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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第二章 帝国動乱編
30/464

帝国の謀略

「団長!囲まれました、これは罠です!」


「団長!敵はフランド辺境伯、1万は越えるかと思われます!俺達は、はめられたんですよ!」


「たかが50人に1万とは光栄だね、そうは思わないかエリアス?」


「そうですねこの様な数の敵兵を相手に散るのも、武人の誉れですが……栄光ある聖導騎士団が我等の代で無くなるのは少々口惜しいですな」

 エリアスは笑顔でセレニティ帝国の聖導騎士団団長に言った。


 ここはザルツ王国との国境の村であった。

 アイリスの父親エリアス達の聖導騎士団が緊急で部隊救出の命令を受けて村にたどり付いたのだが、誰もいない。

 いないどころか、村人までいなくて無人の村と化していたのであった。

 その夜に周辺に伏兵として隠れていた、フランド辺境伯の兵士が突如村を囲み聖導騎士団に襲って来たのである。


「聖導騎士団は無くならないさ、誰か1人でも生き残っていたら、そいつが聖導騎士団だ」


「そうですね……団長、地獄までお供致しますよ!」

 エリアスは笑みをこぼして、剣を抜いて言った。


「それすらも許さないとは、俺は団長失格かな?」


「団長?何を言っているのですか?」

 エリアスには団長が何を言っているのか解らなかった、いや解ってはいるのだが理解したくは無かったのである。


「良いかよく聞けエリアス、これはエミリオの策略だ」


「宰相殿が何故?」


「俺は、次々と亡くなった皇太子様達の死因を調べている内にとんでもない秘密を知ってしまった、それの口封じだよこれは」


 確かにこうも次々と皇太子が亡くなっていれば、不審に思う者も出てくるかも知れない、だがそんな事で帝国でも最強と言われる聖導騎士団ごと口封じとは、一体どんな事であろうか?エリアスはおそるおそる聞いてみた。

「それは一体……」


「それはな、今の黒太子は陛下のご子息では無いんだよ」


 エリアスには衝撃の言葉であった、それならば皇太子はルイスのみしか残っていない、と言う事は皇帝の直系の子供がこの世には、もういないのだ。

 これが世間に発覚すれば、帝国は一気に皇太子派、弟の公爵派に分かれ内乱になり、ザルツ王国との戦争どころでは、無くなってしまう。

 しかし、皇帝の子供では無いとすれば黒太子の父親は一体誰か?そこで思い出したのは先程の団長の言葉の、「これはエミリオの策略だ」と言う言葉だ。

「まさか父親は……」


「そうだ、エミリオだよ……その事を知ってしまってから、陛下に言おうとしたのだが、すぐにこの命令が下された、恐らくエミリオの暗部に見張られていたんだろうな……皆にはすまないと思っている」


「団長、なにも団長が謝ることはありませんよ」

 そうだ、団長は悪くない、俺だって知ったら同じ事をするだろう。


「そうですよ団長は悪くない!」


「そうだ、そうだ!反逆者に正義の鉄槌を!」


『反逆者に正義の鉄槌を!』


「皆ありがとう、エリアスお前が逃げれる可能性が一番高い、ここを脱出できたらナッソーのウォルターと言う男の元に行け、昔に戦場で俺と一緒に戦った奴だ。

 そいつは口は固く信用できる、今は引退してナッソーで傭兵ギルドの代理人をやっているらしいが、傭兵ギルドを通して証拠の一部を送っておいた、傭兵ギルドならばエミリオも迂闊には手出し出来んからな」


「しかし団長、私でなくても…」


「お前の娘のアイリス、あんな子を泣かせちゃいけない、その為にもお前は生きろ!生きて俺達の無念を晴らしてくれ!」


「団長……」

 思わずエリアスの目には涙が浮かんできていた。


「そうですよエリアスさん、あの子は俺達の娘の様な子ですし、泣かせちゃいけないよ」

「そうそう、むさ苦しいあんたじゃ無くて、アイリスちゃんの為なら喜んで死ねる」

「そうだな、可愛い女の子に悲しい涙を流させない為に死ねる、騎士でも最高の名誉じゃないですか」

「それに俺達は死んでも、あんたと魂は共に居るから、あんたは一人じゃ無いんだ、俺達の分もエミリオの奴に食らわしてくれよ」


「……お前ら…すまない…本当に一緒に行けなくてすまない…」

 その同僚の騎士達の言葉にエリアスは涙が溢れ、前が見えなくなっていた。


 すると団長がエリアスの肩を叩き、笑顔でエリアスに言ったのである。

「おいおい、これじゃ最後に思い出すのが、むさ苦しい男の涙になるじゃねえか。

 笑え、笑顔で俺達を送り出せ、そしていつか地獄で再会したなら、その時は思い出話を俺達に語ってくれ」


「……はい!」


 エリアスは涙を拭って、今出せる精一杯の笑顔で言うと、団長は剣を抜いて聖導騎士団の騎士達に叫んだ。

「お前ら!俺達、聖導騎士団が帝国でも最強と言われている事を、フランドのクソ野郎に思い知らせてやろうじゃねえか!行くぞ!」


『おお!』

 そう言って騎士達は剣を抜きザルツ王国のフランド辺境伯の軍に向かって突撃していったのであった。








 ……ここは?

 目を覚ましたエリアスの目の前には、布の天井が見えていた。


 またあの時の夢か……確か、あれから暗部から逃げる為にザルツ王国に入って、そこからナッソーに向かうのをバレないように警戒して遠回りでナッソーに向かっていて……思い出せん。

 しかしここは馬車の荷台か?積み荷が交易品の様だ、俺は何処かの商人に助けられたのか?


 そう思ったエリアスは起き上がると、我が目を疑ったのであった。

 外に広がる光景は、何台も続く馬車と更にそれを護衛している、黒い甲冑を着たルタイ人の騎馬武者達であり、馬車を運転しているのもルタイ人であったである。


 何だここは?ルタイ皇国なのか?しかしそれならば、俺はいつの間に海を渡ったのだ?しかもルタイ皇国兵士の数が多い、かなりの数なのではないか?

 エリアスは狐につままれた様な感覚に陥っていたのであった。


 すると気が付いたエリアスを発見した一人の騎馬武者が、エリアスにルタイ語でエリアスに何かを叫ぶと、先頭の方へ馬を駆け出して行ったのだ。


 やはりルタイ人だ、ルタイ語を話していた……話の内容までは解らなかったが、確かにルタイ語だった、殺されるのか?何か尋問されるのか?

 そう思って回りを見ると今まで持っていた自分の剣が見当たらない。


 もしかして取り上げられたのか?鎧は捨てていてフードを被っているので、セレニティ帝国の騎士とはバレていないはずだが。

 ここがルタイ皇国ならば鎖国政策をやっていたはず、外から来た者は処刑されていたはずだ。

 とすればこのままなら尋問されて、処刑されてしまうのか?


 そう思うと、エリアスは自分の為に散って行った仲間達に申し訳なくなっていた。


 そうしていると一人の老兵がこちらの馬車に飛び移って来たのであった。

「おお、気が付いたか。死んだかと思っていたぞ、ワシのキリバ語は解るか?」


 明るく話して来たこの老兵、優しそうに話してはいるが、眼光は鋭い。

 この男、数々の戦をして来たので有ろう、そう思いながらエリアスは話した。

「解ります、ここはルタイ皇国ですか?」


「ん?あぁそう見えるわな……違う、違うここはザルツ王国じゃ」


「ルタイ皇国は鎖国政策をやっていたのじゃ?」


「最近まではな、我がルタイ皇国の帝は開国宣言し、他国との貿易を最近始めて、これが第1便なんじゃ。

 まぁ嵐で航路を大きく外れてしまって予定の港と違う所に到着したのだがな」


 そうだったのか、しかしこんなにも兵士を連れて、ザルツ王国もよく通したな。

「しかし、よくこの武士団を領主が通しましたね」


「それよそれ、ここの国王達に話は通っていたのだが、到着した港が予定と違ったので大変だったのよ。

 コイツらは護衛として押し通した、もしもダメなら戦をして滅ぼしてやろうと思ったのじゃが、じっくりとルタイ語で話すと、すんなりとあの領主は通してくれたわ」

 そう言って老兵は笑っていた。


 そりゃそうだろ、こんなにも眼光の鋭い老兵にルタイ語で脅され、背後には伝説の武士団、領主は恐怖しただろうな、可哀想に。

 思わずエリアスが領主に同情していると、老兵は思い出したかの様にエリアスに言った。

「そうだ、貴公の剣。刃が欠けて鋼も曲がっておったから全く使い物にならんので捨てたぞ。

 どうやったらあんなにボロボロになるまで、戦えるのか本当に関心するわい」


 そうか捨てられたのか、無銘の剣だったが、手に馴染んで使いやすかったのに残念だ。

 そうエリアスが残念がっていると、老兵は荷物をあさりだし一振りの豪華な袋に入った日本刀をエリアスに渡したのであった。


「これは?」


「陸奥守吉行と言って、ここの国王に献上する刀じゃ、これをお前にやる」


「やるって、献上する大事な刀じゃないですか!しかもルタイ皇国の刀ってこっちでは大変貴重な代物なんですよ」


「かまわん、かまわん、どうせ国王じゃ使う事は有るまいて、使わんのならばどんな名刀でも宝の持ち腐れ、豚に真珠じゃよ」


「ぶ、豚……」

 こ、この人は一国の国王を豚とは、なんと大胆な。


「それにほれ、お前さんの様な……侍?」


「騎士ですか?」


「そうそう、騎士じゃ。どうもキリバ語は難しい。

 お前さんの様な騎士に使われると、刀も喜んでおるわ。

 所でお前さんの名前を聞いてなかったの、ワシの名前は藤永 弾正少弼 久道と言う、まぁ見ての通りのルタイ皇国の侍じゃお主は?」


 あの鋭い眼光、かなりの御方と思っていたが、やはり官位持ちの侍か……しかしどうする?本名を言ってザルツ王国に突き出されでもすれば厄介だぞ。


「……安心せい、誰もザルツ王国には突き出しはせんて」


 藤永弾正の言葉にエリアスは驚いた、何故自分の気持ちが読まれたのだろうと。

「な、何故それを……」


「お前さんは余程スパイには向かんな、名前を聞かれれば顔色を変えずに即答で答える、もしも事実を言われても否定するか誤魔化さねばならん」


「……やはり私には戦場しか合いそうに無いですね、私の名前はエリアス・ノイマン、セレニティ帝国の……」


「どうした?」


「いえすみません、セレニティ帝国の聖導騎士団の騎士でございます」

 そうだ胸を張れ、皆の思い、誇りを俺は背負っているんだ、団長も言っていたじゃないか、誰かが生き残ればそいつが聖導騎士団だと。


「ほう、セレニティ帝国の聖導騎士団の騎士か。

 ……おお、その騎士団の名前は港町で聞いたことが有るぞ、帝国でも最強と言われている騎士団ではないか、ならばちょうど良かったのかも知れんな、我等はナッソーに向かっておる、そこまで一緒に行ってそこから本国に帰るがよい」


「ナッソー?王都レンヌじゃ無いのですか?」


「王都レンヌにも行かねばならぬのだが、ワシ等はナッソーにおる小僧の元に行かねばならんのだ」


「小僧?」


「ルタイ皇国の左近衛大将の事じゃよ、あの小僧ナッソーで傭兵の真似事をやっておってな……あのバカは一体何をやっているのか。

 まぁそのおかげで、ワシ等は楽しめるのじゃが」


 この一団はナッソーに向かっているのか、かなりの幸運だこれで団長達との約束も果たせる。

 しかし、左近衛大将って武士団のトップだろう、そんな人物を小僧って言うとは、この御方は一体何者なんだ?弾正少弼って左近衛大将より位は下であろうに。


「不思議そうな顔をしておるな。

 昔、あやつがハナタレ小僧の頃に戦で戦った時に、助けてやったのじゃ、その後で小僧の領地を焼き付くしてやったが、ワシも城を焼かれたわい、ハハハ!」


 は、激しいな、ルタイ人ってこんなに自国で戦っているのか?しかしあの口調からして、仇同士じゃないか、それでそんなにも気楽でいられるものか?。

「す、凄いですね。所で私は団長の命令でナッソーのウォルターと言う御方の行かねばならないのです、宜しければご一緒させて頂けますか?」


「先程も言った様に一緒にナッソーに来れば良いさ、その代わりにワシにこの世界の事を教えてくれ、ルタイ皇国は鎖国をしていたので世界情勢に疎いんじゃよ」


「それは大丈夫ですが、あくまでもセレニティ帝国の視点になりますよ?」


「それは仕方がない事じゃ、かまわんよ。今大切なのは情報の量だ、そしてそれらを付き合わせて精査する」


 この人は、本当に生粋の武人……いや将軍だな、どうやら俺も学ぶ事が多そうだ。

 エリアスは何やら団長と似た空気の人物、藤永弾正久道達と一緒にナッソーに向けて旅立つのであった。










 左近達が4頭会を立ち上げてから1ヶ月後、藤永弾正とエリアス達はナッソー周辺にいた。


「しかし、治安が悪いと聞いていたのだが、これまで盗賊が一人も出なかったなエリアス」


「本当ですね、噂はしょせん噂だったのでしょうか?」


「そうでも無いかもしれんぞ、あの山の山頂を見てみろ」


 エリアスが藤永弾正の指差した方向を見ると、山頂から煙が三つ立ち上がっていたのであった。

「弾正殿、あれは?」


「あれは狼煙と言って、ルタイ皇国の伝達方法じゃ、どうやらだいぶ前からワシ等が来るのが解っていた様じゃな」


「なるほどあの方法ならば、山さえあれば伝書カラスよりも早く情報が伝わりますな」


「エリアスは頭が柔軟じゃな、良い武将になるぞ」


「ハハハ、私はルタイ皇国の武将にはなりませんよ……お、見えて来ましたな……あれがナッソーなのか?」


 エリアス達の目の前に出てきたナッソーは、この世界の都市と言うよりは要塞の様であったのだ。


「ほう、これはまるで一乗谷城の様じゃな、しかし風情が無い、まだまだじゃな小僧」


「一乗谷城?」


「ルタイ皇国の城の名前じゃよ、この城壁が突破されても両端の山に在る城でお互いを支えあう、するといくら敵が多くても両方の城は同時に攻めては時間がかかり、敵の援軍が来る。しかし片方だけを攻めても挟み撃ちにあう。

 どうじゃ、エリアスお主ならどう攻める?」


 難しいな、確かにこれならなかなか攻め落とす事ができない、なるほどルタイ皇国の戦い方や城は面白いな。

「すみません弾正殿、解りません」


「簡単じゃ、まともに戦おうとするから攻め落とせんのじゃ、城なんて物はいくら強固な守りでも戦うのは人じゃ、裏切りをさせたり、誘きだしたりして戦う、まともに当たっても勝てやせんて」


「なるほど、まさに目から鱗でございます……おや?城門に数人出て来ておりますな……何処かで見たような……」


 そう城門に出て来ていたのはドレスを着たアイリスとラナ、そしてフンメル達であった。


「ほう赤備とは小僧もかぶいておるの……ん?エリアスどうした?」


「そ、そんな……あ、あれはもしかして……」


「何だ知り合いか?」


「……はい、実はあの赤いドレスの女性……おそらく私の一人娘のアイリスでございます、しかし何で?」


「ほうこれは面白くなりそうじゃの」

 そう言って弾正はニヤリと笑みをこぼしていたのであった。




「アイリス、ルタイ皇国の兵士って本当に旦那様みたいな甲冑を着ているんだね、しかも向こうは黒で統一しているよ」

 ラナが一行を見据えて言った。


「しかしあの一行、護衛にしては兵士の数が多くない?100名以上はいる」


「本当だね、でもあの人数なら何とかナッソーに収容できるか」


「奥様方、そろそろ来ますぜ」

 フンメルが二人に囁く様に言うと、二人は気を引き締めて待機していると一団はアイリス達に近付いて一旦停止し、下馬した3人がアイリス達に近付いてきたのであった。


「3人か……先頭のお爺ちゃんがこの部隊の隊長さんかなアイリス?」

 ラナは小声でアイリスに話し掛けた。


「多分ね……後ろの小男は多分、商人だろうけどあのフードの人は誰だろう?」


「本当だ、顔がフードを深く被っているので全く顔が見えない」


「でもあの歩き方何処かで見たような気が……」


「お二人さん、私語は止めときましょうや、御館様の品位に関わります」


「はぁい、フンメルは本当に真面目なんだから」

 フンメルが戒めると、ラナはチョッとむすっとして言った。


 しかしあの歩き方といい、雰囲気といい何処かアイリスは懐かしく思っていたのであった。


 そうしていると3人がアイリス達の前にやってきて藤永弾正が話し掛けた。

「出迎えご苦労さん、あんた達がウチの左近衛大将殿の所の出迎えかい?綺麗な女性で出迎えとは、あの小僧にしては粋な計らいじゃないか」

 陽気に藤永弾正は言った。


 何だ?この人は旦那様の事を知っているのか?そんな事を考えながらアイリスは藤永弾正に言った。

「有難う御座います、夫も喜ぶと思います。

 私は島 左近衛大将 清興の妻のアイリス・島でございます、そしてこちらが同じく妻のラナ・島。

 そしてこちらの者は我等、血盟十字軍クラン・オブ・クルセイダースの100人隊長のフンメルでございます」


 つ、妻だと!いつの間に結婚したのだ!まだアイリスは15のはずだぞ!しかも二人の妻とは……これはその左近衛大将、会う必要があるな。

 そんなエリアスの気持ちを知ってか、藤永弾正は笑顔で話し出したのであった。


「ご苦労さん、よろしくな。

 ワシは藤永 弾正少弼 久道、そしてこいつは商人の山城屋 宗達。

 宗達は早速取引をして王都レンヌに向かわねばならん、何しろ予定が大幅に押しておるのでな、すまんが王都レンヌ迄と帰りの港町のフィクシ迄、誰が護衛を付けてはくれんか?ワシ等は別命を受けておるのでな」


「そう言う事でしたらこちらで手配致しましょう……それでそちらの御方は?」

 アイリスは不思議に思っていたフードの男を聞いてみた。


「おお!そうじゃった、アイリス殿、お主の知り合いじゃよ」


 知り合い?アイリスがそう思った時に、フードの男がそのフードを取ったのであった。

 アイリスの目の前には、死んだと言われていた自分の父親の顔がフードの下から出て来て、アイリスは今何が目の前で起こっているのか理解できずにいたのであった。


「……アイリス」


 そのエリアスの一言でアイリスはこれが現実だと我に返ったのであった。

「……そんな……まさか……ち、父上?……」


「そうだ、アイリス!元気であったか?」


 その言葉を聞いたアイリスの目には涙が溢れて、思わずエリアスに抱き付いたのであった。

「父上!父上!」


「すまなかったアイリス、寂しい思いをさせて」

 エリアスもアイリスを抱き締めると、涙を流して再会を喜んだのである。


「うん、うん、良い事をした後は気持ちが良いの、ラナの嬢ちゃん。この年で良い物を見れたわい」

 藤永弾正は何故だか頷きながら言っていた。


「ねえ、ねえお爺ちゃん、あの人ってアイリスのお父さんなの?」


「お、お爺ちゃん……」

 大事な御館様への、ルタイ皇国本国からの使者になんと言う事を!ラナの言葉を聞いたフンメルは思わず即倒しそうになっていた。


「そうじゃよ、ここへ来る途中の街道で、倒れて死にかけておったので助けてここに連れてきたのじゃ。

 しかしラナちゃんは可愛いのぉ。どうじゃ、あんな小僧とは離婚してワシの所にこんか?」


「ダメだよぉ、私は旦那様の事が大好きなんだから、それにお爺ちゃん、そんな事言っていると……殺されちゃうよ」

 そう言ったラナの眼は明らかに殺気を含んでいたのであった。


「良いのぉ、ラナちゃんになら殺されても良いのぉ、むさ苦しい男に殺されるよりは良いのぉ」


「じゃあ死にたくなったらいつでも言ってね……いつでも殺してあげるから」


「益々ワシの好みじゃの、左近のハナタレ小僧には勿体無いわい」


 そう言って笑っている藤永弾正を見てフンメルは頭を抱えていた。

 俺が間違っているのか?それともルタイ皇国ではこれが当たり前なのか?そんな事を思いながらフンメルは皆に言った。

「ではそろそろ参りましょう、取引の交易品と武士団の方々は私が、藤永弾正殿達は奥様方についてきて下さい4頭会がお待ちです」


「あい解った……さて感動の再会はそこまでじゃ、エリアス、お主はこれからどうする?」


「弾正殿、私はこのナッソーで酒場を営む、ウォルターと言う男を探さないといけないのです」


 ウォルター、その名前を聞いたアイリスが言った。

「ウォルター……父上、オヤジさんなら4頭会の一人ですので藤永弾正様達の行かれる所におられますが」


「ならば決まりじゃな、皆で行くとするか」

 藤永弾正のその言葉でエリアスもオヤジさんの店に向かう事になり、その道中にアイリスからエリアスは今までの経緯を聞いたのであった。



 そうか俺が裏切った事になっているのか……この手際の良さ、やはり宰相殿が裏で手を回していると見て間違いは無い様だな。

 しかし、アイリスには迷惑をかけたな、それに救い出してくれた左近衛大将殿にも礼を言わないと。


 それにしても厄介なのはルイス皇太子……アイリスの命を助けて頂いたのは感謝するが、どうしたら良いのか。

 今となっては殺してしまっては帝国は崩壊してしまう、どうすれば良いのだろうか。


 そんな事を考えながら、エリアスは今までの経緯をアイリスに説明した、もちろんルイス皇太子の件は伏せてだが。

 その話を聞いた藤永弾正は笑顔になってエリアスに言ったのであった。

「エリアスよそれは罠にハメられたな、どうやら楽しくなってきたのう」


「弾正殿、何か楽しんでませんか?」


「楽しんでおるぞ、海を渡って早々にこんなにも楽しい事があるなんて、長生きはするもんじゃの」


「所でさ、お爺ちゃんは旦那様と知り合いだったの?」


「それは私も気になっていました」


「知り合いもなにも、お主等の夫の左近は、ワシはハナタレ小僧の頃から知っておるわ。

 あれは初めて会ったのは、教興寺の戦いじゃったかな?当時のワシは三好 長慶殿に仕えておって左近のハナタレ小僧は畠山 高政殿達の連合軍におったのじゃ。

 三好軍6万、畠山4万が教興寺で激突し我等、三好軍が勝ったのだが、その時にワシの前に立ち塞がったのが左近のハナタレ小僧じゃった。

 その時に、これは将来が楽しみな若者じゃと思い、あえて逃がしてやった……まぁその後でハナタレ小僧の領地の生駒を焼き付くしてやったがの、ハハハ!」


「お爺ちゃん、それって……」


「えぇ、旦那様の敵ってことなんじゃ……それに……」

 そう、アイリスとラナの言いたい事は、この人は左近や珠と同じで、別の世界からこの世界にやって来た人だと言う事であった。


「何を言う娘さん方、あのハナタレ小僧、ワシが精魂込めて作った信貴山城を攻めてボロボロにしよったのじゃぞ、お互い様じゃ!」


「いやいや、お爺ちゃんそれってやられて当然だから……」


 そう言っているうちに一行はオヤジさんの店、タックス・ヘブンに到着したのであった。



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