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チャイムが鳴り、本日の授業過程が全て終了した。
生徒会役員の為、その足を生徒会室へと向ける。今日は各部の予算委員会だったはず。色々と頭で会議の進行を整理しながら、生徒会室のドアを開けた。
「おはようございます」
生徒会役員は放課後だろうと何だろうと、生徒会室に入る時はこの挨拶をしなければならない。例外に洩れる事無く、既に来ていた何名かの役員に挨拶をした。会議の準備をしている顔を向けて挨拶を返してくる。一人の役員に近付き、何処まで準備が進んでいるかを訊ねてそれを手伝った。
「本年度、生徒会へ下りた予算は……」
各部の部長、副部長が集まり会議が始まった。少しのざわつきを除けば会議室は静かだ。問題なく会議を進行していく。各部への予算を割り当て、会長の閉会の言葉で会議が終了した。
ふと気が緩み、席に深々と腰を下ろした。喋りすぎたのか、喉が渇いて痛い。長く溜息を吐く。生徒が出て行く後姿を見詰める。当たり前の事ながら会議よりはざわついていた。
『ねぇ…』
「……っ!?」
ありえない声が聞え、身体をビクつかせる。辺りを見回すが、出て行く生徒と生徒会役員以外はいない。又幻聴が聞えるのかと額を押さえた。
抜け切れていない。あの夢から…。あの瞳が目に焼き付いている。声が耳に纏わり付いている。抜け出せぬ反面、抜け出したくない自分がいる事も解っていた。駄目だと、いけない事だと思いつつも、何時も視線はその姿を求めていた。その向けてくる笑顔に胸が痛んだ。話しかけてくる声に鼓動が跳ねた。触れる体温に――――欲情した。
「……」
知られては、…悟られてはいけない。この胸内にある想いは秘めておかなければならない。表に出す訳にはいかないのだ。死ぬまで隠し通さなければならなかった。何故なら、この想いはタブーなのだから。
長く、深く溜息を吐いた。
「…副?」
「!?」
行き成り視界に顔が現れた。驚いて椅子から半腰で立ち上がる。覗かれるようにあった顔は先輩である会長のものだった。
「…あ、会長…」
間抜けな声を出しながら相手を呼ぶ。会長は困った顔して覗いていた顔を上げる。
「今日は何だか上の空だな」
「……」
答えられずに口を噤んだ。言える訳が無い。夢から抜け出せていないなんて。
「何だ、考え事か?」
「……いえ」
知られる訳にはいかない。例え尊敬する人物であろうと――。壁を造るような物言いに、会長は軽く溜息を吐いた。
「そうか…。なら俺は帰るけど、副はどうする?」
その言葉に今頃気付いた顔で辺りを見回した。残っていた生徒会役員もいなくなっており、会議室には生徒会長と二人だけだった。
黙って半腰から立ち上がると、座っていた椅子を戻した。
「あぁ、僕は教室に用がありますんで、先に帰って下さい」
「…解った。じゃあな」
笑って軽く手を挙げると、会長は会議室を出て行った。
これと言って用事は無いが、鞄を置いてあるのだ。それを取りに教室へ向う為、自分も会議室を出た。
夕日が照らす教室には誰の姿も無かった。
窓際の奥から二番目。自分の席へ真直ぐと足を勧めると、掛けていた鞄を取り出して教科書を詰め込んだ。立ち上がり、椅子を机の中に入れた。
何と無しに窓から見える校庭を見遣る。運動部の生徒達が汗を流しているのが見えた。忙しなく動くその個々を暫く眺め遣る。
「…あ、れ?……まだ、いたんだ」




