未練
暑いなぁ。
アスファルトの照り返しが激しい歩道を歩いていると、遥か前方に某センパイを見つけた。いつもポーカーフェイスで何を考えているかも分からないような男性。鋭い目つきが怖いから私は苦手なのよね。
それで、今出てきたのはパチンコ店みたい。横顔、ちらと見えたけどやっぱりポーカーフェイス。負けて悔しがってる顔とか大勝ちしてほくそ笑んでる姿とか見れるかな、と期待したんだけど、残念。今はもう私に背を向けて歩いている。
あれ。
私は我が目をこすった。
センパイの背中から、何だか半透明の帯みたいなものが伸び出して、宙を浮いたままパチンコ店の出入り口までぴんとはってるじゃない。一体なんだろう?
もう一度目をこするけど、やっぱり見える。センパイが歩いても、びよーんと伸びてパチンコ店とつながったまま。さっきより少し細くなっているところを見ると、ゴムみたいなものかも知れない。
わざわざパチンコ店の出入り口まで行くと、半透明なゴムはさらに伸びて細くなっていた。ガラスの自動ドアは閉じているけど、まるでガラスはないもののように、扉の端に引っ掛かってセンパイの方に向かっている。まさにゴムひもという感じ。
暑さもあるのか、ここで私の妄想は弾けた。
もしもこれを切ったら、先を歩くセンパイはゴムひもが切れたように前につんのめるのかしら。そしたらセンパイ、周りに怪訝な目で見られるに違いない。一体、どんな顔をするのかなぁ。
ううん。わざわざ切らなくても、きっとセンパイはこのゴムに引っ張られているわけだから、足に力を込めながらのっしのっしと歩いているに違いない。涼しい顔なんて、してるはずはない。いずれ力負けして引っ張られて、「あああああああ」とか悲鳴を上げながらここまで引きずられてくるのかしら。
見物だわ、と内心くくくと笑う。
でも、何もしない。あのセンパイは嫌いだからかかわり合いになりたくないもの。いじっちゃダメだぞ、私、と自らに言い聞かせ真反対方向にきびすを返す。自分の用事があるのはこっちの方角なのよね。
十歩歩いたか、二十歩歩いたか、しばらくするとなぜだか足取りが重くなった。
振り向くと、さっき見ていた半透明のゴムから新たなゴムがこっちに伸びてるじゃない。センパイから伸びてるんじゃないだけマシだけど……くくぅ……何とか断ち切りたいわねっ!
おしまい
ふらっと、瀨川です。
他サイトの同タイトル企画に、深夜真世名義で発表した旧作品です。
当時、オチが誤解されやすいなどの指摘を頂きました。それを踏まえちょちょいと加筆しています。その後のありさまを想像してご堪能ください。




