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Another Life もう1つの人生  作者: くろべぇ
第三章 連合国編
100/464

誕生

 左近達が、クレアからアイリスの陣痛が、始まったと聞き、レイクシティに戻ると、既に左近の邸宅は、メイド達が慌ただしく動いていたのである。


「あ、御館様!奥様は、こちらです」

 そう言って左近は、アイリス専属のメイドの、ベアトリスに連れられて、部屋に案内されたのであった。


 中から、アイリスの苦しそうな声が聞こえる……大丈夫か?

 そう思いながら、左近は扉をノックして言ったのである。

「アイリス俺だ、入るぞ!」


 そう言って扉を開けようとした瞬間、枕が飛んできて、アイリスは、苦しみを我慢した声で、左近に言ったのである。

「絶対に入っちゃダメ!今、絶対に変な顔になってるから、絶対にダメ!

 もしも入って来たら、舌を噛み切って、死んでやるから!」


 何も、そこまで言わなくても……

 そう言われて、落ち込んでいる左近に、ラナが近付いて来て言ったのである。

「あなた、アイリスも、ああ言っている事だし……ね」


 何、その空気読めよ的な言い方は?

 そう思ってる左近に、キッカが言ってきたのである。

「ホラホラ、良いから出ていきな。私に任せとけば、良いんだよ」


 何だか、俺だけ除け者に、されている様な……仕方がないか。

「分かった、後は頼む」


 そう言って左近は、キッカに頭を下げて、自身の執務室に、戻って行ったのであった。


 何れ程、時間が過ぎたのであろうか。

 太陽は既に沈み、いつの間にやら、激しい雨が窓を、叩き付けていたのであった。


 頼む、生まれて来る子供は、金髪か黒髪であってくれ……

 そう願っている左近の執務室をノックして、リュネとずぶ濡れのエリアスが、入って来たのであった。

「子爵殿、義父上殿……どうして?」


「実は、この御方が、シクサ村まで来て下さいまして、アイリスの陣痛が、始まったと教えてくれて、連れて来てくれたんですよ」


「そうですか。子爵殿、ありがとう、恩に着る」


「いえ。そうだ、スターク議長は、後程ここに、来られるそうです」


「そうか、ありがとう……もう、戻るのか?」


「ええ。空間転移の場所も、教えて頂きましたし、我が国にも、北方教会が在りますので、早く戻って対処しなければ、なりません」


「そうか、また来られた際は、改めて御礼をさせて頂く」

 そう言って左近は、リュネに頭を下げたのであった。


「頭を下げないで下さい、当たり前の事をやっただけですから。

 では、私はそろそろ行きますね……そうだ、お子様の名前は、御自分の、尊敬されている御方の名前などは、如何でしょう。

 その方が、その御方も、喜ばれると思いますよ」

 そう言ったリュネは、左近達に頭を下げて、出ていったのであった。


 尊敬している名前か……そうだ、義父上にも、聞いておかないと。

「義父上殿、生まれる子供の名前は、大陸風にした方が、宜しいでしょうか?」


 左近にそう言われたエリアスは、驚いた顔をして言ったのであった。

「そんな事を、悩まれて、おられたのですか。

 ノイマン家の事は、お気になさらず、佐倉家の事を優先して下さい。

 ノイマン家は、私の代で終わっても、良いのですから」


 そうか、あの悪魔の血筋の事を、まだ引き摺っておられるのか。

「分かりました。では、今回はルタイ皇国の名前で名付けるとします」

 そう言って左近は、エリアスに頭を下げたのであった。

 だが、何れ程時間が経過しても、一向に生まれたとの報が、左近の元に来ない。

 やがて、遅れてやって来たビートやエリアスは、疲れてその場で眠りにつき、左近は雨の止んだ暗い空を見上げて、生まれて来る子供の事を、願っていたのである。





 やがて朝日が昇り、朝6時の時を報せる鐘の音が、ボーン、ボーンっとなった時であった、勢いよく扉が開かれ、クレアが入って来たのであった。

「御館様!生まれたよ!」


「何!どっちだ!」

 その言葉で、思わず飛び起きた二人は、瞬時に事情を、理解したのであった。


「お、男の子!元気な、髪の毛の薄い、ルタイ人の男の子だよ!」


 髪の毛の薄いは、余計だろ!

 ……でも、ルタイ人って事は、俺に似てるって事か……本当に良かった。

「そうか、でかした!」

 そう言った左近の目には、涙が溢れていたのであった。


 良かった、本当に良かった……

 一番の心配は、アイリスだったからな、

 そう思っていると、ビートが立ち上がり、左近を抱き締めて喜んだのであった。

「やったな元帥、跡継ぎだぞ!これで、佐倉家は安泰だぞ!」


 そうだ、アイリスの事ばかり考えていたが、跡継ぎが出来たんだ。

 俺、こんなに幸せで、良いのかな?

 殿や、あの日一緒に戦った、仲間達に、何だか申し訳ない気持ちがする。

 そう思うと、涙が止まらなく、なっていたのであった。


「おいおい、元帥よ。何もそこまで、泣かなくても」

 そう言ってビートは、左近を慰めていたのだが、左近は溢れ出る感情を、止める事は出来無かったのであった。


「す、すみません。

 俺、今最高に幸せで、あの日一緒に戦って戦場に散った、殿や仲間達に悪くて……

 皆もこうして、幸せに暮らしたかっただろうと、思うと……」

 そう言った左近は、顔を隠して、そのまま泣き崩れたのであった。


 暫くしてエリアスは、左近の肩を叩いて言ったのである。

「閣下……いや、婿殿。その気持ちは、私やスターク議長は、よく分かります。

 私達も、多くの仲間を失って来ました。

 ですが、今ここで婿殿が悲しんでいたら、戦で散っていった仲間も悲しみますよ。

 立ちなさい。そして、前を向いて進みなさい。

 これが、生き残った我々に、出来る事です」


 そうだ、義父上の言うとおりだ。

 そう思った左近は、涙をぬぐい立ち上がったのである。


「良い男に、戻ったでは、ないか」

 そう言ってビートは、左近の背中を叩いて、勇気付けたのであった。




 左近達は、アイリスの部屋に向かうと、既にメイド達が集まっており、その中でバスティとテスタが、頭を下げると、慌てて他の者も一斉に頭を下げたのである。


「御館様、おめでとう御座います」

『おめでとう、御座います!』


 バスティの言葉を皮切りに、使用人達の祝福を受けて、左近は何か恥ずかしくなりながらも、言った。

「皆、本当にありがとう」

 そう言って照れながら、左近達は部屋に入ると、皆の表情は、疲れきっていたのであった。


 左近は、ラナに誘導されて、豪華なベッドに向かうと、幸せそうに寝ている赤子と、それを寝ながら見つめているアイリスが、いたのであった。


「アイリス、よく頑張ったな……その……本当に、ありがとう」


「感謝するのは、こっちの方だよ。あんなにも、辛かったのに、今は最高に、幸せだもん。

 ところでこの子の名前、考えている?」


 そう言われた左近は、赤子の頭を優しく撫でながら、言ったのであった。

「佐吉に、しようかと思う」


「父上、それは……」

 思わずそう言った珠を制すると、アイリスは、笑いながら言ったのであった。


「何それ?変なの。でも、あなたが、そう名付けるからには、何かあるのでしょ?」


「ああ、俺の仕えていた、石田 治部少輔 三成様の幼名だ。

 あの御方の様に、自分にも厳しく、一点の曇りの無い男に、育って欲しいから、そう名付けた。ダメか?」


「ううん、良いと思うよ。宜しくね佐吉……所で、幼名って何だっけ?」


 そ、そこからかい!

「幼名って言うのは、15歳で元服、つまりは、成人するまでの名前だな。

 成人したら違う名前になる、ルタイ人の風習だ」


「そっかぁ……佐吉は、どんな大人に、なるんだろうね」

 そう言ってアイリスは、佐吉を撫でて、言ったのであった。


 本当に、こんな幸せな時間が、いつまでも続く事を願っていた左近であった。



 ―――――――――



 その頃、リュネはウェンザー王国の王都ナボスに在る、白亜宮と言われる、真っ白な城の中を歩いていた。

 もちろん、国王のギレルモ・ウェンザー国王に、報告する為であった。

 だが、いつも通っている通路なのだが、何故かいつもと雰囲気が違う。

 そんな事を感じながもリュネは、玉座の間の大きな扉を開けたのであった。


「陛下、報告が御座います」


 入るなり、いきなり言ったリュネを、ブライアン、ダニエルと玉座に座った、太った中年の男が、出迎えたのであった。

 この男こそ、ギレルモ・ウェンザーである

「何だ子爵。やけに、戻って来るのが早いでは、ないか?」


「それが、緊急事態で御座います、セレニティ帝国の、北方教会の地下聖堂にダンジョンが出来ておりました。

 帝国領内の、村の北方教会の地下聖堂にもです。これは、我が国の教会地下聖堂も、確認した方が宜しいかと思いまして、戻った次第で御座います」


 リュネがそう言うと、ブライアンとダニエルは、驚いていたのだが、肝心のギレルモは、興味が無いように肘を付いて、ワインを飲みながら言ったのであった。

「そうか。で、東部連合には、魔族は居たのか?」


 何故ここで、その様な事を、言われるのだ?

「はい……魔族どころか、フレイア魔王陛下も、おられ……ック!」

 そう言っている途中で、ギレルモは杯をリュネに向かって投げつけ、リュネの額から一筋の赤い血が流れ落ちたのであった。


「何が魔王陛下じゃ!貴様、魔族に寝返ったか!」


「申し訳……御座いません、その様な事は、決して御座いません。

 しかし、その魔王からダンジョンを作る条件や、何故魔王が強いか……」

「うるさい!貴様は、ワシに聞かれた事のみを、答えれば良いのだ!」


「は、はい!」


「……貴様は、誰だ?」


「ウェンザー王国の専属勇者、リュネ・ラヴィオ子爵で、御座います」


「そうであろう。

 本来なら、貴様の様な小娘を、取り立てる事は決してせんのに、ワシの計らいで、子爵にしてやったのだ。

 ダンジョンの事など、IDCUに任せておけば、良いのじゃ。

 それで何で貴様は、帰って来た?」


「ですから……先程も申しました通り……」

「陛下は、そんな事を、聞いておられるのでは、無い」

 そう言って、リュネの言葉を遮ったのは、ブライアンであった。


 何だ、何が言いたい。

「……と、言いますと?」


 リュネがそう言うと、ブライアンがギレルモの代わりに、答えたのであった。

「陛下は、何故、魔王の首か、ルタイ皇国の左近衛大将の首を、取って来なかったと、聞いているんだ」


 な、何を言っているんだ!

「オービン伯爵、貴方も見ましたよね、あの大量の勇者を。

 あの数と、我等たったの3名で、勝てるおつもりですか?」


「ふん、あんなトリックを使った、まやかしなど、女子供を騙せても、このオービン伯爵様は、騙せんわい」


 これは、一体どう言うことだ?

 ラフォンド子爵、一体どうなっている!

 そう思いながらリュネが、ダニエルを見ると、ダニエルは全て諦めきった、覇気の無い顔をしていたのであった。


 まさか、伯爵が陛下に、そう進言したのか?

 そう思っているリュネに、ギレルモは、耳を疑う事を言ったのであった。

「まぁ良いだろう。これから3人で、大陸のルタイ皇国領内に行って、その左近衛大将の首を取ってこい」


「陛下!そんな事をすれば、ルタイ皇国だけでは無く、東部連合と戦争になります!私は反対です!」


「失礼ながら申し上げます。私もラヴィオ子爵と、同意見で御座います、今一度御再考を!」

 リュネがそう言うと、ダニエルまでもが、ギレルモに進言して来たのであった。


 ギレルモは、暫く何かを考えて、言った。

「オービン伯爵、我等と東部連合、戦うとすれば、どちらが勝つと思う?」


「もちろん我等で、御座います。

 辺境の国々の小さな連合に、ルタイ皇国の様な、田舎者の集団。更にガルド神魔国も、参加しているとなれば、神の御加護も得られません」


 バカな!伯爵は、現実が全く見えていないのか!

 そう思っていると、ギレルモがブライアンに、言ってきたのであった。

「必要な、戦力は?」


「私と精鋭50名で、攻め込めば、私達が行きました屋敷を、簡単に制圧できます」


 何を言っている!これでは完全に、宣戦布告になるでは無いか!

「失礼ながら、申し上げます!

 これでは、こちらが奇襲し、宣戦布告する形となります!これでは、さすがに他国の支援は、受けられません。

 どうか、今一度、御再考を!」

 そう言ったリュネは、床に頭をつけて、嘆願したのであった。


 だがギレルモの答えは、無情なものであった。

「オービン伯爵、ラヴィオ子爵は、魔王に唆され、我等を裏切った様じゃの……捕らえよ!」


 そのギレルモの掛け声で、兵士達に捕まれたリュネは、悲痛な叫びをギレルモに、ぶつけたのであった。

「陛下!ウェンザー王国を、潰すおつもりですか!

 何故、オービン伯爵の様な者を、信用されるのですか!陛下!陛下!」


「うるさい、早くその者を、連れていけ!」

 そう言った、ブライアンを睨み付けて、リュネは言った。


「おのれ、オービン!この奸臣が!貴様だけは、絶対に殺してくれる!」

 そう言ってリュネは引き摺られて、連行されるのを、ブライアンは自慢の髭を触りながら、蔑む様な目で見ていたのであった。


「オービン伯爵、では準備をし、5日後には出撃し、それまでに、ラヴィオ子爵の一族朗党を全て死罪にし、屋敷の前に晒して、反逆者はどうなるか、見せしめにしろ。

 ラヴィオ子爵の領地は、戻ってきたら伯爵にやろう」


「ありがとう御座います。

 私自身が兵を選び、圧倒的な武力で、田舎者共に、本当の強さと言うのを、分からせてきましょう」


「うむ、期待しておるぞ。

 ラフォンド子爵、どうじゃ、まだ反対か?」


 そうギレルモに言われたダニエルは、拳に力を込めて言ったのであった。

「……いえ…全ては、陛下の御意に」


「うむ。

 そなたは、まだ若い。これからもオービン伯爵の背中を見て、色々と学べ。期待しておるぞ。

 それと、急ぎ勇者を1人探し出せ。見つかり次第、ラヴィオ子爵は、処刑する」


「ありがとう御座います。必ずや、陛下の御期待に応えましょう」

 そう言って頭を下げたダニエルは、何か決意を固めた表情を、していたのであった。



 ―――――――――



 翌日の夕方、リュネは牢で壁に立ったまま両手両足、そして首を繋がれ、意識は朦朧としていたが、それでも彼女は、強い意思で何とか、持ちこたえていたのであった。

 そんな彼女の耳に、微かに牢の外の声が、聞こえたのである。


「これは、ラフォンド子爵にロルフ大神官。どうされました?」

 ラフォンド子爵?


「彼女。まだ、意識はあるか?」


「微かにですが……」


「では、少し3人で、彼女と話をさせてくれ。その間、少し離れていてくれると、助かる」


「分かりました。少ししたら、戻りますので」


 そう聞こえて、暫くすると、牢の扉が開かれ、ダニエルと神官姿の老人が、入って来たのであった。

「ラヴィオ子爵、起きているか?」


 その言葉を聞いたリュネは、顔を上げずに、目だけを動かして、ダニエルに言ったのである。

「貴公の声を聞くまでは、良い夢を見たいてのだがな」


「それなら、大丈夫そうだな。先ずは、大神官の話を聞いてくれ」


 ダニエルがそう言うと、ロルフは前に出て、言ったのであった。

「ラヴィオ子爵、貴公に聞きたい事がある。本当に、東部連合の北方教会地下聖堂に、ダンジョンが在ったのか?」


 この大神官は、IDCUの総帥なので、ダンジョンの事が気になるのは分かるが、どうしてだ?

「確かに在った。私もこの目で確認した……でも、何故だ?ラフォンド子爵から、聞いたのか?」


「正確には、違うな。

 IDCUは、神からの神託で、ダンジョンの場所を知り、討伐の依頼を出しておる。

 実は、秋頃に変な神託がきた。

「この大陸で、ダンジョンが多数出来ている。場所は、分からないので、探し出せ」とな。

 まるで、ヒントが無い神託だったので、IDCUは何も出来ずにいたのだが、今日の朝に、いきなり神託が来たのだ。

「北方教会の地下聖堂に、ダンジョンが出来ている。確認しろ」とな。

 そこで、確認する手配を進めていたら、ラフォンド子爵から、ラヴィオ子爵が「北方教会の地下聖堂にダンジョンが出来ている」と言っていると言いに来たのだ。

 これは、変な話では無いか。貴公は、ギリシス教の巫女でも無いのに、何でその事が分かったのだ?

 その教会で、ダンジョンを発見した時に、居た人物は誰だ?」


 何でそんな事を、聞きたいのだろうか?

「セレニティ帝国の皇帝に宰相。東部連合評議会議長に、ルタイ皇国の侍達と北方教会の司祭……そして魔王陛下。

 何でそんな事を、聞きたい?」


 リュネがそう言うと、暫くロルフは考えてから、言ったのであった。

「はっきり言って北方教会は、いくら神の教えだと言っても、神の神託は授かる事が出来ない邪教だ。

 つまりは、神の加護が無いので、例えダンジョンの場所が分かって、隠されていたダンジョンを発見したとしても、神は知る事が出来ない。

 では、何故知る事が出来たか……その中の人物に、神の加護が有る者が居るか、神の使いが、その場に居たと言う事だ。

 まぁ証拠は無いし、推測だけだがね」


 権大納言殿や、その娘の姫様の強さは、この世の者とは思えなかった。

 神の使いなら、勇者の条件の謎を知っている事も、納得できる。

 それに、姫様の年齢に対して権大納言殿は、あまりにも若すぎる……確かにルタイ人は、若く見える様だし、養女と言う可能性もあるが。

 そう思っているリュネを見たロルフは、何かに気が付いて言ったのであった。

「どうやら、心当たりが、有りそうだな?」


「ええ……もしかしたら、ルタイ皇国の前の左近衛大将殿と、その姫様がそうかも知れません。

 それなら、全て合点がいき、勇者の条件の謎を知っていて、量産しているのも納得できます」


 その言葉にロルフは、驚きながら言ったのである。

「何!ルタイ皇国は、勇者の量産をやっておるのか!何人おる?」


「私や、ラフォンド子爵やオービン伯爵が見たのは、数百名です。

 しかし、話の流れから察して、数万人はいると思われます……ですが、陛下はこの話を、信じてはくれず、あの奸臣のオービンに踊らされて、そのルタイ皇国の東部連合と、戦争しようとしております。

 大神官様、どうか陛下に進言して、この無謀な戦を御止め下さい!」


「御主は、こんな扱いを受けても、それでも陛下に忠義を尽くすか。

 しかし、オービン伯爵が絡んでおるなら、ワシが何を言っても、陛下は聞いてはくれんだろう……この国は、滅びるかも知れんな」


「そんな……」

 そう言ったリュネは、涙を流して、下を向いたのであった。


 そんなリュネにダニエルは、追い討ちとも言えるべき事を、言ったのであった。

「なぁラヴィオ子爵よ、俺と一緒にルタイ皇国に亡命しないか?」


「貴公は、一体何を言っているのか、分かっているのか!」


「俺は、今回の事で、この国や陛下に、本当に愛想が尽きた……それに、こんな状態で、貴公に言って良いのか分からないが。

 貴公の親族は、陛下の命令で、全員が処刑されて、貴公の屋敷の前に晒されたぞ」


 その言葉を聞いたリュネは、景色が回りだし混乱し出したのであった。

「う、嘘だ……嘘だ……嘘だ……嘘だぁ!」


「嘘では無い、既にオービン伯爵が向かって、処刑したそうだ……そして、俺には、勇者を1人探してこいと。見つかり次第、貴公を処刑しろと命令が下った」


「おのれぇ!皆、呪われろ!」

 そう言ったリュネの目には、憎しみの炎が出ていたのであった。


「俺は、貴公と違って、領地も無く、家族もいない、名ばかりの貴族だ。

 でも、貴公だけは、俺の唯一の友だと思っている。どうだ、一緒にルタイ皇国に、亡命しないか?

 ロルフ大神官も、この話をしたら、手伝ってくれるそうだ……まぁ条件は、有るのだが」


「……条件?」


「東部連合の冒険者ギルドと言う、IDCUの様な独自の組織との、和解の使いだ。

 俺が空間転移で居なくなっても、貴公はこのロルフ大神官が守ってくれる」


「そうか……あの左近衛大将殿は、今は位が上がり、権大納言と言う役職になって、東部連合の軍全てを率いている。

 屋敷は、私達の行った例の屋敷だ。

 それと、私から権大納言殿に、伝言を頼む。

 私の代わりに、オービン伯爵と陛下に、生きているのが嫌になるほどの、苦痛を与えてくれと」

 そう言ったリュネは、心が壊れかけていたのであった。


「ラヴィオ子爵殿……分かった、必ずや伝えよう」

 そう言ったダニエルは、リュネの心が、もう壊れかけている事を察しながら、リュネに一礼して出ていったのであった。



 ―――――――――



 その日夜、各国の元首や議員など有力者が、レイクシティの左近の邸宅に続々と集まり、世継ぎ誕生を祝っている中で、清信の幼馴染である上条 業重は、黒騎士団(ブラック・ナイツ)の内木 元政準尉と本村 尚道準尉の3人で、門番をやっていたのであった。


「しかし、こんな時に門番って、本当に生き地獄ですよね。

 今日は警備隊の俺が、門番って分かりますけど、何で御二方は門番に回されたので?」

 上条は、そう言って二人に、聞いたのであった。


 すると元政は、落ち込みながら言ったのである。

「いや……今日の朝に、いきなり姫様から、命令が下ってな。

 いやなに、誰が強引に捩じ込んだのかは、分かっているんだよ……ああ、あの時、あんな本音を言わなきゃ、俺も彼処で、ばか騒ぎ出来たのに」


「元政、お前が言い出しっぺだから、お前だけ、門番やれば良いのに……」


 何だか、この話は、しない方が良かったかな?話題を変えるか。

「御二方は、黒騎士団(ブラック・ナイツ)でしょ?団長のパンドラ様って、どんな御方なんですか?」


 業重がそう言うと、二人は明るくなって、得意気に語りだしたのである。

「姫様はなぁ、恐ろしく強くて、厳しそうに見えるが、実は本当にお優しい御方で、この人の為なら、喜んで死ねると思える、お人なんだ。

 レンヌの解放戦でも、死んだ者達の事で、ヴィシュク少佐と話している時に、泣きそうになるのを我慢していたし、怪我人で戦線に復帰出来ない者は、ちゃんと次の職を紹介する、慈悲深いお人なんだよ」


「それにな、戦場では、本当に安心して従える、優秀な将でもある。本当に天は二物も三物も与えてた御方なんだよ。

 でも……」


「ああ、女性ってのが悔やまれるな。

 いつかは、どこかの大名か、他国の王族に嫁ぐ事になるだろう……閣下も、口惜しいだろうな」

 そう言った二人は、少し悲しそうに、なっていたのであった。


 その時である、門の前に空間転移の煙が出てきたのである。

 空間転移の煙を見た三人は、そのまま槍を向けて、誰が出てくるのか待ち構えていると、中から出てきたのは、ダニエルであった。

 業重は、槍を構えて言ったのであった。

「ここを何処だと思っている?貴様は、何処の国の者だ?」


「騒がせてすまない。私はウェンザー王国の専属勇者、ダニエル・ラフォンド子爵と言う者だ。

 ルタイ皇国の権大納言殿に、緊急のお話があり、やって来た。取り次いでもらえるかな?」

 そう言ったダニエルは、両手を上げて、攻撃する意思は無いと言うポーズを取って、言ったのであった。


「……証明する物は?」


「証明する物か……そうだ、ここの勇者の、執事とメイドが、私の事を知っているはずだ。

 彼等に、確認してみてくれ」


 業重は、どうするか決めあぐねていると、尚道が言ったのであった。

「分かった、俺が呼んでこよう。

 それまでは、二人は、このラフォンド子爵殿に付いてくれ」

 そう言って尚道は、そのまま屋敷の方向に向かって、行ったのであった。




 やがて暫くすると、空間転移でテスタがやって来て、ダニエルを確認して言ったのであった。

「御待たせ致しました。確かにあの時の、ウェンザー王国の御方ですね。

 本日は、どうされましたか?」


「実は、権大納言殿に、至急お取り次ぎ願いたい。緊急事態なんだ」


「緊急の……分かりました、こちらにどうぞ。

 上条上等兵、警備の為に一緒に付いて来い……二人は、分かっているな?」


「え……マジかよ」

 そう言って、肩を落とした二人を置いてテスタ達は、空間転移で左近の執務室に、移動したのであった。


「ここで、暫くお待ち下さい」

 そう言って、テスタが空間転移で移動すると、ダニエルが話を切り出したのであった。


「上条殿と申したかな?何か今日は、パーティーでもあるのか?」

 ダニエルはそう言って、ソファーに座ったのであった。


「上条 業重で階級は、上等兵であります。

 本日は、先日に佐倉 権大納言 清興様の御子様が、お生まれになりましたので、各国の元首や要人が集まって、祝っておられるのですよ」


「そうか……それは、間の悪い時に来てしまったな」


「いえ。閣下も待望の男の子が生まれたので、許して下さるでしょう」

 そう言った業重は、自分の子供が生まれた様に、幸せそうに言ったのであった。


 家臣が、こう言った顔をすると言う事は、権大納言殿は優れた将の様だな。

 そう思っていると、空間転移が開かれて、ダニエルが立ち上がると、中から左近の他に、各国の元首も来たのであった。


「ラフォンド子爵か、久しいな。ラヴィオ子爵は、どうした?」

 そう言って左近達が座ると、ダニエルは少し言いにくそうに、言ったのであった。


「それが……トラブルがありまして……」


「……どうやら、それも関係しているようだな。先ずは、紹介しよう。

 こちらは、ルセン王国のジャメル・ルセン国王陛下。

 次にこちらは、セレニティ帝国のラニス・セレニティ皇帝陛下。

 そしてこちらは、ペスパード王朝の、ニーナ・ケーニヒスベルグ女王陛下。

 こちらは、ザルツ王国のゲハルト・ホーコン国王陛下。

 その隣が、ルタイ皇国の冷泉 永富殿下。

 そして、ガルド神魔国のフレイア魔王陛下である」


 ガルド神魔国の魔王!

 本当に魔王が、連合に入ったんだ……

 そう思い、動揺する心を隠して、ダニエルは言ったのであった。

「私は、ウェンザー王国の専属勇者、ダニエル・ラフォンド子爵であります。

 今回、ここに来ましたのは、ある情報を皆様に、お教えする為で御座います」


「ある情報?」


「はい。我が国王ギレルモ・ウェンザー国王は、東部連合との開戦を決意され、4日後、ここに空間転移で乗り込んで来ます」


『何だと!』

 左近とフレイア以外の者は、思わず立ち上がったのであった。


 そして、左近はその中でもダニエルに、冷静に言ったのであった。

「ラフォンド子爵、その情報を何故、俺達に教えた?望みは、何だ?」


 その、左近の冷酷な目で言われた、ラフォンド子爵は、頭を下げて言ったのであった。

「望みは、私とラヴィオ子爵のルタイ皇国への亡命と、冒険者ギルドとIDCUの和解で御座います。

 ラヴィオ子爵は、反逆の罪で、現在本国の牢に捕らえられております……出来れば救出も、手伝って頂けたらありがたいのですが」


「殿下……」


「湖国、任せる」

 そう言って関白は、いつもの様に、ふんぞり返って言ったのであった。


 出たよ、ゴリマッチョの得意技、丸投げが。

「分かりました。

 皆様、ではこのラフォンド子爵とラヴィオ子爵は、軍で預かると言う事で、異論は御座いませんか?」


 左近がそう言うと、全員が頷いたのであった。

 ウェンザー王国の計略かもしれない、このラフォンド子爵とラヴィオ子爵を、自国に取り込むのは、リスクが有りすぎる。

 それよりは、左近の元で働かせる方が、安全だと言う、各国共に共通した、思いだったのである。


 しかし、そこで、ラニスが左近に、言ってきたのであった。

「元帥よ。では、例の件はどうなる?」


「IDCUが、我等と接触してきたのを、利用しましょう。

 それなら、大陸中に広がるのも、早いと思います」


「その手があったか」

 そう言った、ラニスは、納得していったのであった。


「だが、占領するにしても、ウェンザー王国は、遠く西に在る……どうする元帥?」

 そう言ったのは、ゲハルトであった。


「何も占領する必要は、御座いません。毎年賠償金と言った名目で、金を出させ、連合内部で分けましょう」


「なるほど、我等の属国の様に、するのか」


「属国では、ありませんよ……金だけ出させるのです。連合にも入れませんし、他国に攻められても、助けません。

 滅びれば、滅びた時です。各国の皆様におかれましては、臨時収入だと思って頂けたら、宜しいかと思います」

 その左近の言葉は、まるで甘い蜜のように、フレイアと関白以外の者を、虜にしたのであった。


「他には?……無いようですな。では、ラフォンド子爵、ここに攻めてくる人数は?」


「オービン伯爵と、精鋭50名です。

 何処の部屋も空間転移出来ませんでしたから、おそらく館の門の前に出てくるでしょう」


 新しい家具を入れたから、風景が変わったので、空間転移出来なかったのかな?

 そう思っていると、関白が左近に言ってきたのであった。

「湖国よ、ルタイ皇国は売られたケンカは……」

「全て買うでしょ?分かってますよ」


「それだけでは、無い。

 お前の力で、ウェンザー王国の国王に恐怖を叩き込み、ルタイ皇国、東部連合の名前を聞いただけでも、その恐怖で血ヘドを吐いて死ぬほどにしろ。

 これは、勅命である」


 勅命……ゴリマッチョめ、マジギレしているな。

「佐倉 権大納言 清興。その勅命、確かに承りました……その魂まで、恐怖を刻み込んできましょう」

 そう言うと左近は、悪魔の様に笑みを溢したのであった。

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