初めての依頼
次の日の朝、俺は囲炉裏の間で兼平と話をしていた。
「なるほど、資金は十分だが温泉の湯量が足りないと言う事か……」
兼平の言った事はこうであった、兼平のスキルで確認した所、この山の湧き水の水量は各家庭が使用するには十分だが、風呂に使用する温泉の湯量が足りないと言うことであった。
「そうなんですどうしましょうか?」
「……公衆浴場を作ってはどうだろうか?それならば温泉の湯量も節約出来るだろう?余った温泉はエルマの所等に……客室の別宅も作れるか?」
「確かにそれならば節約できますね、別宅……温泉宿の離れみたいな感じですか?」
「そうだ、そこを貴族の温泉宿にして料金をぼったくるのも良いな」
「けっこう悪どいですね……そちらも作りましょう。他には有りますか?」
「そうだな長柄は作れるか?出来るならボルの槍隊に装備させたいのだが」
「長柄?あの持ち手の長い槍ですか?それならば簡単ですよ、ボルさんの槍隊の槍の穂先を付け替えるだけですから」
「それと何か音の出るものだな」
「音ですか?」
「すみませんお舘様、何で音の出るものが必要なのでしょうか?」
不思議そうにバッシュが聞いた。
「戦で前以て動きを決めておけば、戦場では伝令より音の方が伝達は早いからな」
離れた所からの伝達には無線などの技術が無いこの世界では、音や狼煙などの視覚、聴覚の合図が一番早く、確実である。
伝令は細かな指示が出来る一方で、どうしてもタイムラグが出来てしまう、その為に狼煙や法螺貝の音を立てて、前以て動きを決めておけば刻一刻と変化する戦場では有効なのであった。
「それでしたら、我等リザードマンには雄叫びのスキルが有りますので、それを使われたらどうですか?」
「雄叫び?」
「元々は戦いの時に威嚇するスキルなのですが、実際は音だけが大きくて威嚇にもならないあまり意味の無いスキルなのですよ」
「ちょっとやってみてはくれんか?」
「そ、それがですね私はそのスキルを使うのが下手で、何回やっても変な音になるので……父上の方が適任かと」
「大丈夫だやってみてくれ」
「笑わないでくださいね、では音量を抑えて……」
そう言って鳴った音は、ラッパの様な音で音量を抑えてと言ったのにかなりの爆音であったのだ。
「解った!解ったから!」
俺がそう叫ぶとバッシュは雄叫びを止めて平伏して言った。
「この様な未熟な音を聞かせて申し訳ありませんでした!」
「いやいや、これで良いんだ。これならば味方も威嚇せずに意味だけ伝わる、これからは戦場ではお前が俺の指示を全軍に伝えるのだ、反論は無しだ」
「解りました……」
何だか不満そうだがまぁ良いだろう、このラッパの様な音なら俺の気分が盛り上がる。
「凄い音でしたね……しかし父上、部隊の旗がなければ示しがつきませんので、これをどうぞ」
そう言って珠が俺に渡した物は、三つ柏の俺の家紋が入った大きな旗であった。
「これは?」
「ロンデリックに言って、早急に作らせました。昨日から皆に鎧を赤くさせていると言うでは御座いませんか、それならば軍旗も必要でしょう」
確かに珠の言う通りだな、部隊を率いるのならば軍旗は必要だ。
「ありがたく使わせてもらうよ」
そう言って俺は軍旗を貰って決意を新たにするのであった。
それから1か月後……
1か月経過してもリリアナからの嫌がらせは全く無かった、それもそのはずアデルがリリアナのお気に入りの馬の首を落として、就寝中のリリアナのベッドの中に入れ、翌朝目覚めたリリアナが驚愕し、引きこもったが為であった。
リリアナの様なタイプは他人には残虐になれるが、自分の命がかかると途端に弱気になる、どうやらこの警告は解ってくれた様であった。
しかし本当に恐ろしいのはアデルである、アデルはリリアナの左遷されたアルム砦に単身潜入し、あんな離れ業をやったのであるから、こいつは俺の怒らせないリストに入れておくとしよう。
それにしても、あれから1か月たって皆の連携がいたについてきた、元々が傭兵で飯を食べていた者達だから連携さえ身に付いたら屈強な兵士に変わると言うものだ。
そろそろ実戦の時かも知れんな、しかし今のところの兵力は、セシル率いる魔導部隊2名、マルディ率いる弓隊30名、ボル率いる槍隊40名、そして斥候のラナに騎馬隊のアイリス、本陣のクロエにバッシュ、そして俺の合計で77名しかいない。
この兵力不足は実戦だとまずい、あとは何処まで傭兵を補充出来るかによるな……オヤジさんの所で何とかしてもらうとしよう。
そう思った俺は、アイリスと共にナッソーまでやって来た。
ラナは部族の女性達のシャンプー作りの指導に最近は身動きの取れない状態だし、クロエは何故か気を利かせたのか今回は付いては来なかった、まぁデートの様な感じだし良い事だ。
ただ、二人とも武装している事を除けばだが……やっぱりデートは普通の服で楽しみたいよなぁ。
「しかし旦那様とこうやって二人でお出掛けするのって、何だか久々ですね」
「そうだな、結婚してからは初めてだな……オヤジさんの所に行ってから少しナッソーで買い物をするか」
「はい!」
そう言ってアイリスは腕を組んできたのだが、鎧のせいで大切な胸の感触が……まぁアイリスは楽しそうだから良しとするか。
そう言って俺達はオヤジさんの店に入ると、開店したての為かまだ客は少なくまばらであった。
「ゲッ、またルタイ人!」
またこいつか……ん?また?蘭が来ているのか?いや訓練が有るので来ていないはずだが、それに他の客にもルタイ人はいない……まぁ辺りを歩いていれば出会うだろう、そんな事よりオヤジさんだ。
「オヤジさん、いるかい?」
「し、少々お待ちを……オヤジさぁん!」
「何だ?……おぉ、左近じゃあねえか!どうした今日は?」
「今日は仕事を探しに来たんだ、何か仕事があるかい?」
「ちょっと待てよ……」
そう言ってオヤジさんは、何やら大きな分厚い本を取り出してカウンターに置いて調べだした。
「オヤジさん、それは?」
「あぁ、お前は見るのは初めてだったな、これは傭兵ギルドの連絡用の本だ、これには傭兵の依頼が自動的に書き込まれるって仕組みだ」
「掲示板等に貼り出せば楽じゃないのか?」
「そうしたい所だが、これの依頼は様々な国の軍事行動が書かれているので、掲示板等に貼り出して公開すりゃ、その国の機密が筒抜けになるんだよ。
そんな事をすりゃ、何処も傭兵の募集なんかやらねえ、そうなりゃ俺達傭兵家業は商売あがったりだ……何か希望はあるか?」
そりゃそうだ、そうなったら全部筒抜けになるわな。
「希望はまずは一番近くて、部隊単位で受けれる仕事だな」
「そうか、最近は傭兵の数が少なくなって、仕事の依頼が倍近くまで膨れ上がったから助かるよ」
「何かあったのか?」
「あったもなにも、お前の所の犬耳のガキがうちの店でペラペラと、ダンジョンでこんなにも儲けたって話していたから、こんなガキの運搬屋でそんなに儲かるならって、他の奴等がダンジョン攻略に行ってしまったんだよ」
クレアの奴め……そんな事を言っていると盗賊に狙われるぞ、帰ったら注意しとくか。
「何だかすまないな」
「良いって事よ、傭兵ギルドって言っても単なる口利き屋なだけだし、それにここの奴等はみんな自由だ、どこで何をやっても良いんだからな……お、あったあった。
左近よ、この仕事はどうだ?セレニティ帝国の仕事なんだが、目標はアルム砦の制圧だ、報酬額は300万シリングだ。
アルム砦ならばここから4日の距離だし近いぞ」
アルム砦……何処かで聞いたような……あ!リリアナが左遷された砦か!と言うことはリリアナが相手になるのかな?だとすると楽だな、それに300万シリング、3億円か、よし!これにしよう。
「それにしよう、それとオヤジさん傭兵も雇いたいんだ、馬を持っている騎兵タイプの傭兵を、募集期限は今日と明日で頼む。賃金は傭兵の平均金額だ」
「集合場所は?」
「魔の山で頼むよ」
「解った。しかし魔の山っていい加減名前を変えないか?何だか縁起が悪いぞ」
「ハハハ、考えとくよ」
「そうしてくれ、俺も毎回その場所を集合場所にされては、なかなか傭兵が集まらないからな、せめて名前だけでも変えてくれたら傭兵を集めやすい。
それとお前は今回が初めてだったな、一応説明をしてやる。
傭兵業は基本的には、目的を達成したら支払われる後払いが基本だ、これは部隊の仕事も個人の仕事も同じだ。
そして情報を漏らすのは御法度だ、そんな事をすれば次からは仕事が来ないし、傭兵ギルドとその国から討伐部隊を出される、更にはその情報を得た国には傭兵は出されないし、格安でその国の敵国に傭兵が出される事になる。
それと部隊単位の仕事は、依頼国に所属する街の領主の所に行って、国旗と軍監2人を連れて目的を達成し確認したら、依頼国に全て引き渡して終了、そこで報酬も貰える。
そこで条件が違ったり報酬が支払われない時は、傭兵ギルドに言ってくれ、きっちりと落とし前は取ってもらうからよ。
これまでで何か解らない事はあるか?」
「大丈夫だ、それで今回は何処から軍監を連れて来るんだ?」
「今回の依頼はアルム砦の制圧だから、近い所でここから5日の距離に在る、パナスの街に居るメデル子爵になるな。
因みにどれくらいの兵力で行くんだ?」
「70程だと考えているが」
「おい!アルム砦は最近は兵力が増員されて、3千近くは居るんだぞ死ににいくのか?」
「大丈夫だ、俺には策が有るからな」
その時であった、俺の後ろから女性の声がしたのである。
「おもしろい、その話に乗った!」
その声を聞いた俺が振り返るとそこには、全身が古傷だらけの女性が立っていたのであった。
「ミリア、お前またかよ……左近こいつはミリアと言って負け戦を好む変わった傭兵なんだ、だから負け戦が多いので仲間からは、死神ミリアって言われているんだ」
「勝ち戦で戦っても名前が売れないじゃないかよ!」
「な、変な奴だろ、普通は金にもならない負け戦なんて誰も行かねえよ。
左近、こいつは止めておけ」
確かにこいつはオヤジさんの言う通り傭兵じゃないな、この考え方はどちらかって言うと戦人の考えだ……面白いな。
「オヤジさん、こいつを雇うよ」
「大将!解ってるねぇ!」
「良いのか左近?」
「良いんだ、それに俺の今の戦力じゃ一人でも多く傭兵が欲しいからな。ミリア、お前は馬に乗れるか?」
「乗れるに決まってるだろ」
「それじゃ、馬に乗れる仲間を連れて明日に魔の山の麓に来てくれ。それとお前の部隊の隊長になる俺の妻のアイリスだ、戦場では全てアイリスの指示に従ってもらう、守れるか?」
「大丈夫だ、そのかわりにこちらも条件がある、報酬は2倍の1日400シリングで行動中の食糧は全てそっち持ちでどうだ?」
「おいミリア!それはいくらなんでも吹っ掛け過ぎだろう」
2倍の1日400シリングって事は傭兵の給料は、通常は日当200シリングってことか、日当2万円が相場とは傭兵はそんなに儲からないのかなぁ。
「良いんだオヤジさん、その条件で大丈夫だ」
「では契約成立だな。それじゃ明日な大将、嬢ちゃん」
「じょ、嬢ちゃん?」
アイリスはそう言って少し固まっていたが、そんなアイリスを尻目にミリアは店を出ていってしまった。
「オヤジさん、傭兵の給料は1日200シリングが相場なのか?」
「あぁその通りだ、ただし相手の貴族や将軍を討ち取ったりすれば、特別な報酬も出るし捕らえれば、依頼国かそいつの国にも身柄を渡して身代金をいただく事が出来る、そいつもギルドが代行しているからな」
身代金の要求までやっているのかよ、傭兵ギルドって自由なマフィア組織みたいな感じだな。
「有難うオヤジさん、所でオヤジさんって傭兵ギルドだったのか?」
「そうだな傭兵ギルドでもあるし、IDCUの組合員でもある…まぁ言ってみりゃ口利き屋だな。
それに、こんな辺鄙な所に誰もすき好んでギルドの支部なんか出さねえよ、出した所で盗賊どもに焼き討ちにあって、金をぶん取られるのがおちだな」
そんなにナッソーってヤバい街だったのか、今度から皆に気を付けさせよう。
「んじゃオヤジさん、傭兵の件は頼むよ」
「あぁ任せておけ」
そう言ってオヤジさんの店を出た俺達はナッソーの市場に向かった、市場に並んでいる物は生産して販売する者もいれば、盗品を販売する者もいる。
このナッソーの商業区画では、暗黙のルールで略奪は御法度になっているらしい、まぁ盗品でも堂々と販売できるこの場所で安心して商売が出来なければ、盗賊達は盗品を売ることが出来ない、そうなれば盗賊の恨みを買い、国や賞金稼ぎナッソーの住民。更には盗賊達にまで狙われる事になるからであった。
「旦那様、あそこのイヤリング可愛いですね。あ!これも可愛いですね」
アイリスは露店に並ぶイヤリングを見て、目をキラキラとさせていた。
「旦那、綺麗なお嬢様ですね、彼女さんですかい?」
やたら腰の低い男が近付き言った、こいつは盗品専門の販売商なのだろう。
「いや俺の妻だ……ルタイ語が解るか?」
「これは失礼、あまりのも若いお二人だったので。それとルタイ語は私は解りませんよ」
解らない?そうかスキルが自動翻訳から全自動翻訳になったから、俺の会話も翻訳されるのか、これは楽になったな、
「いや良いんだ。ここは見たところイヤリングの専門店か?」
「そうですよ……旦那ここだけの話ですが、指輪もございます。まぁ何処からとは言えない代物ですが、ここから近い所に保管していますが見ませんか?」
盗品と言う事か、それもここで出せない程の高価な物って訳だな。
「良いだろう、ただ何で俺なんだ?」
「この辺りでルタイ人って言ったら、あの魔の山に住むあのルタイ人しかいませんよ。
それにそこのルタイ人なら、こないだのピケの山のダンジョンでガッポリと稼いだんでしょ?」
クレアの話がこんな所まで……アイツには機密は話せないな。
「解ったよ。アイリス、指輪を見に行かないか?」
「良いですが、でも……」
なるほど、罠を疑っているのか……有り得るな、クレアの話を聞いて金を持っていると聞いているだろうし、ここは警戒して行きハメられれば殺せば良いだけの話、それにここでこう言った輩を皆殺しにしておけば、後々に俺達をハメようとする者もいなくなるだろう。
「アイリス、ここは楽しもうじゃないか」
「……そうですね」
どうやらアイリスに俺の意図が伝わった様だな。
そう言って俺達は露店商の男の案内で、二階建ての家に入って行ったのであった。
家に入るまで、数人の男が後をついてきたが、これは本当に俺達を尾行していたのかが解らない。
何故ならば、ナッソーの住民はその殆どが盗賊や傭兵等のいわゆるアウトローの者達である、つまりは本当に尾行しているのか数が多過ぎて解らないのであった。
露店商の案内で俺達は二階の一室に通されると、中には応接間の様なソファーや豪華なテーブルが置かれていたのであった。
なんだここ?どう見てもヤクザの事務所の様な感じがする……実際に行ったことは無いけど。
「どうぞこちらでお待ちを直ぐに指輪をお持ちしますので」
そう言うと男は急いで部屋を出ていってしまったのであった。
「旦那様、何か変ですね?」
「アイリス、お前もそう思うか?」
「はい、こんな応接間は変ですよ。もしかすると前にラナが言っていたマフィアかもしれませんね」
「マフィア?」
「はい、最近はナッソーの盗賊達を束ねる者が出てきた様で、何でも取り扱っている様ですが、何かとキナ臭いとラナが言っておりました」
「なるほどな……普段バラバラの盗賊がナッソーで手を組むとは、有り得る話だ」
そう言っていると、廊下から数人の足音が聴こえて来たのであった。
俺とアイリスはすぐに刀を抜ける状態にして待ち構えていると、勢いよく扉が開き10人程の男達が入って来て、その後でやたら金のネックレスや指輪を付けた男が入って来たのである。
「初めましてと言うべきかな?左近さん。俺は、ダッチってこの辺りを束ねている者だ」
「失礼だが何処かで会ったかな?」
「正確にはこうして会うのは初めてだな、俺の弟は商人を襲ってお前に殺されたのでな、少しお前さんの事を調べさせてもらったよ」
あのゼニトやアイリスを襲った奴等の中に、このダッチの弟がいたのか。
しかもここに居る男達は、全員が盗賊持ちか……やはりマフィアだろうな。
「……それで、その弟を殺した俺に仕返しか?」
「まさか!そんな事をやっても1シリングにもならねえよ。俺がやりたいのは商売の話だ」
そう言って男達がテーブルにケースを並べると、その中には指輪が入っていたのであった。
「まぁ座ってくれ。解ってると思うが、この中にある物の出所は聞くなよ」
なんだ取り越し苦労か、でもただし警戒は解かないがな。
「アイリス、好きなのを選んでくれ、俺はこのダッチと話がある」
「解りました……」
「で、俺に何か用かな?ダッチ」
「さすが俺の弟を殺しただけの事はあるな、話が早くて助かる……単刀直入に言おう、左近よお前さん俺の下につかんか?」
「その話は断る、俺は誰の下にもつかない主義でね」
「左近よ、お前さんはもう少し頭が良いと思ったんだが……この状況でそんな事が言えるのか?」
「……試すか?」
俺がそう言った瞬間に、回りの男達が一斉に剣を抜き俺達に向かい構えたのであった。
「なぁ左近よ、これで解ったか?」
「なぁダッチよ悪いことは言わん、早く剣を収めろ。さもないと……」
「さもないと、どうなるん……」
「ギャッ!」
「グア!」
「こうなる」
ダッチが話している間に俺達に剣を向けていた二人の腕が、アイリスによって一瞬で斬り落とされたのであった。
「貴様!死にたいのか?」
「死にたいも何も、先に剣を抜いたのはお前達だ。それにどうする?これで8人になったぞ、いやダッチお前を入れて9人か」
「……狂ってる、この人数でビビらないなんて!それに、いきなり腕を斬り落とすなんてコイツら狂ってる!」
「お誉めの言葉、どうも有難う。
こっちはダンジョンの前にザルツ王国の騎士を俺とアイリスの二人で、30人以上も同時に相手をして血祭りにしているんだ、たかが9人で俺とアイリスに勝てるとでも?
さてダッチよ、次はビジネスの話をしようじゃないか、剣……収めてくれるよな?」
アイリスがこう動くのは解っていた事だ。
アイリスは俺に害が及ぶと解った瞬間に、前以て俺が言っておかないと、即座に攻撃する女性だ。
それにこの場所がナッソーと言うこともある、アイリス本人もコレが王都レンヌ等であればこんな真似はしない、分別は持っている……多分ね。
「商売の話だと?指輪の商談以外に何が有るって言うんだ!」
あれ?ビジネスって商売って翻訳されるんだ、勝手に翻訳してくれるのは楽で助かるな。
「そうだビジネスだ、実はな今度俺の部隊でアルム砦を攻め落とす仕事が有るんだ、そこでお前に食糧調達の仕事を頼みたい、100名分で14日間の食糧だ。
出所は気にしないが、粗悪品だった場合は、その100名がお前達を殺しに行っても俺は知らない。
引き受けるか……それとも死ぬか……好きな方を選べ」
「お前気は確かか?アルム砦は今3千の兵士が駐留しているんだぞ!それを足ったの100名でだと?しかも軍監を頼みに行くのは、一番近い所でパナスの街だろう、そこまで5日、更にそこからもアルム砦まで同じく4日、帰って来るのに4日、合計で13日だ、と言うことは僅か1日でアルム砦を落とす事になる。
そいつはいくらなんでも無茶苦茶だろう!」
「お見事ダッチ……お前、計算も出来るんだな。
で、出来るのか?出来ないのかどっちだ?」
「……2万8千シリングだ、前金で2万8千シリングで手を打とう、期限は?」
ふむ280万円か……1日1人2千円の食費と言う事か、妥当な所かな。
「期限は明後日だ、明後日に魔の山の俺の所まで持ってこい」
「明後日だと?早すぎる!せめて5日はくれよ!」
「ダッチよ、俺の国には時は金なりって言葉がある、出来なきゃこの話は無しだ、そしてお前達の命も無しだ……さてどうする?」
「わ、解ったよ大将、その話を受けよう」
「そう言ってくれると思っていたよ。アイリス、もう決まったか?」
「はい、この紅いルビーの指輪が可愛いかと……」
「良いな、可愛いしアイリスに似合う。ダッチいくらだ?」
「奥様それはお目が高い、プラチナのルビーの指輪になりますので850シリングになります」
8万5千円か、安っ!もう少し高価な物を想像していたんだが、しかしそれぐらいの金額かな?一応鑑定しておくか、呪いの指輪とかなら嫌だしな。
名前:ルビーの指輪 種類:指輪
スキル:運上昇小
おっ、スキルが付いているじゃないか、ルビーも本物の様だし良いんじゃないか。
「よしこれも頂こう、商談成立だな」
そう言って俺はダッチの前のテーブルに食糧と指輪の代金を置き、出ていこうとした時であった、二人の盗賊が俺達の前に立ち塞がったのである。
「ダッチ、コイツら殺して良いのか?」
「……お前達、そこを通してやれ」
ダッチにそう言われて男達は渋々ではあるが道を空けて、俺達は部屋を後にすると、扉の向こうから声が聴こえて来たのであった。
「ボス、良いんですか、生かして帰して?俺達の面子に関わりますぜ!」
「バカ野郎!彼奴の……左近の目を見たか?彼奴の目は何百人、何千人を殺してきた奴の目だ、殺しを何とも思っていない奴の目だよ。
それに、足ったの100人で3千人の正規兵が立て籠る砦に攻めるって、とんだイカれた野郎だよ!あんな狂った奴の相手は絶対に嫌だ!早く彼奴の仕事を終わらせて、かかわり合いは避けたいんだよ!」
良い判断だよダッチ、でも次からもお前に仕事を頼むから、かかわり合いにはなるがな。
「旦那様、また悪い顔になっていますよ」
「そ、そうか?それは、すまなかった」
「全く……マフィアを脅迫するなんて、どっちがマフィアなのか解りませんよ……でもあそこでマフィアのボスが出てくるなんて、よく解りましたね?」
「あぁ、あれな。実はな、兵糧の問題は前からあったんだよ、そこへたまたまダッチが来たから、マフィアなら合法から非合法まで、何でもやって食糧を調達出来るかなって思っただけなんだよ。
出来なきゃ出来ないで、皆殺しにしてオヤジさんに貸しにしても良かったんだ」
「旦那様、やっぱり悪党ですよ」
「そうか?」
「そうですよ。でも私やラナ達には優しいので、私達は特別なんだと感じられます……そんな旦那様だから私は結婚したのですよ」
そう言ってアイリスは早速、指輪をはめてニヤニヤとして、ナッソーの街中を歩いて行くのであった。
……それにしても俺、そんなに目付きが悪いのかな?何だか微妙にショックだ。




