甘い生活
俺達は、囲炉裏の間で、串に刺した魚と、パンとサラダを晩御飯で食べた。
魚の名前は忘れたが、白身魚で塩焼きにして焼くと、メチャクチャ美味しい、でもこうなると日本人としては、醤油が欲しいところだろう。
そう言えば、さんざん言われているルタイ皇国って、どんな国なんだろうか?蘭さんを見ていると、日本に近い気がする。
日本とそっくりならば、醤油や味噌が有るはずだ。
もしも有るならば是非とも手に入れたい。味噌や醤油は、大豆の他に麹菌が必要な筈なので、簡単に作れない。
もしも有るとすれば、港町か交易商人が取り扱っている可能性が高いはずだ……ん?交易商人?そうだ!ラナが言っていた、ココナの実を購入した商人!ココナの実を仕入れて来たのなら、もしかすると味噌や醤油を取り扱っているかもしれない。
取り扱っていなくても、何らかの情報を持っている可能性が有る。ラナに何か言って無いのかな?
「ラナ。そう言えば、ココナの実を購入した商人って、何処かに行くとか言ってなかったか?」
「そう言えば、この後レンヌまで行くと言っていましたよ」
「レンヌか……顔は覚えているか?」
「勿論、覚えています」
「ならばレンヌに行った時に、見かけたら教えてくれ、頼みたい事があるんだ」
「解りました」
しかし、みんな美味しそうに食べるなぁ。作った甲斐があったよ……塩焼きにした、だけだが。
みんなが食事を終えて、二人が食器を洗っている隣で俺は、シャンプーの製作に取り掛かった。
冷水で冷ましていたココナッツオイルを、とりあえずは、瓶に入れて保存出来る様にした。
ただ出来たココナッツオイルは、思ったより量が少ない。こんなものかなと思いながら、瓶に入れていると、アイリスが話しかけてきた。
「御主人様、何を作っているんですか?」
「俺達の髪の毛や、身体を洗う液体だよ、手伝うか?」
「はい!」
「いぃなぁ、私も手伝いたい」
「じゃあそれが終わったら、一緒にやろう」
「はい!」
まぁすぐに出来るけどね、ただ本当に出来るかは解らないけど。
自分自身も、昔インターネットで見た事があるなぁ、って位の感覚でやっているからだ。
そして俺達は、シャンプー作りに入った。
先ずは、ボールに残っていたココナッツミルクを入れて、そしてココナッツオイルを入れる。完全に目分量だが、大丈夫であろう。
そして、ハチミツを少々にオリーブオイルを追加投入、そしてひたすら混ぜる!混ぜる!混ぜる!混ざりきった所で、瓶に入れて完成した。……大丈夫だよな?
「では、そろそろ風呂に入るか」
「風呂?解りました、ではお待ちしております」
「ラナ、何を言っているのですか。御主人様は一緒に入れと言っておられます。
我が家では、奴隷は御主人様と一緒に食事をして、一緒にお風呂に入り、一緒に寝ます」
「えぇ!そんなのは、奴隷じゃないですよ」
「そうですね、でも御主人様は、私達を、とても大切に思ってらっしゃるから、そう言われているのです。断っては失礼ですよ」
「……解りました」
そう言って、かなり照れたラナと、俺とアイリスは脱衣場に入ると、アイリスはすぐにあの時の様に、俺の服を脱がし始めた。
「えっ?えっ?えぇぇぇぇ!」
ラナの混乱した声が響き渡る。それもそのはず、アイリスは俺の正面から着物を脱がせる途中で、俺にキスをしてきたのであった。
「御主人様、嫌でしたか?」
「そんな事思う訳ないだろ」
そう言って、再びアイリスとキスをすると、完全に二人の世界になってしまった。この場で始めても良かったが、早く風呂に入りたい気持ちもあった。
「ちょっ、ちょっと!私を忘れているでしょ!」
ラナのその一言で、俺とアイリスは一気に現実に戻されてしまった。
「……チッ、良い所だったのに」
おい、アイリス……
「アイリスまぁそう言うな、ラナも入れて3人で楽しもう。ほらラナも脱がせてやるよ」
「いやいやいや、大丈夫です、自分で脱げます!それにアイリスみたいに綺麗じゃないし、ダークエルフだから肌も黒いし……」
「そうか?俺はラナも綺麗だと思うぞ。肌も綺麗じゃないか」
「き、きれ……」
「そうですよラナ、もっと自信を持ちなさい!私達は島左近様の奴隷なんですよ。
御主人様、ラナを2人で脱がせてしまいましょう!」
「良いなそれ」
「ちょっ、待って!待って!」
そう言って抵抗するラナを、俺とアイリスは無理矢理脱がせていった。
しかし抵抗されれば、されるほど興奮するのは何故なのか?俺の愚息も暴発しそうになっている。まだだ、お前は以前のお前じゃない!アイリスに鍛えられた時を思い出すんだ!……思い出したら、ダメじゃん。
俺は、愚息の暴発を我慢し、何とかラナを裸にすると、露天風呂に向かった。
あの時の光景は、おそらく一生忘れる事の出来ない光景だった、アイリスとラナも同じ感情を抱いていたはずだ。
俺達が露天風呂の扉を開けると、満月に照らされた美しい桜が、露天風呂のすぐ近くで満開に咲いており、3人とも言葉を失い、ただ立ち尽くしていた。
「……綺麗」
ボソッと呟いたアイリスの言葉で、俺はハッと我に返った。
「この世の天国だな、こんな光景を見ながら風呂に入るのは、貴族や王族でも無いぞ。今間違いなく俺達3人が、この世で1番の贅沢を味わっているんだ」
「私……御主人様に出会えて、本当に幸せです」
「私も……」
「お前達、これで最後みたいな事を言うなよ、まだまだ楽しむんだからな。先ずはかかり湯だ、この桶で湯船のお湯を汲み取り、身体にかけるのが露天風呂のマナーだ」
そう言って、浴槽から溢れ出ている、湯船に桶でお湯を汲み取り、俺は身体にかけた。少しぬるめの温泉になったが、何か久々の温泉で気持ちが良い。
先ずはアイリスを座らせて、頭からお湯をかけてやった。
「ぷはー、気持ちいいですね」
「そうだろう」
そして俺は、もう一度アイリスにお湯をかけた後、手作りシャンプーを手に取り、アイリスの頭を洗った。
アイリスやラナもそうなんだが、この世界の人間は髪の毛の痛みが相当酷い。おそらくシャンプーやトリートメント等の物が無いからだろう、この手作りシャンプーで、サラサラの艶やかな髪に戻れば良いのだが。
アイリスの頭を洗っていると、ラナが暇そうにしていたので俺は、素晴らしい事を思い付いた。
「ラナ。お前は、アイリスの身体を、そのシャンプーで洗ってくれ」
「えっ?」
「はーい、どうすれば良いんです?」
「ちょっ、御主人様?」
「シャンプーを両手につけて、アイリスの全身を撫でる様に、揉む様にしてくれ」
「了解、行くよー、アイリス」
ラナはそう言うと、アイリスの後ろから抱き付き、アイリスの身体中に両手を這わせた。
やはりエロい、まるでレ○物のAVを見ている様だ。我ながら天才としか言い様のないこの頭脳、愚息も暴発寸前になっている。
俺は、この光景を十分に楽しんだ後、アイリスの頭からお湯をかけて流すと、アイリスは凄く顔を赤くして俯きながら、ペチペチと叩いてきた。くそ可愛いし。
そして、ラナを洗う時もアイリスは仕返しとばかりに、ラナを洗った。
……2度目の眼福いただきました。
お湯をかけて流すと、汚れの落ちたラナの姿を見て、改めて美しいと思った。
「ご、御主人様、どうされましたか?」
「いや……月明かりの桜と、銀髪のラナが、本当に美しいと思ってな。これは。最早芸術だな」
そう、なんと言うか、絵画のような美しさが、俺の目の前にあった。
「そ、そんなに誉められても……こ、困ります」
ラナは照れていたが、アイリスは拗ねていた。一方を誉めれば、一方が拗ねる……意外とめんどくさいな。
「アイリスには、太陽の下が似合うよ、それに拗ねた顔も可愛いし」
そう言ってほっぺにキスをすると、アイリスは照れて、その気持ちは二人に洗われている時に爆発した。
そして、3人で温泉に浸かりながら、夜桜を見ていると、ふと良いことを思い付いた。
小さな竹筒の中に蝋燭を入れて、明かりを灯して露天風呂の回りに配置すると、これは幻想的な空間になるんじゃないか?
そんな事を考えながら俺は、二人を抱きながら、久し振りの風呂に入れる幸せを、噛み締めていた。
俺達は、十分に暖まった後脱衣所に戻ると、俺は例の物をアイリスに渡した。
「御主人様、これは?」
「俺の国の普段着だ、前にレンヌに行ったら売っていたので、アイリスに買っておいた」
「有難う御座います、でも着る方法が……」
「大丈夫だ、俺が着せてやる」
そう言って、ピンクの浴衣をアイリスに着せていると、ラナが羨ましそうにしているのが、視界に入ってきた。
「ラナには、明後日に買ってやるからな」
「はい!」
そして、アイリスに浴衣を着せて改めて見てみると、可愛いだろ!何だこの破壊力は、戦闘力測定不能だ。しかしアイリスにだけって、ラナには悪いな……そうだ!
「えっ?えぇぇ!」
ラナがパニックになったのも、無理もなく、裸のラナを俺がお姫様抱っこをしたからだ。
アイリスは、羨ましそうに見ているが、浴衣を着せてあげたので、我慢してもらうしか無いだろ。
俺はそのままラナを寝室に運び込むと、ベッドの上に優しく寝かせて、優しくキスをした。
……あれ?アイリスがいない?まさかアイツ自分もと思って、待っているのか?……しょうがないな。
「アイリスを連れてくる、少し待っててくれ」
そう言って、ラナにキスをするとラナは、暗くて顔がよく見えなかったが、頷いた。
そして、脱衣所に戻ってみると……居ました、少し拗ねたアイリスが。
「……ラナばっかり……」
いやいやいや、アイリスには、浴衣を着せてやったじゃないか……しょうがないな。
「ほら、アイリス行くぞ」
そう言って、アイリスにお姫様抱っこをすると、アイリスは嬉しそうに、俺の首に腕を回して抱き付いてきた。
「へへへ、やっぱり御主人様はお優しいです」
アイリスは、ニヤケながらデレている……なんだか、アイリスの行動全てが可愛いな。
「お前達に、だけだ」
「達?」
「その中でも、アイリスは特別だからな」
「有難う御座います、私も御主人様だけいれば良いです」
そう言って、寝室にアイリスを連れて行き、ラナの隣に優しく寝かせると、その後は俺がビーストモードになり、二人まとめて襲ってやった。
それも何回か、もう解らない位にスキルをフル活用し、何がなんだか解らない位に襲ってやった。しかし、この場所が山奥で良かった、絶対近所に聞こえるだろう、って位の声だったからな。
次の日の朝、窓からうっすらと入ってきた、太陽の光で俺は目覚めた。
俺の両隣には、裸のアイリスとラナがまだ寝ている、まぁ昨日はあんなに激しかったので、無理はないか。
しかし話によると、ここにはモンスターも誰も来ない、一種の安全地帯の様な場所なので、二人とも安心して眠れるのであろう、しかし二人とも寝顔は可愛いな、キスをしてやりたいが起こすのは可哀想だし。そうだせめて朝食は作ってやるかな、もう昼飯かも知れんが。
そう思い俺はソッとベッドから出て、縁側に出てみた。もう太陽が、かなり高くなっている、昼前って所かな?何だか、こんなに気持ちが良い朝は、久し振りだ。
そう思って、背伸びをしていると、後ろから声が聞こえた。
「御主人様、起きてらしゃったんですか」
ラナがタオルで前を隠しながら、声をかけてきた。
「ラナ、すまん起こしてしまったか?アイリスは?」
「大丈夫ですよ、アイリスはまだ涎を垂らして寝ています」
「ハハハハ、アイリスは可愛いな」
「えぇ、本当に同じ女性でも、嫉妬してしまう位に可愛いですね。……私まだ、夢を見ているみたいです」
「どうして?」
「今まで、こんなに幸せな事は無かったし、御主人様には、奴隷じゃなくて、お姫様みたいに扱ってもらえて、こんなに幸せになって、良いんでしょうか……何もかもが楽しいんです。
御主人様と、永遠に一緒に居たいって気持ちが、止まらないんです」
ラナはその言葉を言った瞬間に、ピクリと何かに反応した。
「御主人様、何か変です。今何か、一瞬ですが気配がしました」
「賊か?」
「いえ、殺気は無かった様に思えます、余りにも遠くて、解らないだけかも」
俺はその言葉を聞いて、気配探知を発動した。表示の隅っこに、赤い点が7つ列になり、山頂の方向に向かって動いている、こんな所に何故だ?
「ラナ……この方向に人が7人、山頂の方向に向かって、列になって移動している、距離はかなり遠いが」
「解りました、すぐに着替えて偵察してきます」
「頼む、決して無理はするなよ、交戦は避けろ、俺に報告が第1だ」
「はい!」
そう言ってラナは、家の中に急いで入って行った。
……さて俺も、寝坊助のアイリスを起こしに行くか。
そう思いながら寝室に行くと、アイリスは幸せそうに寝ていた。この寝顔、ずっと見ていられるな。
そう思いながら、ついついアイリスの寝顔に見とれていると、あっ目覚めた。
「ん、んん?御主人様?……えぇぇ!いつから見ていたのですか?」
「おはようアイリス。先程からだが、あまりにも可愛いから、見とれてしまったよ」
「お、おはようございます。もぅ、恥ずかしいから止めてくださいね」
そう言ってアイリスは、目覚めのキスをしてきた。
「あれ?ラナは?」
「あぁラナなら、山に人の気配がしたので、着替えて偵察に行ったよ」
「なっ!御主人様!そう言う大切な事は、早く言ってください!」
そう言って、アイリスは飛び起きたのであった。
「結構距離も在るから、まだ時間はかかるよ。それに交戦は避けろと、厳命している。
まぁ、追われてくる可能性も有るので、戦闘体勢で俺達は、待機しておきたい所だが、ラナが戻って来た時には腹が減っているであろう。飯を作っておいてやるか」
「そうですね、あの子が帰って来たら、朝食にしましょう」
そう言って俺は、アイリスに甲冑を着るのを手伝ってもらうと、竈に火を入れてスクランブルエッグを作り、ベーコンを炒めて、フランスパンに切れ目を入れていた。
アイリスは、味付けをするのが下手なだけで、俺の指示通りに作ると、普通に出来ていた……あの時の物体Xは、何を入れたのかは、恐くて聞けなかったが。
気配探知を発動しながら待機していると、ラナが戻って来た。
気配探知に反応しないのは、やはり暗殺者のスキルか何かで、反応を消している為か。
しかしそれならば、ラナの後をつけているのが暗殺者なら、反応が出ない事になる。俺とアイリスは、ラナを家に入れた後、注意深く辺りを確認していた。
「アイリス、そっちは大丈夫か?」
「こちらは、誰もいません」
「こちらもだ……よし、家に戻るぞ」
「はい」
俺とアイリスが家に入ると、ラナは息を切らせて、囲炉裏の間に倒れこんでいた。
「あーしんどい!追っ手は、いないはずですけど、どうでした?」
「大丈夫だったよ。アイリス、ラナに水をやってくれ」
「かしこまりました」
そう言って、アイリスがコップに水を入れてラナに渡すと、ラナは水をイッキ飲みし、何処かのオヤジの様に言った。
「ぷはー!生き返る」
……仕事終わりのオヤジかよ。
「所でラナ、どうだった?」
「気配の正体は、エルフでした。
御主人様の言う通り、7人で山の中を、供物の様な捧げ物を担ぎ、山頂の方向に向かって歩いていました。
しかし、あんなに遠い所のエルフの気配……人数まで、よく解りましたね」
「まぁな。所でエルフ達は、何処に行ったのだ?」
「それが、ちょうどこの家の山の裏手辺りに、祭壇が出来ていて、エルフの奴等は、祭壇の奥の洞窟に入って行きました。
ただ、洞窟なので後方から誰か来れば、逃げ道も無いと思い、入り口で待っていると、暫くしてエルフの奴等が出てきたのですよ。
その時には、担いでいた捧げ物が、無かったので、洞窟内に置いてきたのでしょう。
そしてエルフ奴等は、そのまま山を下りそうだったので、解らない様にその場を立ち去り、戻って来ました」
「ご苦労様。しかし、祭壇か……エルフの神様か、何かかな?」
「さぁ?しかしエルフは、森の民の筈で、固有の信仰など無かったはずですが……そうだ、祭壇に変わった紋章みたいなのが、入ってました」
「紋章?」
「こんな、帽子みたいなのです」
そう言って囲炉裏の灰に、ラナは棒で絵を書き出すと、その完成した絵を見た時に、俺は思わず、声に出して言ってしまった。
「や、柳生笠」
「柳生笠?何ですかそれは?」
アイリスが不思議な顔付きで、こちらを見ながら聞いてきたのであった。




