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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
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宿敵

 左近達はオヤジさんの店の一室で藤永 弾正達を待っていた。


「左近、報告にあった武士団の話、お前が何とかしろよ」


「解ってるよママ」

 そうだ、ママが言った様に、報告では武士団の人数は約500名だ、これは護衛にしては多すぎる、一体ルタイ皇国の帝は何を考えているのだ?この人数、俺の暗殺か?それとも何か別の目的か?とにかくどんな奴が来るのか見てから考えるか。


 左近がそう考えていると、ドアをノックする音が聞こえてアイリスが入ってきた。

「お待たせいたしました、ルタイ皇国の使者の方と交易商人の方をお連れ致しました」


 そう言ったアイリスの顔が若干だが表情が不安な顔になっていた、何故だ?何かあったのか?そんな事を考えながら部屋に入ってきた男達は、先頭は甲冑を着た老兵、兜と面貌を付けてはいないので顔はハッキリと解る。

 そして、商人風の小男とフードの男……誰だ一体?このフードの男も気にはなるが、あの老兵の眼光、何処かで見たような気がする。


 誰だ?その時であった、その老兵の陣羽織の家紋が視界に入ったのであった。

 蔦の家紋にあの眼光……まさか、まさか。左近の目の前にはあの時の教興寺の戦いで、炎を背に自分に槍を突き付ける光景が浮かんだのであった。


「どうやら思い出したか、ハナタレ小僧」

 そう言った藤永 弾正はニヤリと笑みをこぼしてた瞬間であった、突如左近が急に立ち上がり叫びながら斬りかかったのであった。


「弾正ぉ!貴様ぁ!」


 キィィン!

 左近が放った胴斬りを藤永 弾正は腰の日本刀で受け止めたのであった。


 バカな、これは必中のスキルのある鬼切り丸だぞ何故斬れんのだ?

 左近が驚いていると藤永 弾正が不適に笑みをこぼして言った。

「何を驚いておる、必中のスキルはワシの虎徹にも付いておるわ」


 そう言った藤永 弾正は蹴りを放って左近を蹴り飛ばしたのである、左近は元の場所に倒れ込み立ち上がろうとするとママがそれを制したのであった。

「すまないね、ウチの左近が迷惑をかけて、それともこれがルタイ皇国の流儀かい?」


「いやいや、この小僧とは昔から因縁があっただけじゃよ、ワシはルタイ皇国の藤永 弾正 久道。

 でこっちゃの小男が商人の山城屋 宗達……でここにウォルターって人はいるかい?」


「俺がウォルターだが」


「ちょうど良かった、ここにいるのはエリアス・ノイマンって騎士で、あんたに内々で話が有るようだ、道中死にかけていたの拾い、あんたに話が有るって言うんで連れてきた」


「お初にお目にかかります、私はエリアス・ノイマンです、ここでは話せませんので別室で、宜しいでしょうか?」


「おい小僧、大人しくしておいた方が良いぞ、こいつはお前の妻のアイリスちゃんの父親、つまりはお前の姑殿だぞ」


「……ママ、すまないもう大丈夫だ」

 左近は気持ちを落ち着けて言った。


「……そうかい」


「お見苦しい所をお見せ致しました、私は娘様のアイリスさんの夫の島 左近衛大将 清興と申します、この弾正は私の不倶戴天の敵で御座いまして……」

「たかだか領地を全て焼き払い、略奪しただけでそんなに怒る事は無かろう、器の小さな奴じゃの」


「……それだけじゃ無かろう、将軍様を暗殺して信長公を2度も裏切り、挙句の果てには東大寺の大仏様迄も焼くと言う……更には仕える主君の身内を暗殺しまくる暴挙、数え上げたらきりがないわ!」


「お前もワシの城に攻め込んだじゃろ、これであいこじゃろが」


「貴様ぁ!……」

「ハイハイ解ったから左近、此処等で止めときなさいな、オヤジこのエリアスって人はあんたの客だ、ここは私に委せて行ってきな」

 皆が唖然としている中でママが間に入って止めた。


「頼むよ、ママ……じゃあエリアスさん、こちらへ」


「解りました……左近衛大将殿、貴殿のお気持ちはよく解ります。しかしこの弾正殿は私の命の恩人、その辺りをよく考えて下され、では失礼致します」


 エリアスのこの言葉は、左近に自分の恩人なのだから、もう命は狙うなと言う義父の言葉であった。

「……解りました」

 その左近の言葉を聞いたエリアスは笑顔になって、オヤジさんと別室に行ったのである。


「そうじゃ、この宗達もこの後すぐに王都レンヌ迄行かねばならんので、早く商談を済ませて欲しい、予定が押しておるのでな」


「ダッチ、交易はお前の所の話だ、行ってきな」


「解ったよママ、こっちだ着いてきな宗達さん」

 ダッチはママに言われて、商談に入るために別室に行ったのである、ダッチはこの場から早く逃げたかっただけだったのだが。


「……ふぅ……で弾正、お前何しにここへ来た?あの兵士はどうした?」

 左近は一度深呼吸をして座り直して藤永弾正に聞いた。


「帝からの命じゃ、最近はルタイ皇国も戦が無くて兵士が鈍って来ておる、そこでお主の傭兵部隊に入れて実戦で鍛え直して欲しいとの事じゃ、任期は1年で本国から毎年500が来る、兵力の増減は定期的に来る宗達か、帰還する者に伝えておけばよい、との事じゃ」


「ちょっと待ってくれ、部外者が口を挟んで申し訳ないが、訓練で実戦を使うのか?」


 確かにママの言う通りだ、何故こんな危険な事をするんだ?実戦で無くても……そうか、レベル上げだ、只の訓練より実戦の方がレベル上げは早い、アイリスやセシル達は訓練ばかりやって、実戦はやっていなかった。

 だから技術があっても、レベルはそんなに上じゃ無くて職業も初期だったんだ、モンスターや人を殺せばそれだけレベルは上がる、ルタイ皇国の中はモンスターの戦いしか無いだろうから、強い兵士が欲しいのならば実戦を経験させるしか無いのか。


 それならば傭兵業は何かと都合が良いし、俺の元なら組織的な戦も経験できる、帝はここを兵士の訓練所にしようと言う腹なのか、しかし死人は出るだろうな。


「お察しの通り、訓練で実戦を使う。

 これで死ぬような侍は、侍じゃ無いし使い物にならん、そんな奴はルタイ皇国には必要ないのでな」


「これがルタイ皇国の兵士の強さの秘密か……」

 ママは驚いていたが、俺も初耳で御座いました。


「それと帝は任官の権限をお前に与えるとの事じゃ、これが……おっあった、あった、これがその胸を伝える帝の書面じゃ」


「バカな、任官の権は帝か関白の地位の御方しかダメだろう、無断任官は重罪だぞ」


「無断じゃ無いさ、帝も関白も太政大臣も本国を離れる事は出来んし、この場では小僧が最高位の侍じゃ。

 それに今回の事は条件付きでもある、官位が通用するのはこのアルムガルドのみでルタイ本国では通用せん、本国でも同じ官位にするのなら小僧とワシの推薦状が必要だ。

 それと国の守護職も付けてはならん、戻った時にもめるからの、最後に新しい官位を作ることもいかん、以上の事を守らない場合は、弾正のワシに逮捕権が有るので小僧を逮捕する、まぁ簡単に言えばワシ小僧の監視役じゃな」


「他に無いのか?そんな事だけでは釣り合いが取れんぞ」


「その辺もちゃんと考えてあるさ、兵士の維持費は全てルタイ皇国持ちで、兵舎や建物を作る費用も出す。

 もちろん武器や防具もじゃ」


「それにはこのナッソーの修繕費や、俺の部隊の維持費も入れて良いのか?」


「小僧……お主、久しく会わない間に悪どくなったのぉ……入れても良いじゃろ、その代わり建築の設計にはワシも入れさせてもらう。

 どうも小僧の建築は実戦的過ぎて優雅さが無い」


「取引成立だな、早速だがルタイ皇国の兵力1万をここに寄越して欲しい」


「いきなりか……何か訳ありか?」


「おそらく近い内にセレニティ帝国はここを攻めて来るだろう、それの防衛に欲しい」


「敵の兵力は?」


「解らん……だが1万有ればまだ援軍は解らないが、ザルツ王国と傭兵を入れればかなりの数になる、後は戦術と戦略でなんとかなるだろう」


「解った、手配しておこう。ザルツ王国には誰が行く?」


「それは俺の方から使者を出すよ。弾正それから、お前達は新市街地の西側の居住区を使ってくれ、それと建築は委せるよ、後で責任者の兼平と会わせるとしよう」


「心得た」

 その時に部屋の扉が開き、オヤジさんとエリアスが神妙な顔付きで入って来たのであった。


「取り込み中すまないな、ちょっと複雑な事情になった、ダッチは……いないか、その方が良いかもしれん、先ずはエリアスの話を聞いてくれ」


 そう言ってエリアスは、ルイスの出自の事、聖導騎士団の事を話し出したのであった。

 それにショックを受けたのはアイリスであった、自分の幼馴染みと父親が殺し合うかもしれないその事実に複雑な気持ちになっていたのであった。


 しかしその話を聞いて、藤永弾正が驚くべき事を発言したのであった。

「こいつは……その彩那とかぬかすルタイ人、我等の手で誅さねばならんな」


「弾正殿!仮にも一国の后妃ですぞ!無茶で御座います」

 この発言にはエリアスが驚いた。


「無茶でも何でも、そやつはルタイ皇国の名に泥を塗った事になる、ルタイの汚名はルタイの手で払拭せねばならん、例えルタイ皇国とセレニティ帝国の戦になってもじゃ」


「弾正、お前心を入れ換えたのか?お前がそんな事を言うなど珍しいな」


「小僧、人は成長する者じゃ……しかしこれは由々しき問題じゃ、小僧よ兵力は1万所じゃ足りんの最低でもその10倍の10万を呼ぶとするか」


 エリアスは驚いた、あの超帝国を2度も打ち負かしたルタイ皇国の武士団が、そんな他国で同族がやった事で動くなんて信じられなかったのであった。

 それに今ルタイ皇国と戦になれば、ザルツ王国も息を吹き返す、これは一気に帝国存亡の危機になったのであった。


「じい様、そんなに息巻くなって」

 葉巻を吹かしながら、ママが言った。


「なんじゃと?」


「全くルタイ人て皆がこんなにもキレやすいのかね?エリアスさんあんたの話は解った、それであんたはどうしたいんだい?その宰相と第3后妃と黒太子を殺せば良いのか?

 しかし今帝国には跡継ぎの子供はその黒太子しか居ないんだろ?殺せば内乱になるかも知れん、今の皇帝はもう年だし新たなる跡継ぎもいないだろう。

 残るは、ラニス公爵だが……はたして動くのか?」


 エリアスには自信が無かった、いきなり3人を殺すとなると、その後で必ず宰相の手の者が黙っていないだろう、皇帝陛下も自分達を許す筈もない。

 ここは先ず皇帝陛下に話を通し、ラニス公に後を継いでもらうしかないか。

「ここは先ず皇帝陛下に話を通すしか無いかと思います、その後でラニス公に話を通すのが筋かと」


「全くお前さんは単純じゃの、そんなお前さんの行動は宰相も読んで先手を打つじゃろう、そんな事じゃダメじゃな、もっと別の手を考えないと……」


「ダメじゃ無いぞ弾正、ここに宰相が考え付かない例外の者達がいる……お前達だよ弾正」


「ワシ等か?……小僧何を考えておる?」


「別に……ただ打ち上げる花火は大きい方が良い。義父殿、取り引きをしませんか?」


「取り引?」

 エリアスには意味が解らなかった、ただ解るのは目の前にいる気性が激しそうな、娘の婿の顔が悪魔と言うべき笑顔になっていたのであった。

 この取引は悪魔との取引になりそうな気がする、そんな予感を持ちながら、今はこの悪魔と取り引きをしなければ、仲間の死は無駄になるそれだけは避けねばならない。

 そんな事を思いながら聞いたのであった。


「えぇ、取り引きです」


「待て小僧、そこは帝の御意志を確認せねばならん」


「解った弾正……義父殿、帝の御意志を確認してからになりますが、私の考えはこうです。

 先ずは帝国にはこのナッソーを攻める様に仕向けます」


「おい、左近!」

 これにはママが叫んだ。


「まあ聞いてくれ。遅かれ早かれ帝国は攻めてくるんだ、問題はいつかだ。

 向こうがいつ攻めてくるか解らない状況よりも、いつ頃攻めてくるかこちらで操作した方が対策は取りやすいし、援軍も呼びやすいのが理由だ。

 それに今回は情報封鎖を行う」


「情報封鎖?情報封鎖とは何だ婿殿」


「ここに義父殿が来ることは、おそらくだが宰相は予定済みだろう、義父殿がザルツ王国方面に逃れたことは知っているだろうし、目標は宰相、后妃、黒太子の命で有る以上、セレニティ帝国に行かねば話にならない。

 それならば、ここナッソーは帝国と王国の国境の街で、傭兵や盗賊等が多く身を隠しやすく都合が良い、俺でも宰相の立場ならここに見張りと暗殺部隊を配置する……そうだな滞在で気が緩む3日目辺りかな、決行日は。

 それに狙われるのは、接触した者つまりは俺達と言う事になる……まぁ撃退するがね。

 問題はここにルタイ皇国の兵士がいる事を、宰相達に知られない事だ、その為にダッチにナッソーとセレニティ帝国の街道を封鎖してもらう、元々が盗賊の多い地域だ不審に思わないだろうが、長い間は無理だ、絶対に情報が漏れてしまう。

 この作戦で重要なのは情報と、どちらが先に手を出したと言う事実だ、情報を制した者が勝利する」


 この男、伊達に若くして左近衛大将になった訳では無いと言う事か、アイリスの婿には申し分が無い。

 エリアスは左近の説明を聞いて、左近の将としての素質を垣間見た気がしていたのであった。


「そして、その口実を元にルタイ皇国軍が帝都に向けて進軍する。

 するとセレニティ帝国は、ルタイ皇国とザルツ王国の2カ国を相手にする事になるので、帝国は大騒ぎになるだろう。

 そこで和平の使者としての交渉の時に、皇帝に内密に事実を伝え我等も行動する。

 ルタイ皇国の軍が進軍し戦闘状態になっていれば無下には出来んだろう、問題は他国からの援軍だがセレニティ帝国に援軍が来れば、一気に戦火は広がる、それだけは避けねばならない、義父殿セレニティ帝国に同盟国や加勢しそうな国は?」


「いや、どの国も大義名分を気にするので、明らかにセレニティ帝国の落ち度である戦には、手を貸さないだろう、むしろルタイ皇国と助けると称して皇国と一緒に帝国に攻めるだろう。

 問題は属国のペスパード王朝とルセン王国だな、2カ国は帝国に加勢するか、これをチャンスと捉えて独立するか」


 なるほど、どこの世界も表の面は大義名分等のプライドを大事にして、裏では欲望丸出しか。

 左近がそう思っていると、その時にエリアスは悔しそうに言った。

「婿殿、正直私はこの策をよく思っていない、私が忠誠を捧げた帝国が、こんなにも他国の食い物になるのを見なければならないなんて……頭では解っているのだが、心がな……」


「心中御察し致します、しかしこれは今帝国が生まれ変わる為の痛みと思って頂けたら宜しいかと思います」


「生まれ変わる?」


「そうです、私は帝国を滅ぼそうとは思っていません、今のザルツ王国とセレニティ王国のにらみ合いこそが最適だと思っています。

 それに今は帝国の膿を出す機会です、ここで改革しより良き国にすれば義父殿も聖導騎士団の方達に顔向けが出来るのでは?」


「……それもそうだな、しかし婿殿はその若さで将軍としての威厳と頭を持っている、私は少し鼻が高いよ」


「ありがとう御座います」

 本当は貴方よりも年上なんですけどね。


「それと最後に皆にいっておきたい。

 これからの私の目標は、ここを帝国と王国の両国から中立地帯としての独立だ、その為にはここ一体をルタイ皇国の領土にしても良いと思っている、もちろん今まで通りにする事を約束するがね。

 それとここの皆には暫く護衛を付けて良いかな?」


「こちらは問題ない」


「私は嫌だね、この商売ビビった方が負けなんだ、そんな真似は出来ないね」

 オヤジさんは了承したのだが、ママが反対した。


「……解った、ダッチは……あいつも了承するか」


 そう言って俺達は家に戻り各自に指示を出したのであった。


 珠にはルタイ皇国に行ってもらい援軍と、帝国の対応の許可をもらいに飛んでもらい、ダッチにはもちろん街道を封鎖するのを頼み。

 援軍としてアデルとラナとミリアを派遣したのであった。


 宗達には俺からの手紙をゲハルトに他の者に解らない様に渡すことを頼み、セシルには帝国に使者に行く為の空間移動の準備を頼んだ、これにはルタイ皇国の兵士が護衛として5人付いていく事にし、フンメル達にはナッソーの警備を命じた。

 そしてエリアスには囮となってもらい、暗殺者の炙り出しに協力して貰うことになっていたのであったのである。

 最後に俺は今後の事も考えて、娘の珠と一緒にルタイ皇国の帝の元へ向かったのであった。


 ただ左近はこの時はまだ知らなかった、この戦がきっかけに後に東方戦役と言われる大戦が始まるとは。











 そして2日後の夜。

 ママは、ナッソー新区画に作られた自分の邸宅で大きな20人は入れそうな露天風呂に入っていた。


 このナッソーで一際豪華な豪邸は、ママのナッソーでの権力の象徴でもあったのである。

 実質ナッソーで権力をもっているのは、左近とこのママの新区画に住む二人であったのだ、何故なら左近はもちろんの事、ママも普段は売春宿やカジノの用心棒として独自の傭兵団を持っている、むろんママの邸宅の警護もしていたのであったのだ。


 そんな実力者のママが多忙で無いわけがない、左近に作ってもらったこの露天風呂に入っている瞬間と睡眠が、ママの唯一の癒しの時であったのである。


 だがそんな癒しの時を壊すかの様に、ママを狙う3つの影が露天風呂に近付いて来たのであった。


「……やれやれ、左近の読みも当たらないねぇ、1日早いじゃないか」

 そう言った時であった、風呂場の扉が音もなく開き、黒い布で顔を隠した男達が無言で入って来たのであった。


 男達の手には血が滴るシミターがあり、これは既に護衛の自分の兵士は殺されたのであろうと、ママは確信したのであった。

「お前達、ご婦人の入浴中は、男は入るなと教わらなかったのかい?あぁ帝国には、こんな風呂が無かったんだね」

 そう言ってママはそのまま立ち上がり、男達を裸のまま見据えたのである。

 その挑発を受けた暗殺者達は、やはりエリアスから何か聞いたのだと確信し、ママを確実に殺すように、三方に分かれ囲んだのであった。


「どれ、久しぶり暴れて見ようかね」

 ママはその言葉と同時に中指を、クンと内側に曲げた瞬間、正面の暗殺者の右足が膝の上から切断されたのであった。


 だがさすがは暗殺者であった、痛みの声は出さずに足を押さえて倒れるのみである、そんな暗殺者を見てママはニヤリと笑みをこぼして言ったのであった。

「さすがに、よく訓練されている……こりゃ左近の事をバカに出来ないね、私もこの状況が楽しくなってきたよ」


 そう言ったママが両手を頭上に上げた瞬間であった、ママの両隣にいた暗殺者達がいきなり輪切りとなりその場に崩れ落ちたのであった。

 片足を失った暗殺者はその光景が声にこそ出さなかったのだが、彼には何がおきたか全く理解できずにいたのであったのだ。


「理解できない、そんな目をしているね。

 良い事を教えてやろう、普通の糸に魔力を通したら、どう言った現象が起きるか……答えはどんな鎧でも切断でき、自由自在に操れる糸の魔糸になるの。

 これって便利よね、神経に接続すれば人の意思に反して、その人の動きを操れる、こんな風にね!」


 ママがそう言うと、暗殺者の剣を持っている腕が自らの意思に反して持ち上がり、もう一方の腕を斬り落としたのであった。


 これには流石に暗殺者も覆面の下の顔が苦痛に歪む姿が解るほど出たのである。

 しかし全く声も出ない、これには暗殺者も驚いたが、ママが笑みをこぼして言ったのであった。

「どうだ驚いたか?今のお前の身体には私の糸がその傷口から身体中に入っているんだよ、あまりにも糸が細すぎて見えないし、感じないだろうけどね。

 因みにお前の脳も今、私の手中にある、だから声を出すことなくこんな芸当も出来るんだよ」


 暗殺者がそう言うと、初めて味わった強烈な苦痛と痛みが同時に襲って来たのであった。


「どうだ?初めての苦痛だろ?別にお前を殺して脳から直接情報を取れば良いんだ、だからお前の生死は関係無い。

 そういやルタイ皇国に一罰百戒と言う言葉がある、知ってるか?一人の者がその全ての罪を背負うと言う意味らしい、私の屋敷を壊した罪、私の部下を殺した罪、私を不愉快にした罪、死ぬまでの間、全てお前が償え!」


 そう言ったママは、ありとあらゆる苦痛を暗殺者の脳に直接叩き込んだのであった、更に暗殺者は身体も動けなく声も出ない、全くの身動きが出来ない状況でただ地獄の苦しみを、出血多量で死ぬまでの間、意識を失うことは強制的に許される事なく、目からは血の涙を流しながら味わうしか無かったのである。


 その時であった、まだ屋敷の中で戦う音が聴こえたのであった。


「まだ仲間がいたのかい、どれ直接脳に聞くとしようかね……なるほど襲撃は残るは2人で連絡役に2人か……まだ連絡役はナッソーにいるか……」

 そう言ったママがピクリと何かを感じたのであった。


 今まで戦っていた音が聞こえなくなり、人が近付く気配がしたのであった。


 部下の気配じゃ無い、一人だけだ……暗殺者か?

 そう思い拷問中の暗殺者を即座に殺して待ち構えていると、扉から片手剣が見えて一人の男が入って来たのであった、フンメルである。

「あんた、その鎧の色は左近の所の者か?」


「はい、自分は……すみません御入浴中でしたか!」

 そう言って慌ててフンメルは、扉の向こう側に行き、ママを美しいまるで女神の様だと思っていたのであった。


「かまわんよ、別に生娘じゃあるまいし、そこに置いてあるタオルを渡してくれないか?」


「ど、どうぞ!」

 フンメルは慌ててバスタオルを取って、後ろ向きにママに渡したのであった。


「ありがとう、それで状況は?」


「はい、先ず私は十字軍の100人隊隊長をやっておりますフンメルと申します。

 見た所、屋敷の他の人達は全員が殺されておりました、私が殺した賊は2人でおそらくはこれで全部かと思われます」


 フンメルがそう言っていると、ママがバスタオルを巻いて脱衣所の中に入って来たので、フンメルは慌てて後ろ向きになり見ない様にしていた。


「ソニア・ヴィシクだ皆はママと呼ぶ、お前もそう呼べ……どうした?女性の裸を見るのは初めてか?」


「い、いえそんな訳では……」


「ならば恥ずかしがる事でも無い。

 所でフンメル、連絡役が後2名いるのは知っているか?」


「い、いえ初耳で御座います」


「……今回は私が始末してやる、お前は売春宿に行って暇している女達にここの掃除を頼んでおいてくれ」


「それは危険です、私も一緒に行きます」


「いらん、むしろ邪魔だ。それに今回の事は貸しにしてやる……なんならお前の身体で何をするか味合わせてやろうか?」


 そう言ったママの悪魔の様な笑みにフンメルは命の危険を感じたのであった。

「す、すみません、行ってきます」


 そう言ってフンメルは出ていくとママは着替えて外に出たのであった。


 翌日、その連絡役はナッソーの川に浮かぶ事になったのである。


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