第5話「三人の特訓と、動き出す投球」
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グラウンドの一角。
陽が傾きはじめた午後、奥ではミスターが子どもたちにノックを打っていた。
その隣で、駿、風花、紫の三人が集まっている。
「まずは、これをつけて」
紫が差し出したのは、薄型のセンサーリストバンド。
駿が訝しげに手首に巻くと、それにリンクするように紫の端末から立体ホログラムが浮かび上がった。
「握力、腕の角度、肘のスナップ速度、心拍……。それら全部を解析して、投球の集中度と精度をリアルタイムで表示する」
「なんだよこれ……野球って、そこまでやんのかよ」
「あたしから言わせりゃ、“やってないから”勝てないんだよ」
紫はあっけらかんと返すと、空中に小型ドローンを一機飛ばした。
ドローンは駿の立つ投球位置からホームベースに向かって、仮想のストライクゾーンをホログラムで投影する。
「このドローンは、あんたのフォームを解析する。
今から100球投げて、“5センチ以内”の誤差で10球連続、コースに入れられたら今日は終わり」
「無茶苦茶すぎるだろ……」
「できないと思うなら、それまで。あたしは、“できる人間”しか興味ないから」
紫は自分の胸を軽く叩いて言った。
「あたしは、あなたを“勝てる投手”にする。それが目的」
風花がその言葉に驚いたように紫を見る。
駿はしばし黙り込んだあと、ふっと短く息を吐いた。
「……いいよ。やってやる」
──特訓が始まった。
フォームをスキャンするホログラム、ドローンが出すコース補正、
さらには紫が持ち込んだスタビライザーが、体の軸がズレた瞬間に微細な振動でフィードバックする。
「腕が遅い。重心、前に出すぎ。集中、切れた。次」
紫の指示は辛辣だが、曖昧な部分が一切ない。
それは風花にも伝わっていた。見ていて、理屈が通っていると感じさせる。
「ねえ、紫ちゃん……これ、どこで学んだの?」
「独学。あたし、データ見るのが好きなんだよ。昔からずっと……選手の記録とか、映像とか」
風花はその目に宿る熱に、言葉を失った。
紫の指導は、冷静で淡々としていながら、どこか執念にも似た情熱を孕んでいる。
やがて、遠くでミスターの声が響く。
「おーい、次のノックいくぞー!」
子どもたちの歓声。
グラウンドの一角に、駿のボールが唸りを上げて突き刺さる。
息が荒くなっても、駿の目は前を向いたままだった。
「……まだ終わらないよな?」
「あたりまえ。今日のは、ほんの入口」
夕陽が長く影を伸ばすグラウンドで、
三人の静かな時間が、確かに動き出していた
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