第6話「底辺対決と、特訓の証明」
アクセスいただき誠にありがとうございます。
6月、初夏の陽射しがスタンドにじりじりと照りつけていた。
青嵐ブレイズ 対 獅風ホークス。
どちらも最下位争い常連の、いわゆる“底辺対決”。
けれど、神代 駿にとっては、特別な意味を持つ試合だった。
この数週間、紫と風花とともに積み上げてきた、誰にも見えない場所での特訓の成果──
それを、今ここで証明しなければならない。
「今日の先発は……神代だ」
田嶋監督の言葉に、駿は静かに頷いた。
ベンチ前でキャップを深くかぶり、ブルペンへと向かう途中、敵チームのキャッチャーが駿の前に立ちはだかった。
赤峰 一翔。
かつて少年時代、翼にいに可愛がられていた駿に強烈な対抗心を燃やしていた男。
プロになってからは別々のチームに進んだが、こうして再び相まみえる時が来た。
「……やっぱ、おまえか」
「……赤峰」
「ずっと、目の上のたんこぶだったんだよな。あの“神代”の坊ちゃんがさ」
吐き捨てるように言い、赤峰はベンチに戻っていった。
ブルペンでの投球練習。
風花と紫が観客席から、静かに彼を見つめている。
──そして、試合が始まった。
一回表、青嵐ブレイズの攻撃は三者凡退。
すぐに駿の出番が巡ってきた。
(──落ち着け。ここで見せなきゃ、意味がない)
初回。
先頭打者に対し、紫から教わった“軸の残し方”を意識し、スライダーを投げ込む。
バットが空を切る。
ベンチがざわめいた。
そのボールは、これまでの駿の球とは明らかに違っていた。
「ストレートの後、あのスライダーが来るか……変わったな、神代投手」
実況席がそう呟く。
2回、3回──
駿は打たせて取る投球を続け、ランナーを出しながらも得点を許さない。
そして5回。迎えるは、ふたたび赤峰。
打席に立った赤峰が、にやりと笑う。
「チッ、特訓でもしたか? ま、そんなもんで変われたら苦労しねぇよな」
駿はただ、サインに頷き、ボールを握った。
初球──
インコース高め、速球。
“かつて最も苦手としていたコース”だった。
シュッ。
乾いたミットの音。
空を切る赤峰のバット。
風花が祈るように見ている。
紫はじっと無言でスコアを記録している。
2球目、3球目も強気に攻める。
赤峰は苛立ち、バットを構え直すが──
4球目、スライダーが外角低めに沈み、空振り三振。
「チッ……!」
悔しげに唇をかむ赤峰を見送りながら、駿はゆっくりと帽子のつばを直した。
ベンチに戻ると、田嶋監督が無言で背中を叩いてきた。
そして試合は、そのままロースコアで進行し──
駿は7回を無失点で投げきった。
チームもなんとか2−1で勝利。
今季わずか数勝目ではあったが、青嵐ブレイズにとっては“大きな一勝”となった。
──試合後。
駿は風花と紫を誘い、ある場所へと向かった。
「ここ、知ってるか?」
「えっ、屋台……?」
古びた横丁の一角にある、昔ながらのラーメン屋。
そこはかつて、翼にいが駿をよく連れて行ってくれた思い出の場所だった。
のれんをくぐると、無愛想な店主がちらりと視線をよこした。
「らっしゃい」
紫がすぐに大きな声で注文する。
「味濃いめ、油ギッシュ、背脂マシマシ、チャーシュー火山盛り、ニンニクカーニバルで!」
ラーメン屋の親父は面倒くさそうな顔をしつつも、短く返した。
「あいよ」
風花が目を見開く。
「今の注文、ラーメン……だよね?」
「“あたし流”のコールってやつ。ほら、言葉にも気合いってもんがあるんだよ」
駿は思わず吹き出した。
「変わってんね、お前」
「褒め言葉として受け取っとく」
風花は笑って、ラーメンを啜った。
──三人の距離が、少しだけ近づいた。
それは、特訓の“確かな成果”が、球場と、心に残った日だった。
読んでいただき誠にありがとうございます。