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#1 萌え [side伊織]

直接的な描写はないと思いますが、登場人物が同性愛者だったりします。

世界は光りにあふれている。


いつも憂鬱な気分で見ている画面なのに、今日はそう思った。

1日8時間以上、長ければ18時間くらい眺めつづけている憎たらしいダブルディスプレイにくぎ付けになったのは、彼・・・彼女? どちらでもない、その"男の娘"がスタジオのようなところで踊る姿を見たとき。



「ひか・・・り?」


久しぶりに声を出した気がするけど、それが独り言なんだからまた悲しい。

でも言葉に乗ったその人は名前までも輝かしく、なんてぴったりなんだろう。



踊り終えると、カメラに近づいてきたその人物が息を軽く整えて話しだす。



『動画をご視聴いただき、ありがとうございました!』



本当に、生物学上は男なんだろうか、いやむしろこの世に実在する人間なんだろうか?と思うような声。

オトコのように低くかすれて汚くなく、オンナのようにキンキン耳にうるさくないその音声とその人の表情に胸がどくどくと鳴り目に熱が集まるのを感じる。



ああ、これが・・・【萌え】というやつか。



『普段は、「男の娘カフェ アンジュ」のキャストをしています!良かったら遊びに来てね~!』



おとこのこかふぇ?

その単語を急いで検索エンジンにたたきこむ。

リロードがくるりと1回転するその1秒以下の時間すら長く感じてしまう。

遊びに来てね、ということは・・・この人を生で見ることが可能なのだろうか、そんな上手い話があるわけない、でももしかしたら・・・!


その店らしきホームページを開き、うっとおしくチカチカとする読みにくい字の中から「Cast」というテキストを見つけてクリックする。

まるでアイドルのメンバー一覧のように並べられた写真の中に目を通すと、中ほどに探していた顔を見つける。


静止画も可愛い・・・!!


ぷるぷると震える右手でマウスを握り、その写真をクリックすると画面が切り替わるが、反応が遅く画面は写真一覧のままでリロードボタンがくるくると回転し、イライラがつのる。

早く、早くこの人のことを知りたいのに。


そんなことしてもサイトの読み込みが早くならないと分かっているのに何度もその人の写真の上に矢印を乗せたままクリックを繰り返す。



ようやくパチリと画面が切り替わると、そこに映し出されたのはまた別の写真。

先ほどのメニューのようなところでは首から上の顔写真だったけれど、個別のプロフィールに掲載されているのはお腹から上の写真で先ほどよりもにっこりと歯を見せて笑っている。


しばらく、頭のてっぺんからお腹までじっくりと眺めたあと、横の自己紹介に目を通す。



名前は光、「ヒカリ」じゃなくて「ヒカル」だったんだとフリガナで気づいた。

動画の紹介では、漢字しか書いておらずなんとなくヒカリだと思っていたので、また少し印象が変わった。


年齢は22歳。

私よりも1つしか年下でないということに驚く。

きっと10代だろうと思うほど、可愛いがあどけない顔つきなのに。


それからも次々と続く自己紹介にくまなく目を通すと、最後にツイッターのアカウントが書いてあった。

SNSはめんどくさくて使っていないけれど、仕事上最低限の使い方は知っているのでパソコンでツイッターを開く。

ああ、IDを書くんじゃなくてツイッターに飛ぶリンクにしてくれれば1クリックで見られるのに、と再びイライラしながらIDをツイッター上で検索してアカウントを発見する。


そこには光さんの何気ないつぶやきと共に、自分で撮ったんだろう写真が添付されていた。

つぶやきの数は多くないけれど、『今から出勤します!』とか『今日も楽しかった♪』という言葉と共に愛らしい表情の写真が、休みの日には『買い物いきます。』というつぶやきに、鏡に映った全身の写真が添えられたりしていて、見ているだけで、ああ可愛い、綺麗・・・と幸せな気持ちになった。



ときどきツイッターにリンクされているURLを開いてみると、どうやらお店のブログのようで、光さんの担当のときにはつぶやかれているみたいだった。



ブログの内容も、あまり女の子女の子したものではなく、さっぱりとした文章で、見た目の可愛さとのギャップにまた「萌え」を感じる。




こうして、光さんのツイッターやブログはもとより、他のキャストのツイッターやブログにも光さんが登場していることに気づいて、くまなくチェックした。

光さんの画像や動画、書いている文章を見るにつれて「もっと近くで見たい」という気持ちに拍車がかかる。


お店に行けば、この美しい生き物を実際に見るだけでなく声を聞くことさえできてしまう。



なんて素晴らしい世界なんだろう----



でもここで問題なのが、私自身がほとんど遊びに出ず、出かけるとしたら月1程度の仕事の打ち合わせでタクシーで20分程度の取引先の会社に行くときのみ、ということ。


自宅でパソコンがあれば情報が得られて仕事ができ、雑貨や洋服だけでなく、食品さえもネットで購入できてしまうこの便利な世の中のおかげで、私は(ほぼ)自分だけの世界で生きることが可能になってしまっていた。



家から出なければいけない、出たいと思うことなど今までほとんどなく、できれば月1の打ち合わせにも行きたくないと思っていたのに。



どうしても外に出て、「この目で見たいもの」ができてしまった。




まずは、準備を始めよう。

とりあえず、数か月ほど前髪のセルフカットしかしていないこの髪の毛も、なんとか整えなければいけない。

いつも打ち合わせに着て行くスーツではお店に行けないので、ネットでもう少しラフな洋服を購入しなければならない。

それに会わせた靴や、カバンも・・・。



それが終われば、光さんがいる男の娘カフェに行って、生で見ることができるんだと思うと、今までめんどくさいと思っていたことが少し楽しいと思えるようになった。

ジャンル選択でとっても困りました。

ボーイ ミーツ ガール ってことで恋愛にしようかと思ったんですが、タイトルに「恋ではない」と入ってるのにそれはな~ってことで『その他』です。

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