第8話「完全無欠の三冠王」
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七月、梅雨が明けたばかりの快晴の日曜日。
球場を包む夏の熱気のなか、スタンドは異様な熱狂に包まれていた。
「ライトスタンド、応援準備OKでーすッ!」
「皇神コール、次は全員で合わせるぞーっ!」
──皇神 慶。
現代プロ野球界における、まさに“象徴”ともいえる男。
三冠王にして、ゴールデングラブ常連。打撃・守備・走塁すべてが超一流。
完璧なスタイルと、清廉な受け答え。試合後には必ず球団スタッフや報道陣に丁寧な礼を欠かさず、
SNSでもファンや子どもたちに優しく接する“スターの鑑”。
──皇神グループ御曹司。
そして、いまのプロ野球を根底から変えたAI審判支援システム《VERIDAS》を擁する企業の後継者。
その名がアナウンスされた瞬間、球場の温度が一段と跳ね上がる。
「四番・指名打者──皇神 慶!」
実況が声を張るより早く、打席へと歩を進める慶の姿が中継用ドローンの群れに包まれた。
白と銀のユニフォームが陽光を跳ね返し、彼の一挙手一投足に球場が揺れる。
「すっげ……これが、“本物”……」
スタンドの上段、通路に並ぶ簡易ベンチ席に、天野風花と黒羽 紫の姿があった。
風花が息を呑んで呟くと、紫は口元をゆるめず、帽子のつばを下げたまま言った。
「完成されすぎてる。……だからこそ、壊す価値がある」
慶は初回、相手投手の決め球のチェンジアップをバックスクリーンへと叩き込んだ。
2打席目も初球のインコース速球をコンパクトにさばき、右中間を破るスリーベース。
試合の流れすら支配するような、次元の違うプレーの数々。
観客席にいた風花が、ぽつりとつぶやく。
「……勝てると思う?」
紫は答えず、目を細めたまま言う。
「勝たせる。あたしが、神代 駿を“三冠王を倒した男”にする。それが、あたしのケリのつけ方」
その声には、揺るぎない意志があった。
その日、皇神 慶は5打数4安打。2本塁打に3打点。
まるで、演出されたかのような“完璧な”試合内容。
スタンドのファンたちは、口々にこう言う。
「さすが慶様!」
「今日も“美しい”打撃だったね」
しかし──
紫の目には、別の“何か”が映っていた。
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