解放
朝、俺は台所から響くリズムの良い、包丁の音で目覚めた。
隣で寝ているはずのラナがいない、と言う事はこの音はラナか、何だか良いなこんな日常。
隣ではアイリスが相変わらずヨダレを垂らして寝ている……しかしこんな寝顔も可愛いな、さて俺も起きるか、昨日はアデルが泊まったので出来なかったから、このままなら性欲に負けてアイリスを襲いそうだし。
さすがに寝ているのを邪魔すれば、アイリスに悪いからな。
そう思い寝室から出て台所を見ると、アデルが朝食を作っていた。な、何故だ!あの幸せな気持ちを返してくれ。
「アデル、おはよう。ラナは何処に?」
「あ、ご主君おはようございます、ラナなら朝から風呂に行きましたよ、ご主君も行かれてはどうですか?それまでに朝食は出来ると思いますので」
行きたい、行きたいのだがアデルに話しておきたい事もある、ここは我慢だ。
「いや、その前に少し話さないか?」
「……どうしました?」
「正直な話、アデルはラナの身内なので疑いたくは無いのだが、何処かの国のスパイの可能性も有る、正直に話してくれと言っても本当にスパイで有っても、違ったとしても違うとしか言わないであろうし、そんな事を問い詰めても時間の無駄だろう。
なので俺はアデルに命令をするときは、目的も説明もしない。もしかすると何の意味も無いことをさせるかもしれん。それでも良いか?」
まぁこんな話は、ラナの前では出来ないからな。
アデルは、唇を噛み締めて目を瞑って言った。
「……それは仕方が無いことです、私も最初から全て信じて貰えるとは思っていませんよ」
嘘つけ、今凄く悔しがっているだろ。
「ありがとう、そうだ今日は、オヤジさんの所に行って話をつけないとな。それにご主君は止めてくれ、言われ馴れていないのでな」
「……はい。では、御館様で宜しいでしょうか?」
「そうだな、それならば言われていた事もあったからまだ馴れている」
「では御館様、私から少し質問しても宜しいのでしょうか?」
「何だ?」
「御館様は結婚はされないので?」
「結婚なぁ、あまり結婚してみたいと思わないなぁ。それに娘もいるから」
「えっ?娘?御館様は結婚してらっしゃったんですか?」
「昔な……娘以外は皆、もう死んだろうし。今娘はルタイ皇国に行っているが明後日には戻って来るだろう。
そうだ、アデルは会った事が無かったな、その時に紹介してやるよ」
「有難う御座います」
「お早う御座います」
「あぁ、おはよ……」
俺はアイリスの声が聞こえて、振り返ったらアイリスは裸であった。
「ア、アイリス!服、服!」
「……えっ?あっ!す、すみません!」
そう言って慌ててアイリスは慌てて寝室に戻り、浴衣に着替えていたのであった。
アデルの奴、見ていないよな?
アデルの作ってくた朝食を食べながら、俺は今日ナッソーに行く事をアイリスとラナに話した。
「今日はアデルとオヤジさんの所に行こうと思う、お前達はどうする?」
「行く!一緒に行きます!」
「アイリス、お前はどうする?」
「そうですね、私は残って家の掃除や洗濯をしようかと思います」
「そうか頼むよ。所でアデル、このアゾットって言う短剣を知っているか?」
「これは、暗殺者から召喚師に職業変更が出来ると言われている短剣ですよ、こんな伝説の武器を何処で?」
「まぁ娘の珠が持っていた物だがな、悪魔召喚って危険は無いのか?」
「無理にハイレベルの悪魔やモンスターを召喚すると、召喚師の魂が食べられ死に、制御不能になり恐ろしい事に……でもこのアゾットの短剣を持っていれば、無理にハイレベルの悪魔やモンスターの召喚はできなく、その者のレベルに応じた剣の指定している悪魔やモンスターが召喚されます。
この短剣からは……ケルベロスが召喚できるみたいですね」
ケルベロスって十分にメジャーなモンスターじゃないか……大丈夫かよ?
「……ラナ、使うか?」
「御主人様、良いんですか?」
「あぁ、何かと便利だろうしな」
「有難う御座います、早速にでもやってみますね」
「御館様、ラナは奴隷なので召喚師になれないかと思います、職業は1人1つですので」
ん?1人1つ?俺は色々な職業が有るぞ、ラナもアイリスもアデルにだって、みんな職業は複数持っているはずだ……でもレジストカードも最初の職業しか解らない様だし……どうなっているんだ?
「アデル様、それはザルツ王国での常識です。我がセレニティ帝国では職業の複数所持は、既に学者が解明し帝国ではそれが定説となっております」
「アイリス殿は、帝国の御方なのですか?」
「そうです、セレニティ帝国、聖導騎士団エリアス・ノイマンが娘……すみません忘れてください、私は今は御主人様の性奴隷ですので、只のアイリスです」
アイリス……そうか父上の事もあるので、あまり声を大にして言えないんだな。
「アイリス、いいんだ。そうだ、アイリスはこれから島を名乗れば良い、これからはアイリス・島と名乗れそして新しく人生をやり直せば良い」
「いいなぁ……」
「ラナ、お前も島を名乗れば良いよラナ・島、少し語呂が変だが良いだろう」
「有難う御座います、これだから御主人様大好きです」
そう言ってラナは、俺に抱き付いて来たのだが、アイリスとアデルはポカーンとしていた。あれ?俺って何かやってしまったかな?
「ご、御主人様な、なんて……」
「アイリス殿、私から。御館様、奴隷の主人としてその言葉の意味をご存知でしょうか?」
「いや……何かやらかしたか?」
「御館様はルタイ人なのでご存知では無いのかも知れませんが、奴隷が解放され職業が奴隷じゃ無くなるには3つの方法が御座います。
1つ目は、奴隷が死ぬ事。2つ目は奴隷商人にその奴隷を売る、これは奴隷が解放されるのでは無く所有者が代わるだけですが。
最後の3つ目は、高貴な者だけに許された特権で、奴隷と結婚してその奴隷に新しく名前をつける事で御座います。
つまりは、先程の御館様の言葉で……」
「もしかして、俺はアイリスとラナの二人と結婚したと言う事か?」
「……はい」
俺はアデルの言葉を聞いて急いでアイリスのステータスの確認をした。
名前:アイリス・島 種族:人間 レベル:20
職業:剣士
あ、レベルが上がっている……じゃなくて、本当だ奴隷が消えてしまっている。もしかしてラナもか?
名前:ラナ・島 種族:ダークエルフ レベル:20
職業:盗賊 暗殺者
こっちもレベルが上がっている、じゃなくてマジかよ……本当にこんな事で結婚した事になったんだ。
「アイリス、ラナ何だかすまない、勝手に俺の妻にしてしまい……もしも嫌ならここから去って貰ってもかまわない、俺はお前達の意思を尊重する」
少し……いや、かなり惜しいがこればかりは仕方が無い事だもんな……知らなかったとは言えヘコむなぁ。
「えっ?何でですか?私は御主人様の妻になれて嬉しいんですよ、離れろと言われても離れませんよ」
ラナは、そう言って俺の膝で抱き付きゴロゴロしている。まぁこいつはこうなるわな、アイリスはどうなんだろう?
「だから、いい加減に離れなさいラナ!私も御主人様の妻なのですよ、私の抱き付く所が無いでしょう!……御主人様、これからも変わらず御願いしますね」
あ、心配して損した気分……まぁ良いか、二人とも喜んでいる訳だし。
俺達は、朝食の後で外に出て全員でラナの召喚に立ち合う事にした。
「で、兄貴どうすればいいの?」
「伝説では短剣を前に向けて、念じるだけと言う事だ」
「ふ~ん」
そう言ってラナは、短剣を向けて念じ始めたのであった。すると短剣の先に魔方陣が現れ、暫くすると何かが出ようと頑張っていたのだが、魔方陣が小さくて出れない様で1度引っ込んだ。その後再びチャレンジして魔方陣から出て来たのは、黒い小さな子犬、そう黒い豆柴であったのである。
「ま、豆柴?」
「……プッ」
「か、可愛い」
おいおい、アデルよ吹き出したらラナが可哀想だろ、後ろを向いても肩が笑っているし。
「ちょっと兄貴、ケルベロスが出る筈だよね?どう見ても出て来たのは、子犬なんだけど」
「ワン!ワン!」
おい、鳴き声も犬じゃないか、てか完全に犬だな。
「アデル、ケルベロスってのは、頭が3つ有る地獄の番犬で死者を食べてしまう恐ろしい魔物では無かったか?もしかすると俺の国の伝説が間違っているのかもしれないが」
「御館様、こちらも同じです、御館様の言われた通りの伝説です……」
「でもどう見てもあれは犬だろう?」
「犬ですね……」
「兄貴、犬ですねじゃ無いだろう!……もう一度召喚してみる……あれ?魔方陣が出ない?」
「それは無理だ、一度召喚すると魔力を貯めるのに数百年はかかる……プッ」
「兄貴今、笑っただろ?」
「……す、すまん。しかし召喚したからには、このケルベロスに名前をつけないとな。呼ぶときには不便だろう」
「名前……名前……御主人様、何か有りますか?」
そう来たか。
「豆柴だからマメ、シバ、ベロスとかかな?」
「マメにしましょう!マメが可愛いですよ!」
おいアイリスよ、何故可愛さを求める?
「まぁアイリスがそう言っているし……ラナ、こいつはマメで良いんじゃないか?」
「まぁ良いか。じゃあお前の名前はマメに決定だ!マメ、解ったか?」
「ワン!」
こいつは完全に犬じゃん、ステータスの確認をしてみるか。
名前:マメ 種族:犬 レベル:1
職業:召喚獣
い、犬だ。でも召喚獣って出ているからケルベロスなのか?
「所でアイリス、召喚師って事はそこからランクアップできるのか?」
「そうですね幻術士や悪魔召喚師になれたりしますが、職業のランクアップはレベルが1になるので注意しなければなりません。ランクアップに必要なのはレベルが30になりますし、ランクアップは教会でできます」
つまりは、職業を増やすのはレベルは変化しない。
レベルが30になればランクアップが出来るが、デメリットとしてレベルが1になると言う事だな、アイリスの前に言っていた事を合わせて考えると、基本的なステータスはアップするがレベルが1なり危険と言う事かな。
名前:ラナ・島 種族:ダークエルフ レベル20
職業:召喚師 盗賊 暗殺者
本当だ、職業の所に召喚師が含まれている、なるほどこうして職業を増やしていくのか。俺には見えないが、たぶんスキルも増えていくのだろうな、意外と奥が深い。
俺達はその後、アイリスとマメを残して3人で、馬でナッソーに向かいオヤジさんの所に向かった。
「ラナ、すまんが俺は、先にオヤジさんの所に、行っているから、賞金で食料品を買ってきてはくれないか?そうだ、重曹ってあるか?」
「ありますよ」
「じゃあ重曹も頼む、俺は店で待っているから」
「解った」
そう言ってラナは走って、市場に向かっていった。ラナはおそらくは買い物が好きなんだろう、ナッソーに近付く度に見るからに機嫌が良くなっていったからな。
そんな事を思いながら、俺とアデルはオヤジさんの店に入っていった。
「いっらっしゃいませ……ゲッ」
そう言ったのは俺達に捕まり、オヤジさんに奴隷として売られた女性であった。
「……オヤジさんいるか?」
「はいはい、おぉ!アデルに左近じゃあねえか、どうしたんだ?」
オヤジさんが奥から出て来て驚いた。
「オヤジさん、アデルの事なんだが……」
「何だそんな事かよ、聞いてるよお前さんの傭兵部隊に入りたいそうじゃねえか、こっちは従業員も増えたから、問題ねえよ」
「そうか、じゃあアデルがまた暇な時でも働きたい時は頼むよ」
「アデルなら大歓迎だよ、いつでも来てくれ」
「……オヤジさん、すみません」
「おいおいアデルよそんな事で、頭を下げるな。お前とラナは小さな頃から面倒を見ていた俺の子供みたいな者だ、親の元で働くのに一々断りなんか要らねえよ」
「……有難う御座いますオヤジさん」
そうかオヤジさんは二人の親代わりだったのか、それならばますます言わなきゃな。
「オヤジさん、もう1つ報告があって、俺……アイリスとラナと結婚したんだ」
「へ?二人ともお前さんの奴隷じゃ……左近、お前さん貴族だったのか?」
「まぁそんな所だ、それでオヤジさんに頼みが有る、4日後に小さいが結婚式を家でやりたいと思っているんだ、来てくれないか?」
「左近……嬉しい事を言うじゃねえか、絶対に行くさ、それと俺が料理を仕切ってやるから、結婚式の食事は任せとけ!……おいヨラム!起きやがれ!」
……ヨラムまた酔い潰れているのか。
「うん?」
「左近とラナ達が結婚だとよ!お前、結婚祝いで左近の家にパーティーできるように何か作れ」
「えっ?それは良いけどさ、費用は?」
「お前いったいどれ程のツケが貯まっていると……」
「解りました!結婚祝いで無料で作るよ、その代わり俺も出席するからな!」
ヨラムまだ支払っていなかったんだ……てか、出席するからって飲みたいだけだろ。
「良いよ、ただしこの事はみんな内密で頼むよ、当日になって驚かせたいのでな」
「いいねぇ……聞いたかお前ら!勝手に洩らしたら、俺がぶち殺すからな!」
『へい!』
こうして俺が、オヤジさんと話していると、ラナが店に入って来た。
「御主人様、買い物してきたよぉ!……あー!あんたレンヌに行くって言ってた商人!何でいるの?」
「へ?……あ、あんたココナの実を大量に買ってくれた人、実はレンヌに行こうと思っていたのですが、何やらレンヌから人が逃げ出していると言う噂を聞きまして、どうするか悩んでいたのですよ」
あぁ、あのココナの実の商人か。しかしレンヌから人が逃げ出しているって噂が出るようじゃ、ザルツ王国はもはや末期だな。
「ラナ、紹介してくれないか?」
「こちらは私の旦那様の、左近。こちらがココナの実の商人のナバロさん」
「よろしくナバロ。実はナバロを探していたんだ」
「左近様、よろしく。私を探していたとは、どうしてですか?」
「こないだのココナの実を大量に買いたいんだ」
「どれ程の量でしょうか?」
「そうだな、以前は3千シリングだったから今回は1万シリングでどうだろう?勿論、乾燥したココナの実でかまわない、それとオリーブオイルと蜂蜜を合計で3万シリング分でどうだろうか?」
「そ、そんなに?解りましたどちらまで届ければよろしいので?」
「この近くに魔の山と言われた場所がある、そこに俺達は住んでいるのでそこまで頼むよこれは手付金だ」
そう言って俺は1万シリングを渡した。
「こ、こんなに……解りました早速にでも向かいます!2週間もあれば戻って来ますので」
そうこれは、シャンプーとボディーソープの材料集めだ、この世界には風呂自体珍しい様で、しかもそんなシャンプーやボディーソープは無いみたいだ。
ならば、アイリスやラナを連れているだけで、貴族どもが群がってこのシャンプー等を買い求めるであろう、これを手土産に情報を手に入れるも良し、便宜を図ってもらうのも良いだろう。
その為には、次のレンヌのゲハルトの策にアイリスとラナを目立たせないとな、おそらくは帝国のスパイもいるだろうし、情報は帝国にも伝わるだろう。
そう思いながら俺とラナは、家に戻ったのであった。アデルはそのまま残り店を手伝う事となったので、俺達二人のみであった。
家に帰って来たその日の夜、俺達が夕食を食べていると予期せぬ客が来たのであった。
「ワン!ワン!ワン!」
何だ?こんな夜にマメが鳴くなんて。
「マメが鳴いていますね、私チョッと見てきますね」
「すまんアイリス」
何処かで聞いたような声がしたけど誰だろう?
『あっ!』
何やら驚いた声がして、慌ててアイリスが戻ってきた。
「ご、ご、ご、ご、ご、御主人様!」
何だ?そんなに驚いて?そう思って見てみると、居ました玄関にロンデリックが。
「左近様!」
「ロンデリック!どうしてここに?」
「お恥ずかしながら、あれからレンヌを出てナッソーに向かったのですが、ナッソーの人達って恐いじゃないですか、それでナッソーをすぐに出て何処で野宿をしようかと思っていたら、ここを発見したのですよ。
そして一晩だけでも泊めていただこうかと……」
「良いけど、後ろのは馬車か?」
「はい、店の品物と商売道具を持って来ましたので」
「そうか、俺もちょうどお前に頼みたい事もあったから、泊まっていけ。この山には盗賊も来ないから安全だ」
「あ、有難う御座います!」
そんなに感謝するなよ照れるじゃないか……でもお前とは一緒に寝ないからな。
こうして俺達はロンデリックと食事を食べて、アイリスとラナが食器を洗っている間に俺はロンデリックに計画を話した。
「ロンデリックよ、実は俺はアイリスとラナと結婚したんだ」
「それはおめでとう御座います」
「それでお前に頼みがある、アイリスとラナの鎧の下に着るドレスを作ってくれ、それとウエディングドレスも作ってほしい」
「鎧の下に着るドレスは何となくイメージできますが、ウエディングドレスなるものがイメージ出来ません、どの様な物ですか?」
そうか、この世界にウエディングドレスは無かったのか。
「結婚式で二人が着る純白のドレスだな、できるだけ豪華にお願いしたいが、そんなに予算も無いのだ」
「なるほど、そこは私の腕の見せ所ですな……解りました、お二人の心に残るドレスを作りましょう、期限はいつまでに?」
「期限は4日後だ、できるか?」
「時間も無い、予算も無い……私燃えてきました、早速にでも取りかかります」
何だかロンデリックの職人魂に火がついた様だな。
「すまない恩にきる、それとこの事は……」
「内密ででございましょ?解っていますよ左近様」
「やはりお前は完璧だ」
やはりこいつはホモじゃ無かったら完璧だ。
しかし勿体ないな、ロンデリックは髪型は七三で変だがけっこうな男前だ、ホモじゃなければ女性は絶対に放っておかないだろう。
「何が完璧なんですか?」
そう言ってアイリスが食後のハーブティーを持ってきた。
「いや、こちらの話だ……ん?このハーブティー色が今までと違うな」
しかも何だか懐かしい香りだ。
「ラナがナッソーで買ってきたんですよ、アッサムの葉と言うらしいのです」
それはまさか紅茶か?確かに香りも紅茶だ。
俺はそう思い一口飲むと……紅茶だ、旨い!
「ラナ、これは旨いな」
「でしょ!私も好きなんですよ」
「そう言えばロンデリックさん、この家にはお風呂が在るのですよ、一度入られては如何ですか?御主人様も良いでしょ?」
「そうだな、アイリスが言うのなら。ロンデリック入ってはどうだ?旅の疲れも取れるぞ」
「……そうですね、では入らせていただきます」
そう言ったロンデリックは自らのこめかみに両手を当てて、力を入れだした。
「お、おいロンデリック、大丈夫か?」
そう言った瞬間である。
……
…………
………………
……………………
…………………………ポン!
な、何だと!驚いたのも無理はない、ポンと言った音と共にロンデリックの髪の毛が取れたのだ。
ず、ズラだと?ロンデリックよお前は何故にそんなに濃いキャラなのだ。俺にはお前が解らん……おいおい、ズラを取った頭皮が赤くなっているじゃないか!ヤバイ吹きそうだ。
あれ?ラナも唖然としているが、アイリスは普通だ……もしかして、この世界の人間界では普通なのか?俺とラナだけが変なのか?
「ではお風呂に入らせていただきますね」
「お……おう」
そう言ったロンデリックは風呂場に向かって行った。
「アイリス人間界では普通なのか?あ、あのズラは?」
「アイリス、どうなのよ!」
「初めて会った時からカツラだと解りましたよ、瞬間を見た時は、あぁやっぱりって感じでしたのでそんなに驚きはしなかったですね」
「……ラナ解ったか?」
「……全然」
そう言うわけで、ズラのショックから俺とラナは中々抜け出すことができずにいたのであった。




