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駅を出て家路を急ぐ。
高校からずっと付けて来る足音があった。幅が広がると小走りで追い付いて来る。かと言って前に出る訳でもなく、横に着く事もしなかった。
何時もの定位置、『後ろ』なのだ。
小さい頃なら付いてくるかどうか気にしながら歩いていた。大きくなってからはそれを無視するように勤めていた。
耐えられずに家に走った。
鞄から鍵を取り出して玄関の鍵を開けた。家へ入って乱暴に靴を脱ぐと、階段を駆け上がって自室へと飛び込む。一度だけ大きく溜息を付くと、瞳を閉じた。それから鞄を机へと置き、首にまとうネクタイと第二ボタンまで緩めた。ブレザーを脱ぎ、椅子の背凭れへ掛ける。クローゼットから部屋着に着替える為に洋服を取って、急いでそれに着替えた。制服を掛ける為にハンガーを手に取る。
多分この時間帯だろう。
制服をクローゼットにしまうと、椅子に座り鞄の中身を机に広げた。
バンッ!!
途端に部屋のドアが開く。案の定だ。後ろを見なくても誰だか解る。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
多分息が上がってるのだろう。荒く吐く音が聞える。どさりと手に持つ鞄を落とすのも。
「酷いよ!!何で走って言っちゃうの!?後ろから来るの解ってたんでしょう!?」
「ウザイ、帰れ」
また息を飲むのが聞えた。荒く足音を鳴らしながら近付いてくる。
「何でそんな言い方するの!?傷付かないとでも想っているの!?」
肩を掴まれ、座る椅子をくるりと回転させられる。振り向かされた其処には、涙を溜めて怒る顔があった。その顔にずきんと胸が痛む。自分で傷付けておいて、傷付いたその顔を見たくなくて視線を逸らした。
「…ねぇ、何でずっと避けているの?何か悪い事したかな?言ってよ。…悪い所は直すから……」
「……」
涙交じりの声で懇願する。
悪い所なんて何処も無い。このままで良い。そう言えればどんなに楽だろうか。直す場所なんて無いのだと。寧ろ直さなくてはいけないのは自分だというのに――。
「…出て行ってくれ。勉強の邪魔だ」
肩を掴む腕をそっと離した。冷たい言葉を言っていても、今以上に傷付けたくは無い。そんな想いからか、外す手は優しくしてしまう。こんなんじゃ駄目なのに。
自身の手を、外そうと掴む手から乱暴に振り払うと、足を大きく鳴らした。その音に吃驚して思わず大きな瞳を見る。
「何で話してくれないの!?もう嫌!嫌だ!!話してくれるまでこの部屋にいる!!絶対にいる!!!」
呆気に取られていると、くるりと背を向けベッドに音を立てて座る。枕を掴んで抱き寄せた。そう構えた上で、上目遣いに睨んでくる。
「…子供じゃないんだから……」
「子供だもん!!まだ中学生だ!!」
「…勝手にしろ」
強い口調で言ってしまった。そんな言葉に大きな瞳を更に見開き、溢れてくる涙を隠そうとベッドにうつ伏せた。
「勝手にする!!」
返ってきた返事は涙で濡れていた。
「……」
無視を決め込もうと机へ向き直り、今日出された課題を広げた。




