プロローグ【前編】
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
俺、白坂 颯は今日、死ぬ。
理由は簡単で夢で見たからだ。
そう夢だ。予知夢というやつだ。
高校に入って初めての夏休み。
その頃からこの夢を見始めた。
ふと目を覚ますと、いつもの習慣で枕元の電波時計を確認した。
「ふぁ〜、まだ2時か……ん?日付がおかしいな。昨日は8月1日なのに31日になってる。電波時計なのに」
壊れたかなと訝しんでいると、首筋にひりつくような痛みを感じた。
(なんだろ…?)
首に手を当てるまでもなく、首筋から何か液体が垂れているのが分かった。
それも多量に。
水でも掛けられたのかと思い、後ろを向くと全身が真っ黒な奴が立っていた。
窓からの光は奴の顔を照らさず、奴の手には月明かりに妖しく光るナイフがあった。
ナイフからは何かが滴り落ちているのが見える。
そして、振り向いた拍子に顔に付いた液体は、とても鉄臭かった。
(あーこりゃ死ぬわ)
そして、意識が急速に遠のくのを感じた。
ここで目が覚めたのだが、自分が生きているのか死んでいるのか分からなかった。
妹がたまたま起こしに来るまで呆然としていたのを覚えている。
数分も経ってないような短い夢だったが、数時間にも感じられるほど自分の死はとても濃いものだった。
妹にいい子いい子してもらいながら慰めてもらえなかったら、どうなっていたか。
もう死んでもいいかもしれない。
そう思えるほど幸せなひと時だった。
次の日も同じような夢を見た。
今回も日付は8月31日。
今度は奴の顔を拝んでやろうと起き上がって、明かりを点け部屋の中を見渡すが誰もいなかった。
ただの明晰夢なのかとベットに戻ろうと振り返ると、奴がいた。
つば付きの黒い帽子を目深く被り、上半身は黒いレザーの服を着ている。
正直なんかダサい。
そんなことを考えていたが、奴との距離も近かかったため、身動き一つ取れぬまま、ぐさりとイかれた。
(このヤロ、次こそ、顔を見て、やる)
燃えるような痛みを我慢しながら、決意を新たにした。
それから、毎日この夢を見た。
いつも8月31日の深夜。
いつもナイフで殺された。
刺される痛みが俺の夢の中の想像でなければ、現実でも少しは耐えられるかも?というぐらい刺された。
結局、奴の顔は拝めていない。
すぐに、逃げられないかと思案するようになったからだ。
俺の部屋は二階にあって、大きめの窓がベットの横にある。
まず、ここから逃げれないかと考えた。
部屋のドアは廊下に繋がってるが、妹の部屋が近くにある。
奴に寝顔を見られたり、殺されでもしたらと思うと腸が煮え繰り返りそうだ。
日付を確認して、早速窓の外に出てみた。
斜めの屋根があるから真っ逆さまに落ちてはいないが、裸足で夜露に濡れた屋根はかなり滑る。
夢だから大丈夫だろうと踏ん切りがつかない自分が憎い。
恐る恐る屋根を下り、端まで来ると突然、背中にかなりの衝撃を感じた。
目が覚めたということは死んだのだろう。
何とも呆気ない。
痛みを感じる前に死ねたことに感謝すべきなのかもしれない。
その次は、前回の轍を踏まないように屋根を駆け下りてみた。
テレビでやっていた五点着地に少し興味があったのだが、見事に足を骨折した。
骨が飛び出ている。
確か開放骨折という名前だったはず。
まぁ、何だ。目の前にいる奴はどうやって降りてきたのか知りたい。
その後、五点着地を文字通り何度も身を削りながら、見よう見まねでモノにした。
着地した後、脚が痛いから何か違うかもしれないが。
それでも奴からは逃げられず、いいように嬲られただけだった。
そうして、今日8月31日を迎えた。
読んでいただき、ありがとうございます。