策士
俺達はエルマにセシリーとセシルの事を頼み王宮に向かった。
王宮に到着すると、俺達はそのまま玉座の間に通され、中にはいかにも貴族であろう人達が勢揃いしていたのであった。勿論、あの王女も居る。
そのままゲハルトの前まで行く途中、アイリスとラナに、貴族達の視線が集まるのが分かった。
これはやはり、二人を連れて来て正解だったな、二人の髪の毛を見てシャンプーの存在が知られれば、皆がこぞって買い求めるだろう、その時はエルマを代理店にすれば良い。
本人は嫌がるだろうがな。
俺達はゲハルトの前まで行くと、跪き礼をとった。
「左近よ、本日はどの様な要件で来た?」
「はい、その前に本日は、私の妻のアイリスに通訳をしてもらい、この場の皆様に、お聞き頂いても宜しいでしょうか?」
「うむ、許す」
「では私、アイリスが通訳を致します。
本日、参りましたのは左近としてではなく、島 左近衛大将 清興としてこの場にやって参りました。こちらが、我が帝から、ゲハルト陛下への親書で御座います」
そう言って、俺が親書を差し出すと、騎士が受け取りゲハルトに渡したのであった。
「ふむ……ルタイ皇国の帝は、我らと友好を結び、交易を望むと……まさかお主がルタイ皇国の全軍を率いる左近衛大将だったとはな」
「その節は身分を隠した事を、ここにお詫びを申し上げます。
それと、こちらに参ります道中の、ドラゴンの住処にて、セブン・スターズなる宝剣を手にいれました。
聞けばザルツ王国の宝剣と言う事ですので、こちらにお持ち致した次第で、御座います」
そう言ってマジックバックから、セブン・スターズを取りだして騎士に渡すと、騎士はゲハルトに渡した。
ゲハルトは、宝剣を抜き確認すると言った。
「これこそ余が幼き頃に見た、宝剣セブン・スターズである。島殿何と御礼を申せば良いか解らぬ。何か望みは有るか?」
予定通りにきたな。
「では、私の家人の、蘭と申します者が、先日この王都レンヌにて、王家秘蔵の宝石を盗んだとして、無実の罪で捕らえられました。その者の引き渡しを願いたい」
「ふむ。余には、その様な報告は、来ておらんな……警備隊長ヴォルティス!その様な事があったのか?」
「いえ、私は存じません」
「では、ポドル司法長官!島殿の言われている様な、蘭と申す者を捕らえたのか?」
「いえ、その様な事はありません」
そう来たか、さてこれはどうする……プランBだな。ゲハルト、気付いてくれよ。
「そうですか、街の者に尋ねました所。こちらの、リリアナ王女様の部隊に捕らえられましたと聞きましたが?」
「リリアナ、どうなのじゃ?」
「妾が、その様な事をする筈もない!無礼な、この場にて、斬ってくれる!」
そう言って、リリアナは逆ギレを起こし、剣に手を掛けて俺に近付くと、すかさず俺の前にアイリスとラナが剣に手を掛けて立ち塞がったのであった。
それを合図に、警護の騎士達も、剣に手を掛けて、この場は一気に、一触即発の雰囲気に、なったのである。
「王女様、ルタイ皇国の使者に、この様な事をされると、どうなるか、お分かりか?」
「分かっておる!ルタイ皇国だろうが、何だろうが、すぐに滅ぼしてくれるわ!」
王女のその言葉で、その場の貴族達の目が明らかに、絶望へと変わったのが分かった。
それもそうだろう、今のザルツ王国は、セレニティ帝国に攻められ旗色はかなり悪い、そんな中でルタイ皇国がセレニティ帝国と同盟を結び、ザルツ王国に攻め込んで来れば、ザルツ王国の滅亡は間違いないのであったからだ。
「やめんか、このバカ娘が!」
「ち、父上!」
「お前は、この国を滅ぼすつもりか!」
「いえ、その様な事は……しかし我が騎士団だけでも、ルタイ皇国なんて赤子の手を捻るような物です!」
「お前は、現実が全く見えておらん。もはやこれ程とはな……島殿、申し訳なかった」
「いえ此方こそ。では蘭は、ここに捕まっていないと……存在しないと言う事ですかな?」
「……そう言う事になるの」
やはりゲハルト気が付いたな。
「では、存在しないのであれば、罪にも問えませんし、存在しない者に殺されても、只の事故死ですね?」
「……そうなるな。それに、もしもの話だが、余に嘘を言う者がおれば、それは最早どの様な者でも極刑にしなければならぬ、その様な家臣は国を滅ぼす事になるのでな」
お、司法長官の顔色が真っ青じゃないか、警備隊長はゲハルトの言葉に頷いている……なるほど繋がっているのは司法長官だけか、まぁ王女は意味が解らないと言った顔だな……バカすぎてゲハルトに同情するよ、あえて解りやすく言ったのに。
とりあえずこれで、潜入して救出し、更には邪魔する者は、殺して良いとゲハルトの許可をもらった訳だ、早速今晩決行だな。
「所で島殿よ、今回の功績は、我が国として感謝してもしきれん。報償金として100万シリング用意した、貰って戴きたい。それと昼食でも如何か?」
「ありがたく、頂戴致します」
こうして、玉座の間での貴族達を含めての立食パーティが行われたのであった。勿論、王女は体調が悪いとの理由で騎士団を引き連れて退席し、司法長官も一緒に退席した。
貴族達の興味は、アイリスとラナの二人に注目して、二人は貴族の質問攻めにあっており、そんな中でゲハルトは、俺に目でついてこいと合図をした。
俺は二人に目で行ってくると合図を出し、ゲハルトの後について、テラスに出たのであった。
「左近よ、まさかルタイ皇国の侍だったとは……少し驚いたぞ。ところで、これからどうするつもりだ?」
「そうですね、知っていますか?王女は以前、死刑囚の独房の近くに、隠し部屋を作った様ですよ。しかも貴族の金で」
「……あいつはそんな事まで……幼くして母親を亡くしたリリアナを、立派な跡継ぎにしようと父としての愛情は全く注いでこなかった、ワシにも責任が有るな。
目的の蘭と申す者は、そこにいると思うか?」
「おそらくは……」
「左近よ、あそこの塔の下に在る、扉が見えるか?」
あの塔の下……木々で見えづらいが、微かに扉と兵士の姿がみえるな。
「あの、見張りのいる所ですか?」
「そうだ、彼処の地下が死刑囚の独房になる……助けに行くのだろう?」
「勿論です」
「リリアナと繋がっているのは、司法長官だけと見たが、左近の意見は?」
「警備隊長は、知らぬのでしょう。そもそも王家秘蔵の宝石を盗んだと言うのも、怪しいものです」
「やはりリリアナと、その配下の騎士団。そして、ポドル司法長官の策略か?」
「おそらくは……」
「やはり廃嫡しかないか……左近よ、少し手伝ってはくれぬか?これは友としての頼みじゃ」
何だ?……まぁ俺をハメるつもりなら、もっと早くにやっているだろうし、今回ルタイ皇国をバックに付けたのも、いきなり捕らえられるのを警戒し防ぐ意味もあったのだが、それもどうやら杞憂であったのだが。
どうやらこのゲハルトは、俺を使い、ザルツ王国の大掃除をしようとしている様だ。
まぁそうだろう。平時ならともかく、帝国に追い詰められつつ在るこの現状を、今何とかしないと巻き返すことが出来ないからな。
国民の怒りを買っている王女を廃嫡し、その国民の人気を背景に、無能な者を切り捨て、有能な者に交代させる。
不満は出るだろうが、唯一王位継承出来る我が子を廃嫡した国王に、不満を言うものがどれ程いようか。
まさか、こうなる事を予想して王女の蛮行をゲハルトは、見逃していたとしたら?そうすると、こいつはかなりの狸オヤジだぞ。しかし、今ここでゲハルトの誘いに乗らない手はない。
蘭さんを救出する目的も達成出来るし、ゲハルトに恩を売ることが出来る、そして後々にこのパイプが生きてくるかも知れないしな。
「友の頼みなら、断れないでしょう。何をすれば良いので?」
「救出に成功したら、騒ぎを大きくして欲しい。そこでワシが近衛兵と駆け付けて、蘭と申す者を確認し、リリアナを追及する、どうじゃ?」
「もしもいなければ?」
「その時は何とかして逃げろ。今夜の警備をリリアナの騎士団にするので、別に殺しても良い。
あの者等の横暴も、酷いと聞く。自分達は王女の騎士団と言うのを背景に、好き勝手にやっておるようだしな。
騎士に、あるまじき者共じゃ、寧ろこちらとしても、殺してもらえると有り難い」
おいおい、王女様の騎士団よ、国王にここまで言わせるなんて、何をやらかしたんだよ。
「解りました、では早速今晩にでも決行します」
「そうか、ならば念のために、今晩の王宮の警備は手薄にしておく」
「助かります、では会場に戻りましょうか」
「そうだな」
そう言って俺とゲハルトが会場に戻ると、アイリスとラナが貴族に囲まれているのが見えた。
おい、なんだよあれ、人が集まりすぎだろう!しかも男ばっかり下心が見え見えなんだよ。これじゃ貴族の女性人から、嫉妬されるじゃないか。
「ラナ様の髪の毛は、とてもお美しい。そして、その気品溢れるお姿、何処かのダークエルフの姫ではないのですか?」
「い、いえ……その様な……」
「そうなのですか!ならば、今度我が屋敷で、一緒に夕食でも如何でしょう?貴女の様なお美しい方と、じっくりと語り合いたいので」
「い、いえ、私には夫が……」
「何と、既にご結婚されていらっしゃると?しかし、私の貴女への想いは、その一言で更に燃え上がりました、禁断の愛……」
「はいはいそこまで、少し妻を返して貰いますよ」
俺はラナの腕を掴み、ラナを口説いていた貴族に睨みを効かした。誰がラナを渡すかよ。
「左近衛大将様、何をされるので……」
「すみません夫が呼んでいますので」
「ルタイ皇国の左近衛大将様の奥様?」
「はい、では夫が呼んでおりますので、失礼します」
俺はラナの手を取り、テラスの方に向かった。アイリスも同じ状況だったのだが、さすがに二人とも連れ出せない、それにラナには少し作戦の説明をしないとな。
その為には、アイリスに他の貴族達の注目を、集めて貰わなければならない。アイリスすまん。
そう思い、俺とラナは先程までゲハルトと話していたテラスに出た。
「助かりましたよ、正直な所貴族の相手なんか私には無理ですもの。でもアイリスは流石ですよね、やはり昔からこんな事があったのでしょうか?男性のあしらい方が慣れていますね」
「そうだな。騎士の娘だったし、アイリスは可愛いから、こんなのは日常茶飯事だったのだろう。俺はラナの男性慣れしていないのが、意外だったのだが」
「ん~いましたけど、オヤジさんと兄貴の名前を出したら、皆逃げて行きましたよ」
そりゃそうだ、あの二人の身内に、手を出すのは命懸けだからな。俺も知っていたら、あの時に即時解放していたさ。
「所でだがラナ、彼処の塔の下に、扉が在るのが見えるか?」
「あの木々で隠している場所ですか?……まさか、目的の場所はあそこですか?」
「そのまさかだ、今晩作戦を決行する。ラナは王宮に先行して潜入、俺達が空間転移する場所の確保を頼みたい。場所はそうだな……彼処の木の所でどうだ?あそこなら、木と茂みに隠れているので、向こうからは見えない」
「大丈夫でしょう、潜入と言う事ですが、その後は?」
「救出出来れば、そのまま騒ぎを大きくしてくれと、ゲハルトが言っていた。もしもいなければ、そのまま空間転移で逃げる。そうそう、見張りの騎士以外は出来るだけ殺すなよ」
「解りました、出来るだけですね」
あ、無理だなこれは、確実に殺す気だな……頼むから目立たない様にしてくれよ。
その時だった、柱の陰から俺に向かって手招きをする化け物……いや、おばば様が視界に入った。絶対に嫌な予感がする。
「すまんラナ、チョッと呼ばれているので行ってくる」
「あ……またあの中に戻るのか……帰りたい」
俺はラナの泣き言を聞こえなかったふりをして、おばば様の所に向かった。すまんラナ、あの妖怪乾物ババアは妙なプレッシャーがあるのだ。
「おばば様、どうしました?」
「ふぉふぉふぉ、お前さんの所に、セシルとセシリーの姉妹が行ったそうじゃの?」
「よくご存じで、お知り合いですか?」
「奴隷商人に、あの二人が売れたら、教えてくれと、頼んでおいたのでな。それに、あの二人は、ワシの弟子だゾエ」
奴隷商人……ゼニトの奴の事か。
「弟子でしたら、おばば様がご自分で買おうとは、思われなかったのですか?」
「ワシが買うと、王宮内で見世物の様になるのでな。あの子等は、あれでも貴族の娘ダデ」
確かに、アデルの話だと奴隷は一度なってしまえば、名字を持っている者と結婚するしか、奴隷から解放されない。
おばば様の所に行けば、その目は無くなり、ひたすら王宮内で興味の目で見られる事になる。
それは、二人にとっては地獄だろう。かと言っておばば様の知り合いでも、それは同じ事になり、おばば様としては、ただ見守るしか出来なかったのであろう。
何だか辛いな。
「解りました。この左近、必ずやあの二人を、幸せに致します」
「おぉ、お主ならそう言ってくれると思っておったゾエ、お主へワシからの贈り物じゃ、遠慮せずに受け取れ」
そう言っておばば様は、赤い液体の入った小瓶と、青い液体の入った小瓶を渡してきた。
「おばば様これは?」
「青い液体は惚れ薬じゃ、飲んだ後で最初に見た者に惚れよる。これなら二人もお前さんに……ケッケッケッ」
あ、悪党だ……どこからどう見ても、悪魔の誘いにしか見えない。
「では、この赤いのは?」
「それは欲情させる薬じゃ、例え神でもそれを飲んだら欲情するじゃろう。妹のセシリーは素直で良い子じゃが、姉のセシルは、なかなか自分の気持ちが出せない子じゃ、だからそれを使い……ケッケッケッ」
だからその笑いは悪魔だって、只でさえ悪魔の様な姿なのに……でも良いものを貰えたな、これで帰ってから二人に……夢が広がるではないか!効き目が良ければ、おばば様に今後も貰うかな。
「有難う御座います、あの二人の事はお任せください」
「頼むぞ、左近よ。そうじゃった、隣の部屋でゲハルトの坊やが宝剣の賞金を渡すそうじゃ」
「分かりました。おばば様、この贈り物は、大切に使います」
俺はおばば様に、頭を下げて賞金を貰ってから、アイリスとラナを連れてエルマの店に戻って来た。
エルマの店にはいると、セシルとセシリーの二人は既に戻って来ていて、服装はいかにも魔法使いと言った、杖にローブといった服装であったのだが、エルマがムスッとしている、何かあったのかな?
「エルマ何かあったのか?」
「あ、左近、ちょっと見てよ二人の服装ぉ、チッとも可愛くなぁい」
「……だって、魔法使いだし」
セシル……冷静に言うなよ、確かにエルマの言うとおりの服が有れば良いんだが。またロンデリックに頼むか。
「まぁ今回は、機能重視だからな。お前達にはナッソーに戻ったら、いろんな服を買ってやるよ、ロンデリックも居ることだしな」
「ロンデリックさん、左近ちゃんの所にいるのぉ?」
おぃ、今左近ちゃんて……まぁ良いかエルマだしな。
「居るぞ。まぁナッソーって言っても近くの魔の山だし、今は俺が頼んだ服を作っているよ」
「もしかしてぇ、お風呂も入ったりしてるのぉ?」
「まぁな」
「良いなぁ~私も行こうかなぁ」
おいおい、そんな事をされると貴族への宣伝が、出来ないじゃないか。……でも待てよ、エルマの別荘を作ってやる代わりに、この店の二階の一室をザルツ王国の拠点にして、更にシャンプーの代理店もさせれば……我ながら良い考えだ。
「エルマ、俺の家の近所に別荘を作ってやろうか?勿論、露天風呂も作ってやる」
「露天風呂ぉ?」
「外で入る風呂の事だ、気持ちいいぞ。送り迎えもしてやるが、その代わり、こちらにも条件がある」
「まさか私の身体ぁ?左近ちゃん可愛いから、良いけどぉ」
か、身体かい!しかも良いんかい!……後ろの方から殺気が感じるぞ。
「いやいや、とても魅力的な話だが違う。この店の一室を俺達に貸して欲しいのと、シャンプーやボディソープの販売を、ここでやって欲しいんだ」
「……それなら良いよぉ、丁度二階に空いている部屋があるしねぇ。早速一緒に行っても良いぃ?貴族会議でお客さんが来るからさぁ」
お客さんが来るから、店を閉めるっておかしいだろ!何か間違っているよな。
「……大丈夫だ、ならば契約成立だな、早速今晩にでも、蘭さんを救出したら戻って来るので、一緒に行こうか?」
「じゃぁ、早速準備しておくねぇ」
そう言ってエルマは急いで二階に上がって行った。
何だか暫くは、家が賑やかになりそうな気がしながら、俺達は二階の言われた部屋に行き、今晩の蘭さん奪還作戦の打ち合わせを始めたのであった。




