分かった、しかし他の者の前では、左近で頼むよ」
「分かった、分かった」
こうして俺は一旦ナッソーに戻り、セシルを連れてフレイアの元に戻ってきたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
セシルを連れて戻って見ると。
今、俺達の前にはどう見ても、RPGのラスボスにしか見えない、鎧に包まれた人物が立っている、兜も顔を隠しているので見えない……誰だこれ?
「すまんが、もしかしてフレイアか?」
「他に誰がいるちゅうねん、ウチに決まっとるやろ!」
その言葉にセシルは、恐怖でガタガタと震えだしたのであった。
圧倒的な強者で、魔族の王の前に立つ恐怖は、普通の者は恐怖で頭がおかしくなるだろう。
しかも、こんなにも、いかにも魔王と言った鎧だ、セシルは良くもっている方だろう。
「……で、その鎧は?」
「外出用の鎧や、これで目立たへんやろ」
「余計に目立つわ!そんな恐怖しか振り撒かない鎧は禁止だ!
ほら、セシルを見てみろ、恐怖でガタガタと震えてるじゃないかよ!」
「えー、でもウチはこれしか鎧は持っていないで」
「俺が用意するから……とりあえずは脱げ、それと誰でもデスをブッ放つのも禁止だ。
毎回誰かを殺されては、たまったものじゃないからな」
「それは、このガルド神魔国でも、お願いしたいですな」
俺がそう言うと、背後から声がしたのであった。
振り返るとそこには、リーゼロッテさんと、烏天狗の様な格好をした男性が立っていたのであった。
「カルラ、あんたまで、何でそんな事を言うん?」
「いやいや、今日も衛兵の1人をデスで殺したでしょう、毎回これだと魔族はいなくなりますよ。
申し遅れました、私はガルド神魔国軍の最高指揮官をさせて頂いております、将軍のカルラと申します、以後お見知りおきを」
「島 左近衛大将 清興だ、気軽に左近で頼むよ。もしかして貴公も、頭を痛めているのか?」
「カルラで良いですよ。左近殿、魔王様のデスを連発で2度も食らっても平気だとはさすがです。
左近殿からも言って下さい、毎回デスで部下を殺されては、軍の方も人員が少なくなり、更には栄光ある陛下の衛兵のなりても少なくなって、困っているのですよ」
どうやらカルラも同じ考えの様だったな、何とかするしかないか。
「フレイア、誰でもデスで殺すのは良くないんだ、そんな事をしていたら俺は嫌いになってしまうよ」
「……そんなん嫌やぁぁぁ!嫌や、嫌やぁぁぁ!せっかく彼氏が出来たのに、すぐに嫌われるなんてウチはどうしたらええのぉ……」
そう言ってフレイアは泣き出してしまったのであった。
「大丈夫だ、まだフレイアの事は嫌ってないよ」
「……ホンマに?」
「あぁ本当だとも、でもな毎回敵以外をいきなり殺す女性は俺は嫌いだ、そんな危険な女性は一緒にはいられないからな。
でもフレイアは、もうそんな事はしないよな?可愛いフレイアには、そんな事は似合わないよ」
俺がそう言うとフレイアは、顔を赤くして静かに頷いたのであった。
「では、陛下のお着替えをしますので。カルラ様、左近様を控室の方へ、案内を頼めますか?」
「控室?……おぉあの話か、解った左近殿こちらへ」
そう言って俺達は、カルラに連れられて控室に、案内されたのであった。
「いやぁ助かったよ左近殿。まさかあんなに効果があったなんて、あんな陛下は俺は初めて見たよ」
そう言って、カルラはソファーに、ドカッと座って言った。
「何だかカルラ殿も、大変なんだな」
「大変も大変だ。あのノリで、何人の部下が殺されたか。
俺やリーゼロッテはもちろん、他の者の言う事は陛下は聞かないしな。
今後も、左近殿の名前を出して良いか?」
「もちろん良いよ。所で連絡役の転移先は、ここで良いのか?」
「そうだ、ここで頼むよ。ここには、メイドが最低1人は常駐するように、リーゼロッテが手配するそうだしな」
「出来れば、キリバ語が話せる者で、頼むよ」
「了解した、まぁここの城にいる者は、殆どがキリバ語を話せるから問題が無いだろう。
その人間の姉ちゃんが、連絡役か?」
「そうだ、名前はセシルと言う」
「……セシルです、宜しく御願いします」
そう言ってセシルは、カルラに深々とお辞儀をしたのであった。
「ガルド神魔国の将軍カルラだ。気軽にカルラと呼んでくれ、宜しくなセシル。
しかし左近殿よ、俺はまだ、左近殿の指揮を見た訳では無いので、まだ軍を任せる事には賛成できない。
そこで提案だが、今回の戦で、出来る限り味方の被害を最小限にし、勝利してリーゼロッテに見せ付けてくれ。
これが俺からの条件だ。さすがに、いきなり陛下の彼氏に、軍を指揮させろって無理な話だろ?」
カルラの気持ちも解るな、コイツはどうやら部下の命を大切にする将軍の様だ、今はこうフレンドリーに接してはいるが内心は、嫉妬や憤りの気持ちでいっぱいなんだろう。
そんな感情を全然見せないなんて、とても優秀な将軍なんだな。
「もちろん、異論は無いさ。こちらとしても魔族の戦い方は全くの素人だ、カルラ殿に殆ど頼ることになると思う」
「そう言ってくれると、こちらとしてもありがたいよ」
そう言っていると控室の扉が開き、薄いピンクのワンピースに麦わら帽子のフレイアが、リーゼロッテに連れられてやって来たのであった。
「お、お待たせ……ウチ……変やない?」
「い、いや……超絶可愛いよ」
これは本音だ、よく見るとフレイアは本当に可愛い……いやよく見なくても可愛いのだが、何で魔王なのか不思議だ、こうして見ると普通の女の子に見える。
現に、セシルもフレイアの姿を見て、恐怖を忘れ去り、キョトンとしている。
「……ありがと」
そう言ってフレイアは照れて下を向いてしまったのであった。
身長は低いが大人っぽいアイリスに、元気イッパイの健康的美少女ラナに、知的なセシルにセシリー、そして何処かあどけなさの残るフレイア……完璧なハーレム状態じゃないかよ!ただこの状態は、紙一重だと思う。
そうだ特にアイリスだ、アイリスは想像以上に嫉妬深い、更には義父殿もいる事だしフレイアの事は慎重にいかないと、全てが炎上する恐れがある。
ここはフレイアと厳重に約束事を決めておこう、だが俺の言葉はセシルには解るが、他の者の言葉は魔族語なので解らない、余計な話は避けるか。
「なぁフレイア、俺との約束事を決めておかないか?」
「約束事?」
「そうだ俺とフレイアの二人の約束だ。先ずは、誰でもすぐに殺すことはしない、向こうでは俺が守ってやるから」
「守ってくれる……」
そう言ってフレイアは、何故か赤面していた。
「それと、前に言った事を覚えているよな?」
「あの事ね……」
そう言ってフレイアは少し悲しそうな顔をしていたのであった。
何だか可哀想だな。
「そうだが、向こうに行けば、フレイアは俺の家族の様に扱わしてもらう、良いか?」
「か、家族……もちろん、良いに決まってるやん!」
何だか浮き沈みが激しいな。
「フレイアは外の世界を見た事が無いだろうから、これを機会に何かと学べば良いよ。
所でフレイアは魔王なのに、こちらに来ても国は大丈夫なのか?」
「それについては、私の方から。陛下は自身にそっくりな【人造人形】をお持ちである、それを身代わりにしてよく公務をサボられているのでな……」
そう言ってカルラは目頭を押さえて言ったのであった。
そうか、カルラもフレイアに振り回されている1人か。
「そうか、少しはその辺も変えれるように頑張ってみるよ」
「左近殿、頼むぞ色々な意味で!」
「任せろ、色々な意味で!」
そう言って俺とカルラはガッチリと握手をして、俺達はナッソーに向かったのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺達は、囲炉裏の間に集合していた。
フレイアはと言うと、人見知りのせいか、俺とリーゼロッテの後ろに、隠れていたのであった。
もしかしてフレイアは、凄い人見知りの恐がりで、今まではその恐怖のあまり、デスで殺してきたのかも知れない、そう考えれば気持ちは分かる。
ダンジョンで魔王になるまで、いつ自分を殺しに来る者が現れるか、分からない恐怖の中で、1人で途方もない時間ダンジョンにいたのだ。
そして、今フレイアは、初めて外の世界を見る事になる。こうなるのは、当然の様に思えてきた。
「しかし、魔王がこんなに可愛い少女だったとは……まだ私は信じられないよ」
ママがフレイアを見て、呆れて言った。
「失礼ですが魔王様、もしくは陛下です。外の世界の者は、相手に敬意を払うと言うことを、知らないのですか?」
「……何?」
ヤバッ、いきなり険悪なムードかよ。
「まぁまぁ、ママよ。今回は、そちらのお嬢さんの言う通りじゃろ。そんな事よりこれからの作戦の方が大事じゃて」
ナイス弾正!しかしお前が、敬意について語るなと言いたいが、今回ばかりは、そっとしておこう。
「そうだなぁ、今回はこう言った策でやっていきたい」
こうして俺は、作戦の説明を話したのであった。
「ふむ、空城の計か……上手く行くかもしれんな」
弾正は感心して言った。
「しかし、少々これは、卑怯なやり方では?」
エリアスがあまり納得しない感じに言った。
「エリアスよ。正々堂々と真正面からぶつかって、我等は勝てるかの?」
「弾正殿まで、そんな事を言っておられるのか?ぶつかって勝つか負けるかは、時の運で御座います。
それで討ち死にするのは、武人の誉れでありましょう!」
「なんと愚かな……」
弾正は、呆れ果てて言ったのであった。
「まぁまぁ、義父上殿も落ち着いて。弾正も少し言い過ぎだぞ」
「婿殿……」
これは少し義父上殿の考えを改めるか。
「義父上殿。戦場で死ぬのは、確かに武人の誉れで御座いましょう。
しかしそれは、あくまでも個人の誇りの為で、真の忠義とは言えません。
正面からぶつかっても、勝てる確率は五分と五分。
それに、義父上殿が亡くなっては、誰が皇帝陛下に報告するのですか?
例えどんな手を使ってでも生き残り勝利を捧げ、主君の為に働く。その為には、己の武勇や名誉は捨てても忠義をつくす。
これがルタイの考え方で御座いますが、義父上殿も己より帝国の事を優先に考える点では、同じでは?」
「確かに、それはそうなのだが……」
「忠義の談義は、ここまでにしてくれないか、さっさと本題に移ろうじゃないか」
この話に飽々してきたのか、ママがダルそうに話した。
「それもそうだな、ママの言っていた様に、ここからが本題だ。
ナッソーを無事に防衛してからの話しだが、バッシュお前は十字軍を率いて、このナッソーの防衛に当たれ」
「私が、ですか?」
「そうだ、俺はルタイ皇国軍を率いてパナス攻略に向かう。
しかし恐らくだが、このナッソーにも帝国がもう一度進軍してくる可能性もある。お前にはその防衛の指揮官になって欲しい」
「……解りました、その大役引き受けましょう」
そう言ったバッシュの眼は、闘志がみなぎっていたのであった。
あまり気負わない様に願うのみだが、ここは念のために、補佐官を付けておくか。
「オヤジさん、ママ、これはルタイ皇国からの依頼と、受け取ってもらってもかまわない。
俺が戻るまでの間に、バッシュを補佐してもらえないだろうか?傭兵で数多の戦場を潜り抜けてきた二人の助言ならば、バッシュも助かると思う」
「私からも、宜しく御願いします」
そう言って俺とバッシュは、二人に頭を下げたのであった。
「おいおい、二人とも俺の事を買い被りすぎだろ……だが、この街を守るためだ。仕方ない、解ったよ」
「ありがとう、ママは?」
「私は、出す物を出して貰えれば、文句は言わないよ」
まずい!これは、かなりボッタくられそうな予感しかしないぞ。
「出来る限り安くしてくれると、助かるのだが……」
「1日千シリングだ」
1日10万円はボッタくりすぎだろう!
「さすがにそれはやりすぎだろう、100シリング!今回は、オヤジさんがいるので、ママだけじゃ無いぞ」
「……800!」
「200!」
「500!」
「300だ、それ以上は出せん」
「……解ったよ。300シリングで、帝国軍を撃退出来たら特別ボーナスでどうだ?」
その辺が妥当かな。
「それで良いだろう」
「で、俺は何をすれば良いんだよ?」
「ダッチ、お前には重要な事を任せたい。
先ずは配下の者を使って、パナスに帝国がルタイ皇国に宣戦布告して、パナスが標的になっている、皆殺しになるかもしれないと、住民に噂を広めてくれ。
実際に攻め込んだら、皆殺しにするので、少しでも逃がしてやりたい」
俺のその言葉を聞いたダッチは、その惨状が解るかの様に、ゴクリと唾を飲み込んで言ったのであった。
「わ、解った……他には?」
「お前、ルタイ皇国の私掠免状って、欲しくはないか?」
「私掠免状?何だよそれ?」
「ルタイ皇国がバックについて、堂々と盗賊や海賊が出来る免許の事だ。
その代わりに襲うのは、ルタイ皇国が認めていない商隊等になるがな。
それと損害額を引いた、純粋な利益の3割りを納めてもらう事になる。
ただし、今回納めてもらうのは、この4頭会にだ。
それとこちらの願いも聞いてもらう事になる、例えば何処の地域で好きな様に暴れてくれとかだ、今回は帝国領土で盗賊の仕事をして欲しい、どうだやってみないか?」
これは大航海時代にイギリスがやっていた方法だ。
これで海賊を使って、スペインの新大陸の輸送ルートを潰し、スペイン本国の力を少しでも弱める戦術だ。
俺の言葉を聞いたダッチは、目を輝かせて言ったのである。
「良いなそれ!もちろん補給とかは、堂々と都市に入って出来るんだろ?」
「もちろんだとも、ただしルタイ皇国の占領している都市か、ここナッソーに限定される。
それと、都市内部での略奪や、殺人等の違法行為は禁止だ。その場合は、私掠免状は剥奪され、ルタイ皇国から討伐部隊が出される事になるぞ」
「それは問題無い。俺達は、補給が堂々と出来れば文句は無いし、盗品もこのナッソーで俺が売買するからな」
「ならば後で俺が、私掠免状の書状を発行してやる。これは免許なので各盗賊団に1枚だ、もちろん無くせば盗賊行為も違法だから保管に気を付けろよ。
それと毎年春に免許更新を行う、盗賊行為の成績によって別け、Cランクは1年、Bランクは3年、Aランクは5年、Sランクは更新無しだが、ルタイ皇国が発行した商人を襲ったりすると、私掠免状は剥奪される。分かったか?」
「分かったよ。それで、何処を襲えば良いんだ?」
「話が早いなダッチ。今回は、セレニティ帝国の領内で頼むよ。
相手が帝国軍でもかまわない、こちらに逃げて来れば、ルタイ皇国が守ってやる」
「頼もしいな、他の盗賊にも話を通して、大将の所に連れて来てやるよ!早速行ってくる!」
そう言ってダッチは立ち上がると、出て行ってしまったのであった。
しかし弾正がダッチが出た後に、聞いてきたのであった。
「あのダッチは、余程嬉しかったのじゃな……しかし小僧よ、私掠免状とはワシも初めて聞いたぞ、その様な制度は、ルタイ皇国には無いハズだが」
「そりゃそうだ、俺が今作ったからな。しかしこの戦術で、相手の補給線や経済をズタズタに出来る。
俺の権限で、作ってやるさ」
「確かにこの戦術だと、こちらの被害は全く無く、盗賊も食い付き、セレニティ帝国に向かうので、この辺りの盗賊被害も少なくなり、税収も上がるし、敵の補給線も経済も干上がる……まさに一石二鳥どころでは無い、まさに鬼手だな。
しかし小僧、この戦術をどこで知った?ワシと会わなくなって、何があった?」
そりゃこんな戦術は、戦国時代に無かったから、怪しむわな。
「弾正よ、お前と会わなくなり、俺にも娘が出来たりもした。つまり時代は、進んでいると言う事だよ」
「カッカッカッ!面白いの!長生きはするもんじゃな!」
そう言って弾正は、笑いだしたのであった。
この本当の意味が解る者は、恐らくは俺と弾正とアイリスとラナだけであろう。
つまり俺は、弾正にお前が死んでから、この戦術を知ったのだと暗に言ったのだ。
それに対して弾正は暗に、あのまま死なずに、長生きをしておけば良かったと、言ったのであった。
実は二度目の人生で学んだんだけどね、この事を言うとややこしくなるので、伏せておくのが良いだろう。
「そして、今回の空城の計の配置だが、ナッソー防衛にルタイ皇国の武士団を2千、ナッソー外の山に1万で分けて配置し、ナッソー側の指揮官をバッシュに、副官をママとオヤジさんにする。
ナッソー旧市街地にはラナを指揮官に、斥候部隊と100人隊とボルの槍隊、そしてアデルの忍を配置する事にし、囮部隊は義父上殿、頼めますか?」
「解った、その任務引き受けよう」
「ありがとうございます、では50名の侍も付けますので、お願い致します」
「承知した」
しかし、ここで弾正が神妙な顔で言ったのであった。
「小僧、バッシュが司令官になるのはかまわないが、官位が無い者の命令を素直に聞くかどうか」
確かに弾正の言う事は一理ある、ルタイ皇国の侍の中では官位が全てだ、その侍を無官位のバッシュが指揮をしても素直に聞くか難しい話であろう。
ここはバッシュに官位に付けさせて、誰でも武功を立てれば昇進出来ると思わせるか。
「ではバッシュに名字と官位を授けよう、そうだなぁ……この生駒山に住んでいるから名字は生駒で、官位は正五位上の大膳大夫にする。
これからは、生駒 大膳大夫 バッシュと、大膳と名乗れ」
「そんな私ごときに……名字と官位、慎んでお受け致します、必ずや武功を立てて、名に恥じぬ働きを致しましょう」
そう言ってバッシュは、左近に向かって平伏したのであった。
西の砂漠に住んでいた、たかが一介のリザードマンが、あのルタイ皇国の武士団を率いる事になるとは、更には官位まで……亡くなった妻に、このバッシュの誇らしい姿を見せてやりたかった。
そうボルは思いながら、ボルも平伏し、その目にはうっすらと涙が溢れていたのであった。
しかしその隣で、バッシュの任官をよく思っていない者がいた、マルディである。
何故、御館様はあのバッシュばかりを優遇するのだ?それならば、わが娘のクロエも御館様の妻にしてもらうか、官位を頂かないと釣り合いがとれないだろう。
そんな事を考えながらマルディは、嫉妬の炎を心に、たぎらせていたのであった。




