01 神との邂逅
目を開くと、俺は真っ赤な空間に立っていた。
視界に入るものが赤一色に塗り潰されて、遠近感さえ狂い、境界がどこなのかがさっぱり分からない。
(なんか体内にいるみたいだな。俺の魂は何かに喰われたかな?)
変なことを考えながら、自分の状況を把握しようとする。
俺は、まだ生きているかもしれないという淡い期待を持っていた。
「それはないよ。君は死んだ。確実に死んだ。だから、ここにいるんだ」
後ろから聞こえた声は聞き覚えのある声だった。
忘れもしない、死ぬ直前、最後に聞いた奴の声だ。
ここに来てから身体が妙に軽い。
身体がないからかもしれない。
それも相まって、かなりの速度で声の主から離れた。
恐る恐る振り返るが、視界に入ったのは奴ではなかった。
「君には、こんばんは、というのが正しいのかな?初めましてのはずなんだけどな。そんなに恐がらなくてもいいと思うよ?」
奴の声を発する女は不思議そうな様子でこちらを見ている。
最後に見た奴の顔は…妹だった。
だが、奴は俺の妹ではないと断言できる。
体格も体臭も違った。
他にも色々違いはあった。
じゃあ、奴は何なんだ。
声は目の前にいる女と同じ…
「目の前!?」
女はいつの間にか俺の目の前にいた。
「わっ!どうしたの急に。いや、それより、話しかけたのに無視するのは戴けないな。返事ぐらい返したらどうかな」
「あ、はい、すみません。えっと、こんばんは、初めまして、白坂颯っていいます」
勢いあまって名前まで言ってしまった。
年上の女性に対して、思春期の男子は皆こんな感じだと思う。
俺だけじゃないはず。
改めて女を見てみると、かなりの美人だった。
髪は青と緑の間のなんとも言えない色合いで、染めていると思うのだがかなり自然な感じだ。
顔はものすごい美人としか言いようがない。
全てのパーツが完成していて、それが逆に人間味をなくしている。
体格はとても好みだった。
貧乳まではいかないが、揉み応えがある程度に盛り上がっている胸。
巨乳とかただの贅肉の塊。
肉付きも細すぎることもなく、とても健康的だ。
声が奴でなければ、一目惚れだったに違いない。
「それは残念だね。君は結構気に入っていたのに。あいつを送りつけたのは間違いだったかな。あと、髪は地毛だよ」
ん?この返事……まさか…
「えっと、心とか読まれてます?」
「読んでます」
うわー恥ずかし!
目の前で色々考えてたんだけど!
いや、もう気にしても仕方ない。
話題を変えよう。
「とりあえず、貴女の名前は?」
「名前とかは無いんだけど、神とか呼ばれてるかな」
「じゃあ、やっぱり俺は死んだんですね?」
「切り替え早いね、君。そう、君は死んだ。正確に言うと」
「貴女が殺したのでは?」
「正解。理由はちゃんと話すよ。それよりも君を殺した者について知りたいじゃないかな?」
人を殺しといて、いけしゃあしゃあと。
俺を殺したのは、こいつの関係者なのは確定だ。
神が何で俺を殺したのかは全くわからないけど。
「じゃあ、私を殺した奴は何なんですか?何故、彩月の顔をして、貴女の声で喋るのか。それを知りたいですね」
「まず、貴女を殺したのは神の使徒と呼ばれてるやつで、僕の部下だよ。次に、使徒が僕の声で喋るのは、僕の一部だからかな。僕の体から生み出すんだ。最後に、妹さんの顔をしていたのは、君が最後に見たいかなと思ったから。本当は僕の顔をしてるから安心してね。帽子が外れたときに変えたんだ」
妹に殺されたかもしれないと心の何処かで思っていたが、杞憂だったようだ。
それにこいつ、俺を殺しといて本当によく話しかけられるな。
僕の一部とか僕の顔しているとか、完全に主犯だよな。
「そして、君を殺さなくちゃいけなくなったのは、君の目覚めた力が原因だよ」
「その力って奴も言ってましたけど、予知夢のことですか?」
「君は予知夢を見ていたんだね。だから、未来が変わって…なるほど。いや、そう、それが君の力の一部かな」
こいつ、俺の予知夢を知らなかったのか。
要らんことを言ってしまった。
でも、心を読めるなら、俺の記憶も見れるだろし、関係ないか。
それに、力の一部と言っていた。
神の言うことなんだから、きっと俺には凄い力が眠っているかもしれない。
…これはマズイな。
あの忌まわしい記憶が蘇りそうだ。
「えっと、それじゃあ、私が力を持ってはいけなかったということですか?」
「君がというより、地球上の全てが、かな。僕はね、科学が発達した地球がとても好きなんだ。魔法がある世界よりも管理がとても楽だし。それに、他力本願な魔法よりも自分たちで産み出した道具だけで生きることは、僕に対してとても誠意がある。だから、君みたいな非科学的存在は排除したいんだ」
なんとまぁ、自分勝手な。
そんな理由で殺されたのか。
それに、魔法がある世界があるらしい。
生まれ変わりがあるなら、そっちで産まれてもいいかもしれない。
「もう、いいです。私はこれからどうなるんですか?閻魔大王様にでも会うんですか?…罪は犯してないはずですから、天国に行ければいいんですけど」
「いや、君にはさっき言った魔法がある世界に行ってもらうよ。神の我儘で殺しちゃったからね。地球には帰せないけど、異世界とは協定を結んでいるから、割と簡単に送れるんだ」
「あ、そうですか…」
おぉ!異世界転生ってやつだ!
いや、チートなんてあげられないよ、ってオチがあるに違いない。
そうだ。絶対そう。そうに違いない。
「じゃあ…チートな能力ってもらえますか?」
妹よ、兄さんを許してくれ。
これでも、多感な16歳なのだ。