第4話「紫の登場と、歯車の音」
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「……兄に、駿さんのこと、よく聞いてました」
その言葉に、駿の中で何かが静かに動き出した。
風花の目はまっすぐに駿を見つめている。
──誰かのために勝ちたい。あのとき、確かにそう思った。
心の奥で止まりかけていた歯車が、再び回りはじめるのを感じる。
風花は小さく微笑んだ。
──と、背後から別の声が割り込んだ。
「あら、いい雰囲気じゃん。わたし、邪魔だった?」
ふたりが振り向くと、そこにいたのは黒髪のおかっぱ頭の少女だった。
鋭い眼光と冷めた口調。だが、どこか妙に場に馴染んでいる。
「駿さん、この子は紫。わたしの知り合いで──ちょっと変わってるけど、すごい子」
「“変わってるけど”は余計。あたし、正しいだけ」
紫は言い切ると、ポケットから小さなセンサーを取り出した。
「興味あるなら、本気で変わりたいなら、わたしに賭けてみない?」
唐突すぎる言葉に、駿は思わず眉をひそめた。
「……言ってる意味がよく分からないし、信用できない。なに者なんだよ」
紫はため息をつき、もうひとつ別の端末を取り出す。手早く操作すると、ホログラム映像が空間に浮かび上がった。
そこには、駿が前回の登板で投げた全投球の配球チャートが映し出されていた。
「前回の試合、最終回の2アウト1塁。カウント1-2でスライダーを選んだのは、たぶん“ストレートが甘く入る”って自分で気づいてたからでしょ。でも、スライダーも腰が引けて浮いた。理由はフォームの軸がぶれてたから」
駿は息を飲んだ。誰にも言われたことのない癖を、データで突きつけられた衝撃。
ホログラムに映るそれは、否定しようもなかった。
「“打たれた理由”を、あたしは数字で言える。──あなたは、言える?」
紫の問いに、駿は拳を握る。
風花がそっと口を開いた。
「お願い。無理にとは言わない。でも、わたしは……この子が、きっと駿さんの力になれるって思ったの」
胸の中で歯車が鳴っている。
沈黙のあと、駿は視線を空のホログラムに向けたまま言った。
「……明日、練習ない日だ。午後、親父が子どもたちに野球教えてるグラウンドがある。行ってみるか?」
風花がぱっと顔を上げ、紫も無言でうなずいた。
──そして、特訓が始まる。
グラウンドに集う三人を描くそのシーンは、次章へと託される。
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