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しゃくり上げる小さな身体に手を伸ばす。顔を覆う手に触れた。途端に身体をビクッとさせる。構わずにその両手をゆっくり剥がした。
「ぃ…ひっく…ひぃ…」
しゃくる声を止められないようだ。剥して見た顔は涙でぐちゃぐちゃだった。それでも涙は溢れてくる。それをとめようとして目尻に指を這わした。そんな行動に顔を歪ませた。
「…っく…、何とも、思って……ないなら…触らないで…。…苦しいよぅ……」
一つ一つの言葉が刺さる。苦しく、傷開く言葉を言わせているのだ。止めずにそれを聞いている。どんなに傷が深くなっていくのかを知りながら、止めずに聞いている。
でも、そうじゃない事を知らせたくて、手を持ったまま立ち上がり、腕にすっぽりと納まる身体を抱き締めた。
「…や…、やだ……。止めてよ…」
力無く腕の中で抵抗する。イヤイヤと首を振った。それでも更に抱き締める腕に力を込める。
次第に抵抗する力が緩まっていった。諦めたようだ。
「――…何で……?」
暫くして落ち着いたのか泣いてはいないようだった。だが、訊ねてきた言葉は涙声に変わりない。けれど、これ以上何も言わせないように、自分も覚悟をしなければならない。
大きく息を吸って吐いた。
「……何とも思っていないなら……キスなんかしない…」
「…え?」
胸に耳を当てていた顔が上を向いてきた。今度は逸らさずに真直ぐに大きな瞳を見詰め返す。
「……僕も、お前が好きだ。その唇にキスしたかった。キスだけじゃない。…その先もしたいと……ずっと思っていた」
止まっていたと思った涙が、またその瞳から溢れてきた。
「…嘘…」
「…嘘なもんか。嘘じゃないからこそ、この想いが駄目だって解っていたからこそ……。だから、知られないように…冷たくするしかなかったんだ」
涙が零れ落ちる。その涙がもったいなくて目尻に唇を落とす。
「僕等が同じ気持ちだったのなら…意味が無かったんだな。…僕にもっと…もっと勇気があれば……、お前をこんなにも泣かさずに済んだのかも知れないね。済まない。――――好きだ…」
力一杯抱き締めた。震える腕が背中に回される。そして服をぎゅっと掴んだ。
「……信じて…いいの?…それを……信じていいの?…ねぇ……」
何度も聞いてくる声に、「いいよ」と答えた。答えた瞬間、回された腕に力が入るのが解った。
「うぇ…、良かっ…た…よぉ……。苦し…かったよ…ぉ…」
泣きじゃくり、しゃくり上げる声が途切れがちに言葉を繋ぐ。それに笑ってしまった。笑われた事に対して背中を叩いて抗議する。そんな愛しい腕を離して、顔を覗きこんだ。行き成りマジマジと顔を見られたので、真っ赤にして見上げてきた。
「なあ、解ってるんだよね?この気持ちが駄目だって事。……禁忌だって事――」
途端に哀しい顔で微かに頷いた。
「僕はお前が好きだ。タブーを犯してまでも……好きなんだ。だから、お前の気持ちを知ったから、これからはもう放してやれない。……でも、……今ならまだ間に合う。今なら…放せられられる。――……どうする…?」
互いの気持ちを知ったからといって、相手の意思を無視して寄り添う事は出来ない。それが、危険な想いだからこそ、確かめずにはいられない。そして、確かめ合えたら――どんな事があっても放せない。放せる自信がない。自分の意思はもう溶かすには遅い所まで来ている。意思が変わらない事、それを知って欲しい事。その意味を含めて訊ねた。
「――」
見上げる視線は強く見返してきた。それから左右に首を振った。
「……」
二人とも同じ気持ちだったようだ。ふっと笑ってそのおでこにキスを落とした。
もう放さない。何があろうと守っていく。そんな覚悟を決められる程に好きだ。――愛している。でも、隠せる所まで隠していこう。隠すというスリルもまた良いんじゃないかなって思ってしまったんだ。
いざとなったら二人で逃げれば良い。二人ならば怖くない。
禁断の想いを共に共有していこう。
――お前も同じ気持ちだろう?――
そんな気持ちで視線を投げると、見上げてくる顔がふわりと笑った。魅了されずにはいられないあの笑顔だ。その笑顔で頷いた。
「放れない。大好き。……愛しているよ――――――お兄ちゃん…」
お疲れ様です。
さて、このお話ですが、この二人の設定は余りしていません。風貌や声色など決めておりません。一人称の「僕」は有る程度ありますが、相手に関しては性別なども決まっていなかったりします。お好きなように人物を当てはめていただく事が出来れば…と思いまして、そんな作品にしました。
では、ここまで読んで頂き有難うございました。




