第3話「追悼試合と、止まった涙」
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──昨年の秋。
球場全体を、静けさが包んでいた。
マウンド上の神代 駿は、ゆっくりと胸に手を当て、深く息を吐く。今日の試合は、チームメイトであり兄貴分でもあった捕手・天野 翼の追悼試合。
翼は、プロ野球の世界に入ったばかりの駿にとって、最も大きな存在だった。厳しくも温かく、真っ直ぐで、誰よりも仲間を思いやる選手。グラウンドでは常に背中を預けられる、そんな安心感を与えてくれるキャッチャーだった。
彼がいなくなって、初めて迎える試合──
この日だけは、絶対に勝ちたかった。
「……頼むよ、翼にい」
小さくつぶやいて、駿は最後の打者に向き合う。スコアは同点。ここを抑えれば、延長で味方に勝機が巡ってくる。
──ツーストライク。
あとひとつ。
そう思った瞬間、駿の指先に迷いが走った。
(インハイ……でいけるか?)
頭の中で、声がした。
翼にいなら、こういうとき、もっと攻める選択をしたはずだ。
でも──
(逃げるな……)
わかっていても、指先は反応しなかった。
「っ……!」
投じたのは、外角低めの変化球。
だが、コースは甘く、ボールは真ん中に入ってきた。
カキィィィン!
痛烈な打球が、センター前へと抜けていく。走者がホームインし、試合終了のコールが無情に響いた。
駿はその場に立ち尽くし、マウンドの土を見つめていた。
──勝てなかった。
ベンチに戻った駿は、誰の声にも反応できなかった。周囲の選手が声をかけてくるのがわかったが、何も耳に入らなかった。
そして、静かに、うつむいた。
頬を、涙が伝った。
──その涙を、ひとりの少女が見ていた。
風花は、観客席の最前列から、誰にも気づかれぬよう、ただじっと彼の姿を見つめていた。
兄の名前が刻まれたユニフォームを、拳の中に強く握りしめながら──
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