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異世界は謎だらけ  作者: ヒマメナ サミン
第1章 終わりと始まり
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02 書類作成

 

「…チートな能力ってもらえますか?」


 …自分を殺した相手に下手(したて)に出るなんて、これが日本人の謙虚さなのか。

 でも、異世界に行くなら、ある程度の力は必要だと思う。

 チートでなくとも、少しでも譲歩してもらえれば御の字だ。


「チートね…どうしようかな。君が考えてる通り、あちらの世界は地球ほど生きやすくはないよ。食物連鎖の頂点が人間ではないからね。魔物と呼ばられる魑魅魍魎がうじゃうじゃいる。でも、不思議なことに人間は生き残っているんだ。なんでだと思う?」


「魔法があるからじゃないんですか?」


 やっぱり、魔物はいるよな。

 科学技術を駆使しても倒せないやつなんて沢山いるだろうし。

 魔法なら何とかなる気がする。


「不正解。あちらの世界には、地球で言うところのステータス画面を個人個人が持ってる。レベルやスキル、ジョブなんてものまであるんだよ。あと、魔法も。まんまゲームだよね?地球とあちらでは、赤ん坊ですら比較にならないくらい能力に差ができてしまうんだ。だから、魔物相手でも人間が戦えるんだよ」


 ステータスにレベル…まんま異世界転生だ。

 あとは、転移なのか転生なのかだけど。

 でも、転移したら、色々面倒臭いことになるのは目に見えてるんだよな。


「それは君に選んでもらうよ。勿論、どっちでも記憶は残るよ。ただし、言語について問題があるんだ」


「え?言語理解スキルとか、もらえないんですか?」


「希望者にはあげてるけど、それ、魂の容量を意外と消費するんだよね。だから、君のいうチートから少し遠ざかってしまうんだ。それでもいい?」


 魂に容量があるのも予想通りだったが、言語理解がそんなに容量を食うとは。

 でも、当たり前か。言語だし。

 じゃあ、転生して言語を覚えた方がいい。

 …いや、待て。

 こいつは、あちらの世界にはスキルがあると言っていた。

 先天的なスキルはあるだろうが、魂の容量的に後天的なスキルはどうなるんだ?

 チート能力を貰うと、後天的なスキルが手に入らない可能性もある。

 言語習得がスキルだった場合、俺は一生、会話や読み書きができなくなる。

 これは一大事だ。


「こんな風に考えているんですが、どうなんでしょうか?」


「君、会話中に考え込むのはどうかと思うよ。でも、君の心配は的外れだね。後天的なスキルは魂の外側にのり付けされて、魂がより大きく、より強固になるんだ。この世界の生物は、魂の容量にかなりの空きがあるから、先に詰め込むことができるだけだよ」


「そうですか。なら、転生でお願いします」


「いやいや、何を勘違いしてるのかな?僕は君をあちらに送るだけ。そのとき、ささやかながら、神からの贈り物を君に携えるんだよ。だから、君をどうこうするのはあちらの神で、僕じゃない」


 は?今までのやり取りは何だったんだ。

 ささやかな贈り物って、チートは貰えないのか?


「じゃあ、さっさと送っちゃってください」


「そう言うなら、書類を作成するね」


「書類?」


「人事異動の書類と君の要望書。要望書は、幾つか質問するから、それに答えてくれればいいから」


「そんなもの作るんですね…」


「これでも楽の方なんだけどね。要望書なんて気に入らなかった人には、存在すら教えてないし」


 うわー、その人たちは御愁傷様だな。

 でも、あちらの神に直接話せばいいだけな気もするが。


「僕はあちらよりも上位の神だからね。上司の命令は絶対なんだよ。あちらの神は面倒臭がりでね。テキトーに仕事することが多いんだよね」


 …神にも上下関係があるのか。

 それに面倒臭がりって。

 神としてダメだろ、そいつ。

 テキトーな仕事をされて、転生した人がどうなったことか。


「じゃあ、まずは…」


 それから幾つかの質問に答えた。



 魂の性別は?

 A. …男

 生まれ変わるなら、何になりたい?

 A. 人間

 人種は?

 A. 見た目が人間で弱点が少ない人種で

 言語理解スキルは必要?

 A. いりません

 魔法は使いたい?

 A. 使いたいです

 スキルとか授けるけど、自分で決めたい?

 A. …おまかせで

 転生でいいの?

 A. いいです

 ほんとに?

 A. …いいです



「これで書類は完成だね。じゃあ、これにサインしてね」


 こいつはそう言って、紙と装飾過多なナイフを手渡してきた。

 どっから出したし。

 書類を作ってるところを見てないんだけど。

 とりあえず、ナイフで右手の人差し指を少し切った。

 刺されることに慣れすぎて、自分の指を切ることに躊躇(ちゅうちょ)がなかった。


(いやな慣れだな、全く)


 名前を書こうと紙を見てみると、何が書いてあるのか、さっぱり分からなかった。

 見たこともない文字が数十行に亘って書かれている。

 これ、詐欺し放題だな。

 紙の下の方に空白があり、下線が引いてあった。


「ここで、いいんですか?」


 一応、確認してみると…


「いや、違うよ?上の方に線が引いてあるでしょ?下のはあちらの神が書くんだよ」


 危な!先に言えよな!

 改めて紙の上の方を見ると、下のと比べるとかなり小さい空欄があった。

 指で書けるか心配していると、羽ペンを渡された。

 だから、どっから出したし。

 指からは血がぼたぼたと垂れていて、慌てて羽ペンに血を付けて名前を書いた。


「あの、今更ですけど、何で血が出るんですか?」


 そう、魂だけだと思っていたら血が出てきたのだ。

 正直、この意味がよく分からなかった。


「それは血じゃなくて、魂の一部、いや、中身って言った方がいいかな。君の頭の記憶と肉体の記憶が血のように溢れてきたんだね」


「えっ!?てことは、今、俺から記憶が抜け落ちてるってことか!?」


「やっと、本音が出てきたね。安心して、それはまず必要ない記憶から抜けるから。例えば、今まで読んできたエッチな本、エッチな動画や画像の記憶かな。魂の容量がほんのちょっと増えてよかったね」


「そういえば、俺のお気に入りが思い出せない!?俺にはかなり必要な記憶なのに…これからどうやって生きていけば…」


 血は既に止まっていた。

 こいつが何かしたのかもしれない。

 それよりも、頭の中の隔離倉庫が丸々抜け落ちている。

 俺のお気に入りはたった数mlの血に消えていってしまった。


 すると、自分の迂闊さに後悔していた俺の体が光り始めた。


「さぁ、旅立ちの時だよ。ささやかな贈り物はもう授けてあるから、あちらで確認してね。これで君とはお別れだ。短い間だったけど、楽しかったよ。それと…


 本当にごめんなさい」



 最後にそれが聞けて、俺はこいつを許そうと思った。


「許す」


 俺の言葉を聞いて、最後に見せた彼女の笑顔はいつまでも忘れないだろう。



 妹よ、これは浮気じゃないぞ。

 断じて、違う。

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