危険人物ロンデリック
「や、柳生笠……」
この2つの陣笠の家紋は、紛れもなく柳生家の家紋だ、もしかして、柳生の者がこの世界に来ていると言うことなのか?俺がここの世界に来ていると言うことは、他の者がいても何ら不思議は無い。
むしろ自称神様の娘がこの世界の神様ならば、その親子の繋がりでこの世界に誰か来ていてもそれは道理だ。
となれば、誰が来た?宗厳殿か?まさか、ボンクラの宗矩か?もしくは、その子孫も有り得る……えぇい、解らん!
「……様……御主人様?」
おっと、いかんいかん自分の世界に入ってまった。
アイリスの声で、現実に戻されてしまった。
「すまん何だった?」
「柳生笠って何ですか?」
「あぁ……声に出てしまっていたのか……」
さてどうする?アイリスとラナに真実を話すか?アイリスが知っているのは、簡単にしか知らないはずだ。
秘密を守るのなら、知っている人数は少ない方が良い、どうする?……一応確認して、言ってみるか。
「それを教えると、俺と一生死ぬまで秘密を共有する事になる。
もしも俺の奴隷を辞めたくても辞めれんぞ」
「御主人様は、私を何処かにやるおつもりですか?
私は、いくら御主人様の命令でも、御主人様から離れませんよ、死んでも一緒にいます」
アイリス……ガチで怒っているな。
「ありがとうアイリス、ラナはどうだ?」
「正直……御主人様の奴隷じゃ無くなったら、御主人様の妻になりたいです!妻となって一生側に、居たいです!」
「なっ?」
まさかの逆プロポーズかよ!
「ラナ、ズルい!それならば私も!」
「お、お前らチョッと落ち着け……お前達の気持ちは嬉しい、ならばこれからは一生側に置いてやる、もう離さないからな」
『はい!』
「先ずは……何から話すか……アイリスには以前少し話したが、俺はこの世界の人間では無い。
神様の都合でここに来る前に、違う世界で既に2回死んでいる。1度目は大きな戦場で、もう一度は車と言う物に跳ねられてだ。
そして、この世界の神様に、ここにやって来る時に、色々な武具やスキルを貰いやって来た」
「じゃあ御主人様は、神様の使いですか?」
ラナが神妙な顔で言った。
「簡単に言うと、そうだ。ラナ、信じられないか?」
「いえ、あの時の盗賊達を倒した時の御主人様は、何か人間の強さとは、別の次元の強さでした……信じるしか無いでしょう」
「ありがとう、ラナ。そして、お前達が知っている俺の名前の左近だが、本名ではない。
本名は、島 清興で左近は最初の人生での通称だ。
解りやすく言うと、俺の国は幾つもの国が在り、昔から戦乱が続いていて俺はその中の、大和の国の中の小さな領主であった。
その俺の領地の、隣の領地が柳生一族と言う。この紋章は、柳生の紋章の、柳生笠と言われる物だ」
「では、この紋章が在ると言う事は……」
「そう、ラナの考え通り……この世界に来たのは、俺だけじゃ無いと言う事になる」
「柳生……どんな一族ですか?御主人様と仲が悪いとかは?」
「俺は戦場で戦う将軍タイプだが、柳生は剣に生きる剣士の一族だ。
俺達の間は良好であったが、当主の宗厳殿ならば大丈夫だが、息子のボンクラの宗矩はダメだ、権力欲が強く、ろくな事をやらない」
「……それは厄介ですね……」
「あ、あの御主人様に質問が有ります!」
な、何だ今まで黙っていたアイリスが喋ったぞ。
「な、何だ?」
「結婚は、されていたのですか?子供は?」
何故そんな事を聞きたい?……解らん。
「1度目は結婚していたが、2度目はしていない。子供は5人いた……男3人の女2人だ、男は3人とも戦で死んだよ。
娘のシメオンは、おそらくだが夫が俺と同じ陣営だったので、俺が死んでから程なくして死んだであろう。一番下の娘はまだ幼かったので、都の知人の服屋の商人に預けて来た……幸せに、なってくれれば良いんだが。
でもどうして、そんな事を聞く?」
「……い、いえ……別に……」
って凄く落ち込んでるじゃねえか!何なんだろ。
「とりあえずだ、その柳生がいると言う事は、もしかして何か、俺の様な能力を持っているかもしれない。
友好的なら良いんだが……もしも違うならば、一戦も覚悟しないといけないな。まぁ今は触れずにそっとしておこう」
「そうですね、余計な火種になってしまうのは、避けたいですし」
ラナは真剣に柳生の事を考えていたようだが、アイリスは違うように思えた。
「所でラナ、腹は減ってないか?俺とアイリスで飯を作ってみたんだが、食べないか?」
「食べます!食べます!」
「ラナは食事には食い付くなぁ、でも今晩の露天風呂は期待してくれ、幻想的な空間にしてやる。アイリス、作ったサンドイッチを持って来てくれ」
こうして俺は飯を食べた後、竹を斬って幾つもの竹筒を作っていった。
そして、アイリスとラナは、俺が何を作っているのか察した様で、3人で竹筒に蝋燭を入れて、露天風呂に配置し、余った竹筒の燈籠は、家の至るところに配置されたのであった。
これ、蝋燭代も意外とお金がかかりそう、そんな予感を感じながら、俺たち3人はそのまま、太陽の下でまた露天風呂に入りいちゃついていた。
夜になり、全ての竹筒の燈籠に火を灯すと、まさに俺達だけのイルミネーションのイベントの様な風景であったのだ。
この風景は最早言葉は要らなかった、俺達は何も言葉を発せずに、お互いの身体を洗うと、その場で始めたのであった。
これには我が愚息も頑張り、いくらスキルを使っていても俺の残弾は0になったのである。アイリス、ラナ恐るべし。
「御主人様ぁ、朝ですよぉ、早くレンヌに行きましょうよ」
次の日の朝、俺はラナに起こされた。どうも早く浴衣を買いに行きたいようであった。
しかしまだ俺の隣で寝ているアイリスがいる、アイリスはこのベッドになってから朝が弱くなったな。
アイリスが寝ている間に俺はラナの頭に手を回して、朝のキスをした。
ん?手触りが全然違う、しっとりサラサラだ、もうシャンプーの効果が出てきたのか?そう思った俺はラナを抱き締めて髪の毛の匂いを嗅いでみた。……変態じゃ無いぞ、確認の為だ、確認の為。
すると身体匂いなのか、髪の毛の匂いなのか解らないが、微かにココナッツの匂いがする。
良い香りだこのままずっと抱き締めていたい。
「あ、あの……御主人様?」
「あ、あぁすまん、ラナの匂いが、とても良い匂いだったのでな」
「もう、そんな事を言って……早くアイリスを起こしてくださいよ、私は朝食を作って来ますね」
そう言ってラナは、寝室の扉を開けた時だった。
光に髪の毛が当たり、髪の毛に天使の輪の様な光沢が見えて、髪の毛がサラサラになっているのが目に見えて分かった。
これ作るのが、めんどくさいが、もしかして、商売になるんじゃないか?
あんなに美しい髪の毛の、アイリスとラナが居れば、宣伝効果もあるしな。
そして、俺は隣で寝ているアイリスの頭を撫でるように、髪の毛の感触を確かめて見た。……やっぱりアイリスもしっとりサラサラになっている。
我ながら天才としか言いようが無いぞ、もう一度同じの作れと言われれば無理だけど。
「ん?んん?……おはようございます、御主人様……また、寝顔を見ていたのですか?」
「あぁ、アイリスが気持ちよく、寝ていたんでな」
「もう御主人様は本当に意地悪ですね。
でもこんなに眠れるのは、初めてかも……やっぱり御主人様が、一緒にいるからかな……」
いえいえ、それは私の愚息を毎回立たなくなるまで、襲っているからですよ。
「そうそう、ラナが朝食を作ってくれている、どうも早くレンヌに行きたいみたいだぞ」
「あの子、昨日から浴衣をずっと見ていましたからね、余程欲しいのでしょう」
そう言ってアイリスが起き上がり言った。
「そうそうアイリス、自分の髪の毛を1度触ってみてくれ」
アイリスが何だろうと触った時だった。
「ご、御主人様何ですかこれは?すごくサラサラしています」
「シャンプーの効果だな、明るいところでラナの髪の毛を見てみろ」
アイリスは俺にそう言われて、台所のラナの後ろ姿を見てみると、完全に言葉を失っていた。
「どうだ、アイリスとラナは、どんな貴族や王族よりも、美しい髪の毛の持ち主だぞ」
「有難う御座います御主人様、こんなにしていただいて私は幸せです」
凄く喜んでくれたな、何だか俺も幸せな気持ちになるな。
「何が幸せなの?」
皿を持った、ラナがキョトンとしていた。
「ラナ、アイリスの髪を見てみろ」
「えぇぇぇぇ!凄く綺麗に、なってるじゃないですか!」
「お前もなっているぞ、触ってみろ」
「……あっ本当だ」
こっちはリアクション低いな、ラナの基準が解らん。
そんな事を考えながら俺達は、朝食を食べて準備をしてレンヌに向かい、近くの森まで空間転移を発動した。
何故、近くの森までにしたかと言うと、ラナがレジストカードを持っていないからである。
王宮に行く時に、提示を求められた時は、不法侵入がバレてしまう、この為にレンヌ近くの森まで移動したのであったのだ。
俺達は、人気の無い暗い森を抜けて、そのまま、レンヌに向かった。
レンヌに到着し城門に向かうと、今日は蘭さんが休みなのか、兵士しかおらず、しょうがないのでアイリスが通訳をし、ラナのレジストカードを発行してお金を支払い、王都レンヌの中に入ると。
さすが王都、まだ早朝なのに、街は人で溢れ活気付いていた。
「ここが王都レンヌ。人間の国の王都なだけあって、人間が多いですね……あっ、あれ美味しそう!」
ラナはテンションが上がり、辺りをキョロキョロと見回しながら、歩いていた。
こうして見ると、まだラナは、子供なんだと気付かされる。
家で見せる大人っぽいラナ、外で見せるまだまだ子供っぽいラナ、いったいどちらのラナが本当なんだろう?いや両方かもしれない。ラナはまだ14歳なのだから。
しかし、アイリスとラナは只でさえ可愛いのに、サラサラの髪の毛で更にすれ違う時に、ココナッツの甘い香りがすれば、目立つなと言うのは無理な話である。そのおかげで、二人は道行く人々の注目の的になっていた。
俺は、そんな二人を連れていて、鼻が高かったのだが、これは早くロンデリックの店に行かないと、変な虫が寄ってきては困る。
そう思いながら歩く速度が、自然と速くなっていったのであった。
「左近様!」
おぉ我が同志よ、そんなに喜んでくれるとは!…………待て……何故抱きつく?
ロンデリックは泣きそうな顔で俺に近づくと、止まる事無く、俺に抱き付いたのだ。
待て、振り返らなくても後ろから、二人の視線が痛いほど刺さるのが解るぞ、俺はノーマルだ男に興味は無い、止めてくれ同志よ。
「おぃ、どうした?」
何かあった事は解る、ただ抱きつくのは、止めてくれ。
「蘭さんが、蘭さんが……」
いや、鼻汁つけるなって……なにぃ!
「蘭さんが、どうしたんだ?」
「蘭さんが、兵士に捕まりました!なんでも、王家の秘蔵の宝石を、盗んだとかで」
「そんな筈は無いだろう!あの蘭さんがそんな事をする筈もない!そもそも王家の秘蔵の宝石って厳重に警備されているはずだろう?巫女の蘭さんが盗める筈もない。それに宝石を盗めば職業が盗賊になるだろう?調べれば解ることだ!」
「それが異例のスピードで、逮捕されたそうです。なんでも、その時に指揮をとっていたのが……リリアナ王女です」
なっ!何?それはもしかすると、俺を罰する事が出来なかったから、同族と思われている蘭さんが腹いせで……だとすれば、俺の責任だ。
「ご、御主人様……」
そうだ、俺が何とかしないと、自分で蒔いた種だ。
しかし、こんなにロンデリックが蘭さんの事を心配するのは、もしかして蘭さんに惚れているのか?だとすれば応援してやるか。
蘭さんは確かに可愛いが、人の恋路を邪魔するほど、俺は落ちぶれていない、俺にはアイリスとラナがいるしな……落ちぶれ無いからな!
「あぁ、アイリス解ってるよ。安心しろ、俺が何とかする……所でロンデリックよ、俺が助けて良いのか?お前が助けて、俺がお前のサポートをする方が何かとお前に都合が良くないか?」
「えっ?何故ですか?」
「何故って……お前、蘭さんが好きなのだろう?」
「好きですよ、大切な友人ですから。でも私は、男性の方が好きですから」
………………えっ?…………えぇぇぇぇ!こ、コイツはホ○だったのか?じ、じゃあ今まで俺に対しての事は、まさか考えたくは無いのだが……俺の貞操が、狙われていたのか?
まてまてまて、じゃああのメイド服とかのコスプレは?まさかまさか、自分で着るためとか……考えたくは無いのだが有り得る。最早コイツは同志ではない、俺の中の最も危険人物だ!って、いつまでも抱き付いているんじゃねぇ!離れやがれこのヤロウ。
「解った、蘭さんの事は、俺が助けるから安心しろ。
今日は、このラナのドレスと浴衣を、買いに来た……ラナ好きなのを選べ、アイリスは奥でドレスに着替えろ」
『はい!』
そう言って二人が言ったのを見計らって、俺はロンデリックに言った。
「ロンデリック、例の物は出来ているか?」
「それが、ナース服でした?あれとパンツの方は完成しております。しかしあの儀式用は複雑で手間がかかるのと、ブラジャーの方はまだ試行錯誤の段階でまだ完成しておりません」
女子高生の制服と、ブラジャーがまだか……まぁ良いだろう。
「それだけでも十分だ、今回はラナの分も購入するので、二人分有るか?」
「勿論ですとも」
「それと今後は、ラナの分も一緒に買うから、二人分になるので、また頼む」
「解りました……しかし私は、もう店を辞めようかと、思っていたのですよ」
「何だと?また、どうして?」
「私は、今回の事で本当に、この国に愛想が尽きました。
あんな王女が、今の国王の後に、王国の女王なるなど……すぐに滅びますよ。
私は、それならばナッソーにでも行って、新しく店を開こうかと思っているのです。ですから、今回のお代はけっこうです。
それに、蘭さんを助けてもらう代金の代わりと、思って頂ければ」
「分かった。必ずや、何とかしよう」
「有難う御座います」
いざとなれば、牢屋にでも空間転移して救出し、家に匿えば良い。
ナッソーならば中立だし、職業が何になっても大丈夫だから匿いやすい。
そう思いながら、俺はラナの所に行ったのだった。
「どうだ、決まったか?」
「それが、浴衣は決まったのですが、ドレスは、どっちの色にしようかと、思いまして……そうだ、御主人様は、どちらがよろしいですか?」
「そうだな……ラナは、こっちの濃い青の様な、濃い色合いの方が、この綺麗な銀髪が、更に美しく見えると思うぞ」
「……そうですね。では、こちらにします」
「よし、ではアイリスの所に行って、着付けを教えてもらってこい」
「はい!」
そう言って、ラナがアイリスの所に向かって行った後で、ロンデリックが話しかけてきた。
「左近様は、この後どちらへ行かれるのですか?」
「この後は、王宮に行って、国王に会う予定だが」
「ならば、その途中で、エルフの娘の店が在ります、看板等は出ていませんが、小物類や帽子やマジックバッグを取り扱っている店です。
王宮に、行かれる前に、そこに1度寄ってみてください。左近様なら気に入ると思いますよ」
「有難う、でも看板等が出ていないのなら、分から無いだろう?」
「いつも店先に座って、本を読んでいますので、解ると思いますよ」
そんな簡単に、分かるのか?まぁロンデリックが言うからには、間違いないだろう。
「解った、行ってみるよ」
そう言って、商品をロンデリックから受け取ると、出てきたアイリスとラナの3人で、王宮に向かったのであった。
しかし、ドレスを着ているから、二人は余計に目立つな。
やはりロンデリックの言う通り、帽子を買って髪と顔を隠すかな。しかし看板も無い店を、どうやって探すか……ん?
何だか、白い鍔の大きな帽子を被り、椅子に座って、優雅に本を読んでいる女性がいるぞ。
あれが、ロンデリックの言っていた、エルフの娘かな?
そうなら帽子の鍔が大きくて、エルフの特徴の長い耳が見えないし。どうやって、エルフと見極めたら良いんだよ。
そう思いながら俺は、本を読んでいる女性に声をかけた。
「すみません……すみません!」
「……うにゃ?」
寝てたのかよ!てか、うにゃって本当にエルフか?
「すみません。ここで帽子とか、売ってますか?」
「……あぁ!お客さんね、売ってますよぉ。後ろの貴族の女性の帽子……えっダークエルフ?」
「ダークエルフの何が悪い?」
ラナが、半分キレかけて言った。
やっぱりダークエルフとエルフは、仲が悪いのかな?これは話題を変えないと。
「まぁまぁ、所でルタイ語は、分かるのですか?」
「もっちろん、エルフだからねぇ。まぁ中に入ってよぉ」
俺達は、外見が一般の家の様な、店の中に入るとそこには、色々な帽子やマジックバッグや宝石類が展示されていたのであった。
「すごっ……」
思わずアイリスが呟いた。
俺もそうだと思う、帽子やマジックバッグは冒険用と言うより、女性専門のオシャレ重視の物ばかりであったからだ。
「今日は、誰に聞いて、やって来たのぉ?」
「あぁ、ロンデリックだが、知っているのか?」
「ロンデリックさんね、知っているよぉ。
最近は、何やら可愛い服を作っていますしねぇ。ロンデリックさんの紹介なら、購入は大歓迎、紹介がなければ、購入ダメぇ~」
なんだか、フワフワした人で、独特の流れだな。人じゃなくてエルフか。
「御主人様……」
「あぁそうだな、帽子とマジックバッグを選べ。時間が無いので、早めにな」
『はい』
「ん?御主人様ぁ?あれぇ?貴族の女性じゃ無いのぉ?まさか、奥様方ぁ?でもそれならば、旦那様かぁ」
お、奥様方だとぉ!何を言っている……でもラナの耳が一瞬動いた気がしたぞ、ラナの耳が動いたと言う事は、俺の次の発言を注意深く聞いているな。
今後の、ラナの態度が変わる可能性も有るし、アイリスも同じだろう。
ここは……ポイントアップを狙うか。
「まぁ、妻の様な感じかな、当たらずとも遠からず……殆ど当たりだな」
おっ、二人のテンションが上がっている、成功だ。俺天才だな。
「そっかぁ、そういやルタイ皇国って武将にもなるとぉ、正室って奥様の他に側室って、愛人を作れるんだよねぇ。貴方は見た所ぉ、武将だしぃ……で、どっちが正室なのぉ?」
ぬぉ!そんな事を聞くな!確実にどちらかを言えば、どちらかに殺されるじゃねえか。
こんなにも、分かりやすい死亡フラグ……どうする俺……話を変えるか。
「そ、そういえば、名乗って無かったな、俺は左近、連れの人間の方は、アイリスで、ダークエルフの方は、ラナだ」
何とか、これで誤魔化すしかない。
「私はぁ、エルマって言いまぁすぅ。
所でアイリスとラナの髪の毛がぁ、凄く綺麗なんだけどぉ、何を使っているのぉ?教えてくれたらかなり安くしちゃうよぉ」
「教えても良いが、多分無理だと思うぞ。毎日の風呂で、髪の毛をシャンプーと言う物で洗う事だな」
「それは、貴族や王族しか無理だねぇ……左近の所には、お風呂って物は在るのぉ?」
これは在ると言えば、エルマは来るな……遠回しに断るか。
「在るには、在るのだが、レンヌから遠いぞ」
「だよねぇ、ルタイ皇国だもんねぇ……羨ましいなぁ」
うまい具合に、勘違いしてくれたか……まぁ嘘は言っていないからな、場所を聞かれなかっただけで。
「御主人様、これでどうでしょうか?」
そう言ってアイリスが持ってきたのは、白く大きな鍔の帽子とハンドバッグのタイプの、マジックバッグであった。
ラナも同じ形だが、リボンの色が違う。
「良いと思うぞ、エルマ全部でいくらだ?」
「ん~端数はサービスしてぇ1,300シリングになるよぉ。宝石は良いのぉ?あった方が綺麗だよぉ」
確かにそうだな……しかし……いや、買うか。
「では合計2,300シリング払うので、二人にネックレスを選んでくれ。もしも、俺が気に入れば、今後ともこの店の常連になって、シャンプーもやろう」
「良いねぇ、テストだねぇ、のって来たねぇ」
エルマはそう言って、店のショーケースを真剣に眺めて、ハート型のアメジストのネックレスと、涙の形の様なルビーのネックレスを持ってきた。
「アメジストがアイリスでぇ、ルビーがラナ……これでどぉだ!」
「……うん、合格だ」
そう言って俺は、エルマにお金を支払い、また来店する事を約束して、王宮に向かったのであった。




