18.その後
その日、オリバー・セルフリッジは軽く興奮した様子で、家に帰って来た。確か、科学研究所のチニックさんに会って来たはずだ、とそう思いながら、家事をしていた闇の森の魔女、アンナ・アンリはその手を止め、それから少しだけ不思議そうに彼を眺める。
「チニック君が、また凄い物を作りましたよ」
彼は興奮した様子のままそう語る。
「なんと、太陽の光から魔力を産み出す原理を見つけ、その為の装置まで作り上げていたのです。
もちろん、まだまだ実用段階にまで壁はありますが、それでも充分にそれは乗り越えられるだろうと考えられ……」
セルフリッジとアンナは、特殊科学技術局を辞めていた。理由は、二人の時間を確保したいから。今までの業績を利用して、彼らは本を出し、その印税で充分な暮らしを送る事ができていた。それは、「アンナと一緒にいる事だけを考えて暮らす」という、アンナの失明が判明した時に、セルフリッジがアンナとした約束を守る為でもあった。
「それが凄いのは分かりますけど、どうして、そんなに興奮しているんですか?」
アンナがそう尋ねると、セルフリッジは嬉しそうにこう答えた。
「分かりませんか? これがあると、人々はもうエネルギー資源を奪い合う必要がなくなるのですよ。各地に、この装置を設置すれば、その場でエネルギーを産み出せるようになりますから。戦争の正体とは、“資源の奪い合い”です。だから、これに成功しさえすれば、この世から戦争を大幅に減らす事が可能になるんですよ」
嬉しそうにそう語るそんなセルフリッジを、アンナは黙って見つめている。その視線に気付くと、セルフリッジは恐る恐るこう言った。
「あの… 別に、アンナさんとの約束を忘れた訳ではなくて、ですね。次の生活の手段を考えなくてはなりませんし…」
それを聞くと、アンナは笑う。
「安心してください。まったく怒っていませんよ。ただ、少し見惚れていただけです。やっぱり、セルフリッジさんだなぁ… と思って。
そうやって、世の中の為にがんばっている方が、セルフリッジさんらしい…」
セルフリッジはそれに安心する。アンナはまた続けた。
「もちろん、わたしも協力しますよ、それに。ただし、約束はちゃんと守ってもらいます。ずっと一緒ですからね?」
「分かっています。僕だって、ずっと一緒にいたいですから、アンナさんと」
そう応えると、セルフリッジはアンナを抱きしめた。アンナは、仕合せそうに笑っている。
きっと闇の森は何処にでもある。でも、その闇の森から抜け出す手段も、何処にでもあるんだ。
セルフリッジに抱かれながら、アンナはそんな事を思っていた。
なんだか、ちょっと恥ずかしい終わりですね、これ(笑)。
典型パターンとして、魔王を倒して世界が救われる~
みたいなのがありますよね?
そういうのに、魔王倒しても社会制度を良くしないと無理だよ
と、空気を読まない現実的なツッコミを入れて思い付いた話だったりします、これ。
半分は、ですが。
多分、魔法で封建主義から民主主義になるって話は、今までにないのじゃないかと思いますよ。
いえ、知らないけど(笑)。
こういった魔法だとかが出てくるファンタジーを長編で書いたのは、これが初めてで、ちょっと照れもありましたが、楽しかったです。実は、一年くらい前に書いたものだったりするのですがね。
一気に書き上げたものだから、投稿前に推敲していて、ちょっと文章に粗い点もあったかな?と反省したりしました。やっぱり、ペース配分は重要ですねー。
一応、続編も考えたのですが、書くかどうかは分かりません。
では、また。