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13.ゼン・グッドナイトという男

 「お前さ、あいつを甘く見過ぎていたんじゃないの?」

 と、文部科学大臣のゼン・グッドナイトはそう言った。目の前には、特殊科学技術局局長のグロニアがいる。

 「はい。返す言葉もありません」

 グッドナイトはまた続ける。

 「何て言ったっけ? あ、確かセルフリッジだ。そのセルフリッジとかいう奴の事を。まさか、ベヒモスまで何とかするとは思ってなかったってか? ま、普通は思わないけど。

 たださ、お前、そいつが無能な人間だって信じたがっていただろう?」

 ゼン・グッドナイトは四十代半ばの若い大臣だった。しかも、若作りをしている訳でもないのに、年齢よりも若く見える。整った顔立ちで、女性にも人気があった。名門の生まれで苦労知らずで出世をし続けてきたが、実際に実力もある。権力を握る手腕にも長けていた。かなり恵まれた人物だと言える。ただし、少々、享楽主義の一面があったが。

 「自分とは性が合わない人間を認めたくはないってのは分かるけど、警戒はしろ。お前はそんなに完璧じゃない。どうするんだ? ベヒモス対策の予算、取れないぞ? まぁ、過ぎた事は仕方ないが」

 そう言うと、グッドナイトは少し止まる。それからしばらくグロニアを見つめ、全く動じた様子がない点を見抜くと、「ふん」と笑いこう続けた。

 「もういい。下がれ」

 グッドナイトにそう言われて、グロニアは「はい」とそう応えると、大臣執務室を退室した。その後で、グッドナイトの秘書のピボットが話しかけてくる。

 「彼に対する処分はどうしましょう?」

 すると、呆れた表情でグッドナイトはこう答える。

 「処分たって、表向きはむしろ業績を上げたんだから無理だろうよ。ボーナスアップくらいはしなくちゃならない。多分、あいつもそれを分かっているぜ。それよりも、もっとこの件に関わった連中が知りたい。人事部はどう判断していたんだ? セルフリッジにベヒモス対策を任せる事を」

 「当初は賛成していましたが、セルフリッジが任務を引き受けると、途端に“慎重な判断を求める”と態度を翻しました」

 それを聞くと、グッドナイトは「ほぅ」と呟く。「面白いな、その話。局の人事部部長って、どんな奴だったっけ?」

 「セルビア・クリムソン。女性です。人物評価能力には定評があります」

 「はっ なるほどね…

 人物評価能力。もしかしたら、闇の森の魔女についても詳しく調べていたりして。しかし、その闇の森の魔女っていいね。まさかベヒモスを何とかしちゃうとは」

 その後でピボットは、こう尋ねる。

 「処分と言えば、当のセルフリッジはどうしましょうか?」

 「それも難しいよなぁ…。“闇の森”に“ベヒモス”。危険度S級のロストを二つも片付けた実績は、評価しない訳にはいかない。ま、ほとんどその魔女のお蔭だけど。その魔女さえいれば、僕にだってできるよ。

 何にしろ、もうちょっと情報が欲しいな。そいつの望みは何なんだ?とか。そうだ、その人事部部長のセルビアちゃんにでも訊いてみるか」

 その言葉に、ピボットは不思議そうな顔を見せたが、何も言わなかった。代わりに、こう言う。

 「もっと気掛かりなのは、財務省の動きです。ロスト所有権の原則を無視して、ベヒモス跡地を、自らの管轄にしようとしているみたいですが……」

 「あー、あれな。ちゃんと、技術協力の申請を出しているから大丈夫だよ」

 「しかし、断られれるでしょう? 独占する為に」

 「そうだよ。だから、良いんじゃないか。これで予防線は張れた。存在が消えたとはいえ、あのベヒモスのいた土地だぜ。問題だらけだ。素人には荷が重い。きっと、死傷者多数で泣きついて来るぞ。手痛く失敗するさ」

 そう言い終えると、イタズラっぽい笑みをグッドナイトは浮かべた。

 「ま、利権を奪ってやろうじゃないの」


 「――ベヒモス跡地が、財務省の管轄になるそうです」

 と、そうセルフリッジはアンナに向けて言った。彼の表情はかなり曇っていて、それを彼女は不思議がる。

 「あの… それが?」

 「財務省は、ベヒモスに対するノウハウを全く持っていません。しかし、跡地にはまだ毒や呪いが色濃く残っています。つまり、犠牲者を多く出して失敗する可能性が大きい」

 二人は静養扱いで休職していた。もっともアンナは、セルフリッジと始終一緒にいられるので喜んでいたが。

 「特殊科学技術局は協力しないのですか?」

 アンナのその質問に対し、セルフリッジは首を横に振って答える。

 「申請はしているようですが、恐らく、財務省は断るでしょう。もっとも、断られる前提の申請かもしれませんが。財務省は、できる限り権利を独占しようとしているので、協力はむしろ邪魔なんです。そして現場の人間が、その犠牲になる」

 その後で、セルフリッジはアンナを真っ直ぐに見つめるとこう言った。

 「アンナさん。彼らを助ける事はできませんか? あなたの力で」

 アンナはそれを聞くと少し考える。

 「鼠達を使えば、或いは…」


 ……それからしばらく後、ベヒモスの跡地で作業をしている、財務省に雇われた作業員達が、突然に苦しみ始めるという事件が発生した。ある者は毒に、ある者は呪いにやられてしまったのだ。他の無事な作業員達の多くも狼狽え、自分達も無事には済まないのではないか、と恐怖しパニックに陥っていった。このままでは、壊滅するかもしれない。そんな絶望すらも過ぎる。しかし、誰もがそう思い始めた頃に、奇跡が起こった。

 鼠達。大量のそれが、苦しんでいる作業員達に取り憑き、魔法で毒や呪いを除去し始めたのだ。彼らはその鼠達に感謝をし、神の御業だと畏怖心を喚起させて天に祈った。もちろん、その鼠達は本当はアンナの放ったものだったのだが。

 自宅静養中の独断で、セルフリッジはその行動に踏み切っていた。多数の人を救ったとはいえ、処分の理由を局側に与えるのには充分な行動だった。もちろん、その事は彼自身にも分かっていたが。


 セルビア・クリムソンはその日、文部科学大臣のゼン・グッドナイトからの呼び出しを受けていた。彼女はその呼び出しに悪い予感を覚えた。それはセルフリッジが闇の森の魔女を使って、財務省に雇われた人間達を救った直後の事だったから、その件で自分が呼び出しを受けたのだろうとは、何となく察しが付いていたのだ。だが疑問もある。どうしてグロニア局長ではなく、自分が呼び出しを受けるのだろう? 彼女にはそれが分からなかったのだ。

 大臣執務室に入るなり、セルビアに向けてグッドナイトはこう言った。

 「やぁ、情報屋のベルゼブブちゃん。待っていたよ」

 それを受けると、セルビアはにっこりと笑う。

 「何の事でしょう?」

 情報屋ベルゼブブは、彼女の裏の顔である。彼女は思う。“ばれている”。

 「なるほど。ビンゴか」

 と、セルビアの反応を見ると、グッドナイトはそう言った。

 「いえ、ですから、何の事でしょう?」

 ここは、白を切り通すしかない、と彼女はそう判断した。グッドナイトは、構わず語り続ける。

 「いけないなぁ。人事部部長なんて肩書の人が、そんな裏の仕事をやってちゃ」

 セルビアは顔色一つ変えずに返す。

 「決めつけられても困ります。もし、違っていたらどうなさるおつもりですか?」

 「もし、違っていたら? 握り潰すよ。僕、権力者だもん」

 それにセルビアは頬を引きつらせる。これは、逃げ手はないのか?と思いながら。

 「そう怖がるなよ。お前に危害を加えるつもりはないよ。ただ、情報屋ベルゼブブに情報を提供してもらおうと思っただけだよ。

 少し前、闇の森の魔女に関わったと噂されるロスト達がいる。手を出して、一網打尽にされたっていう。しかし、どうもその連中に情報を提供する事で、その連中を裏で操っていた奴がいるようなんだ。都合良く、連中に情報がいってるから、そう判断した方が良いだろう。

 で、その誰かはどうも、闇の森の魔女とセルフリッジを調べていた節があるんだよ。そして、ベヒモス対策に、セルフリッジを当てる事に反対したのがいる。まるで、奴がそれを成功させると予想し、自分に危害が及ぶのを避けるみたいに。もちろん、それがお前だよ、セルビア・クリムソン」

 そうグッドナイトが語り終えると、セルビアはこう反論した。

 「誤解です。あれは、飽くまで彼の技能を判断した上でのことです」

 が、グッドナイトはこう返す。

 「うん、煩い」

 セルビアはやや怯む。少しの間の後で、グッドナイトはこう言った。

 「実は僕は、今困っているんだ。あの、セルフリッジの処遇についてね。あいつは、恐らく、処分されるのを知った上で、今回、財務省を助けるって愚行に及んだ。奴を処分するのは簡単だが、もしそれが奴の目的だったら、つまらないだろう? 何しろ、闇の森の魔女を所有している時点で、奴は無視できない存在なのだし。

 そこで、魔女と奴に関する情報をできる限り欲しいんだ。どうだろう? 分かり易い形で提供してくれないかな?」

 聞き終えると、セルビアは慎重に言葉を選びながら言った。既に彼女は緊張状態をコントロールしているようだ。

 「私がベルゼブブなる情報屋かどうかは別問題にして、疑われているのなら、全力で彼らに関する情報を集めましょう。もっとも、非公式の情報が多数になりますが」

 その答えに、グッドナイトは満足したようだった。こう返す。

 「はは、お前、頭良いな。そういう奴は好きだよ。よろしく頼む」


 それから数日後、財務省に雇われた作業員達を救ったのが、オリバー・セルフリッジである事が大体的に発表された。彼が、自分の部下である魔女を使って、作業員達を救ったのだと。神の奇跡とされたそれが、一転して人の手に寄るものとされると、当然のようにセルフリッジは英雄視された。

 闇の森を解放し、ベヒモスまで退治し、そして今、ベヒモスの跡地で作業する人間達が壊滅するのを防いでくれた。

 それはセルフリッジの業績であるのと同時に特殊科学技術局の業績ともされた。その管轄は文部科学省である。そして、本来、ロストは解放したその組織の所有物になるという法律がある。裏でどう動いたのかは分からない。だが、それらの材料を利用して、ベヒモス跡地は文部科学省、つまり、ゼン・グッドナイトの元へと戻って来たのだった。いや、そればかりか、更なる工作により、どうやら彼はもっと大きな権力を手に入れたらしい。その事件を利用して、財務省から、利権を剥がし取ってしまった。

 「よく考えたんだけどさ、ピボット君」

 大臣執務室で彼は言った。

 「なんでしょう?」と、彼の忠実な秘書は答える。

 「僕は誰かの仕掛けに備えるより、誰かを罠に嵌める方が好きだし得意な人なんだよ」

 「知ってます」とピボットは返した。それを受けると、グッドナイトは可笑しそうに笑った。


 ……その時、闇の森の魔女、アンナ・アンリは広場までの道を嬉しそうに歩いていた。広場でセルフリッジと待ち合わせているのだ。セルフリッジの業績が評価された事で、彼女らは復職していたが、だからといってこれといって仕事がある訳でもなく、毎日、暇な時間を過ごしていた。

 と言っても、セルフリッジだけは影でこっそりと動いていたのだが。彼は、情報を集め続けていた。自分の目的を果たす為に。それでその日、彼だけに用事があったのだ。そして、その帰りにアンナ達は買い物の約束をしていたのだった。

 セルフリッジとのデート兼買い物を楽しみに、アンナが良い気分で歩いていると、不意に話しかけられた。

 「よぉ」

 ポニーテールの髪形。赤を基調とした服を身に纏ったやや長身の女性。

 「待ってたぜ、闇の森の魔女」

 アンナは声を受けると、その方向を見て少しの間の後にこう言った。

 「誰?」

 それを聞くと、その女はこう返す。

 「おい!忘れるなよ。アタシだよ! 千人殺しの魔人、セピア・ローニー! お前に、やっつけられて、オリバー・セルフリッジを守ると契約させられている!」

 その説明に、アンナは「あー」と応えると、それからこう言った。

 「嫌」

 “嫌って”と、セピアはそう思う。それから、アンナは彼女を無視して歩いていこうとする。そのアンナに向けて、縋るようにセピアは言った。

 「ちょっと待て。話を聞けって」

 「嫌よ。あなたと関わると、いつも酷い目に遭うのだもの」

 それを聞いてセピアは思う。

 “酷い目? 酷い目に遭ってるのは、こっちの方だろうが!”

 が、彼女がそう思った後で、アンナはこう続けた。

 「二回」

 “二回?”

 「あの優しいセルフリッジさんが、あなたと会った時は、二回とも怒ったのよ? だからわたしは、あなたとは関わりたくないの」

 それでセピアは頬を引きつらせる。

 “酷い目って、そんな事かー!”

 心の中では、そう叫んでいたが、それを態度には出さないで、セピアは言った。

 「まぁ、聞けって。実は、お前の大事なセルフリッジに協力してやろうと思ってな。あれから、ウチらの組織はほとんど休止状態なんだよ。局の監視は厳しくなるし、魔力もお前に奪われたから。

 ところが、オリバー・セルフリッジは、何か組織に逆らっているみたいじゃないか。処分覚悟で、ロスト跡地の作業員達を救ったりさ。前に、アタシらに語った事もある。それで、ここは協力し合った方が、お互いの為なんじゃないかと思ってさ……」

 ところが、それをアンナは拒否した。

 「知らない。付いて来ないで。目立ちたくないから」

 それには真っ当な理由があった。セルフリッジの為には、できるだけアンナは目立たない方が良いのだ。他のロストと接触する事も避けた方が無難だ。しかし、それでもセピアはアンナに話しかけた。

 「ちょっと待てって」

 それを無視して、アンナは歩き続ける。そのうちに人通りの多い路地に入った。流石に、セピアも人の多い場所で、アンナに接触する訳にはいかない点は理解していた。足を止めて、距離を取ってゆっくりと後方から付いて行く。やがて、アンナは広場へと出た。その噴水前には、既にセルフリッジの姿が。彼の姿を認めると、アンナは嬉しそうな顔で近づいて行った。

 「セルフリッジさん。お待たせしました。早かったんですね」

 と、話しかける。彼も笑顔でそれに返した。

 「ええ、予定よりも随分と早く、用事が済んでしまいまして。では、早速、市場へ行きましょうか」

 その様子をセピアは人影から見守る。

 “なるほど。セルフリッジと一緒に出掛ける用事だったら、あの女が邪魔されたがらないのも分かる”

 と、それからそう思った。二人はそのまま、一緒に歩き始めた。が、そのタイミングで、セルフリッジが立ち止まる。驚いた顔で広場にいた一人を見つめた。

 「グッドナイト大臣……」

 そう。そこには、大臣のゼン・グッドナイトの姿があったのだ。何だか、妙に分厚い服を身に纏っている。彼はセルフリッジに近寄ると、「やぁ、オリバー・セルフリッジ君」と話しかけた。

 “ゲッ 嘘だろ? マジであの大臣じゃないか。何であの野郎がこんな所にいるんだ?”

 それを見て、セピアは驚く。彼はベヒモス問題解決によって、予算が削減されるというピンチを逆利用して権力を握った強かな男。間違いなく、今官僚の中で最も強い力を持っている。そんな男が、往来の真ん中に一人で立っているのだ。セピアが驚くのも無理はない。

 「お知り合いですか?」

 と、セルフリッジの反応を受けて、アンナはそう彼に話しかけた。

 「いえ、お知り合いも何も、この人は…」

 と、セルフリッジはアンナの質問に答えようとする。それで、二人の視線がグッドナイトから外れた。その時、ちょうどアンナの背後から、グッドナイトは何か拳銃のような物を取り出していた。そしてそれをゆっくりセルフリッジへと向ける。薄らと笑みを浮かべながら。

 セルフリッジを守るよう契約を結ばされているセピアはそれに反応しかけたが、当然、間に合うはずもない。銃弾が、セルフリッジに向かって放たれた。

 が、その瞬間だった。アンナが時間の流れを遅くする。セルフリッジを庇い、自らも避けるのと同時に、グッドナイトを魔力で吹き飛ばした。グッドナイトは数メートルは飛び、路上に積まれた荷物の上に落ちる。幸いにもその荷物の中身は衣服、布団の類だったようで、彼に大きな怪我はなさそうだった。

 アンナは横たわるグッドナイトを睨みつけると、更に魔法をかけようとした。しかし、それをセルフリッジに止められる。

 「アンナさん。止まってください。ただのイタズラです」

 彼は銃弾の先を指差す。赤いインクの染みが路上に広がっている。実弾ではない。それを受けて、アンナは「ふーっ」と息を吐き出して止まったが、それでもグッドナイトを黙って睨み続けた。緊張の面持ちで、セルフリッジはグッドナイトの反応を見守る。今、この時期に面倒事はできれば避けたかった。明らかに、グッドナイトに非があるとはいえ。

 「やははは」

 やがて、倒れた姿勢でグッドナイトは笑い声を上げ始めた。

 「なるほど。なるほど。噂通りだ。いや、それ以上かな? 大した魔女さんだ。とっても彼に忠実なんだね」

 そして身を起こす。

 「いや、すまない。悪ふざけをしてしまったよ。噂の闇の森の魔女が、どんなものなのか知りたくてね」

 彼は身体についた埃を手で叩きながら、二人に近付いて行った。何かの封書を取り出しながら。アンナが睨みつけているのを見ると、肩を竦めて彼は「そんなに警戒しないでくれ。さっきのは僕が悪かったから」と言う。

 それからグッドナイトは、取り出した封書をセルフリッジに手渡した。

 「これは?」と、セルフリッジは尋ねる。すると、グッドナイトはこう言った。

 「“招待状”だよ。実は、今度、新しい総理大臣が就任するのだけどね。その記念式典で、君に特別功労賞を与える事になったんだ。

 全国に映像を送る、新しい魔法技術は知っているよね? その式典は、その技術が活用される初めてのものになる。全国民が、君に注目する事になるぞ。

 今回、君は重要な働きをしてくれた。まさか、あのベヒモス問題を解決してしまうだなんてね。その君に、僕は直々に挨拶がしたかったんだよ。今回の総理大臣の就任だって、君のお蔭だと言えなくもない。君の業績がなければ、足場を固められなかった」

 そう言い終えると、グッドナイトは冷たい視線で笑った。その視線に当てられて、セルフリッジは背筋に悪寒を感じる。

 “目を付けられている”

 そして、そう思った。

 それから「ははは」と、笑いながらグッドナイトはその場を後にした。セルフリッジはその場に立ち尽くす。

 「大丈夫ですか?」

 アンナが心配そうに、そう話しかけるまで、彼はそのままだった。

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