初陣2
リリアナ達は左近の部隊に追い付き、左近部隊を眺めていた。
「見てみろネット、帝国軍はまさに袋の鼠だぞ!やはり妾の作戦は完璧だな!」
「はっ、さすがで御座います、しかし全員の鎧などが赤で統一された部隊……帝国にあったでしょうか?」
このネットと言われる男は、リリアナの側近でリリアナの騎士団の団長でもあった、しかし本人の能力は低くコネで騎士団団長になった為か、騎士団の横暴を制御出来ないでいたのであった。
そしてリリアナの騎士団自体も、貴族の次男や三男等の当主になれない者達もおり、それに触発された集団であったが為に、身分だけが高い柄の悪い集団で、王国でも手の焼く存在であったのである。
「そんな事はどうでも良いのだ、コイツらを皆殺しにしてあの煩いフンメル達も処刑すれば、父上も妾の事を見直すであろう」
「まさにその通りで御座います」
「それに見てみろ、奴等はこの場所で方向転換も出来ずに、魔法使いを先頭に配置しているぞ、戦のなんたるかを知らない愚か共めが」
「確かにそうで御座いますな……おや?先頭の魔法使い、あれはスターク家の双子では御座いませんか?」
「おぉ、本当だな!スターク子爵の娘の双子ではないか……そうだった、双子は確か金に困った子爵に奴隷として売られたのだったな。
なるほど、奴隷なので捨てゴマとされているので有ろう……そうだ、あの二人を生け捕った者は、あの双子を好きにしても良いぞ、殺すもよし、辱しめるのも……そうだ、スターク子爵の前であの双子を犯してやれ、そうすればスターク家は一生表には出てこれんだろう」
「さすがは王女様、素晴らしいお考えで御座いますな」
「そうであろう、では行くか……全軍攻撃開始!」
『おお!』
「お、お姉ちゃんあれ、リリアナ様だよ」
不安な顔でセシリーがセシルに言った。
「……そうだな」
「絶対に私達に気付いているよ」
「……そうだな」
「私達ここで死んじゃうのかな?」
「……大丈夫、御主人様の言葉を信じろ、それにあの時に私達スターク家に援軍を出さずに見殺しにした王家の者に復讐が出来るのだぞ、あの戦で領地だけが奪われ、金も無くなりお父様は泣く泣く私達を手離した、そのお気持ちを晴らせるのだぞ」
「それって逆恨みも入ってない?」
「……うるさいなぁ、それにリリアナは昔から私は嫌いだったんだ、あんたも昔に虐められていたでしょ!」
「それはそうだけど……」
「……ならばやり返す、絶対に泣かせて命乞いをさせてやる……クックックッ」
「お姉ちゃん、だんだん性格が御主人様に近付いているよ……」
こんな二人のやり取りを見ていた蘭は、この二人はと少し引いていたのであった。
「お姉ちゃん、来たよ!」
セシルがリリアナ達の方向を見ると、リリアナ達がこちらに向かって突撃してきたのである。
「……攻撃開始の合図はまだ?」
「まだだよ!旦那様も十分に引き付けてって言っていたじゃない!」
「……チッ!」
セシルは初陣と言う事もあってか、向かって来る騎士達を見て、このままでは攻撃を開始するまでに自分達の元まで来るのではないか?本当に左近の戦術が通用するのか?そんな気持ちが入り交じりイラついていたのであった。
「大丈夫です!貴女達の御主人様を信じなさい!飛んでくる弓矢や魔法は全て私が防ぎます!」
蘭の言葉でセシルとセシリー頷き、信じて待つしかないと思っていたのである。
左近はセシル達、魔導部隊を鉄砲隊の代わりにしようと考えていたのであった、だが鉄砲隊と明らかに違っていたのはその射程距離である、当時の火縄銃の射程距離は200メートルに対してセシル達の魔法の射程距離はおよそ80メートルしか無い。
しかし火縄銃に比べて魔法の利点は、詠唱さえ早ければ連射が可能である事と、その汎用性にあったのである。
左近の考えたセシル達の攻撃方法は、氷結魔法の得意なセシリーが地面を凍らせたり、敵兵の足を凍らせて動きを封じた所へ、火炎魔法の得意なセシルが攻撃するといったものであったのだ。
しかしそうしている間に、騎士団の方から火の玉が数発セシルたちの方向に飛んで来たのであったのだ。
「……魔法障壁!」
すぐに蘭が魔法障壁を展開して攻撃をなんなく防いだのであった。
「助かりました蘭さん!」
「……ありがとう」
「こんなに威力の無い、射程距離だけが長い魔法など、どおって事はありません、貴女達は私が守ります!だから遠慮なくやっちゃって下さい!」
蘭がそう言った時であった、後ろからバッシュのラッパの様な合図が聞こえたのであったのだ。
これはセシル達魔導部隊への攻撃開始の合図である、二人は思いっきり魔力を込めて魔法を放ったのであった。
「……ファイアーランス!」
「……アイスバーン!」
セシリーは地面を凍らせ、セシルは無数の炎の槍で騎士達を串刺しにしていく、その連携の取れた攻撃に一瞬リリアナ達は怯んだのであったが、リリアナが叫んで体勢を立て直す。
「怯むな!数では我等が勝っている!押せ!押し出せ!」
その言葉を聞いた騎士団は再び進軍を再開したのであった。
その頃、本陣では左近は天眼で戦の状況を見ていた。
さすがに騎士団と言う事はあるな、進撃を再開したか……そろそろ弓隊の射程距離40メートルと言った所か。
「バッシュ!次は弓隊の攻撃開始の合図だ!」
「了解しました!」
バッシュは左近に言われて弓隊への攻撃開始の合図を鳴らした。
「やっと来たか!弓隊、構え!…放て!」
マルディの合図で弓隊が一斉にリリアナ達に弓矢の雨を降らせたのである。
統率の取れた弓矢の雨に騎士達は次々と射たれて行く、こちらからの魔法や弓矢は単発的にやり返しても全て蘭の魔法障壁が防ぐのであった。
「ネット!何だあの魔方陣は?こちらの攻撃が当たらないぞ!」
「王女様、あれは魔法障壁です!ルタイ皇国の巫女が得意な魔法です!」
「ルタイの巫女が……あの小娘かぁ!皆怯むな!突撃!ルタイの巫女を殺せ!」
進軍しにくいのによく進むな、しかし残り30メートルかそろそろか。
左近は次の行動に移ろうとしていた。
「バッシュ!セシル達を退かせろ!」
「了解しました!」
そう言ってバッシュはセシル達に後退の合図をしたのであった。
「お姉ちゃん!後退の合図だよ!」
「フハハハ!焼かれてしまえ!」
「お姉ちゃん!行くよ!」
「バカ、まだ焼き足りないのに!」
「ハイハイ、解ったから」
そう言ったセシリーはセシルを引きずりながら後退していき、蘭は次は弓隊の後方へと移動し、セシル達は本陣前に移動したのであった。
左近の所にやって来たセシルが左近に叫んだ。
「御主人様!まだ焼き足りないです!」
セシルは攻撃してテンションが上がるといつもこれだ……セシリーがいて本当に良かったな。
「セシル、お前にはまだ活躍してもらう!それまでに魔力を回復しておけ、いざと言う時に魔力切れではお前も物足りないだろう?」
「……ふぅ…それもそうですね」
セシルはそう言って一息ついて、落ち着きを取り戻したのであった。
さてと残り20メートル、そろそろか。
「バッシュ、弓隊と槍隊の入れ替えだ、いよいよお前の部族の出番だぞ!」
「はい!」
そう言ってバッシュは合図を出したのであった。
「弓隊後退!」
「槍隊前へ!」
マルディとボルの合図で、慌ただしく弓隊と槍隊が入れ替わる、この入れ替わりが早いほどギリギリ迄の弓攻撃が可能なのだが、今の左近達は20メートルが限界と言った所であったのである。
そして槍隊が整列すると、ボル命令を下す。
「槍隊、槍衾を組め!」
『おお!』
ボルの命令で槍隊のリーザードマンは一斉に槍を突き出したのであった。
「何だあれは!」
突き出された長い槍を見て騎士団は思わず止まったのであった、今目の前に在るのはまさに長い槍で出来た壁である、馬はさすがに槍の恐怖で立ち止まってしまったのであったのだ。
「臆するな!全員下馬して槍をかけ分けろ!」
リリアナの命令で、騎士達は馬から降りて盾を全面に出して進んで槍を掻き分けて進もうとするのだが、前列のリーザードマンの間からも槍を突かれて、騎士達は次々と倒れていくのであった。
そんな絶望的な状況で更に槍隊の後方から声がしてきたのである。
「弓隊、構え!放て!」
攻めあぐねている騎士達の頭上に、マルディ達の弓矢が容赦なく降りかかる、更には槍隊のボルが叫んだ。
「前列、槍を振り下ろせ!」
このボルの合図で、騎士達は槍と突かれると言うより固い棒で頭上を叩かれたのである、鎧の隙間を突かれるのでは無く、叩かれるのだからいくら鎧を着ていても肉体にダメージが来る、その瞬間を後列の槍隊の槍が鎧の隙間を刺すので、いくら重装備の騎士でもこれはたまった物では無かった。
「左近殿、これは凄まじい戦いだな、こんなのは見たことが無い」
ルイは思わず感心していた。
「これがわが国の戦い方だ、これでもまだまだの方だ、それにまだ次がある」
「まだあるのか……そうか騎馬隊か」
「正解、騎馬隊の出番は槍隊の働きにかかっているがね」
「退け、退け!1度仕切り直すぞ!」
リリアナの命令で騎士達が一斉に後退を始めたのであった。
「バッシュ、来たぞ!騎馬隊出せ!」
「はい!」
バッシュの合図で槍隊、弓隊が2つに別れて十戒の様に道が出来たのであった。
「行くぞ!騎馬隊、かかれ!」
『おお!』
アイリスの号令で逃げる騎士達に騎馬隊が襲い掛かり、その間にセシル達は先頭に、そして弓隊、槍隊と最初の陣形に戻って行くのであった。
まさかのここでの騎馬隊の突撃である、逃げる騎士達は次々と討ち取られて行くのであったが、その先ではリリアナが体勢を立て直しつつあった。
ここいらが潮時か。
「バッシュ、騎馬隊を退かせろ!」
「了解です!」
バッシュの合図を聞いた瞬間、チッ…ここまでか!と思ったアイリスは叫んだ。
「戻るぞ、後退だ!」
「何でさ!良い所なのに!」
ミリアが不満そうに騎士を殺しながらアイリスに言った。
「戻りたく無いのならこのまま戦えば良い、そんな奴は私は見捨てる。しかし向こうを見てみろ、騎士団が体勢を立て直している、引き際を知らない者の責任で部隊が全滅することもあると旦那様は前に言っていた、そんな奴は必要ない死ねば良い」
「……本当だ、皆いったん退くよ!」
そう言って再び十戒の様に割れた道を騎馬隊が戻り、元の陣形に戻ったのである。
「何だったのだ、あの動きは?」
左近達の動きを味わったリリアナは初めて見る戦い方に驚愕していた。
「大丈夫です!王女様の御英断により、まだそんなに言う程こちらも被害を出しておりません!反撃は出来ます!」
これはネットの言う通りであった、リリアナはこの戦いにアルム砦の半数以上の千の兵力を投入しており、先程の被害は100名にも満たなかったのであった。
「それもそうだな、しかしあの弓矢と槍は厄介だな……そうだ、盾を持った歩兵を前列に出して攻めてみては如何じゃ?」
「さすがは王女様、素晴らしいお考えで御座いますな」
「よし、歩兵は前列に出よ!奴等を切り崩せ!」
『おお!』
この時に左近は天眼で街道の先を確認していた。
この先には……やはり部隊が展開しているのか、しかしこの布陣は絶壁が無くなり開けた場所で囲むように部隊を展開している。
なるほど出てきた敵を包囲殲滅が狙いなのか、ここは一本道で迂回路は在ることは在るのだが、ここからかなり離れている、ならば伝令を出したとしても時間は一日以上かかるな、後方の警戒は緩めても大丈夫かな。
「御館様、御館様!」
「おぉ、すまんクロエ、どうした?」
「敵が動き出しました、敵は盾を持った歩兵が前列に出ている見たいです」
何だと!リリアナめ痛い所を突いてくる、盾を持った歩兵だと進撃速度は遅いが弓矢を防げるので効果的だここはどうする?この世界の盾は小さくて材質は木材だが、それでも弓矢や槍を防ぐには十分である。
セシル達の魔法で何とかしてもらうしかないか、しかし俺もまだ詰めが甘いな。
そろそろ80メートルか……
「バッシュ、攻撃開始だ」
「しかし……」
バッシュもこの状態を理解しているのか……しかし今はセシル達を信じるしか無い。
「大丈夫だ信じろ!」
「はい!」
そう言ってバッシュは攻撃開始の合図を鳴らしたのであった。
「お姉ちゃん、攻撃開始の合図だよ」
「……解ってる……けど」
「だよね盾が邪魔だよね……お姉ちゃん、魔法使いから魔導士にランクアッップした時の事、覚えてる?あの時に頭の中に新しい魔法が一気に流れ込んで来なかった?」
「……あんたまさか!」
「そう、1度だけ使ってみたの、魔丸を口に含んでいなかったら魔力が尽きて死んじゃったかも知れなかったけど、その魔法なら何とか出来そうなの」
「……おもしろい、このまま負ければ死ぬのは間違いないんだ、私もやってみるよ」
「じゃあ私が手前でお姉ちゃんが奥で良い?」
「……了解」
セシルがそう言った直後に二人は詠唱に入り、そしてほぼ同時に魔法を放ったのであった。
「アイスヘッジホッグ!」
「ファイアーウオール!」
二人が魔法を発動させると、歩兵の手前の足元からは無数の氷の先のとがった柱が兵士を貫き、奥の兵士の足元からは炎が壁の様に立ち上がり兵士を焼いたのであった。
何だあの魔法は?あれはもしかしてセシルとセシリーの魔法なのか?左近は二人の魔法を見て驚いていた。
「さすが御館様、まさかあの二人にあの様な魔法があったとは、戦とはこちらの手の内を隠して、ここぞと言う時に行うものなのですね」
クロエは二人の魔法を見て感心していたのであった。
クロエの奴、何か勘違いしているな……黙ってよっか。
「その通りだ、お前達もこれを見て戦を勉強しろ」
左近がそう言うと二人は決意を秘めた眼で頷いたのであった。
「くそ、何だあの魔法は!スタークの双子共の仕業か!えぇい怯むな、押し出せ!」
リリアナの怒号の飛び交うなか、騎士達は駆け足で近付いたのだが、先程の要領で槍衾に阻まれてしまうのであった。
騎士団も弓矢で後方から援護をするのだが、蘭の魔法障壁に阻まれて届かない、それでも射っていると数本の弓矢がすり抜けたのだが、リザードマンの固い鱗を貫くには至らなかったのであった。
「何故だ!何故崩せんのだ!」
リリアナは何故この兵力差で劣勢に立たされているのかが理解できなかった、そしてリリアナはここで最大の愚行をおかすことになる。
既にあれから三度攻撃しているのだが左近達の陣形が崩せない、しかも兵力は既に300名程が戦闘不能もしくは戦死しており、騎士達はリリアナに呆れかけているそんな中で、リリアナは命令を下すのであった。
「相手の交代するまでに接近して攻撃すれば良いのだ!騎馬を全面に出して一気に駆け抜けるぞ!」
『おお!』
騎士達はそう言って答えたものの、この兵力差で押されている事で既に士気は落ちに落ちていたのであった。
そろそろか、そう思った左近はクロエに命令したのであった。
「クロエ、ラナを呼んできてはくれないか?次で決めるぞ」
「はっ!」
「さてと軍監殿達はどうされます?因みにですが、我等の後方では王国の部隊が展開して我等が来るのを今か、今かと待っていると思いますよ」
「行くしか無さそうだな」
「そんな……」
ルイは覚悟を決めたのだが、クリスティーナは不安な顔で言った、それを察してかルイはクリスティーナに言った。
「そうかクリスは初陣か、すまないな私の我儘でいきなりこんな事になってしまって」
「そんな、良いんですよ!それに閣下の責任じゃありませんし」
「ハイハイ、解ったならみんな行くぞ」
そう言って俺は、皆を引き連れて騎馬隊の方へ行ったのであった。
そもそも俺はルイのこう言った所が嫌いだ、人の気持ちが何でも解ると言うか、優しい事を言って人を思い通りに動かす。
そんな奴は今までろくな奴がいなかった、コイツも同じタイプであろう、他の奴は騙せても俺は騙せんぞ。
そんな事を思いながら俺達が騎馬隊に合流すると、それを見た部隊の者達は次で左近が決めるのが解り、一気に緊張が走ったのであった。
そんな中で、リリアナ達が一斉に突撃を開始したのであった。
「来たぞ!バッシュ、こちらも攻撃開始の合図を出せ!」
「はい!」
そう言ったバッシュは攻撃開始の合図を鳴らしたのであった。
「お姉ちゃん、攻撃開始の合図だよ!」
「……そうだね、向こうの速度が速い、最初の方法で攻撃するよ」
「了解……アイスバーン!」
「……ファイアーランス!」
最初の様に二人は、セシリーが足止めをし、セシルが無数の炎の槍で貫くといった戦法で攻撃をしだしたのだが、進軍してくる騎士達の中には、馬を炎の槍で貫かれその場に倒れると、後方から来た味方の馬に踏み潰される者もいたり、セシリーの魔法で氷の地面で転けると味方に踏み潰される者もいた、まさに屍を踏み越えて襲い掛かって来るのである。
そんな姿にセシルとセシリーは恐怖を覚えて、攻撃速度が明らかに遅くなってきたのだが、その時である、弓隊に攻撃の命令が下ったのであった。
「弓隊構え!放て!」
マルディの合図で無数の弓矢が騎士達に降り注ぐ、だがそんな事はお構いなしに騎士達は突き進むのであった。
しかしこんな状態だが、騎士達からの弓矢や魔法の攻撃が殆ど無かった、それもそのはず弓矢や魔法を放とうと立ち止まると、背後から来た味方の騎士達に踏み潰されていたからであった。
それほど密集し尚且つ部隊も滅茶苦茶な状態で突き進んで来るのである、最早そこには狂気に似た何かがあったのであった。
これはマズイと思った左近は、少し早めに部隊の移動に取り掛かるのであった。
「バッシュ、少し早いがセシル達を下げるぞ!」
「かしこまりました!」
バッシュもその左近の言った意味は理解しておりセシル達の後退の合図を出したのであった。
「ほら、お姉ちゃん後退の合図だよ!」
「……解ってる!解ってるけど何で……何で速度が落ちないのさ!」
「それだけに向こうが本気だって事だよ!早く後退するよ!」
「クソ!クソ!クソ!」
セシルはセシリーに促されて、悔しそうに後退して行ったのであった。
「バッシュ、次は弓隊に後退の合図だ!」
「はい!」
そう言ったバッシュが合図を出すと、マルディとボルは今回の攻撃は尋常じゃ無いと理解していたのか急ぎ交代するのであった。
そんな時にラナがクロエと一緒に左近の元に戻って来たのであった。
「お、やってるねぇ!旦那様、勝てそう?」
明るく左近に言うラナを見て、騎馬隊の傭兵達は、何を言っている劣勢に決まっているだろうと誰もが思ったのであったが、左近の口から出た言葉は違った。
「あぁ、これで勝ったよ、俺達はこの戦で伝説を作るんだ、お前もその伝説に加わるだろ?」
「もちろんじゃない、アイリスだけに良い思いはさせられないもん!」
「ラナ……あんた暴走だけは止めなさいよ、作戦は覚えてる?」
「アイリス、バカにしないでくれる?退却する敵兵と一緒にアルム砦に入って、跳ね橋を上げさせないでしょ。
ちゃんと頭に入ってますよ……でも敵兵って退却するのかな?」
「するさ、こんな状態でリリアナが逃げ出したら、我先にとに騎士団は逃げ出すさ、その為にはもう少しボル達にがんばってもらわないとな」
そう、騎士団がこんなにも命をかけて戦うほど、リリアナが逃げ出した時のショックは大きい。
本来ならば、リリアナはこんな所で勝負をかけなくて良かった筈なんだ、付かず離れずの距離を保ち街道先の部隊と挟み撃ちにすれば勝てたものを。
まぁリリアナの性格から言って、手柄は自分が独占したいだろうし、挟み撃ちにしたなら街道先の部隊と手柄は分け合う事になる。
早く王都に復帰したいリリアナからすれば、手柄を分け合う等それは死んでもしたくは無いだろう。
この戦は相手がリリアナであったが為に勝てたのだ。
そう思っている間に騎士団の先鋒と槍隊が交戦状態に入ったのであった。
さすがに今回の攻撃は熾烈を極めていたが、ボル率いるリザードマン達は1歩も引かなかった、それどころか数では不利なのに、押し返す場面もあったのだ。
騎士達もさすがに槍衾を崩せなくて、疲労の色が見え始めた時であった、左近はマジックバックから弓矢を取りだし、スレイプニルの鞍の上に立つとリリアナを探しだしたのであった。
リリアナは槍衾の向こう側で、おそらく馬の上に立った男を見て驚いた。
左近!その名前がリリアナの頭を横切る、ここで初めてリリアナは自分が戦っていたのが左近の部隊だと気が付いたのであった。
リリアナが気付かなかったのも無理はない、左近達がアルム砦の前を通り過ぎるまで、兵士達は隠れていたし、リリアナは城内でいつでも出陣できる様に待機していたので、誰もが左近の存在に気が付いていない。
そして掲げている軍旗はセレニティ帝国の物だけであったからだ。
またしても彼奴か!そう思った時であった、左近が自分の方向に弓矢を構えたのが見えたのである。
ここまでとどくわけが無い、リリアナはそう思っていたのだが左近が持っているのは、和弓でその射程距離は400メートルを超える代物であり、十分にリリアナを狙える距離であった。
左近は弓を構えてリリアナに狙いを定めるとカシュッ!と音を鳴らして矢を放ったのであった。
左近の放った矢は放物線を描き、リリアナの頬をかすめて後ろの地面に突き刺さったのである、その瞬間リリアナは硬直し、血の気が一瞬で引いたのであった。




