誕生
左近達が、クレアからアイリスの陣痛が、始まったと聞き、レイクシティに戻ると、既に左近の邸宅は、メイド達が慌ただしく動いていたのである。
「あ、御館様!奥様は、こちらです」
そう言って左近は、アイリス専属のメイドの、ベアトリスに連れられて、部屋に案内されたのであった。
中から、アイリスの苦しそうな声が聞こえる……大丈夫か?
そう思いながら、左近は扉をノックして言ったのである。
「アイリス俺だ、入るぞ!」
そう言って扉を開けようとした瞬間、枕が飛んできて、アイリスは、苦しみを我慢した声で、左近に言ったのである。
「絶対に入っちゃダメ!今、絶対に変な顔になってるから、絶対にダメ!
もしも入って来たら、舌を噛み切って、死んでやるから!」
何も、そこまで言わなくても……
そう言われて、落ち込んでいる左近に、ラナが近付いて来て言ったのである。
「あなた、アイリスも、ああ言っている事だし……ね」
何、その空気読めよ的な言い方は?
そう思ってる左近に、キッカが言ってきたのである。
「ホラホラ、良いから出ていきな。私に任せとけば、良いんだよ」
何だか、俺だけ除け者に、されている様な……仕方がないか。
「分かった、後は頼む」
そう言って左近は、キッカに頭を下げて、自身の執務室に、戻って行ったのであった。
何れ程、時間が過ぎたのであろうか。
太陽は既に沈み、いつの間にやら、激しい雨が窓を、叩き付けていたのであった。
頼む、生まれて来る子供は、金髪か黒髪であってくれ……
そう願っている左近の執務室をノックして、リュネとずぶ濡れのエリアスが、入って来たのであった。
「子爵殿、義父上殿……どうして?」
「実は、この御方が、シクサ村まで来て下さいまして、アイリスの陣痛が、始まったと教えてくれて、連れて来てくれたんですよ」
「そうですか。子爵殿、ありがとう、恩に着る」
「いえ。そうだ、スターク議長は、後程ここに、来られるそうです」
「そうか、ありがとう……もう、戻るのか?」
「ええ。空間転移の場所も、教えて頂きましたし、我が国にも、北方教会が在りますので、早く戻って対処しなければ、なりません」
「そうか、また来られた際は、改めて御礼をさせて頂く」
そう言って左近は、リュネに頭を下げたのであった。
「頭を下げないで下さい、当たり前の事をやっただけですから。
では、私はそろそろ行きますね……そうだ、お子様の名前は、御自分の、尊敬されている御方の名前などは、如何でしょう。
その方が、その御方も、喜ばれると思いますよ」
そう言ったリュネは、左近達に頭を下げて、出ていったのであった。
尊敬している名前か……そうだ、義父上にも、聞いておかないと。
「義父上殿、生まれる子供の名前は、大陸風にした方が、宜しいでしょうか?」
左近にそう言われたエリアスは、驚いた顔をして言ったのであった。
「そんな事を、悩まれて、おられたのですか。
ノイマン家の事は、お気になさらず、佐倉家の事を優先して下さい。
ノイマン家は、私の代で終わっても、良いのですから」
そうか、あの悪魔の血筋の事を、まだ引き摺っておられるのか。
「分かりました。では、今回はルタイ皇国の名前で名付けるとします」
そう言って左近は、エリアスに頭を下げたのであった。
だが、何れ程時間が経過しても、一向に生まれたとの報が、左近の元に来ない。
やがて、遅れてやって来たビートやエリアスは、疲れてその場で眠りにつき、左近は雨の止んだ暗い空を見上げて、生まれて来る子供の事を、願っていたのである。
やがて朝日が昇り、朝6時の時を報せる鐘の音が、ボーン、ボーンっとなった時であった、勢いよく扉が開かれ、クレアが入って来たのであった。
「御館様!生まれたよ!」
「何!どっちだ!」
その言葉で、思わず飛び起きた二人は、瞬時に事情を、理解したのであった。
「お、男の子!元気な、髪の毛の薄い、ルタイ人の男の子だよ!」
髪の毛の薄いは、余計だろ!
……でも、ルタイ人って事は、俺に似てるって事か……本当に良かった。
「そうか、でかした!」
そう言った左近の目には、涙が溢れていたのであった。
良かった、本当に良かった……
一番の心配は、アイリスだったからな、
そう思っていると、ビートが立ち上がり、左近を抱き締めて喜んだのであった。
「やったな元帥、跡継ぎだぞ!これで、佐倉家は安泰だぞ!」
そうだ、アイリスの事ばかり考えていたが、跡継ぎが出来たんだ。
俺、こんなに幸せで、良いのかな?
殿や、あの日一緒に戦った、仲間達に、何だか申し訳ない気持ちがする。
そう思うと、涙が止まらなく、なっていたのであった。
「おいおい、元帥よ。何もそこまで、泣かなくても」
そう言ってビートは、左近を慰めていたのだが、左近は溢れ出る感情を、止める事は出来無かったのであった。
「す、すみません。
俺、今最高に幸せで、あの日一緒に戦って戦場に散った、殿や仲間達に悪くて……
皆もこうして、幸せに暮らしたかっただろうと、思うと……」
そう言った左近は、顔を隠して、そのまま泣き崩れたのであった。
暫くしてエリアスは、左近の肩を叩いて言ったのである。
「閣下……いや、婿殿。その気持ちは、私やスターク議長は、よく分かります。
私達も、多くの仲間を失って来ました。
ですが、今ここで婿殿が悲しんでいたら、戦で散っていった仲間も悲しみますよ。
立ちなさい。そして、前を向いて進みなさい。
これが、生き残った我々に、出来る事です」
そうだ、義父上の言うとおりだ。
そう思った左近は、涙をぬぐい立ち上がったのである。
「良い男に、戻ったでは、ないか」
そう言ってビートは、左近の背中を叩いて、勇気付けたのであった。
左近達は、アイリスの部屋に向かうと、既にメイド達が集まっており、その中でバスティとテスタが、頭を下げると、慌てて他の者も一斉に頭を下げたのである。
「御館様、おめでとう御座います」
『おめでとう、御座います!』
バスティの言葉を皮切りに、使用人達の祝福を受けて、左近は何か恥ずかしくなりながらも、言った。
「皆、本当にありがとう」
そう言って照れながら、左近達は部屋に入ると、皆の表情は、疲れきっていたのであった。
左近は、ラナに誘導されて、豪華なベッドに向かうと、幸せそうに寝ている赤子と、それを寝ながら見つめているアイリスが、いたのであった。
「アイリス、よく頑張ったな……その……本当に、ありがとう」
「感謝するのは、こっちの方だよ。あんなにも、辛かったのに、今は最高に、幸せだもん。
ところでこの子の名前、考えている?」
そう言われた左近は、赤子の頭を優しく撫でながら、言ったのであった。
「佐吉に、しようかと思う」
「父上、それは……」
思わずそう言った珠を制すると、アイリスは、笑いながら言ったのであった。
「何それ?変なの。でも、あなたが、そう名付けるからには、何かあるのでしょ?」
「ああ、俺の仕えていた、石田 治部少輔 三成様の幼名だ。
あの御方の様に、自分にも厳しく、一点の曇りの無い男に、育って欲しいから、そう名付けた。ダメか?」
「ううん、良いと思うよ。宜しくね佐吉……所で、幼名って何だっけ?」
そ、そこからかい!
「幼名って言うのは、15歳で元服、つまりは、成人するまでの名前だな。
成人したら違う名前になる、ルタイ人の風習だ」
「そっかぁ……佐吉は、どんな大人に、なるんだろうね」
そう言ってアイリスは、佐吉を撫でて、言ったのであった。
本当に、こんな幸せな時間が、いつまでも続く事を願っていた左近であった。
―――――――――
その頃、リュネはウェンザー王国の王都ナボスに在る、白亜宮と言われる、真っ白な城の中を歩いていた。
もちろん、国王のギレルモ・ウェンザー国王に、報告する為であった。
だが、いつも通っている通路なのだが、何故かいつもと雰囲気が違う。
そんな事を感じながもリュネは、玉座の間の大きな扉を開けたのであった。
「陛下、報告が御座います」
入るなり、いきなり言ったリュネを、ブライアン、ダニエルと玉座に座った、太った中年の男が、出迎えたのであった。
この男こそ、ギレルモ・ウェンザーである
「何だ子爵。やけに、戻って来るのが早いでは、ないか?」
「それが、緊急事態で御座います、セレニティ帝国の、北方教会の地下聖堂にダンジョンが出来ておりました。
帝国領内の、村の北方教会の地下聖堂にもです。これは、我が国の教会地下聖堂も、確認した方が宜しいかと思いまして、戻った次第で御座います」
リュネがそう言うと、ブライアンとダニエルは、驚いていたのだが、肝心のギレルモは、興味が無いように肘を付いて、ワインを飲みながら言ったのであった。
「そうか。で、東部連合には、魔族は居たのか?」
何故ここで、その様な事を、言われるのだ?
「はい……魔族どころか、フレイア魔王陛下も、おられ……ック!」
そう言っている途中で、ギレルモは杯をリュネに向かって投げつけ、リュネの額から一筋の赤い血が流れ落ちたのであった。
「何が魔王陛下じゃ!貴様、魔族に寝返ったか!」
「申し訳……御座いません、その様な事は、決して御座いません。
しかし、その魔王からダンジョンを作る条件や、何故魔王が強いか……」
「うるさい!貴様は、ワシに聞かれた事のみを、答えれば良いのだ!」
「は、はい!」
「……貴様は、誰だ?」
「ウェンザー王国の専属勇者、リュネ・ラヴィオ子爵で、御座います」
「そうであろう。
本来なら、貴様の様な小娘を、取り立てる事は決してせんのに、ワシの計らいで、子爵にしてやったのだ。
ダンジョンの事など、IDCUに任せておけば、良いのじゃ。
それで何で貴様は、帰って来た?」
「ですから……先程も申しました通り……」
「陛下は、そんな事を、聞いておられるのでは、無い」
そう言って、リュネの言葉を遮ったのは、ブライアンであった。
何だ、何が言いたい。
「……と、言いますと?」
リュネがそう言うと、ブライアンがギレルモの代わりに、答えたのであった。
「陛下は、何故、魔王の首か、ルタイ皇国の左近衛大将の首を、取って来なかったと、聞いているんだ」
な、何を言っているんだ!
「オービン伯爵、貴方も見ましたよね、あの大量の勇者を。
あの数と、我等たったの3名で、勝てるおつもりですか?」
「ふん、あんなトリックを使った、まやかしなど、女子供を騙せても、このオービン伯爵様は、騙せんわい」
これは、一体どう言うことだ?
ラフォンド子爵、一体どうなっている!
そう思いながらリュネが、ダニエルを見ると、ダニエルは全て諦めきった、覇気の無い顔をしていたのであった。
まさか、伯爵が陛下に、そう進言したのか?
そう思っているリュネに、ギレルモは、耳を疑う事を言ったのであった。
「まぁ良いだろう。これから3人で、大陸のルタイ皇国領内に行って、その左近衛大将の首を取ってこい」
「陛下!そんな事をすれば、ルタイ皇国だけでは無く、東部連合と戦争になります!私は反対です!」
「失礼ながら申し上げます。私もラヴィオ子爵と、同意見で御座います、今一度御再考を!」
リュネがそう言うと、ダニエルまでもが、ギレルモに進言して来たのであった。
ギレルモは、暫く何かを考えて、言った。
「オービン伯爵、我等と東部連合、戦うとすれば、どちらが勝つと思う?」
「もちろん我等で、御座います。
辺境の国々の小さな連合に、ルタイ皇国の様な、田舎者の集団。更にガルド神魔国も、参加しているとなれば、神の御加護も得られません」
バカな!伯爵は、現実が全く見えていないのか!
そう思っていると、ギレルモがブライアンに、言ってきたのであった。
「必要な、戦力は?」
「私と精鋭50名で、攻め込めば、私達が行きました屋敷を、簡単に制圧できます」
何を言っている!これでは完全に、宣戦布告になるでは無いか!
「失礼ながら、申し上げます!
これでは、こちらが奇襲し、宣戦布告する形となります!これでは、さすがに他国の支援は、受けられません。
どうか、今一度、御再考を!」
そう言ったリュネは、床に頭をつけて、嘆願したのであった。
だがギレルモの答えは、無情なものであった。
「オービン伯爵、ラヴィオ子爵は、魔王に唆され、我等を裏切った様じゃの……捕らえよ!」
そのギレルモの掛け声で、兵士達に捕まれたリュネは、悲痛な叫びをギレルモに、ぶつけたのであった。
「陛下!ウェンザー王国を、潰すおつもりですか!
何故、オービン伯爵の様な者を、信用されるのですか!陛下!陛下!」
「うるさい、早くその者を、連れていけ!」
そう言った、ブライアンを睨み付けて、リュネは言った。
「おのれ、オービン!この奸臣が!貴様だけは、絶対に殺してくれる!」
そう言ってリュネは引き摺られて、連行されるのを、ブライアンは自慢の髭を触りながら、蔑む様な目で見ていたのであった。
「オービン伯爵、では準備をし、5日後には出撃し、それまでに、ラヴィオ子爵の一族朗党を全て死罪にし、屋敷の前に晒して、反逆者はどうなるか、見せしめにしろ。
ラヴィオ子爵の領地は、戻ってきたら伯爵にやろう」
「ありがとう御座います。
私自身が兵を選び、圧倒的な武力で、田舎者共に、本当の強さと言うのを、分からせてきましょう」
「うむ、期待しておるぞ。
ラフォンド子爵、どうじゃ、まだ反対か?」
そうギレルモに言われたダニエルは、拳に力を込めて言ったのであった。
「……いえ…全ては、陛下の御意に」
「うむ。
そなたは、まだ若い。これからもオービン伯爵の背中を見て、色々と学べ。期待しておるぞ。
それと、急ぎ勇者を1人探し出せ。見つかり次第、ラヴィオ子爵は、処刑する」
「ありがとう御座います。必ずや、陛下の御期待に応えましょう」
そう言って頭を下げたダニエルは、何か決意を固めた表情を、していたのであった。
―――――――――
翌日の夕方、リュネは牢で壁に立ったまま両手両足、そして首を繋がれ、意識は朦朧としていたが、それでも彼女は、強い意思で何とか、持ちこたえていたのであった。
そんな彼女の耳に、微かに牢の外の声が、聞こえたのである。
「これは、ラフォンド子爵にロルフ大神官。どうされました?」
ラフォンド子爵?
「彼女。まだ、意識はあるか?」
「微かにですが……」
「では、少し3人で、彼女と話をさせてくれ。その間、少し離れていてくれると、助かる」
「分かりました。少ししたら、戻りますので」
そう聞こえて、暫くすると、牢の扉が開かれ、ダニエルと神官姿の老人が、入って来たのであった。
「ラヴィオ子爵、起きているか?」
その言葉を聞いたリュネは、顔を上げずに、目だけを動かして、ダニエルに言ったのである。
「貴公の声を聞くまでは、良い夢を見たいてのだがな」
「それなら、大丈夫そうだな。先ずは、大神官の話を聞いてくれ」
ダニエルがそう言うと、ロルフは前に出て、言ったのであった。
「ラヴィオ子爵、貴公に聞きたい事がある。本当に、東部連合の北方教会地下聖堂に、ダンジョンが在ったのか?」
この大神官は、IDCUの総帥なので、ダンジョンの事が気になるのは分かるが、どうしてだ?
「確かに在った。私もこの目で確認した……でも、何故だ?ラフォンド子爵から、聞いたのか?」
「正確には、違うな。
IDCUは、神からの神託で、ダンジョンの場所を知り、討伐の依頼を出しておる。
実は、秋頃に変な神託がきた。
「この大陸で、ダンジョンが多数出来ている。場所は、分からないので、探し出せ」とな。
まるで、ヒントが無い神託だったので、IDCUは何も出来ずにいたのだが、今日の朝に、いきなり神託が来たのだ。
「北方教会の地下聖堂に、ダンジョンが出来ている。確認しろ」とな。
そこで、確認する手配を進めていたら、ラフォンド子爵から、ラヴィオ子爵が「北方教会の地下聖堂にダンジョンが出来ている」と言っていると言いに来たのだ。
これは、変な話では無いか。貴公は、ギリシス教の巫女でも無いのに、何でその事が分かったのだ?
その教会で、ダンジョンを発見した時に、居た人物は誰だ?」
何でそんな事を、聞きたいのだろうか?
「セレニティ帝国の皇帝に宰相。東部連合評議会議長に、ルタイ皇国の侍達と北方教会の司祭……そして魔王陛下。
何でそんな事を、聞きたい?」
リュネがそう言うと、暫くロルフは考えてから、言ったのであった。
「はっきり言って北方教会は、いくら神の教えだと言っても、神の神託は授かる事が出来ない邪教だ。
つまりは、神の加護が無いので、例えダンジョンの場所が分かって、隠されていたダンジョンを発見したとしても、神は知る事が出来ない。
では、何故知る事が出来たか……その中の人物に、神の加護が有る者が居るか、神の使いが、その場に居たと言う事だ。
まぁ証拠は無いし、推測だけだがね」
権大納言殿や、その娘の姫様の強さは、この世の者とは思えなかった。
神の使いなら、勇者の条件の謎を知っている事も、納得できる。
それに、姫様の年齢に対して権大納言殿は、あまりにも若すぎる……確かにルタイ人は、若く見える様だし、養女と言う可能性もあるが。
そう思っているリュネを見たロルフは、何かに気が付いて言ったのであった。
「どうやら、心当たりが、有りそうだな?」
「ええ……もしかしたら、ルタイ皇国の前の左近衛大将殿と、その姫様がそうかも知れません。
それなら、全て合点がいき、勇者の条件の謎を知っていて、量産しているのも納得できます」
その言葉にロルフは、驚きながら言ったのである。
「何!ルタイ皇国は、勇者の量産をやっておるのか!何人おる?」
「私や、ラフォンド子爵やオービン伯爵が見たのは、数百名です。
しかし、話の流れから察して、数万人はいると思われます……ですが、陛下はこの話を、信じてはくれず、あの奸臣のオービンに踊らされて、そのルタイ皇国の東部連合と、戦争しようとしております。
大神官様、どうか陛下に進言して、この無謀な戦を御止め下さい!」
「御主は、こんな扱いを受けても、それでも陛下に忠義を尽くすか。
しかし、オービン伯爵が絡んでおるなら、ワシが何を言っても、陛下は聞いてはくれんだろう……この国は、滅びるかも知れんな」
「そんな……」
そう言ったリュネは、涙を流して、下を向いたのであった。
そんなリュネにダニエルは、追い討ちとも言えるべき事を、言ったのであった。
「なぁラヴィオ子爵よ、俺と一緒にルタイ皇国に亡命しないか?」
「貴公は、一体何を言っているのか、分かっているのか!」
「俺は、今回の事で、この国や陛下に、本当に愛想が尽きた……それに、こんな状態で、貴公に言って良いのか分からないが。
貴公の親族は、陛下の命令で、全員が処刑されて、貴公の屋敷の前に晒されたぞ」
その言葉を聞いたリュネは、景色が回りだし混乱し出したのであった。
「う、嘘だ……嘘だ……嘘だ……嘘だぁ!」
「嘘では無い、既にオービン伯爵が向かって、処刑したそうだ……そして、俺には、勇者を1人探してこいと。見つかり次第、貴公を処刑しろと命令が下った」
「おのれぇ!皆、呪われろ!」
そう言ったリュネの目には、憎しみの炎が出ていたのであった。
「俺は、貴公と違って、領地も無く、家族もいない、名ばかりの貴族だ。
でも、貴公だけは、俺の唯一の友だと思っている。どうだ、一緒にルタイ皇国に、亡命しないか?
ロルフ大神官も、この話をしたら、手伝ってくれるそうだ……まぁ条件は、有るのだが」
「……条件?」
「東部連合の冒険者ギルドと言う、IDCUの様な独自の組織との、和解の使いだ。
俺が空間転移で居なくなっても、貴公はこのロルフ大神官が守ってくれる」
「そうか……あの左近衛大将殿は、今は位が上がり、権大納言と言う役職になって、東部連合の軍全てを率いている。
屋敷は、私達の行った例の屋敷だ。
それと、私から権大納言殿に、伝言を頼む。
私の代わりに、オービン伯爵と陛下に、生きているのが嫌になるほどの、苦痛を与えてくれと」
そう言ったリュネは、心が壊れかけていたのであった。
「ラヴィオ子爵殿……分かった、必ずや伝えよう」
そう言ったダニエルは、リュネの心が、もう壊れかけている事を察しながら、リュネに一礼して出ていったのであった。
―――――――――
その日夜、各国の元首や議員など有力者が、レイクシティの左近の邸宅に続々と集まり、世継ぎ誕生を祝っている中で、清信の幼馴染である上条 業重は、黒騎士団の内木 元政準尉と本村 尚道準尉の3人で、門番をやっていたのであった。
「しかし、こんな時に門番って、本当に生き地獄ですよね。
今日は警備隊の俺が、門番って分かりますけど、何で御二方は門番に回されたので?」
上条は、そう言って二人に、聞いたのであった。
すると元政は、落ち込みながら言ったのである。
「いや……今日の朝に、いきなり姫様から、命令が下ってな。
いやなに、誰が強引に捩じ込んだのかは、分かっているんだよ……ああ、あの時、あんな本音を言わなきゃ、俺も彼処で、ばか騒ぎ出来たのに」
「元政、お前が言い出しっぺだから、お前だけ、門番やれば良いのに……」
何だか、この話は、しない方が良かったかな?話題を変えるか。
「御二方は、黒騎士団でしょ?団長のパンドラ様って、どんな御方なんですか?」
業重がそう言うと、二人は明るくなって、得意気に語りだしたのである。
「姫様はなぁ、恐ろしく強くて、厳しそうに見えるが、実は本当にお優しい御方で、この人の為なら、喜んで死ねると思える、お人なんだ。
レンヌの解放戦でも、死んだ者達の事で、ヴィシュク少佐と話している時に、泣きそうになるのを我慢していたし、怪我人で戦線に復帰出来ない者は、ちゃんと次の職を紹介する、慈悲深いお人なんだよ」
「それにな、戦場では、本当に安心して従える、優秀な将でもある。本当に天は二物も三物も与えてた御方なんだよ。
でも……」
「ああ、女性ってのが悔やまれるな。
いつかは、どこかの大名か、他国の王族に嫁ぐ事になるだろう……閣下も、口惜しいだろうな」
そう言った二人は、少し悲しそうに、なっていたのであった。
その時である、門の前に空間転移の煙が出てきたのである。
空間転移の煙を見た三人は、そのまま槍を向けて、誰が出てくるのか待ち構えていると、中から出てきたのは、ダニエルであった。
業重は、槍を構えて言ったのであった。
「ここを何処だと思っている?貴様は、何処の国の者だ?」
「騒がせてすまない。私はウェンザー王国の専属勇者、ダニエル・ラフォンド子爵と言う者だ。
ルタイ皇国の権大納言殿に、緊急のお話があり、やって来た。取り次いでもらえるかな?」
そう言ったダニエルは、両手を上げて、攻撃する意思は無いと言うポーズを取って、言ったのであった。
「……証明する物は?」
「証明する物か……そうだ、ここの勇者の、執事とメイドが、私の事を知っているはずだ。
彼等に、確認してみてくれ」
業重は、どうするか決めあぐねていると、尚道が言ったのであった。
「分かった、俺が呼んでこよう。
それまでは、二人は、このラフォンド子爵殿に付いてくれ」
そう言って尚道は、そのまま屋敷の方向に向かって、行ったのであった。
やがて暫くすると、空間転移でテスタがやって来て、ダニエルを確認して言ったのであった。
「御待たせ致しました。確かにあの時の、ウェンザー王国の御方ですね。
本日は、どうされましたか?」
「実は、権大納言殿に、至急お取り次ぎ願いたい。緊急事態なんだ」
「緊急の……分かりました、こちらにどうぞ。
上条上等兵、警備の為に一緒に付いて来い……二人は、分かっているな?」
「え……マジかよ」
そう言って、肩を落とした二人を置いてテスタ達は、空間転移で左近の執務室に、移動したのであった。
「ここで、暫くお待ち下さい」
そう言って、テスタが空間転移で移動すると、ダニエルが話を切り出したのであった。
「上条殿と申したかな?何か今日は、パーティーでもあるのか?」
ダニエルはそう言って、ソファーに座ったのであった。
「上条 業重で階級は、上等兵であります。
本日は、先日に佐倉 権大納言 清興様の御子様が、お生まれになりましたので、各国の元首や要人が集まって、祝っておられるのですよ」
「そうか……それは、間の悪い時に来てしまったな」
「いえ。閣下も待望の男の子が生まれたので、許して下さるでしょう」
そう言った業重は、自分の子供が生まれた様に、幸せそうに言ったのであった。
家臣が、こう言った顔をすると言う事は、権大納言殿は優れた将の様だな。
そう思っていると、空間転移が開かれて、ダニエルが立ち上がると、中から左近の他に、各国の元首も来たのであった。
「ラフォンド子爵か、久しいな。ラヴィオ子爵は、どうした?」
そう言って左近達が座ると、ダニエルは少し言いにくそうに、言ったのであった。
「それが……トラブルがありまして……」
「……どうやら、それも関係しているようだな。先ずは、紹介しよう。
こちらは、ルセン王国のジャメル・ルセン国王陛下。
次にこちらは、セレニティ帝国のラニス・セレニティ皇帝陛下。
そしてこちらは、ペスパード王朝の、ニーナ・ケーニヒスベルグ女王陛下。
こちらは、ザルツ王国のゲハルト・ホーコン国王陛下。
その隣が、ルタイ皇国の冷泉 永富殿下。
そして、ガルド神魔国のフレイア魔王陛下である」
ガルド神魔国の魔王!
本当に魔王が、連合に入ったんだ……
そう思い、動揺する心を隠して、ダニエルは言ったのであった。
「私は、ウェンザー王国の専属勇者、ダニエル・ラフォンド子爵であります。
今回、ここに来ましたのは、ある情報を皆様に、お教えする為で御座います」
「ある情報?」
「はい。我が国王ギレルモ・ウェンザー国王は、東部連合との開戦を決意され、4日後、ここに空間転移で乗り込んで来ます」
『何だと!』
左近とフレイア以外の者は、思わず立ち上がったのであった。
そして、左近はその中でもダニエルに、冷静に言ったのであった。
「ラフォンド子爵、その情報を何故、俺達に教えた?望みは、何だ?」
その、左近の冷酷な目で言われた、ラフォンド子爵は、頭を下げて言ったのであった。
「望みは、私とラヴィオ子爵のルタイ皇国への亡命と、冒険者ギルドとIDCUの和解で御座います。
ラヴィオ子爵は、反逆の罪で、現在本国の牢に捕らえられております……出来れば救出も、手伝って頂けたらありがたいのですが」
「殿下……」
「湖国、任せる」
そう言って関白は、いつもの様に、ふんぞり返って言ったのであった。
出たよ、ゴリマッチョの得意技、丸投げが。
「分かりました。
皆様、ではこのラフォンド子爵とラヴィオ子爵は、軍で預かると言う事で、異論は御座いませんか?」
左近がそう言うと、全員が頷いたのであった。
ウェンザー王国の計略かもしれない、このラフォンド子爵とラヴィオ子爵を、自国に取り込むのは、リスクが有りすぎる。
それよりは、左近の元で働かせる方が、安全だと言う、各国共に共通した、思いだったのである。
しかし、そこで、ラニスが左近に、言ってきたのであった。
「元帥よ。では、例の件はどうなる?」
「IDCUが、我等と接触してきたのを、利用しましょう。
それなら、大陸中に広がるのも、早いと思います」
「その手があったか」
そう言った、ラニスは、納得していったのであった。
「だが、占領するにしても、ウェンザー王国は、遠く西に在る……どうする元帥?」
そう言ったのは、ゲハルトであった。
「何も占領する必要は、御座いません。毎年賠償金と言った名目で、金を出させ、連合内部で分けましょう」
「なるほど、我等の属国の様に、するのか」
「属国では、ありませんよ……金だけ出させるのです。連合にも入れませんし、他国に攻められても、助けません。
滅びれば、滅びた時です。各国の皆様におかれましては、臨時収入だと思って頂けたら、宜しいかと思います」
その左近の言葉は、まるで甘い蜜のように、フレイアと関白以外の者を、虜にしたのであった。
「他には?……無いようですな。では、ラフォンド子爵、ここに攻めてくる人数は?」
「オービン伯爵と、精鋭50名です。
何処の部屋も空間転移出来ませんでしたから、おそらく館の門の前に出てくるでしょう」
新しい家具を入れたから、風景が変わったので、空間転移出来なかったのかな?
そう思っていると、関白が左近に言ってきたのであった。
「湖国よ、ルタイ皇国は売られたケンカは……」
「全て買うでしょ?分かってますよ」
「それだけでは、無い。
お前の力で、ウェンザー王国の国王に恐怖を叩き込み、ルタイ皇国、東部連合の名前を聞いただけでも、その恐怖で血ヘドを吐いて死ぬほどにしろ。
これは、勅命である」
勅命……ゴリマッチョめ、マジギレしているな。
「佐倉 権大納言 清興。その勅命、確かに承りました……その魂まで、恐怖を刻み込んできましょう」
そう言うと左近は、悪魔の様に笑みを溢したのであった。




