バカ犬
俺は、ダンジョン内に在るセーフティールームで壁にもたれ掛かり身体を休めていた、結局1階でセーフティールームを発見するより、地下2階に行く階段を先に発見してしまったので、俺の判断で2階に降りてセーフティールームを探したのであった。
2階のセーフティールームは思った以上に、1階からの階段の近くに在り俺達はそこに避難したのであった。
セーフティールームと言っても本当に安全かどうか解らないので、交代で入り口を見張り、もう一人はクロエの看病に着くことを決めて残りの者は身体を休める事にした。
ラナは、俺の膝枕で猫の様に抱き付き寝ており、アイリスは俺の肩にもたれ掛かり寝ている、蘭は寝袋に入って寝て、セシルが見張りでセシリーが看病をしていた。
「……御主人様、少し聞いても良いですか?」
扉の外を警戒しながらセシルが言った。
「何だ?」
「……御主人様はどうして、奴隷の私達にこんなにも優しいのですか?普通は奴隷と言えば使い捨ての道具、ましてや性奴隷の私達に……あんなに汚れてしまった私達に夜も優しいし……」
「変か?」
「……はい、正直そう思います」
「……俺はな、昔に異国に売られる同族を見たことがある、家族から無理矢理引き離され人間とは思えない扱いを受けていた同族をな。
その時の権力者もその光景を見て激怒し、その異国の者を全て自分の国から追放したんだ……俺も同じ気持ちだったよ、だから俺は奴隷でも使い捨ての道具になんかしない。
それにお前やセシリーは俺の家族と思っている、何処の世界に家族を使い捨てにするバカがいるんだ?もしもいたとしても、そんな奴には未来など無い。
それとお前は汚れてしまったと言ったいたが、お前達は心まで汚されていないし本当に綺麗だと思うよ、もっと自信を持て」
「……有難う御座います、私……御主人様に会えて良かった」
「そう言ってくれると俺は嬉しいよ。所でお前達の職業に勇者見習いとなっていたが空間転移は使えるのか?」
「……使えます、ナッソーで買い物をしていた時にセシリーと話していて、確認しました。でもアイテムボックスは使用出来ないようです」
「見習いだからかな?おそらくランクアップして勇者になれば使えるだろう」
「う……うん……」
「御主人様、クロエさんが気が付きました!」
「こ……ここは?」
「ダンジョン2階のセーフティールームだ、どうだ身体は?」
「まだ少し……お舘様、何故私を置いて行かれなかったのですか?」
「俺は誰も見捨てはしないよ、それにお前を見捨てて逃げたらマルディに顔向け出来んだろう。今はそんな事より回復丸を飲んで少し休め。
セシリー、回復丸をクロエにやってくれ」
「はい……さ、クロエ様どうぞ」
「すまない」
そうして回復丸を飲んだクロエは、そのまま眠りにつき俺達も安心して眠りについたのであった。
あれから何れ程時間が経ったのか、俺が目覚めると既に他のみんなは出発の準備が出来ていたのであった。
「あ、お早うございます……であってますよね?」
「お早う、たぶんあってるよアイリス。クロエ、身体の調子ははどうだ?」
「おかげさまで、完全復活です。助けて頂き本当に有難う御座います」
「それは良かった、みんな準備は出来ている様だな。アイリス外の様子はどうだ?」
「セシルの話では、最初の頃はこの辺りを沢山のモンスターがいたのですが、今はもういない様子ですね」
「ラナ、マメを出して先発させろモンスターが潜んでいる可能性も有るからな」
「はーい、マメ出ておいで……ゲッ、悪魔召喚士になったのにまだ子犬のままだし!」
そうラナの短剣から出てきたマメは、まだ子犬のままであった。
「何この子、可愛い」
「ワン!ヘッヘッヘッ」
おい、お座りして尻尾を振っている姿は完全に犬だぞ……最早マメはケルベロスのイメージを期待するのは止めよう。そうだコイツは犬だ豆柴だそう考えれば気が楽になる。
「クロエは見るのは初めてか、コイツはラナの召喚獣のマメだ」
「よろしくねマメちゃん」
「アン!」
おい、クロエに完全になついているじゃないか……コイツは犬だ、犬だ、犬だ、深く考えるんじゃない。
「マメ、こっちにおいで……お前はここから出てモンスターが居れば鳴いて私達に報せるんだ、解ったね?」
「ワン!」
「よし、では行ってきな!」
ラナの掛け声と同時に、マメは扉の隙間から外に抜け出しダンジョンの中に姿を消したのであった。
「よし、大丈夫な様だが警戒は怠るなよ」
『はい!』
俺達もセーフティールームから出て、先に進む事にした。
一応マメが先行して調べているとは言え、安心できない、ダンジョンでは用心し過ぎる事はないのだから。
そう思いながら進むと別れ道に出た、マメはどっちに行ったんだろうか?
「どっちだ?」
「たぶん右側に行ったと思う、何となく解る」
まぁ、ラナの召喚獣だからラナ自身何かを感じられるのであろう。
「ではこっちだな」
そう言ってラナの言った右側の道を進んで行った時であった、先の方からマメの鳴き声が聴こえて来たのであった。
先にモンスターがいるって事か、このまま戻るのも選択肢の1つだが……このまま行くか。
「みんなこのまま行くぞ、毒矢だけは十分に注意しろよ!」
『はい!』
そう言って俺達がマメの声のする方向に走って行くと、マメが何やら地面に向かって吠えていた。
何だ、地面に何か在るのか?そう思って近付くと……解りました原因が、マメの吠えていた原因、それは洞窟にいる普通のムカデでした。
……このバカ犬が。
「マァ~メェ~!あんたまさか、このムカデに吠えていたんじゃないでしょうね!」
「ラナ、怒っちゃダメです!マメも一生懸命やっているのですから。それにこのムカデもマメにとってはモンスターも同じ様に怖い存在なのですから、ね~マメ」
「アイリス、あんたマメを甘やかさないで!こいつは私が立派なケルベロスにするんだから!」
「そんな、今のままで良いじゃない!こんなにも可愛いんだから!」
「可愛いだけじゃダメなの!」
「可愛いは正義です!」
コイツら本当に対称的だな……おや?鎧の音がしてきた、来たか。
「お前達!……」
『旦那様は黙ってて!』
「は……はい、すみません……じゃなくて!モンスターだ、みんな迎撃の準備!」
「……仕方がありません、ラナこの続きは後程」
「あぁ、解ったよアイリス」
何とかこの場は収まってくれたか。そう思いながら振り返った時だった。
……カチリ
え?何かを踏んだ様な……うわ!
クロエに引っ張られた俺は地面に引き摺り倒され、俺の立っていた側面の壁には弓矢が刺さっていたのであった。
「……クロエすまない、これは?」
「おそらくトラップです、そこの壁の穴から飛んで来たものかと……こんなトラップの在るダンジョンなんか聞いたことがない……お舘様、来ましたよ」
こんなトラップの中で戦わなくちゃいけないなんてまずいぞ、とにかくモンスターが来るのは後方か……慎重に進みながら後方を攻撃するか。
「アイリス、ラナはトラップに警戒しながら進め、後方のモンスターはクロエとセシルとセシリーが後退しながら攻撃、蘭はアイリスとラナのバックアップ!俺は後ろの3人をフォローする!」
俺がそう言うとすぐにみんな陣形を整えて、後退しながら攻撃していった。
……何だあいつら?そうかスケルトンはあの石の様な核を攻撃しないと死なないし、ゾンビも頭以外は大丈夫だから、トラップの中でも進めるんだ。
そう、後方から俺達を追って来ているスケルトンとゾンビの群れは、トラップを軒並み発動させて、こちらを追ってくるのであった。
いくら壁から弓矢が飛んで来ようとも刺さっても、その歩みは止まることなく進んでくる。
これは追い付かれたら、俺達はトラップを警戒しながら戦うが、あいつらはそんなのお構いなしに攻撃できる、そんな状況で戦い何て出来る筈がない。
そうだ、これは即ち追い付かれると死ぬことになる、このままじわりじわりと追い付かれて死ぬか、トラップで死ぬか……死ぬ?俺は今まで何をビビっていたんだ?昔はそんな事は日常茶飯事だったじゃないか、何だか俺らしくないなこの状況、楽しむか。
「お前達!走るのは得意か?」
「……御主人様、何?」
「お姉ちゃん、私何だか嫌な予感しかしないんだけど」
「お舘様、まさか……」
「そのまさかだ、ほらアイリスとラナはやる気みたいだぞ」
「左近様、嘘ですよね?嘘ですよね?」
「蘭よ楽しもうじゃないか、別れ道に行った時は先頭の者に決定権が有る、それがルールだ。弓矢が飛んで来る前に走って通り過ぎれば良い話だから簡単だ」
「左近様、でも落とし穴とかだったら?」
「その時は……諦めろ。では……」
「嘘、冗談ですよね!」
「スタート!」
「えぇぇぇ!」
俺の掛け声でみんなが一斉に走り出した、蘭も急いで走りだす。その姿を見たモンスターが俺達を走って追い掛けてきた、まぁゾンビ達は走ることが出来ないからか、追い掛けて来るのはスケルトンのみだったが。
意外とスケルトンは足が早い、しかも疲れなど解らないので何処までもついてくる、俺は後方に下がり、朱槍で壁を引っ掻きながら走った。
すると何か別のトラップが発動したのか、天井にヒビが入り走り去った俺の後方から音を立てて天井が崩れて追い掛けてきたスケルトン達を押し潰していったのである、しかしスケルトン達はそれに臆することもなく瓦礫を乗り越え追ってきたのであった。
「さ、左近様!何をやっているのですか!」
「アハハハ、蘭よ楽しいだろ?」
「楽しくないですよ!無茶苦茶ですよ!」
「旦那様!階段です!」
「よし、みんな死ぬ気で走れ!」
そう言った瞬間であった、階段の手前の天井がゆっくりと下に降りてきたのであった。
あんなの反則だろ!あれが下に降りたら階段を降りれないじゃないか!ともかくあの壁の下を抜けるしかない、行けるか?行ける!自分を信じろ。
「おぉぉぉぉ!行けぇぇぇ!」
全員が何とか天井の下をすり抜け、俺はスライディングをして何とかすり抜ける事に成功したが、朱槍の穂先が天井に挟まってしまった。
「旦那様、これどうするの?アイテムボックスに入れて走れば良かったのに」
本当だ、ラナの言うとおりだ……まぁ何とかなるさ。しかしマメの奴、ラナに抱き抱えてられて幸せそうだな、その気持ちは解るぞ、ラナの胸に挟まれているもんな……マメってオスか、いや雄だろ絶対に。
「大丈夫だから、みんな少し下がってろ」
そう言って俺は朱槍を持ち、フンっと持ち上げると落ちた天井が斬れて朱槍が抜けたのであった。
「凄い、お舘様の槍は何でも斬れるのですね」
「まぁな、俺の槍だからな。さて下に降りるか」
そう言って降りた3階は、坂道になっている変な階層であった、しかも下り坂で1本道……完全に罠の臭いしかしないぞこれ。
「みんな、何だか罠しかない雰囲気だな、気を引き締めて進もう」
そう言って進んだ先には螺旋階段の様に地中深く続く道があったのである。
しかし相当深いな、下が見えないじゃないか……落ちたら確実に死ぬだろう、それにしても見える範囲ではモンスターはこの先には、いない様だな。だとするとそれほどヤバイトラップが有るのか?まぁこんなところは突き落とせば確実に死ぬだろうがな。
そういやクロエは、こんなトラップの有るダンジョンなんか聞いたことがないって言ってたな、するとここは普通のダンジョンと思ってはいけないな。
そう思っていると先に行っていた、マメが何やら地面をクンクンと嗅いでいた。
あいつ何をやっているんだ?……おぉ!あの出っ張りは、まさかトラップのボタンじゃないか?でかしたぞマメ。ん、何をやっているんだ?
そう思っていると何故かマメは前足で、エイ!とばかりにそのボタンを押したのであった。
何をさらすんじゃい!このバカ犬!俺以外のみんなも同じ気持ちだった様で、唖然としていたが何も起きないので安心したその時であった、突然上の方からバキバキと言った音が鳴った後、何かが近付いてくる音が聴こえてきた。
「お姉ちゃん、また嫌な予感しかしないんだけど」
セシリーがそう言った時だった、俺達がきた階段の方から大きな岩が転がって来たのであった。
「みんな走れ!」
俺の掛け声で全員が下に向かって一目散に走り出した。大丈夫、結構距離が有るから急がなくても……嘘だろおい。
俺の目に映る光景は、岩が壁に勢いよく突き出されてショートカットしてきていたのであった。
マジかよ、こんなの反則だろ!嫌だぞこんなネタみたいな死に方は!こんなので死んだら末代までの恥だ。
そう思って走っていると、ラナが叫んだ。
「旦那様、あれ!セーフティールームの扉が見える!」
「よっしゃ!そこまで……おい!下からモンスターも来ているぞ!ギリギリだな、みんな死ぬ気で走れ!」
そう言って走って行くと、魔法使いだからかセシリーの体力が尽きてきたのか、速度があきらかに遅くなってきた。
「だ、だめもう走れない……」
「セシリー、俺の背中に乗れ!」
「で、でも」
「早くしろ、命令だ!」
「は、はい!」
そうして俺はセシリーを背負ってセーフティールームに向かって走り出した、しかしセシリーが体力的に無理だとすると、次はセシルの方が危ないな、もう少しなんだが耐えれるか微妙だな、いざとなったら……アイリスはマメを抱いているし、ラナしかいないな。
「ラナ!」
「はいよ!」
コイツ日増しに軽くなってないか?まあ良いかそんな場合じゃ無いしな。
「セシルを背負ってセーフティールームまで行けるか?」
「ご、御主人様……」
「黙ってろ!これは命令だ!」
「ラナちゃんに任せなさぁい!」
そう言ったラナは、セシルを背負った瞬間に更にスピードアップして俺を抜き先頭まで出たのであった。
さすがはラナだな、何処にあんな体力が有るのか感心するよ。
そうしている間にセーフティールームのすぐそばまでやって来た、モンスターには楽勝だったが、岩の方は最後尾の俺の直ぐ後ろに迫っている。走れ俺!死んでも走れ俺!
そうしている内に、先頭のラナが扉を蹴り開け中に入ると、それに続いてみんなが部屋に飛び込み俺達も最後に何とかギリギリ飛び込み助かったのだが、何やら全員が部屋の隅に向かって攻撃の体勢を取っている。
何だと思いながら部屋の隅を見ると、隅の岩の向こうに大きなリュックが見えているでは無いですか!あきらかに不自然だろそれ。
「誰かいるのか?こちらには攻撃の意図はありません、何があったのか情報をもらえたら干し肉ですが食料をあげましょう」
……あ、犬耳だ。俺がアイリスに合図をして、アイリスが通訳をしたら岩の向こうに犬の耳がピョンと出てすぐに引っ込んだのであった、モンスターか?
「ほ、本当に何もしないで御座いますか?」
女?女の声だ。
「本当です、私達は情報が欲しいだけです」
そう言ってチラリとこちらを見た女の子は、9歳位の女の子であった……あれ?犬耳じゃない、じゃさっきの犬耳は?他にもいるのか?
「……ルタイ人?すごぉい!あ、こっちのお姉さんもルタイ人だぁ!あ、申し遅れました私は運搬屋のクレアと申します、一応こうみえても人狼なんですよ。
でも、こんなにも女性ばかりのパーティなら酷いことをされなさそうですね、良かった」
「私はアイリス、こちらは私の夫の島左近衛大将清興、こっちのダークエルフはもう一人の妻のラナでこっちから順番にセシルにセシリー、蘭にクロエでこの子はマメです。
所で何でこんな所にいたのですか?……はい干し肉」
そう言ってアイリスから干し肉を渡されたクレアは、頭には狼の耳が、そして後ろからは尻尾が出て、嬉しそうにパタパタと動かして干し肉を頬張って食べていた。
狼と言うより犬だな、うん犬だ。
「プハー、落ち着いた!長い間何も食べてなかったんですよ。あ、何でこんな所にいるのかって事でしたね、実は話せば長いのですが、私の村が戦で滅ぼされて私の部族は散々になりました。
私は他の人狼の様に自由に狼になれる訳でも無く、満月を見ないと狼になれない半人前の私には、他の人狼みたいに兵士になれる訳でも無く、計算も苦手で商人にもなれず、農民には元が狩猟民族なので無理、ダンジョンなんか入れば満月を見る事も無いので冒険者にもなれず。
仕方なく貯めたお小遣いで、リュックタイプのマジックバックを買って運搬屋をやっていたのですよ。
で、雇われたパーティが本当に最悪の男どもで、私の事をチビと言って殴るし蹴るし……その挙げ句セーフティールームで私を襲おうとしたのですよ!そんなわけで勿論、逃げ出したのですが奴等私を追って来てですね、みんなダンジョンのトラップとかモンスターに殺されてしまいました。
私がこのセーフティールームに辿り着いた時には、ここには誰も居なくて他のパーティも既に全滅したと思います」
そんなに酷いことが……てか満月を見なくても耳と尻尾が出ていたぞ。
「そんな事があったのか。ほら、回復丸だこれを飲んで体力を回復させろ」
そう言って俺が回復丸を差し出すと、クレアはキョトンとした顔でこちらを見つめていた。
まさか、ルタイ語が全く解らないのか?マジかよ。
「旦那様が、クレアに回復丸をくださるそうですよ」
「あ、有難う御座います、お兄ちゃん!」
お、お兄ちゃんだと!その一言で全てを許そう、アイリスも言ってたが可愛いは正義だ、幼女万歳!
「あの~所で外に出たいのですが、連れて行って貰えないでしょうか?」
「あぁそれな、上の階で旦那様が笑いながら走ってトラップを発動させまくったおかげで、天井が崩れてもう後戻り出来なくなったぞ」
「そんな……それじゃずっとここに閉じ込められたまま……」
いやいや、ラナさんよそんな言い方をしたら俺ってどんなにヤバイ奴なんだよ……まぁ、あながち間違ってはいないのだが。
「脱出なんて簡単じゃないですか、ダンジョンのボスを倒せば良いんですよ」
「だよね~」
「ちょっと奥様達、まさかボスを倒すつもりですか?無茶ですよ!お舘様、奥様達をお止め下さい!」
「クロエ、諦めろ。みんな聞いてくれ、アイリスは通訳を頼む。
2階の通路は塞がれダンジョンから出ることは出来ない、このままここに居れば食料も無くなりやがては餓死するだろう。
アイリスとラナが言う様に、ここはボスを倒すしか生き残る道はないと俺は思うがどうだ?……何だ蘭?」
「左近様、バッシュさんが救出部隊を編制すると言う事は?」
「無いな、モンスターがダンジョンから溢れ出てこない限りは、俺達が戦っていると思い、救出は来ないだろう。それにもしも救出部隊を編制しても珠がそれを許さないだろう」
「そんな、左近様は島家の当主なのですよ!」
「だからどうした?俺には娘の珠がいる、珠が当主になれば良い話だ。俺達7人の為に何十人の命を危険にさらす事は出来ない、珠はそんな教育は受けていないはずだ」
「確かに……その考えは御家第一主義のルタイの考え方ですが、でも娘様ですよ……そんなの悲しすぎる」
「さてクレアはどうする?一緒に来て一攫千金を狙うか、それともここで餓死するか。
アイリス通訳を頼む」
クレアはアイリスから通訳してもらうとしばらく考えて言った。
「このままここにいても餓死するだけなら……皆さまのパーティに運搬屋はいないようですし、どうです私を雇いませんか?」
「旦那様、どうしますか?」
「そうだな雇うか、以前にいたパーティの分は全てクレアの物で、これからの分は皆で8等分するのでどうだ?」
クレアはその話をアイリスに通訳してもらうと驚き言った。
「そんな法外な報酬、ダメですよ!貰えませんよ!」
「旦那様が良いと仰っているのですから、良いんですよ。貰っておきなさい」
「……解りました」
「ではみんなここで暫く休憩してから、最下層に向けて出発するとしよう」
そう言って俺達は、この場所で食事と休息を取ることにしたのであった。




