5
背中が痛くなる。ふと窓の外を見ると暗くなっていた。時計を見ると20時を過ぎた頃だ。課題を終らせる為に結構時間が掛かってしまった。掛かりっきりだった身体を解すと椅子を回転させて立ち上がった。
「…!?」
誰かの影を感じてベッドに視線がいき、驚いた。――忘れていた。まだいたのだ。飯を食う為にそろそろ追い出しても良いだろうと、ベッドに近付いた。
「…お…」
掛ける声を止めた。すーすーと寝息が聞えてきたからだ。
「……」
どう見ても寝ている。溜息を付き、その寝そべる身体を揺すり起した。
「おい、起きろ」
揺すっても、頬を叩いても微動だにしない。こんなに寝汚かっただろうか?諦めようと手を離す。
(…今なら……)
不意に過ぎった考えに動きを止めてしまった。
――今なら出来る。大丈夫だ。こんなにも起きないのなら気付かれない。長年求めてきたはずだ。他の誰でもない、この唇を――
目を硬く瞑って頭を振った。馬鹿げている。何の為に忘れようと頑張っているのか。ここ数年費やした行為が、こんな所でばれてしまえば無駄になってしまう。それだけは避けなければ。
そうは思う。思うのだが、過ぎった考えが、抜け切れない視線が向かう先は、眠る目の前の唇。薄く開けられており、これでは容易く入れられるだろう。――いや、駄目だ。無駄にする気か?
葛藤する頭に届くは規則正しい寝息。その音が耳に再び入った時、思考が中断した。
もう、その唇から目が離せない。
「……」
無意識にその頭の側に片手を付いた。ベッドに膝を掛けるとギシ…と軋んだ。赤く艶めく唇から目を逸らさずに、其処へ向けて顔を下ろしていく。
その行為に鼓動が高まった。
もう、押さえられない。もう止められない。積み重ねてきた努力などもう知った事では無い。今、この唇を奪えるのなら、そんな事などどうでも良くなっていた。
触れるか触れないかのキス。
軽くでも解る。とても柔らかい。温かさも伝わってきた。
一度顔を離した。それでも起きなかった。
今度はきちんと触れたキス。
それでも起きない。
何度も啄ばむようなバードキスを落とした。
起きない。
余りにも起きないのを良い事に、触れるキスのみでは押さえる事が出来なくなった。ゆるりと舌で唇を舐める。其処を割って入り、笑えば見える白い歯列をなぞった。
「…う…ん」
どきりとした。
思わず顔を離そうとするが――寝る体制を整えたのみで起きはしなかった。
慌てて唇を離しただけで顔は離さなかった。その体制から、再び唇へと舌を這わせる。今度はその歯列を割って入り、下顎を開かせた。上顎、歯茎を舌で這わせていく。その動きにあわせて水音が響いた。寝ているからか、だらりとした生暖かい柔いものを見つけると、絡ませる為に口を吸った。
「…ん……」
吸う唇から吐息が洩れたが、まだ寝ているのだろうと思って続行した。吸い上げた舌を捉えて自身の舌と絡ませる。水音が更に酷くなった。
「…ふ…、ん……んぅ……」
寝ていると思っていた先入観が邪魔をして気付かなかった。
絡める舌に何処かしら弾力が混じってくる。違和感に首を傾げた時だった。不意に気付いた。
――――絡まる舌が応えている事に――。




