3度目の正直
俺の名前は島清興。
そう、あの戦国時代の島左近の本名と同じだが、身体は鍛えてはいるが、島左近の様に勇猛果敢では無い、小説好きアニメ好きの単なる隠れオタの20歳童貞である表向きは。
俺は、実は本当にあの関ヶ原で討ち死にした、あの島左近の生まれ変わりだったりする。
討ち死にした時に、神様って奴が現れて何だか俺の生き方に感動して、ご褒美として、平和な世の中で幸せな人生を送れる様に、この世に転生させてくれたって訳だ。
幸せだったかって?
そんな訳が有るか、両親は幼い頃に事故で亡くなり、親の遺産は親戚と悪徳弁護士に食い潰され、今は裁判中。
彼女?そんな者はいるはずもなく、両親が亡くなってから、親戚中をたらい回しにされ、高校も何とか卒業出来たが、大学には行かず昔から色んなバイトをやって、お金を稼ぎ高校を卒業してすぐに独り暮らしをして、何とか食い繋いでいる、いわゆるフリーターって奴だ。
そんな人生、幸せなはずが無い、もう一度神様ってのに会えたらぶん殴ってやりたいよ。
まぁそんな訳で、俺は今道路に大の字で血塗れで横たわっている。
辺りの人達が何やら騒いでいるのだが、俺の耳には徐々に辺りの雑音が聞こえなくなっていた。
バイトの帰り道に、どうやら背後から轢き逃げされたようだった。
このまま意識が遠くなっていく、俺はまた死ぬんだろうな、まあ良いか……不幸ばかりの人生だったからな、神様って奴にまた会えるなら、文句言ってぶん殴ってやろう、何がご褒美だ、単なる罰ゲームみたいな人生じゃねえか。
そんな事を考えながら、俺の意識は無くなっていった、そうあの時の関ヶ原の時の様に……。
次に俺が意識があったのは、関ヶ原で討ち死にした後の光景と同じ、辺りは真っ暗なのにハッキリと見える雲の上に立っていた、目の前で土下座している爺もいるが。
こいつは俺が転生してから忘れる事も無かった、自称神様って言う爺だ。
「この度は誠に申し訳なく……」
「とりあえず、説明してくれるかな?」
転生してからは、俺もかなり大人になったものだ、まず相手の言い分を聞いてやないとな。
「それが転生する魂を間違えまして……本来なら懲罰の代わりに転生させる魂と貴方の魂を間違えてしまいました」
「ほう……修正を考え無かったのか?」
「そ、それが一度転生してからは、いくら神でも難しいのです」
「では、俺は褒美の代わりに、最悪な人生を与えられた訳だ……この落とし前はどうする?」
「それは、誠に申し訳なく思っております!」
「謝罪は良い、だからどうするのかって言っているんだ。
例えば何処かの大富豪に生まれ変わらせるとか、お前なら出来るであろう?」
「それが……同じ人間に転生出来るのが1度きりで、後は輪廻の輪に戻さねばなりません、すみませんが……」
「んなバカな話があるか!」
「ですから本当に申し訳なく……」
「……因みに、次は何になる予定だ?」
俺は、深呼吸して聞いてみた。
もしかすると、何処かの超絶美人の飼い猫とかになるかも知れんからな。
「つ、次は……蚊の予定でございます」
「か、か、蚊だと!その次は?」
「研究所のモルモットでございます」
何て事だ、最早罰ゲームどころか地獄じゃないか。
「因みにその次は?」
「い、犬です」
ようやくまともなのが出てきた。
そう思った俺は、この爺が信用ならなくなり、詳しく聞くことにした。
「飼い犬か?野良犬か?」
「一応は飼い犬です」
「一応?」
「生は韓国で……」
その瞬間、俺は全てを悟り、思わず叫んでしまった。
「それは食用の犬じゃないか、バカ野郎!」
お、終わった……俺の人生……いやこの場合は輪廻か?まあそんな事はどうでも良い、とりあえずこいつをぶん殴ろう。
そう思い俺は、この爺の胸ぐらを掴み立たせて殴る態勢になった時であった。
「ま、待って下さい!貴方さえ良ければ、代わりにもう1つの人生をご用意出来ます!」
「……どういう事だ?」
「私には娘がおりまして、その娘が貴方達の世界の、ファンタジーの話に興味を持ちまして、同じファンタジーの様な世界を作ったのです。
そこでなら、何とか出来るかも知れません」
「本当か?」
「ええ」
「ではすぐに会わせろ、話はそれからだ」
「では、ここで少々お待ち下さい」
そう言って爺は、消えて行ったのであった。
そして暫くして俺の目の前に、1人の白い服を着た女性が、出てきたのであったが、決して可愛くない!
神様と言う事で、少しは期待していたのだが、可愛くないし綺麗でも無い、変なおばちゃんパーマだし。
例えれば、大阪の豹柄の服を着た、訳のわからないパーマの中年のおばちゃんだ、あの自称神様の爺の娘だし、仕方がないと言えば仕方がないのだが。
「あんたが、お父ちゃんの言ってた島って人かい?」
「そうだが……爺は?」
「逃げたよ、でも大丈夫お父ちゃんには、あんたの転生の承諾を貰ったから、私だけで出来るから」
逃げたって……やっぱり殴っとけば良かった。
しかしこの転生を上手く交渉しないと、蚊の方が良い人生になるかも知れないからな。
「転生って、また生まれ変わるのか?」
「それだと面白くないじゃん、だから生まれ変わりの無い人生にする」
じゃん?
気を取り直して聞いてみるか。
「じゃあ、このままその世界に飛ばされるって事か?」
「そっ、先ずは外見を変更しようか」
「外見の変更?そんな事が出来るのか?」
「今回だけ特別ね、その代わりにこちらも条件が有るけど……」
「条件?」
「そうね1週間に1度は私に報告して欲しいの、貴方の物語を楽しみたいのよ」
「報告ってどうやって?念じるとかか?」
「そんな事はいらない、この本に手を当てるだけで、本に記録されるから。
ただし1週間に1度記録しないと徐々に年を取るから注意して」
「年齢も固定か?」
「そうだよ、主人公は老けない者なの」
何処のマンガだよ。
でも待てよ、それなら記録していけば永遠の命を貰えると言うことじゃないか?
「お察しの通り使い方次第で、永遠の命も夢じゃないよ」
人の心を読んだなこいつ。
「その通り」
「だから読むなよ。
まあその記録の件は了承したが、他には有るか?」
「無いよ、男の人と何したり、男の人と恋愛したり、男の人だけで酒池肉林も大丈夫」
く、腐ってる、腐女子だ、ファンタジー好きな腐女子の神様ってどんな神様だよ。
「えぇそうです、腐ってますよ」
「だから心を読むなよ……まあとりあえずは外見だな、別にこだわりは無いので任せるよ、変なのさえ選ばなければ良い」
「んじゃこんなのは?」
そう言って、俺の目の前に1人の人間がホログラムの様に浮かび上がったのだが、その人間は黒い瞳で黒髪の若い男性であったが、男前過ぎる……まあ良いかな。
「オッケーだ」
「んじゃ次は年齢だね」
「18歳で頼む」
「ハイハイ18歳と……次は職業は?」
職業か、まあ普通に考えればこのノリだと有るわな……どうせ魔法って詠唱とかそんなのが在るだろうから、ここは肉弾戦で行くのが良いかな。
「それなら剣士にする?」
「だから……もう慣れたよ、複数の職業は付けれるか?そして付け替えは出来るのか?」
「両方とも出来るけど、他の人には最初の職業しか解らないので注意して」
「解った、じゃあ剣士で頼む、後は適当にそちらでチョイスしてくれ」
「オッケー、んじゃ島さんの固有スキルね、何か希望は有るの?」
「こんなノリなら解るだろう、ステータス閲覧と気配探知に職業変更とアイテムボックスは必須だろう」
「良いねぇ、ついでに私のお勧めも付けておくよ。
次は武器だよね、何か希望は有るの?」
「甲冑一式に朱槍、日本刀大小一式だな、後は陣羽織も付けてくれ、色は深紅で頼む」
「ハイハイ、けっこう派手な格好だね……んじゃ最後に言いたいことは?」
「特に無い……あ、待ってくれ、これは後で変更は可能か?」
「そこまでは、面倒見きれないね」
「そうか……まぁ蚊とか実験用のモルモットよりはましであろう、これで思い残す事はない」
「んじゃ3度目の人生を楽しんでね~」
神様のおばちゃんがそう言うと、急に体が地面をすり抜けて落ちていく感覚に襲われた。
いや、感覚だけじゃない実際に落ちているんだ。
バカ野郎、このまま落ちたら死ぬじゃねえか!転生して速攻で死ぬって何の罰ゲームだよ。
そう思っていると急に景色が晴れて、自分が大地に向かい落下しているのが解った。
無理無理、こんなの落ちたら死ぬじゃねえか!
俺がそう思った瞬間、俺の体が光に包まれて地面に激突する前に、急激に減速したのであった。
久し振りに大地に着いた様な感触の後で、乗り物酔いした様な感覚に襲われ、俺は盛大に胃の中の物をその場にぶちまけたのであった。
…水か何かで口を濯ぎたい。
そう思ったが、近くにモンスターか何かがいるとまずい、とりあえずはステータス確認するか……どうするんだこれ?どうしたら確認出来るんだ?
考えろ、考えろ俺……そうだ、あの神様の事だ、小説とかで出てくる様に念じれば……出た!半透明のウインドウが出た、この辺りはお約束だな。
どれどれ……
名前:島 左近 種族:人間 レベル:1
職業:浪人 剣士 戦士 覇王
固有スキル:ステータス閲覧 気配探知 職業変更 自動翻訳 経験値50倍 鑑定 アイテムボックス 詠唱省略 色欲増大
装備:朱槍 妖刀村正 長船小太刀 紅蓮の甲冑 覇王の陣羽織
何か色々と間違っているだろこれ、名前とレベルは仕方がないとは言え、職業が浪人って。
剣士も入っているが、それに覇王って何だよ!……しかし、戦闘職バリバリだなぁ。
ん?固有スキルの経験値50倍と、自動翻訳は有り難いが、詠唱省略ってそんな都合の良いスキル聞いてないぞ。
それにこの職業で魔法何て使えねえし、しかも最後の色欲増大って何だよ!もしかしてあの神様、絶対にそっちの方向に持って行こうとしているだろう。
絶対に女の子に使ってやる。
俺は新たな決意を胸に持っている武器の鑑定を行うことにした。
名前:朱槍 種類:槍
スキル:MP吸収 必中
MP吸収って、魔法職じゃ無いのに意味は有るのか?それに必中の意味も解らん、槍を突き出したら絶対に当たるのか?。
名前:妖刀村正 種類:日本刀
スキル:HP吸収 速度上昇中 魔法防御大 魔法附属攻撃
おぉ、これはかなり使えるじゃないか、しかし日本刀って……有るのか?しかし魔法附属攻撃って、俺は魔法職じゃねえし、失敗したかな。
名前:長船小太刀 種類:小太刀
スキル:運上昇小 速度上昇小
何だかこいつは、申し訳程度だな。
名前:紅蓮の甲冑 種類:甲冑
スキル:物理防御大 魔法防御大 火炎魔法
こいつはスキルに魔法が付いているじゃないか!今初めて神様に感謝しそうになった。
名前:覇王の陣羽織 種類:陣羽織
スキル:騎乗スキル上昇大 魔法防御大 運上昇大
騎乗スキル?馬とかかな?
しかし魔法防御が、かなり有るので魔法は、ほとんど効かないか、とすれば肉弾戦あるのみ。
ただ疑問なんだが、HPやMPが見えないのは不安だな、まあ多くを求めてはいけない、これでも十分すぎるほどだ。
次は気配探知を使うか、そう思い俺は強く念じると、視界の片隅にこれも半透明のマップが出たのであった。
おぉ、視界の見える所が地図になっている、オートマッピング機能も有るのか、これなら迷子にならないな。
ん?
そう言って地図をよく観ると、赤色の点滅が3つ、点滅の塊を追いかけている、塊の逃げている先には、また赤色の点滅が3つ有る。
これは待ち伏せじゃないか。
……待てよ、ここは点滅の塊を助けてこの世界の情報を少しでも聞く事が出来れば助かるんじゃないか?そうだ、情報は少しでも多い方が良い、助ける事にしよう。
それに戦いの良い練習になるかも知れない、早急なレベルアップは必須だし、追われているのが、女性かも知れん……男として女性を助けるのは当たり前だしな、男として。
俺はそう思うと、反応のあった方向に向かい走って行ったのであった。
丘を越えると眼下には街道が走っていた。
ちょうど反応が有る方向からはカーブになっていて、死角になっている。
ただ、この点滅の移動の速さは走っていない、馬か何かだな。
とりあえずは、あの3人組のステータスでも見ておくか。
名前:****** 種族:人間 レベル21
職業:盗賊
名前:****** 種族:人間 レベル5
職業:盗賊
名前:****** 種族:人間 レベル4
職業:盗賊
あれ?名前が表示されない、もしかすると名前は聞かないと表示されないとか?
あんまり使えねえし……待てよ、もしも推測が当たっていれば、前に会ったか解るって事か、ビミョーに使えるな。
レベルは、あの21の奴だけ、ずば抜けて高いな、盗賊の頭と言った所かな、しかし職業が盗賊っていかにもじゃないか。
それにスキルが表示されない、そこまでは都合よく無いんだな、でも相手のスキルが解らないのは厳しいのかも知れないな。
いや、他の人にはレベルすら解らないのだから、贅沢な悩みか。
……解らないよな?
先ずはセオリー通りに、遠隔攻撃で……って俺は、遠隔攻撃無いし!どうする?どうするよ俺、戦なんて久々すぎて頭も働かない。
そんな事をしている間に、馬車がやって来て、案の定待ち伏せしていた3人組に止められて運転手が殺されてしまった。
これはまずい、もう考えるな感じろ。
俺はそう思い朱槍を盗賊のレベル21に目掛けて思いっきり投げた。
すると投げた瞬間にこれは届かないと思ったのだが、予想に反して朱槍は飛んで行き、レベル21に突き刺さった。
嘘だろ?これが必中のスキルか?ダメだ、こんな事で驚いていたら、怯んだ今がチャンスだ。
「おぉぉぉ!」
俺は雄叫びを上げながら、一気に丘を駆け降りた。
この様に敵が不意を突かれた時は、雄叫びを上げながら一気に攻撃すれば、敵は怯み普段の実力が出せない。
俺の目論みは見事に当てはまり、残りの2人は驚きフリーズしており、俺はその瞬間を見逃さなかった。
村正を抜き、一気に2人を斬り殺したのであった。
人を殺す事には、前世の記憶がある俺は、特に抵抗は一切無いのだが、ブランクの為か、それともレベルの為か動きが遅い、場数を踏めば感覚も戻るだろうし、経験値も貯まりレベルも上がるので問題は無い……ハズだよな。
しかしこの馬車、2つが連結していて前は豪華だが後ろはボロい、中身は荷物か何かか?おっとそう思っていたらもう後ろの奴が来たか。
あえて遅れて来たのか、残りの3人組が騎馬で追い付いて来たのであった。
名前:****** 種族:人間 レベル25
職業:盗賊
名前:****** 種族:人間 レベル14
職業:盗賊
名前:****** 種族:人間 レベル11
職業:盗賊
おいおい、待ち伏せの部隊より全然強いじゃないか、こっちが本命か……面白い。
この時、何かが俺の中で弾けた感じがした。
懐かしいこの感覚、この死体から出る臭気この恐怖、三好と戦った教興寺の戦いの時の様な感覚だ……楽しいな。
そんな事を考えながら、朱槍を死体から引き抜くと、ブンと槍を振り槍に付いた血液を振り払い、肩に槍を乗せて、盗賊に近付き言った。
「そちらは既に3人死んでいる、ここは退いてくれないか?」
まあ一応は勧告しないとな。
盗賊の3人組はニヤリと笑い剣を抜いて、馬から降りてこちらにやって来た、どうやらヤル気のようだな、そう来なくてはな。
しかしこの状況、どうするか……この状況だと、油断している最初の1手が重要だこれで1人、もしくは2人を倒す戦闘不能にすれば、こちらの勝ちだ。
しかし、盗賊の防具は全員が革の鎧だが、武器が2人は銅の剣、残るレベル25の奴が、シミターと腰にレイピアか、しかもレイピアはスキルでMP吸収が付いているじゃないか。
狙うのは、先ずはこのレベル25の盗賊だな、朱槍は投げれば必ず命中するスキルなのは、おそらくだが当たっているであろう、問題は手で持って戦った時に必中のスキルが発動するかだな。
ここで実験をするリスクは高い、先ずはこのレベル25を殺してからだ。
そう思った俺は、全力で朱槍をレベル25に向かいぶん投げた。
不意を突かれたのか、距離に余裕が有り思いもよらぬ攻撃だったのか、手から放たれた朱槍はレベル25の革の鎧だけじゃなく、身体を突き抜けて地面に刺さりレベル25の盗賊を串刺しにした。
その光景を見た2人は明らかに驚いて串刺しになった盗賊を見ていた。
その瞬間を俺が見過ごす筈も無く、一気にレベル14盗賊と距離を詰めて、革の鎧ごと袈裟斬りで斬り殺すと、残るレベル11の盗賊の目の前に村正を突き出して言った。
「どうだまだやるか?」
俺のその言葉を聞いて、盗賊は戦意を喪失したのか、銅の剣を捨て両手を頭の後ろで組んだのであった。
「す、すまねえ、俺は無理矢理、仲間にされたんだ、見逃してくれよ」
盗賊はお約束の言葉を言って来た。
こちらの言葉も通じている様で、向こうの言葉も解る、自動翻訳のおかげだな。
「お前、名前は?」
俺の言葉に盗賊は、意味が解らないと言った感じでキョトンとしていた。
まさかとは思うが、名前が無いのか、それとも自動翻訳は俺が聞くのには発動して、話す方には翻訳されないのか?
そもそも考えてみれば、直接日本語に聞こえるので、言語が違うのかも解らない。
さて、どうすれば良いかな?
そんな事を考えて思わず目線を盗賊から離した時であった。
盗賊が後ろからナイフを出して、俺に攻撃してきたのだが、甲冑に阻まれて敢えなく折れた。
「ちが、違うんだ!」
そんなお約束の言葉を言って盗賊は、俺に命乞いを言って来たのだが、俺は許す筈も無く、アッサリと盗賊をぶった斬ってやったのであった。