表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ineffable passion  作者: you
5/8






 背中が痛くなる。ふと窓の外を見ると暗くなっていた。時計を見ると20時を過ぎた頃だ。課題を終らせる為に結構時間が掛かってしまった。掛かりっきりだった身体を解すと椅子を回転させて立ち上がった。


「…!?」


 誰かの影を感じてベッドに視線がいき、驚いた。――忘れていた。まだいたのだ。飯を食う為にそろそろ追い出しても良いだろうと、ベッドに近付いた。


「…お…」


 掛ける声を止めた。すーすーと寝息が聞えてきたからだ。


「……」


 どう見ても寝ている。溜息を付き、その寝そべる身体を揺すり起した。


「おい、起きろ」


 揺すっても、頬を叩いても微動だにしない。こんなに寝汚かっただろうか?諦めようと手を離す。




(…今なら……)




 不意に過ぎった考えに動きを止めてしまった。


――今なら出来る。大丈夫だ。こんなにも起きないのなら気付かれない。長年求めてきたはずだ。他の誰でもない、この唇を――


 目を硬く瞑って頭を振った。馬鹿げている。何の為に忘れようと頑張っているのか。ここ数年費やした行為が、こんな所でばれてしまえば無駄になってしまう。それだけは避けなければ。

 そうは思う。思うのだが、過ぎった考えが、抜け切れない視線が向かう先は、眠る目の前の唇。薄く開けられており、これでは容易く入れられるだろう。――いや、駄目だ。無駄にする気か?

 葛藤する頭に届くは規則正しい寝息。その音が耳に再び入った時、思考が中断した。

 もう、その唇から目が離せない。


「……」


 無意識にその頭の側に片手を付いた。ベッドに膝を掛けるとギシ…と軋んだ。赤く艶めく唇から目を逸らさずに、其処へ向けて顔を下ろしていく。

 その行為に鼓動が高まった。

 もう、押さえられない。もう止められない。積み重ねてきた努力などもう知った事では無い。今、この唇を奪えるのなら、そんな事などどうでも良くなっていた。


 触れるか触れないかのキス。


 軽くでも解る。とても柔らかい。温かさも伝わってきた。

 一度顔を離した。それでも起きなかった。

 今度はきちんと触れたキス。

 それでも起きない。

 何度も啄ばむようなバードキスを落とした。

 起きない。

 余りにも起きないのを良い事に、触れるキスのみでは押さえる事が出来なくなった。ゆるりと舌で唇を舐める。其処を割って入り、笑えば見える白い歯列をなぞった。


「…う…ん」


 どきりとした。


 思わず顔を離そうとするが――寝る体制を整えたのみで起きはしなかった。

 慌てて唇を離しただけで顔は離さなかった。その体制から、再び唇へと舌を這わせる。今度はその歯列を割って入り、下顎を開かせた。上顎、歯茎を舌で這わせていく。その動きにあわせて水音が響いた。寝ているからか、だらりとした生暖かい柔いものを見つけると、絡ませる為に口を吸った。


「…ん……」


 吸う唇から吐息が洩れたが、まだ寝ているのだろうと思って続行した。吸い上げた舌を捉えて自身の舌と絡ませる。水音が更に酷くなった。


「…ふ…、ん……んぅ……」


 寝ていると思っていた先入観が邪魔をして気付かなかった。


 絡める舌に何処かしら弾力が混じってくる。違和感に首を傾げた時だった。不意に気付いた。


――――絡まる舌が応えている事に――。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ